ロック爺の楽しみ苦しんだルート    

  

(6)錦が浦12c−<北川の岩場>1997年10月

 うっそうとした杉林の中にある湿気のある岩場で、「カビくさい」と思いつつ、岩場の基部から上部を見上げたとき、今にも倒れそうにのしかかってくる威圧感、「登れるのかな?」という不安を覚えました。これが最初の印象でした。さらに、「岩と雪」の付録に掲載されガイドを何度も読み直して、「フリークライミングの草創期に開拓された岩場」なんだと感心しながら、「やっぱり開拓の重みを感じながら登らなければ失礼にあたるなぁ〜」と考えたことも付け加えなくては行けません。そうなんですよね。「北落師門12a」はこの歴史を知って欲しいというメッセージが入ったグレードなんですよね。
 さて、北川の岩場。岩質はチャートで、カチカチの本当に痛い岩です。ホールドは細かい。通ってみると、ルートを二つに大別できると感じました。一つはハングを回避して行くルート。謙譲の美徳11aや、北落師門12aはここに分類されるでしょう。このようなルートは「歴史」を感じます。そして間違いなく面白い。ハングを回り込むときのムーブがひと工夫必要なのです。手順を間違うとどうしようもなくなりますよ。
 もう一つはハングを豪快に越えていくルート。錦が浦12cやバトル12aがその例でしょうか。こちらは「歴史を乗り越えて進むぞ」みたいな意志が感じられます。持久力とパワー全開で登るという感じでこちらも楽しい。
 そして、登り込んで行くと、やっぱり「錦ヶ浦を登りたい」という願望が強くなりました。だって圧倒的なハングを豪快に越えていくのですから。そのような願望も「ルンルン・ヒロシ君12a」をRPして可能性が見えてきたのです。
 でもこのルンルン…苦労しました。フェイスを直上後右にトラバースする場所(3本目)のクリップが出来なかったのです。どうやってもわからない。
 そんなある日、若者2人がこのルートにトライしていました。彼らは果敢にトライしついに二人ともレッドポイント。世の中すごい若者がいるんだなと感心してムーブを盗み見させてもらいました。そして私のトライ。でも出来ない。「ここどーやってクリップするのですか〜」「それはね右手ガストンですよ〜」「ガストン…?」「こんな感じ(基部で形を示してくれた)」。この当時ガストンなんて言葉も知らないし、そのようなムーブも知らなかったのですから「目から鱗」。見本通りやってみると、なんと簡単にクリップ出来てしまった。この後は、トントン拍子。何度か通った後に、私もRP出来ました。(ちなみに、この若者のうち一人は二子で顔を合わせ言葉を交わすことになります。そのとき初めて彼の名前を知りましたが…。)
 そうそう、夕方までこの岩場にいたのなら、この岩場の上に行って欲しいと思います。景色が綺麗です。夕日に出くわしたら最高。基部でのうっそうとした感じとは違いますから。
 ちなみに、私が通っていた時は「ハング上に立ち上がって終了」が「ルール」でした。ザイルの流れを考えて終了点から長くスリングをとってありましたが、現在はどうなっているのでしょうか。
 すぐに行ける岩場なのに、距離が遠くなってしまってたように思います。きっとあの時のホールドは、今行ってみると「細かく」感じるのでしょうね。
 
