第4章 探索の旅
アウラとナーザはベラの都ハビタルに向かう街道を北上していた。
ナーザの背中の大きなリュートが、馬の動きにあわせてゆらゆらと揺れている。それを見ながらアウラは気が気ではなかった。こんなスピードでは王女の所に行き着くのはいつになるのだろう? 彼女は前を行くナーザの背中をいらいらとした目で見つめる。だがナーザは今以上にペースを上げようとしない。
そのとき急にナーザが言った。
「ディーネ! 私の背中だけ見ていてもだめって言ったでしょ?」
ナーザは振り返りもしなかったが、アウラがそんな風に落ち着きを失っていることを見透かしているようだった。
「でもナーザ……いや、ドニカ」
「人のいるところで間違えないでよ?」
アウラは口ごもった。今の二人は旅の楽師とその見習い弟子という立場なのだ。そして当然“ナーザ”と“アウラ”という名前では何かと支障があるためこんな偽名を使っている。
「はい……」
アウラは今までこんな隠密活動などをしたことはなかった。普段とは全く違う踊り子の服装をして名前まで偽るのは何かひどく違和感があった。だがナーザはこういうことには慣れているのか、全くもって堂々としたものだ。
アウラはまた仕方なく言われたとおり、辺りに何か不自然な物がないか見回した。だが大体何をもって不自然というのだろう? アウラはいまだにそこがよく分からなかった。そのため結局すぐに頭の中は王女の安否で一杯になってしまう。
すると急にナーザが止まって馬から下りた。ナーザは道ばたに行って何か拾い上げた。
「どうしたの?」
「関係ないみたいね。これはどこかの隊商の物だわ」
ナーザは拾った黒い布きれを捨てる。
アウラは恥ずかしくなった。こういうことにはアウラは全然役に立たない。
あの朝、王やフィン達に見送られて旅立った後、二人は全速力で山岳地帯を抜けた。フォレスからベラに向かう街道の三分の一はエストラテ川沿いの峡谷を下る道だ。そこを下る際にはナーザも可能な限り全速力で先を急いだ。だが彼女たちが峡谷を抜けてベラ北部の森林地帯に来るとナーザの歩みはめっきり遅くなった。アウラは訳が分からず先を急ごうとしたのだが、ナーザはそれを押しとどめて言ったのだ。
『あなた、エルミーラ様がベラのどこに行ったか知っているの?』
そう問われてアウラは返す言葉がなかった。王女がいるのはベラ国内のどこかだとしか分からない。だとしたら彼女たちは相手の残した手がかりを頼りに一歩一歩行かなければいけない。結果的にその方が速くたどりつけるのだと言われてアウラは何とか納得した。
だがそれでもこんなペースで進んでいると心の中は焦燥で一杯になる。この瞬間にも王女はひどい目に会っているかもしれないのだ。
もちろんナーザも焦っていない訳ではなかった。その証拠に二人は旅立ってからほとんど道中宿には泊まっていないのだ。
こういう街道には途中あちこちに道中宿がある。普通の旅ならばそういう宿づたいに移動するのが常識だ。だが宿という物はいつもそう都合のいい場所にあるわけではない。夜明けと共に動き出し日暮れぎりぎりまで行動すれば、当然ながらちょうどそこに宿があることは滅多にないわけだ。
彼女たちは天候が崩れて仕方のなかった一回を除いてずっと野宿を繰り返してきた。もちろんアウラはそういうことには慣れていたので、それ自体は全然気にはならなかったのだが。
そうして馬を進めているとやがて次の道中宿が見えてきた。ナーザが振り返る。アウラはこくっとうなずいた。
二人が宿に着くと、中から主人が出てきた。人の良さそうな顔をしている。
「いらっしゃい」
「こんにちは。少し休ませてもらっていいかしら?」
ナーザがそう言うと主人はにこにこ笑いながら答えた。
「もちろんですよ。さあどうぞ」
二人が食堂の席につくとすぐに主人がお茶とお菓子を持ってやってくる。
「姫様方はフォレスからいらしたんですか?」
「ええ。そうです」
「なんだか大変だったでしょう?」
「そうなんですよ。なんでも王女様が行方不明とかで、国を出るときは取り調べが厳しくて。ほらその子なんか年格好が近いでしょ? 検問ごとにいちいち服まで脱がされそうになって。フォレスの兵隊ってみんなああなのかしら?」
そう言ってナーザは笑った。宿の主人もアウラの方をちらっと見て、それから笑った。
「あっはは、お嬢ちゃん、そりゃ大変だったね」
アウラは黙ってうなずいた。こういったやりとりは道中宿ごとに繰り返されているので、今では彼女も調子を合わせるのに慣れていた。それから宿の主人が言った。
「それにしてもまだ見つからないそうですね」
「ええ。本当に。いったい誰があんなことしたんでしょう。おかげでフォレスじゃ全然仕事にならないんですのよ。みんな王女様探しにかかりっきりで、私たちのことなんて相手にもしてくれなくて。それで今年はもうハビタルで冬越ししようかと……」
「大変ですねえ。そちらも。でもこっちもひどかったんですよ。なにしろいきなりお館様がエクシーレに攻めてったりして、この辺りからもずいぶん引っ張られたんですよ」
