月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

 閃光!!

 爆発のエネルギーがワイングラスの口に向かって発射され、

 成層圏を突き抜け宇宙空間に噴出していく。

 ATフィールドに覆われ、上空500mに浮いていた初号機が静かに降下して着地。

 そのまま倒れ込んだ。

 「・・・・・・」 絶句して、言葉のない発令所。

 「「・・・・・」」 レイ、アスカも呆然とする。   

   

第18話   『奇跡の後は』

 病室303号室

 シンジが目を覚ますと白壁の病室だった。

 「はぁ・・・全身が痛い」

 「大丈夫。シンジ君」

 リツコが声をかける。

 「・・・生きているということは、成功したんですね」

 「ええ、うっかり、医療関係者まで脱出させてしまったから。わたしが処置したわ」

 「慣れてなかったから、少し痛みが残ったみたいね。ごめんなさい」

 「いえ、リツコさん。助かりました。ありがとうございます」

 「一応、神経接続で支障もないし。外傷もないけど」

 「念のため医者が戻って、もう一度、検査を受けてから退院になるわ」

 「そうですか。綾波とアスカは無事ですか?」

 「ええ、無事よ・・・レイは問題ないけど・・・・・アスカは・・・・」

 「アスカは?」

 「怒っているわ」

 「・・・何か、あったんですか?」

 「シンジ君が戦果を独り占めしたからよ」

 シンジは、キョトンとして、リツコと見つめ合う。

 「ふっ はははは・・・」

 シンジは、力なく笑う。

 「・・・私もね」

 「・・リツコさんもですか?」

 「ええ、第10使徒。全て宇宙空間にまで吹き飛ばしてくれたわね・・・」

 「サンプルゼロは、初めてよ」

 「コア破壊の確認も不可能」

 「す、すみません」

 「冗談よ。シンジ君は、命の恩人だから謝ることはないわ」

 「・・・」

 「初号機が物理的に押し潰されそうになった瞬間」

 「あなたのハーモニックス率が71パーセント」

 「シンクロ率が120パーセントに跳ね上がったわ」

 「そして、ATフィールドは、計測器を振り切って、観測も出来なかった・・・・」

 「アスカは聡明だけど、落ち着くまで少し時間がかかるわね」

 「・・・・」 シンジ

 「ごめんなさい。疲れているでしょう。薬を飲んで休むと良いわ」

 「はい」

 リツコは、やさしく、シンジを支えて起こすと薬を飲ませる。

 「おやすみなさい。シンジ君」

 「おやすみなさい。リツコさん」

  

  

