月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 「硬化ベークライトで固めていますが生きていますよ。間違いなく」

 「人類補完計画の要ですか?」

 「第一使徒アダムの種子」

 ゲンドウポーズのまま呟く。

 

第08話   『ダブルエントリー』

 綾波ビル (最初の住人の名前をとって、綾波ビルと呼称されるようになる)

 

 404号室

 アスカの荷物が次々に運び入れられ、

 壊れた家具の大半、電化製品ほとんどがビルの前に捨てられている。

 「きゃぁ もう、信じられない!」

 「空母に載せていたのに家具も電化製品も全部壊れているじゃないの」

 「ムキィ〜 弁償よ。国連艦隊に弁償してもらうからね」

 アスカは大騒ぎ。

 シンジは12隻沈んだ戦いで何人死んだか、考えたくもないのにと呆気に取られ、引き攣る。

 「シンジ!」

 「えっ なに、アスカ」

 「ちょっと、付き合いなさい」

 「ど、どこに」

 「買い物よ。急ぐわよ。早く」

 シンジは、アスカに引き摺られるように総務のコダマさんの車に乗せられる。

 もちろん、シンジの事情は、まったく聞かない。

 『拉致?』

 「一番、高くて格調の高い、家具と電化製品が売っている店に行って。急いでね」

 「わかったわ」

  

 『第一印象って当たるんだな・・・』

 『でも、本質ってなんだろう』

 『第一印象と違うのかな。ミサトさん、面白がって適当なこと言ってんじゃないかな』

 ふと気付くと、アスカが憮然と睨んでいる。

 「え、なに? アスカ」

 「シンジ。なにボケ〜 としているの」

 アスカは、不機嫌。

 どうしていいかわからず。

 前を見るとコダマはバックミラー越しに何か言いたげな表情。

 「別に。ボケ〜 となんかしてないよ」

 シンジが、そう言うと、アスカは、ますます不機嫌。

 コダマは、首を振りながら、ため息。

 「そう。ボケ〜 としているか、してないか、そのうち教えてあげるわ」

 アスカの眼は、かなり怖い。

 そして、ある種の緊張感が不意に襲ってくる。

 ミサトやレイが組み手をしている時のような空気。

 『うっ、アスカにボロボロにされそうな予感』

 シンジは、経験からアスカの方が強いと確信する。

 そして、アスカに付き合わされ、高級家具店と電化製品の店を巡る。

  

