「休憩にしましょう・・・」
「先輩。第二使徒の名前って・・・」
「・・・ザフキエル」
「人間が必要な知識を的確に扱えるか、監視する天使よ」
第20話 『使徒、侵入』
闇打ち訓練
シンジは、暗闇の中、口笛の方向に向かって、用心深く、少しずつ接近する。
音を立てるということは、位置をバラして致命的。
普通ならこれで勝負あったなのだが・・・・
シンジは、ゆっくりと音のする周りを巡った。
口笛の音が僅かに低くなる。
真後ろがわかる。
シンジは、躊躇。
レイも、アスカも、加持に勝てない。
レイにも、アスカにも、勝てないシンジが加持に勝てるはずがない。
シンジは、打ち込んで、いいものか、疑心暗鬼。
たぶん、自分の位置は知られて、これから打ち込もうとしているのも、ばれている。
レイも、アスカも、これほど露骨に自分の位置をバラすようなことはしない。
シンジは、自棄になって打ち込む。
ジャストミートのはずが、
バシッ!!
という音とともに竹刀で弾かれる。
口笛の音は、低い状態のまま・・・・後ろ向きのはず。
・・・・・・シンジは悟る。
加持は、口笛の音量を変えて自分を正面に誘導させた?
つまり、こちら位置は、完全にバレていた?
『か、勝てるわけないじゃないか』
『だいたい、なんで、打ち下ろす竹刀がわかるんだよ』 泣き
「どんどん、打ち込んできていいぞ。シンジ君。訓練なんだからな」
闇打ちの訓練で話しかけられたのは初めてだ。
シンジは、遮二無二、口笛のする方向に向かって、竹刀を打ち下ろし、払う。
しかし、まるで見えているように竹刀で弾かれる。
むろん、突いても、軽いくいなされる。
『はぁ はぁ はぁ アスカが加持さんに惚れるわけだよ・・・・』
シンジは、散々しごかれた後。
コブラツイストをかけられ、沈黙。
管制室
初号機と2号機がシミュレーションで戦っている。
リツコとミサトが3Dでその様子を見ていた。
「どう・・・・シンジ君は?」 ミサト
「上がっているわね」
「ハーモニックス率67パーセント、シンクロ率76パーセントで安定している」
「どうやら。あの時は、暴走と言っても、いいみたいね」
「シンクロ率では、アスカと良い勝負ね・・・」
「でも、模擬シミュレーションでは、負けている」
「体術の差がそのまま出ているわけね・・・」
「もっとも体力でもアスカの方が上だけどね」
「体力は、この場合、あまり関係ないわ。体術は、もっと教えるべきね」
「でも、アスカ。焦っているみたいね」
リツコがニューロン・シナプスマップを見て呟く。
「また。フォローしないとね」
ミサトが、うんざり気味に呟く。
「そうした方が良さそうね」
「アスカのストレスの発散でシンジ君。コテンパンにやられているわよ」
「アスカ、結構、凶暴なのよね」
「まぁ あれでも、自分なりに押さえているけどね」
「シンジ君が簡単に捻じ伏せられているからよ」
「人格的にアスカを包み込んであげないとね」
「それが出来ればいいんだけど。シンジ君じゃ 役不足ね」
「それに。そんなことになったら・・・レイとの関係もあるから修羅場になるわよ」
「シンジ君とレイは、どこまで行っているのかしら」
「シンジ君。基本的に内罰的で対人恐怖症だから・・・」
「レイとの関係は、健全な中学生レベルね。キスもしていないみたい」
「一緒にダブルエントリーすれば、キスどころか。感覚、体感的に未知の領域なんだけどな」
「集中力、半端じゃないものね・・・」
「複座の訓練もした方がいいわね」
「その方がシンクロ率の上昇で都合がいいもの」
「そうね。その方が、レイのシンクロ率は、もっと上げられるわね」
「シンジ君とアスカもよ」
「アスカのハーモニックス率が上がればシンクロ率の上昇も早いから」
「アスカは嫌がるのよね。基本的にシンジ君を見下しているから」
「命令しなさいよ」
「もっと嫌がるのはレイよ。感情では、あまり出さないけど・・・」
「表情を見ると、かわいそうになっちゃって・・・」
「サードインパクトが起きたら?」
「わたしは、まだ結婚だってしていなのに」
「リツコ、出来るの? 起動確率と、どっちが・・・」
「ミサト。アンタね」
模擬シミュレーションの世界。
初号機のシンジは、二号機のアスカと対峙。
二号機が僅かに前傾姿勢をとる。
打撃戦で打ち合えばATフィールドで勝る初号機が有利だった。