(5)「金比羅岩三部作」1997年頃

 さて、聖人岩でのクライミングでは物足りなくなったとき、聖人岩と金比羅岩の開拓者である、常富氏・小島氏・市川氏から、紹介してもらったのが「金比羅岩」。
 このときも意気揚々と向かいました。そして、岩場が近くなるにつれて鼓動が高まってくるのです。でも、教えてもらった岩場がなかなか見つからない。本当に見つからなかったのです。3往復ぐらい岩場の前を車で行ったりきたり。一回は山上の集落までいってしまいました。「そんなバカな…」と焦りを感じて、車から降りて見上げると、なんと目の前の杉林の間にあるではないですか、岩場が。山の中腹にあるのだという思いこみで、上の方の遠くを見ていたのです。目に入らなかったのは無理はありません。歩いて3分。バカみたいに近い。
 道路に面した岩場には、このときは人工ホールドがついていこれも驚きの一つでした。でも岩場を北側に回り込んでまたびっくり。傾斜の圧倒されること。高さも充分15mはある。
 さて、金比羅で圧巻的なルートは、やはり「モンスターパニック12b」でしょう。傾斜といい、岩の形状といい、この時は、何というかクライミングに一つの「パッション」(情熱)みたいなものを吹き込まれた感じがしました。登ってみたい…。トライし続けて、その思いがよりいっそう強くなっていきます。出だしのボルダームーブ。まずここで落とされる。そして中間部の縦のピンチ気味のホールドから、レイバックでの力による押さえ込み。これがまたムーブの組み立て方でまるっきり違った顔を見せるため、何度はじかれた事か。そしてその上でレストしても、上部の細かいホールドが持てずあえなくホール。
 持久力に泣いたといえばいいのか。本当に苦労した。ジムに通って人工ホールドに慣れ親しんでいれば、難しくはないでしょうが、当時はジムにほとんど行っていませんでしたから…。
 金比羅の三部作といえば、このモンスターパニックを筆頭に、「メリーゴーランド12a」・「ペガサス12b」をあげたいと思います。三部作とも、出だしのハングがポイントとなりますが、それを抜けたフェースは気を抜けません。それぞれ個性があるルートです。ペガサスはハングを抜けた中間部と上部にトリッキーなムーブが隠されています。
 黒山・聖人岩での修行は、二子での上部での細かさを育んでくれましたが、金比羅では持久力と傾斜に対する慣れを培われたと思います。どちらも私を飛躍させてくれた岩場です。
 ちなみに、金比羅岩の新三部作。これも魅力的です。「ハプスブルク12c」・「デジタルモザイク13a」・「Break Fast13c」(もちろんガンダーラ13cも含めたいですが…)。これらは人工ホールドをはずしてリニューアルしたルートで、逆層の前傾壁を登るというちょっと珍しいクライミング楽しめます。逆層で細かいから、身体を引き上げていくと自然にホールドから指が抜けてしまうのです。ハプスブルクは12aから12cにランクアップしたルートですが、このランクアップはこの辺に秘密がありそうです。ハプスブルクはRPしましたが、その他は課題として残っています。これらのトライでさらなる飛躍が期待できそうな予感を、われながら感じてしているのですが…。
<写真:ペガサスをトライする>
(4)懐かしの「黒山・聖人岩」1996年頃
アルパインクライマー(自称)からフリークライマー(これも自称)への転換期に、良く登り込んだのがこの岩場です。越生梅林の奥に石灰岩の岩場があるとは思いませんでした。都幾川村の「女が岩」(ここは、関東では珍しい花崗岩)でクイーン・ジェーン11aなどを登り込み、登る場所がなくなっていたとき、深沢さん(仕事では先輩・この時はただ岩場でみかける人)から、「あなたならこの岩場はおもしろいと思うよ」とルート図のコピーをいただきました。そのときは「ふぅ〜ん」とお蔵入り。女が岩も登るところがなくなり(スーパーボイス11dは別格)、日和田の女岩ハングには飽きがきて、他にゲレンデでおもしろいところはないかなと考えた矢先、そういえばと思い出し、ルート図を持って出かけてみました。
 岩場について、びっくり。高さこそないが、真ん中にどーんと「ハング」。
 それ以降、ここに通い始めました。「ウオーミングアップ10a」くらい楽勝と、取り付いてみたら、落とされるわ登れないわ、ムキになって、正対で強引な登りを繰り返し、そして同じ事の失敗。自信喪失。石灰岩というのはホールドの向き・形状が不特定で、それに対応した身体の使い方が要求されると言うことを知らなかった。岩質により、筋肉や身体の使い方が違うなんて気づかなかったんですから無理もないですよね。
 ともかくも修行で2年間ぐらいは通いました。
 「聖人岩の三部作」ご存知ですか。八幡さんは「これを登ったら二子へ…」と言っていました。
 @貂が見ていた(11b)…かぶりの最長部分で、足の振り技術と傾斜に必要な筋力が必要とされる、教科書的なルート。
 Aモモンガキット(11b)…前傾クラックを登るルート。縦系のホールドと身体の振りが必要となる。
 B黒山讃歌(11b)…少しかぶったフェース。ホールドが甘く、手順を間違えると落とされてしまう。
 これらはそれぞれ特徴があって、石灰岩の基本的な技術を習得するには良いルートだと思っています。
 私が、細かいホールドに自信をつけたのが、「春風11b」・「天使の誘惑11c」・「越生ライン11c」です。特に天使の誘惑、俗称「耳ルート」は出だしが細かくて悪い。3手で終わりのルート。足の使い方が非常に「びみょー」です。このルートは13クライマーでも悩ますと思いますよ。パワーで自信をつけたのが「ピクルス12b」。出だしで、良いホールドをとると身体が回転を始めるので、その回転を止める足の使い方がポイント。その後も苦しいムーブが3手ほど続く。
 登れていないのは、パルチザン(12d)と黒山ブルース(12b)。前者はちょっと有名になったルートでした。後者はトライを重ねたけれど「困難」のイメージを残して、二子に入ってしまいました。
 聖人岩は、石灰岩の基礎的技術を習得できた岩場で、今でもく懐かしい岩場です。
<写真:天使の誘惑(耳ルート)を登る八幡氏>

