第2回

「タイタニック」 TITANIC(1997)

− ジェームス キャメロンが監督、舞台は悲劇の豪華客船「タイタニック」、主演はレオナルド ディカプリオ、純愛ラブストーリー。これだけそろって大ヒットしないはずはないでしょう。耳に入るのは絶賛の言葉ばかり、批判など全く聞いたことがありません。そのため、正直言って、かなり構えてこの映画を観てしまったことは事実です。決して嫌いな映画というわけではありませんが、果たして手放しに喜べたかというとそうでもないのです。

− この話は、船が絶対に沈むと観る側が最初から分かっているからこそ面白くなったといえるでしょう。来たるべき結末を絶えず観客が意識しているからこそ登場人物達の行動すべてが悲しいものになるのです。最初にCGシミュレーションで沈んでいく船の様子を細かく見せて、念を押すあたりは非常に上手かったと思います。

ジェームス・キャメロン

− そういう状況の中での若い二人のラブストーリーにこの映画のヒットは支えられているとも言えるでしょうが、それだけでなく、映画を観ていると、キャメロンのタイタニックに対する思い入れが十分に伝わってきます。しかし、逆にそれが足を引っ張ってしまう結果にもなってしまいました。最後まで演奏し続けた楽団、乗客の救命に命を懸けたクルー達、船と運命を共にした船長や設計士。人の命を犠牲にしてまで生き残ろうとした上流階級の人間達、また逆に最後まで紳士たらんとした人々。これらのエピソードを切り捨てられなかったために彼らの描き方が中途半端になってしまい、純粋なラブストーリーとしても観れなくなってしまったのです。

− 映画はそれが事実であっても、ストーリー展開の中で説明されなければなりません。楽団達が演奏し続けるための、船長や技師、紳士達が船と運命を共にすると決心するための理由が説明されなければならないのです。それを説明しようとするとこの映画は5時間近くになるでしょう。キャメロンがその辺を心得ていないわけはないですから、おそらく編集の段階で随分カットされたことと思います。しかし、それらの全てをカットすることはできなかったのでしょう。魅力的なエピソードですし、残したい気持ちは十分分かるのですが、ラブストーリーの形をとる以上は、ばっさり切ってしまった方が良かったと思います。もしくはすべて入れて5時間にしてしまうか。個人的には、5時間版を観たいと思いますが、映画はビジネスでもあるわけですからその辺は難しいところなのでしょう。しかし、いかにも完全版がありますという感じの残し方になってしまってたのは残念です(商売としては2度美味しいけど)。きっと何時間あっても飽きることなく観ることができたと思います。

− 完全版と言えば、まだあります。一緒に乗り込んだ友人は本当に必要だったのか。最初と最後だけ出てきて、後は全く話に絡んでこない。それなのに転覆しそうな最後に顔を合わせて喜び合ったりする。そしてすぐに別れてしまう。友人としてはあまりに粗末な扱いです。彼のエピソードもまた随分編集されてしまったのでしょう。そうでなければ、映画としてはジャックが一人で船に乗り込んできたことにすればいいのですから。

− また、ローズのフィアンセが特別ひどい人間のように描かれていますが、だれしも、ああいう場面になったら自分が生きたいと思うのは当然です。事実、主人公二人もみんなを助けるために行動したわけではありませんし、自分達が助かるために四苦八苦したわけです。だからといって私は二人のその行動を否定したいのではなく、素直に二人が生き残ってほしいと思わせるためには、フィアンセの行動をそれほど細かく描く必要はなかったと思うのです。

レオナルド・ディカプリオ

− 一方、二人のラブストーリーという点から見て、それほどすばらしかったかと言うとそうでもありません。純愛モノとしては定番の、満たされない上流階級の女性と自由に生きる下層階級の男性の物語です。二人を引き裂く原因が悲劇の事故でなければまるで陳腐なものです。

− 演出から見てみましょう。財宝目当てのブロック ロベット(ビル パクストン)に呼ばれた年老いたローズが彼とそのクルー達に事実を聞かせると言う形で話しは展開します。財宝目当ての彼らが彼女の恋愛話など聞きたいはずはないのに、何故か最初から真剣に聞いています。「老人の戯言が始まった」くらいからはじめた方が良かったと思います。それほど彼女の話を彼らが最初から聞く必然性がないのです。彼女の話を聞いて同じ泣き顔を並べているシーンや、「彼は芸術家だったわ」と言った直後に車の中での他のシーンとは統一性のかける濡れ場なんかはほとんどギャグです(しかしこれは狙っての事だと思います)。デッキで二人で空を飛ぶ感動的なシーンもなぜ上から撮るのか分からないし、回想から戻ってくるシーンや船の全景を写す方法も短調でした。しかし、アクションシーンとなると話しは別です。まるで、生物のように襲ってくる水と戦う場面はキャメロンの真骨頂、さすがの上手さを発揮しています。

− こう紹介してるとなんだか悪口ばかりが目立ちますが、以上の部分で感動した方はご容赦ください。しかし、本当にキャメロンがやりたかったのはラストシーンにあると思うのです。101歳にもなる老人がわざわざヘリコプターに乗ってまで遠い海の真中までやって来た理由は何か。絵だけのためならば後で見せてもらえばいいわけだし、沈没したタイタニックを見たかったわけでもありません。愛する人と出会った思い出の場所で一緒に死ぬためだったのです。みんなが必死に探すダイヤを海に投げ入れ、ジャックの生き方を実践して過ごした若い日々の自分の写真を彼の写真の代わりとして抱きながらベッドで息絶え、天国のタイタニック号の時計の下でジャックに迎えられるラストシーンはそれだけで、繰り返し観る価値のある、”素敵な”という言葉がぴったりの良いシーンだったと思います。キャメロンがこんなシーンを撮るなんて正直びっくりしました。

− 最後にキャスト、スタッフを紹介しましょう。主演はご存知レオナルド ディカプリオ。彼の演技はすばらしいものでした。ラストシーンの笑顔は本当にいい顔していました。いい役者ですね。恋人ローズは「乙女の祈り」でデビュー、怪演(?)したケイト ウィンスレット。脇役には「ミザリー」等で有名なキャシー ベイツ(全く注目されなかったのはかわいそうでした)、キャメロン映画常連のビル パクストン。音楽は大御所ジェームス ホーナー。撮影はラッセル カーペンター。彼の見事な撮影には賞をあげたいくらいでした。(1997.12)

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