しかし、ほとんどの場合、当たらない。
シンジは、でたらめに強いATフィールドで二号機の突きや蹴りに耐える、
二号機の中和が始まる。
シンジは、カウンターを狙って突きや蹴りを加え・・・
攻撃の多くは事前に読まれ、簡単に反らされ、捻じ伏せられる。
二号機にマウントポジションを取られるとゲームオーバー。
シンジは、ため息をついた。
モニターに無表情なアスカが映っていて、
アスカの考えは、まったく、わからない。
以前なら得意げなアスカの一言、二言、三言があった。
しかし、それも戦果の差か、最近は、何も言わない。
むしろ、そちらの方が怖い。
初号機と零号機のシミュレーションは、初号機の圧倒的なATフィールドで圧倒、
零号機の巧妙な体術を押さえ込んで引き分け。
とはいえ、エヴァの模擬シミュレーションはマシだった。
一定の時間以上のシンクロ使用は、危険と考えられ
対使徒戦で有益と考えられる体術訓練で補う。
シンジ VS アスカ
肉体を使っての体術の訓練だとATフィールドが使えず、
容赦なく打ち込まれ、いいように伸されてしまう。
たとえ、訓練用の衝撃吸収服を着ていても、まともに決まると悶絶。
アスカが、その気になれば腕をへし折られるか、
なぶり殺しにあうほど、実力が違う。
一方、レイは、比較的やさしい、というより義務的。
アスカがシンジをライバル視しているのと違い。
肉体を使っての体術は、レイがやさしく捻り上げる程度で終わらせてくれる。
発令所
冬月、青葉
「・・・確認したんだな」
「ええ、三日前に搬入したパーツです・・・この範囲で変質しています」
「第87タンパク質壁か」
「拡大するとシミのようなものがあります。なんでしょうね」
「侵食だろう・・・」
「温度と伝導率が変化しています。無菌施設の劣化は前例がありますが・・・」
「そこは、使徒が現れてからの工事だ。焦っていたのだろう」
「工期が60日近く短縮されたから、気泡でも混ざったのかも知れません」
「ずさんだな。B棟の工事は」
「無理もないですよ」
「いくら予算を投下されても仕事自体、増えるだけですから」
「下請けの半分が精度を上げるために3交替から4交替にシフトしているそうですよ」
「あれ?」
「ここのスペクトル偏差に差異があるのは、どうしてだ?」
「日本との取り決めと納期が間に合わないからパーツごと製造業者がバラバラなんだ」 冬月
「政治は面倒ですね」
「産業界の突き上げと、妥協の総意だよ」
「マギには、理解できないようだがね」
「明日にまでに処置をしておいてくれ、セントラルドグマに近すぎる」
「了解」
実験場
リツコ、マヤ、ミサト
「どうしたの?」
「侵食だそうです。この上のタンパク壁」
「テストに支障は?」
「いまのところ・・・センサーに異常は認められません」
「では、続けて。初号機の調査は簡単に中断できないし」
「スケジュールが詰まって、徹夜でも消化できなくなる」
「リツコ。模擬シミュレーションの時間が割かれるのは、納得いかないわね」
「砂上の楼閣で訓練しても使徒に勝ち続けられないでしょう」
「わかっているわよ。それくらい」
「大破した初号機の修復が終わるまで、シンジ君とレイは零号機に乗ってもらうことになるわ」
「使徒が来ないことを祈るわ」
「あの時の初号機の力を見ると、初号機抜きは辛いから」
「そうね」
「でも、スペック上は、二号機の方が上なんでしょう」
「ええ、戦闘に特化させた技術で生成されているし」
「アメリカで製造している3号機、4号機も二号機と同じものよ」
「規格を揃えないと予算がいくらあっても足りな・・・・」
突然。警報が鳴り響く
「なに、どうしたの?」 リツコ
「第8タンパク質壁が劣化発熱しています」
「第6パイプにも異常発生!」
「侵食部が増殖しています!」
モニターに映る侵食部が増殖、広がっていく。
「こっちに向かっている」
「第6パイプを緊急閉鎖。物理的にも切り離して! 実験停止」
「侵食が壁沿いに広がっています」 伊吹
「日向君。警備ロボットを出して、保安部にも出動を要請。戦闘ポットは何台ある?」 ミサト
「戦闘ポット14体です」
「この階層の警備ロボットは67体」
「保安部員175名はフル装備で待機するそうです」
突然。レイが叫び声を上げる。
「今度はなに?」 リツコ
「模擬体に異常発生。零号機の右手です」
ちっ!
