月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

 「・・・ごめんなさい」

 「こういうとき、どういう顔すればいいのか、わからないの」

 「笑えばいいと思うよ」

 涙で濡れたシンジの顔が、碇司令の顔とダブる。

 レイの表情が、ゆっくりと微笑みに変わっていく。

     

    

第05話 『誕生日?』

 どこかの国の豪勢な会議室。

 偉そうな7〜8人。

 「・・・どうかね、最近は?」

 「国民は、落ち着いて。心配された株価も安定しているようです」

 「セカンドインパクトの地獄を通過したんだ。いまさら使徒襲来では、驚かないだろう」

 「元々、危機感が欠如している民族だ」

 「使徒撃退という厄介ごとはNERVにまかせるとして・・・」

 「時田君。回収したサンプルは、どうなっているのかね?」

 「第4、第5使徒のサンプルは、独自のルートで入手できました」

 「ですが絶対量が足りず、解析できませんでした」

 「NERVは、特別法を盾に使徒関連技術を独占している、サンプルを得るのも非合法だよ」

 「碇ゲンドウ。危険な男だ」

 「だが、あの男がいなければ、あの時に、サードインパクトが起きていた」

 「そして、今回の第3、第4、第5使徒でも・・・」

 「わかっている。だから、目を瞑ってきたのだ」

 「しかし・・・」

 「エヴァンゲリオンだけでは、飽き足らんのだろう。いまいましい男だ」

 「こちらも、情報公開法で資料を提出させましたが・・・」

 文字の7割が黒線で埋められた文書。

 「出てきたのが、これか、なめられたものだな」

 「我々に有利な法的整備も進めないとな」

 「しかし、国連特別特区法と、国連をバックにされていると制限される」

 「それ以前に、我々も、あの男に弱みを握られている」

 「回りくどい。サードインパクトが起きてからでは、何もかも遅いぞ」

 「だが、ゼーレが国連を背景にNERVを保護している」

 「ゼーレの意向に背けば、もう一度、連合軍に駐留されるな」

 「それも最善のシミュレーションでだ」

 「NERV。獅子身中の虫にしては、大きすぎる」

 「エヴァンゲリオン・・・どうやって建造したのだ」

 「明らかにテクノロジーレベルが違い過ぎる」

 「人類補完計画の詳細も不明だ」

 「わかる者にしかわからないというのは、真理と言えるのか」

 「一般性相対性理論の信憑性は、わかりませんが信じてもいいと思いますが」

 「そんなことより、エヴァ技術のNERV独占を許すべきではない」

 「資金も」

 「金は、必要だよ。生きている限りね」

 「軍需産業も、です」

 「時田君。我々の使徒迎撃計画は?」

 「順調です。日本政府の肝いりですからね」

 「セカンドインパクト。被害の大きさはともかく、相対的に悪くなかった」

 「在日米軍の喪失とアメリカのモンロー主義」

 「急成長の中国が頓挫して国力喪失」

 「日本の再軍備と常任理事国入り」

 「国際社会での日本の発言力は向上」

 「南半球のオゾン層は、一度吹き飛んで虫食い状態にまで回復」

 「取り分は、欧米諸国が多い」

 「しかし、日本も東南アジア、豪州域の開発を担当できる」

 「危惧されていた人口問題、食糧問題は仕切りなおし」

 「ゼーレが、わけのわからないモノを引っ張り出して大災害を起こした結果」

 「日本は、不祥事を闇に葬って救われたのも事実か・・・」

 「彼らが力を伸ばしたと同様。日本も国威を増強させている」

 「それも、わけのわからない未知のテクノロジーでなく、自分で身に着けた実力でだ」

 「トラの威を借る者に負けんよ」

  

  

 NERV訓練道場

 何もない黒い部屋。

 シンジとレイは、ピコピコハンマーを持っていた。

 スピーカから声が聞こえる。

 “シンジ君。部屋の広さはだいたい。わかったわね”

