月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

 『膨張してしまった・・・恥ずかしい・・・・』 シンジ

 シンジは、プクプクと湯に沈み、

 加持は、知らぬ顔して微笑む。

 温泉ペンギンのペンペンが楽しそうに泳ぎ回る。

  

第13話 『ファーストキス』

  

 浅間山の旅館

 夕日を見ながら浅間山を見るアスカとミサト。

 ミサトの胸から脇腹にかけて古い傷跡が残っていて、視線がいくアスカ

 「これ、セカンドインパクトのときにチョッチね」

 「・・・・・」

 陽が沈んでいく

 「ミサト。知っているんでしょう。私のこと、みんな・・・」

 「報告書以上のことは、知らないけどね・・・」

 「お互い昔のことだもの・・・気にすることないわよ」

  

 亀の間

 八畳二つの部屋で少年は、一人だけだった。

 シンジが疲れて寝ていると。

 明かりが点いて、シンジが眼を覚ます。

 ふと見るとアスカが枕元に浴衣姿で座っていて、もの凄く色っぽい。

 「な、なに・・・アスカ」

 寝ぼけたシンジが半身を起こそうとする。

 アスカは、ため息混じりにシンジを見つめ・・・

 唇が近付いてくる。

 !?

 唇が重なる。

 アスカの両腕に首を巻かれたまま、シンジが押し倒される。

 驚!!!

 アスカの柔らかい唇に口を塞がれて声が出ない。

 アスカの心地良い香りが包み込み、

 アスカの豊かな胸が自分の体に押し付けられる。

 シンジは、アスカの体に触って良いのか悪いのかわからず。両腕が固まる。

 しばらくすると重さなっていたアスカの唇が離れる。

 「「・・・・・」」 シンジ、アスカ

 呆然としているシンジは何も言えない。

 「食事よ。鶴の間で食べるから来て・・・・」

 そういうとアスカが出て行く。

  

  

 鶴の間

 ミサト、アスカ、シンジ

 温泉ペンギンのペンペンが生魚を飲み込んでいる。

 アスカは、美味しそうに食べ

 シンジは、動揺のあまり焦点が合わない、

 そして、ミサトは、それを面白そうに見ながらジョッキを片手に食べていた。

 「・・・シンジ君、ちゃんと食べないと勿体無いわよ」

 「こんなに美味しい料理はめったに食べられないんだから」

 「は、はい」

 シンジ、顔が赤い

 「あら、シンジ君、どうしたのかな。何かあった?」

 「・・・・・」

 アスカは、涼しげに食べていた。

 「い、いえ、何も・・・・疲れただけだと思います」

 「軟弱なやつ」

 「アスカ、軟弱なシンジ君に助けてもらったんでしょう。ちゃんと礼は言ったの?」

 「したわよ」

 シンジは、引きつる。

 『あれは助けた礼だったんだ』

 「ふ〜ん」

 ミサト、察しが付いたのかニヤリとする

 「じゃ わたしもシンジ君に礼をしたほうがいいわね」

 「“熱膨張” 本来なら、私か、リツコが気付いてしかるべき事だったから」

 シンジ、焦る

 「いえ、け、結構です」

 ミサト、ムッとする

 「シンジ君・・・・いい根性しているわね」

 「あっ! い、いえ、そんな、僕は・・・」 シンジ、慌てる

 「「・・・・・・」」 ミサト、アスカ

 「シンジ君。レイちゃんとキスした?」

 「えっ いえ、そんな、まだ・・・」

 シンジ、真っ赤。

 ブッ!

