ロック爺の二子山弓状岩壁ルート紹介

  

(22)悪魔のエチュード・10a
日本で一番かぶった10aといわれます。弓状岩壁で最初に目に付くのはこの異様な「つめ」で、圧倒されるはずです。このツメは岩壁に発達した鍾乳石なんでしょうね。天然記念物に指定されたら、二子の弓状は登攀禁止になってしまいます。プラナンへいったらこのツメ、至る所にありましたよ。熱帯はやっぱりどこか違いますよね。この真下のビレー場所に大きな岩がありますが、過去にはこの岩も「つめ」の一部だったと思われます。15年前に弓状を見学に来た時、この岩が立てかかっていたのです。誰かが動かしたのですね。ここは常連さんのアップルートになって、朝は混雑します。このルートの上部が「ジョナサン…」です。このルートの見所は?ですって。それはツメを乗越したあと、上部の垂壁で右に出て、行き詰まっているクライマーのその後の対処の仕方でしょうね。これは見逃せませんよ。後のクライミング技術のためにです。身体のウオームアップだけでなく気持ちもウオームアップさせて下さい。
 昔、常連さんはこのルートを「ファットマンルート」って行ってました。どうしてでしょうか。それはともかく、いつ落ちるか不安でたまりません。だって相当な重さがあるでしょう。その上にクライマーが登ってしまうのですから…。悪魔がいつ襲ってくるのかとても不安です。みなさんも危機管理をしっかりして下さい。
 
(21)オ・ララー・11b
 二段岩壁へはフイックスされたロープ伝いにはい上がりますが、その登り切った延長方向にこのルートはあります。コルネを上り詰めるルートです。日当たりが良く明るいのですが、結構ぬれていることが多いルートでもあります。11bというグレードですが、なかなか手強いですよ。
 私はこのルートには苦労しました。二段岩壁のフィックスから離れて登り始めで、まずつまずきました。ホールドの向きを読めないのです。そして手順のズレがその後のパンプを引き起こすのです。そして、右から回り込んでコルネに出て行きますが、コルネに入ると休めるという願望は見事粉砕されました。傾斜が強くなるのです。さらに上部へ突入すると、ホールドの向きとフットホールドの甘さに泣かされ、フォールです。この最後の部分が核心部といえるでしょう。またここは、左の長いスリングでのクリップが出来ないと、非常に怖い。恐怖心を持ちながらここで何度落とされたことか。今もトラウマとなって、当時のふがいなさを思い出させます。同じ「墜落」にしても、「振り返るな」の方が、より気分がスッキリします。
 筋肉の使う場所が違うのでしょうか、寒い日にはパンプの度合いが大きいような気がします。たぶん細かい筋肉か、縦ホールド系の筋肉群の使用によるものだと思います。ヌンチャクがかかっていると、「トレーニングのために登ってみるか」という気持ちにはなりますが、ヌンチャクをかけながらトライとなると、今でも尻込みします。私には苦手ですね。

<写真:オ・ララーを登る八幡氏>
(20)振り返るな・13a
 二段岩壁のババージュから右方向に目を向けると、大ハングが飛び込んできます。その迫力に圧倒されて、いつかは登ってみたいと思う人は多いはずです。浸みだしの多い年の厳冬期には、大氷柱が発達する場所でもあります。見ていて壮観ですよ。このルートは、雨が降るとすぐに、ハング下にかけて浸みだしが来てしまうルートで、見極めが大切かも知れません。
ルートはババージュの右手から垂壁を上り詰めて行きます。この垂壁はガバの連続なのですが、ボルト間隔が遠く、いやらしく感じるところです。ハング下でレストポイントがありますので自分で好位置を見つけて下さい。さてハングの突破です。ここで多くのエネルギーを消耗してしまいます。見た目以上に傾斜がきついのです。そしてリップに出てからがいよいよ核心に突入します。細かくて悪いムーブが続きます。上のコルネを右手で取るか左手で取るかは好みの問題になりますが、それが取れるかどうか、また取れたとしても保持できるかどうかが成功の鍵を握ります。
 私はハングの出口でクリップした後、その上のヌンチャクにはクリップしないで突入しました。それほど核心部は細かく、このクリップで消耗し尽くしてしまうからです。結果的に墜落する時は長く大きく落ちることになります。
 それはもう大墜落です。ここはもうビレイヤーにすべてをたくするしかありません。本人は恐怖の墜落ですが、見ている方は爽快だったようです。注意点は、落ちたあとです。壁にあたる一回目で壁のロープをつかんで下さい。そうしないと宙づりになり、苦労します。墜落時間は長いので時間はあります。落ち着いてつかんで下さいね。時々「ちくしょ〜」といっていてロープをつかまずに宙づりになっている人を見かけます。悔しさは後で余裕を確保してからです。トライする人は絶対これだけは忘れないで下さいね。もちろん下降するときもロープを離さずに。またビレーヤーは、ロープの末端処理を確実にしてください。
(19)青い目のセリーヌ・12c
 