 電車

 ミサト、レイ、アスカ

 「さてと、食事でも行きましょうか。ステーキは、シンジ君が退院してからね」

 「・・・・・」 アスカ

 「全市民が避難して、店は、閉まっているはず」 レイ

 「あっ 今日は、夕食なしだわ」

 「・・・・・」 アスカ

 「ラーメンなら作れます」

 「ほ、本当、レイちゃん。私にラーメン作ってくれるの・・・」

 ミサトが感動のあまり、涙をウルウルさせる。

 「・・・・」 アスカ

 「アスカ。レイちゃんがラーメン作ってくれるんだって。アスカも一緒でいい」

 「・・・問題ないわ」

 「わたしは、いらない」

 アスカはムッとしたまま

 「アスカ・・・怒らないで・・・」

 「シンジ君が悪いんじゃないわ」

 「シンジ君、死に掛けたのよ。だから、無我夢中だったの」

 「アスカやレイを好んで弾き飛ばしたんじゃないでしょう」

 「ミサト。シンジの側にいなくて良いの?」

 「ミサトの命令で死に掛けたんでしょう・・・」

 「そ、そうなんだけどね」

 「アスカ。怒らないであげて、シンジ君が可哀想でしょ」

 「あの子、細いから。アスカに辛く当たられると泣いちゃうわ」

 「わたしがいなくても、無敵のシンジ様だけがいればいいんでしょ」

 「シンジだけがいればいいのよ」

 「そ、そんなこと、ないったら」

 「アスカが必要なのよ、ね。アスカ、そんなに怒らないで・・・」

 「・・・・・」 アスカ

 「ほら、次の使徒が来た時は、アスカが先陣よ」

 「・・・・本当でしょうね」

 「はい、アスカが先陣決定!」

 「まぁ 今回は、シンジのほうが近かったし」

 「シンジがああでもしないと死ぬと思ったんだから仕方がないことかもしれないわね・・・」

 「じゃ・・・次はアスカの先陣ということでレイちゃんの部屋でラーメンを食べること」

 「な、何でそうなるのよ」

 「命令よ。イヤなら先陣の話しは無し」

 「・・・わかったわよ・・・お邪魔するわ、ファースト」

 「ええ」

  

  

 402号室

 ミサト、レイ、アスカ

 レイは、台所に立つとラーメンを作る準備を始める。

 ミサトは、興味深げにレイの部屋を眺める。

 アスカは、さっさと椅子にかけた。

 「・・・綺麗な部屋ね」

 「シンジ君の部屋の家具と電化製品と同じ、配置もソックリね」

 「模様が違うけどスッキリしている」

 「シンジが買ったところで買ったのよ」

 「ファーストの着ている服もシンジにプレゼントしてもらったものしかないし」

 「朝食も、昼食も、夕食も、シンジが作ってるし。生活の全部がシンジ絡み」

 「へえ〜 羨ましい。わたしがシンジ君を引き取ればよかったな」

 「何よ、それ、お手伝いさんにでもするつもり・・・って」

 「ファースト、ラーメンになにも入れないのあんた」

 「ええ・・・・これしかないもの」

 「朝昼晩、シンジに頼っているからそうなるのよ」

 「冷蔵庫なにも入ってないんじゃないの」

 「オカズを持ってくるわよ、ったく」

 アスカが部屋を出て行く。

 

 「ねえ、レイ。シンジ君と、どこまでいったの?」

 「・・・・・・・」

 レイは、キョトンとしている

 「キスした。シンジ君とキス」

 「・・・・・・」

 レイは、頬を赤らめながら首を振った。

 ミサトは呆れたように肩を落とした。

 あまりにも模範的な中学生の付き合いだ。

 そうあるべきなのだろう。

 しかし、死と隣り合わせ。

 明日、死ぬかもしれないパイロット。

 建前上、不純異性交遊は駄目でも、

 刹那的に求め合ったからといって文句を言えるはずもない。

 戦時下にあってシンジも、レイも異常な精神状態なのだろうかとミサトは思う。

 ミサトがふと見ると台所の一角に料理の本が3冊ほど置いてあった。

 「料理の勉強しているの?」

 「・・・・・・・・」 レイが頷く

 「シンちゃんに手料理食べさせるんだ」

 「・・・・・・・・・」 レイ

 アスカが戻ってきたとき、ラーメンが出来上がって器にのせていた。

 アスカは、海苔とキンピラを持ってきて、それぞれのラーメンにのせる。

 「へえ、アスカ、キンピラゴボウなんて作るんだ。凄いじゃない。日本人みたい」

 「ふん、わたしは、天才よ。これぐらい作れるわよ」

 「・・・美味しい」レイ

 「肉抜きは、それしかなかったのよ」

 「ミサト。ファースト肉駄目だからステーキは駄目よ」

 「あ・・・そうだった」

 「レイは肉駄目だったのよね。忘れてた・・・」

 「寿司にしよう。レイ、魚は大丈夫よね」

 「ええ、問題ないわ」

 「わたしは、いらないわ」

 「どうしてよ。アスカ」

 「何もしてないもの。シンジとレイだけ連れて行けば」

 「アスカ。あなたも来るの」

 「イヤよ。何もしてないのに食べたくない」

 「いい、アスカ、わたしは “成功したら” と言ったでしょう」

 「“成功したら” 成功したんだから、おとなしく、奢られなさい」

 「・・・わかったわ」

  