 アスカが噴出した。

 ミサトとアスカが笑い出した。

 「可笑しい。自分の部屋にレイを何回も連れ込んでいるのに何もしてないなんて」

 「あははは・・・くっ くっ くっ」

 「ファーストにキスしろって、言ったじゃない。くっ くっ くっ」

 「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないですか、勉強を教えてもらっているだけですから」

 シンジがムッとすると、

 ミサトとアスカが爆笑し、

 シンジがむくれる

 「ごめん、シンちゃん。もう笑わないから」

 「ごめんね。ほら、好きなもの注文していいのよ」

 ミサトが慌ててメニュー表を出すが、テーブルの上は、ご馳走で溢れんばかり。

 「もういいです!」

 シンジは、憮然と食べ

 アスカとミサトは、ニヤニヤ

  

 シンジが部屋に戻ろうとしたとき、アスカに腕を組まれた。

 神出鬼没なのだろう。

 訓練されているシンジが、まったく気付かない

 「少し歩こう。シンジ」

 「うん」

 旅館の中庭のシンジとアスカ。

 身長差でアスカは、シンジよりも10cm程度背が高い。

  

 月が綺麗だ。

 「わたしのファーストキスだから」

 「えっ!」

 「勉強と訓練ばかりだったから、恋愛どころじゃなかったもの・・・・」

 「まぁ 癪だけど、シンジは、命の恩人だから」

 「気にしなくても、良かったのに」

 「そうはいかない、わたしは自分の命に価値があると思うもの」

 「助けられたら命の代償を払うべきよ」

 「・・・・・・」

 「私のキスは、良くなかった?」

 「え、ああ、気持ち良くて、その・・・良い香りがして、ボーとして、良かったです」

 「そう、シンジの唇も良かったわね」

 「ファーストには、秘密にしておいてあげるわ」

 「・・・・・・・」

 「それとも、わたしに乗り換える」

 「えっ、で、でも、なんか、アスカにも、綾波にも悪いことしているみたいで・・・」

 「どうしたらいいんだろう」

 「はぁ シンジって、お人よしね。変わってるわ」

 アスカが呆れる

 「温泉でも、加持さんに同じこと言われた」

 「えっ! 加持さんいたの、ウソ。どこにいるの?」

 「風呂上がったらすぐに帰るって、僕と話したかったみたい」

 「「・・・・・・・・」」 アスカ、シンジ

 「気が削がれたわ」

 「じゃあね 帰ったらファーストにキスしてあげなさいよ」

 シンジ、呆然とたたずむ。

 『アスカが僕とキスしたなんて・・・』

 『僕のこと馬鹿にしてたのに命の価値なんだ』

 『好きとかじゃないんだ・・・いいのかな』

 『綾波、僕とキスしてくれるかな。イヤだとか言って突きなんかされたら悶絶しちゃうよ・・・』

 『違う・・・僕は、キスしようとして綾波に嫌われるのが怖いんだ』

 『でも、アスカがあんなことするなんて・・・』

 『僕はどうしたら良いんだ・・・でも、アスカが綾波にキスしろだなんていうし』

 『僕のことが好きじゃないんだよな』

  

  

