……ほんの数秒、目を離しただけだったのに。
竜くんは一通りの挨拶を終えると、ひたすら食べ始めた。
「キャビアって食ったことなかったんだよな〜」
今度こそ本当に小学生のように目を輝かせて嬉しそうだ。
「伊集院、あれ何?」
「あれは…」
なんだか可愛い。
私がそう思っているのが伝わったんだろう、竜くんは緩んだ顔を元に戻そうとしたが、
デザートの山を見て、さっきよりも嬉しそうな顔になった。
「甘いもの好きですよね〜」
「だって美味いじゃん」
竜くんらしい、理由のようで理由になっていない答えに私は笑った。
「………!」
突然、ビリッ!と音がしたかのように、竜くんの緊張が高まった。
ふと、目を離した隙だった。
友人の花と話をしていた。
慌てて竜くんを見ると、青褪めて身体を強張らせている。
何を見たのかは、既に竜くんが目を逸らしてしまっていたので判らなかった。
「竜くん?」
「触んな!」
伸ばした手を、汚いもののように思い切り払われた。
…え?
嫌 悪 に 満 ち た 、 眼 。
な 、 に ?
意味が わからない。
どうして?
どうして突然?
自分の体温が下がっていくのが感じられた。
払われた手が震えている。
竜くんは もう私を見ていない。
視界に入れるのも嫌だというように、顔を背けられた。
「…と、わりぃ、俺トイレ」
追い掛けることも出来ずに、後ろを見送った。
なに?
なにが起こったの?
「真琴?」
花が心配そうに声を掛けてきて、自分の顔色も竜くんと変わらず青いのだろうと思ったが、
冷えた身体はどうしようもない。ガタガタと震える。
ここ暫く、いや、疎まれていた以前だって、あんな目で睨まれたりはしなかった。
「悪い、真琴ちゃん」
少し離れた位置に居た由希様が、いつの間にか後ろに来ていて、
固まったように握り締めていた手を軽く叩いた。
柔らかく指を解かされて、ゆっくりと体温が戻ったような気がした。
由希様は もう一度ゴメンと謝り、そのまま竜くんを追って行った。
何を見たの?
『 誰 』 を 見 た の ?
竜 く ん。
竜 く ん。
私 は そ の 人 じ ゃ な い
私 ヲ 見 テ 。
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