最近、広場に行くと挨拶するルートがあります。それがこのルートです。何に挨拶?まさか「セリーヌ」を思い出して!なんて思わないで下さい。「右肩はすっかり良くなりましたよ」という挨拶です。最後のクリップ前で3度も落とされて、それでムキになり、右肩を壊した訳なんです。痛みを引きずりながら、ムーブを変えてRP。しかし代償は大きかったのです。その年の冬は全く岩にさわれずじまい。障害でシーズンをダメにしてしまった反省を忘れずにするための、儀礼みたいなものです。
 広場のルートは、短い分ハイボルダー的で、一つ一つのムーブがきつい。そこで自分のレベルアップを図ってこの広場のルートに取り付き始めたのです。少しずつレベルアップをそれも慎重に進めれば良かったのですが、血の気が多いとダメですね。
 セリーヌの核心は真ん中にあるボルトに、体勢を整えていかにクリップするかにあると思います。「クリップ核心」。このクリップ、怖くて出来なかったのです。ともかくもクリップ出来るような身体張力が必要でした。私にとっては、クリップムーブを固めるというよりは、そのような身体張力を生み出す筋肉が出来るまで執拗にチャレンジしたというような感じでした。もちろん出だしの数手がまた細かく気が抜けません。少しの湿気や、疲れがたまっていると、出だしが出来ない。そしてまた、クリップで全身のエネルギーを出し切った後に、後半のムーブに突入です。ともかくもエキサイティングでパッション(情熱)がトライを重ねるごとに生まれるルートです。
 名前に誘われて、ついふらふらっと触ってしまったら、もうダメですよ。ルートのとりこになること間違いなし。あなたも身体壊さないで下さいね
<写真:甲斐駒Aフェース・同志会ルート>
(18)蛇の道は蛇・12a
 このルートを何時登ったのか、思い出せないのです。たぶん「ブロースト」トライ前後の、それも二段岩壁自体も浸みだしで登れず、このルートしか乾いていなかった時期かもしれません。登った時期は不明でもでも、ルートのどの部分に苦労したのかと言うことは、しっかり覚えているのです。苦労した記憶は何時までも残るのでしょうか。
 二段岩壁の最奥に位置するこのルートは、やはりアプローチに苦労します。フィックスロープを伝いながら「ブロースト」の取り付きを越えると、アプローチが寸断されるのです。ここは是非、今にも朽ち落ちそうな木の橋と、そしてそれをつるすリングボルトに恐怖を感じて下さい。開拓者の苦労が身にしみます。
 さて、ルートですが、上部に立派なコルネが見えます。これがこのルートの核心です。よく見ると蛇に見えますよね。
 下部は、とりわけ難しい部分はありません。コルネに向かって、弱点を登っていきますが、ただ一カ所手順を間違えると苦労する部分があります。さてコルネの処理、これがまた私にとって特に苦手なものでした。細かいホールドを正面突破で登るのが私の特技ですが、見事それが跳ね返されました。RPの時は本当にきつかったです。コルネから右に出ると、ガバがあります。それまで我慢(できるかな?)です。コルネの得意な人には楽勝でしょう。「蛇の道は蛇」とはすばらしいネーミングです。何簡単だと思って取り付いたのですが、私は蛇ではなかったことに気づかされました。修行が足りなかったのです。


<写真:甲斐駒・魔利支天を望む>
(17)ブロースト!・12c
 12cで1番に苦しんだルートは何かと言われたら、やはりこのルートをあげなければなりません。得手不得手は誰にでもあるのだと思います。しかし、自分が何が不得意かを自覚させられたのがこのルートでしょう。モダンラブから任侠道へと快進撃を続けた私を撃退したのがこのルートでした。下部は本当にやさしいのです。ルンルンで「お買い得」なんて思いました。でも中間部から極端に難しくなる。細かいホールドを利用したトラバースは結構悪い。当初、私はここのムーブが解決できなく、右のふくらみを下がり気味に回避して直上していました。1ヶ月もお馬鹿を繰り返したのです。トライさせてと言った「浜田さん」が正解ムーブを示してくれました。「平塚さんのムーブは13だ!」と優しい言葉がけをもらって気を取り直しましたが…(クライマーってとてもやさしいいんです!)。その後は快進撃かと思いきや、コルネでつまずく。「つまずき」の中身を理解出来ても、それが克服できるかは、また別問題なんです。「わかっている」けど「出来ない」。このコルネには本当に泣かされました。自分の弱点はルートファンディングと「ピンチ持ち」の力・持久力であることがはっきり解ったのです。結局、その年のシーズンは終わり、持ち越しとなりました。そして次のシーズンの幕開け11月にRP。もちろん夏の間は、弱点克服を意識したトレーニングを心がけましたが…。そしてRP後はあの有名な「唐獅子」に突入しさらなる苦しみを味わうことに…。
<写真:基部からブロースト!を見上げる>

(16)私生活12cから龍勢13aへ
弓状岩壁の右奥、一番傾斜の強くなった部分に一連のルート群が存在する。なにせ5ルートがスタート地点を一つに持つのだから、人気が出てしまったら、順番待ちは間違いなし。実際のところ05年から06年のシーズンはトライ者が多く、その状態が生まれてしまった。人気が出てきたエリアかもしれない。
 この場所は、1月2月は吹き上がりの気流で寒く、また岩も冷え切る。そのためトライ者は非常に少なかった。ビレーヤーも冷え切る場所でもある。一方、傾斜も強くムーブも多彩で、秘密トレーニング場所として私は重宝してきた。また、身近にトライ者のムーブを観察できるという場所でもある。
 マイライフはピヨピヨの終了点手前から右にトラバースして直上する。マイライフのラインははっきりしている。わかりやすい。
 さて私生活だが、下部のラインは諸説があるようだ。中間部マイライフトラバースで利用するこの「コブ」を利用しないとの説もある。私は直上して利用する。ともかくもスタートから苦行の連続となる。アンダー・キョン・指ホールドを駆使しながら、傾斜を殺す自分なりのムーブを組み立てる必要があり、個性や個々の身体能力・特徴が出てくるように思う。傾斜が強いため、ちょっとしたミスが後のムーブに響いてくる。
 マイライフ終了点から上部は傾斜がゆるくなるが、ここも登り方が一人一人違う。私は6手で終了点をつかむムーブを愛用している。左手レイバックから体勢を上部に固定して、右手で小アンダー=身体をあげる=左手ピンチ保持=右手小穴保持=左足を思いきっりあげる=右足あげて固定=左手アンダーへデッド=右足切り返し=右手終了点、というシークエンスを採用している。一手一手呼吸を止めてしまうようなムーブの連続で、ともかくも息が切れないように注意している。使えそうなホールドが散らばっているので、自分なりにムーブが組み立てられるのが、私生活のおもしろさかもしれない。マイライフは「人生こうあるべきだ」みたいなところがあるが、私生活となると「どんな登り方しようが、俺の勝手だろ」という感じになる。
 ともかくも単純な言い方だが、上部数手で12aが12cになってしまう訳で、その難しさを想像できるかと思う。成功の鍵は「焼き石の利用法」。だって、下部は指がかじかんだらムーブがおこせないよ〜。そして私生活の核心も含めて、ここの一連のルートは寒い時ほど指が吸い付くからね〜。
 龍勢はさらに上のスラブにつなげる。私生活を楽にこなした後、まずは遠いバルジ上のカチをつかみ、のし上がり、その上の細かいカチに耐えられるかどうかが鍵かもしれない。パンプした前腕に耐えて、最後の輪入道の細かいフェースへ。野口氏がこのルートを発表した時は13bでしたよ。
<写真左:私生活中間部で小レスト>
<写真右:私生活中間部小レスト後4本目クリップ>