リツコが舌打ち。
いくつかのスイッチを外すと零号機の右腕が吹き飛んで水中を漂う。
「レイは?」
「無事です?」
「ダミープラグ、緊急射出」
3本のエントリープラグが次々と射出されていく、
「日向君。準備は?」 ミサト
「戦闘ポット13体、1体が故障。警備ロボット67体が位置につきました」
「攻撃!」
レーザーが発射されると侵食部が破壊されていく。
しかし、徐々に色合いが変質していく。
突然。レーザを弾く。
そして、聞きなれた警報が鳴り響く。
「パターン青です」
「ATフィールド?」 リツコ
「まさか、そんな」 マヤ
オレンジ色の侵食部が怪しく光を放ち」
「戦闘ポットと警備ロボットのレーザーは、オレンジの壁に通用しない。
フル装備した保安部員が携帯用の “ロケットランチャーを発射準備完了”
と、空しく響いた。
「保安部員を退避させて、ロケットランチャーじゃ 無理ね」 ミサト
発令所
冬月は、焦りぱっなし
ゲンドウは、電話をかけている。
「使徒の侵入を許したのか」
『申し訳ありません』
「くぅ・・・・セントラルドグマを物理的閉鎖! シグマユニットを隔離しろ」
実験場
侵食部が切り離された模擬体の右腕から増殖。
実験場全体に広がって、管制室に向かってくる。
ミサトは、青緑に光る侵食壁と、波打っているLCL液に青くなっていく。
「ボックスを破棄! 総員退避!!」
スタッフが慌てて退避ししていく、
吹き飛んだ右腕から広がる光の模様が部屋の全域を覆って、ガラス面に到達。
ミサトが呆然としているリツコを引っ張って部屋を脱出。
同時にガラスが割れて発光したLCL液で発令所が水没した。
発令所
「わかっている。よろしく頼むよ」
ゲンドウが電話を切る
「警報を止めろ」
「・・・・・・・・・・・」 青葉
「警報をとめろ」 冬月
「は、はい。警報停止します」
「誤報だ。探知機の故障と日本政府と委員会に伝えろ」 ゲンドウ
「は、はい」 青葉
使徒の光は徐々に下降していく。
「碇・・・まずいぞ」
「ああ、リリスに近すぎる」
「なんとしてもシグマユニットで止めろ」
「ジオフロントは、犠牲にしても構わん」
「エヴァは?」
「第7ケイジにて待機。パイロット回収次第。発進できます」 青葉
「ただちに退避。地上に射出させろ」
「え?」 日向
「パイロットは、待つ必要がない」
「ただちに射出。初号機、二号機、零号機の順だ。急げ」
「はい」
「さて、エヴァ抜きで使徒と戦えるかな。状況が悪すぎる」 冬月
「11番目。カビでも模倣したのだろう・・・・・」
ゲンドウポーズ
セントラルドグマ内部。
コンテナの影から覗く加持
「あれが使徒か、仕事が出来ないじゃないか」
“シグマユニット。セントラルドグマは60秒後に完全閉鎖されます”
“真空ポンプ作動まで30秒です”
「やれやれ。長居は無用か」
発令所
「セントラルドグマ完全閉鎖。第15区画。使徒に占領されました」
マヤが状況報告をする。
「マヤ。第15区画全域の色合いの変化から、ムラがある」
「ここが重水の境目。酸素の量が多いところ」
「好き嫌いがあるみたいですね」
「こっちもか」
「無菌維持のためにオゾンを噴出させている層です」
「こちらの方が汚染されていませんね」
「酸素に弱い?」
「ATフィールドが張れるのに?」 ミサト
「矛盾しているけど、使徒がナノレベルの群体を選択したとすれば、ありえるわね」
「リツコ。コアは、どこにあるの?」
「・・・不明よ」
「コアがなくても使徒として形成できるものなの?」
「これまでの使徒の体積、容積からすれば、最小の使徒ね」
「コアを他の場所か、別の次元に隠して遠隔操作をしている可能性はある」
「でも、コアがリリスと接触しなければ、サードインパクトは起こせないじゃないの?」
