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LOVELY、LOVELY、HAPPY !

  パーティ編




よく御似合いです、という言葉に、竜くんは口を歪めて鏡の中の姿を確認した。
竜くんは自分の外見をあまりよく思っていない。
更に言ってしまえば、私の姿にも、だ。
誰のことであるかは わからないが、私から思い出す人物が居るらしい。 私は 当然 その未知の人間を憎んだ。 それでも最近は思い出すことが減ったのか、私が居ても竜くんは警戒を解いている。
ただ それは、彼が嫌がる行動を私が極力しないようにしているからだ。

祖父の誕生日パーティに竜くんを出席させると決めたのは祖父自身だった。
そのための衣装を私に決めさせたのも祖父だ。
パーティは面白いことになる、と祖父は言ったが、具体的なことは知らされなかった。

竜くんは祖父の手前 渋々と用意された服に着替え、 そのサイズが自分の体に ぴたりと合ったことに疑問符を浮かべた。 私が知らないとでも思っていたのだろうか。 もしかしてこの様子では、竜くん自身は自分のサイズを知らないのかもしれない。 以前 買い物について行ったとき、気に入ったものを適当に合わせてみて買っていた 姿を思い出した。
祖父は私に あとは任せると言い残して、仕事に戻っていった。

今回のパーティは、私が16歳の誕生日でやるべきだったことも含まれている。
婚約発表をするはずだった私は、婚約者が「りゅうくん」ではないことを知ってしまった。
彼でないのなら、用はない。
誕生パーティという名の「御披露目会」を開く気も、当然なかった。
祖父も両親も許してくれ、私は竜くんを探した。
自分の中心に居座り続けている人が、これからも心を占めるのか私は知らなくてはならなかった。

シャツだけを羽織った竜くんは、鏡を見て、「似合わねぇー」と笑い声を上げた。
渡された上着を無造作に着る。 袖を通すために軽く腕が上げられた。
その仕草に、居合わせた周囲が目を留め、そして見惚れたことを、私は簡単に感じ取ることが出来た。
竜くんは知らないのだろう。
自分の外見が良くないと信じているくらいだ。
武道で慣らされた しなやかな彼の動きは、人目を惹く色気を発する。 鏡で その誘起する空気まで見ることは不可能なのだろう。 竜くんは自分がどんなに人を惹きつけるのかを知らなかった。

「嫌いじゃないけど、好きでもない」
と、竜くんは言った。

「俺に好きな奴が出来た場合のことも頭に入れとけよ」
喉が詰まったように息が吸えなくなり、私は言葉も出ない。
「いい加減、諦めるか?」
からかうような声音に、やっと首が動き、今度はそれを止まらせまいと振り続けた。 喉から音を出してしまったら、涙が下睫では受け止めきれずに溢れていくと判っていたが、 口にしなくてはいけないと思った。
「いいえ!」
試されている、と、知っていた。 どこまですれば私が離れて行くのか、秤に掛けている。
信用していないからだ。

彼は なんて酷虐で、そして優しいんだろう。

私を傷付け、私の逃げ道を残している。やめてもいいんだぞ、と言っている。
早く諦めろ、と。

ごめんね、本当は、逃げられないのは竜くんの方なの。
解放してあげられない、ごめんね。

そんな私を竜くんは不思議そうに見た。

戸惑いを隠したその姿に、私は彼を抱きしめたいと思い、私の腕は勝手に伸びた。
女の色気を滲ませなければ、竜くんは避けない。
以前「気持ちが悪い」と竜くんが吐き捨てたのを、覚えていた。
彼は好意を向けられるのが嫌いだ。
一見 自分自身を好きでいるように思える竜くんは、実際には自分を嫌悪していた。
その暗くて重い、本人でさえ知らないであろう闇に気付いているのは、勿論 私だけではなかった。
藤崎兄弟、私の家族。そして、中学生だった竜くんを引きずり上げたであろう、バイト先のマスター。

私の肩越しに竜くんが鏡を見遣ったことを感じて、ますます私は腕に力をいれた。






竜 パーティ編4







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