笑いに満ちた、すき焼きパーティにならなかった。
それでもアスカの刺々しさがなくなっていたことから、ミサトは安堵する。
第24話 『死に至る病、そして』
学校
レイは、教室に入ると、いつものように席について、難しそうな本を読み始める。
いつもと違うのは、目の前に人影があること・・・
「おはよう。綾波さん」 ヒカリ
「おはよう」
レイは、チラッとだけ見て返事をした後、本を読み始めた。
「あ、あのう・・・綾波さん」
「・・・・・」 無視
「あのね・・・碇君とアスカのことなんだけど・・・・」
ヒカリの “碇君” という言葉にレイは、反応。
綺麗な顔を正面から見せたレイにヒカリは、ドキッ。
『き、綺麗な顔立ち』
ヒカリは、惹きこまれそうになるのを抑える。
「あ、あのね。碇君とアスカが一緒に入るところを写真に撮られたんだけど・・・」
「あれは、わたしがアスカに知り合いのデート相手を紹介して・・・・」
「それで、アスカがデートのときに付ける小物を買いに行くのに碇君を誘ったからからなの・・・」
「それでね。碇君とアスカは、特になんでもないの・・・・」
キョトンとしているレイ。説明が難しいのか、悩んでいるヒカリ
「・・・・・」 ヒカリ
「・・・・・」 レイ
「だから・・・あ・・・あの・・・・気にしないでね・・・・じゃ!」
ヒカリは、そういうと去っていく。
レイがヒカルの言った意味を理解したのは、授業に入って端末を開いたときだった。
授業中。
レイは、端末をぼんやりと見ている。
教室中の視線がレイの動向を注目。無感動、無表情のレイの反応が気になる。
当然、レイの反応が気になるシンジは、気が気じゃない。
『はぁ〜』
シンジは、頭を抱える。
シンジ、レイ、アスカの三角関係を面白そうに見つめる生徒も多く。
修羅場を期待する生徒も少なくない・・・
昼休み
シンジ、レイ、トウジ、ケンスケ。
3バカ+1とアスカに陰口を叩かれている四人組の昼食。
基本的は、トウジとケンスケが、突っ込みと絡み役。
シンジがボケ役。
レイが、空かし役で相槌だけ。
不思議な組み合わせは、惰性のように続いている。
トウジも、ケンスケも、正面からレイと対することができる貴重な時間。
しかし、今日は、レイのだんまりに緊張感が漂う。
「・・・しかし、酷いことするやっちゃな。盗み撮りなんて、それも公開するなんて、最低や」
「トウジ、おまえな〜」
「いや、おまえやない。おまえの盗撮は芸術的やからな。あんな出来損ないとちゃう」
「わ、悪かったな、盗撮で・・・」
「しかし、確かにスクープ性は高い」
「しかし、もう少し、背景とか光の加減とか、タイミングとか、ぼかし具合とか、あるんだがな」
「せめて構図だけでも、もうちょっとな・・・」
「ああいう写真だと、スクープ性だけで写真の技術的評価は低い」
倫理観が喪失してるのか、善悪で評価していない。
「だ、だよな・・・」
「しかし、シンジも災難やな、惣流にデートの小物買いに付き合わされただけじゃなくて・・・」
「変な写真まで撮られてな」
『トウジ〜 ありがとう〜』
「うん。驚いたよ。あんなふうに撮られて公開されるなんて・・・・」
「・・・・・・・」 レイ
「「「・・・・・・」」」 シンジ、トウジ、ケンスケ
「そうそう。あんなのなら、俺だってな・・・・・」
ケンスケは、写真を一枚見せる。
登校中のシンジとレイ。
いつも無表情なレイに微妙な感情が出て、良い感じで写っている。
さすが、写真のウンチクを語るほどの腕だ。
「い、いつの間に・・・・・」
珍しく、レイがその写真に興味を惹いたのか覗き込むように、ジィーと見ている。
「ふっ 写真のもうひとつの側面は、一瞬との出会いさ」
「良い出会いを捉えて、永遠に残すことも出来る」
「おまえ、盗撮しといて言う事は立派やのう」
「自然派志向なんだよ。不自然な微笑みはね。すぐわかるし、不快なんだよ」
ケンスケが写真をしまおうとすると。
レイが悲しげな表情を見せる。
「んっ 欲しい? あ、あげるよ・・と、いうか、肖像権だね」