 そして・・・・・

 『・・・シンジ君。アスカは、美人で頭が良いから』

 『いつも男の子に褒められているのが当たり前なの・・・・』

 「・・・・・」

 『シンジ君がアスカを褒めなかったら、怒ったままよ』

 と、コダマに耳打ちされる。

 『褒めるなんて、どういう風に言ったらいいかわかんないよ』

 『そういうのも、新鮮でいいかもしれないけど、かなり厳しい綱渡りになるわね』

 「ははは」

 シンジ。人間関係より、使徒戦が楽だろうか、と思い始める。

 「シンジ、コダマ。食事に行くわよ」

 アスカは、食事中も、あれやこれやと不満を話し。

 コダマは、アスカの荷物の補償請求で先に帰る。

 「日本も車運転できないんだよね。ちょっと不便ね」

 「アスカ、車運転できるの?」

 「できるわよ。あったり前でしょう」

 「エヴァの操縦よりわずらわしいけどね」

 「でも年齢のせいで乗れないなんて、ドイツといい、アメリカといい、日本といい。頭にくるわね」

 「コマーシャルで免許なしでも乗れる。完全自動操縦の車が売られるって言ってたけど」

 「買う! 買うわ。それ、いつよ」

 「法改正とあわせて9月だったっけ」

 「さすが日本。進んでいるわね」

 「そういえば、アスカ、二号機の操縦、上手かったね」

 「船と船の間を跳び回るなんて、僕には無理だよ」

 アスカがニンマリと微笑む。

 「ふふふ、これでもシンクロ率70パーセントよ」

 「へえ、凄いよ。僕は47くらいかな」

 「それで、ATフィールドが展開できるのはなぜ?」

 「リツコさん、ミサトさん、綾波にも聞かれたけど、良くわからないんだ」

 「そう。まあ、時間の問題ね。ATフィールドを展開できれば、わたしがエースよ」

 「うん」

 「あんた、覇気というものがないの、野心、向上心、上昇志向、闘争心」

 「うん」

 アスカは頭を抱える。

 「あ、あ、あんたみたいな人間がどうして、サードチルドレンになれるのよ」

 「し、しかも使徒3体も止めを刺すなんて、むかつく。むかつく、むかつく」

 「アスカって。綺麗で頭がいいのに変わってるね」

 アスカは、喜んだような、怒ったような、不思議な顔をする。

 「シンジ。あんた、好きな娘いるの?」

 「えっ いや・・・その・・・」

 シンジ。モジモジ。

 「ふ〜ん・・・そういうこと・・・」

 「好きな娘がいる男は、わたしに似たような態度をとるけど。あんたは、かなり重症ね」

 「いや、そういうわけじゃ まだ、中学生だし」

 「ガキ・・・オムツは取れた?」

 「そんな〜 酷いよアスカ」

 「ふん・・・じゃ 服を買って帰るか。来るのよ」

 「えぇ・・・まだ、買い物があるの?」

 「あったりまえよ。配達してくるのは夕方。船が朝について、よかったわよ」

 「ったく。太平洋艦隊が、わたしと二号機を護衛していたんじゃなくて」

 「わたしと二号機が太平洋艦隊を護衛していたなんて・・・」

 「・・・・」

 「いい迷惑よ・・・わたしがいなかったら全滅じゃない」

 「ははは・・・」

 「それに、なに?」

 「あのマンション。廃墟じゃない、周りに誰もいないし、何も無いし」

 「シンジは、食事どうやってんの?」

 「自炊か、帰る前に店でなにか買うか。外食」

 「リツコさんにもらっている錠剤も意外とおなか膨れるよ」

 「ふ〜ん・・・ファーストチルドレン、どんな娘」

 「綾波・・・んん・・・あまり話さないけど、おとなしい女の子かな」

 「あんたたち、好き合ってんじゃないの?」

 「えっ・・・好き合っているなんて・・・そんなんじゃないけど」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 その後、シンジは、アスカの荷物持ちで高級ブティックを連れ回された。

 両手に紙袋を抱えたシンジが戻ってきたのは、宅配トラックが付いたときで。

 そして、当たり前のようにアスカにこき使われるシンジは、下僕だった。

  

  

 NERV

 赤木研究所

 ミサトとリツコ

 「・・・リツコ。どう?」

 「今回の戦闘記録だと、ATフィールドは、間違いなくシンジ君ね」

 「もうひとつ、シンクロ率74パーセントは最高記録よ 」

 「普通なら異物として判断されていたにもかかわらず。最高記録」

 「ありえないはずなのに・・・」

 「本当は、良くわかっていないんじゃないの?」

 「ええ」

 ガクッ!

 「あ、あんたね。そんなものに子供乗せて戦わせてんの?」

 「そうよ」

 ガクッ!

