第8回

「サウンド・オブ・ミュージック」The sound of music(1965)

− 今回は、30年以上も前に作られたにも関わらず、いまだ色褪せることのないミュージカル映画の不朽の名作「サウンド オブ ミュージック」を紹介します。私が中学生のころ近くの図書館で上映会があり、そこに観に行ったのがこの映画との最初の出会いでした。2つのスピーカーと小さいスクリーンに、LDをプロジェクターで写しただけというひどいものでしたが、それでも見終わった後は、とても楽しく、すがすがしい気分で家に帰ってきたのを覚えています。それから何度となくこの映画を観ましたが、最近また見直して、あらためてそのさわやかな感動を味わったのでここで紹介しようと思います。

− この映画がこれほどまでに楽しく、心に残るものになったのは、リチャード ロジャースらによるすばらしい音楽とロバート ワイズ監督によるスケールの大きく、かつ軽快な演出によるところが大きいでしょう。あまりにも有名な「ドレミの歌」を筆頭に、数々のすばらしい歌はきっと見終わった後いつまでも心に残るはずです。そしてそれらの歌をもとにした音楽の使い方が実にうまいのです。当然ミュージカルですから、普通の台詞が歌になるのはもちろんですが、その歌が、劇中で使われる歌や音楽になったり、BGMとなったり、別のシーンでの台詞にも使われたりするのです。まだ観たことのない方のために細かい説明は省きますが、その配分が実に巧妙で感心させられます。また、それぞれの音楽シーンの演出もすばらしく、美しいアルプスの山並みを背景にした空撮等を利用した開放的なシーンや、時間や空間を飛び越えて展開される、まるでミュージックビデオのお手本のような編集による軽快なシーンでは、そのすばらしい音楽とあいまって、感動を通り越して、涙ぐんでしまいます(私だけかも)。

サウンド・オブ・ミュージック

− もちろん主演のジュリー アンドリュースやオーディションによって選ばれた7人の子供たちの好演もはずすことはできません。ジュリー アンドリュースはブロードウェイを中心にいまだに活躍しているイギリス出身の女優で、64年おなじくミュージカル「メリー ポピンズ」で映画デビューし、アカデミー賞を受賞しています。もう一つ私の好きなミュージカル映画に、オードリー ヘップバーンの「マイフェアレディ」がありますが、実はこの作品も彼女が演じていたブロードウェイミュージカルがもとになっているそうです。(ジュリー版も観てみたかったですね)

− 物語は、第2時世界大戦中、ドイツの占領下におかれんとするオーストリアで、ドイツ軍に抵抗し、故郷を去らざるを得なくなったトラップ一家の実話をベースにしています。トラップ一家の物語自体は主人公であるマリアによる原作を基に、ドイツで2回映画化された後、ブロードウェイで舞台化されました。本作品はその舞台劇を映画化したものです。最初は監督としてウィリアム ワイラーが計画されましたが、戦争問題をメインテーマとした作品にしたがった彼と制作サイドが対立し、ロバート ワイズに変更になったそうです。ワイズは「ウェストサイド物語」でもオスカーを受賞しており、ミュージカル映画はお手の物といったところでしょうか、その軽快なテンポの良い演出は前述のとおりです。舞台自体は戦争中ですから、映画の中にもその暗い内容が含まれてはいますが、テーマとしては、妻を失い、卑屈になった男と、彼から愛情を受けたいばかりに悪戯を繰り返す7人の子供たちを、天真爛漫な修道女が歌によって救い、家族の絆を取り戻させるといった内容で、決して戦争が主テーマの物語ではありませんから、この監督の交替は当然といえば当然でしょうね。戦争を前面に押し出した内容になっていたら、こんなに名作にはなっていなかったことでしょう。

− 歌のすばらしさと、みんなで歌うことの楽しさを改めて実感させてくれるすばらしい映画です。未見の方はぜひご覧になってください。子供さんと観るのにもぴったりの映画ですよ。(1998.8.24)

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