ケンスケが写真をレイに手渡す。
「・・・ありがとう・・・相田君」
ケンスケがレイの微笑みの直撃を受けて撃沈。
トウジも煽りを受けて転覆する。
『綾波レイの微笑だ〜』
ケンスケが薄れつつある意識で呟く。
レイは、写真を見て喜ぶ。
「良かったね・・綾波」
「ええ」
その後、何かを呟きながら呆けるトウジとケンスケが屋上に残され午後が過ぎていく。
いつもの第三東京市。
5月に第三東京市に来たシンジ。もう、9月になろうとしていた。
セカンドインパクトの影響で海流が変わり、大気も安定していない。
それでも、15年が過ぎて、それなりに季節らしい変動を見せ、時折、涼しくなったりもする。
昼下がりのとある駐車場。
まばらに駐車した自動車のひとつ、影が、不自然に広がっていく。
真っ先に異常に気付いたスズメの群れが、飛び立ち逃げ惑う。
巨大な球状の物体が、忽然と、ビル群の真上に浮かんでいた。
発令所
警報が鳴り響く
「・・・南区、東区、北区の住人の避難が終わりました。西区はあと五分程度で避難完了です」
「目標は、依然として第三東京、中央区、上空に停滞しています」
突然、発令所の扉が開いて、ミサトが走りこんでくる。
「で・・・状況は?」
ミサトは、青葉に聞く。
それが、モニターに映っていた。
「第三東京市、中央区、直上200mに突如、出現しました」 青葉
「パターン。オレンジです。ATフィールド反応なし」 日向
「まいど、まいど。どういうこと?」
「新種の使徒かしら?」 リツコ
「マギは判断を保留しています」 マヤ
「黒と白のスイカか、少なくとも美的センスは、どこかのおじさん並ね」
ミサトの言葉に場が少し和む。
「・・・碇司令は、いないのよね」
ミサトが、ふと最上階層を見る
「金策で、欧州に行っている」
リツコの言葉でさらにコミカルな場が生じる
「そんなに金がないわけ」
頷くリツコ
「ちっ! 巨大ロボットアニメで金策なんて興醒めよ」
「現実は、甘くないわね」
「年金受給者分か、生活配給分の予算を貰いに行くらしいから」
「・・・・・」
「基地を破壊されたくないわね」
「・・・・・」
ビルの陰から、初号機、零号機、二号機が現れる
発令所から、情報がそれぞれのエヴァに送信される
「みんな、聞こえる?」
「目標のデータは、送ったとおり、何もわからない。推測すらないの・・・」
「それで、目標に接近して反応をうかがい」
「可能であれば市街地の外に誘導・・・先行の一機が誘導、二機が支援」
「・・・ミサト」
「なに、アスカ?」
「先鋒は、わたしね?」
『・・・そ、そう言えば・・・約束していたような・・・』
ミサトは、ため息をついた。
「・・・わかったわ・・・アスカ・・・くれぐれも独走しないで・・・チームの連携を考えて動くのよ」
「零号機。バックアップ」
「初号機。バックアップ」
二号機はビル群に隠れながら、中空に浮かぶ巨大な球状物体に接近。
零号機と初号機が後方の左右に展開しながら追随した。
先行する二号機のアンビリカルケーブルが限界に達する。
「ちっ! ケーブルを換えないと・・・・二人とも。よく見ててね」
「うん」
「ええ」
二号機が限界に達したケーブルを外し新しいものと交換しようとビルに手を伸ばそうとしたとき。
使徒が微妙に動いた。
「動くの・・・・あいつ」
「アスカ・・・支援するよ」
シンジがそう言うと使徒に向かって3連射。
光弾が球体に向かって吸い込まれ
射線は球体を何事もなく突き抜けた。
突然。消失する使徒
発令所
「・・・き、消えた!?」 リツコ
「何!?」 ミサト
「・・・重力異常! 初号機。直下」 日向
市街地
初号機の足元から黒い染みが広がり始める。
「!?」 シンジ
初号機と周りのビル群が一緒に黒い陰に向かって沈み始める
「影が、どうして?」
慌てて影に向かって発砲するが、黒い染みに向かって吸い込まれていく
「なんだよ。おかしいよ」
シンジ、半泣き
ふと上空に球状の物体が現れる。初号機は半身が沈んでいる
