第6回

「グッドウィルハンティング」GOOD WILL HUNTING(1997)

− 主演のマット デーモンとベン アフレックは自分達でこの作品の脚本を書き、自分達の出演を条件にそれを売り込んで歩いたそうです。彼らはハーバード大学に通った経験を持ち、おそらくそこでの経験がベースとなって、この映画が生まれたのでしょう。大学の体制やそこで学ぶ学生達の姿、更にはそれを生んだ社会に対して反感を感じ、彼らなりの学生の理想像や社会批判を盛り込んで物語を構成しています。大抵、こういったメッセージを持った話は大昔に学生だった人物が昔を懐かしんだり、現在の若者達を批判したりする意味で作られることが多く、昔を極端に美化したり、妙に説教じみたりしていて、誰もが人生の中で自然に見つけ出す結論を、そうなる前に種明かししてしまうような偉そうなメッセージにはかえって反感さえ覚えてしまいます。この映画においても一歩間違えると、そういった類の内容にもなりかねませんでしたが、若い、しかもハリウッドの人間が、同世代に対してこういう形でメッセージを送ることができたことに大きな意味があると思います。同様の経験をした覚えのある人間にも、現在その思いを抱えている人間にも、大きな共感を呼ぶことでしょう。また、そういうことに気づかないでいる同世代の人々にも強いメッセージとなると思います。

マット・デイモン

− 物語はそういった反感を持った主人公が、学生やいわゆる知識人達に対して反抗的な態度をとることで、そういった社会に立ち向かって行きます。ところが主人公は決して理想的な人物ではなく、彼自身も現代の社会問題を抱え込んでいるのです。彼は幼少時代に再婚した母親の夫にひどく虐待された経験を持ち、他人に対して心を開くことができません。しかし、自閉症などドラマにしやすい病気を持つというのではなく、他人に反抗するという形で心を閉ざしているのです。しかも友人や恋人に対しても決して本当の自分を見せられないのです。

− それは、幼児虐待という現代社会の抱える問題に触れつつも一般の若者が陥りやすい問題、他人に対して心を閉ざしたり、自分勝手な人間の理想像を恋人に求めたり、それだけでなく自分にも求めるために苦悩したり、といった問題に対しても触れたいというちょっと欲張りな設定には思えますが、そんな設定も含め、社会批判や愛情論等、映画全体がとても若々しくて好感が持てます。

ロビン・ウィリアムス

− そんな主人公がある教授に出会い、心が開放されていきます。主人公は自身の抱えている問題を誰よりも自分が理解していながらも、決して彼を理解することのできない社会を見下し、そのために他人に攻撃的になっていたのですが、自分を理解できるその教授と出会い、その自分自身も分かっている問題を、少しずつ外に引き出されることによって、心が解きほぐされていきます。そしてついに心が開放され、本当に人を愛し、自分を表現することをができるようになるのです。今まで堅く閉ざされていた心が、涙とともに開放されて行くシーンは実に感動的でした。このように、社会批判を一方的に展開するのでなく、主人公にも問題を持たせ、解決して行くという方法をとることで、この映画は成功しているのだとも思います。

ミニー・ドライバー

− 脚本は最初に触れましたが、主演のマット デイモンと親友役のベン アフレック。最後の感動的なシーンは脚本を書いた二人のセンスを感じます。同じ台詞を繰り返さえられて、泣き崩れるなんて、なかなか考え付かないことです。思わず涙ぐんでしまいました。そう言えばこの物語もまた、理解されない主人公とただ一人の理解者の話でした。つくづくこの手の物語に私は弱いんですねえ。教授のマグワイアを演じたのはロビン ウィリアムズ。彼は実に見事な演技をしたと思います。アカデミー助演男優賞も納得の演技でした。監督は「マイプライベートアイダホ」等のガス ヴァン サント。私はこの監督の映画は初めてですが、ファンも多いようです。音楽はダニー エルフマン。「バットマン」以来のファンですが、この人はこういう音楽も作るんですね。今までの彼とはずいぶん違う印象の音色でした。

− 数年前まではこういう社会問題(だけでなく色々なアイデアも含めて)を自分で物語にして世に出そうなんて野心もあって、同様のアイデアをもとにした映画等を見るたびに嫉妬したり馬鹿にしたりしていたのですが、自分の無能さを感じた最近はそういったことも少なくなり、逆に同世代の人間が、これらの問題をこういった形で上手に、実に感動的な物語に仕上げているのを見ると賞賛を惜しまない気持ちになります。マット デイモンは同世代の同じ不満を抱えている僕らの代表です!本当によくやってくれました!(1998)

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