「そうなんですの? でも戦いにはならなかったそうですわね」
「はい。良かったですよ。なにしろ私の甥も前線に行った口でしてね。大体招集するにしても夜中にいきなりですよ。あんなのどうかしてますよ」
「そうだったんですか。それはご心配だったでしょう?」
ナーザと主人がそんな話をしている間、アウラはする事がなかったので黙って出されたお茶を飲んでいた。アウラはあまり食欲がなかったので、出されたお菓子には手を付けていいなかった。見たこともない黒っぽい塊で、あまりおいしそうではない。
それを見て主人が言った。
「お嬢ちゃん、それはお口に合わなかったですかい?」
「え? いえ」
アウラは仕方なくそれを少しかじった。ところがそれは見かけとは違って、とてもおいしかった。こりこりとした木の実を砕いて、甘いシロップで固めたような物だ。
「あ! おいしい!」
アウラはついいつもの調子に戻ってぱくぱく食べてしまった。それを見て主人が喜んだ。
「まだありますよ」
「ええ? それじゃ……」
「ディーネ。あんまり食べると太るわよ」
アウラは途端に自分の立場を思いだして、真っ赤になってうつむいた。
「まあいいじゃありませんか。喜んで頂けるとこちらも嬉しいです」
そう言って主人はそのお菓子をたくさん出してきた。
「これは道中食にもいいんですよ。少しもって行かれますか?」
「でもそれでは……実はあまり持ち合わせが」
そう言ったナーザの言葉に、主人はナーザのリュートを指さして答えた。
「いえいいんですよ。ただで。でもそのかわりといってはなんですが何か一曲お願いできませんか?」
「ああ、それでしたら」
そう言ってナーザはリュートを取り出すと調弦して弾き始めた。
旅の間アウラは、何度もこうしてナーザがリュートを弾くのを聞いていた。さすがに元々旅の楽師だっただけある。心にしみいる音色だ。そのせいで旅の間の休息代はこのようにただで済むことが多かった。
ナーザが弾き終えても主人はまだ目を閉じたままだ。それから目を開くと少し涙ぐんでいる。よっぽど音楽が好きらしい。
「ああ、すばらしいです! あの、今日はどちらまで行かれるのですか? お急ぎでなければうちに泊まってらっしゃいませんか? 宿代はサービスしますよ」
「え? 申し訳ないんですが、少し先を急いでおりまして」
「そうですか……」
主人は残念そうな顔をした。そんな主人に向かってナーザが尋ねた。
「そういえば、シルエラの一行はこちらに泊まりませんでした?」
「は?」
「半月ほど前に、シルエラという遊び女の一行が来ませんでした? 他に殿方が三名同行していたと思いますが……」
主人は考え込んだ。
「いえ? そのようなご一行は記憶にございませんが?」
「まあ、そうなの? アサンシオンの子なんだけど」
「え? いえ、そういう方がお休みになれば絶対忘れないんですけどね」
「そうなんですの? じゃあいったいどうしたのかしら」
「お知り合いで?」
「ええ。私たち本当は彼女たちと一緒に来るはずだったんです。でも訳あって出立が後になってしまって……まさか襲われたのかしら?」
「いえ、この街道沿いでは最近盗賊が出たという話は聞きませんが」
ナーザとアウラは顔を見合わせた。
それからナーザはつっと立ち上がると主人に言った。
「ありがとうございます。もしかしたらあの子、フランに向かったのかも知れません。そっちに親戚がいると言ってましたから」
それを聞いて主人が心配そうな顔になった。
「フランへの道は危ないですよ。あそこは本当に盗賊が出ます」
「大丈夫ですわ。この子のこれ、見かけだけじゃないんですよ」
そう言ってナーザはアウラの薙刀を指さした。だが主人は安心したようには見えない。まあ当然のことだが。
「それでは若い者を何人か護衛におつけしましょうか?」
「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには参りません。このお菓子だけで十分ですわ」
二人は心配顔の主人を残して、道中宿を後にした。
ナーザは少し厳しい顔をしている。
「やっぱりあそこで脇道に入ったのね」
直前に通ったヴィドロという村を出てすぐの所で道は二股に分かれていた。右の太い道がハビタルへ向かう街道で、左はフランという村に向かう間道だ。二人はしばらくそこで悩んでいたが、とりあえず本街道をやってきていたのだ。
今までの道中宿の主人は皆“シルエラ”のことを覚えていた。
名前を覚えていなかった者でも、アサンシオンの遊女が来たことは覚えていた。
ガルサ・ブランカのアサンシオンといえばこのあたりでも男なら絶対知らぬことはない名所だ。その上たとえ偽名でも彼女は王女だ。いるだけで大きな存在感が感じられる。そのため彼女は今までの道中宿の主人達に大きな印象を植え付けて来てくれていたのだ。だから前の宿までは彼女たちが来たことは明らかだった。
それなのに今の宿の親父は彼女を覚えていないのだ。ということはシルエラ一行はここには来なかったことになる!