(3)パンピングアイアンU・12a<城ヶ崎・サンセット>2005年12月
パンピングアイアンといえばやはりUが出てこなければなりませんね。こちらは人気ルート。長さといい傾斜といい、ハングの見栄えといい、またルートの流れとして、第一ハングを右に出て、そして第2ハング下に向かって左上し、そしてまた右上するというように、結構変化に富んだルートであり、登攀意欲がかき立てられるルートです。他人の登りを観察していると、ホールドがたくさんありそれもガバに見えてしまう。これもこのルートの魅力かもしれません。パンTの失敗を生かして、今回はその魔力に引っかかりませんでした。お皿ホールドは体を引き上げていくと効かなくなり、その丸さでパンプが早くなる。だから、城ヶ崎に来たときは、水平ホールドを利用するときは、素早く引きつけて次のホールドへいかに早く移行するか、足をどのように上手く利用するかと、気をつかうようにしているのです。でもアタマでわかっていても、実践になるとすっかり忘れてしまいますが。
最初のポイントは出だしのハング越え。城ヶ崎は岩場の性格上、出だしは右上していく。このとき体を空中に放り出して行かないといけないのが、心配の種。ここで力をロスします。その後、ちょっとレストして、今度は左のハング下へ潜り込んでいく。このとき細かいホールドが出てきて、だいぶパンプしてしまう。ここは確かにきついところで、ハングしたのガバで一安心。その後、方向転換して右上に。ここは足の位置を間違えるとハングからはき出されてしまう。垂壁にでれば、後はイケイケの持久力。
今回は気持ちよくフラッシュさせていただきました。たまには良いときがないと気が滅入ってしまいます。右肩故障から1年が経ち、新しい年(2006年)を迎えるに当たって、ほっとした日でした。このルートにトライしていた娘さん?。ムーブをしっかり見せていただきました。紙上でお礼を述べさせていただきます。ありがとうございました。機会があれば…。

