竜くんが、いくらか吹っ切れた様子でトイレから出てきた。
前髪が濡れているところを見ると、顔を洗ったらしい。
その後ろを、由希様が歩いてくる。
「竜くん? いったい何が・・・」
「アンタには関係ない」
変わらず私を見ないまま、竜くんが言った。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
・・・・・・私の堪忍袋の緒も、切れそうよ?
「…竜くんのバーーーカ 」
「ばか」
「ばかばかばか」
「ばかばかばかばかばかばかばかばか…」
「…って、そんな小学生みたいな」
思わず突っ込みを入れて、竜くんは目を丸くして呆れている。
ふん、呆れてるのは こっちだもん。
勝手に私を他の人間と同じに見て。
心臓が止まるかと思った。
「ばかばかばかばかばか…」
「 だー! もう!! 」
「 …… 悪かったよ ! ! 」
「わかれば いーんです」
私がそう言うと、ちぇーっと竜くんは不貞腐れた。
もう あんな眼で見ないで
温度のない眼
私を映さない眼
その後 竜くんは じーーっと私を見ていたが、何やら納得したのか、柔らかく笑って、いつもの
竜くんになった。
無理のない、いつもの竜くん。 良かった。
貴方が笑って、 私は涙が出そうになる。
貴方が好きで、ときどき、気持ちに押しつぶされそうになる。
……振り出しに なんて、 戻させないからね?
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