LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - part time job - |
「ねえ竜くん、どうしてそんなにバイトするの?」
今日だって、あんなに犬が苦手なのに。
「は? 金が欲しいからに決まってんだろが」
なに当たり前のことを、と竜くんは怪訝な顔をした。
「欲しいものがあるの?」
学費も生活費も竜くんの両親はきちんと振り込んでくれていて、 竜くんも不本意ながら『まあ親の義務だろ』と割り切っているようだった。
バイクは買い換え、 高い服を買うわけでもなければ、何にお金をかけているというわけでもない。
『俺は強欲!』と見せかけて、その実、物欲というものがほとんど無いのだ。
「なにかバイクの他に…」
「伊集院には関係ない」
不機嫌に言う。
見返してくる目は全く他人の侵入をゆるさない。
強い拒絶。
「帰ろーぜ」
話は終わったとばかりに竜くんはメットを被る。
近付いたと思っても、こうして離される。
結局は受け入れられていないと確認させられる。
竜くんは拒否している自覚はないのだろう。
ただ本当に関係ないと思ったから、そう言ったまでなのだ。
無意識に出される、壁。
「あ、伊集院、これバイト代」
俯く私に、竜くんはメットと封筒を差し出した。
「え…でも、今日のは勝負の、」
「ちゃんとあいつから二人分 出てんだよ」
ん、と更に手を突き出す。
でもそれでは賭けの代償にはならない。
「いーんだよ、伊集院がいなかったら引き受けてもなかったんだから」
そしたら収入0だろ、と睨み付ける。
「でも」
「だーー! 俺は今日なんもやってねぇし、 それで金が手に入ったことになんだから十分だろーが」
ヘルメットに封筒を入れて、そのままガボッと私の頭に被せた。
「ほれ、帰るぞ」
座席に跨って、竜くんが振り返る。
「…や。納得いきません」
「あーーーーもう!!」
竜くんが面倒臭そうに唸り声を上げた。
「わかった、じゃあ『 ヤマ 』のジャンボパフェ!」
「え?」
「おごれ! それでチャラ!」
そんで いいだろ、と竜くんは乱暴な口調と裏腹に優しく私の手を引いた。
その温かさに、涙が出そうになる。
きっと、竜くんとの距離は、この位。
やっと手に触れた程度。
でも、
近づけたと思っていい?
拒絶されてないと思ってもいいよね?
竜くんから、手を差し伸べてくれたように。
「……それ……デートのお誘い?」
すん、と鼻を鳴らして、涙声を誤魔化すように囁いた。
「わかった。 置いて帰ってやる」
ブォン、と脅すように竜くんは噴かした。
「わ、帰ります帰ります!」
慌てて後ろに乗る。
「ちゃんと掴まったか?」
「はい!」
「うし」
帰るか!
そう言って、竜くんはバイクを発進させた。
…なに笑ってんだよ…
だってデートだもん
まだ言ってんの
竜くんから初のお誘いだもん♪
あー……まぁいいか
何にします?
チョコ、伊集院は?
私フルーツパフェ
お、一口くれ
じゃあ竜くんも
えーヤダ
けち!
はい、あーーん
……やっぱ いらねぇ
ええ!?
いや、自分で取るからさ
だめ。あーん
やっぱ いらねぇ
えーー
えーじゃねぇよ…