 「はい」

 “じゃあ、消すわよ”

 照明が消えると、本当に部屋が、真っ暗・・・・

 シンジは、位置を変える。

 レイも、位置を変えているはず。

 あとは、相手を探してピコピコハンマーで叩くだけ。

 組み手より嬉しかった。

 少なくとも、ピコピコで叩かれても、それほど痛くない。

 実力差で負けても、これなら、運次第で叩けるはず。

 シンジは、時々、ハンマーを振り回し、

 時折、移動した。

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 叩かれているのは、シンジばかり、

 自棄になって、手当たり次第ピコピコハンマーを振り回すが、かすりもしない。

 「・・・うっ・・・・ピコッ」

 シンジは、呻くとすぐに叩かれる

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 シンジは、堪らず位置を移動し、壁にぶつかって倒れた。

 照明が付くと、レイが少し離れた場所で見下ろしていた。

 『シンジ君。部屋の広さを忘れちゃ駄目でしょう』

 『いい、自分の気配を消すこと』

 『そして、相手の気配を肌で感じること』

 『戦自じゃ 竹刀でやっている訓練なのよ』

 「はい」

 『シンジ君。慣れたら竹刀で、やるからね』

 「うぅ・・・危ない」

 「ガード用メガネと、先にゴムマリが付いた竹刀を使うから痛いだけ」

 「痛いの?」

 『これは、痛い思いしないとわからないのよ』

 『本当は、即席でもっと良い方法があるんだけど』

 『使徒がいつ来るかわからないから止めて地道にやるからね』

 「はい」

 『じゃ 始めるからね』

 ミサトがそういうと照明が消え、真っ暗になる。

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 ・・ピコッ・・・

 シンジは、最後まで、ピコピコハンマーで叩かれた。

  

  

 シンジは、ゲンナリしながら更衣室から出る。

 だいたい同じ頃に出るレイと一緒に帰ることになる。

 『かっこわる〜』

 レイは、無表情。

 下手に慰められるより気が楽だった。

 学校。

 自分より頭の良い男子もいる。

 体力ある男子もいる。

 性格の良い男子もいる。

 カッコ良い二枚目の男子もいる。

 社交性のある男子もいる

 何故、自分なのか。

 仮に自分がヒーローの人選をしたとしても、自分自身を選んだりしない。

  

 「走るわ」

 いつの間にかNERVの外に出ていた。

 「・・・うん」

 レイは、教官としての才能があるのだろう、シンジに合わせて走っていた。

 シンジの走る距離は少しずつ長くなり、休憩する回数も減っていく。

 そして、走る速度も徐々に増していく。

 通行人が二人の走っている姿を見て振り返る。

 レイの場合、美しいだけでなく、何もしていなくても目立つ青髪紅眼で、

 走ればさらに注目された。

  

  