「シンジ君。逃げて!」 ミサト
「碇君!」
レイが、慌てて近付く
「バカ! 何やってんのよ!」
アスカ、新しいケーブルをつないで救援に向かおうとする
「くそっ。くそっ・・・・」
初号機が、もがいても沈下は止まらず、
周りのビル群と一緒に沈んでいく
発令所
スタッフ一同は、呆然とするしかない。
パニック状態のシンジ。悲鳴が空振りする。
「ミサトさん。これどうなっているんですか?」
「綾波! アスカ! ああぁぁ・・・・ミサトさん・・・ミサトさ・・・・・」
シンジは半狂乱
「碇君!」
初号機は、黒い影に飲み込まれ、消えてしまう。
発令所
愕然とする一同。
「アスカ、レイ! 初号機を救出して!」
気を取り直したミサトが叫ぶ
二号機
「あのバカ」
零号機がライフルで狙撃。
しかし、初号機の時と同様に零号機の足元から黒い染みが広がり、
レイは、落ち着いて、一緒に沈もうとするビルに手をかけ、反動を利用して難を逃れた。
二号機が慌てて、援護で銃撃すると、球体が消え、ビルが沈むのが止まる。
そして、今度は、二号機の足元に黒い染みが広がる。
「いや〜ん」
アスカは、慌ててビルに登ると。
ジャンプ。黒い染みの外に出ると
ビル群が沈んでいく、
「街が・・・」
アスカは、愕然とする。
「アスカ・・・レイ・・・後退するわ」
『!?』 アスカ
「待って!」
レイが感情的に叫ぶ・
「碇君が、まだ・・・・」
「・・・命令よ・・・さがりなさい」
ミサトは、肩を震わせ、押し殺すように呟く。
市街地上空
ヘリ
市街地の中央区全体が、黒い染みに覆われ、黒い影の平地が広がっている。
「ミサト。ケーブルを引き上げたら、先は、なくなっていたそうよ」
「いまは、内臓バッテリーだけ?」
「内臓電源は、たいしたことないけど」
「シンジ君が生命維持モードに切り替えていれば、まだ生きているわ」
リツコは他人事のように平坦で、ミサトは真っ青になっていく、
「LCL液の酸素濃度・・・」
「エントリープラグだけの生命循環維持装置だけでも、40時間は大丈夫よ」
「シンジ君がエヴァを動かさなければ、さらに20000時間・・・」
「エヴァを動かすことに比べれば人、一人、生かすのなんて難しくないという事ね」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「リツコ。救出計画は?」
「データ分析から、だいたいの推論は立つけど、どうしたものか」
「それ、私に理解できる内容なの?」
「理解できないと思うけど」
「そう・・」 ミサト、しょんぼり
「どうしたの? ミサト」
「実質的に3体のエヴァの中で最強なのは、二号機なのに・・・」
「シンジ君と初号機が消えてしまった喪失感は、大きいわね」
「エースだもの・・・」
「シンクロ率は着実に上がっているし、戦果は最大・・・・」
「シンジ君は、全ての使徒戦で主力、補助でも関わってきた。当然ね」
「ねえ、リツコ。あの使徒、どうやってリリスにたどり着くつもりなのかしら」
「さあ、第12使徒・・・実は、第11使徒なのかもしれない可能性もある」
「えっ!」
「コアそのものを虚数空間に置いて、体だけをわたし達の世界に出して、操作」
「前回、体を失ったために虚数空間そのものを使っての落とし穴攻撃」
「う、うそお〜 そ、そんなのあり?」
「可能性よ。可能性」
「虚数空間では、時間の逆行がありうるからコアが肉体を再生させる速度が速いかもしれないの」
「虚数空間とATフィールドの関係も分析しきれていないし、別の使徒という可能性もある」
「マヤの言うようにニュートリノ伝達だと矛盾点が説明しきれなくなる」
「虚数空間に隠れているというのも、問題点が山積みだけどね」
「たぶん、彼は、これ以外の攻撃手段はないわね。大技だけ」
「あれだけの規模で虚数空間とつなげるなんて、エネルギー量だけでも半端じゃない」
「はあ〜・・・・・・」
「しっかりしなさい、ミサト・・・・使徒も、使徒なりに必死なんだから・・・」