 「き、聞くんじゃなかった・・・で?」

 「複座のエントリープラグ。研究してみる価値はあるわね」

 「エヴァとチルドレンのシンクロ率を向上させる研究は進んでいたけど」

 「エヴァの反応テストを広範囲にする暇が無かったから」

 「はぁ〜 実は、大人が乗っても動く、という落ちは無いでしょうね」

 「それは無いわね。ミサトが乗って試しても良いけど」

 「ぅ・・・」

 「セカンドインパクト以後、生まれた子供じゃないと」

 「人間側じゃなく、エヴァ側にシンクロされ、精神汚染されるわね」

 「・・・・」

 「まあ、人身御供で10万人くらいエヴァに取り込ませて、分母を小さく出来るなら、あるいは・・・」

 「げ、外道じゃないの・・・それって」

 「また、綺麗ごと言って、外道の度合いの問題。そうでしょう」

 「そ、そりゃあ。100人くらいだったら・・・努力しても良いかなって・・・」

 「そういうものよ・・・・100人でも、10万人でも、外道は、外道よ」

 「気にするのは外道の度合いだけ」

 「偽善者ぶるつもりは無いけいどサードインパクトより。マシよ」

 「10万人を人身御供に捧げるよりも?」

 「・・・・・」

 「ミサトは、どうなの? 戦闘記録」

 「幸運ね。使徒が時間切れを狙っていたらパイロット二人と二号機はアウト」

 「ついでに太平洋艦隊を失っていたわね」

 「増槽バッテリーを背負っていたから良いけど」

 「運良く空母に落ちてこなかったらサルベージで、一日か、二日、潰れていたし」

 「碇司令の命令でしょう」

 「零号機が修理改装中で動いていないのにレイじゃなくて、シンジ君を連れて行ったの」

 「さすがに友達は、連れて行けなかったけどね。機密の問題もあったし」

 「司令は、むくれていたわよ」

 「友達の安全が脅かされればパイロットも、がんばるって、思っていたみたいだったから」

 「げっ! シンジ君に対する思いやりじゃなかったの」

 「あんたね」

 リツコが呆れる

 「はぁ あの親父。相変わらずの外道ぶりか・・・」

 「結果、良しだからいいけどね」

 「戦闘記録を見る限り。勝因は、ATフィールドと高いシンクロ率」

 「アスカ一人だけでも。レイとアスカの組み合わせでも勝てなかった」

 「こちらの賭金が多くて心配だったけど、勝ちは変わりないわね・・・」

 「危険過ぎる賭けだけど、碇司令の強運ね」

 「リツコ。本当に強運なの?」

 「だいたい。何で使徒が太平洋艦隊を襲ってくるわけ」

 「・・・」

 「使徒が狙っているのは、ジオフロント地下のリリスのはずでしょう」

 「何で太平洋艦隊を襲ってくるのよ」

 「エヴァ二号機と太平洋艦隊の持つエネルギーの総量が移動は、使徒の興味を引くでしょう」

 「ルート上なら当然ね」

 「腑に落ちないんだけど」

 「でもマンタ型で、どうやってジオフロントに行くの?」

 「自己精製能力。使徒は自分自身を再構成することができる」

 「必要なら自分の体を改造するでしょう。それに飛べないとは限らないし」

 「まったくわけがわからない、生き物ね」

 「そうね。第6使徒のサルベージは?」

 「碇司令と太平洋艦隊の残存艦隊と戦自艦隊が出てるけど」

 「今度は、NERVの権限が及び難いから、かなりのサンプルが抜かれるわね」

 「初号機をS装備で回収に行かせたいけど零号機は修理改装中」

 「二号機も修理中で初号機だけが頼りだもの」

 「レイとアスカがATフィールドを張れなければ、初号機頼りは同じよ」

  

  

 研究所のドアが開くと、レイが立っていた。

 「・・・赤木博士。終わりました」

 「そう、ご苦労様。レイ。帰っていいわ」

 「はい」

 「レイ」

 「はい」

 「かわいい服ね。あなたが買ったの?」

 「いえ、碇君が誕生日プレゼントで買ってくれました」

 頬が少し赤い

 「へえ、シンジ君。やるぅ〜 レイも奥手だと思っていたら隅に置けないわね〜」

 さらに頬が赤くなる。

 面白げなミサトとリツコ

 「よく似合っているわ、レイ」

 「ありがとうございます」

 レイ。モジモジ。

 「レイは、シンちゃんのこと、好き」

 ミサト、にやにや。

 レイ、さらに赤くなる

 「わ、わかりません。し、失礼します」

 レイが帰って行く

  

  

 綾波マンション

 朝、

 アスカは、シンジとレイが走って学校を行くのを眺めていた。

 『何で走ってんの、あの二人』

 「さて、NERVに行くか」

 アスカは、下で待っている。コダマの車に向かった。

  

  

 NERV

 通路を歩くアスカ、リツコ、ミサト。

 アスカは、碇司令との会見の後、荒れていた。

 「なんで、いまさら中学なのよ」

 「わたしは大学でてるのよ。NERVで働いていた方がマシよ」

 「研究所で引き取ってもいいと碇司令に言ったけど。碇司令の命令よ」

 「保安上の問題もあるし」

 「貴重なパイロットをほかの事で疲労させるよりは、良いと思ったんじゃないの」

 「日本の大学でも十分にやっていけるわよ」

 「まず、漢字を覚えてからね。漢字を覚えないと日本では、勉強も、仕事もできないわよ」

 「んんん。むかつく」

 「そんなに怒ること無いでしょう。前向きに考えて漢字を覚えるには良いステップよ・・・」

 「同世代との楽しく愉快な語らい。青春の一こまよ・・・」

 「同世代なんてガキよ。ガキ」

 「あのシンジを見たら、わかるわよ」

 「私より6ヶ月も年上なんて信じられない。小学生じゃないの、あれ」

 リツコが噴出した。

 「アスカ・・・シンジ君やレイと仲良くするのよ」

 「特にシンジ君をいじめちゃ駄目よ。彼、細いんだから自殺しちゃうわ」

 「人聞きの悪いこと言わないでよ。あんな中坊、いじめる暇ないわよ」

  

