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1、なぜ、この法案ができたか
2、どこが問題なのか
3、法案が通ったらどうなるか 始まるメディア規制
4、パソコンユーザーはどうなるか
5、真の敵は誰か
 ぜ、この法案ができたのか
 なぜこの法案(正確には個人情報の保護に関する法律案)ができたかについて簡単に説明すると、

 まず、1999年夏、第145国会で、改正住民基本台帳法(改正住基法)が成立したのが要因となっている。

 この改正住基法、すべての国内居住者に11ケタ(当初は10ケタ)の住民票コードを割り当てて、市町村が管理する住民基本台帳(住民票の原簿)とともにデータベース化し、都道府県のコンピューターと結んだネットワークを作ろうというもの。

 つまり、国が国民をコードナンバーで一元的に管理する「国民総背番号制」を目指した制度といえる。

 しかし、その個人情報が外部に流出して、私企業のマーケティングなどに利用されたら大変なことになる(※1)。しかも、国家が国民のプライバシー(資産、負債、病歴、家族構成、趣味嗜好etc)を握っているわけだから、国家による国民管理が強まる恐れが強い。もし、その個人情報が間違っていたら、大きな不利益を被ることになる。現に、自治体や企業が間違い請求を出す例など掃いて捨てるほどある。

 当時の自・自・公連立政権で公明党が、この改正住基法に賛成するのと引き換えに国民のプライバシー保護のための法律の制定を求めた。それだけ、住基法の住民への毒が強いと判断されたのだ。

 こうして、政府の高度通信社会推進本部に個人情報保護検討部会が設置された。しかし、反対論は根強く、連立与党は、委員会での採決を省略して本会議での採決に持ち込み、強引に可決した。

 と、成立には多くの疑問点があった。しかし、まあ、ここまでは1万歩譲って、よしとしよう。

 しかし、この後が問題だ。本来の目的である「個人情報を行政が過度に収集しないこと」「民間に個人情報が漏れないこと」といった立法趣旨がまったく反映されないどころか、個人情報の取り扱いにもっとも注意しなければならない行政権力を、法案の対象外としたのだ。(※2)

 それと同時に、法案の中身をディア規制、個人情報強奪という、露骨な言論統制に方向転換させたのだ。

 こうして出来あがったのが「個人情報保護法案」なのだ。
※1.時々、会社に「あずき相場で儲けませんかとか、今ならマンション経営投資がおトクですよ」などという勧誘電話がかかってくる。いったいどこで調べたのか、卒業高校の名前まで持ち出して、相手を安心させようとする輩もいる。これなど、卒業名簿をもとに名簿業者が作ったデータベースが各マーケティング企業に流れているのだろう。個人のプライバシーに関する情報が当人の知らない間に流れているわけで、本来はこういった業者に網をかけるのが目的の一つとされたはずだ。








※2.つまり、「国や自治体は国民の個人情報に誤りがあったとき、訂正したり本人に通知する義務はない」というわけ。一番、情報をもってるところに法律の規制が及ばないのであれば、この法律はまったく意味がないと思いませんか?
「個人情報保護法」義務規定
1、個人情報を扱う事業者は利用目的を明確にし、本人にも通知しなければいけない。
2、第三者への提供が利用目的を超え、個人の権利利益を侵害するおそれのある時は本人の同意を得る。
3、第三者から情報を取得することが必要かつ合理的な場合を除き、原則として本人から同意を得る。
4、本人から情報の開示を求められた時は開示し、訂正を求められた場合は必要な訂正を行う。

 以上の規制に違反した場合、6カ月以下の懲役、あるいは30万円以下の罰金。
法案のどこが問題なのか
 「個人情報」が集中するのはどこなのかといえば、国や行政を別にすれば、民間の信用調査会社、銀行、サラ金、通販業者などだろう。
 
  しかし、この法案は、こうした団体だけではなく、不特定多数の人々を相手に取材し、報道するメディアやフリーライター、パソコンにホームページを開いたり、メールマガジンを発信する個人(※3)も「個人情報取扱事業者」とみなし、規制の対象とした。

 しかも例外規定があって、「国の機関」「地方公共団体」「特殊法人」などは含まれない。警官が情報を横流ししてもこの法律の規制対象にはならないのだ

 さらに、「宗教団体」の宗教活動、「政治団体」の政治活動、そして、メディアの場合は、テレビ、新聞、通信社の報道目的、大学の研究機関は対象外とされた。しかし、それ以外の雑誌社、フリーライター、作家などは取り締まりの対象に入る。


 このことから2つの大きな問題が予想される。

 一つは、メディア規制の問題。一つは個人情報を権力が恣意的に監視する超管理国家が生まれるということ。
 
※3、「個人情報取扱者」とは、「1000人程度以上の個人情報(住所、氏名、その他個人を特定できるデータベース)を検索可能なコンピューターなどに保存、閲覧できる者」を指す。しかし、インターネット社会において、パソコン1台あれば、1000人はおろか、瞬時に無数の個人情報を手に入れることができるわけで、単にホームページ開設者や、メルマガ発信者だけでなく、パソコン保有者すべてが「個人情報取り扱い事業者」とみなされるのは自明のこと。法案はこの点について、意図的にボカしているが、法律が発動すれば必ず適用は拡大される。
メディア規制・報道・表現の自由の封殺
この法案が通ったとしたらどうなるか。

 フリージャーナリストだった立花隆氏がかつて週刊誌で田中角栄金脈問題をリポートして田中内閣退陣という劇的な構造汚職事件に発展した。

 しかし、この「個人情報保護法案」が通れば、そのような政界汚職、公人スキャンダルは表に出ることはなくなる。(※4)
 