「休まないで通り過ぎたってことは?」
アウラがナーザに尋ねた。
「今までそんなことなかったじゃない。ここだけ通り過ぎるなんて変よ。それに彼女たちはそこまで急いでなかったし」
「え? どうして?」
「泊まってた宿の間隔が近いでしょ。それにエルミーラ様はあまり長くは馬には乗れないと思うし」
「あ、そっか……」
言われてみればその通りなのだが、アウラはどうしてもそういうところには頭が回らなかった。
ともかく二人は大急ぎで分岐まで戻ると、フランへの間道に入っていった。
その道は確かに細く人通りもない。その上しばらく行くと道は深い森の中に分け入っていった。いつ盗賊が出てもおかしくなさそうだ。
「確かに何か出そうな森ね」
「ええ」
だがアウラはそっちの方では全然慌てていなかった。フィンと出会う前はこういう森の中でもよく一人で彷徨っていたのだ。しかも場合によっては意図的にそういった場所を狙ってうろついたこともある。
それよりもしばらく行くうちに段々雲行きが悪くなってきたことの方が問題だった。空は厚い雲に覆われ、まだ日暮れには間があるのに辺りは薄暗くなってきた。
「やな天気ね」
アウラがナーザに言うとナーザも黙ってうなずいた。それからしばらく行くうちについに小雨が降り始めた。すると道ばたに小さな旅人小屋が現れた。
「今日はここに泊まりましょうか?」
ナーザが空を見ながら言う。アウラは黙ってうなずいた。このままだと天気はどんどん悪くなりそうだ。そんな中で野宿は辛い。またここに小屋があるということは、この先しばらくはそういう物がないことも意味する。
大きな街道ならば道中宿があるが、こういう間道では客が少ないので宿屋ではやっていけない。しかし天気が良いのならともかくそうでなければ野宿は大変だ。そのため旅人用にこうした無人の小屋があちこちに造られているのだ。
ここもそういう小屋だった。二人は馬を下りて入り口の馬止めにつなぐと小屋の周囲を見回った。すぐ裏手に水場があり、小屋はしっかりしており中には寝藁も十分に用意されている。先客は誰もいない。
「結構いい小屋ね」
ナーザは荷物を中に運び始めた。アウラがそれを手伝おうとするとナーザはそれを押しとどめて言った。
「こっちは私がやるわ。それよりまた夕食をお願いできる?」
「あ、はい」
アウラはうなずいて支度を始めた。いつもの野宿だとほとんど携帯食料をかじりながら疲れた体を休めることしかできなかった。だが今日は暖かい物を作っている余裕が十分ある。寒い夜でも暖かなスープがあるかないかで寂しさは全然変わるものだ。またこういう作業をしているだけで余計なことを忘れてしまえる。
そんなことを考えながらアウラは囲炉裏の火を起こそうとしたのだが、手に入った薪が湿っていたので少し苦労した。その作業をしているとフィンと一緒に旅をしたことが思い出された。フィンがいたら少なくとも火起こしに苦労することだけはない。
《フィンは何してるかしら……どうせまたずっと本を読んでるのよね》
実はその頃、彼は彼でまた大変な境遇になっていたのだが、当然彼女たちにそんなことを知る術はない。だからアウラの想像できるフィンは、いつものように図書館で何か小難しい本に没頭している姿だった。
そうこうするうちに鍋が煮えて辺りによい香りが漂いだした。それをかぎつけてナーザが近くに寄ってきた。
「あら、おいしそうね」
「もう食べられます。食器をください」
ナーザが食器を渡しながら言った。
「それにしてもあなたがこんなに料理上手だったなんて、少し意外だったわ。いえ、ル・ウーダ様の言ったことを信じてなかったってわけじゃないんだけど」
「そんなことないです……」
「謙遜することはないわ。少なくとも私よりはずっと上手だわ」
「え? まあ……」
アウラは何と答えていいか分からなかったので曖昧にごまかした。実際に旅の最初の頃はナーザが料理をしたこともあったのだが、はっきり言ってかなりひどい代物だった。それで代わりに彼女が作ってからというもの、食事を作るのは完全にアウラの役割になってしまったのだ。
だがともかくナーザに褒められてアウラは素直に嬉しかった。
彼女は今までナーザに何も勝てるところがないと思っていたのだが、意外なところで彼女にも欠点があったのが驚きだった。
「エルミーラ様が見つかったら、みんなで山の方にピクニックに行きましょう。エルミーラ様はこんなの食べたことがないわよ。きっと」
「そんな! お城の料理の方がずっとおいしいです」
それを聞いてナーザは笑って首を振った。
「それとこれって比較になるものじゃないわ。エルミーラ様も絶対お気に召すわ。それに私もどちらかというとこういうのの方が好きなの」
「そうでしょうか……」
アウラは半信半疑だったが、もしそうだったら嬉しいと思った。そういえばアウラの料理はフィンも誉めてくれた。