  

 ハーモニックステスト

 管制室に喚声が上がる。

 「・・・アスカ、ATフィールドを確認したわ」

 ミサトの言葉にアスカは不適に微笑んだ。

 「シンクロ率72.5パーセント。後でじっくりと話が聞きたいわね」

 『当然よ』

 「エース誕生ね」

 『私に任せて、大船に乗った気持ちでいいわよ』

 「シンちゃんとの相乗りが良かったのかしら・・・」

 『そ、そんなこと無いわよ・・・・あんなやつ』 むっ

 「リツコ。午後は、シンちゃんとレイも一緒に乗せてみない?」

 「試してみる価値ありか」

 「種馬シンちゃんね」

 噴出す、リツコ

 『バ、バカ言ってんじゃないわよ。ミサト。あ、あんなやつ関係ないわよ』

 「もし、感覚的な世界なら、ある程度、ATフィールドに必要な要素が絞れるし」

 「三人には違いがあるの?」

 「これからよ・・・・・アスカ・・・・上がって良いわよ」

 『はい』

 

  零号機 初号機 二号機
  綾波レイ 碇シンジ 惣流アスカ
素体 0.8 1.0 1.2
ハーモニックス率 22 55 15
シンクロ率 38 50 72
       

 

 発令所

 リツコ、ミサト

 「んん・・・説明は?」

 「エヴァと精神的な繋がりのハーモニックス率は、シンジ君、アスカの順」

 「そして、エヴァとの肉体的な繋がりのシンクロ率で、アスカ、シンジ君の順」

 「今回、ハーモニックス15パーセントでアスカがATフィールドを発生させたのは?」

 「エヴァとの精神的なつながりは、ATフィールド展開に決定的な役割を果たしていない」

 「多分、レイも発生できるわね」

 「ハーモニックス率が高いということは、シンジ君の精神がエヴァに近いということ」

 「んん・・・一概にそうと言い切れないけど」

 「最初に乗ったときシンクロ率の高さは、ハーモニックス率の高さに比例していた」

 「シンクロ率でいうとアスカが努力家なのね」

 「別の要因があるのか、特異な例なのか、エヴァの個体差なのか・・・・・」

 「相対的な関係から判断するとハーモニックス率が高い方がシンクロ率上昇に有利よ」

 「精神汚染が怖いけどね」

 「シンジ君は精神汚染の心配が無いでしょうね」

 「自動的に抑えるようにプログラムしているし」

 「こっちも強制的に切ることもできるから暴走しなければ」

 「リツコ・・・もっと何とかならないの?」

 「ならないわよ」

 「エヴァ本体が生命体よ。第一使徒アダムをサードインパクトを起こせないように去勢」

 「自律神経失調症で複製させているだけ」

 「パイロットは、エヴァに寄生して操っているだけなんだから」

 「エグイわね」

 「人類が滅ぶのと、エグイのと、どっちが良い?」

 「エグイの・・・・」

 「とにかく午後は、シンジ君とレイを初号機。あと、零号機で試してみるわね」

 「レイがATフィールドを発生させることができたらシンジ君のおかげ、使徒戦で戦える」

 「例え、アスカが認めたくなくてもね」

 「リツコ。零号機は、いつ改装が終わるの?」

 「零号機は、第5使徒戦の火傷が治っていない、試作機は復元力が弱いの」

 「戦力は、多い方が良いんだけどね・・・」

 「シンジ君がATフィールドで零号機を守ってくれなかったら、年内の修復は不可能だったわ」

 「レイも死んでた?」

 「シンジ君がATフィールドを展開しなかったら」

 「あと3秒の掃射で冷却器のリミットを飛ばして、LCL液は、80度。死んでたわね」

 「それで、レイちゃんも、シンちゃんに惚れたかな」

 「レイちゃんのシンちゃんを見る目が違うもの」

 「戦場心理も大きいわね」

 「戦友は、親子、夫婦の絆を超えるときがある」