「さぁ インパクトの瞬間は、わからないわね」
「コア無しは、初めてね。いままで、全てコアを潰してきたのよ」
「そうね。コアと発光体を完全に切り離すことが出来れば、力を失うとは思うけど」
「発光体そのものがコアの群体という可能性は?」
「どうかしら、マヤ。使徒の体積の総量は検討つく」
「エヴァと同じ比率で計算すれば・・・・244kgから276kgの範囲です」
「コアの質量の10分の1以下ね」
「15区画を完全に外部から遮断すれば、コアを捜索して叩き潰せば良いでしょう」
「外部から何らかの伝達が常時なされているか」
「完全自動でリリスに向かうようにプログラムされているか」
「自動的なものだったら」
「外部からの双方向通信は、リリスに到達したときの一度っきり、全てが終わる」
「外部と遮断しても、効果があるかどうか。わからないわね」
「・・・・・・・」 ミサト
「ミサト。今回は、わたしの領分。力技は通用しないわよ」
「伝達が行われているとすれば、何かの電波の類?」
「いえ、第15区画は、遮断されているわ」
「外部から伝達がなされているような、兆候はないわね」
「なに余裕かましているのよ。リツコ。本部内決戦なのよ」
「だいたい、危機感が喪失しているんじゃないの」
「第10使徒の時も本部に残っていたし」
「おかげでシンジ君の治療が間に合ったのよ・・・」
「3人でオロオロしていたじゃない」
「で。何とかしてくれるわけ」
「マヤ。オゾンタンクのバブルを全面開放。時間をかけないで一気にやって」
15区画のオゾンタンクから、オゾンが排出。
15区画全域にオゾンが満ち始める。
オゾンの量に反比例するように発光体の光が弱まっていく。
「効いてる。効いてる・・・・」 青葉
「オゾンの広がりにムラがある。使徒に耐性が付く前に落とさないと・・・・」 リツコ
「現在。15パーセント減。フォトンの量が25パーセント減です」 マヤ
「・・・ムラが多すぎる」
リツコが舌打ち。
「障害物で対流によどみが出来ているようです」
「換気を止めていますから。ファンだけでは・・・」 青葉
「・・・・」 リツコ
「いけるな」 冬月
「使徒がオゾンの薄い場所に集まりつつあります」 マヤ
「オゾンは、もっとないのか」 冬月
「閉鎖されていますから。15区画にあるオゾンは全て使いました」 マヤ
モニターでの発光体の減少が徐々に遅くなっていく。
「まずい・・・耐性が付きはじめた」 リツコ
「・・・減少が止まりました」
発光体が急激に増大し始めた。
「今度はオゾンを吸収しています。増大に転じました」 マヤ
「窒素、一酸化炭素系から酸素系か。進化したわね」
「マヤ。オゾンを止めて、ほとんど残っていないでしょうけど」
「過剰なエネルギー消費は、エネルギーの枯渇に脆いのでは・・・」
「酸素がなくなればか」
「基本的に使徒は外部からのエネルギーを必要としていないはず」
「先輩。コアは?」
「ナノレベルのコアか。分離して別位相空間に隠れているか」
「どちらにしても本体と断絶させれば機能を失って壊死するはずね」
「ニュートリノ、反ニュートリノによる通信だとお手上げですね」
「ATフィールドなら送受信が出来るけど、そういった機構はまだか」
「先輩。エヴァのATフィールドで遮蔽するしかないのでは」
「駄目よ」
「今回の使徒は中和型でなく侵食型。最小最弱の使徒の癖に器用で厄介なやつよ」
「じゃ・・・・」 ミサト
「酸素系はエネルギーが大きいけど、酸素もなくなれば反動も大きくなるわね」
「そして、第15区画の酸素はなくなる」
「酸欠?」ミサト
「そんな甘いものじゃないけどね」
不敵に微笑むリツコは、使徒の反応を楽しんでいる様にも見える。
