「竜也、実は さっき…」
竜くんと一緒に出てきた由希様が何か思い出したのか、
声を顰めて竜くんに話し掛けた。
「見間違いかと思ったんだけど、来てても変じゃないし…」
「 り ゅ う ~ ! ! 」
「げ…っ!」
声のした方を振り返ると、髪に大きなリボンをした、十歳にもならないだろう女の子が
駆け寄ってくる。
「りゅう!」
がばっとジャンプして竜くんに抱きついた。
「な…!」
「お前、なんでココに…っ」
竜くんも私に負けないくらい驚いている。
竜くんは女の子をそのまま抱きとめて、彼女が落ちないように抱え直した。
…うそ、竜くんが…!?
「りゅう、あいたかったv」
チュっと竜くんの頬にキスをする。
……ちょっと!!!
「あ、ゆき。いたの?」
竜くんに抱っこされた状態の女の子は、いま気付いたかのように言った。
「久し振り」
にっこりと由希様が微笑み、女の子はその笑顔をフン、と無視した。
淡いクリーム色のドレスを着たその子は、お人形のように可愛らしく、
小さな鼻に くりっとした目、肩までの髪を横だけ編み込み、後ろのリボンで留めている。
「…と待てよ、お前がここに居るってことは、あのオッサンも…」
「パパ? きてるよ」
「げ!」
竜くんはそう呻くとキョロキョロと辺りを見渡した。
「会いたくねぇ~…」
「なんで? りゅう との けっこん、 ダメって いうから? 」
「!!? 」
な、なに? なにか 今……!? 聞き違いよね!!?
「ばーか、ちげぇよ」
竜くんはそう言って、ゆっくり優しく女の子を降ろした。
…………なんか……すごい、ショック、 な ん で す 、け ど……
学校でも竜くんが女の子に優しくしているところなんて見たことがない気がする。
「なんだ、竜、お前 ロリコン だったのか」
ちょ、ちょっと兄さま!!
核心をつかないで!!!
「アホか、お前。そんなワケないだろ」
竜くんはシラ~っとした目で兄さまを見て、否定した。
「コイツが勝手に言ってるだけ」
「ちがうもん! けっこんするもん!!」
「しねぇよ」
「竜也も困ってるから」
「やだ、ゆき キライっ」
彼女はそう言って、竜くんの後ろからべーっと舌を出した。
「ってゆーか、お前 離れろ。 俺はオッサンに会いたかねぇんだよ」
「やだーーー!!」
「ったく」
竜くんは怒ったように、でも、柔らかく笑って、女の子の頭をポンポンと叩いた。
女の子は、えへへ、と竜くんを見上げる。
……見たこともない顔。
ほしいと思っていた、 やさしい声。 目。
すべては、他の女の子に向けられていた。
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