(15)サバージュ・13a

 ババージュのあとは、当然サバージュに入って行きますよね。必然的な流れだと思います。ではババージュと比較してサバージュはどこが問題なのでしょうか?。それはやっぱり、「ババージュの核心部を再び越えられるか」ということにつきると思います。ババージュの下部核心部の右手穴ホールドからの一連のムーブは並大抵のものではありません。一度登れたからと言って、そう易々とこなせるムーブではないと思います。
では上部のババージュ本体には核心部はないのかといわれると、「はいありません」と正直に告白せざるを得ない。とは言うものの、ババージュルート終了後に大レストをしたと言っても、細かい小ハング越えとその後に続くコルネの処理には神経をつかいます。注意深く行かないと、「はい、ババージュをもう一度!」ということになります。これは大きなプレッシャーです。実感的にサバージュ本体は「疲れ」の要素を入れて、12aくらいの注意深さをもって突入していった方が良いでしょう。
 あえて「核心」と言うならば、上部コルネの処理の仕方でしょうか。直上すると左足が離れてしまう。一方コルネの右方向に出ると極端に細かくなる。力で押さえ込んでいくかそれともフェース登りで勝負をかけるかは、トライ後の自分の好みになると思います。私の場合は、前者を選択しました。どちにせよ精神面でも肉体面でも持久力が必要になるルートであることは間違いありません。
 実は、このルートのRPには特別の思い出があります。内の奥さん、私があまりにも二子に通い込むため、本当に二子に行っているのか心配になって、正月の3日に「ついて行く」と言い始めたのです。まあ内心は「どっかで浮気でも…」と思っていたのかもしれません。それで、目の前でサバージュをRPしてしまったのです。その後の二子通いに影響すると思い、もちろん力を入れましたけど。あのとき周りのクライマーから拍手をもらって、ちょっと自慢でした(拍手ありがとうございました)。その拍手の成果も出て、その後再び「私もついて行く」とは言っていません。オヤジが信用された1本だったのです。

<写真:上部コルネに突入する>

(14)ババージュ・12d
 唐獅子牡丹に何回チャレンジしたと思いますか。100便は越えていました。核心部になると何回トライしたかは想像できますよね。というのも、今考えればあたりまえのような気がします。任侠道RP後、すぐに飛びついたのですから、この極端なグレード差を解消するにはそれなりの時間と努力が必要だったのです。唐獅子を長くトライしながら、クレード差を埋めるにはそれ相応の努力が必要だということに気づき始めたのですが、いまさら他へは引けなくなっていました。ここまで来ると意固地にならざるをいませんよね。身体を休ませながらいろいろなことを考えましたが、そのときに目に入っていたのがこの「ババージュ」をトライするクライマーの人たちでした。「俺も次はあのルートを…」という気持ちになっていました。唐獅子はすでに全体のムーブは分かっていたし、ある程度「自動化」はされていました。あとは天気・気温・湿度・体調と「核心部をクリア出来るかどうか」だけがRPの条件になっていました。という事は結局休憩中はなにもやることがなく、ひたすら自分の身体を休める事だけでしたから、必然的にババージュのトライ者のムーブを見続けることになります。
 「アンダーガバでちょっと右手を振っシェイクか。次は右手の穴ぼこ、ここで踏ん張って…あ〜テンション…(あそこが核心か)。そいで…踏ん張れたとして、左手でかき込んで、おっと左足が決まらないのか…そのあと左手…右手…ここで左手を穴に差し込んで(クリップするための体勢作りかぁ〜)…(中略)。大きな穴で少しレストして…キョンをかけて左手をとばして(またキョン?。かけ直して上のホールドを取りに行くわけね)…そんで、右手を小コルネの上の方に…あっと墜落(ここが上部の核心ね)…。」
 寝っ転がって、見ている内に、ほとんどのムーブを覚えてしまったのです。そして唐獅子で悔しい思いをすると、「唐獅子が終わったら絶対ババージュだから」なんて気をまぎらわせ、その一方でこのルートに対する憧憬をつのらせイメージをふらませていったのです。「江戸のかたきを長崎」でという心境であったのかもしれません。
 実際、このルートに取り付いた時、イメージに修正を加えたのは、核心部の穴に3本指をからまること(2本指では力が足りない)、さらにその後の足さばきに工夫を加えた5ムーブ位のシークエンスを組み立てなおしたこと(力で押せないため)、上部核心でのクリップ時の足位置を配慮したことくらいでした。もっともこのルートはRPするにはしんどいルートであることは変わりありません。でも唐獅子での苦労が結実したことも事実でした。シーズン前に気晴らしで2便、そして唐獅子成功後8便目でRPの本当に快挙の出来事だったのです。
<写真左:下部核心部の穴ホールドを取りに行く手前のアンダー>
<写真右:下部核心を抜けて左手アンダーでのクリップ腰>