 発令所

 リツコとミサト

 「終わった?」

 「ええ、第5使徒は、邪魔にならないところに初号機で運んだけど」

 「そう。良かった。苦情が多かったから」

 「いまのところ、シンジ君だけか。ATフィールドを張れるエヴァは」

 「レイもドイツのアスカもATフィールドを発生させていない」

 「という事は、使徒と戦えるのシンジ君だけよ」

 「精神的なものなのかしら?」

 「そうね。否定は、しないわ」

 「リツコ。得意の推測だけでも出しなさいよ」

 「ATフィールドがなければ、零号機も、二号機も、サポートしかできないわよ」

 「シンジ君の感情で、どの要素がATフィールドの展開と強弱に結びついているのか」

 「データが不足しているのよ」

 「レイとアスカと比較させても、わかり難いの?」

 「ええ」

 「シンジ君は、第5使徒戦の時、3秒ほどだったけど」

 「レイと零号機を守るため150m先にATフィールドを展開させたのよ」

 「ATフィールドの運用が広がるわね」

 「零号機と二号機のATフィールドは?」

 「ATフィールドの発生原理そのものが、わからないのよ」

 「初号機だけの特性でなければいいんだけど」

 「良く分からないけど、初号機は、多次元空間を発生させているのね?」

 「ええ」

 「はぁ シンジ君の性格だと、ちょっと心もとないのよね」

 「そうね、彼。線細いから」

 「レイなら、問題ないわよ。たとえ相手が人間でもね」

 「鍛えたら?」

 「血筋だと先天的な素質があるでしょう」

 「司令の単純明快な冷徹さは、常人の理解を超えている」

 「わたしが、シンジ君の表面的な性質に惑わされていると言っているわけ」

 「そこまでは、言ってないけど」

 「とにかく、レイと零号機もそうだけど」

 「こっちに向かっているアスカと二号機もATフィールドがないと使徒に勝てないって事よ」

 「わたしに何とかしろって言うの」

 「リツコの領分じゃないの。レイは赤木研の所属だし」

 「こっちは、こっちで一生懸命にやっているんだから現有戦力でやりなさい」

 「わかったわよ。でも作戦課の要望は伝えたからね」

 「前向きに善処するわ」

 「それ、日本じゃ 何もしないと言ってるのと同じよ」

  

 

 スーパー

 シンジは、背中に背負ったカバンに買い物を入れる。

 こまめに買わないと走れなくなった。

 買ったものをカバンに入れ。

 背中に背負うと。

 話題が欲しくなり、気になっていたことを聞く。

 「・・・綾波は、いつも制服だけど、どうして?」

 「制服で十分だから」

 「・・・お父さんに命令されたの?」

 「いいえ」

 シンジは、ほっ とする。

 「良かった。お父さん。変態になったのかと思ったよ」

 レイの表情が変わる。

 「どうして?」

 「えっ?」

 「どうして、わたしが制服だけだと、碇司令が変態と思われるの?」

 レイの目付きが変わって、シンジの手が頬に・・・

 「どうして、わたしが制服だけだと、碇司令が変態と思われるの?」

 綾波の紅目が冷たく光る。

 「えっ いや、お父さんの趣味で、綾波が制服姿なのかなとか、思って・・・」

 「・・・・」

 「いや、違うんなら良いんだ・・・・」

 レイの目が冷やかになっていく。

 ゴクン! と息を呑む。

 「「・・・・」」

 「服を買いに行くわ」

 「ぼ、僕も・・・一緒に行くよ」

 シンジとレイは、200mほど戻るとブティックに入る。

 若者向けの服が多かった。

 レイは、しばらく歩き回ったが決めかねている。

 シンジは、ハッ! と思いつくと適当に見繕って服を買い始める。

 綾波のサイズは、自分とほぼ同じ、

 美人は、何着ても似合う、

 単純な発想と第一印象で、さっさと決めてしまう。

 そして、レジに持って行くと精算。

 外出着2着、普段着2着、室内着2着

 シンジの収入だと、たいしたことない。

 「・・・綾波」

 シンジは、大きな袋を綾波に渡した。

 「これ・・・」

 レイが戸惑っていた。

 無表情以外のレイの顔を見るのが意外に思えた。

 「綾波の、次の誕生日プレゼント」

 「あ、ありがとう・・・」

 「でも・・・わたし誕生日・・・ない・・・」

 レイが悲しげに俯く。

 セカンドインパクト孤児で誕生日のない人間は珍しくない。

 その場合。

 適当に生年月日を決めるか、決めないか、本人次第。

 「そうなんだ」

 「でも誰でも生まれた日は、必ずあるから」

 「これ誕生日プレゼント」

 「ありがとう。碇君」

 綾波が微笑むと思わず吸い込まれそうになる。

 「わたしも、碇君の誕生日プレゼント買うわ」

 「えっ! でも6月6日だから終わってる」

 「問題ないわ」

 『生きてて、良かったよ〜』

 シンジは、しみじみと思う。

  

