第14回

「ファントム・オブ・パラダイス」 Phantom of the Paradise(1974)

− カルト映画は、熱狂的なファンを除いては理解できない場合がほとんどで、この作品はそうではないと自信を持ってご紹介して良いか不安はあるのですが、独自の世界観と映像感覚を持ちつつ映画としてきちんと完成されている点において、私が理解できない他のカルト映画とは比較にならないほど優れている作品だと思うのです。初めてこの作品に出会ったのはもう10年以上前のことですが、ロック音楽のノリと新鮮な映像、ラストの異様な混乱に圧倒され、興奮して劇場を後にしたことを今でも鮮明に覚えています。それ以来、カルト映画と呼ばれる映画の中で、この作品以上の作品に出会ったことはありません。

ファントム・オブ・パラダイス

− なにせ監督はブライアン・デ・パルマ。この作品をきっかけにして、ホラーやサスペンスを中心に、ヒット作品を数多く世に送り出し、一方で「アンタッチャブル」や「ミッションインポッシブル」といった超メジャータイトルをもきっちり作り上げる、いわば世間に認められている監督になっているという点でも、この作品が一部のマニアにとどまらず、受け入れられる作品であると思うのです。

− さて、その作品内容はというと、有名戯曲である「オペラ座の怪人」に、ロック音楽とSF的、ファンタジー的な要素を盛り込んで、自由な発想でアレンジした音楽業界を題材にした作品で、スワンという敏腕プロデューサに利用され廃人にされた作曲家が、スワンの主催するパラダイス座の怪人となって復讐する姿を描いています。そこには名声に目がくらんでプロデューサに洗脳され、体と魂を売った恋する女性を助けだすという物語も絡んでいます。現在にも通じる音楽業界を風刺した過激な作品といえるでしょう。

ファントム・オブ・パラダイス

− 確かに、出てくるキャラクター達には一人としてまともな人間がいませんし、前衛的な映像表現も多く、カルト映画ならではの異様な世界ではあるのですが、それらは物語が急展開し、ラストシーンでむかえる血みどろの結末をロック音楽とともに盛り上げる手段として非常に効果的であり、決してキャラクターや演出の面白さだけにとどまるものではない点で他のカルト映画とは違うと思うのです。

− 監督は前述のとおりブライアン・デ・パルマ。画面分割や特定の人物をワンカットで追いつづけるといった演出は、最近の作品でも見ることができる演出方法ですが、特に画面分割については、二つの画面構成が巧みに計算され、この作品が最も上手くできているように思えます。出演はファントムにウィリアム・フィンレイ、スワンにポール・ウィリアムズ。二人とも映画の内容にぴったりの個性的な風貌と奇妙な演技で楽しませてくれます。ちなみに裏ページの名前はこの作品からいただいております。(2001.1.7)

(>DVDを買う)