  

 病室303号室

 シンジが眼を覚ます。

 「シンジ君、起きた?」

 「ミサトさん」

 「検査の結果は、問題無しよ。ありがとう。シンジ君。本当に良くやってくれたわね」

 「退院できるんですか?」

 「ええ、すぐにでもね。避難していた人たちも戻ってきたし、元通りよ」

 「学校には、今日、休むって伝えたわ。NERVも、今日と、明日は、休み」

 「やったぁ♪」

 「ステーキは、レイちゃんが食べれないから、お寿司にするわね」

 「場所はアスカが探すから・・・」

 「いつがいい。シンジ君の都合の良い日に合わせるから」

 「寿司のほうが高くないですか?」

 「子供が、そんなこと心配するんじゃない」

 ミサトは、微妙に青。

 「アスカ・・・怒っているんですか?」

 「チョッチね・・・」

 「でも、次の先陣をアスカにすると言ったら気を取り直したみたい」

 「大丈夫なんですか。そんな約束して?」

 「良くないに決まっているでしょう。でも、それくらい怒ってたの」

 「ったくぅ」

 「シンジ君が、もっと大人でアスカを包み込めるぐらいの男の子ならアスカも落ち着くのにね」

 「でも僕なんか、何やってもアスカに勝てませんよ」

 「格が違いすぎて・・それに僕は・・・」

 「レイちゃんが好きなのね」

 「・・・・」 シンジが頷く

 「そうか、まぁ アスカのことは、私の方で何とかやってみるけど」

 「シンジ君の影響力が強いから・・・・」

 「僕なんか、相手にされませんよ」

 「アスカにとってシンジ君はライバルよ」

 「それも自分の努力を、何の努力もしないで足蹴にしてしまうね・・・・」

 「僕は、どうしたらアスカと、どう接したら良いんですか?」

 「レイちゃんとの兼ね合いがあるから、難しいのよね・・・」

 「あまり内罰的にならないで、相手の顔色ばかり見るのも止めなさい」

 「あと “僕はアスカのこと大切に思っているよ” くらいは、言ってあげて」

 「そ、それって」

 シンジが動揺する

 「何よ、レイに言ってないの?」

 「言ってません!」

 「あんた達。奥手というレベルを完全に超えて、仙人になってんじゃないの」

 「そんな、簡単なことじゃありませんよ。普通いえないじゃないですか」

 「まあ、年齢的に、早いことだものね」

 「まあいいわ。家まで送ってあげる」

  

 シンジが退院の準備をしていると、レイが見舞いに来る。

 「・・・もう、いいの?」

 「うん」

 「へえ、レイ。シンちゃんの見舞いに来てくれたんだ、やさしい〜」

 レイの頬が赤くなる

 「じゃ 私は邪魔ってことかしら」

 「・・・・・」 シンジ、レイ

 「邪魔者は消えるわ・・・・二人とも仲良くね」

  

  