突然。警報が鳴り響く
「なに?」 リツコ
「サブのコンピュータがハックされています。侵入者不明」
「チッ! こんなときに。Cモードで対応します」 青葉
「防壁を解凍します。擬似エントリー展開」
「擬似エントリー回避されます」
「・・・逆探まで18秒」
「防壁展開」
「防壁を突破されました」
「擬似エントリーをさらに展開」
「速すぎる・・・・人間じゃない」
「逆探まで5秒」
「逆探に成功成功しました。第15区画です」
「やつか」 ゲンドウ
「使徒の光学模様が変化しています」 マヤ
モニターの使徒は、複雑で規則正しい秩序で、幾何学状の光線を組み合わせていた。
「電子回路みたいだな」 青葉
「擬似エントリー展開。失敗しました」
「通信ケーブルを切断して」 ミサト
戦闘ポッドと警備ロボット、保安部員が第15区画につながる通信ケーブルを切ろうとした、
しかし、ATフィールドによって弾かれる。
「切断できません」 日向
「生態をコケモドキからプログラムモドキに転換させたみたいね」
「重厚長大の使徒と違って、器用で自己変態も早い」
「保安部のメインバンクにアクセスしています」
「パスワードを走査中・・・12桁・・・16桁・・・・」 青葉
「パスワード、オールクリア」
「メインバンクの自立防壁が作動・・・突破されました」
「保安部のメインバンク侵入されました」
保安局のコンピュータが異常作動を起こし。
ソフトやデーターが改ざんされる
「さらに走査しています・・・マギに向かいます」
「マヤ。マギにプログラム防衛を開始させて」 リツコ
「はい」
「メインバンクをダウンさせろ!」 ゲンドウ
青葉と日向が無言でキーを取り出し。
同時に鍵穴に突っ込む
「3・・・2・・・1。システムダウン」 青葉
同時にキーが回される。
これで外部につながる防衛システムが全て落とされる。
「電源が落ちません」 青葉
「メルキオールに侵入します。メルキオール、防衛プログラム作動します」 マヤ
「マギに侵入されるのは初めてね・・・」 リツコ
「メルキオール抗争中です」 マヤ
メルキオールが走らせる防衛プログラムがモニターに流され。
数万の対ウイルスプログラムが突破されていく
「マヤ。こっちから使徒側にウイルスを送ってみて」 リツコ
「はい」
「取って置きのウィルスも送って、みるか」 リツコ
リツコがキーボードを叩き始めた。
「マヤも、3つほど作っていたでしょう。出して」 リツコ
「はい」 マヤ
メルキオールから使徒プログラムに対して、数万のプログラムウィルスが送り込まれる。
モニターで、双方のコンピュータプログラムによる攻防戦が展開されていく。
「使徒側も防御プログラムを展開しています。攻勢が23パーセントダウン」 マヤ
「少しは、時間が稼げそうね」 リツコ
「メインバンクのハードウェアスペックで」
「メルキオールと互角以上に戦えるのは、どういうことでしょうか?」 マヤ
「本体は、まだ第15区画よ」
「メインバンクで攻防戦をしたかったわね」
「水際なんて、後手に回ったわ」
「リツコ。勝てるの?」
「マギは、基本的にエヴァの技術を部分的に応用しているの」
「リツコって、本当に天才ね」
「・・・わたしじゃないわ」
「えっ!」
「マギの基礎システムはお母さんが立ち上げたもの」
「わたしは、それを運用しているだけ」
「使いやすいように書き換えたことはあったけど、基本はそのまま」
「それって、何年も前のものじゃない。大丈夫?」
「あら、今でも、書き換える必要性が、ほとんどないと言ったのよ」
「・・・・・・・・」 ミサト
「芳しくないわね」
「あと20分で・・・メルキオールに侵入されます」 マヤ
「こっちのウイルスプログラムは?」
