1月10日(木)  八重山へ

 

 沖縄に着いての予定は何も決めていなかったのだが、八重山に飛ぶことにしてしまった。本当は台湾から石垣に渡ってきたかったのだが、それはできなかったので、やっぱり行ってみたかった。特割りチケットに電話したら、空いていた。昨日船で北上してきたが、今日は飛行機で、再び南下する。9時、那覇発の日本トランスオーシャン航空:JTA605便に乗る。

 

 空と海の境が渺々としていて、わからない

 空も海も光っている

 海に太陽が映っている

 海に雲が映っている

 どれが海でどれが空だか

 どれが空でどれが海なんだか・・・・

 空と海は境をなくし

 どこまでも広がっている

 

 10時石垣島着。日差しが強い。上着を脱いで、半袖になった。

 空港前からすぐバスに乗って、港へ移った。石垣島を見るにも私は、何のインフォメーションもなく心もとない。歩いて回れる小さい島に行きたかった。

 港に降りると、港からして海の色が違う。目の前に見える小さな平たい島が竹富島だ。竹富島には便がたくさん出ている。港で、基隆からのフェリーの中にあったガイドブックで見つけてメモした「泉屋」の電話を回した。空いている。よかった。「11時の船で行きます」と言うと、迎えにいきますという声がうれしい。

 船のお客は私一人だった。船はたったの10分で小さな竹富島についてしまう。下り立つと人が数人立っている。たった一人の乗客で元が取れるのだろうか?などと余計な心配してしまっていたから、「あぁ、よかった。帰り客はいるのね」と思ったが、みんな乗船客ではなくて客引きだった。と言っても、中国のようなことはなく、若者たちはただ「水牛車どうですかぁ」などと、遠慮がちに言っている。日本だなぁ。泉屋?は見えない。

「宿決まっているんですか?」と声をかけてきた女の人に「泉屋なんです」と言うと、

「あれ?おかみさん来てますよ。あぁ、あの車」と、白いワゴン車を教えてくれた。

 泉屋の女将さんは、隣の車の人とおしゃべりをしていた。「あら、もう着いたのね?さぁ、乗って乗って」と。キップのよさそうな、元気のいいおかみさん。車は白い道を走り、あっという間に、ブーゲンビリアの咲き乱れる石垣に囲まれた泉屋へ。

 泉屋。なんて気持のいい庭。赤い屋根瓦の上にシーサー。

 なんてひょうきんな顔をして、家を守っているのだろう?

 あけっぱなしの部屋。それぞれの部屋は障子で閉まるだけ。鍵なんかない。風が通る部屋。生け垣に咲き誇るブーゲンビリア。薄紫の花が、ひさしから垂れ下がっている。白い珊瑚礁の砂の庭。手作りのシーサーが無造作に置いてある。おかみさんが入れてくれたお茶を飲み、お茶うけの黒砂糖をかじる。おかみは、ちゃきちゃきとして、さばさばっとして、頼りがいのある姉御というか・・・この人の宿なら安心、よかったと思う。

 新婚さんが泊まっていた。今日帰るという。奥さんが、紅型を着て写真を撮るという。「ついでだから、あなたも今撮りなさいよ」と言われる。知らなかったが、この宿のサービスなのだ。太陽がまぶしい。黄色い紅型。ブーゲンビリアを髪に差して撮ってもらう。考えてみると、これが私の撮ったはじめての着物の写真。(正確には七五三以来)

 このご夫婦が「喫茶マキ」の「ソーメンチャンプルー」は絶対おいしい!と言うので、私もご一緒させてもらう。炒めソーメンだ。店の前に「ソーメンビトゥル」という旗が立っていた。「なんか自然体のおばちゃんでね。めちゃくちゃおもろい」というのであった。なんというか・・おばちゃんは、小さくてがっしりしていて、少しシーサーみたいだ。誰かに似たしゃべり方をしていると思ったら、みやこ蝶々だ。ソーメンビトゥルはシンプルだが、味はおいしい。石垣島生ビールも飲んで、昼間からすっかり気持ちいい。

 