 翌朝

 シンジ、アスカ、ミサトは、のんびりと浅間山近辺を散策しながら、商店街を見て回る。

 ミサトとアスカは、セカンドインパクトのドサクサで流れた掘り出し物があるのか、

 あれや、これや、物色して土産物を購入。

 シンジは、心ここにあらず。

 キスのこと思い出し、アスカと距離が以前と違う気がして思い悩む。

 レイのお土産で、ネックレスを買うと、

 欲しい物が、あるわけでもなく、物珍しげに浅間山の噴煙を見て気分を紛らす。

 「シンジ、おいで」

 シンジがアスカに呼ばれて店に入る。

 「ったく、デザインが古いものばかりだから苦労するわ」

 アスカが、浅間山がプリントされているTシャツをシンジに見立てる。

 思わず、唇に目が行きそうになる視線を意識して逸らしてしまう。

 「あ、ありがとう。アスカ」

 「シンジ。少しは楽しみなさいよ・・・・」

 「駄目よ。シンちゃんは、レイがいなくて寂しいんだから」

 「・・・・・・・・」 シンジ

 「ひ、酷い、わたしとの事は、ウソだったのね」

 アスカが後ろを向いて泣くとシンジは狼狽。

 「えっ でも、あれは、アスカが・・・」

 「その・・・えっ」

 「ウソ!」

 アスカは、平然と振り返る。泣いたふりをしていただけ。

 シンジは、ムッとし

 ミサトは、笑った。

 「シンちゃん、もっと度胸付けないとアスカにいいようにかわいがられるわよ」

 「だけど・・・」

 「男は度胸、女は愛嬌。アスカは、なかなか愛嬌があるんだけどね」

 「どうせ僕は、度胸ないですよ」

 「もう、シンちゃん。そこで拗ねないの」

 「アスカは、命がけで助けてくれたシンちゃんに構って欲しいだけなんだから」

 「な、なに言ってんのよ」

 「ミサト。なんで、わたしが、バカシンジに構ってもらいたがるのよ」

 「本当? でも 『かっこ良かったな〜』 とか思ったんじゃないの」

 「お、思うか!」

 「シンちゃんは恋愛小説でも読んで、女の子の落とし方でも勉強した方がいいわね」

 「余計なこと教えんでいい!」

 『ミサトさんの言うこと本当に信じていいんだろうか・・・』

 『でもアスカを構うなんてどうやったら良いのかわかんないや』

 ミサト、シンジ、アスカの浅間山旅行は、シンジにとって刺激の大きなものだった。

 ミサトもシンジとアスカの仲を接近させたいのか、

 面白がって近付けさせようとする。

  

 「じゃ・・・特別夜間訓練をします」

  

 夕食後

 ミサトは、シンジとアスカを呼び出して宣言する。

 「この地図とコンパス。ライト。ペットボトル」

 「あとナイフとロープを持って、地図の×印が付いている場所に行く」

 「そして、熊のぬいぐるみを取ってきてね」

 「ミサト。あんた、昼過ぎからいなくなったと思ったら、こういう仕掛けをしてたわけ」

 「・・・・ていうか、これって、戦自の初等訓練レベルじゃない・・・勾配きつう」

 アスカが不平を言う

 「じゃあ・・・・がんばってね。二人とも」

 ミサトが手を振る。

  