「ほとんど修復されてしまいました」
「残っている38のウイルスプログラムも検疫されています」
「本当に器用な使徒ね」
「マギの物理的消去が必要です」 ミサト
「・・・・・」 ゲンドウ
「マギの廃棄は、本部の廃棄と同義」
「それに使徒が別のモノ。プログラム以外のものに変質してしまうわ」
「そっちの方が怖いのよ。次、何に化けるか」
「リツコ。コアは見つけられないの?」
「300kgにも満たない使徒にいいように翻弄されているのよ」
「もし、ニュートリノで伝達されているとすれば地球の裏からでも」
「月の裏からでも十分いけるわね・・・探知も不能」
「エヴァは?」
「シンジ君と初号機が異常なATフィールドが張れるとしても」
「現実に危機感がないと、障壁は弱いわ」
「常時張れるATフィールドは自己防衛とか、生存本能に限定されているもの」
「・・・・・・」 ミサト
「・・・・・・」 リツコ
作戦室
リツコ、ゲンドウ、冬月
「今回の使徒の特徴は、コアを別の場所において。ナノレベルの群生体を遠隔していることが上げられます」
「そして、この群生体は、これまでの使徒が持つ強大な戦闘能力、破壊能力の代わりに」
「侵食能力、環境に合わせた進化と変態能力を持ち合わせています」
「物理的な脅威は、今のところないわけか」 冬月
「はい」
「人間に入り込まなくて良かったな・・・碇」
「ああ」
「最終的な形態として人類型を選ぶかもしれませんが反撃策はあります」
「進化と変態能力をこちらから加速させる?」 ゲンドウ
「はい、環境は、そのままで無理やり進化と変態能力をごり押しされば、改悪」
「自己崩壊を起こすと思われます」
「賭けに近いが成熟時間を与えずに進化を促進させればどうなるか。見ものだな」
「間に合うのか。そのプログラムの作成は」 冬月
「はい、バルタザールとカスパーを使って」
「任せる」
管制室
リツコ、マヤ、ミサト
「メルキオール、突破されます」 マヤ
「ロジックモードを変更。シンクロコードを15秒にして!」
使徒に侵入されたメルキオールの演算速度が一気に減速。
使徒の侵入は、ゆっくりとメルキオールを蝕んでいった。
「ついにガチガチ頭のメルキオール陥落か」
「あとは良いように蹂躙されますね」
「30分でメルキオールが支配されます」 伊吹
「進化促進プログラムの作成を急ぐわよ」
「いいカッコしいのバルタザールと優柔不断のカスパーでね」
「はい」 マヤ
恐ろしい速度でキーボードを叩き始めるリツコ、マヤ。
基礎設計をリツコが行い。
プログラムスタッフがプログラムを構築して、伊吹が、最終チェック。
ウイルスというよりOSそのものを設計しているような規模になっていた。
警報が鳴り響いく。
半分まで支配されたメルキオールから自爆が提訴される。
バルタザールとカスパーが即座に否決。
「・・・・・・」 職員
「・・・リツコ。大丈夫なの?」
「3台のマギは、いくつかの特性があるの」
「メルキオールが知性、理性、理想、合理性、機能性、能率性、男性格、父性、攻撃を優先」
「バルタザールは心情、感情、自由、平等、博愛、女性格、母性、防衛を優先」
「カスパーは、正義、中性、調和、中庸を優先。3台でひとつの人格になるわね」
リツコは、話していてもキーボードの速度が落ちない。
「あなたのお母さんの設計?」
「ええ、科学者としての母、女としての母、母親としての一面もあるわ」
「前回、逃げなかったのは、お母さんが残っているから?」
「世界中にマギシステムは5台あるわ。逃げそこなっただけ」
「・・・・・」 ミサト
「メルキオールが支配されました」 マヤ
モニターのメルキオールが真っ赤になる
「・・・・・」 職員
