月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 レイが、出て行ったあと、シンジは、ガックリと落ち込む

 「・・・体から血の匂いがする」

 シンジは、そう呟くと寝る

    

第25話 『スイカ畑』

 

 NERV本部

 とある部屋

 暗闇の中、シンジは、スポットライトの光の中に立つ。

 01から12までの光るナンバーがついた黒いモノリスがシンジを半円状に囲む。

 「君が、サードチルドレン。初号機のパイロット。碇シンジだね」 01

 「はい・・・どなたですか?」

 「君は、質問する立場にない・・・」

 「しかし、君が応えやすくするために・・・こう言う事にしよう・・・NERVのスポンサーだ」

 「君達に年棒を払っているのは、我々だ」 01

 「どうして、顔を隠しているんですか?」

 「質問するのは、こちらだ。いや尋問だな」 01

 「国連の人と思って良いんですよね」

 「まあ、一側面としてはそういう事になるから。そう思ってもらっても構わないがね」

 「さてと・・・君は使徒と接触したのかね」 01

 「使徒とですか?」

 「真っ白な空間にいただけです」

 「正確には、君が、真っ白な空間としか認識できなかった」

 「だな。何か君に自身に接触するか、それとも、取り込もうとした」

 「というようなことはなかったかな」 01

 「いえ」

 「ブラックボックスの解析では、わからない部分が多すぎる」

 「使徒に取り込まれての時間が長すぎる」

 「我々は、初号機を完全にロストした。これは、あってはならないことだ」 01

 『うぅ・・・綾波のこと・・・聞かれている』

 「・・・そうなんですか?」

 「エヴァ1体で、人類のもつ戦力をはるかに超える強大な力を秘めている・・・」

 「それが監視下から抜け落ちた・・・」

 「君と初号機が本物なのか・・・」

 「それとも、何らかの工作がなされているのかすら、わからない次元だ・・・」

 「我々が君を尋問してもおかしくないだろう」 01

 「納得しました」

 「何が、あったか話してもらおう。全て、最初から・・・」 01

 「はい・・・」

 ブラックボックスの映像が流れる。

 『レーダーも、ソナーも電、波も、何も、反応なし。世界が広すぎるんだ・・・』

 『第三東京市はどこにあるんだろう・・・戻りたいな・・・綾波に会いたいな』

 「・・・・・・・・」 シンジ

 『・・・・こんなことになるんなら・・・綾波とキスしたかったな〜』

 『あ、やばい・・・・ブラックボックスに録音されたよ』

 「・・・・・・・」 シンジ

 シンジは、真っ赤になりながら。

 その後、サードインパクトか、精神汚染を起こしたくなるような質問をされる。

  

  

 シンジが退出した後

 もう一つのスポットライトが付いて、ゲンドウが浮かび上がる。

 「どう思うね・・・碇君」 01

 「あまり要領を得ているとは、言いがたいですな」

 「無責任に言い放つな・・・・偶然とはいえ、作為的にも君の息子だ」 01

 「そのようですね」

 「以前は、息子を予備と言い張っていたようだが当てが外れたのか」

 「作為的だったのか、気になるところだ」 03

 「・・・・・」 ゲンドウ

 「状況から考えると、使徒は知恵を付け始めているのではないか?」 01

 「死海文書に記されていませんが」

 「碇君・・・・今回の使徒で、何体になる?」 01

 「11体です」

 「ほう・・・。まあいい・・・コアは?」 01

 「第11使徒のコアを確保できました。ロンギヌスの槍で去勢に成功しています」 ゲンドウ

 「本当に第11使徒かね。隠匿の疑惑もあるぞ」 03

 「まさか・・・コアをそちらに引き渡す予定です」

 「あの輸送費でかね・・・」 02

 「輸送に関しては、十分な安全保障が必要ですから」

 「親子でトボケたこと・・・」

 「第11使徒のコアの隠匿のことを言っているのだ。第12使徒のコアのことではない」 07

 「わたしに関しては、誤解です」

 「サードチルドレンに関しては、年齢的に情状の余地があると思いますが」

 「使徒の数で、重複の疑い、重大な要素だ。確認を取りたまえ」 01

 「左様・・・数だけは間違えるべきではない。フォースインパクトは容認できない」 04

 「はい・・・わかっております」 ゲンドウ

  

  

 笠置病院

 看護婦が集まっていた。

 「12号室のクランケは?」

 「調子は、いいと思うけどね・・・・・E事件の救急の子・・・随分たつわね」

 「意外と手間取っているのよね・・・症例からすると、治っても良いと思うけど」

 「まだ。小学生なのに・・・」

 「今日。来てたわね。あの子」

 「週2回は、来ているね・・・・妹思いの良いお兄さんね」

 「いまどき、珍しいタイプね」

  

  

 NERV本部

 通路

 ゲンドウ レイ

 「レイ。今日はいいのか?」

 「はい、明日は赤木博士のところへ。明後日は学校へ」

 「学校はどうだ」

 「問題ありません」

 「そうか。ならば良い」

  

  

 学校

 ホームルーム

 「今日の休みは・・・・相田君と綾波君だけだな」 先生

 先生が名簿に書き込む。

 「ケンスケは、どうしたの?」

 シンジがトウジに聞く

 「新横須賀・・・戦艦の追っかけや “みょうこう” とかいうのが入港しとんやと」

 「ふうん」

 「なんや・・・元気がないな・・・おまえも惣流も」

 いつになく、おとなしくしているアスカが座っていた。

 「うん」

 「この前の使徒か、大変やったな」

 「中央区全域が空き地で血だらけみたいになっとるやないか」

 「うん・・・良くわからないんだ」

 「また、暴走か」

 「うん」

 「便利やな」

 「お陰で死なずに済んだ」

 「そうか」

  

