第19回

「ミス・ポター」 Miss Potter(2006)

− ピーターラビットの生みの親、ビアトリクス・ポターを描いた映画は、伝記映画というよりも、美しい純愛物語でした。今の時代、いくら時代設定を昔にしても、いくら主人公の年齢を若くしても、もう耐えられないだろうと思っていた純愛映画、それも30代の男女がまるで子供の初恋のような純真な気持ちでお互いを慕い合うという物語に素直に感動できたことに、ちょっとびっくりし、ちょっとうれしい気持ちになれた、久々に心がきれいになった作品でした。

− ピーターラビットという今でも愛されるかわいいキャラクターを生み出した女性のイメージとその事実を基にした物語がうまく合ったのが成功の理由の一つだとは思いますが、観ている者の気持ちの中にすんなりとその物語を溶け込ませることができたのは、何と言っても、レニー・ゼルウィガーとユアン・マクレガーのすばらしい演技にあると思います。彼らの微妙な情感を表現する演技があったからこそ、この映画がこれほど美しい映画になったのでしょう。

ミス・ポター

− 主演の二人は、出会いから、お互いに惹かれ、恋が実るまでの感情の変化を、台詞や説明なしに表情だけで、決していやらしくなることなく表現しました。演技力の高い役者さんとはいえ、それをきっちり引き出したのは、クリス・ヌーナン監督の力量なんでしょう。彼は95年のデビュー作「ベイブ」以来を超える脚本に出会うまではメガホンを取らないと宣言していたそうですが、なるほどそれが感じられる映画になっていたと思います。一見淡々と進む物語ですが、画家になりたくてなれなかった父親と、才能を受け継いで開花した娘の関係が、中心の恋愛物語に程よく絡んできて、確かにいい脚本だと思います。

− 若い人が観て、どういう感想を持つのかは分かりませんが、主人公と同世代(ちょっと上だけど)の私は、長い間忘れていた、清い感動を久々に味わえた映画でした。レニーが32歳の役というのにはちょっと無理があったような気もしますけどね。 (2007.10.13)