「先輩、メルキオールからバルタザールにハック」
「さっきよりも速い速度で防衛線が切り崩されてます」 マヤ
「マヤ。防衛線が突破され次第。バルタザールのロジックモードを変更」
「シンクロコードを15秒に・・・」
「自滅プログラムを全てカスパーに避難させて」
「バルタザール側のプログラムは完全に消去よ」
「はい」
「この、警報を止めて、うるさいわね」 リツコ
「はい」 青葉
自爆提訴と否決の警報がとまる
「リツコ。間に合いそう?」 ミサト
「あなたの作戦と良い勝負ね」
リツコが自嘲気味に呟く
「それって、かなりヤバイじゃないの」
「あはは」
「わ、笑い事じゃないわよ」
「D級勤務者以下を脱出させて・・・すぐにね」
「でも自爆と同時にサードインパクトでしょう」
「たぶんね。でも、不発なら助かるでしょう」
リツコがウインク。
避難の進むジオフロントで数十人のスタッフが忙しげに働く。
「シンジ君、アスカ、レイは、エヴァに入ったわね」 ミサト
「はい。ジオフロントが自爆しても、大丈夫ですね」 日向
「理論上、サードインパクトが起きてもね。ミサトも脱出していいわよ」
「そうはいかないでしょう。役に立たなくてもね」
「じゃあ、手伝って、カスパーの中に入るわ」
リツコを先頭に伊吹、ミサトが続いて、
カスパーの扉を開くコードを打ち込み、キーを回す。
扉が開くと冷気が流れてくる。
内部の機械類にたくさんのメモが張られていた。
「開発者のいたずら書きね」
裏コードのほかに・・・・
“碇のバカヤロー”“眠い”“殺してくれ”“遊園地に行きたい”
“デート、デート、デート、あんなことや、こんなこと”
“海が見たい” などなど、書かれたメモも張られている。
「すっごい。先輩。裏コードですよ。全部・・・・・」
「裏技大全集ね」
「凄すぎる・・・センパイ・・・この裏コード、知っていました?」
伊吹は、一枚のメモを嬉々と見せる
「・・・前半分は、ね・・・送信と回避関連の裏コードを探して」
マヤが興奮。
あれこれメモを覗き込んで、役に立ちそうなコードをリツコに渡す
バルタザールの防衛線が突破。
ロジックモードが変更。
シンクロコードを15秒に変更される。
電動ドライバーで外されるパーツ。
「ミサト。レンチとって」
工具箱からレンチが手渡される。キーボードを打ち続けるマヤ
「大学のころ。思い出すわね」 リツコ
「意外と気が合ったのよね。文化系の私と、理科系のあなたがね」
「あなた体育会系でしょう」
「というか、研究所を避難所にしていたでしょう。酒乱」
「避難した場所がサイエンティストの溜まり場だと知らなかったからよ」
「知ってしまったときには、手遅れよね」
「アンタが実験中の液体を持ち出すからよ」
「実験用の液体を冷蔵庫のワインボトルに入れるか普通」
「笑い死にするところだったわね」
「くすっ」
「隣の一升瓶を持ち出していたら、一週間ぐらい痴女だったのに」
「ぶっ!」
「バルタザールが乗っ取られました」 マヤ
自爆警報が鳴る
“メルキオールとバルタザールが自律自爆の提訴”
“カスパーが反対”
“自爆装置は、3者が一致後、0.2秒後に行われます”
“自爆は、ジオフロント全域に及びます”
「メルキオールとバルタザールからカスパーにハックがかけられています」
「カスパー防衛線が崩されます」
「使徒はジオフロントを自爆させたあと、どうするつもりかしら」
「どうやってリリスにたどり着くつもりなの?」 ミサト
「自爆というのはね。リリスも含んでの自爆よ」
「もっともN2爆弾で破壊できるような代物じゃないけどね」
「防衛施設を破壊すればリリスまで素通り」
「エヴァなら、リリスを破壊できるでしょう」
「絶対位相圏を破壊できるのは、ロンギヌスの槍だけ」