(13)唐獅子牡丹・13b
10年ほど前、ちょうど二子を訪れる人がピークの狭間であったかもしれませんでしたが、このルートをトライする人は皆無でした。しかし、06年現在、土日となれば6〜7人のトライ者で順番待ちも珍しくありません。ジムの出現とトレーニング方法の発達で、今やこのルートは盛況になってしまいました。特に若手の成長はめざましく、少ない回数で、あっさりと年寄りクライマーを追い抜いて行ってしまう。
 5年ほど前、ぼちぼちとトライ者が増加し、私もその一人となりました。しかし、任侠道RP後、すぐにこのルートにトライしたこともあるのでしょう。今振り返れば血のにじむような努力と苦痛を味わいました。つまり任侠道の12dとこの唐獅子牡丹13bのグレードの差は非常に大きかったということかもしれません(現代の若い人はあまりこの差を感じないくらいレベルが高いようです)。
 5本目までの下部が、非常に悪いのです。ホールドが細かく、また縦系であるため、力をつかいます。またピンチありガストンあり、そしてキョンありと多彩です。このルートをトライし始めたころは、指が痛くて特に寒い日には本当に泣きが入りました。3便目には「イヤだけど仕方ない」という気持ちで登りはじめ、結局はメロメロで各駅停車でなんとか中間部を突破する感じでした。
 そして核心部のムーブがとっても悪い。右手の二本指での細かいピンチは、はじめは持てませんでした。しかし、慣れてくるとつかめてしまうから、不思議なものです。核心部のムーブは大きくは二つあるようです。現在、隆盛にあるのは「開脚ムーブ」。左右の足をオポジションにとり、そのバランスを維持しながら右手の細かな核心ホールドに耐えて、左手ガストンを取りに行くムーブです。もう一つは「ロケットムーブ」と命名されているもの。私はこのムーブを採用しています。右手核心部ピンチホールドを取った後に、左足をポケットに入れて、飛び上がり左手ガストンを取りに行く。この飛び出すときに右手を下に引くのがコツで、手前に引くと「パシッ」と音を立てながら抜け落ちてしまう。
核心部を抜けてからは、ストレニ・持久力勝負となります。任侠道との合流までもちょっとしたムーブがあります。任侠道の上部を共有しているため、上部の性格を同じように判断してしまいがちですが、唐獅子の下部から連続して登ってくると、その性格ががらっと大きく変化することを思い知らされます。この辺がフリークライミングの奥の深さかもしれません。
 私の場合、全体のムーブがほぼ固まり、核心部が3回に1回成功するようになり、そこで1シーズンは終わりました。次のシーズンも2ヶ月が過ぎた12月下旬にやっとレッドポイント出来ました。何度やってもRPできなく「登れないかも」と思ったこともありました。でも思い直してトライを続けたことが結果を残せたと思っています。この後しばらくは、パワーアップした自分に驚きを感ずる日々を過ごせました。
<写真右:唐獅子牡丹4本目クリップ後のガストンからキョンホールドを取る>
<写真左:唐獅子牡丹5本目クリップ後、核心部水平ホールドから右手ピンチホールドを取りに行く>

(12)ジョナサン・リビングストン・シーガル・12b
 設定者があるライン設定してボルトを打った時に、すでにそのルートの性格は決まってくるように思います。そして、設定者や初登者が苦労してそのルートを完登したとき、グレードがつけられます。そのグレードは基本的にはそれ以上やさしく登ることは出来ないだろうと言うことでつけらると思うのです。挑戦者はそのルートに挑みます。そのとき設定者が苦労して克服したルートの全体像を明らかにしていくこと、苦労したムーブのシークエンスを再現していくこと、設定者とは違ったムーブを発見すること(例えば、真珠入り上部の開脚ムーブがリーチの差で不可能な場合それにかわる新しい解決方法を発見するなど)、設置者が味わった様々な苦労を味わっていくこと、そのようなことに挑戦する楽しさや喜びを感じるのではと思います。
 「限定をつけるとおもしろくない」という発想があります。それはそれで間違った考えではないし正しい考え方です。しかし、ルートが設置されグレードがつけられた時点で、もうそれは「限定」がつけられたと考えてみたらどうでしょうか。「限定があるから楽しい」。このような発想の転換も、岩場が少なく、そして多くのルートを引かざるを得ない日本では必要なのかもしれません。「核心部はどこでそのムーブはこうで、このホールドはこうつかう」と言うような話題は、「限定」の内容について情報交換しているようなものではないでしょうか。核心部を避けて通れば、当然グレードはさがりますよね。
 このルートはこのような発想で登ってみたらどうでしょうか。前半部は「悪魔のエチュード」を越えて、「快刀乱麻」の終了点まで。ここはどうしても快刀乱麻のルートに足が出てしまいます。このような部分は「これはok」という逆の意味での限定で、これもクライミングを楽しくしている要素だと思います。かといって、右に出て行きたくても、右のフェースは極端に難しくなってしまいます。この部分は傾斜もあって結構パンプします。
 快刀乱麻の終了点からは、もしこのまま左のルンゼに入っていくと、ルートの性格は変化し別ルートになってしまいますので、ここから右上していきます。この右上から核心部に突入です。右に出て、コルネを直上します。このコルネが曲者で、ここの数手が細かくムーブの組み立てに苦労するところです。この部分が12bにさせたおもしろい部分といえるでしょう。ルート設定者の先見性に敬服します。この後も左のルンゼに入らずにぎりぎりのところで直上し、ランナウトして怖いは、使えるようで使えないホールドが出てくるわ、わくわくさせます。
 終了点からの下降には60mロープが必要でしょう。ロープが短い場合は悪魔のエチュードで結び直しとなります。自由に登りたいと言う人には、このルートは限定があって、おもしろくないかもしれません。でもルートの混雑する日本の岩場の現実を知る意味でも登って欲しいルートです。もちろん楽しんで欲しいことはいうまでもありませんが。
<写真左:快刀乱麻終了点でレストする>
<写真右:快刀乱麻終了点のレストから核心部へトラバースする(空間に下がるヌンチャクはフラットマウンテンのもの)

