12月31日(月)   三江の大晦日

「列車で北上する」

 朝7時、まだ暗い。「中国は朝があけるのが遅い」でも考えてみたら、こんなに大きな国で、香港もここも時差がないのだから、西では朝が遅いはずだ。8時頃にやっと明るくなる。

 ホテルの朝食の後、昨日行った食べ物通りにまた行き、ちまきなど食料を仕入れる。お昼のため。ついでに、ニューイヤーの乾杯のために、赤ワインを買った。ホテルからの続きにショッピングセンターがあり、そこにはワインや冷凍食品やら、少し高級っぽいものが置いてあるのだ。私たちはワインのハーフボトルを買った。これが実に!中国で出会った幻のワイン!!私たちがその後、追い求めることになった「紅房子」なのであった。16.7元なり。

 南寧11時発。柳州には14時56分着・・・そのキップはすでに購入済み。

 柳州で乗り換え三江へ行く予定だが、中国の列車は下りる度にキップを買わなくてはいけないので、とりあえずキップは柳州までしかない。ここ南寧から乗る列車はT6という列車。中国では番号が少ないほど、速い列車だそうだ。だから、これはきっと新幹線並みの超特急クラスにちがいない。さすがにそんな列車だけに、硬座の席なのに、クッションもきいている座席である。この列車は北京行きだ。北京には明日の16時着。30時間近くの旅となる。さて、新幹線なみと思ったのだが、実際に走り出すと、中央線快速が超特急に思えるほど、まるで鈍ど〜ん行なのであった。じーつにのんびりと、しょっちゅう止まりながらゴトンゴトンと走る。走る速度が速いというわけではないのだ。ただ、こんなのろまな列車でも、もっと番号が多い列車を駅で追い越していくのである。(つまり、番号の多い列車ほど待ちが多い)。

 しかし、車内販売だけは、新幹線のごとくひっきりなしに来る。弁当、酒、そして豚足まで、何でも売りに来る。さすがだ。隣の席に座っている一見ヤーサン風の大声で話すアンちゃんたちは、さっそく豚足をかぶりついている。2つ10元のようだ。さとうきびやみかんも売りにくる。アンちゃんは豚足を食べ終わると、カップラーメンにお湯を入れて食べ出した。列車が動き出したとたん、あちらもこちらも、車内はすごい食欲。

 外は、あちこちで新たに線路工事している。この辺、広西チワン族自治区の南であるから暖かいのだろう。さとうきび、バナナ、パパイヤも見える。水田を鍬で耕している姿。ゆったりと水牛。ひょろひょろの松林。ユーカリの木・・・天気はどんよりと曇り。

 じきに、まるで桂林のような石灰岩の山々・・・が、ぼこぼこと見えてきた。その山の麓まで、サトウキビが植わっている。水田にならない土地には、すべてサトウキビが植わっていると、そんな感じだ。まるで仙人の住む山水画の世界のような景色だが、麓はちゃんと耕されてサトウキビが植わっている。

 柳州、14時56分着。まず、三江までのチケットを手に入れなくてはいけない。チケット売り場には相変わらず、大勢が列を作っている。よくわからないがとりあえず空いている窓口に行き、柳州16:25−三江20:56 の列車ナンバー1474という紙を見せた。コンピューターでピッピッピとチェックしてすぐチケットを売ってくれた。中国では、列車のチケットを買うのがめちゃくちゃ大変という噂を聞いていたのにも関わらず、意外と簡単なのであった。一人19元。

 時間があるので、駅前をうろつく。中国の町はどこもかしこも排気ガスがひどく、すぐのどが痛くなってしまう。小平はザックを、私は車のついた旅行用カバンを引きずって、うろつき回る。列車が着くのは夜8時過ぎだから、食料を仕入れないと・・・と思ったのだ。こうして私たちの食糧は増えるばかりだったが。駅前にはスーパーがあり、そこでももう一本ワインを買った。しょうこりもなく・・・・今度は雲南紅というワイン。その他、ドライフルーツ、甘栗などを仕入れる。安心!

「硬座の醍醐味」

 さて、ますます重くなった荷物で、三江への列車へ。待合い室にも人が多い。1474(列車ナンバー)という立て札のある待合い室で、ずっと列になっていたのに、いざ、改札がはじまると、柵を乗り越えて、他からどんどんと横入りをして、人々がホームになだれこむ。私たちは、ウロウロと列に連なっていたので、もう座れないか・・と思ったのだが、運良くなんとか座ることができた。

 それにしても、普通列車の硬座とはすごい。ぎゅうぎゅうすし詰めで座っている上に、人々が、飲み食いするものをぽいぽいと床に捨てるので、床はまるでゴミ捨て場だ。禁煙のマークは壁にあるが、誰も気にするでもなく、車掌さんの横でスパスパ吸っていても、車掌さんも注意なんかしない。窓際の人は窓をあけて吸ってくれればいいのに・・と思うが、スーパーフーファーと、何も気にすることもなく煙を吐きだす。

 ゴミの掃き溜めのような通路の上を、めげずに車内販売が通る。ゴミを乗り越え、ワゴン車がひっきりなしに行き来する。正式に列車に属しているワゴンと、私的販売人とがいるらしい。私的販売人は乗客として乗っているのだろうか?とにかく洗面器のような器に入れた焼き鳥やミカン、雑誌まで売りに来る。