 レイは、二階の男性用の服を探し始める。

 同世代の女の子に誕生日プレゼントを買って貰う。

 生まれて初めての経験に感激する。

 それも才色兼備の美少女。

 レイは、服を決めかねて迷う。

 こういう時、レイの決断力が無いのが不思議。

 『なんか、可愛い』

 焦っているレイが可愛くなる。

 「何を選んだら、良いかわからない・・・」

 「僕の買ったものと似たようなものを買ったら・・・スカートは嫌だけど」

 シンジが、そう言うと、

 レイは、袋の中を確認して、似たような系統の服を選んでいく。

 今度は、早い。

 一定のルールがあると的確に行動する。

 シンジとレイが新しく買った服に着替え、

 両手に大袋を抱えて外に出ると暗くなっていた。

 レイの白とピンクを基調にしたカジュアルなブラウスとスカートは映えていた。

 そして、シンジも似たような系統の服を着て、ちょっとしたデート気分に思えた。

 「綾波。食事して帰ろう」

 「ええ」

 珍しく閃いたシンジは、少し洒落た喫茶店を選ぶ。

 シンジは、ミートソース。

 レイは、わかめスパゲッティ。

 食事を楽しんで、しばらくすると

 14本のロウソクが立ったケーキがテーブルに置かれる。

 『今日は、嘘みたいにキザな日だ。自分じゃないみたいだ』

 シンジは、自分を褒める。

 「碇君、わたしも6月6日を誕生日にしていい?」

 「えっ! い、良いよ」

 シンジは、さらに感動する。

 「良かった・・・わたしにも誕生日ができて、祝ってもらえる」

 「初めて」

 制服以外の私服で相乗効果があるのか。

 レイが微笑むと朦朧としてくる。

 「い、一緒にロウソクを消そうか」

 「もぅ・・・少し・・・」

 レイの上目使いで、シンジは気が遠くなりかける。

 「そ、そうだね・・・もっと楽しもう」

 「碇君・・・この前、ATフィールドで守ってくれて、ありがとう」

 「綾波が無事で良かったよ」

 「わたしが初号機を守るはずだったのに・・・」

 「守ってもらったよ。僕のやったことなんて、一瞬のことだったし」

 「でも、ありがとう。碇君」

 『デートしているみたいだ。生きていて良かったよ〜』

 『でも、カッコ悪いんだよな・・・』

 散々、ピコピコされてしまったことを思い出す。

 「そ、そうだ。綾波。家具とかも買ったら?」

 「・・・」

 「服買っても家具がないと大変だから」

 「・・・」 頷く。

 「今度の休みに見に行かない?」

 「行くわ」

 二人は、食事をし、

 ゆっくりコーヒーを飲み、

 一緒にロウソクを消した。

  

  

 NERV最高司令官公務室

 ゲンドウ、冬月

 いい年こいた親父が二人。モニターを覗き込んでいた。

 ゲンドウポーズは揺るがない。

 「由々しき事態ではないのか?」

 「・・・・・」

 「いきなり、ここまで進んでしまうとはな」

 「男女の切っ掛けとは恐ろしいな」

 「・・・・・」

 「碇・・・その種の趣味があったとは知らなかったが」

 「そんな趣味は無い」

 「どうするつもりだ。息子を褒めているわけではあるまい」

 「何も。賭けで負けるつもりはない」

 「秘密を知っている者の強みか。有利な材料ではあるが」

 「・・・・」

 「あいつはようやく、賭け金を載せ始めたのだ」

 「・・・・」

 「しかし、碇。こちらの不安定要素は、そのまま、ゼーレ側の天秤に載ってしまうぞ」

 「問題ない」

 「碇・・・レイに服や家具くらい、買ってやらんか」

 「十分な年棒を渡している・・・・」

 「男親は、そういうものか」 ため息

 「・・・・・」

  

  