(11)おいしいよ〜・12c
 12cというのは、クライマーにとって一つの「あこがれ」のグレードだと思います。そう思いませんか?。12aもあこがれましたが比較的楽に到達出来たように思います。でも12cとなると、一筋縄ではいきません。八幡さんは「12cからルートをトライすること自体苦痛で、12aくらいが一番楽しい」といっていましたが私も全く同感です。何がそれほどまで「苦痛」にさせるのかというと、「全体的に力を抜けるところがない」なんて表現できるかもしれません。
 「おいしいよ〜」もこの例に漏れないと思います。出だしから厳しい。トライを始めた頃、ルート設定者である二子・弓状岩壁の開拓者「長嶋氏」が私の登る様子を見ていて、「RPはまだまだ先だね」と指摘されたことがありました。下部のぼてぼてした登りを見ての判断で、「さすがルートを知り尽くしている人はちがうな〜」と感心してしまいました。傾斜の強い下部は、ホールドは比較的大きく、ムーブもそれほど難しいところはありません。しかし傾斜がきつい。ここを余裕でこなしていかないと、中間部にあるいわゆる「拝み取り」の核心部のムーブをこなせないのはいうまでもありません。
 ポイントは核心部前後の一連のムーブを合理的にこなしていけるかにかかっていると思います。核心部手前ではいわゆる「拝み取り」を行う時の右足の位置決めが難しいといえるでしょう。さらに拝み取りから左手ピンチをとれたときに、右足をあげて、さらに左足を「こんなに高く?」と思うくらいあげて、右方向に体を傾ける感覚がつかめるか、核心部クリアの鍵だと思います。そのあとは、右手を適当なところで中継して、アンダーに差し込めれば解決となります。しかしこの上も問題部分です。今度は前腕をパンプさせた状態で3手先のガバを取れるかという「持久力」が試されることになります。核心部での墜落も、ランナウトする分、恐怖感がまとわりつきます。ここでの墜落は結構こわいですよ。この克服もグレードに加味されているのでしょうか。
 私がレッドポイントした日は2月11日(建国記念の日)で寒風が吹き、出だしは浸み出しが凍り、とても寒い日でした。出だしは浸み出しが凍り、核心を抜けたときは、パンプは激しく、限界ぎりぎりでセーフでした。しかし天候は快晴。終了点での気分はすがすがしいさがいっぱいでしたよ。最近の若者はこのルートを苦しむことなくさらりと登ってしまいます。時代と世代の違いを強く感じますね。

<写真左・中・右:出だしを登る筆者>
(10)ペトルーシュカ・12b
 ルート図では★が三つき、傾斜が強く、最後に核心部があり、容易にRPさせてくれない好ルートです。12aから12bにグレードアップしました。クライミングのグレード体系には様々な論議がありますが、グレードは、岩場の難易度を現す指標であり、クライマーにとっては自分の到達度を測れる尺度ともいえでしょう。このルートは弓状岩壁の高難度への登竜門としての位置にあり、二子のスタンダードと成り得るルートと考えています。
 ただし、それにはいくつかの限定をクリアしなければならないでしょう。このルートは上部は右側の「春の祭典」(11d)と同じでです。そのため限定が生まれざるを得ないといえるのです。「凹角の中に体を入れ込んでオポジションでレストしない」というのが12bの条件となるのです。凹角上部のホールドで凹角の右に出て、コブを二つ使用しますが、この際に足が凹状内部に入ってしまいますが、ここまではルートの性格上、正規ルートであり問題はないムーブとなるでしょう。どこまでが限定かというのは、「春の祭典」を登ってみれば歴然とします。「春の祭典」なかなか楽しいルートですが、ペトルーシュカの陰に隠れてしまったようです。色々論議のあるところですが、限定を踏まえて12bというのが、定まった評価と言えるのではないでしょうか。
 
 ところで、ルートのポイントは三つあります。
 一つはやはり最後の核心部の処理となるでしょう。凹角を抜けて、左手アンダーから右手ホールドを取り、右足はコブの上部、左足は穴に決めて、左手で終了点のコルネをとりに行くムーブがポイントです。この場合、左足をキョンにするか、左足を穴にトゥをかけるか二通りの方法があり、どちらにせよリーチの差が出てしまいます。リーチの無い人は左手一手を小さなホールドを利用するしかありません。終了点コルネを取れた後も、右足をあげて行かざるを得なく、厳しいムーブが続きます。ここが越せなくて、泣きの入ったクライマーは多いはずです。しかし女神は必ず微笑んでくれます。ここを越せると多少の紆余曲折があるとしても、任侠道までは一直線に行けると思います。 もう一つのポイントは中間部でしょう、ガストンから隠れたホールドを右手で取りにいくムーブがそれです。なれるまではとてもきついムーブです。三手一組にして考えずに思い切って「勢い」で行くのが秘けつかもしれません。三つ目のポイントは、核心部手前でのレスト方法でしょう。どのような体勢でレストするかは、個性が出て来ます。左手コブ下で左足をうまく使う方法、その手前の傾斜が強くなる前にピンチで片手ずつレストする方法、凹角上部を右にトラバースする前に、カンテで右足をからめてトゥを利用する方法などがあります。各自研究してみて下さい。限界ぎりぎりでトライする人にとって、レストが成功の鍵を握ることは間違いありません。
<写真上:核心部突入前にて再びレストする>
<写真下左:中間部ガストンからカンテ脇のホールドをとる>
<写真下右:傾斜変換点のコルネにてレスト>

