第15回
ガメラ 大怪獣空中決戦 (1995)
− マニアにならなかったのは幸い(?)でしたが、男としてはやっぱり、怪獣や空想キャラクターが登場する映画は小さい頃から好きで、今でも「○○マン」とか、変なクリーチャーが出てくる映画はすぐに見たくなってしまいます。ハリウッドで作られるその手の映画の場合、その対象は大人であることが多いので、優れた作品は少ないにせよ、それなりに楽しめる作品はたくさんあります。しかし、今の日本映画のそれは子供向けの作品ばかりで、大人の鑑賞に堪えうるものは非常に少ないのが現実です。残念なことに、脚本や映像には現実性がなく、ただそのキャラクターの存在だけに頼った子供向けの映画ばかりです。
− そうと見る前から気付きつつ、何度か足を運んで後悔した平成「ゴジラ」シリーズは、大森一樹を呼び、大人のゴジラを目指しながらも、映像的には手抜きが多く、脚本にはそれをカバーするだけの力がなかったため、結局回を重ねるごとに、彼もろとも、お子様向けへと落ちていってしまいました。それは、ゴジラの恐怖をその巨大さと、恐ろしい形相だけに頼ろうとした出発点が誤っていたための当然の結果ともいえるでしょう。社会性が必要というわけではありませんが、怪獣が出現する理由、怪獣や人間が戦わなければならない理由をきっちり描き、キャラクターたちに感情移入させなければ、いくらアクションが凄くてもちっとも面白くないのです。ただ、それすらできていないのが日本映画です。伝統的な安易なセットと安易な映像を何の疑問もなく使いつづけるのですから。アニメではきっちりアクションシーンを作れるのですから、日本人がアクションシーンが不得手だとは思えません。予算的な問題はあるにせよ、閉鎖的で、保守的な日本映画界の問題のような気がします。怪獣映画に限らず、最近ちらほら出てきたアクション映画も、題材としては面白いものにも関わらず、出来上がった映画はアクション的にも脚本的にも中途半端で、何かに妥協せざるを得なかったような作品ばかりです。
− さて、話はそれましたが、日本の空想映画を半ばあきらめていたそんな頃、この作品に出会いました。ただ最初は、ガメラといわれても、オリジナルは一度も見たことはないし、キャラクターにもあまり思い入れはありませんでしたので、いかにも子供向けっぽい、現実性が薄いキャラクター設定にしか思えず、ゴジラをパクった2流のカルトキャラを復活させただけのマニア向け作品だろうなんて思っていました。ところが、予告や雑誌広告をみて、それまでの日本の怪獣映画では見たことがない迫力の映像や斬新なカメラアングルに驚き、興奮しました。それらは明らかに怪獣映画を娯楽映画として楽しめる作品を作り上げようとするスタッフの姿勢を十分に感じられるものだったのです。そして脚本は劇場版「パトレイバー」シリーズを手がけた伊藤和典。緻密なストーリーは十分に期待できます。ガメラという空想怪獣をどう巧みに物語に絡ませているか。これを逃す手はないと、一気に期待は膨らみました。ただし、期待しすぎるといつも後悔するので控えめに。
− 果たしてそれは、期待を裏切らない見事な怪獣映画でした。ゴジラ同様の家族連れの観客の中にまぎれ、子供には耐えられないであろう、きちんと構成された脚本にぐずるやら、さわぐやらの子供達に耐えながら、今までにない興奮と感動で映画を見終えることができたのです。これぞ、正しい怪獣娯楽映画。現代社会と過去の伝説を怪獣によって上手くつなぎ合わせた脚本。常に人間の目線から怪獣を捕らえることで、怪獣の現実感を出そうとした演出。そして、ハリウッドやアニメでしか実現できなかったような映像やアクションシーンへの挑戦。シリーズを重なるにつれ、予算も経験も積まれ、3作目においては、ハリウッドに引けを取らないほどの映像となりましたが、1作目はさすがに今になって見返すと、都会の映像はセットであることがばればれだし、特撮もチープな感じは否めません。しかし、面白い映画を作ろうという志の高さは今でも観る者に十分に伝わってきます。手の込んだ格好良い演出はそれを補って余りあるし、宿敵との空中戦は今でも十分面白いですし、なによりお話が感動的ですから。人間達によって戦うことを宿命付けられ、その人間に攻撃を受けながらも人間を守るために戦いつづけるガメラの姿に、あなたもきっと感動し、最後の戦いでは「がんばれ、ガメラ!」などと子供のように応援していることでしょう。そして、まるで時代劇か西部劇のような、しびれるラストシーンでは、きっと主人公と一緒に「ありがとう」なんて言って感動していることでしょう。そして、勇壮なテーマとともにエンドクレジットを向かえる・・本当に大満足、申し分なしの娯楽映画でした。(できれば、3作目の技術でSFXは作り直して欲しいところもありますけどね)
− シリーズ通して、監督は金子修介。見事なSFXとアクションセンスを披露してくれたのは樋口真嗣。そして音楽は大谷 幸。脚本は伊藤和典。正しい怪獣娯楽映画を見せてくれた彼らに拍手を送りましょう。そして今度は日本製「正しいアクション映画」をお願いしたいものです。
− 最後に、まだ怪獣映画好きの寝言だと思ってる方へ。公開当時、私を一人で行かせた上に、ただの怪獣映画でないことを信じてくれず、オタクの戯言としか思わなかった(当たり前だけどね)、オクさん(当時彼女)に最近無理やり見せて、やっとその汚名を晴らせたことと、それがこの紹介を書くきっかけになったことを付け加えておきます。(可愛いとか言ってますけどね・・^^;) (2001.3.31)
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