 学校

 全てにおいて我関せずのレイが時折、目線にシンジを捕らえる。

 レイの視線に気付いた同級生たちは、異常事態にざわめき始める。

 密かにシンジに思いを寄せていた数名の女子が動揺。

 そして、多くの隠れレイファンの男子の視線が交差していく。

 「こらシンジ。綾波になんかしたんか?」

 「な、何って・・・・」

 シンジは、少し赤くなり。

 トウジとケンスケの目が冷たく光る。

 「シンジ・・・おまえ、一人だけ男になったんか」

 「綾波がシンジを意識するなんて・・・ぅぅぅぅ・・・」

 「だと、いいけど」

 「チクショウ。おまえだけモテやがって」

 「やっぱり、エヴァのパイロットはいいよな」

 「俺もエヴァのパイロットになりたいよ」

 「エヴァに乗ってないときは、カッコ悪いよ」

  

  

 NERV訓練場

 ガードメガネをつけて、竹刀を持ったシンジとレイが部屋に立つ。

 『じゃあ、消すから』

 室内が真っ暗になり。

 自分の歩幅と部屋の位置を感覚的に覚えたシンジが位置を変え

 気配を悟られないように、レイの気配を探る。

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 何とか、逃げようとしても、レイの攻撃は的確に当たる。

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 竹刀を振り回すが当たらない。

 焦れば焦るほど、叩かれる度合いが酷くなる

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・バシンッ・・・

 そして、逃げようとして壁に激突。

 今度は、後ろにいないだろうと思い、前だけに意識を集中した。

 シンジは竹刀を振り回す。

 しかし、自分の竹刀を避けるように バシンッン!! と何度も打たれる。

 堪らず、場所を変えて移動すると角に入り込んでぶつかり倒れた。

 照明が点灯。

 レイは、自分が移動する前の場所にいる。

 『シンジ君。だいぶ良くなっているけど焦ったら駄目よ』

 『冷静になりなさい。角に追い詰められたら逃げ場がないのよ』

 「はぃ」

 『しょうがないわね・・・』

 『わたしが見本を見せてあげるから、上がって見ていなさい』

  

  

