第12回

「バットマン リターンズ」 BATMAN RETURNS(1992)

− 1990年、ティム・バートンは、昔は数多くのヒーローものの一つでしかなかった「バットマン」を、彼の独特の世界観のもとに他とは一線を画す、全く新しいヒーローとして復活させました。アメリカではそのダークな世界観とヒーローが大いに歓迎され、ティム・バートンの名が広く知れ渡るきっかけとなったのですが、彼らしさがより現れた作品としては、それよりも続編の「バットマン リターンズ」の方と言えるでしょう。

マイケル・キートン

− 彼は、一風変った主人公とそれを取り巻く社会とのギャップを描くことを得意とし、それはすなわち彼の人生そのものの投影でもあるわけですが、それらが最もよく現れているといえるのが「シザーハンズ」と「バットマン リターンズ」であり、同時にこの2作品が彼の頂点であるといえるでしょう。前者と後者は表裏一体の関係で、どちらもテーマは同じものであると考えてよいと思います。どちらも社会にうまく適応できずに苦悩し、闇の世界に逃げ込んでしまう人間を主人公としていますが、前者が、その人間を理解し、愛してくれる人が居るという点で、社会に対して救いを求める、またはそれが存在すると思う彼の良心的な部分の表れであるとすれば、後者は全く反対で、登場人物は全く救われることなく社会から疎外されたり、死んだりしてしまう、社会に対して恨みを持っているともとれるような非常に暗い作品であります。彼はその後も同様のテーマで作品を作ってはいますが、ある程度の地位を手に入れたためか、変っている自分に自信を持ち、そんな自分を肯定するような、どこか吹っ切れた作品ばかりとなっています。それはそれで面白いといえるのですが、いずれもこの2作品ほどの重みが感じられる作品にはなっていません。私はこの2作品で完全にバートンのファンになり、彼は私の最も尊敬する監督の一人となりました。彼の描く人間像、すなわち彼自身の心情は、私の心の奥底にあった同じ考えを引きずり出し、「シザーハンズ」では大きな感動を、「バットマン リターンズ」では衝撃を与えてくれました。さらに映像センスと遊び心あふれる舞台デザインは私にしっくりきたのです。ですから、そのどちらかでも共感できなかった方にとっては映画を理解できなかったかもしれません。特に「バットマン リターンズ」は娯楽ヒーロー映画でありながら、そのヒーロー自身が暗く、ストーリーも誰も幸福になることのない後味の悪い作品ですから。私自身、はじめてこの作品を観たときはあまりの救いのない悲劇に落ち込み、しばらく映画が観たくなくなったくらいです。

− 今回、敵役として登場するのは、キャットウーマンとペンギンです。どちらもTVシリーズ等でもおなじみですが、映画ではバートン独自のキャラクター設定がされています。それは単なる敵役ではなく、主人公のバットマンよりもずっと魅力的で、ほとんど主人公といっても良いくらいです。

キャットウーマン

− 社長秘書のセリーナは非常に内向的であるがゆえに、本来の自分を出すことが出来ず、なかなか人に認められません。ある日、社長のシュレックの計画を盗み見てしまい、彼に殺されかけます。死にかけた彼女は、それまで自分で作っていた殻から抜け出すべく、過去の全てをぶち壊し、マスクを被り、キャットウーマンとなることで、自分を開放させ、世間に認めてもらおうとします。そして自分を殺そうとした社長への復讐を企てるのです。一方、ペンギンは容姿が異様であるという理由のみで両親に捨てられ、工場排水の流れ込む下水での生活を余儀なくされます。彼は自分をそのような境遇に陥れた地上社会に復讐することを長い間望み、あるきっかけをもとに、セリーナの勤める会社の社長シュレックを脅し、地上に出ることに成功するのですが、逆にシュレックに利用された挙句に再び地下に追いやられてしまいます。バットマンもまた、ブルース・ウェインであるときは社会に溶け込むことが出来ず、バットマンとしてでしか認められることが出来ません。やっと知り合った互いに認め合える女性はセリーナだったのです。性格的なハンディと肉体的なハンディにより社会に居場所を見つけられない二人の悪役とバットマンはすべてバートン自身であり、ゴッサムを牛耳る実力者でセリーナの抹殺を企て、ペンギンをいいように利用した挙句、都合が悪くなると捨ててしまうシュレックは社会そのものとして描かれます。そして彼らは戦いの末、ある者は死に、ある者は社会に戻れなくなってしまうという悲劇的な結末を向かえます。それは他人になかなか理解してもらえないバートンの、その溝は埋めたくても埋めることが出来ないという悲観的な考えから生まれたといえるでしょう。ただ、ラストシーンだけは溝が埋まらないなら裏で楽しく生きていこうという、後の映画に繋がるようなシーンにはなっていますが。

− 出演はバットマンに前作から引き続きマイケル・キートン。この人にヒーローに演じさせるバートンはやっぱり変ってますが、後作の格好いいだけのバットマンよりキートンの方がいいですね。彼は「ビートルジュース」などにも出演している初期のバートン映画ではおなじみの役者さんです。ペンギンにはダニー・デビート。彼も「マーズアタック」に出演しています。キャットウーマンにはミシェル・ファイファー。とても魅力的に演じています。「キャットウーマン」として映画化されるといううわさもありましたが、ぽしゃったようですね。ぜひ実現して欲しかったのですが。その他、音楽はダニー・エルフマン。バートン映画には欠かせない作曲家です。(2000.2.11)

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