 「まして、それが男と女なら、なおさら」

 「でも、シンちゃんて、奥手と言うのを完全に超えているわね」

 「次の使徒戦で死んだら、とか、思わないのかしら」

 「もっと刹那的になるはずなのに・・・」

 「自分よりも強いレイちゃんに手を出し難いのはわかるけど」

 「人気があるのに同級生の娘にも手を出していないみたいだし」

 「だいたい、お金の使い方も渋過ぎ」

 「主婦じゃあるまいし、お徳用パックばかり買っているみたいよ」

 「そうね」

 「そういえば、レイは、もっと徹底しているそうじゃない」

 「主食が錠剤かパンで、たまにパンを食べるくらい」

 「402号室は、家具と電化製品が何もなかったんですって」

 「リツコ、上司なら、少しは、かまってやりなさいよ」

 「シンちゃんが服をプレゼントするまで制服4着しかなかったなんて諜報部員が呆れてたわ」

 「お金の使い方、知らないにもほどがあるわね」

 「年収2000万貰っている娘よ、お金の使い方まで干渉しないわよ」

 「誰かさんは、かなり刹那的に使っているみたいだけど」

 「そのうち、アル中、糖尿病、肝臓ガンで、成人病フルコースよ」

 「うっ」

 「わたしが渡している錠剤飲んでいるでしょうね」

 「酒のツマミ代わりに飲んでるわよ」

 「ったく。錠剤飲んでなかったら、あんた、入院よ」

 「でも体に良いのはわかるけど食感とか、味とか・・・」

 ミサトは、リツコが睨んだので止めた。

 「自炊しなさい。結婚できないわよ」

 「リツコだって、結婚してないでしょう」

  

  

 ブリーフィングルーム

 ミサト、シンジ、レイ、アスカ

 「紹介するわ。綾波レイ。零号機のパイロット」

 「そして、惣流・アスカ・ラングレー。二号機のパイロット」

 「よろしく。ファースト」

 アスカの高飛車

 「・・・・・」 無表情

 「まあ、仲良くしましょう」

 「どうして?」

 「その方が、都合が良いからよ」

 「命令ならそうするわ」

 無為なレイに対し。アスカから険悪な空気が漂い始まる。

 ミサトは予測通りの結果に、ため息。

  

  

 NERVの午後

 管制の応答が流れていた。

 ハーモニックステスト

 シンジとレイは、一緒にエントリープラグに入って待機

 最初は、シンジが主。レイが副になるため。

 シンジが座って、レイが横から両手を添える。

 「・・・第一次接続開始」

 「エントリープラグ。注水」

 コクピット内にオレンジ色の液が溢れる。

 狭い空間でレイと二人っきり。

 シンジの動悸が高鳴る。

 レイは、相変わらず無表情だった。

 「第二次接続。準備よし」

 「主電源接続」

 「A10神経接続。異常なし」

 「思考形態をシンジ君を主に」

 「初期コンタクト。すべて問題なし」

 シンジは、自分の意識がレイの意識と重なることに驚く。

 「双方向回線。開きます」

 シンジの体にレイの意識が重なっていく。

 レイの体にシンジの意識が滑り込む。

 アスカとまったく違う状態にシンジは、動揺し。

 レイの頬が、赤らむ。

  

 LCL液に浮かび上がる各種ディスプレーとコンソール

 そして、シンジとレイは、気持ちが良くなってくる。

 「ハーモニックス率58パーセント」

 「シンクロ率48パーセント」

 「重複率0.0049パーセント」

 発令所は、いきなりハーモニックス率とシンクロ率が向上したことに狂喜。

 シンジは、レイとの一体感に驚くばかり。

 レイも、シンジを意識している。

 その後、レイを主、シンジを副にして実験。

 ATフィールドが確認されると。管制室で歓声が上がる。

  