 私の隣には二人の男の人が座っていたが、二人は何も飲み食いせずに突っ伏している。夕方になると、向かいに座っているアンちゃんはまず、でかい鶏ももを買い、ばりばりと食いはじめた。隣の二人はますます突っ伏している。そのうち兄ちゃんは、3元の弁当を買った。そしてその後、ビール売りが来ると、兄ちゃんは呼び止めた。そして、ズボンのベルトを引き抜くと、ベルトに付いている秘密?チャックをあけ、中から、細かく折り畳まれた100元札を出したのだ。「おい!見たか。100元札だぜ」とでも言うように、ビール売りの車内販売の女の子に渡す。ビールは3元だ。女の子は、偽札じゃないかどうか、すかして見て確かめてから、お釣りを渡した。兄ちゃんは、受け取ったお札をまたすかして偽札ではないかを確かめてからしまった。私の隣の二人は、ますます見たくない・・とでもいうようにただ突っ伏している。この二人は何も買わず食べない。お腹空いているのに、お金がないのかなぁ・・・と思う。お兄ちゃんは、ビールをラッパ飲みしつつ、片膝を立てて机の上に置いた弁当に顔を寄せて、弁当をかっこんだ。ビール瓶は飲み終わると、窓から捨ててしまった。ガチャン!弁当も食べ終わると全部、窓から捨てた。

 隣のボックス席に座っている4人の男たちも、それぞれに飲み食いしている。お互いが、遠慮したり、まぁまぁ・・・ということはない。肉の骨なんかは、ペッペと床に吐きだしながら、はすに構えて弁当を食べている。一人の男が白酒(焼酎)を買い、飲み始めた。彼の目の前に座るもう一人の人は、何度も販売のお姉ちゃんを呼び止めては、同じ白酒(焼酎)の値段を聞く。いつ聞いても同じ値段なのだが・・・そして、何度もあれこれ酒を見比べるのだが、結局は買わない。飲みたいのだが高いのだろう。その酒を正面の人がすすめることはしない。

 かくのごとく、床はゴミだらけ。すると、ほうきを持った男の子が掃除にきた。中学生くらいの年齢に見えるが掃除係なのだろう。向こうの端からゴミを掃き集めてきている。私たちはこっちの端の席だったので、最後には、通路はゴミの大山となった。それを、どうすると思いきや、列車の連結器のところからはき出してしまった。そうするものらしい。

 さっきからかわいらしい男の子を抱いたお母さんが、子どもをあやしながら通路に立っている。見ていると、通路で、シーシーとおしっこをさせた。あらまぁ・・・・

 私の隣の二人の男たちは、やっと顔をあげると、カバンからそれぞれ肉まんを出して食べだした。私はホッとしたが、私たちの方は食欲が出ず、せっかく買い込んだ食糧も何も食べずに座っている。

 向こうでは、若い男の子たちと、女の車掌さんが、怒鳴りあってけんかをはじめた。何だろう?背の高い若者と女の車掌さんが、お金を渡したり奪ったりしてとにかく、大声でがなりたてているのだ。しばらくがなりあっていた。けんかが激しいわりに、私たちがどうなっちゃうんだろう・・一大事!と思うほど・・でもないらしい。最後に女の車掌さんは笑っていた。とにかく、文句は大声で、自分の主張はがなりたててするのが普通なのだろう。

 私たちの前で、弁当をかっくらっていた男は、同じ三江で下りるらしい。小平に時間を聞いた。小平が何かわからずにいると、小平の時計をのぞき込んで、にやっと笑った。笑うとかわいい顔をしていた。彼は何をしに行っていたかは知らないが、大きなダンボールと大きな袋を抱えている。どこかに働きに行った帰りなのだろうか?三江は、トン族の自治区なのだが、彼もトン族なのだろうか?しかし、悲しいかな、言葉が話せない。

 夜9時、三江の駅につく。暗い。田舎の何もないホーム。人の波について歩いていくと、小さなバスが止まっていた。乗り込んで、「程陽橋賓館」と書いた紙を見せると、運転手はうなずいて、ここに座れ、と運転手の横を指した。アンちゃんは、ダンボールと大きな袋を天秤棒の両側に下げて、歩いていく。家に帰るのだろう。小平が手をふると、笑い顔で手をふった。

 バスは人をたくさん乗せると爆走。ものすごい勢いで田舎道を走っていく。駅は町の中心地から10キロも離れているのである。はるばると、とんだ田舎に来たつもりであったが、ホテルのある町の中心地は、外灯も明々と、町はまだ起きていた。コンクリのビルも建ち、車も行き交い、とんだ田舎!ではない。広西チワン族自治区、三江県の中心地なのだ。私たちはホテルに行くと、とりあえず荷物を置き、夕食を食べに出た。もう食堂は閉まり、道ばたに出ている屋台のソバと、スープに入った餃子を食べた。味はおいしかった。1杯2元である。大晦日の晩、さすがに寒い。

 ホテルの部屋で大晦日。雲南紅のワインをあけ、甘栗やらドライフルーツをつまみにハッピーニューイヤーだ。三江への列車は、乗っている間は、あぁ大変、うんざり、一刻も早く着いて・・・と思っていたが、5時間ほどのことであったし、過ぎてしまえば、なにやら面白くいい経験だった。中国をかいま見たような気もした。

                                 (1元=16円)

タクシー(南寧 ホテル→駅) 8 /揚げパン、ちまき 1 /チケット19x2=38

柳州での買い物 42 / 三江バス 2x2=4 / 夕食 2x2=4  / ホテル 120

                        217元 (3472円)  二人分