第三東京市の中央区全域。
光も、何も、通さない使徒の漆黒の黒い膜が薄く広がっていた。
ミサト、日向
「戦略自衛隊が包囲を完了しました」
「ちっ! こちらが持て余すと、すぐにしゃしゃり出てくる。いやな連中・・・・」
「役に立ちたいと考えているのか。何もしないと予算を削られると思っているのか、ですね」
「あと、ふたつ、自己満足も、あるわね」
「たとえ無意味でも。そして、もうひとつは、NERVに対する威圧」
「軍の行動は、意外とわかりやすいですね」
「使徒の場合。目的は、単純なのに選ぶ形状も、性質も、奇々怪々。少しは見習って欲しいわね」
「軍の場合、目的が複雑なのでは?」
「そうね。使徒は?」
「直径600mで安定。動いていません」
「そう・・・」
「どうしますか?」
「リツコの分析待ちよ・・・・」
ケイジの前の休憩室
レイ、アスカ
「やれやれだわ・・・」
「調子に乗って余計なことするから、あんな目に遭うのよ。自業自得もいいところね」
「シンクロ率で、わたしに勝って、いいところ見たかったんでしょうけど、おあいにく様よ」
「のろまだから消えたのよ」
レイがアスカに歩み寄る。
「!?」 アスカ
「・・・・・・・」
レイが凍りついたような表情でアスカを見つめる
「な、何よ・・・・」 たじろぐ
「・・・・・・・・」
「シンジの悪口を言われるのがそんなに不愉快」
「ふうん・・・あんた、シンジが好きなの?」
レイの顔色が変わる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「へぇ〜 お人形のような、あんたがシンジを好きになるなんてね」
「・・・・」
レイは、何も言わず。去っていく
「ま、待ちなさいよ。言いたいことがあるなら、ハッキリといえば良いじゃない」
レイは、何も言わずに休憩室を出て行った。
一人残されたアスカが暴れる。
初号機、エントリープラグ
「寝ることがこんなに苦痛なんて思わなかったな。ゲームソフトか、ビデオでもあれば良いのに」
シンジは、初号機は、真っ白で、何もない空間世界に漂流していた。
少し前まで、ビル群が周りに浮かんでいた。
しかし、次第に距離が離れ、初号機の周りには何もない。
「レーダーも、ソナーも、電波も、何も、反応なし。世界が、広すぎるんだ・・・」
「第三東京市は、どこにあるんだろう・・・戻りたいな・・・綾波に会いたいな」
「こんなことになるんなら・・・綾波とキスしたかったな〜・・・」
「あ、やばい。ブラックボックスに録音されたよ」
シンジは、焦る。
ブラックボックスは、回収されてマギに永久保存される。
『うぅ、聞かれるよ。お父さんにも・・ミサトさんにも・・・からかわれる・・・どうしよう・・・』
発令所
リツコが一同を前に話している
「・・・ということね」 リツコ
「じゃ 影の部分が本体で、上空の球体が影?」 ミサト
「ええ、直径680m」
「厚さ3ナノの超極薄のATフィールドをフィルターにしてディラックの海」
「虚数空間とつなげているの」
「その・・・どうやって・・・」
「ATフィールドで」
「アスカ。ATフィールドで、虚数空間を開いてシンジ君を救出できる?」
「どうやるのよ?」
「アスカとレイで、一緒に寝起きしながら特訓」
「ミ、ミサト。思いつきで、言わないでくれる。冗談じゃないわよ」
アスカが思いっきり拒絶
「・・・・・」 レイ
「・・・・・」 一同
休憩所
ミサト、リツコ
「初号機の強制サルベージ」
「いまある・・・N2爆弾54個を全てディラックの海に叩き込んで」
「零号機と二号機のATフィールドで1000分の1秒ほど干渉。ディラックの海を破壊」
「でもシンジ君は、準備できていない状態で、そんなことをすれば、シンジ君は助からない・・・」
「それでは、救出作戦とはいえない」
「初号機の救出を最優先するわ。たとえ、きれっぱしでも回収しなくては・・・」
「パイロットの生死は問わない」
「パイロットの生死は、問わないって・・・」
バシンッ!!!