 休憩。

 零号機。レイを主、シンジを副に実験。

 そして、シンジを主、レイを副に実験。

 いずれも好成績を挙げて相乗効果が高いことが認められた。

 管制室でスタッフがデーターを見つめる。

 「零号機でも、ATフィールド発生を確認しました」

 「ハーモニックス率、シンクロ率も記録を更新」

 「二人の資質は近い、ハーモニックス率40パーセント以下なら異物として反応されていない」

 「レイが単独でATフィールドを展開できれば、使徒戦で余裕が出るわね」

 「そうね。二人とも上がって良いわよ」

 「どういう形で三人の心の変化がエヴァのATフィールドを発生させたか、絞れそうね」

 「そうね。心は、わからなくても。脳波の変化から推測することはできる」

 「えっ! なに?」

 「恐怖心」

 「恐怖心?」

 「レイとアスカは、訓練で恐怖心を自分なりに克服していた」

 「訓練されていないシンジ君は、恐怖心を克服できないでいた」

 「怖いものは怖い」

 「その感覚がエヴァに伝わり、エヴァがATフィールドを発生させている」

 「他にも要因があるけど、ほとんどは、それね」

 「そういうこと」

 「まだ、脳波形、心電図からの表層面での推測よ。もっと深いかもしれない」

 「深層心理になるとわからなくなる。宗教の世界に入っていくから」

 「心の設計図や構造は、大まかにしか、わかっていないし」

 「本質的な核が、どうなっているのか、わかっていないから」

 「心と頭脳、心臓のつながりも、不確定要素が多い」

 「結局、人間のことも、わかっていないのね」

 「脳死の植物人間に “バカ” と言えば、やはり、心電図で健康者と同じ反応があるし」

 「人工心臓つけている人に “バカ” と言っても脳波の反応は健康者と同じ」

 「心って何かしらね」

 「酷い実験しているわね」

 「もっと酷い実験もできるわ」

 「ごめん」

  

  

 NERVからの帰り

 シンジとレイが走り出す。

 不審に思ったアスカが追いかける。

 「・・・ちょっと、あんた達。何で走ってんのよ」

 「体力つけるために走れって、ミサトさんが」

 「恥ずかしい事してるわね。ファーストも・・・」

 「わたしは言われてないけど」

 「綾波は、僕に付き合うように命令されたんだ」

 「ふ〜ん。仲がいい事で・・・付き合いきれないわね」

 アスカが止まり、一人残される。

  

 

 

  

 学校

 2年A組。

 「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく」

 教室中に歓声が上がり。

 男子生徒の目の色が変わる。

 女子生徒は面白くなさそうに見ていた。

 

 

 昼休み

 シンジ、トウジ、ケンスケの昼食

 「おおっ〜 良いやないか。惣流さん」

 「うんうん。最高だ」

 「顔良し、腰の高さが違ってスタイル良しか」

 「日独クォーターか、燃えるな」

 「うん」

 シンジは、黙々と弁当を食べる。

 「シンジ。反応のないやつだな」

 「俺の評価だと学園ランキング、学年トップ。いや学園トップ間違いなしだぞ」

 「確かに美人だね」

 「ノリの悪いやっちゃな」

 「まあええ、シンジには、綾波がいるからな。惣流は俺に任せろ」

 「シンジは手を出すなよ」

 「そうだ。おまえには、綾波がいるんだからな。惣流には、手を出すな」

 「うん」

 「じゃ 今日は・・・」

 ケンスケがニヤリと微笑む

 「やるのか」

 「当然。ネットから判断しても7グループ20人が動く」

 「ネット外、個人で動く人間は不明だがシンジも付き合え」

 「な、なにを」

 「付けるんだよ」

 「撮りまくって売る。さらに私生活まで調べて、上手く行けば親しいお付き合い」

 客観的に聞くとストーカー。最低なやつだ。

 しかし、確信もって、力強く言われると。

 そんなものかと思ってしまう。

 「3人の中で身長がギリギリ釣り合うのは俺だけだな」

 「だ、駄目だよ。そんな、悪いよ」

 「あのな、お子ちゃまのシンジくん。ああいう美人が男から相手にされない」

 「それは、とっても失礼なことなんだぞ」

 「まあええ、エヴァのパイロットのおまえが戦線離脱なら好都合やな」

 「しかし・・いや・・まさかな・・・」

 「んん。なんや。ケンスケ」

 「どうもな、惣流は、エヴァのパイロットかもしれない」

 「なんやと」

 「親父の端末でな。エヴァ二号機が到着したらしい。備品も大量に入荷している」

 「そこに俺の情報網に入らずに突然の転校生」

 「これは、綾波、シンジの時と共通している・・・・」

 「それに太平洋艦隊の入港も宣伝されていない・・・なんか、ある」

 「ほ、本当か、本当なんか、シンジ」

 トウジがシンジの胸倉を掴む

 「し、知らないよ、そ、そんな話し」

 守秘義務で、シンジの視線が泳ぐ。

 トウジとケンスケは、シンジの表情で全てを悟る。

 「そ、そうなんか、高嶺の花かもしれん」

 崩れるトウジ

 「取り敢えず確認に行こう。本物なら途中で意識不明になる」

 そして、学校からNERVに向かう途上。

 男子中学生が随所で倒れ、寝ている。

 奇怪な光景が見られた。

  

