1月13日(日) 山のない波照間島 山のある西表島 

 

 朝、6時に起きて、「日の出を見に行こう」さやかさんを起こす。まだ人のいない貸し自転車置き場から、自転車を拝借し(昨晩断っておいたけど)、走る。最南端の岬へ。

 6時はまだ真っ暗。外灯も何もない。この辺りは、東京よりもずっと西にあるので、日の出はぐっと遅く、日の入りも遅い。東京では7時にまだ暗いという感覚にはどうもなれないのだが、暗いのである。

 だんだん明るくなってきた。でも、今日は曇。どうも太陽は雲の中にかくれているらしい。海にかぁーっと顔を出す日の出は見られそうにない。そうこうするうち、いつのまにかすっかり明るい。もう太陽は出てしまったのだろうか?でも、まったく太陽の兆しが見えないので、「まだこれから出るのかもしれない」と、二人で海を見つめて座っている。

「ちょっとオレンジ色っぽい気がしません?」「する・・ような気もする」

 時間はもう7時をとうに過ぎている。もうすっかり白んでしまった。こんなにすっかり朝になって、太陽が出てないってことがあるのだろうか・・・・「7時半まで待って帰ろうかぁ」と私。そこへバイクが走ってきた。島のお爺だ。「おはようございます。日の出はまだかしら?」と聞くと、「いやぁ、わしゃ、ヤギの草刈りにきただけで」と、黙々と草を刈りはじめる。

 7時半を回った。もう帰ろう・・・と二人で自転車に乗って、さとうきび畑の中を走る。少し行った所で、ふっと空を見上げると雲がオレンジ色に光っている。

「あぁ、でたぁ」と、さやかさんの声がする。後ろを振り向くと、一面のサトウキビ畑の上に、ぼぉーっとみかんのような太陽が、ぽっかり浮かんでいる。おぼろ月のごとくぼぉーっとしている。「あぁ、出たんだぁ。もう少し待っていればよかったぁ」

 サトウキビ畑の上の太陽もなかなかおつなものではあったが、もう少し辛抱して待っていなかったことを後悔した。太陽は毎朝、きちんと出てくるんだ。そして、いくら雲の向こうに隠れていようとも・・・雲はこんなに太陽の温かみを反射して、こんなにオレンジ色に光る。太陽が出る前は、ただのどんよりとした雲だったのに・・・曇り空でも、こんなに雲が赤く光る・・・・太陽光の力を感じた。

 さやかさんは、9時過ぎの便で石垣に戻った。私は、12時50分の便で行くことにして、もう一回北浜(ニシハマ)に行って海を見ていた。空によって海は色を変える。

 こんな色をずっと見ていられたら・・・と思う。青。私の名前は清子だから、水に青なのだけど・・・・こんな海の青が似合う自分になれたらいいな・・・と思う。

「モンパの木」に行く。昨日も覗いたのだが、どうしても気になるものがあった。よく日焼けした店のおばさんと話す。私のモンのパッチワークのカバンを指して

「あなたのカバンも面白いね」「あぁ、これラオスのモンって民族のなの」と、実はラオスから来たんだぁ・・・という話をする。「ふぅーん、行ってみたいけど、私、海がないとダメなのよねぇ」と彼女は言った。海を望むところに店はある。こうして毎日海を見ている。ほんの少しの旅行でも、海がないところには行けないんだぁ・と。海がもう空気みたいなのだろう。

 夜光貝のアクセサリーがあった。ご主人が作っているのだという。実際に貝を削ってみないと、どんな色が出てくるか、どんな光が出てくるか、わからないのだそうだ。なるほど一つ一つ全部、色も光も違う。月のペンダントがあった。大きいペンダントなんてあまりしないのだけど、その色が波照間の海の色をしていた。白い砂、薄青色の水、そして太陽の光を反射する水のきらめきを、その貝のアクセサリーが持っているみたいに見えて、どうしても、波照間からのおみやげに欲しかった。この海から生まれた貝が、波照間の海の色を残しているように思えた。自然とは不思議なものだな・・と思った。

 

 お昼の船で、石垣に戻り、そしてすぐチケットを買い、西表島に移る。宿はガイドブックから適当に探して、カンピラ荘というのをとった。竹富や波照間とは違い、西表はずっと大きい。西表の中央には、山々、鬱蒼とした森があり、 移動できるのは、島の回りだが、徒歩や自転車で回ったこれまでの島とは大きさが違う。

 竹富島でのこと。喫茶マキで昼ご飯を食べている時、連続テレビドラマ「ほんまもん」がついていた。林業に携わる家族の山の杉林が出てくる。その林を見ておばちゃんが言った。「ほんとにこんな大きな木が生えとるのやねぇ。私ら、大きな木っちゅうのを見たことがない」

 竹富は珊瑚礁の島であるから、木はあるけれど、大きな木はない。

 波照間は一面のさとうきび。「ここではサトウキビ以外のもの作らないんですか?」と私は尋ねてみた。

「山がないから川がない。むかしは天水田作っていたんだけど、でも雨が降らない年はできないし。製糖工場ができてからは、今はみんなサトウキビになったね」と。

 そうか・・・山がないと、川がない。

 さて、西表には山があり、森があり、川があり、そして海がある。

 宿に泊まりに来ている人々は、ダイビング、釣り、昆虫採集・・・など、いろいろな趣味をもって来ていた。私のように、なんとなく来てしまった人々は少数派のようだ。でも、なんとなくぶらつくには大きいのである。そして、本格的になんとなくぶらつくには、日程が短すぎた。西表の自然は一日ぽっきりで来る人が覗くには大きく豊か過ぎる。

 ダイビングも釣りも昆虫採集もしない私は、なんとなく場違いのような寂しさを感じ、八重山の最後に、もう一度竹富の泉屋さんに泊まりたいなと思い、夕食の後、公衆電話から電話してしまった。おかみはいなかったけど、お婆の声がした。安心してしまった。