 シンジは地図を見るが等高線を見ても勾配がわからない、

 キョトンとしているとアスカが手を引っ張る。

 「・・・シンジ。ボケボケしてたら、朝までに帰れなくなるわよ」

 「そんなに大変なの?」

 「平均30度の斜面が、合わせて500mあるわね。遠回りすると20kmは余計に回ることになる」

 「やな地形ね。あんたがいなければ、楽勝だけど」

 「うっ!」

 「ほら、行くわよ」

 アスカに引っ張られるように小走りで駆け出す。

 どこに行ったら良いか、わかっているらしく速い。

 旅館から離れると、回りが暗くなって、月明かりでなんとなく地形が、わかるだけ。

 アスカは、ライトを点けていない。しばらく走ると小道から山道に入り込む。

 「アスカはやったことあるの?」

 「30kgのリュックと10kgの突撃ライフルを持って、パラシュートで落とされて」

 「仲間を集めながら、作戦を成功させてキャンプ地まで敵中突破して戻るのよ。3日かけてね」

 「模擬弾使うけど、当たり所が悪いと痛いのよね」

 「・・・すごい」

 「それは、3回ほどね。今回のは、程度低いから覚えてない」

 「す、すごい」

 「規模が大きいゲームみたいなものよ。今回は、装備からして敵中突破は無しね」

 「帰り道、一人でも帰れるようにちゃんと覚えておくのよ」

 「はい」

 シンジは自己嫌悪に陥る

 「マムシに気を付けてね」

 「え・・・」

 青くなる

 「咬まれたら、ヒモで締めて、傷口をナイフでえぐり出して、ビニールを当てて血を吸い取るの」

 「直接吸い取ると歯茎から毒が回って即死することがあるから気を付けてね」

 「でも、少し速くない」

 闇夜の森の中で、シンジが怖気づく

 「緊張感があれば気付くし。めったに当たらないわよ」

 「対処の仕方さえ知っていれば、どんどん行ったほうがいいわ」

 「敵がいないのならね」

 「アスカ、タフだね」

 「シンジが、軟弱なのよ」

 「どうせ僕は、軟弱だよ」

 「まあ、だいぶ、マシになってきたわよ。最初に会ったときよりはね」

 「・・・・ありがとう」

 と、言ったものの。

 夜、月明かりだけでの山道を駆け走るという経験はない。

 これまで学校、NERVを走って往復。

 しかし、初めての場所。起伏の激しさ。闇。

 不安が重なり合って、疲労の度合いが、まったく違う。

 アスカは、規則正しく一定のリズム。

 息の荒いシンジは先行するアスカに、やっとの思いで付いていた。

 「少し休むわ。錠剤飲んで、おきなさい」

 アスカは、適当な場所を見つけると座る

 「えっ!」

 「少し余力を残さないとね。基本的に誰も助けに来ないはずだから」

 「・・・助かるよ」

 シンジは、水と錠剤を飲む。

 「いま、周りに保安部員が何人いると思う?」

 「いるの・・・保安部員が」

 「当然・・・パイロット直属の護衛部隊よ」

 「二人まで、見つけたけどね」

 「もっといるはずだけど、さすがに一流ね。簡単に見つからない」

 シンジが周りを見回すが気配を感じない。

 「何人くらい、いるんだろう」

 「さあ、わたし達、国家元首以上の価値があるはずよ。10人以上いるはず」

 「国家元首以上なのに10人以上」

 「ひとりに対し二つ以上の追跡衛星が動いているのよ」

 「周囲5kmも自動的に探査される」

 「その気になれば、狙撃もできるはず」

 「大げさだね」 シンジ

 「そうね。プライバシーもないみたいだし」

 「部屋の中には、ないよね?」

 「ないはずだけど、外からでも、探ろうと思えば探れるし」

 「でも、狙撃できるような衛星があるなら、それを敵が打ち上げたら・・・」

 「僕たちを守るのって、大変じゃないかな」

 「まったくね。わたしが使徒なら、間違いなくパイロットを皆殺し、ゆっくりとリリスに向かうわね」

 「アスカが使徒でなくて良かったよ」

 「使徒の思考年齢は、思ったより低い」

 「構造は地球上の物体をいくつか形状的に模倣」

 「力を発揮してリリスに向かっているけど戦略面でド素人」

 「ミサトの指揮で何とか戦ってるのが良い証拠よ」

 「彼らが知恵。ずる賢さを身に付ける前に倒さないと手に負えなくなるわね」

 「そうだね」

 「・・・悪いけどわたしのリズムで歩かせてもらうわ」

 「わたしがリズムを崩すと失敗するかもしれない」

 「でもわたしがリズムを守れたらシンジを守れるかもしれない・・・・」

 「全面的にお願いするよ。実を言うと、ここが、どこか、わからないんだ」

 『ミサトにしてやられたわね』

 『わたしが自信喪失しないように仕組まれたわけね』