(9)真珠入り・13a
 ホテル二子の左に伸びる、長大なルートです。ホテル二子のホールドを使用したり、ルートに入り込まないという限定がありますが、見た目以上におもしろいルートだと思います。 2000年頃の二子は、冬に二子に入る人はとても少なかった記憶があります。12月上旬に寒波が来て雪が舞うと、極端に人が減り静かな二子を楽しめました。開拓者世代を第1世代とすると、その後の第二世代が全てのルートをを登り付くし閑散となった後に、私たちが第三代世代として二子に通い始めた頃と言えるかもしれません。この時に群馬勢の「安さん」「金さん」コンビがトライしていたのがこのルートでした。これを見ていた私たちは、「早くこのルートを登って見たい」と憧れていたのです。
 真珠入りは、出だしの厳しい「ボルダー」に始まり、最上部の甘いホールドを駆使したフェースと、全くの性格が違う核心部を持ち、その「長さ」と合わせて、異色なルートとも言えます。名前も異色ですよね。想像ですが、ネーミングは任侠シリーズの一環かもしれません。若い人には解らないでしょうね。
 特に最上部は、丸くて細かいホールドで、前腕をパンプさせ、困難と思われる「開脚ムーブ」という特殊なムーブ(05年に左手キーホールドが欠けて、カチ持ちがしやすくなったが、親指がかからなくなって押しがきかなくなった)をこなし、「俺にはやっぱりできねー(金さん)」「そんなのとばしてしまえー(安さん)」と言わしめた「できるようでできない」クリップを行った後で、さらに「取れそうで取れない小さな穴」を取りに行くムーブは、やっぱり異色です。ハングドックで個々にムーブが可能で、すぐに登れそうに思えてしまいますが、どっこいそうはいかないようです。
 私の場合、中間部のレストが楽にできるようになり、いわゆる腹筋を利用した「身体張力」に余裕が生まれて、ムーブが連続しはじめて、可能性が広がっていった記憶があります。★はついていませんが、それはシケインを使用して強引にラインを引いたルートから来るかもしれません。でも二子の開拓の歴史を知るうえにも、また特殊なムーブを知るうえにももっと登って欲しいと思っています。★が少なくとも二つはついてよいルートではないかと密かに思っています。将来、「美しき流れ」をトライすることを視野に入れて、是非登ってください。
 ちなみに、06年現在、二子は第五世代に入っていると思われる。

<写真左:真珠入りの出だしに立つ八幡氏とビレーする筆者>
<写真右:下部ボルダームーブをこなす八幡氏>

(8)火の鳥・12a
 それぞれの岩場にあるルートを大きく二つにわけて、「持久系」と「瞬発系」と区分する人がいます。この区分を弓状岩壁に当てはめると、「穴のムジナ」より広場方面へ「乾杯」までが瞬発系。それより「ノースマウンテン」までは持久系と言えるかもしれません。ほかのルートの区分方法としては、「上部にスラブ系を持つか持たないか」という区分の方法もあります。もちろん「火の鳥」は前者の区分方法でいえば、瞬発系になります。
 このルートは二ヵ所のレストポイントを挟んで、きついムーブが三ヵ所存在します。核心部が最上部ということでペトルーシュカと性格が似ています。
 キツイムーブの一つ目は中間部への穴に左手を出していく部分です。右手の細かいカチと左足が鍵となります。二つ目は上部の大きな穴へ向かう部分で、アンダーとキョンとクロスを取り混ぜたムーブでコルネを取り大きな穴に入るムーブででしょう。この部分は個性が出てきます。微妙なムーブの違いが出てきます。この大きな穴でのレストはいうまでもなくRP鍵を握ります。レスト方法も様々で、頭を突っ込んでお尻丸出しのレストや、「頭をつかうね」なんで、頭皮を傷つける無謀なレスト(私ですが)もあります。ここは右足をうまく使うのが正解レストでしょう。その上が核心部となります。ペトルーシュカと同じで最後に核心が待っています。ポイントは、最後のクリップ後、コルネを右手でとった時に、身体を左に返して親指をうまく利用できるようにしていくことでしょうか。そうでないと上部の穴ホールドを取りに行けないのです。もちろんこの場合左右の足の位置も問題となりますが。そして終了点のクリップも身体張力を利用したきつい体勢で行うことになります。
 二子に通い始めた頃、「モダンラブ」そして「火の鳥」と、それぞれ四撃以内で快進撃を続けてきて有頂天になった思い出があります。そんな気分を「ペトルーシュカ」で思いっきりたたきのばされてしまいました。発展は不連続的要素を含んでいるのですね。このルートの前を通ると、この記憶が小さなトラウマとなって、いつもよみがえって来ます。
<写真:ピープウォールから東岳を望む>