 道場の上の階

 『シンジ君。わたしが手を上げたら電気を消して』

 ミサトは、おもむろに手を上げる。

 シンジは、目の前にあるスイッチを押すと部屋が暗くなり。

 赤外線フィルターを通して、マギが画像処理した姿が、ガラス越しに映し出される。

 二人の場所を変える足運びは、プロフェッショナルだった。

 レイは、いつも訓練して感覚が鋭敏になっており。

 ミサトは、レイの動きを観察していて予測がついていた。

 真っ暗な中、互いに相手の方向を捕捉。

 虚々実々の駆け引き。

 二人の間合いは、徐々に縮まり、互いの竹刀が接触。

 瞬間。

 二つの竹刀が相手のいた空間を一閃。

 紙一重で、かわした。

 シンジは、いつの間にか手に汗を握る。

 竹刀が打ち合い。

 また、一閃する。

 微妙に位置を変えているのに相手の立ち位置を捕捉、

 竹刀が当たらない。

 照明が付いていても、おかしくないような戦いが続く。

 ・・バシンッ・・・

 ミサトの竹刀が、ついにレイを捉え、肩を打った。

 レイは顔をしかめ、慌てることなく下がる

 ・・・バン・・・

 ・・・バシンッ・・・

 次の瞬間。

 ミサトが竹刀を横に倒しての突進。

 レイが竹刀を縦にして受け止める。

 レイは、猫のような動きで右に避け、

 すれ違いざま、ミサトの面と、レイの胴が決まる。

 ・・・バシンッ!!・・・

 今度は、互いの竹刀がぶつかった後。

 レイは、ミサトの竹刀を紙一重でかわし。

 ミサトに胴を決める。

 その後、数分にわたってミサトとレイが打ち合い。

 やや、ミサトが優勢で終わる。

 『・・・わかった? シンジ君。がんばってね』

 「はい」

 シンジは、絶対に勝てないと確信する。

 その後も訓練が続き、

 シンジは、レイに一撃も食らわすことができず。

 レイに打たれ続けた。

 『レイ。もっと強く打たないと駄目よ』

 『手加減したらシンジ君の感覚は、鈍いままよ』

 ・・・バン・・・

 ・・・バシンッ・・・

 ・・・っ・・・・

 ・・バシン・・・

 そのあと掛け値なしに痛かった。

 レイが手加減していたのがわかると嬉しくもあり、悲しくもあり・・・・

  

  

 NERVの訓練は、内容が濃い。

 ハーモニックステスト。

 エヴァとパイロットのシンクロ率向上は、最優先。

 しかし、長時間のシンクロは、心身に悪影響があるため時間が制限される。

 空いた時間を訓練や戦術講義に割り当てられた。

 レイは、時々、赤木研究所に行く。

 それを除けば、シンジと行動し、

 シンジは、闇打ち訓練も、通常の組み手も、レイに勝てず、実力差に悩む。

 ミサトとレイの組み手も凄まじい。

 レイは、ミサトの突きや蹴りを肘や膝で受けて、打撃を軽減、ミサトに痛撃を与える。

 不思議なのは、これだけの訓練をしているのにも関わらず、

 レイが細く痩せていたことだろう。

 学校の同級生は、レイの戦う姿を信じないはずだ。

 無駄なぜい肉を落とした。

 どこかの有名な人形のような美しさがある。

 学校の成績は、トップ。

 休みがちで機会がないらしく、

 運動の分野は、それほど目立っていない。

 手を抜いているのか。

 見た目で周りが期待していないのか。

 不当な評価をされても気にしない性格なのか、不思議な女の子だった。

 シンジは、レイに惹かれながらも実力差で釣り合わず、気が引ける。

 『・・“好きだ” と言ったら、きっと馬鹿にされるよ』

 シンジは、レイに関節技を極められ、捻じ伏せられ、

 ・・・はかない初恋だった・・・

 ぼんやりと考えていた。

  

  

 ブリーフィングルーム

 ミサト、シンジ、レイ

 「シンジ君、レイ」

 「今度の学校の進路相談。私が行くからね」

 「リツコが忙しくていけないからレイの進路相談も、わたし」

 「進路ですか?」

 「そう、一応、夢みたいなものはあるかしら」

 「といっても、NERVの最重要機密と関わっているから、制約が多いけどね」

 「どんな制約ですか?」

 「他の勢力には、いけないとか」

 「NERVの印象を下げてしまうような職業に就けないとか」

 「NERV江に書かれているような制約」

 「思いっきり。限定されているじゃないですか」

 「ははは、まあ、高校は、保安上。第三東京市内の高校」

 「一番成績の低いシンジ君に合わせてしまうけど。じゃ そういうことで」

 ミサトが去っていくとシンジは引きつる。

 「綾波・・・ごめん・・・僕のせいで、レベルの低い高校になるなんて」 情けない。

 「気にしなくて良い」 無表情

 「でも綾波は、中学でもトップの成績なのに」

 「どうでもいい事だもの」

 「・・・・」 理解不能。

  

  

 日曜日

 シンジとレイの休みが、ようやく巡って来た。

 互いに誕生日に買ってもらった服を着ると、デパートに買い物に行く。

 シンジは、はかない恋と思いながらもデートのようで楽しい。

 「碇君は、どこで買ったの?」

 レイは、初めて来たのか、物珍しそうにしている。

 「僕は、選ぶのが面倒だったから、一人暮らしのセット物にしたんだ」

 「いくつかタイプがあるよ」

 シンジは、自分が買った店に案内した。

 「そこにする」

 レイは、木目と葉模様を基調にした落ち着きのある電化製品と家具をセット物で選ぶ。

  