 アスカは、シンジの地図に線を書き印をつける。

 アスカに続いて、シンジが、木の枝、根っこ、岩を掴んで崖を登る。

 しばらくするとアスカの行動に一定のリズムが、あることに気付く。

 見つかりやすい場所での移動は早く、見つかり難い場所では比較的ゆっくり。

 そして、ゆっくりしているとき、次に移動する道を計算していく。

 不意に気付くと、片手だけで草を絡めて罠を作っているのに気付く。

 彼女にとって、護衛部隊も対象らしい。

 恐ろしく合理的でありながら、予測させないように不便な道筋も選び、周囲に気を配る。

 アスカの気配そのものが著しく小さくなり、

 視界に入っていないと、森野の中に、一人でいるような気分になる。

 ふと気付くと目の前を歩いているはずのアスカが消える。

 次の瞬間、背中から目の前にナイフを突き出されていた。

 「・・・・・・・」 アスカ

 「・・・・・・・」 シンジ

 「シンジ。ぼぅ〜 としていたでしょう」

 「・・・いつの間に?」

 「目の前にいる人間を見失うようじゃ 保安員は見つけられないか・・・」

 「でも、ぼぅ〜 としていたら死ぬよ」

 アスカは、ライトを地図とコンパスを見るとき以外使わず。

 使っても短時間で、闇の中に溶け込もうとしていた。

 崖を上がり、

 そして、崖を降りる。

 アスカの動きに慣れたのか、シンジもリズムを掴み始める。

 「地図で、今どこかわかる?」

 ここかな、シンジは地図を指差した。

 アスカが少しずれた場所に印を付ける。

 「二年ぐらい前にドイツでミサトと一緒にやったことがあるわ」

 「二年前って12歳」

 「11歳よ、14歳の誕生日、まだだもの」

 「うっ そういえばアスカ、6ヶ月年下だったんだ。情けな〜」

 シンジ。自己嫌悪

 「あのね。わたし大卒よ。大卒。日本で言えば修士課程持っているのよ」

 「博士課程は、まだだけど。年齢だけで、私を判断しないでね」

 「・・・はい」

 「別に萎縮することもないけど」

 「ミサトと気が合うようになったのも、それが切っ掛けだったわね」

 「そうなんだ」

 「敵味方になったこともあったわね」

 「すれ違いざまに互いに模擬弾で撃ち合ったけど」

 「そのまま、目標に向かったから勝負付かず」

 「僕とは、別世界だ」

 「・・・そのわたしが、あんたに命を助けられる。納得できないわね」

 「えっ でも、そんなに気にしないで」

 「わたしが気にするわよ。ったく、ファーストも結構頭にくるし」

 「あ・・・アスカ」

 「何よ」

 「どうして、アスカは、綾波が嫌いなの」

 「人形だからよ。自分の意思を持ってないロボットだからよ」

 「そうなんだ」

 「でも、熱膨張は、何日か前に綾波に教わったところだから」

 「お礼にキスするなら綾波にした方が」

 「バカ言うな。私がファーストとキスなんかするか」

 「ったく。そういうこと言うな」

 ボカッ!

 シンジが殴られる

 「黙っておけば、平穏に済まされるものを・・・むかつく」

 「・・・・・・・」

 「シンジは、ファーストを見て、何も思わないわけ」

 「えっ な、仲良くしたいかなって」

 「あ、そう」

 アスカ。脱力。

 「今度、アスカと綾波でこれをやってみたら、仲良くなれるかも知れない」

 「イヤよ。仮に同じチームになっても、一緒に行動しないもの」

 「それだと作戦が、失敗するんじゃ」

 「いやなものは、いやよ」

 「ミサトも、それがわかっているから、私とファーストの組み合わせを作らないでしょう」

 「まぁ 勝手にやってもファーストの力量は見当付くから相互支援くらいするでしょうけど」

 「強いよね」

 「そうね、でも、この手のミッションはやってないと思うけど」

 「わかるんだ」

 「知識で知ってても経験はないわね」

 「訓練が直線的で実戦向きじゃないの、リツコの教育の仕方かしら」

 「あの・・・綾波は、生きるのが不器用なだけだと思うんだ」

 「それに不器用になったのは、綾波の責任じゃないと思うけど・・・・」

 「・・・むかつくわね」

 「えっ!」

 「シンジがファーストを庇うとむかつく」

 「ごめん」

 鼻の頭を指で弾かれる。あまりの速さに避けることもできない。

 「そうやってすぐに謝るのもむかつく・・・殴るって、言ったでしょう」

 「・・・・・」

 「行くわよ」

 「うん」

 アスカとシンジが地図の×印に付くと切り株の上に熊のぬいぐるみが二つ座っていた。

 アスカは、すぐに近付かず。

 大きく周りを一周する。

 まるで、隠れている保安員を狩りだすような。目付きだ。

 熊を取ってリュックに入れる。

  