 402号室、シンジ、レイ

 テーブルの上に海鮮カレーライスが置かれた。

 「綾波が作ったの?」

 「ええ」

 「美味しいよ」

 「ありがとう」

 「なんか、綾波、変わったね」

 「最初、この部屋に入ったとき、ハードボイルドって感じだったから・・・」

 レイの裸を思い出して、シンジの頬が赤くなる。

 「興味が出てきたから」

 「普通の生活に」

 「碇君に・・・」

 「・・・・・・・・・」

 『こ、これは、も、求めているんじゃ そうなのかな』

 『僕に興味があるということは、そういうことだよね・・・・』

 『でも、違っていたら・・・』

 『どうしたら、良いんだ。ここは死んだ気になって・・・』

 『いや、綾波に拒絶されたら・・・・』

 シンジが、思い悩む。

 「それで、わたしも、料理を作ってみようと思って」

 「どっちが良かった? 作らないときと、いまと」

 「・・・わからない」

 『わからないというのは、その気があるのか無いのか・・・』

 『わからないとう事かな。どっちなんだろう・・・困る』

 『・・・でも、その気があったら・・・どうしたら良いんだろう』

 「とても美味しいよ」

 「そう・・・碇君・・・あの時の強いATフィールドは、どうやってできたの?」

 「よく覚えていないんだ。押し潰されそうになってからの、意識がなくて」

 「そう・・・また、碇君に負担をかけてしまったのね」

 「そ、そんなこと無いよ・・・綾波にも第5使徒の時に守ってもらったから」

 「あの時は、それが私の任務・・・」

 「でも、あの時も碇君は、私を守るためにATフィールドを展開してくれたわ」

 「僕は、綾波を大切に思っているから」

 綾波の顔色が変わる。

 『言った♪ ついに言った。言えた』

 シンジは、自分に感動する

 「・・・・・」

 レイは、頬を赤らめてシンジを見つめる

 微笑むレイ

 『か、かわいい・・・かわいすぎる』

 シンジ。感動

 「碇君・・・わたし、これからも碇君の側にいて良い」

 「も、もちろんだよ・・・綾波が側にいてくれたら嬉しいよ」

 「ありがとう。碇君」

 シンジとレイは、コーヒーを飲むと勉強をすることになった。

 すぐ側に座って教えてくれるレイにキスしようか、

 押し倒そうかと思い悩みながら、時間だけが過ぎていく。

  

  

 日曜日の昼食。

 商店街

 ミサト、シンジ、レイ、アスカ

 ミサトとアスカは、シンジのすぐ側を寄り添うように歩く、レイをチラチラと見る。

 二人の関係がさらに近付いているのがわかるが距離を測りかねる。

 『どう思う。ミサト?』

 アスカが、ミサトに耳打ち。

 『二人とも淡白でベタベタしていないから、わかり難いけど』

 『でも、いってないと思う』

 『わたしも、そう思うわね。でもレイが異常に接近しているというのは何?』

 『完全にその気よね・・・』

 『シンジのやつ手を出して無いというのは、奥手じゃなく、臆病なんじゃない』

 『シンジ君の性格と育ちからして、対人関係で臆病なのは、仕方がないわよ・・・』

 『どういう育ち方よ?』

 『自分で聞きなさいよ。いくら私でも人のプライベートをペラペラ話したりはしないわよ』

 「二人で、何をコソコソと話しているんですか?」

 アスカはゆっくり振り返ると、不敵に微笑む

 「シンジ。こっちよ」

 アスカがさりげなくシンジの腕を組むと。

 自分の胸を押し付けながら引っ張る。

 「えっ ち、ちょっと。アスカ」

 シンジが慌てる

 「何? エースのシンジ君」

 アスカが顔を思いっきり近付ける

 「あ、いや、その・・・・」

 シンジが真っ赤。

 擦れ違う通行人が、一斉に見つめる。

 シンジを連れ去られたレイは、ひとり置いてけぼりを食らって、寂しげ。

 アスカは、ドギマギするシンジの顎を支えて、無理やり自分に向けさせる。

 「よくもやってくれたわね。シンジ。手柄を独り占めして嬉しい?」

 アスカが冷たい視線が目の前だ。

 シンジとアスカは、ほとんどキスせんばかりの距離。

 「そ、そんなこと・・・・無いよ」

 「正直に言いなさいよ。シンジ。私を出し抜いて、ざまあ見ろと思っているでしょう」

 「思ってないよ・・・・思っていません」

 シンジは、密着しているアスカの胸と体にボーとしながらも、

 アスカの目が怖い。

 身長と迫力の差から、男女が入れ替わっている。

 「本当かしら?」

 「ほ、本当だよ」

 突然。シンジは左腕を引かれ、アスカと引き剥がされる。

 「碇君は、悪くない」

 レイとアスカが睨み合う。

 シンジは、レイに腕を組まれていた。

 「ふんっ! シンジ。後で、じっくりと、あの時の話しをしてもらうからね」

 3人は、いつの間にか通行人の目を全て集めていた。

 『あの時の話しって・・・視線が集まっている』

 『どう考えても修羅場じゃないか・・・アスカ。わざとやったんだ』

 「・・・・・・・・・・」  レイ

 レイは、シンジと腕を組んで心地良いのか、

 そのまま歩いて寿司屋に入って椅子に座るまでシンジの腕を離さなかった。

  