アウラはまたフィンの事を思いだして、少し寂しくなった。
食事をしたら後は寝るだけだ。出立は早い。ゆっくり寝ておかないと明日に差し支える。
だが今日はまだ早い。寝ようにまだ寝付ける時間ではない。アウラは囲炉裏を見つめながら、ぼんやりとフィンの事を考えていた。
あの朝別れるときのフィンは今までになく辛そうな表情をしていた。
『絶対戻って来いよ』
『決まってるじゃない』
アウラはそう答えたものの、内心ではあまり自信がなかった。
これから喧嘩に行くのであればどうということはない。だがベラへの潜入みたいなことになるとこれは初めての体験だ。前の晩にもナーザにも釘を刺されていた。彼女が勝手に暴走したりすれば、任務の失敗どころか王女の命が危なくなるかもしれないと。
アウラは目の前にいる敵は怖くなかったが、目に見えない相手となると全くどうしていいか分からなかった。
そんな不安の表情を見て取ったのだろうか? フィンが彼女を抱きしめて言った。
『戻ってきたら渡したい物がある。だから絶対戻って来いよ』
アウラは驚いてフィンの顔を見た。渡したい物だって? いったい?
だが彼はそれ以上は何も言わなかった。
《フィンが渡したい物って何かしら……》
こんな晩にはいつもそのことを思いだしてしまう。
アウラは首を振った。彼女はエルミーラ王女を探索しているのではないのか? それなのにフィンのことを思ってうじうじするなんて! こんなことではいけない。何かしなければ―――そしてアウラはついに以前からいつかナーザに頼もうと思っていたことを口にした。
「あの、ナーザ」
「え? なに?」
「お願いがあるんだけど」
「どういった?」
「あたしに戦い方を教えて」
それを聞いてナーザは目を丸くした。
「え? なに言っているの?」
だがアウラは真剣だった。彼女は以前あそこでナーザに完敗したことを一時も忘れたことはなかった。
「だって、ナーザはあたしより強いから……」
そう言ってうつむくアウラをナーザはしばらく驚いたように見つめてから、それから笑い出した。それを聞いてアウラは少しむっとした。
「あたしもっと強くなりたいの。王女様を守るためにも」
それを聞いてナーザは笑い止めた。でも顔はまだゆるんでいる。
「それはちょっと無理よ」
「どうして?」
アウラは真剣だった。その表情を見てナーザもやっと真顔になった。
「その理由はね。その薙刀を使わせたらあなたは私よりずっと強いからよ」
「え?」
アウラはナーザの顔を見た。彼女はじっと微笑んでいる。
「嘘よ! だってあの時……」
「あのときはね。ただのハッタリだったのよ」
「え?」
アウラは驚いてナーザの顔を見つめる。
「まあ、確かに私だって少しは腕に自信があるんだけど。でも、あなたと比べたらもう比較にもならないわ。ただ、一つだけ勝っているところがあったとすれば、それはハッタリのかけ方ね」
ナーザはまた微笑んだ。アウラはどう答えていいのか分からず、ぽかんとしてナーザを見つめている。
そのときだ。ナーザはふっと懐剣を抜くと、やにわにアウラに斬りつけてきたのだ。
《‼‼》
アウラは慌ててそれをかわしたが―――それはもうぎりぎりのタイミングだった。もうちょっと遅れていたら本当に顔を斬られていた。ちょっと今のは洒落にならない。
「な、何するの?」
アウラはナーザを睨むと自分の薙刀に手をかけた。
だがそれを見てナーザはまた笑う。
「ほらね」
「何がほらなのよ! 危ないじゃない!」
「だってあなたには傷一つ付いてないじゃない?」
「だからってこんなこと!」
アウラが本気で怒り出しそうなのを見てナーザはやっと説明を始めた。
「ごめんなさい。確かに一歩間違えば大怪我だったわね」
全くその通りだった。ナーザは口ではああ言いながら、今の抜き打ちは常人にはなかなかできる技ではない。その上ナーザは寸止めしようという意志さえ見せなかった。アウラだからこそ避けられたが、もしそうでなければ絶対大怪我をしているに違いない。
「でもあなたには通用しなかったでしょ? それはどうしてかしら? 今まで何度かこんな感じで嫌な奴をやっつけたことがあるんだけど」
どうしてと訊かれても答えようがない。
アウラにとってはそれはまるで呼吸をするようなことだったからだ。ただナーザが不穏な仕草を見せたからそれに反応したとしか言いようがない。
だがナーザは答えを求めているのではなかった。
彼女は今度は懐剣をアウラに向けて構えて言った。
「じゃあ今度はどうかしら?」
それを見てアウラは目を見開いた。
《あのときの!》
アウラはまたかつて彼女と対峙したときのように背筋が寒くなる感覚を覚えた。
今度はさっきのような不意打ちではない。ナーザはしっかりとアウラに向けて懐剣を構えている。誰がどう見ても攻撃しようという意志が見え見えだ。
だがさっきとは全然違うのだ。あのときと同じだ!