<写真:パンピングアイアンUの第2ハング下に向かう>

(2)パンピングアイアンT・11d<城ヶ崎・サンセット>2005年12月
城ヶ崎海岸のサンセットエリアは暖かく、気持ちが和みます。いつも行きたいと思いながら、1回目の城ヶ崎行きでは帰宅時に海岸道路で渋滞に巻き込まれ、小田原が夜中の12時という経験が、躊躇させてきました。今回(平成17年12月10日)は青春18切符の旅。二子は寒波到来ということで、寒さ回避の勢いで出てきたというわけ。電車は楽ですよ。
ところでこのパンピングアイアンT。いやー苦労しました。持久系を得意とする私として、このくらいは楽勝とおもって、ホイホイ取り付いたが、難しいというか、体が動かないというか。1週間ほど仕事の関係でトレーニング出来ず、またその疲れで風邪を引き、体調が不完全のままトライしたのです。
第一のハングは難なくクリア、ここは右から回り込んで体が空中に飛び出すところでためらってしまう。そのためらいを吹っ切るのがポイント。これならいただきと、ここで調子づいたのがつまずきの始まり。ハング上の傾斜のゆるいフェースが越せない。このフェースは縦ホールドを体重移動しながら、左にのし上がって行き、左足で小さなフットホールドを利用して、左の縦ホールドをとりにいくのがポイント。ここはちょっと嫌らしい。第2ハング下でレスト。そしてパンプしたまま次のハングに突入。ハングの乗り越し手だてが見つからず、強引に上のガバにデッド。そこでフォール。ハングしたのガバを丁寧に取りに行った後、左の細かい二つのホールドをつかみ、右足のヒールが鍵となった。ここでこのムーブを発見できなかったため、正対で強引に乗り越そうとした。これがが敗因。城ヶ崎は足技を駆使しないと、ダメなんですね。
この上のフェースも、ホールドが遠いこと、ガバとガバをつなぐ小さなカチで前腕がパンプして、結局フォールの連続でやっとの事で終了点にたどり着いたわけ。よく周りを見回してホールドを探すことが必要だななんてしきりに反省したのです。2便目もムキになって、やはり同じ間違いを繰り返すばかり。この日は結局RP出来ずに、暗い気持ちで帰ったのでした。
 そして1週間後、リベンジで再びトライ。体のリズムというのは、やはりバイオリズムに左右されているのでしょうか。この日は調子よくマスターでRP。一週間前の苦労は何だったのかと思うくらい体が動いていました。

<写真:パンピングアイアンTの第2ハング乗り越しで苦労する>

(1)みかけだおし・11c<有笠・ジアーチ>2005年7月
「みかけだおし」ってどこにあるの?と聞きたくなりますよね。有名なジ・アーチの「天然記念物」の隣のルート。出だしは天然記念物と同じ。ジ・アーチは見るだけでも壮観ですね。是非見て欲しい。圧倒されるというよりも、驚きを感じた後、しばらくすると「いつ崩れるのか」という恐怖心が沸き起こってくるから。しまいに「こんなところ登ってだいじょうぶなのか」みたいな感覚になってしまう。もっとも、場所が狭くて10人ぐらい来ると、居場所が無くなってしまうのが欠点かな。熊が来たら逃げ場所が無くなり勝負するしかないというエリアです。
それはともかく「みかけだおし」と命名した理由はわかるように思いますね。かなり傾斜が急で、二子に「日本で一番かぶった10a=悪魔のエチュード」というルートがあるけれど、こっちは「一番かぶった11c」のような気がする(すいません間違っていたらごめんなさい)。人間の視覚は意外に当て当てにならないいいですよね。
 このルートの核心部は3本目からと5本目のクリップまでと、最後のフェース。当方は最後のフェースで力尽きてしまった。つまりフォール。これは痛かった。なにせ、レストしていても張ってきてしまって(言い訳)、ガバの連続なんだけれど本当にパンプしてしまった。最後のフェースの右上するクラックはホールド的には向きが悪い。登れなかったあとに「あんたはミカケダオシ?」なんてルートからささやかれてしまって、ちょっとショックだったよ。
ジ・アーチを眺めると、アーチのルーフに気をとられて、正面の傾斜が読めなくなってしまう。そして結果的にはグレードで判断して登り始めてしまう。「みかけだおし」というのはそのような意味を込めてつけられたのだと思う。えっ?違うんですか?。難しいと思って登ったら簡単だったんですか?。そっちのみかけだおし?
 ところで、「日本100岩場」関東編での、口絵写真「天然記念物」の木村氏の写真クールですよね。あこがれます。ハイ。
<写真:天然記念物下部をトライする八幡氏>

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