第14回

「ホワット・ライズ・ビニース」What Lies Beneath(2000)

ロバート・ゼメキス

− 一軒家、湖、殺人、隣人、双眼鏡、浴室・・ゼメキス監督の最新作は、ヒッチコック映画の中で登場してきた数々の要素を織り交ぜた、楽しく、そして緊迫したサスペンス映画でした。それは決して真似とかパロディとかいうのではなく、彼を極めて意識しつつも、独自性を持った、むしろオマージュに近い作品で、ヒッチコックを観たことがある人もない人も十分に楽しめる作品となっていると思います。

− 演出的にもヒッチコックを非常に意識しつつ、古典的で基本的な演出で楽しませ、そして怖がらせてくれる作品です。画面上に怪しげな空間を常に作り、あちこちに小道具があって気になって目を動かす、そういうどきどきを久しぶりに味わいました。その中心にあるのが鏡。鏡を使った画面構成が非常に多く、後半少し単調になったり、わざとらしかったりする部分も多少あるものの、非常に巧く使われていると思います。

− あえて気になったところを言うとすれば、途中から隣人の扱いが急にわるくなってしまったこと、どうしてもオカルト的な要素でしか説明できない部分が残ってしまったというところでしょうか。まあ、そういうことを考える余地を与えないほど楽しめる作品ではありますが。

ハリソン・フォード

− 主演はハリソン・フォードとミシェル・ファイファー。大スターの共演ですが、個人的に最近はぱっとしないと思っていたので、久々に楽しめました。フォードの方はそれほど良かったわけではありませんが、ゼメキスだから引き受けたのだろうと思われる意外なキャラクター設定が楽しめました。

− 監督はロバート・ゼメキス。最近はめっきり風刺を織り交ぜたドタバタコメディは撮らなくなり、真面目な映画ばかりを作るようになってしまった様にも見えます。しかし、「フォレスト・ガンプ」では他の反戦映画と似たようなシーンを作りつつ、展開を変えて、それらの作品を嘲り笑うかのような映画を作り、今回は「サイコ」のリメイクで恥ずかしげもなくオリジナルとまったく同じ作り方をしてヒッチコックに「捧げた」ガス・ヴァン・サントに対し、過去の彼の映画の要素をふんだんに織り交ぜ、演出も極めて彼を意識して作りつつも「捧げる」ことなく、ヒッチコックの素晴らしさを表現しました。こういった他の作品と似たような題材を用いながら、違った視点からそれらの作品に挑戦状をたたきつける(というより嘲笑う)ような映画作りは、他の作品を巧く自分の映画に利用して笑わせてきた彼のスタンスが形を変えて現れているようにも思えます。音楽はアラン・シルベストリ。彼は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」等でもゼメキスと組んでいる仲良しですが、彼もまたヒッチ映画を意識した印象的な音楽を作り上げています。

− 一部この映画を批判する向きもあるようですが、私には理解できません。派手な銃撃や流血、大量の殺人、残酷描写に走りがちな最近の映画の中で、ストーリー展開を楽しめる、久々に良質な、見終わって満足できるサスペンス映画でした。個人的にはヒッチコック映画の面白さを思い出させ、再認識させてくれた映画でもあります。要素としてみると非常に似てはいるものの、作品自体が独立した面白さを持っている、こういう映画を本当のオマージュ映画というのでしょうね。

− しかし、原題をカタカナにしただけで、意味の分からない邦題はいい加減にやめてもらえませんかね。(2000.12.17)

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