アウラにはナーザの体が発する言葉が分からないのだ。
そんなアウラの表情を見てナーザが言った。
「どう?」
「どう? って……」
「どうしたらいいのか分からないみたいね?」
アウラはうなずいた。全くその通りなのだ。それを見てナーザはまた微笑んだ。
「でもね、だったらそういう場合はあなたの好きにすればよかったんじゃない?」
「え?」
「あのときはね。あなたがパニックになって滅茶苦茶に打ち込んで来てくれたからかわせたけど、もしあなたが冷静に斬り込んできていたら実はどうしていいか分からなかったのよ」
「……」
「まあ、あなたが本気で私を殺すつもりじゃなかったことだけは確信してたけど、腕の一本ぐらいは落とされても仕方ないって思ってたわ」
「そんな! あの……」
慌てるアウラを見てナーザはまた笑った。
「それはもう過ぎたことよ。そのことはもう忘れましょ。まあともかく世の中は広いから、中にはあなたが感じ取れるような物を同様に感じ取れる人もいるってことなのよ。私も少しだけそれがわかるわ。でもその言葉をあなたのようにうまくは操れないわ。だから正面から戦っては勝ち目はなかったわ。ただそういう人の裏をかく方法は知ってたのよ。長年の経験からね」
アウラは驚愕のまなざしでナーザを見た。
「じゃあ……今のって……」
「そう。私はじーっと黙ってた。ただそれだけなの。それを見てあなたが勝手に勘違いしてくれたのよ」
そう言ってナーザはまた笑った。
アウラは何と答えていいか分からなかったが、ともかく疑問は氷解していた。
「それじゃあのとき、もっと、こう……」
「そうね。あんなに馬鹿正直に斬り込まずに、普通にフェイントをかけるなりなんなりしていたら全然違ったでしょうね。ただそれはそれで相当の勇気は必要だったと思うけど」
アウラはうなずいた。ナーザの言うとおりだ。
今まで相手にしてきた多くの者は、そういった言葉を操ることさえできない者達だった。そういった輩はやりたいことをいつも大声で叫んでいるようなものだ。アウラはそれに対処するために何も考える必要がなかった。
だがそういった言葉を操れる者が相手の時には、そこがもう少し難しくなってくる。今まではその言葉を信じてさえいればよかったが、今度はその言葉そのものの戦いをしなければならなくなるのだ。
何も言葉を発さない者であっても、彼女が実際に“語り”かければ“返答”をせざるを得ないだろう。その返答を聞けば相手の実力もまた見えてくる。場合によったらそれこそ実は相手は片言しか喋れない者だったかもしれないのだ……
「そういうわけで、戦いについてあなたに教えられることはこれでおしまいなの。ごめんなさいね」
「いえ、いいんです。ありがとうございました」
アウラはそう言って頭を下げた。だが長年の疑問は解決したにしても、ちょっとこれは拍子抜けだ。アウラはがっかりしてため息をついた。
それを見てナーザが言った。
「もしかしてすごく期待してた?」
「え? いえ、それ程でも……」
アウラは口ごもりながらそう答えたが、もちろん本心はそうではない。彼女は心から期待していたのだ。ガルブレスと離別して以来こんな風に底知れない相手とは出会ったことがなかった。だからいつか彼女が素晴らしい技を教えてくれるのではないかと……
そんな彼女の表情をナーザはしばらくじっと見つめると、言った。
「それじゃ少し踊りを教えてあげましょうか?」
「え?」
アウラはびっくりした。踊りだって?
「信じてもらえないかもしれないけど、私は一番最初は踊り子だったのよ」
「え?」
ナーザが踊り子だったって? 何だか今の様子からは想像も付かない気がするが……
「それにあなたが踊り子だったらもっといろいろやりやすいし。ちょっとやってみましょう」
「でも……」
アウラは困惑した。いきなり何なんだ? この展開は……だがナーザはそんな彼女には構わず、脇に置いてあった薙刀を指さした。
「その薙刀を貸してちょうだい」
アウラは言われるままに薙刀をナーザに手渡した。
「それではよく見ているのよ」
ナーザは薙刀を片手にもって構えた。それからゆっくりと舞い始めた。
アウラは食い入るようにナーザの動きを見つめた。本人は踊りといったが、これは何か違う。少なくともアウラが知っている“踊り”とは何か次元が違うものだ。踊りというよりは舞と呼ぶべき物だろう。
そんな定義はともかく、それを見てアウラは感じた。
《あ! これならできる!》
ナーザの舞はとても複雑で優雅だったが、その動作は薙刀の型に通じるところがあった。一つ一つの動きに彼女がよく知っている言葉がある!