ミサトが、リツコの頬をひっぱたく
「シンジ君を見殺しにするつもり」
「シンジ君を失うのは、あなたのミスなのよ。それを忘れないで」
「どういう事・・・・なぜ・・・そこまで初号機にこだわるの?・・・・・」
「エヴァに人類の存亡がかかっているからよ」
「本当にそれだけなの?」
「十分な理由よ」
「・・・・・・・・」
「この作戦の指揮は、わたしが執るわ」
「・・・・・・・・」
初号機、エントリープラグ
シンジが目を覚ますと、電車に乗っていた。
正面に小学生がカバンを背負って座っている。
「誰?」
「碇シンジ」
車両の中は、シンジと、その少年の二人だけ。
「それは、僕だ。僕が碇シンジだよ」
「僕は、君だよ。人は自分の中にいくつもの人格を持っているんだ」 小学生
「僕は、多重人格じゃないよ」
「そういうのと違うよ。実際に見られている自分とそれを見ている自分だよ・・・」
「碇シンジもたくさんいる・・・」
「君の心の中の碇シンジ。綾波レイの中の碇シンジ」
「惣流アスカの中の碇シンジ。葛城ミサトの中の碇シンジ」
「碇ゲンドウの中の碇シンジ」
「・・・・・・」
「みんな、それぞれ、違う碇シンジだけど、どれも碇シンジさ」
「君は、その他人の中の碇シンジが怖いんだ」
「他人にどう思われているのか怖いんだ。自分が傷付くのが怖いんだ」
「君は僕の中の・・・もうひとりの僕が小学生なんだよ」
「一番、苦しかった頃だろう。いまよりもね」 小学生
「・・・・・・・」 シンジ
「中学生になったときは、諦めていた・・・生きることにね」
「誰が悪いんだ」
「お父さんだ・・・・お父さんが僕を捨てたんだ」 シンジ
「悪いのは僕だ」 シンジ
「そうやって、すぐに自分が悪いと思い込む・・・・内罰的だね」
「あの時は、何も出来なかった」
「あの時も、何も出来ないと思い込んでいただけ」
「・・・・・」 シンジ
「お父さんが嫌いなんだ?」
「嫌いだと思う・・・でも・・・いまは、わからない・・・・事情が、なんとなくわかるから」
「呼び出して、命がけで戦わせて、労いの言葉ひとつないのは・・・・どんな事情?」
「良いんだ・・・僕は、居場所を見つけたから」
「必要な間だけだ・・・要らなくなったら・・・追い出されるよ・・・・お父さんにね」
小学生。にや〜
「そんなことあるもんか!」
「いまは、必要とされる。エヴァに乗れば必要とされるんだ」
「エヴァを動かせなかったら、必要とされなかった」
「それでも良いんだ・・・僕には、居場所があるから・・・・あの頃とは違う」
「エヴァに乗れなければ、誰からも好かれない・・・・」
「綾波と一緒にいられるのだってエヴァに乗れるから」
「そうじゃなければ相手にもされない」
「そうだろう、ほかの同級生の男子と比べても、特に秀でてないじゃないか」
「僕は・・・・僕は・・・良いじゃないか、それだって、良いじゃないか」
「本質から眼を逸らして、誤魔化して生きていくつもり?」
「み、みんなそうやって生きているんだ・・・僕だけじゃない」
「自分を騙して?」 小学生
「そうだよ」
「ウソだね。他人の目を気にしているのに、他人を見ているわけじゃない」
「本当は、みんなのことなんて、見ていないのさ」
「・・・・・・・」 シンジ
「君は知らないのさ。お父さんと綾波レイの関係。お父さんの事も。綾波レイの事も」
「惣流アスカの事も。葛城ミサトの事も・・・」
「本当は、相手を知ろうともしていない・・・怖いんだろう」
「ち、違う」
「本当は、相手に嫌われていると、わかるのが、怖いんだ」
「違う!」
「そういえば、泳げなかったね・・・怖くて泳げない」
「人は、浮くようには出来ていないんだよ」
「自己欺瞞だね・・・・・臆病な人間なんだ」
「・・・・・・」 シンジ
「だから・・・自分から綾波にキスが出来ないんだ」
「・・・・・・」 シンジ