  

 NERV 

 訓練場

 シンジ、レイ、アスカ、ミサト

 シンジとアスカ。レイとミサトの組み合わせで組手が始まる。

 レイとミサトの組み手は、いつもの如く行われている。

 アスカは、シンジを無視。

 ボゥー とレイの動きを見ていた。

 シンジは、どうしたものかと躊躇する。

 「良いわよ。かかって来て」

 「うん」

 シンジは、手を出せない。

 ふと気付くとアスカが目の前に来ている。

 打てば、間違いなく当たる。

 シンジは、特に構えてもいないアスカに手が出せない。

 「ミサト〜 この子、殴れないわよ」

 組手をしていたレイとミサトが固まる。

 シンジは、いつの間にか、アスカに頭を撫でられている。

 ミサトも、レイも、気付いていた。

 シンジは、相手が打ちかかって来たとき反撃する人間で

 積極的に人に殴りかかるような人間ではない。

 最初から、わかっていたことで

 本質に目を瞑り、取り敢えず訓練していた。

 闇打ち訓練の割合が増えているのもシンジの勘を鍛えるためだった。

 相手が見えない方が本気になるのが実情。

 「アスカ。いいから、まじめにやりなさい」

 アスカが呆れたように構える。

 そして、鞭のようなしなやかさで突きが打ち込まれる。

 あまりの速さにガードが間に合わない。

 ヘッドギアが音をたてて軋み。

 シンジは、3m近く殴り飛ばされる。

  

  

 シンジが気付くと、レイとアスカの組み手。

 そばにミサトが座って見ていた。

 アスカは、レイより10cmほど背が高い。

 レイの戦い方は、ミサトに対する戦い方と違う。

 「大丈夫? シンジ君」

 「あ、はい。一発で気を失ってしまうなんて」

 「アスカは、ドイツ軍の格闘術を習っているの7年よ。レイが戦自の格闘術6年」

 「僕だけ素人ですね」

 「使徒戦では、シンクロ率を伸ばす方が効率良いけどね」

 「綾波とアスカ。気が合うかもしれませんね」

 「その可能性は、低いわね」

 「でも、二人とも凄いですね」

 シンジが自嘲気味に呟く。

 「気にすること無いわよ」

 「でも、人として劣っているのは辛いですよ。頭脳も、体力も、意欲も」

 「人としての価値は、それだけじゃないわよ。過去の実績。シンジ君は良くやってくれている」

 「14歳の子供を突然呼び出して、わけのわからないものと戦わせている・・・」

 「悪いとは思っているのよ。これでも」

 「なんか、慣れてしまって・・・最近は、こういうのも良いかなって、思ってます」

 「そう。それは、レイのおかげかな。一緒に風呂に入っちゃったし」

 「な、何言ってるんですか。そんな・・・」 シンジ。赤くなる

 「どっちが好き? レイとアスカ」

 「どっちって、僕なんか、相手にされるわけないじゃないですか・・・」

 「・・・・・」

  

  

 闇打ち

 暗闇のシンジとアスカ。

 アスカは、遠慮なく、シンジを攻撃。

 シンジは、レイのやさしさがわかった。

 シンジの振り回す竹刀はまったく、カスリもしない。

 アスカの竹刀だけがシンジに振り下ろされる。

 コツ、コツ

 それどころか、時々、アスカは、竹刀で床を叩いて音を立てる。

 『弄ばれている』

 シンジは、ネズミが、ネコに挑みかかるような気分で打ち込むと空振り。

 いつの間にか後ろに回られ、頭に一撃というパターンも多く。

 レイのときより痛かった。

 もっとも、レイとの違いもある。

 少なくとも打たれる瞬間、圧迫感を肌で感じる。

 『何で真っ暗なのにこっちの居場所がわかるんだよ』

 と考えていた時。

 突然、腕を捻られて、そのまま、背負い投げで倒される。

 「竹刀が、なくても勝てるわよ」

  