もちろんそれは戦いのときの言葉とは違う。戦いではその言葉は極限まで切りつめられた厳しさを備えているが、ナーザの動きはもっと華麗で雄弁だ。
それにも関わらず、その動きに秘められた意味をアウラは一つ一つ理解することができた。
舞い終わるとナーザはアウラに薙刀を手渡した。
「それではやってみて」
「あ、はい」
アウラは立ち上がって今聞いたナーザの“言葉”を思い出そうとした。
それは思ったよりも簡単だった。ナーザの言葉は複雑だったが筋が通っていた。だからある動きの後がどうなるかはほとんど考えなくてもいいところも多かった。
とは言っても最初はなかなか難しい。何しろアウラは今までこういう形で“喋った”ことはなかったからだ。
だが何度か繰り返しているうちに、だんだん体がその言葉に慣れていって自然に動くようになってくる。
舞い終わるとアウラは少し上気していた。何だかとっても気分がいい……
ナーザはそんなアウラを驚いた顔で見つめていた。
「すごいわ。私が思っていた以上ね。それでは今度はこれに合わせてみて」
そう言ってナーザはリュートを弾き始めた。
それを聞くと同時にアウラは背筋がぞくっとするような快感を覚えた。その言葉のリズムはこの音楽にぴったりと一致しているではないか!
アウラは曲に合わせて踊り始める。自然に音楽と体が解け合って一体になっていく。ナーザはそれに気づくと、リュートのテンポやリズムを微妙に変えてくる。それに合わせようとアウラもまた彼女の言葉のリズムを変える。
そんなやりとりをしているうちに、アウラの心の底から言いしれぬ喜びがわき上がってきた。
楽しい!
それはかつてアウラがブレスに薙刀を習っていたときの喜びを思い出させた。そのときはブレスとアウラのの無言の掛け合いであったのだが、今はナーザのリュートとアウラの掛け合いだ。
アウラは夢中になって踊った。
まるで時間を感じなかった。ナーザが最後の和音を弾き終わって辺りに静寂が訪れたとき、初めてアウラは我に返った。
呆然と立ちつくすアウラに、ナーザが近寄ってきてキスをした。
「すごいわ。あなた、本当にこっちを本職にした方がいいんじゃない?」
「え?」
アウラは赤くなった。そんなことは考えたこともなかった。彼女もヴィニエーラにいたときなどにそういう踊り子を見たことはあったが、それで今のような感銘を受けたことはなかった。だから彼女には縁のない話だと思っていたのだ。
「これだったらどんなところに出ても恥ずかしくないわよ」
「え? そ、そうですか?」
何だか自然に頬がゆるんでくる。
「自信を持っていいわ。細かいところはともかく、一番大切なところはもう十分マスターできてるから」
「それ何なんです?」
それを聞いてナーザは吹き出した。
「分からない人には説明したって分からないし、分かる人には説明は不要なの。だからあなたに説明はいらないわ」
そんなことを言われてもアウラにはよく分からなかったが、ともかくナーザが褒めてくれているということだけは分かった。
「さあ、そろそろ夜も更けてきたわね。明日があるわ。そろそろ寝ましょうか」
「はい」
気が付いたら随分夜更けになってしまっている。二人は寝支度をしてから寝藁に潜り込んだ。
藁は乾いていて気持ちいい。だが体は結構疲れているというのに、今のことを思い起こすとなぜか興奮して寝付けなかった。目を閉じるとナーザの動きが見えてくる。それと同時に体もその動きを思い出してしまう。こんなことではいけない。明日はまた早くから行動しなければならないのに―――アウラは無理矢理眠ろうと努力したが、そうすればするほど逆に目が冴えていく。
アウラがそんな感じでもぞもぞしていると、横からナーザが声をかけてきた。
「寝られないの?」
「え? まあ、ちょっと」
「そうなの……実は私もちょっとね」
アウラは寝藁から顔を出してナーザを見た。
部屋の中に明かりはなかったが、炉の熾火が発する淡い光でナーザの表情がかろうじて見て取れる。そんなナーザはアウラが今まで見たことのない表情をしていた。
「今日のあなたを見ててね、あなたがエルミーラ様だったらって、そんなことを思い出しちゃったのよ」
「え? どういうこと?」
「あなた王女様から聞かなかった? ほらあの時、私が王女様を連れて旅に出ようとしてたこと」
「あの時って、もしかしてあのロンディーネの?」
「ええ」
もちろんアウラは覚えていた。王女から彼女がどういった決意をしているか聞かされた日のことは、今でもはっきりと覚えている。
