第15回

「JSA」JSA:Joint Security Area(2000)

− この作品のレベルの高さは、正しいかどうかは別にして、外国映画の上映数を規制し、自国映画の製作と上映を奨励して、国を挙げて映画文化を盛り上げようとしてきた韓国の努力の賜物といえるかもしれません。目指すはハリウッド。最近数多く公開されるようになった作品(観ているのは数本ですが)や予告シーンを見ても、アクションシーンや映像センスのレベルの高さはハリウッドに匹敵するといっていいほどの出来栄えです。日本で公開される作品が選抜された作品であるためもあるかもしれませんが、日本で公開された他の国の作品と比べても明らかにハリウッド的な娯楽的要素を持っているといえるのではないでしょうか。いくら外国(主にアメリカ)映画を規制したところで、自国作がつまらなければ客は呼べませんから、そういう面白さを目指すのは自然な流れなのかもしれません。同じ土俵に上ることが正しい選択かどうかは分かりませんが、映画に対して払える金のない日本と比べて、国がバックアップしてくれる環境があるという点で、成功する可能性は高いといえるでしょう。

イ・ビョンホン

− さらに同一民族が政治的問題によって分断されているという現実とそれぞれの人々は一つになりたがっているという明快で誰もが共感できる問題を題材と出来るようになったという点も、こと映画を面白くするという点で見れば、韓国映画界にとっては非常に効果的といえるでしょう。

− この作品もそんな南北問題を題材にしています。国境をはさんで向かい合う韓国と北朝鮮の兵士の心の交流と破綻を描くサスペンスタッチの友情物語は、本国で「シュリ」の興行収入を超えたのも納得できる出来のよい作品です(ちなみに「シュリ」は映像センスはあるものの脚本的に問題がありすぎるので個人的には好きでありません)。まずストーリーの構成が実に良く出来ています。国境で起こった殺人事件を基点にして、その後の真相調査のシーンと容疑者の記憶として表れる真相のシーンとが並行して展開し、そこに朝鮮系スイス人調査員の父親の過去の物語が絡んできます。北朝鮮の人間と韓国の人間、そしてそのどちらにも行くことが出来ず海外に逃れた人間の娘 ― 今の朝鮮民族が背負う問題を絡ませながら、国境で起きた殺人事件の真相を解明する物語が進んでいきます。それぞれのエピソードが物語に非常に上手く絡み、同じ民族の血が流れながら、別々の場所で生きて来ざるを得ず、一つになりたいと感じながらも、悲劇的な事件を生まざるを得なかった社会的背景に苦しむ3者(特に北朝鮮人と韓国人兵士の2者)の切ない友情物語を盛り上げていくのです。

JSA

− ただ、その1つになりたいという思いは北朝鮮側も同じであろうという前提から出発している点で、本当にそうなのかどうかという疑問はあるのですが、北朝鮮の人々がそれを望みながらも国家から押さえつけられているという描き方は決してされていませんし、どちらが正しいとか間違っているということは語られていません。お互いを認め合い、お互いに分かり合い、一つになろうという姿勢は、北朝鮮への配慮というだけでなく、民族性もあるのでしょう。ハリウッド的な思い上がりの上に作られているわけではないという点で、この作品のメッセージは私たちにも共感できるのではないでしょうか。アメリカならきっと文化の違いを笑いにして、世界一正しい自分の国に連れて行ってあげようという物語になるんでしょうね。

ソン・ガンボ

− さらにこの作品は、そういった社会問題をもとにした物語というだけではなく、密室殺人事件の謎解きサスペンスとしても面白く出来ていています。特に主人公の記憶という形で語られるあやふやな事実と本当の事実との差が生んだラストの悲劇は、この作品の主題ではないものの、それまでの伏線を全く別の意味に変えてしまう点で非常に巧みなストーリーと言えるでしょう。このエピソードが若干映画を間延びさせてしまった感じもするのですが、サスペンス的などんでん返しとそれによって浮かび上がる韓国人同士の友情物語を盛り込みたかった気持ちは分かるので、ないほうが良かったかというと難しいところなのですが、いずれにしても意表を衝かれることは間違いありません。

− 監督は脚本にも参加しているパク・チャヌク。板門店の巨大オープンセットを作り、時間をかけてじっくり撮り上げた渾身の一作といえるでしょう。主演は韓国兵士にイ・ビョンホン、朝鮮人兵士に「シュリ」にも出演しているソン・ガンホ、美人調査官にイ・ヨンエ。数本しか見ておらず、他に面白い映画があるかどうか知らないままに、こんなこと言うのは図々しいのですが、題材としては共感を呼びやすいという点でヒットする可能性が高い南北問題という題材を抜きにした面白い映画が出てきたとき、本当の意味で韓国映画が世界に飛び出せる娯楽映画になるような気もしています。そういった意味でもこれからの韓国映画に期待したいですね。(2001.6.16)

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