第18回

「ラスト・サムライ」 The Last Samurai(2003)

− 明治初期の日本を舞台にした、壮大なスケールの娯楽大作がやってきました。武家社会から西洋近代化社会へと移ろうとする時代をうまく利用した舞台設定のもと、南北戦争後のアメリカ先住民の弾圧に関わった軍人と日本の近代化に伴い時代から取り残されようとしていた最後の侍一族との交流、そして彼らと日本国家との戦いを描いたこの娯楽作品は、日本を舞台にした、日本人が見ても納得できる、初めてのハリウッド映画と言ってもよいでしょう。
ラストサムライ

− アメリカの矛盾を抱えた侵略に疑問を抱き、敵である民族に心を惹かれる物語としては、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」があったり、弾圧される側を描いた物語としては「ラスト・オブ・モヒカン」などもあったりするので、物語のかたちとしては決して新しいという訳ではありません。しかしながら、ネイティブ(本作では日本人)を尊重し、西洋=最適を完全に否定しつつ、それぞれを善(観客が感情移入する側)と悪(その敵)と置き、完全な戦争娯楽映画として描ききっている点で、それを忘れて十分に楽しめる作品になっているといえるでしょう。

トム・クルーズ

− 脚本的には、見方側と敵側の人物配置とキャラクター設定がハリウッドの型にはまりすぎてる印象はあるものの卒はなく、さらにアメリカ人の視点ではなく、日本人の文化、考え方を尊重し、民族のアイデンティティーを問い掛けているため、非常に好感が持てます。そのきっちり押さえられた脚本のもと、日本の時代劇のお株を奪うような格好いいチャンバラアクション、そしてクライマックスの怒涛の合戦シーンが物語をどんどん盛り上げていきます。そして、最後には教えを信じて命を捨てることも厭わず真直ぐに突き進む侍たちの姿に、きっと感動していることでしょう。

− これを史実と違うとか、天皇と武士との関係が変だとか言うのは間違っていると思います。自由な発想で、イメージから逸脱しない範囲でキャラクター達の関係がうまく構築された、あくまで娯楽フィクションとして純粋に楽しむべき作品だと思います。製作・監督・脚本の3役を手がけたエドワード・ズイックは黒澤明の「七人の侍」を見て以来、日本映画と日本文化に興味を持ち、研究を重ねたそうです。そして、ハリウッドの描きがちな歪んだ日本像とは違う、日本人が見ても十分に納得できる侍達を描きました(逆にアメリカ人に受け入れられるのか心配ですが)。主演はトム・クルーズ。鎧姿もよく似合い、侍に魅せられた男を熱演しています。彼は製作者としても名を連ね、日本に3度も訪れて、映画のヒットのために一生懸命営業活動をしていましたね。二人は日本文化への敬意がこの作品には込められていると言っていたようですが、あながち嘘ではないでしょう。それを十分に感じられる作品となりました。日本の俳優人も豪華です。ベテラン渡辺謙、真田広之、そして小雪と芸達者な人々がクルーズに負けじと熱演しております。特に渡辺謙はアカデミー助演賞を獲ると噂されるのも納得できるほど格好の良さです。

− 見ても決して損はない、正月映画にピッタリな娯楽作品だと思います。(2003.12.16)

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