「あれからずいぶん経つけど……今でもよく考えるのよ。もし本当にあのとき私と王女様で旅立っていたらどうなってたかって。今日また思い出しちゃったのよ。一緒に旅してたのがエルミーラ様だったらこうは行かなかっただろうなって思ったら……ほら、王女様って体を動かすのって結構苦手でしょ? だからこんな風に踊りを教えてあげることなんてなかっただろうなって」
そう言ってナーザはくすっと笑った。
確かあのとき王女はナーザが歌や踊りを教えてくれるから一緒に付いてこいと言ったと語っていた。もしそうなっていたとすれば、ナーザと王女はこんな感じでずっと旅をすることになっていたのだ。
だがそうなればナーザの言うとおり、王女はちょっと踊り子にはなれそうもないだろう。
「でもミーラって歌は上手よね」
アウラは答えた。そちらの方は彼女はアウラよりも遙かにうまい。
「それはそうね。だから教えてあげるとしたら歌と楽器の方だったんでしょうけど……でも踊り子って若い方がいいでしょ? 彼女が弾いて私が踊るんじゃね」
そう言ってまたナーザは笑う。
「ええ? どうして? ナーザあんなに上手じゃない」
「だめよ。旅の踊り子なんて、普通はその辺の村の酒場とかで踊ってるものよ。ガルサ・ブランカの王宮みたいな所なんて滅多に出入りできる物じゃないわ。だからああいうのが理解できる観客ばかりじゃないのよ。でもお金を稼ぐにはそういった客でも相手にできないとね」
アウラはナーザの言ったことがよく分かった。あんなところに来る男達は踊り子が踊っていたってその踊りなど見ちゃいない。その踊り子が綺麗かどうかとか、どんなスタイルをしているかとかそんなことばかりを気にしているのだ。
そこで彼女は答えた。
「そうよね。でも結局そうならなかったんだし、良かったんじゃない?」
ところがそれを聞いてナーザはいきなり沈黙してしまった。アウラは何か失礼なことを言ったのかと心配になった。
「え? あの……」
するとナーザが静かに首を振った。
「本当に良かったのかしら?」
それはほとんど独白に近かった。
「え? どうして?」
ナーザがまたアウラを見つめるのがわかった。ナーザは言った。
「アウラ……私ね、本気だったのよ。ともかくあのときはエルミーラ様を連れて城を出て、それからどうするかということしか考えてなかったの」
「え?」
「確かに私がアイザック様をお止めしたんだけど……あれは細かい状況がよく分からなかったから、ほら、王女様があんなことをするなんて信じられないじゃない。だから絶対何か間違いがあったんだって思ってたのよ。だから後から本当に王女様本人の口から本当だったって聞いて、私本気で慌てたんだから」
そう言ってナーザはくすっと笑った。
「でも変なのよ。私がエルミーラ様をお預かりしたってことを説明したら、エルミーラ様はどうしてそんなことをするんだみたいな顔で私を見つめてるのよ。それで余計に訳が分からなくなって……」
アウラはナーザの言っていることがよく分からなかったが、何か口を挟んではいけないような気がして曖昧にうなずいた。
「大体普通ならね、あんな取り返しの付かないことをしてしまったらどうするかしら? 自分は悪くないとか泣きわめいたりして、もう手がつけられないのが普通でしょ? そうじゃなければ今すぐ殺してくれって言ってみたり、まあそんな感じになるものでしょ?」
アウラはうなずいた。それはそのとおりだ。
「でもね、彼女は違ったの。エルミーラ様はただじっと私を見ているのよ。まるで後ろめたいことなんて何もしていないって様子で。それってどう思う?」
どう思うと言われても―――だがナーザはアウラの返答を待たずに話を続ける。
「もちろん私も不思議に思ったわ。もしかして彼女は自分のしたことがどういうことか分かっていないんだろうかって。それで聞いてみたわけ。また郭に行きたいかって」
「あ!」
アウラは小さく声を挙げた。その話は強く印象に残っていた。
「知ってるみたいね?」
「ええ」
「じゃあ桃のたとえ話も?」
「はい」
「そう。それじゃ話が早いわ。で、その話をしながらなんだけど、実は私は心底びっくりしていたのよ。あんなときにこんな話をしていたことにね」
アウラはまた何だかよく分からなくなってきた。
「普通ならそんな話が通じる状態じゃないでしょ。ひどく激昂していたりして。でも彼女はすごく冷静に理解してくれたの。自分が王女としての立場を失ってしまったことをね。そしてもっと驚いたことにはそこで逆に尋ねてきたのよ。それでは彼女はどうすればいいのかって」
ナーザはそこで言葉を切ってアウラを見た。
