第1回

「シザーハンズ」Edward Sissorhands(1990)

− 記念すべき第1回には、この作品を選びました。何せ、初めて映画館で泣いた映画ですから。

ティム・バートン

− 先ずキャストを紹介しましょう。監督はティム バートン。日本でおなじみになったのは、「ビートルジュース」(1988)でしょうか。その後、「バットマン」(1989)を発表し一気にメジャー監督の仲間入りをしました。そして本作品に至ります。彼はこの「シザーハンズ」と、次作の「バットマンリターンズ」が頂点です。彼のすべてがこの二作品にあるといっても良いでしょう。最近では「マーズアタック!」があります。 彼のすばらしいところは、彼の映画には外れがない、ということです。今まで一本も、失敗作がありません。これは凄いことです。大体どんな監督でもあるものですから。そしてもう一つ凄いところは、そんなすばらしい映画を作っているのに、日本ではまったく受けない、ということです。どうも日本人にはバートンのよさは理解しにくいらしいのです。日本人には作者の意図がはっきりしていないと感動に結びつかないという傾向があります。たとえば、「この映画はあなたを泣かせるために作っています、そしてここが泣く場面です」といったような明らかにそれと分かるものでないと。その点で、どうも彼の映画に面食らうみたいですね。「バットマン」がいい例です。アメリカであれほどヒットしたのに、日本では期待外れの結果。原因はみんな「スーパーマン」を期待して見に行ったからです。それなのに、出てきたのは陰気で、弱くて、オタクなヒーロー。空は飛ばないし、戦いは少ないし、敵は強くないし、盛り上がらないし、というような感じを受けたのでしょう。日本人にとって「〜マン」は勧善懲悪、痛快無比、簡単明瞭でなければならなかった。ところが、バートンにはそれがなかったのです。しかし、なぜこれが良い映画なのか。それはいずれ「バットマン」の回で説明するとして、話を元に戻しましょう。

ダイアン・ウィースト

− 主演はジョニー デップ。私はこの映画で、初めて知りましたが、本当にはまり役でした。表情、動き、台詞、すべてに対してエドワードを完璧に演じたと思います。その後彼は、ナイーブでストイックな役を何度か演じますが、実生活ではかなり暴れん坊のようです(関係ないけど)。共演は恋人キムを演じたウィノナ ライダー。彼女はもう有名な女優なので説明は要らないかと思います。後はウッディ アレンの映画でおなじみの、ダイアン ウィースト。笑顔を絶やさない、絵に描いたような良妻賢母ペグを演じました。この人もいい人の役が多いですね。ヴィンセント プライスも出ていますが、世代的に思い入れもないし、マニアックなので、説明はやめますが、バートンの憧れの人のようです。音楽はダニー エルフマン。特にティム バートンと組むといい音楽を作るような気がします。最近では「ミッションインポシブル」がそうでしたね。

− さて、物語ですが、手がはさみである以外はすべて人間と変わらないロボット、エドワードの人間達との交流のお話です。彼は、自分を作った博士に本物の手をつけてもらう直前に先立たれ、博士の屋敷で一人暮らしています。そこにダイアン ウィースト演じるペグがやってきて、彼を人間達の住む町へ連れてきてしまいます。そこで、エドワードは人間社会の楽しさと怖さを知ることになるのです。基本的には「美女と野獣」タイプの話で、そこにティム バートン独特の味付けがしてあります。エドワードは間違いなくバートンの化身です。風貌はそっくりだし、彼の境遇や思想が大きく反映されています。それは同時に内気な文科系芸術家系人間、広げてオタクのそれでもあります。はさみは肉体的ハンディキャップの現われではありますが、同時に精神的ハンディキャップの象徴でもあります。内向的で、自分を表現することが苦手で、社会に適応できない多くの人たちの代表がエドワードなのです。それでも彼はそのハンディキャップを克服し、人間達に認められる努力をしますが、逆に人間達に利用され翻弄された挙げ句、遂にはおとしめられてしまいます。この辺りの境遇は「バットマンリターンズ」のペンギンにも投影されています。生きるのに不器用な人間は社会によって潰されてしまうのです。

シザーハンズ

− そんな彼を理解してくれたのがペグとその家族です。最初は心を開いてくれなかったキムにもやっと理解してもらえます。彼らが差別や偏見のない世界、わずかに残っていている希望の象徴になります。しかしながら、そのわずかな希望の力を持ってしても、彼を社会の中に残しておくことはできず、結局彼は元の孤独な生活に戻ってしまいます。二度と社会に出られなくなった彼ですが、何年も何年もキムを想いつづけながら、古い屋敷に暮らしている場面で終わります。このシーンが最初の20世紀フォックスのロゴマークにつながっていて、二度目に見たときにはいきなり泣けてきます。ロゴマークをいじるのは最近では珍しくありませんが、この場面で感動できる映画は他にないと思います。

− やっぱりこの映画もそれほどヒットしたとはいえないのでしょうが、他の作品と比べて地味でしたし、宣伝もされてなかったから仕方のないところでしょう。しかし、他の作品よりも癖は少ないので、観やすいかも知れません。この映画で泣く事ができればティムバートンの良さを他の彼の作品にも見出すことができるでしょう。ぜひ観てください。 (1997.11)

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