「エヴァや使徒のATフィールドの位相空間壁と質が違うの」
「それにリリスの破壊は、委員会の承諾が必要よ」
「もっとも、リリス破壊した瞬間」
「NERVの資産も、わたし達の個人資産も凍結」
「市民権どころか、社会から消去されるわね」
「なによ、それ」
「リリスを必要としているのは、委員会も同じ」
「でも危険な目には遭いたくない。それが委員会。ゼーレよ」
「なによ。そんな連中なの委員会って・・・最低」
「ええ、碇司令は、一応、委員会の末席の一人よ」
「碇司令が、まともに思えるわ」
「少なくとも生粋のメンバーじゃなくて、新参者扱いだけどね」
「わたしたちの給与も、そこから出ている」
「もっと、まともな、スポンサーがいないの・・・人類の存亡がかかっているのよ」
「セカンドインパクト以降・・・」
「見返りの利益も上げられないのに毎年、10兆円以上の資本を投下してくれるスポンサーよ」
「ほかにいるかしら」
「はぁ 委員会の底が見えたわね」
「一応。国連に集められた分担金の枠内で、投資されているのよ」
「名目上。人類存亡に人類世界が備えていることになっているわ」
「・・・カスパーの防衛線が突破されました」
「カスパーのロジックモードが変更。シンクロコードを15秒」 マヤ
「リツコ。やばいんじゃないの」
「前回より、勝率高いと思うわ」
「カスパーがのっとられるまで18秒」 マヤ
カスパーのパネルが次第に赤く染まっていく
「なに落ち着いているのよ」
ミサト、泣きが入る
「そうでもないわよ」
「勝率は、何パーセント?」
「プログラムミスがなくても、5パーセントくらいね」
「・・・低くぅ〜」
呆然と壁に寄りかかるミサト。
平然とキーボードを叩き続けるリツコとマヤ
カスパーのパネルが99パーセント乗っ取られた時。
リツコと伊吹が顔を見合わせる
「GO!」 リツコ
リツコと伊吹が同時にリターンキーを叩く。
赤く染まりつつあったカスパーのパネルが瞬時に青く変わり。
そして、バルタザール、メルキオールも青に変わる。
「自滅プログラム。メインバンクへ」
「メインバンク回復・・・第15区画も回復しました」 マヤ
発令所全体で歓声が上がる。
「侵入のためにプログラムという形態を選んだのが運の尽きね」
「天才、赤木リツコがいたのを知らなかったからでしょう」
興奮冷めやらずの発令所
「そう言えば、徹夜明けだったのよね」 リツコ
「タフですね。センパイ」 伊吹
「はい」
ミサトがコーヒーを持ってきた。
「ありがとう」
「ミサトが持ってきたコーヒーが美味しいと思ったのは、生まれて初めてね」
「エヴァ抜きで戦ったのもね」
「二度目のはずよ」
「第11使徒のコアは、どこかの世界で孤立してしまったわ」
「肉体が変質して、無力化されているはず」
「もう一度、肉体を再生させて出てくるんじゃないの?」
「エヴァの腕を修復のため、都市一つ分の電力エネルギーを使うの」
「コアがS2機関の核としての機能があったとしても」
「肉体を再構成させるのは足りないはず」
「コアそのものを材料にでもしない限りね」
「そうなれば、使徒ですらなくなる」
「勝ったのね」
「母親は、一人しかいないから比較すべきものがないけど」
「科学者としての母親は尊敬していた」
「でも、女としての母は憎んでさえいたわ」
「お喋りね。今日は」
「たまにはね」
「カスパーは、母親の機能もある。お母さんらしいことは、しなかったのにね」
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第19話 『第2使徒は、秘密よ』 |
第20話 『使徒、侵入』 |
第21話 『主婦とか似合っていたりして』 |
登場人物 | |||