 「並7人前。生ビール。あと適当にジュースと炭酸持ってきて」

 ミサトは、清水から飛び降りるような、覚悟でいう。

 「大丈夫ですか? ミサトさん」

 「大丈夫よ」

 「これでも三佐に昇進しているんだから。それに独り者だし・・・ははは・・・」

 ミサト、乾いた声で力なく笑う。

 「経費で落とせばいいのに・・・」

 「ゼーレに殺されちゃうわ。あいつら、そういうの厳しいから」

 「昇進ですか? ミサトさん。おめでとうございます」

 「あなた達のおかげよ・・・ごめんなさい」

 「子供を死に直面させて、わたしが出世しているなんて・・・・」

 「本当は、それほど嬉しいわけじゃないんだけどね・・・・」

 「NERVも世間体があって一定の戦果をあげた仕官を昇進させなければならないの・・・・」

 「あなた達の場合は、年齢の問題があるから、褒賞金と年棒に転化されるけどね」

 「旅行にいけるわけでも無し。いろいろ制限があって使い難いお金ね」

 「ええ、たぶん、NERVがなくなっても、あなた達の身柄は一生。監視されるでしょうね」

 「・・・もう、どうでも良いって感じね」

 「シンジ君は?」

 「僕は・・・・いまは、生き残ることが出来れば良いですよ」

 「それに先生のところにいた時より、生きているって感じます。死ぬのはイヤですけど」

 「レイは?」

 「わたしは、ほかの生き方を知らないから」

 「レイちゃん。シンジ君にほかの生き方、教わったら」

 「・・・・・」

 レイがコクリと頷き、

 シンジは赤くなる。

 「「・・・・・・・・・・・」」 アスカ、ミサト

 「むかつくわね。あんた達って」

 「やけ食いは止めてね」

 「うるさい。どこが良いわけ。こんな男と、こんな女と」

 アスカは、スシを食べる

 「こんな男とこんな女で釣り合いが取れていいのよ」

 「相手の価値に頼らないで、相手を愛せるのは、ひとつの生きる道よ」

 「何よ。ミサト・・・わたしは相手の価値になんか頼っていないわよ」

 「そうかしら。シンジ君が冴えないからって、邪険にしているわ」

 「そ、そんなこと無いわよ。可愛がってあげているわよね。シンジ」

 「・・・・・・・・・・」

 シンジも、ムスッとしながら食べる

  

  

 寿司屋を出るとレイは、シンジと腕を組んだ。

 「・・・碇君。こうしていると気持ちが良いから。こうして歩いていい」

 「うん。良いよ」

 シンジは、雲の上を歩いているような気分になる。

 「あら、シンちゃん、レイちゃん。だいたん」

 「お姉さん羨ましいわ。アスカ、邪魔みたいだから先に帰ろう」

 「わかっているわよ」

 アスカは、ムカムカしながら歩いて行く。

 

  