(7)即神仏(ミイラ)・13c
 
二段岩壁の左側奥に位置するルートで、弓状岩壁下部で休憩していると、すっぱりと切れたカンテラインとして目に入ります。寝っ転がりながらトライ者を眺めるには見栄えの良いロケーションを持ったルートですが、反面ルートの全容がわからないため、上手なクライマーが登っていると、「オレにも楽に登れるんでは」なんて錯覚に陥ってしまうルートでもあります。しかし現実は全く違います。
 取り付くには、下部岩壁を一苦労してのぼらなければなりません。これがまたザイルをかついでいると、かなり手強いアプローチです。でも登り付いた場所は日だまりで、よっぽどの寒波がこない限り、真冬でも寒さを感じさせません。隔絶されている場所で、景色も良く、二人だけの世界に浸るには良い場所かもしれません。下りはビレー点から降りているフィックスを使用し真下へ下降します。
 下部は「かなり手強いみたい12a」をトレースします。コルネが徐々にふくらんでいく部分をルートにとりますが、典型的なコルネ登りとなります。コルネ上部でのっぺらなフェースとなって、左のコルネに出て行くことになります。この左に出るフェース部分がちょっとトリッキーでかなり悩むところです。それを抜けて左上すると、レストポイントです。ここで初めて、ミイラの核心部がその全貌を現します。
 レストポイントからは徐々にホールドが細かくなっていきます。本当に細かい。最初のトライ時には、「この様な小さなホールドで、本当に登るの?」という感じでした。批判を覚悟で表現すれば、「110〜115度の傾斜で、10円玉位の厚さのジブスが張り付いている感じ」と表現できるでしょうか。それも向きも間隔も悪いのです。
 核心部に突入するアプローチは幾つかあります。発見しやすいそれは、レストポイントから続く、浅い溝を伝い、比較的かかりの良い穴を利用して、フェースに突入していくルートでしょう。私の場合は、このルートでまずクリップし、少し下がって軽くレストした後、左に出て正面から攻撃にでました。何故かというと、自分のムーブか固まっていたため。途中でムーブを変更するのには勇気がいりますからね。核心部の正攻法のムーブは次の通りです。
 まず左手アンダーから甘い右手ホールドで、「豆腐の角」カチを左で取ります。ここまではきついがまあまあムーブはこなせるでしょう。このあと、右足がかからないまま、ガストン気味に右手カチをとり、「豆腐ホールド」下に足を乗せかえて、左手「穴ホールド」を取りに行きます。これはキツイ。この穴はたぶん初めてのトライでは、「これで?」と思うはずです。これがキーホールドで、このあと左手をアンダーに持ち替えることになるのです。このときの足の位置と、右手ホールドが信じられないくらい細かい。
 カチと言っていますが、相対的にそう表現しているだけで、本当に細かいのです。
 この後、クリップをとばして、終了点に向いますが、この部分5ないし6手も極端に悪く、ムーブはその人の体型によって変化します。最後は右足をヒールフックしてクリップとなります。終了点のクリップも、非常に悪いのです。つまり、ミイラはレストポイントからは全く気が抜けないムーブが続くということです。確かにムーブはおもしろいが苦しい。おもしろいなんて今言ってますが、トライ当時は「苦しい・痛い・キツイ」が現実でした。何で自分をこんなにまで痛めつけなくてはならないの…と泣きが入りましたよ。
 弓状岩壁下でミイラをトライしているクライマーをみると、上部でバーンとはき出される時があります。これは最後の核心部のクリップをとばして、ランナウトして登っている証拠です。この恐怖感想像してみて下さいね。最初の頃は、「ミイラ取りがミイラになる」状態でしたが、慣れというのは恐ろしいものです。「継続は力」って誰か昔の人はいいましたけど、ほんとなんですね。

<写真:即神仏(ミイラ)核心部で苦痛に耐える>

(6)藍より青く・11c
 二段岩壁と弓状岩壁をつなげる広い岩場にこのルートはあります。冬場でまだノースマウンテンに日が当たらない時間でも、二段岩壁はすでに暖まっていて、このルートも例外ではありません。11cというと簡単そうに思えるでしょうが、ホテル二子の11cと比較は出来ません。ホテル二子は1カ所細かい部分があり、かつ長大ですが、この藍より青くは、細かいホールドをつなげて登っていかなければなりません。13を登っているエキスーパートでさえ、なめてかかると落とされてしまうそのようなルートです。たぶん、ルートの真ん中にぶら下がる突起に目を奪われやさしく感じてしまうのでしょう。もちろんその巨大突起がレストポイントになります。
 このルートのポイントは三カ所あります。第一の核心は出だしです。左手のアンダーで痛みをこらえながら、右手の甘いカチを取りに行きます。このときフットホールドがなくて、力業になってしまうでしょう。そしてクリップです。結構不安定なクリップで怖さを感じます。その後、ちょっとレストして第二の核心にはいります。ここは強引に巨大突起の先端部をとりにいく人が多いようです。私は右のアンダーをとりに行くムーブを採用しています。左手で小さなこぶをつかみ、左右の足を上まで上げ、右足たキョンでアンダーを取りに行くムーブでここを解決しています。ここは慣れないとムーブに苦労するところです。そして第三の核心がその上です。左側のコルネ付近の細かいホールドを拾いながら、やはり右側の小さく発達しているコルネをアンダーで利用しして、クリップに耐えた後、左手を左方向のコルネをピンチでもち、右手デッドでカチを取りに行きます。初めての人はだいたいここでフォールとなるでしょう。終了点のクリップも苦労すますよ。
 私は、二本目のアップをここでしますが、やはりその日の前腕の張り具合をチェックします。調子のいいときはあまり苦労しないで登れますが、疲れているときはパンプします。二子の11台は曲者が多いですから、十分注意してくださいね。

 <写真:「藍より青く」の中間部・巨大突起物をめざす>

(5)SVP・12b
  
「ホテル二子」の右隣にある、長大なルートです。不思議なルート名で、想像力をかき立てられます。設定・初登者の長嶋睦夫氏にこの「SVP」命名の由来を聞いたことがありますが、詳しくは語ってはもらえませんでした。特別な思い入れがあるのだと思います?。「モダンラブ」をRPすると「火の鳥」そしてペトルーシュカ」さらに「おいしいよ〜」へとつなげていく人が多いようです。そのため、この「SVP」はとばされてしまうようです。取り付いている人をあまり見たことはありません。でも、もっと登って欲しいルートです。
 このルートの内容は濃厚です。その理由は5点あります。出だしは傾斜がきつく体の振りが要求されること。最初のレストポイントでの痛みに耐えること。その後のガバでの手順の組み立てと思い切りのよさが必要なこと。クラックガバからのヒールフックの利用方法とコルネまでのムーブの組み立て方(ここは乳酸との闘いになる)に工夫が必要で、そしてコルネ右にあるクリップまで耐えること。そしてなによりも長大であること。上部のコルネ手前でフォールすると墜落距離も長大ですけど…。
 このルートの長さにしてヌンチャク9本(途中のリングボルトを除く)ですから、ボルト間隔が遠く、初めてトライするには恐怖感を抱くのかもしれません。でも慣れてくるとこのランナウトが爽快になります。恐怖と快適の境は「パンプ度」によりますが。

