どんなことより、何より、
隣にいることを選んで
お願い、 離れないで
LOVELY、 LOVELY、 HAPPY !
体育祭 編
ぽつぽつと雨が降っている。
「だぁー!もーやってらんねぇ!!」
学校の廊下を歩く私の耳に、竜くんの唸り声が聞こえてきた。
「どうしたんですか?」
私が教室に入って声を掛けると、竜くんではない先輩方が集まってきた。
「あ、応援の練習ね?」
「はい。あの、竜くんは…」
「いいの、いいの、アイツは放っておいて」
「でも…」
竜くんに目を向けると、机に突っ伏している。
「アリー先生から授業中 集中攻撃 受けてるの」
「え…」
アリーは国に帰らずに この学校で臨時英語教師になった。
そのつもりで日本に来ていたらしい。
「真琴ちゃんが恋人なんだからライバルがいて当然だからね!」
「そうそう。今まで好き好き言ってもらって、少しは苦労すればいいの!」
「他人事だと思って…」
「他人事だもーん」
坂井先輩は笑った。
「くそお」
竜くんはブツブツ言いながら、プリントと睨めっこをしている。
『 すぐ判ったよ 』
アリーはそう言った。
『 あいつがマコトの好きな奴だなって 』
『 でも… 』
『 認めたくなかったんだ 』
だから、他の可能性のある青年に声を掛けた。
でも やはり違っていて。
『 本当は、一番に目が行った 』
アリーは優しく笑った。
『 ごめんなさい… 』
『 なんでマコトが謝るのさ? なにも悪いことはないだろう? 』
アリーは竜くんがもう来るなと言ったとき、屋敷まで黙って連れ帰ってくれた。
一人にしてほしいと言うと その通りにしてくれた。
ずっと、怯えながら見舞いに行っていた。
竜くんは命を落としかけたのだし、伊集院に関わるのは嫌だと言われるのではないかと
恐れていた。
自分に守れるだけの力がなければ、近付いては いけなかったんだ、と思った。
竜くんが居なくなったら、私は駄目になる。
そう自覚したけれど、でも この世界から消えてしまうか、傍に居ないだけなのか、
それは大きく意味が違う。
離れなくてはいけない、と思った。
人の気配に鋭い竜くんは私の変化に すぐ気がついて、
怪訝そうに見ていた。
だから、出て行けと言われたとき、私の卑しい心が見られたと恥ずかしかった。
離れなくてはいけないのに、自分のエゴで竜くんの傍にいる。
もう少し、もう少しだけ、と誤魔化していた。
一緒に居れば居るほど、離れられなくなるくせに。
竜くんに怪我をさせておきながら。
「終わったぁ!」
ふははザマを見ろ!と竜くんはプリントを掴んで立ち上がった。
「あ、伊集院、練習 頑張れよ」
ポンと私の頭に手を乗せると、職員室に行くと言って教室を出ていった。
また身長が伸びたのかな。
竜くんの後姿を見ながらそんなことを思う。
「真琴ちゃん、真っ赤…」
「かわいい~~!!」
高岡先輩がギュウと抱きしめてくる。
学級委員長で、副団長でもある高岡先輩は綺麗な人だ。
中身は姐さんなので、どちらかというと女子に人気があるのだけれど。
「あいつ…どこか変わった?」
高岡先輩が訊く。
「なんか変だよね」
「えっと…」
私が言い淀むと、坂井先輩が笑う。
「死に掛けて、少しは殊勝になったんじゃな~い?」
「そうかねえ?」
うーん…そうじゃなくて…。
「竜が優しくなったぁ?」
兄さまはストレッチをしながら素っ頓狂な声を上げた。
「…と、思うんだけど…」
「あはは、そりゃ真琴に だけだろ?」
「……そう…、かな?」
「まあ、あれだ。
前は『好きになるか!』って態度だったけど、今は『好きにならせてみやがれ!』になった、と」
どっちにしたって偉そうだよな、と兄さまは笑った。
「『出来るもんなら やってみろ~』って感じ」
それは判るんだけど…
「でも それだけじゃなくて…」
以前は竜くんから近付いてくるということはなかった。
でも今は、学校で会えば話し掛けてくれるし、笑ってくれる。
「お前…そんなことで喜んでんの?」
「だって…」
急にそんな風になられても困る~…
「だはは! なに、その度に赤くなってんの? バッカで~え」
ぐり、と体を捻って兄さまは大笑いした。
「馬鹿は兄さま!!」
ごきっ。
「いてーー!!」
知らない!
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