発令所
ミサト、リツコ
指揮権を手放したミサトに代わって、リツコが、てきぱきと指示を出している。
「・・・ねえ、リツコ。虚数空間って、どんな世界なの」
「負のエネルギー電子に満ちた空間・・・・遡ればビックバーンから始まるわ・・・」
「物質が構成されるときに反作用で虚数要素が分裂し」
「ビックバーンの中心に向かって行く負エネルギーの流れが生まれた」
「それは、同時に過去へ向かっていくエネルギー」
「それが、もうひとつの世界を構成したの・・・仮定的なものだけど必然的なもの・・・」
「ま、まさか、シンジ君、過去の世界に」
「ATフィールド。位相空間障壁で同軸時間を維持しているはずだけど」
「それがなくなれば、こちらがプラス一時間だと」
「向こう側がマイナス一時間で、二時間の時間差が生じてしまうわね」
「もっとも、プラスのエネルギーがマイナスのエネルギーの波に乗って移動できるとは思えないけど」
「そういう意味だと、負の世界の実態は、認識も、理解も、できない世界かもしれない」
「反物質世界じゃないのね」
「あの規模で反物質世界と連結されたら地球、そのものが消し飛んでいるわ。反対側の世界もね」
「どこにあるのそれ」
「反物質世界も虚数空間も、この世界と同軸に存在しているの」
「断層系列が違うだけ。宇宙のどこかとか、宇宙の外にいけばあるというわけじゃないわ」
「・・・霊界?」
「・・・断層系列上には、精神波の層があけど・・・霊界なんて、呼ばないわね・・・」
「わたしは、幽子層とか、精神層とか、呼んでいる」
「どちらにしても、光子質的なエヴァと、ATフィールドは、量子数を持っていない」
「反粒子や負のエネルギーの影響を受け難いはず。相互間で対生成も、対消滅も、起こりにくい」
「??????」 ミサト。撃沈
初号機、エントリープラグ
シンジは、ぐったりとしている
「この男は、妻を殺した疑いがある」
「そうだ。この男は、自分の妻を殺したんだ」
大人たちが責めていた。
「ち、違う・・・お母さんは笑っていたんだ」
同級生に責められる
「やーい! 人殺しの息子だ」
「駄目よ・・・ほかの子と遊びなさい」
近所の会話
「え〜 あの子が・・・・本当ですの?」
「ええ・・・・新聞読みました?」
「怖い時代になったわね」
父から遠ざかり逃げるシンジ
ゲンドウが、シンジを捨てたのではなく。
シンジが、ゲンドウを信じられずに逃げたことを思い出す。
シンジが、眼を覚まして、叫んで暴れる
「もうイヤだ! 出せ! ここから出せ!」
シンジは、エントリープラグを排出しようとするが安全装置が働いているのか、まったく作動しない。
でたらめにスイッチを押すが既にエヴァの電力は切れ、
エントリープラグの生命維持電力しか残されていなかった。
「もういやだ! ひとりはいやだ」
シンジは、叫び続けた。
「誰か! 誰か助けて・・・・ひとりにしないで・・・」
シンジ泣き叫んで暴れる
初号機
エントリープラグ
シンジは、ハッと気付く、LCL液が濁りはじめていた。
「エネルギーを使いすぎたんだ・・・もうすぐ死ねる・・・」
「LCL液の酸素容量も、減ってきている」
「こんなところで寂しく死ぬなんて・・・生きて帰れたら・・・綾波に・・・」
シンジは酸素欠乏で気を失う
「・・・・お母さん」
シンジは、呼吸困難の状況で、ふと母親の気配を感じる。
『もういいの?』
「誰? お母さん・・・綾波?」
その瞬間、シンジは、薄れ行く意識の中、点滅するモニター。
エネルギーが回復していくのをぼんやりと見詰めた。
NERV本部
発令所
マヤのN2爆弾投下の秒読み。
零号機と二号機がATフィールドによる干渉を行おうと準備していた。
「投下60秒前、秒読み始めます」
「60・59・58・57・56・55・・・・・・」
バシッィィィイイイイ!!!