 例えば、A代議士の汚職の噂を内部告発に基づいてフリー記者や雑誌記者が取材するとしよう。

 この手の事件の場合、周囲の取材を潜行し、証言を積み上げていくのが普通だ。しかし、記者は「個人情報取り扱い事業者」である。取材対象者に「あなたは何の目的でA代議士に関する取材をしているのか」と説明を求められる。A代議士が話を聞きつけて、「私の個人情報を見せてもらおう。だれから取材したかも明示してくれ。それが正しいのかどうか、本人が関与できるんだから」と言ってくる。無論、内部告発者の氏名公表を求められる。拒めば「個人情報保護法」違反で、捜査される。こうして政治家の汚職事件取材はツブされる。記者は6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金刑。

 こんなことが続けば、取材が及び腰になるのは必然だ。裁判を抱えているうちにライターも雑誌社も疲弊してくる。雑誌ジャーナリズムは汚職、環境、公害といった社会問題を取材することが不可能になる。

 大新聞があるじゃないか。規制の対象外じゃないの? 果たしてそうか。
 前に述べた田中金脈発覚の時、大新聞記者たちはなんと言ったか。「そんなことは前から知ってたよ」
 
 知っていても書けないのが大新聞。巨象のアキレス腱は宗教団体、政治団体の不買運動に弱いこと。その体質は致命的なものであり、雑誌、週刊誌のゲリラ活動が新聞の弱点をカバーしてきたのだ。

 雑誌も新聞も政治家のスキャンダルを書けない国。まるで全体主義国家ではないか。
※4、森前首相の買春疑惑、閣僚の愛人問題が取りざたされたのが、この保護法案作成の真っ最中。「なんとか週刊誌や雑誌取り締まる法律を作れないものか」との下心が、この法案に見え隠れするではないか。
個人情報の「強奪」ってどういう意味?
  前に述べたように、一般の我々も「個人情報取り扱い事業者」として当局、主務大臣の監視・規制を受けることになる。

 例えば、私が環境問題に興味があって、どこかの湾の埋め立てに反対しているとする。ネットを通じて同じ意見の人と情報交換し、メーリングリストに登録したとしよう。

 ある日、当局から「おたくのパソコンから個人情報が漏れているおそれがあります。個人情報取り扱い者として、その個人情報が正しいかどうか確認する必要がありますから、すべての情報の開示をお願いします」と通達がくる。拒否すれば個人情報保護法違反。こうして、ハードディスクの中身は当局の管理するところとなる。

 交友関係、通信記録、ネットへのアクセス記録、何に興味があり、誰と交流しているか一目瞭然。政府に批判的なグループ・個人はイモづる式に情報を吸い上げられる。これは何も、環境や社会問題だけじゃなく、おたく系の趣味グループだって狙い撃ちされるおそれがある。

 こうして、公権力にのみ個人情報は収奪、蓄積されていく。個人の活動や仕事を妨害させるには、病歴、家族構成、親族などあらゆる個人データを駆使して仕掛ければいいだけ。

 まるでオーウエルの「1984」の世界ではないか。国民一人ひとりが国家に監視される息の詰まるような世界。

 メディアの報道・表現の自由を奪うだけでなく、個人の情報を収奪し、巨大な管理社会を作る。それがこの法案の真の狙いなのだ。
敵は誰か
 今、この法案が浮上した背景には、国民の間に漂う、「マスコミによる行き過ぎたプライバシー報道」への嫌悪感があるのは間違いない。

 芸能人だろうが政治家だろうが、しょーもないことを暴き立てる三流マスコミは政府の規制を受ければいいんだ、テレビも青少年に害毒をタレ流す下品な番組ばかり、あんな番組取り締まれないのか、というムード。しかし、「行き過ぎた報道」「下品な番組」とこの個人情報保護法案はまったくリンクしない。

 それが本当に行き過ぎたものなら自然に淘汰される。「フォーカス」廃刊にみるように、雑誌だって淘汰の歴史がある。下品な番組、青少年に害悪を与えるものなら、政治権力に委ねるのでなく、自らの手で正すべきだろう。なにもかも水戸黄門の印籠にすがる日本人の体質こそ問題にされるべきだと思う。

 今我々が享受する「自由」は先人の涙とおびただしい流血から手にしたものだ。敵を間違えてはいけない。


 以上、ごく簡単に「個人情報保護法案」の問題点を述べたが、表現が不十分でわかりにくい部分があるかもしれない。

 とくに、この法律案は専門家が読んでも疑問点がありすぎるという。つまり、法案に主務大臣(情報の種類によっていろんな担当があるらしい)のさじ加減ひとつでどうにでも解釈できる部分がかなりあるというのだ。雑な法案というよりは、意図的に雑にしているようだ。それだけで自らの正体を暴露しているのだと私は思う。

 ここまで読んでくれた方、これはほかでもない、あなた自身の問題でもあるということです。この法案の行方を注意深く見守ってほしいと切に願います。

 子供や孫の世代に禍根を残さないために。2001.09.05記す
※もしこの個人情報保護法案が成立したら、このHPはどうなるか?

 この項が政府の方針に批判的ということで、プロバイダーを通じて勧告されることになるかもしれない。理由はいくらでもつけられる。「HPの中でふれている個人から、正しい、最新の個人情報かどうか確かめたいと告発があったので、このサイトの情報および、ハードディスクの情報を証拠品として接収します」ってね。

 ヤな世の中。
※補足
 誤解してほしくないのは、きちんとした「個人情報保護法」の制定は必要だといことであって、今上程されている法案はまやかしの「個人情報保護」だということで反対しているのです。
※2003年5月23日、民主党の裏切りによってついに法案は成立してしまった。もはや法の運用を注意深く監視するしかこの悪法に対抗する国民の術はない(5.26記)