 シーサーはさまざまな顔、形をしている。赤土でとてもおおらかに作られている。自分の家にのっけるのに、こんなおもろい顔していて、面白いなぁ・・・と思う。水牛車が、観光客を乗せてゴトゴトと歩く。泉屋の先が、水牛車の終点となるので、最後、御者?のガイドさんがさんしんを引いてうたう歌が、聞こえてくる。なんて心によいのだろう。それにしても、水牛の巨大な落とし物がない。この白い珊瑚の砂の上では、目立つだろうなぁ・・・と思うが、ちゃんと、かたづけるのだろう。水牛にもメリーちゃんなどという名がつき、ラオスとは大違い。ほとんどの観光客は、この石垣から10分ほどの竹富島には泊まらずに日帰りで来るそうである。夕方になると、ひっそりしてしまう。

 コンドイ浜。美しい珊瑚礁の海。これをどう表現したらいいのだろう?

 写真に写そうが、言葉でも表現しようが、決して表現できない。こんな青の世界。

 青色?空色?水色?るり色?マリンブルー?海色?・・・海と珊瑚と太陽と空が作り出す色?光と下の珊瑚礁の具合によるのだろうか?海の色はあれこれ混ざり合い、どの青も、いうにいわれず美しい。こんな色に染まってみたい。

 竹富から見る水平線は威圧的ではない。でも、今日がこんなに穏やかだからだろうか。でも、水平線ってこんなに低かったっけ?と思う。向こうに西表島が見える。近いのだ。

 夕陽を見に、西桟橋に行った。私はかなり太陽が高いうちから行き、桟橋の先っぽに座っていたが、だんだん、人々が集まってくる。決して観光客だけではなさそうだ。犬を連れた女の子が、男の子と一緒に夕陽を見に来ていた。太陽が少しずつ海に降りてくる。光のあたたかさが、海の風に吹かれてとどく。

 太陽は赤い光の道を、私に向かってまっすぐ延ばしていた。でも、きっと、あの女の子にも男の子にも、光の道はまっすぐ延びているのだろう。太陽は見る人それぞれに、光の道を伸ばしてくれているのだろう。最後にわずかに雲にかくれ、雲と海に太陽は沈んでいった。女の子は、沈む太陽に、「また明日ねー」と声をかけた。

 いいなぁ、太陽にあんなに気軽に声をかけられるなんて・・・私はうらやましくなった。女の子は、犬を連れて帰っていたが、芋畑のとなりの大きなお墓に立ち寄ると、ちょっと拝んで、夕暮れの道を歩いて行った。

 

 その日の泉屋のお客さんは、子ども連れのご家族と、北海道から来た19歳のやせた若者・・なんでも3ヶ月旅行しているとか。彼と同室に泊まっているのは、27歳の三重の若者。彼はリストラになり、現在無職。石垣に飛んで竹富に来たばかり。さっきギターをかかえて海辺から帰ってくるのにすれ違った。明日、石垣の職安に行き、こっちでさとうきび刈りの仕事か何かあったらやりたいのだという。彼は、その19歳の3ヶ月の旅に触発されたらしい。すごいなぁ・・・とやたら言っている。19歳は、青春18キップで旅しているそうだ。そうだ、青春か。いいなぁ・・・・私のは、もう青春とは言い難いが、中国越え沖縄入りは常識はずれのようで、びっくりされた。

 それと、大阪から来ている4人。石垣港の建設のデザインに関わっていて出来あがりを、CGで作る仕事をしているのだとか?宮古島と石垣の仕事で来ているのだそうだ。

「今日、午前中だけ時間があったから、西表に行って、浦内川を船で行って、滝まで歩いてきたのだけど、よかったですよぉ」と盛んに言うので、私も行ってみたくなる。結局、彼らのうちの博士号をもっているらしい人と、私と、リストラ若者で泡盛を飲むが、リストラ若者はお酒に弱いので、結局は2人で飲んだ。

「一人旅して、楽しいですか?」と聞かれた。楽しい、さびしい、人恋しい、出会いたい、自分に向き合いたい・・・みんなホント。

 リストラの若者はギターを弾いて歌っていた。星空の下、歌い続けていた。

 星が空中にあった。