「慌てたのは私よ。でもなるべくそういう素振りは見せないようにして答えたわ。アイザック様のお怒りが激しければもう死んでお詫びするしかないだろうけど、少しお怒りが和らげば勘当ぐらいで済むかもしれないって。そして勘当されたのなら私と一緒に行きましょうって。歌や踊りを教えてあげられるからそれで食べていけるようになるだろうって。それを聞いて王女様は渋々同意されたの」
アウラはうなずいた。その話は覚えている。
「でもそう言って同意された時のエルミーラ様も相変わらず不思議だったわ。口では同意していても全然納得してないって顔なんだから……それがすごく引っかかったの。だってそうでしょ? あそこでアイザック様に殺されていたかもしれないのよ。彼女はそれだけのことをしたんだから。そこをとりあえず命だけは助かったのよ。誰だってほっとするでしょ?」
アウラはまたうなずいた。
「でも命が助かってほっとしているって顔じゃないのよ。死を覚悟しているという様子でもない。ともかく納得がいかないって顔だったの。私は思ったわ。この王女って本当に少し変なんじゃないかって」
それを聞いてアウラは反射的に突っ込んだ。
「ミーラが変って!」
ナーザは微笑んだ。
「だってそうでしょ? 人が一人死んで自分の命さえ危ない状況よ。それなのにやっと命が助かったのに喜びもしないなんて。もしかして今だに状況がよく分かっていないのかとも思ったわ。だとしたら救いようのない馬鹿じゃない。違う?」
アウラはナーザの言うことが分かったが、でも王女がそんな馬鹿のはずはない。とにかくアウラは抗弁しようとした。
「でも……」
そう言おうとするアウラをナーザは優しく押しとどめた。
「そうよ。違ったのよ。私は気づいたの。この王女様は何かが違うってことに。そのときはまだ何が違うかよく分からなかったわ。だって今と違って、ただのわがまま姫としか思われていなかった頃だったし、実際そんな感じだったし」
アウラは返す言葉がなかった。何だかナーザは王女のことをひどく言っているような気もするが、その口調は優しさにあふれている。それにナーザの話し方はいつも少し難しく、アウラは聞いているだけで眠くなってくることがよくある。
「多分エルミーラ様のそんなところがあったからこそ、私は気づいたのよ。そのときまで私自身さえ考えてもみなかった可能性に……」
「それって……」
「ええ、そう」
ナーザはそう言って寝返りを打った。それからまるで独り言のような調子で語り続けた。その声はだんだんアウラにとっては子守歌のように聞こえてきた。
「思いついた瞬間は自分自身の考えが信じられなかったわ。だって、あまりにもな考えじゃない? 大体普通に考えればアイザック様がそんなことを認めてくれるはずがないじゃない? だから私もそんな馬鹿なことができるはずがない! って思ってそのまま忘れてしまえば良かったのよ。だからといって誰にも責められる話じゃないでしょ? でもエルミーラ様の顔を見てて……彼女にこれを言わないのは卑怯なことなんじゃないかって気がしてきたの」
アウラは夢現つに思い出していた。
『あたしに勇気があるかって。本当に勇気があるのなら、もう一つだけ別な道があるって』
そう言ったときの王女の顔は誇らしかった。
「これは賭だったわ。私は言ったわ。あなたがもう王女としての役目を果たせなくても、王としての役目は果たせるかもしれないって。すなわちアイザック王の後を継いでフォレスの国王となる道があるかもしれないって。でもあなたももう知っているはずだって。国王とは王座に座ってぼけっとしている人ではないということをって」
ナーザの声が段々遠くから聞こえてくるような気がする。
「それを聞いてエルミーラ様は真っ青になったわ。私は考えていたの。もし彼女がすぐに同意するとか言い出したらその場で張り倒そうって。でも彼女はそうじゃなかった。彼女はともかく考えさせてくれって答えたわ。そして私は決心したの。彼女が明日何と答えようと、私は彼女と一緒に行こうって。次の日彼女は真っ赤な目をしてやってきたわ。多分一睡もしなかったのね。ともかくそんなお顔で彼女は言ったのよ。国王になりたいって……」
そう言ってナーザは再び振り返るとアウラの顔を見た。だがその時もうアウラは寝息をたてていた。それを見てナーザまたくすっと笑うと、起きてアウラに寝藁をかけてやった。それからしばらくアウラの寝顔を見つめる。
「だから私は絶対エルミーラ様を助けるの。あの方は将来必ず偉大な女王となられるお方なんだから……だからアウラ、エルミーラ様を助けてあげて。彼女にはあなたみたいな人がもっと必要なの。私みたいに不純な動機でいるんじゃなく、いかなるときでも純粋に信じられるあなたが……」
ナーザはアウラの髪をそっとなでた。