第10回

「ライフイズビューティフル」LA VITA E BELLA(1998)

− たとえそれが限りなく絵空事に近かったとしても、妻への、そして何よりも息子への献身的で一途な愛にあふれたこの映画に涙を押さえることはできないでしょう。数多くの映画賞を獲得し、アカデミー賞で出席者に拍手大喝采を浴び歓迎されたこの映画は、それらを受けるにふさわしい、忘れかけられている愛と希望を思い出させてくれる、まさに愛情あふれる作品でした。

− このすばらしい大人のための童話を作り上げたのは監督・主演・脚本の3役をこなしたロベルト ベニーニ。演出には大雑把なところも見られましたが、その一直線なメッセージを持ったストーリーは彼の純粋な人柄を現わしたものと言えるでしょう。「ダウンバイロー」や「ナイトオンザプラネット」などで俳優としてご存じの方も多いことと思います。また、息子のジョズエを演じたジョルジオ カンタリーニも忘れられません。彼のかわいらしい演技も映画を盛り上げています。ちなみに付け加えておきますと妻を演じたニコレッタ ブラスキは実生活でもベニーニの妻でもあります。

− 舞台は第2次世界大戦中のイタリア。主人公のグイドは、書店を開業するためアレッツォの町にやってきますが、ユダヤ人であるがゆえに差別を受けることになります。しかしながら彼は、実在の人物や過去の物語に登場する主人公たちのようにそれらに対し強く立ち向かうわけでも、堪え忍ぶわけでもありません。全ての状況を受け入れ、それを都合のいいように解釈し、笑い飛ばしてしまうのです。一見いい加減にみえるその行動は、妻を得、子供を授かることによって、強い信念の下に生まれたものであることに気づかされます。戦争が進むに従いユダヤ人に対する迫害は一層激しくなり、強制収容されることになってしまうのですが、どんな苦しい目にあっても彼は決して子供の前ではつらい顔をみせません。逆境に対し子供が勇気をもって立ち向かえるように嘘をつき、いつも笑って勇気づけるのです。それを知ってか知らずか、息子も父親の言うことを固く守り必至についていきます。その二人の一生懸命な、しかしながらさわやかな行動が私たちに感動を与えてくれます。

− 私がどうしても涙を押さえられなくなってしまったのはラストシーンのジョズエの短いナレーションでした。グイドの陽気なキャラクター設定のために隠れがちですが、純血主義の演説を強いられたり、差別的なクイズを問われたり、脚本は細かい部分でも彼を厳しい状況におきます。しかし彼は家族の前はおろか、独りになっても決して涙を見せることはありません。家族に希望を与えるとともに自分の恐怖心も押さえてくれるその絶えない笑顔が逆に彼の苦労の大きさを際立たせ、切ない思いが込み上げてくるのです。そして、その感情は、ラストシーンの大人になったジョズエの短いナレーションによって押さえきれなくなり、涙が溢れ出してきます。妻と子供を助けるために自分の命をも犠牲にしてしまうグイドの嘘にジョズエはだまされつづけ、父親の生死も知らぬまま母親と再開して心から喜び合うことになるのですが、その一見幸せなラストシーンに突然短いナレーションが重なるのです。父親の嘘や行動が、大きな愛によって生まれてきたものだと気づき、ジョズエの後の人生に大きな影響を与えたことになったことを示すその短いナレーションは、それまで観てきたシーンの一つ一つ、グイドの笑顔と家族への勇気に満ちた行動を、まるで自分の思い出のように蘇らせるのです。本当の自分を見せないまま(私はそう思います)風のように去ってしまった彼の優しさと笑顔に満ちた姿とその裏に隠された辛い状況を思い出す時、どうしても涙を押さえることができなかったのです。帰り道に思い返して涙が出てきた映画はこれが初めてでした。(・・・年かな)(1999.4.29)

(>DVDを買う)