第18回

「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」 Nightmare Before Christmas(1993)

- 今回は、おそらく日本で最も多くの人に認知されているティム・バートンの作品「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の紹介をしたいと思います。日本ではアメリカほどメジャーになりきっていないバートンですが、本作品に登場するキャラクター達のグッズは日本でもたくさん売られており、持っている方も良く見かけますので、作品は別にして、ご存知の方が多いと思われます。これほどキャラクターが売れている背景には、キャラクターデザインが優れていることやハロウィンが認知されてきたこと、後ろにディズニーがいることなど、色々な要因があるでしょうが、他のキャラクターと同様、そもそものきっかけである映画そのものをご覧になられた方はキャラクターを認知している方ほど多くないと思います。

- 本作品は、「バットマン」シリーズや「シザーハンズ」という、ヒット作を連発し、バートンが一流作家の仲間入りをした頃に発表された作品です。キャラクターデザインや製作という、一歩引いた形での参加ではありますが、彼の思いがたっぷり詰まった彼自身の作品であると言って間違いないでしょう。そして、彼の作品の流れの中で最初の転換期となる重要な作品だと思います。

- 彼はどの作品の中にも、多かれ少なかれ自分自身を投影しています。特に本作品までの作品には、それが顕著だと思います。それまでの彼は、自分を理解してくれない世の中と理解してほしい自分とのギャップの中でもがき苦しむ自分自身の姿ばかりを描いてきました。ディズニー時代、他のディズニー作品とは一風変わった作品を作り、結局認められずにディズニーを去ることになった彼は、「ビートルジュース」で一定の評価を得た後、「バットマン」で表の世界では決して心を開けず、闇の世界で生きる主人公を描き、「シザーハンズ」では、世の中から隔離された屋敷の中でずっと暮らしてきた主人公が表の世界に出て翻弄されて苦しむ姿を描きました。そして「バットマン・リターンズ」では、現実社会に弄ばれ、闇の世界に逃れ、社会に復讐せざるを得なくなった適役に、自らを投影させているのです。そういった自分の暗い面ばかりを描いて来たにもかかわらず世の中(少なくともアメリカ)は彼を認め、ついに古巣のディズニー(タッチストーン)で再び作品を作れることになったのがこの作品なのです。

- 題材はクリスマス。この世界一明るいお祭りに、バートンは恐怖のお祭りハロウィンをぶつけました。主人公は、怖がらせることが一番楽しいことだと信じられているハロウィンの国のカリスマ、ジャック。彼はもちろんバートンの化身であり、ハロウィンの国は理解されないバートンの心の世界です。そして、主人公ジャックはひょんなことから、みんなが思い描く理想の国、クリスマスの国とその世界のカリスマ、サンタ・クロースに出会うのです。それは、まさにそれまでのバートン映画と同じ、暗闇に生きる自分と、世の中とのギャップを描く物語です。それが、彼のデザインする舞台の中で、ダニー・エルフマンの楽曲に乗って、彼のデザインするキャラクターたちが、ストップモーションアニメで歌い踊るのですから、ファンにとってはたまらない作品です。と同時に、初めて観た時には、個人的には「ついに枠にはまってしまったか」という印象も受けたのも事実です。

- しかしそこには微妙な変化がありました。結局、ジャックはいつものごとく、クリスマスの世界では認められず、再び闇の世界に戻ることになるのですが、それまでの作品のように、無理やり闇に追いやられるわけではありません。そこには、世の中とのギャップや理解されないことに苦しむのではなく、自分は自分のままでいいんだ、と吹っ切れたバートンの姿があったのです。それは、それまでの作品で社会的評価を得て、一度は自分を追い出したディズニーさえも認めてくれたことが、理由となっていることは間違いないところでしょう。そして次の作品「エド・ウッド」では、最低映画ばかりを好き勝手に撮り続けたといわれる実在の監督に自分を投影しながら、実に幸せそうに撮影するバートンの姿が見えるような作品を発表しています。

- 余計なことは何も考えずに観ても十分楽しい映画ではありますが、彼の作品の歴史に合わせながら観るとさらに面白く観れると思います。ご参考にしていただけるとありがたいかな、と思い、一バートンファンとして紹介させていただきました。(2005.12.25)

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