 青髪紅眼の綺麗な女の子に腕を組まれて歩いている。

 凡庸なシンジは、思いっきり注目されて眼を伏せる。

 『綾波は、目立つ上に綺麗過ぎるんだ』

 「・・・・ねえ、綾波、公園に行かない?」

 「・・・・・」 頷く

 シンジとレイは、花の咲き乱れる公園に入るとカップル、親子、子供達が歩いていた。

 遠くにある街並みが同心円状に外周に向かって破砕されている。

 それを除けば、普段の日曜日。

 「たくさん、壊してしまったね」

 「ええ、初号機と二号機は、音速を超えていたって」

 レイは寂しげに呟く。

 シンクロ率でシンジとアスカが70台、レイが50台だった。

 たとえどんなに体術で強くても初号機と二号機に比べ、零号機は劣勢だった。

 「本当なら怒られるよね。あんなに壊したら」

 「碇君がATフィールドで使徒を包み込まなければ、もっと大きな被害になっていたわ」

 「うん・・・でも、被害にあった人は怒ると思うよ」

 「僕は、トウジの妹に怪我をさせて殴られそうになったから・・・」

 「守秘義務が無くてパイロットって言っていたら殴られていたよ」

 「そう・・・」

 「この公園にいる人達。僕がパイロットと知ったら、何人が殴りかかってくるかな」

 「殴られないわ、碇君は、わたしが守るもの」

 「うっ それは・・・・なんか、情けないような」

 「碇君は勇敢よ」

  

 シンジは、公園でも注目を浴びていると感じる。

 レイは、まったく気にしていなかった。

 ふと見ると同級生の洞木ヒカリと新城チアキがアイスを食べながら、呆然とこちらを見ている。

 『うっ! 見られた。明日は教室中に知られるよ・・・』

 「何を見ているの?」

 レイの腕を組む力が少し強くなってシンジの腕がレイの胸に当たる

 「あの・・・二人で、歩いているところを同級生に見られたから」

 「・・・同級生なら3人に見られている。同じ学校の生徒なら8人に見られている」

 「ど、どうしてわかるの?」

 「覚えのある意識を飛ばしてくるから、数えるだけ」

 シンジは、めまいがした。

 「どうして、そういうのがわかるの?」

 「訓練しているでしょう。暗いところで打ち合って・・・・前にも言ったわ」

 「その辺が、まだ良くわからなくて・・・だから負けちゃうんだね」

 「慣れたら、もっと上手くなるわ」

 「人の意識が読めたりするの?」

 「なんとなく、その人の場所と動きがわかるだけ。殺意は特に良くわかる」

 『闇打ちで勝てる気がしないよ』

 シンジは、その域に達していない。

 「あ、あのさあ・・・」

 「ずっと前、初めて綾波の部屋に行った時、綾波を倒してしまったことあったけど」

 「あれは、どうしてかな」

 「綾波だったら、簡単に避けられたと思ったけど・・・」

 シンジは、裸の綾波を押し倒してしまったことを思い出して赤くなる。

 「メガネ・・・碇君が碇司令のメガネを持っていたから・・・」

 「それに碇君の動きが読めなかったから・・・」

 「動きが読めなければ、何とかなるのかな・・・」

 「次のとき、試してみたら」

 「な、なんか無駄な抵抗な気がしてきた」

 「そんなこと無い、上手くなってきている」

 「そういえば、ミサトさんが、もっと手っ取り早く強くなる手があると言ってたけど」

 「あるけど・・・・使徒が、いつ来るかわからないから、駄目・・・」

 「ど、どうして駄目なの?」

 「・・・言えない」

 「ま、まさか・・・か、改造されてしまうんじゃ」

 「そんなことはしない・・・・・エヴァとシンクロ出来なくなるかもしれないから」

 「綾波が、体育のとき本気で、やったら凄いだろうね」

 「必要以上に目立たないように言われているもの」

 「・・・・・」

 『いまでも思いっきり目立っていると思うけど。ここは突っ込んで良いのかな』

 「綾波・・・どこか行きたい所とかない」

 綾波は首を振る。

 『こ、困ったよ・・・』

 シンジとレイは、腕を組んで歩けるのが嬉しく。

 なんとなく、公園を巡って、夕食の材料を買って帰途についた。

  

  

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第17話 『奇跡の価値は』
第18話 『奇跡の後』
第19話 『第2使徒は、秘密よ』
登場人物