  

 闇打ち レイとアスカ

 二人の戦いは、ほぼ互角。

 組み手はアスカがやや優勢で。闇打ちはレイがやや優勢だった。

 シンジと、レイ、アスカとの力の差は、離れ過ぎていた。

 それでも、二人の動きの良さは参考になり。

 シンジの勘も、体力も、少しずつ良くなっていく。

  

  

 コンフォート17

 ミサト、シンジ、レイ、アスカが、すき焼きの材料を持ってミサトの住処に入る。

 ドアを開くと、とんでもない匂いが漂う。

 照明がつくとゴミの海が部屋全域に広がっている。

 絶句するシンジ。

 無表情のレイ。

 引きつるアスカ。

 「これは!?」

 「・・・・・」

 「このゴミと匂いは、なに? 使徒の攻撃?」

 「遠慮しないで入って、チョッチ散らかっているけど、今日は無礼講よ」

 「パイロット3人揃って、親睦を深めましょう」

 「ミ、ミサト。あんた。これが人間の住む部屋・・・」

 「ちょっち。時間が無くてね。片付けてないけど、気にしない、気にしない」

 「き、気にするわよ」

 「ミサト、あんた羞恥心てものがないわけ。人を呼ぶんなら少しは身奇麗にするでしょう」

 「あら、私は、毎日風呂に入ってるわよ。少し押しやれば大丈夫よ」

 ミサトが、足でゴミ袋を押しやって、道を作ると、家族用大型テーブルの上に材料を載せる。

 シンジは、固まっていた状態から、自己修復。

 何とか、再起動すると、ゴミを片付け始める。

 「だ、誰もミサトのことなんか心配していないわよ」

 「良くこんな部屋に住んでいられるわね。頭おかしいんじゃないの」

 「はぁ〜 アスカ、細かいわね」

 「ミサト、あんたと話していると発狂しそうになるわよ。常識ってものがあるでしょう。常識」

 「だいだい。ゴミは、分別しなさいよ。ドイツじゃ犯罪よ」

 「ふっ 現実の前で常識なんてものは、空しい観念でしかないわ」

 「なに哲学こいているのよ。ばっかじゃないの・・・」

 「この現実を何とかしなさいよ。結婚できないわよ」

 「な・・・な、何ですって、アスカ。すき焼き作るのも食べるのも支障ないわよ」

 「ちょ、ちょっと、ファースト。あんたも何とか言いなさいよ」

 「・・・・・」 無表情。

 アスカは、ムッとする

 「シンジ。あんた、なんと言ってやりなさいよ。このゴミ女に・・・」

 「えっ」

 シンジは、黙々とゴミを袋にまとめては、外に持って行こうとしている。

 ガックリ

 「シンちゃん。大丈夫だからテーブルの上を片付ければすき焼きパーティはできるから」

 ミサトは、テーブルの上のゴミ袋を隅に置くとすき焼きの準備を始める。

 「ファースト。あんたもゴミ袋を運びなさいよ」

 アスカが仕方なしにゴミ袋を外へ運び出す。

 「キャッ!!」

 物陰から現れたペンギンが驚く。

  

 

  

 ペンギンは、綺麗になっていく部屋に喜んでいるのか、あちらこちら歩き回る。

 「な、何よ。これ」

 「ペンギンだ」

 「・・・・・」 レイ

 「温泉ペンギンのペンペン。私の家族よ」

 「・・・・・」 シンジ

 30分もすると、シンジはリビングと台所のゴミを片付け、

 ミサトの押しの強さが無理やり場を盛り上げ。

 なんとなく。すき焼きを食べる雰囲気になっていく。

 「っぷふぁあ〜! やっぱり、エビちゅうは、最高よ♪」

 「・・・・」

 「あれ、ファーストは、食べないの?」

 「肉は嫌い」

 レイは、ごはんといくつかの惣菜と漬物だけを食べている。

 「・・・そ、そうだった・・・・」

 「へえ、こんなに美味しいものが食べられないなんて、かわいそう♪」 愉快

 

 

 

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第07話 『アスカ襲来』
第08話 『ダブルエントリー』
第09話 『瞬間、こころ、重ねて』
登場人物