 使徒襲来で危険な第三東京市。

 それでもNERV経済に吸い寄せられ、単身赴任者が増えていた。

 この種の商売も成り立つ。

 シンジは、第三東京市デートコース本を買って研究。

 展望台の食事を選んだ。

 第5使徒が壊したビル群や穴を見ながらの食事は、当事者だけあって、妙な気分だ。

 シンジは刺身定食。

 レイは焼き魚定食を頼む。

 「第5使徒。爆発しなくて良かったね。」

 「ええ」

 「魚は大丈夫なんだ」

 「ええ」

 「綾波は、いつも、なに食べているの?」

 「ラーメン。パン。栄養剤」

 「・・・・・」

 正直に呆れる。

 「なに?」

 「自炊とかは、しないの?」

 「ラーメンを作るわ」

 シンジ、引きつる

 「そういうのばかり食べて、ものすごく強いのが信じられないよ」

 「痛かった。ごめんなさい」

 「い、いいんだ。僕が弱いだけだから」

 「それに僕なんか、頭も良くないし、体力もないし、カッコ悪いよね」

 「役に立っているのは、碇君だから・・・・・」

 「どんなに強くて頭が良くても、ATフィールドが展開できなければ、使徒に負ける」

 「いま、使徒に勝てるのは碇君だけ・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「碇君は、どうやってATフィールドを展開しているの?」

 「リツコさんやミサトさんにも聞かれたけど、よくわからないんだ」

 「いまは、壁のようなものをイメージしているけど・・・」

 「・・・・・」

 「最初は、ATフィールドなんて知らなかったから・・・」

 「リツコさんに “自己分析できないなら解剖するわ” って言われたときは、泣きたくなったけど・・・・」

 「そう」

 レイは、失望したように呟く。

 「ごめん。役に立てなくて」

 「いいの、私のほうが長いのに・・・」

 レイは首を振る。

 「あ、あのさあ、綾波」

 「なに?」

 「綾波は、お父さんと・・・どういう話をしているの?」

 「NERVのこと、学校のこと、それだけ」

 「僕は、そんな話しも、話しかけられていないんだ・・」

 「僕は・・・・必要とされていないんだ。きっと嫌われている・・・・」

 「でも、碇君の父親・・・私には、いない」

 「ごめん」

 「どうして、謝るの?」

 「えっ あっ 綾波のお父さんが、いないの知らなくて」

 「そう」

 「お母さんは?」

 「いないわ」

 愕然

 「・・・ごめん」

 『最低だ、僕は・・・』

 「どうして、謝るの?」

 「えっ あっ 綾波のお母さんがいないの知らなくて」

 「そう」

 『どうしよう。これ以上、失敗出来ない』

 「あ、食事が終わったら、6階のイベントフロアに行かない?」

 「3Dの恐竜王国やっているって」

 シンジは、目敏くポスターを見つける。

 「ええ」

 6階フロアのほとんどを使う3Dイベントは、人気があった。

 実物大で迫力満点の恐竜が立体映像で闊歩している。

 空調で、それらしい匂いが流れ、

 大地の振動は、感性と理性を狂わせていく。

 !?

 ティラノザウルスが目の前で大きな口を開けて威嚇する。

 冷や汗が流れ、逃げたくなる衝動に駆られる。

 ふと気付くとシンジの手がレイに握られている。

 レイは目の前の恐竜に驚いていた。

 『やった〜』

 シンジは、心の中で叫んだ。

 『お父さん。呼んでくれてありがとう』

 シンジは、思わず父ゲンドウに感謝し、

 レイと手をつなぎながら映し出される映像を楽しんだ。

 『生きていて良かったよ〜』

  

  

 シンジとレイは、配達物が届く前にマンションに戻る。

 配送屋が家具の運び入れと設置。

 シンジも少し手伝う。

 レイの部屋が見違えるようになってシンジもホッとする。

 

 レイは、なんの感慨もないのか、無表情だった。

 

 

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