突然の音。
黒い影に亀裂が入ったかと思うと亀裂が大きくなっていく
「なに?」 リツコ
「なにが始まったの?」 ミサト
使徒の黒い影に亀裂が次々と走り、大きくなっていく。
「じ、状況は?」 ミサト
「わかりません!」 日向
「全てのモニターが振り切られています。ATフィールド異常波」 マヤ
「何も、していないのに」 リツコ
「まさか、シンジ君が」
「まさか! 初号機のエネルギーはゼロのはず」
ガンッンン!!!
突然の大音響とともに中空の球体が裂かれ、
血飛沫と一緒に初号機の腕が飛び出した。
息を呑む一同。
初号機の両腕が黒い球体をこじあけ、咆哮とともに初号機が飛び出し、
初号機は返り血を浴びて、真っ赤に染まり、
暴力的に使徒の内臓物を引き千切って、咆哮。使徒を解体、バラバラにしていく。
「わたし、あんなものに乗っているの・・・・・」 アスカ
「碇君・・・」 レイ
「な、なんてもの・・・なんてものをコピーしてしまったの」
「こ、こんなものを制御できるわけがない」
第三東京市。
中央区は、赤い血と肉塊で、ドロドロになっていた。
その中央で立ち尽くす初号機は、日の出が差し込み、笑っているように見える。
「・・・・初号機の制御が、回復しました。エネルギー残量ゼロです」 マヤ
「念のために停止命令を出して。回収班をだして」 リツコ
夕焼けをバックにヘリが初号機に近付いていく。
「シンジ君・・・大丈夫・・・シンジ君」
ぼんやりと眼を開けるシンジ。ミサトの顔が見えた。
「誰かに、会いたかったんだ。もう一度」
シンジは、そういうと意識を失う。
NERV本部
特殊無菌室
ゲンドウ、リツコ
回収された初号機を壁から噴出す液で洗浄。
「私は、今日ほど、エヴァが怖いと思ったことはありません」
「・・・・・」 ゲンドウ
「エヴァが、人類に何をもたらすのか・・・想像も出来ません」
「シンジが、何を見てきたのか・・・興味があるな・・・」
「ある意味・・・もっとも、遠い世界に行ったのだ・・・」
「・・・葛城三佐。疑問を感じているようです」
「諸刃の剣は、優秀な証拠だ・・・バカでは、務まらん・・・」
「全てを知られたら許してもらえないでしょうね」
「人は、神になりたがるが神ではない」
「選択の余地は、狭められている・・・」
「狭められた中では、無難な範囲だよ」
「今回の使徒。前回の使徒と同一の可能性もあります」
「連中がタイムスケジュールに自信がもてなければ、それだけ好都合だ・・・」
「使徒は、サードインパクト後にも生き残る」
「全て殲滅しない限り。ゼーレは、安心できないはずだ」
「・・・・」
「レリエルのコアは?」
「無事です。無傷で確保できました」
「レイが、ロンギヌスの槍で、去勢できました」
「第12使徒レリエル系エヴァの建造が可能です。第12使徒と言えるか、わかりませんが」
「第11使徒イロウルのコアは不明だからな・・・」
「そうか、予算取りができ次第、複製に入ろう」
「本体は、ゼーレに輸送されることになるが複製だけでも、こちらで培養できれば大きい」
「虚数空間での運用が期待できるエヴァになると思われます」
「タイムマシンか?」
「ゼーレにくれてやるのは惜しいが仕方があるまい」
「どうせ培養しても間に合わないだろう」
病室303号室
眼を覚ますと、ベットの脇で本を読んでいたレイが気付く
「大丈夫?」
「綾波・・・」
シンジは、起き上がろうとする
「寝ていい。後の処理は、こちらでするから」
レイが立ち上がって、出て行こうとする
『・・・言わなきゃ 綾波がスキって言わなきゃ 言える。今なら言える。言うぞ〜』
「あ・・・綾波」
レイは、シンジの方を向く
「何?」
「・・・あ、あの・・・綾っ・・」
シンジが言いかけたとき、
わずかに開いたドアの向こうにアスカが覗いていることに気付いた。
「・・・・」
アスカは慌てて隠れ、
「あ・・・あ・・見舞ってくれて、ありがとう」 脱力する。
「そう」
レイが出て行くと、シンジはガックリと落ち込む
「体から血の匂いがする」
シンジは、そう呟くと眠る、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第23話 『すき焼き』 |
第24話 『死に至る病、そして』 |
第25話 『スイカ畑』 |
登場人物 | |||