 「後は、帰るだけか。シンジが先導して!」

 「僕が・・・む、無理だよ。できないよ」

 「ふ〜ん。最初に初号機に乗る時も、そう言ったんだ。変わらないやつ」

 「ぼ、僕にできると思う?」

 「情けないやつ」

 「わかったよ・・・やるよ」

 シンジが先導する。

 地図とコンパスを見て、コースを確認。来た道を戻ろうとする。

 いままで、アスカ任せにしていた事柄を意識しなければならず。

 自分が、正しいのか、間違っているのか、考えなければならない。

 降りたコースをそのまま登る。登ったコースをそのまま降りると不都合がわかる。

 疲労の度合いが、まったく違う。

 先導するということは、マムシと出会う可能性も高く、恐怖感が増す。

 正しい方向に向かっているのか、知らなければならず。

 アスカは、何も言わず平然と付いてくる。

 アスカが先導するよりも、はるかにゆっくりとした速度。

 それでも現在位置を計算しながら、地図とコンパスを何度も見なければならない。

 シンジは、次第に情けなくなり、涙ぐんでくる。

 アスカに見られないように顔を拭くが悔しさがこみ上げてくる。

 アスカは、あまりの遅さに怒るでもなく、何も教えるつもりがなく、歩くだけ。

 シンジは、等高線を見ながら必死に方向と距離を計算しながら、

 日の出のころに旅館に続く小道に出る。

 ホッとする。

 自分が計算していた小道とずれていたが確かに旅館に続く道。

 「シンジ。ご苦労様」

 アスカは、そう言うと、シンジの頬にキスする。

 「計算より・・・ずれていたよ。もっと旅館に近い場所に出るはずだったのに」

 「最初だから、そんなものよ」

 「でも、アスカ、何で怒らなかったの?」

 「わたしも、最初のとき、怒られなかったからよ」

 「そうだったんだ」

 「レベルが違うけどね」

 「実戦なら60回以上死んでる。それも全滅」

 「うっ・・・・」

 「まあ、2回でも、60回でも、死ぬのは、最初の1回目だけど」

 「サイコロで60回。1を出し続けることが出来れば生き残れるかもね」

  

  

 旅館の前にミサトが立っている。

 「遅い。二人とも。すぐに朝食。温泉に入ったら、第三東京市に帰るからね」

 「ミサトさん・・・・もの凄く、眠たいんですけど」

 シンジは情けなく手を挙げた。

 「しょうがないか。帰るのは夕食後」

 「はい」

 「行きが2時間で、帰りが8時間か。熊のぬいぐるみは二人にプレゼントするわ」

 シンジは、食べて温泉に入る以外はずっと眠る。

 そして、夕食後、ミサト、シンジとアスカは、重戦闘機で第三東京市に戻る。

 保安部員が、シンジとアスカを車に乗せてマンションに戻ったのは10時過ぎ。

 シンジは、部屋に戻るとリュックから熊のぬいぐるみを取りだして居間の机の上に置く。

 苦しかったことが思い出され。

 なんとなく。ミサトさんに感謝してしまう。

   

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 人間関係で、微妙に違和感ありでしょうか。

 一人暮らしをすることで、家族ゴッコでない。

 他人同士の緊張感が生まれます。

 一緒に生活していないので、ダラダラとした関係でないのか、

 短い時間で、密度が濃くなるような気がします。

 ということで、短い出会いの中でミサトさんも考え、シンジ、アスカも行動します。

  

 

 

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第12話 『マグマダイバー』
第13話 『ファーストキス』
第14話 『平和は良いね』
登場人物