<写真:svpの中間部のレストポイントでの八幡氏>

(4)クレーター直上・12a
 広場は、弓状岩壁とはまた違った雰囲気があります。「暖かい・明るい」というイメージでしょう。シーズンともなると、ここは敷物が広げられ、「お座敷」になります。トライする方もまたお座敷のご主人も、互いに気を遣いながら譲り合いをしながら、トライ者は目的ルートの一歩を踏み出すという、人情あふれた光景が展開されます。
 ボルト3本くらいの、どちらかというハイボルダー的な岩場ですが、この広場のルートは手強いものばかりです。手強いというのは筋力だけでなく、頭脳も必要だというように解釈して下さい。ムーブの組立て方の学習になります。
 このクレーター直上、名前の通り穴ぼこだらけ。上手く命名するものですね。隕石がぶつかった時に生まれるクレータに、本当にそっくり。ムーブを探っていると、月の表面を観察しているような気持ちになります。それで、どのクレーターを使って良いのか、本当に悩みます。どれでも利用出来るように見えてしまうものばかり。
 下部は、クレータ11cと同じ。問題はそこからです。無数のクレーター原野に入り込みます、下からはどれも利用可能ですが、体を引き上げると効きがあまくなる。体を右に振ったり左に振ったり、軌道修正が余儀なくされます。そして傾斜の甘い部分に突入。よし「もらい」と思った瞬間…。そうなんです。核心部は最後の最後に待っています。
 「クレ直」は、あまりにも「クレーター」に目が奪われてしまうのです。もちろん、このクレーター処理では楽しいクライミングを味わうことが出来ますが、それを抜けたところに苦しみが待っていたのです。最後は本当に「苦しい」ですよ。このルートをオンサイト出来れば相当な実力の持ち主であることは間違いありませんね。ちなみに私、正直に告白します。「美しき流れ」を登った後のトライで、このルート15便ぐらいかかっています。
<写真:「クレーター直上」核心部に突入する>

(3)ホテル二子・11c
 弓状岩壁で中央にあるルートで、下部が凹状で、上部に大きなホールを持つ、目立ったルートです。見るからに登攀意欲をかき立てられます。弓状岩壁の開拓当時、最初に着目された場所であることもうなずけます。今でこそ、アップやダウンに利用されていますが、開拓者の長嶋氏には敬服します。さぞやボルト打ちには苦労したのではないかと思います。
 このルートは、二子弓状で本格的に12aをめざす前に、トライする人が多いようです。下から見ると、大きなホールドがあり、「登りやすそう」と感じますが、これが目の錯覚というもの。傾斜は強く、ホールドは甘いのです。
 イギリスからきたクライマーが「これは私にはとても難しい」と英語で言っていました?!。核心部は、最初のレストポイント(常連さんはこのレストポイントを「民宿」と呼んでいます)から上部ののっぺりとしたフェース。左のちょっとしたコルネを利用して抜けていきます。直上する人も時たま見られますが、どのように抜けるかいつも楽しみです。だって、私は直上のムーブは出来ませんから。
 核心部はともかく、この「民宿」までいかに力を使わずにたどり着けるかが、鍵ではないかなと思っています。意外と、見た目とつかんだホールドの感じが違うのです。しっかりと確実なホールドを拾っていかないと、民宿にたどりつけませんからね。
フェースの上には「ホテル」がまってます。気の向くまま景色をながめてくださいな。どんなホテルかですって?それはたどり着いてからのお楽しみということで。
<写真:「ホテル二子」のレストポイント「民宿」でのレスト>

(2)ノースマウンテン・12a                    
 二子山の岩場を登り切るには、持久力が絶対必要といえます。モダンラブは、ジムで鍛え上げた人には比較的登りやすいルートかもしれません。ところがノースマウンテンはそうはいかないはずです。二子を代表するといっても良い持久入門ルートですから。
 私もこのルートには泣きました。引きつけて登ろうとして、出だしで力尽きぶら下がったことが何度あったか。ホールドがタテ系のために、ダイアゴナルを多用し足を振り振りしながら、登っていかなければならないと気づいたときはすでに10便近くになっていたのを思い出します。
 結構長いルートで。この長さは二子の高グレードには共通します。常連はこのルートをアップとして利用してますが、アップとして「さらり」と登り切れたならば、任侠道12d等への高グレードへの道はぐっと近くなると思います。
 途中3カ所、膝を利用したレストポイントがあります。探し見つけ出してください。中間部と最上部に細かい箇所があります。私はアップでこの箇所で前腕と指の状態を確認して、目標ルートに向かうことにしています。
<写真左:出だしから悪魔のつめを見る>
<写真右:4手目のアンダーを取りに行く>

(1)モダンラブ・12a
 モダンラブのグレードは12a。二子のグレードは辛いと言われます。でも、このモダンラブはグレーには妥当でしょう。ジムで12aを登り込んで、他の岩場で12aを数本登り、初めての二子でトライするならば、このルートをお勧めします。
 私が二子に初めて入ったときは、聖人岩での三部作、テンは見ていた11b・黒岩讃歌11b・モモンガキット11bをきちんと登り切ったあとでした。ある程度の傾斜と垂壁での細かいホールドに慣れて、自信をつけて二子に乗り込んだのです。
 もちろん祠エリアで、慣らし運転をして、弓状に入りましたが。
 ホテル二子11cを苦労してRPしたあとに、弓状エリアで本格的に12aに最初にとりついたのが、このモダンラブでした。細かい出だしと、最初のレストポイント、どのホールドを使って良いかわからない穴ぼこだらけのフェースを越えて、中間部のレストポイントへ。そして最後のコルネから終了点へ。4便でRP出来たときは嬉しくてたまりませんでした。このルートは常連がアップやダウンで取り付きます。そのムーブを観察させてもらいました。オンサイトトライ?とんでもない。そんな実力なんてありませんでしたから、ともかくも弓状エリアで12aが登りたくてたまらなかった。そのような気持ちだった事は事実です。
 このとき、常連さんの宮崎氏がヌンチャクをかけてくれて、その上模範演技をしてくれました。岩場で出会う人たちは結構世話焼きなんですよね。
 ただし、このルートこのルートには限定があります。中断の棚沿いにあがっていってはいけない事。足を使って棚沿いに歩けてしまうのです。

<写真右:モダンラブ・最初のレストポイント>
 

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