別設定お遊び話4

究極の

「へ?」

ナニイッテイルンデスカ。

「千尋、明日、お母さんもお父さんと一緒に

アメリカに行ってくるわね。」

 

青天の霹靂とはこんなことを

いうのだろうか。

お母さんがお父さんと一緒に

ニューヨークについていくと宣言したのは

明日、お父さんがニューヨークに帰るという日の夜だった。

少なくとも出張は今年いっぱいのはずで

後半年くらいの我慢は、世間一般的には

一人娘のことを考えれば当然のこと。

いくら仲の良い夫婦だからといって

まさか、一人娘をほっぽりだすなんて。

いや、もちろん、久しぶりに帰ってきた父が

いっそう太っていて、どうやら母の目の届かない

のをいいことに、好き放題の食生活を送っている

らしいことは容易に想像がついて

そんな父のことを母が心配するのは当然なんだけれど。

健康志向の強い母が高カロリー、高脂肪、高タンパクで

しかも一食の量が日本と比べ物にならないくらい多い

アメリカの食事を制限なく食べているだろう父の

管理に行きたいと思う気持ちはわからないわけではなくて。

でも、でも、だからといって明日はアメリカに戻るという

前の晩になって突然そんな話になるなんて

娘をないがしろにするにもほどがある。

 

「千尋、明日、お母さんもお父さんと一緒に

アメリカに行ってくるわね。」

「へ?」

「半年くらい一人暮らしできるわよね。」

もう高校生なのだし。

クールな表情の母に対して、父は千尋に

すまなそうな顔を見せてはいたが、それ以上に

全身に嬉しさを滲ませていて、一瞬千尋は

言葉がでなくなってしまった。

「ちょっと、お母さん。本気?」

「もちろんよ。このまま後、半年もお父さんを

ほっておいたら、病気になっちゃうわ。

この半年で10キロも太ったのよ。

千尋も、お父さんが病気になるくらいなら

一人暮らしくらい我慢できるわよね。」

「でも、だって、わたし何にもわからないよ。」

「何言ってるの。高校生にもなって。」

そうして、母は生活費を振り込む口座だの

光熱費の引き落としだの集金の対処だの

保険証の場所だの、とにかく、日常生活で

必要な細かい管理の説明をはじめた。

もちろん、働いている母によって

炊事、洗濯、掃除といった家事全般については

しっかり、仕込まれているが

だからといって保護者のいない生活が

急にできるかというと、無理としか思えない。

なのに、両親とも、当然できるものと

決めてかかっていて。

千尋はため息をつくと腹を決める。

もう、思い込んだらこの夫婦には何を言っても

娘の声なんて届かないのは、神隠しにあったときを

はじめとしていやになるほど経験している。

受験中ほっとかれるよりマシって

思わなくちゃやってられないかも。

「ちょっとまって。もう一回言って。

ああもう、紙にきちんと書いてちょうだい。」

 

「いい?出かけるときと帰ってきたときの

セキュリティーコントローラーの切り替えを

忘れちゃだめよ。それから、口座の管理は

計画的にきちんとね。どうしても足りないときは

連絡するのよ。それから毎日メールをしなさいね。」

出かける間際、駅のホームでまで口やかましい母に

辟易しながら、それでも最後に愚痴をこぼしてやった。

「もう、そんなに心配ならアメリカなんかに

行かなきゃいいのに。今からでも止めたら?」

「何言ってるの。どうせ、大学に行ったら一人暮らし

するんでしょ。予行練習だと思いなさい。」

そうして、千尋は一人ホームに取り残されたのだ。

 

 

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3の次の日に琥珀がナニをしたのかはわかりましぇん。

でも、どうやらご両親ははくの存在をまだ知らないらしいよ。

う〜ん、設定が微妙にずれていくなあ。

しかし、この親。千尋を信用していると言うべきなのか、

自分勝手と言うべきなのか。

お父さんが帰ってきて安心していた千尋が不憫かも。