  

 学校帰り

 シンジとトウジが、商店街を暇潰しに歩く。

 そして、少し離れたところをアスカ、ヒカリ、チアキが、ショッピングを楽しんでいた。

 二つのグループは、それなりの距離で、付かず、離れず。

 「・・・シンジ。今日は、たこ焼き。奢ったるぞ」

 「へぇ ありがとう・・・でも悪いね」

 「なあに気にせんでええ・・・その代わり、ゲーセンで奢ってくれ」

 「な・・・なんか損してるような・・・まあ・・・良いか」

  

  

 アスカ、ヒカリ、チアキ

 「カラオケに行こうか?」 ヒカリ

 「おっ 珍しい。委員長、良いのかな〜」 チアキ

 「まぁ たまにはね。息抜きも必要よ・・・ね。アスカ」

 「んっ うん」

 「あれ〜 アスカ・・・碇君が気になるのかな〜 一緒に誘う?」 チアキ

 「バ、バカ言わないでよ。チアキ。あんなの気にするわけないじゃない」

 「ふうん、でも、碇君を誘えば、あの鈴原も付いてくるんだけどな〜」

 チアキがヒカリにウインクする

 「えっ! えっ。わ、わたしは・・・わたしは、そんなの・・・」

 「鈴原とは、何でもないし・・・それに・・・あのう・・・」

 ヒカリは頬が赤くなる

 「ふうん・・・まあ・・・そういう事なら・・・良いか・・・」

 「じゃ 決まりね・・・わたしが誘ってくるわ」

 チアキが駆けて行く

 「あ、チ、チアキ」

 ヒカリが制止しようと伸ばした手が、すり抜けられて空しく漂う。

 

 

 カラオケ

 トウジと真っ赤になったヒカリがデュエット曲を歌っている。

 「・・・碇君。何やってんの?」 チアキ

 「歌は、得意じゃないから」 緊張。

 「ふうん、カラオケは初めて?」

 「うん」

 「きゃ〜 かわいい。わたしが、お・し・え・て・あ・げ・る。怖くないからね」

 「・・・・・」

 シンジ、真っ赤になる

 「けっ! なに赤くなって、ファーストに言い付けてやろうかしら」

 「そ、そんな!」

 「ほら、次よ。碇君の歌は、誰が選ぶんだっけ?」

 「あ・・・私だ・・・・シンジ。一桁の数字は?」 アスカ

 「んん・・・・8」

 アスカは、最後が8になるカラオケの番号を適当に入れる。

 「わたしが、一緒に歌ってあげる。綾波さんには、秘密にしてあげるわね」

 「うん・・・」

 しばらくして、トウジとヒカリが戻ってくる。

 「どあぁ 思いっきり恥ずかしいわ」

 「ケンスケもいたら良かったのに、回転が早すぎるわ」

 「くすっ」

 頬を赤く染めたヒカリが微笑む。

 「よし、今日は、泊りがけで歌うわよ」

 「ほら・・・碇君・・・げっ!・・・水戸黄門の歌」

 「水戸黄門、ははは・・・」

 シンジは、チアキに連れられてお立ち台に上がる

 こうして、シンジ、アスカ、トウジ、ヒカリ、チアキは、カラオケをランダムに曲を選ばれて歌う、

 という罰ゲームが果てしなく続いた。

  

  

 NERV本部

 パニック状態の通信。

 状況把握に努めようとする青葉が、何度も確認のための連絡を取る。

  

  

 NERV本部

 総司令部公務室

 ゲンドウ、冬月

 「どうした? 楽しそうだな・・・碇」

 「・・・・・」

 「意外と似ているもんだな。見かけは母親似なのに血は争えぬか」

 「ゼーレと対面させたのは、悪くなかったかもしれんな」

 「葛城君は、反対していたぞ。ゼーレの査問会にシンジ君を出すのをな」

 「過保護が良いとは限らん」

 「少なくとも過保護は、おまえらしくないな」

 「・・・・・・・」

 「一度、腹を割って話し合ったらどうだ。互いに誤解も多かろう」

 「・・・・・・・」

 「碇・・・まだ労いの言葉ひとつないそうだが・・・・」

 「まだ、ヒヨッ子だ」

 「そのヒヨッ子に人類の命運を賭けているんだがな」

 「・・・・・・・・」 ゲンドウ

 その時、電話が鳴り、受話器を取る冬月

 「消失・・・・第二支部が消失? 消えたのか?」

 『はい、確認しました。消失です』 青葉

  

  

 発令所

 リツコ、ミサト

 モニターに巨大なクレーターが映されていた。

 「手がかりは、静止気象衛星からの映像だけね」

 「後は、基地ごと根こそぎ、抉り取られて消えてしまった」

 変哲のない砂漠の施設群。

 その中央部から突如として、閃光が広がる。

 あっという間に施設群とその周囲を放射状に押しつつみ、

 衝撃波が大地を押し割りながら吹き飛ばし、

 光のドームが薄れ消えていくと

 最後は、巨大なクレーターだけが残された。

 画像が通常速度、スローで何度も再生される。

 「・・・施設ごと・・・酷いわね」

 「エヴァンゲリオンの4号機と半径50kmの関連施設」

 「地球から推定質量6億トンが一瞬で消失したわ」

 「N2爆弾の爆発とは違うわね」

 「光が一度、消えた後に一気に土砂と大気が中心に向かって押し寄せている・・・」

 「これは、虚数空間・・・ディラックの海に大質量が消えて」

 「そして、何もなくなった真空域に大気と土砂が戻って、2次爆発という事ね」

 「摩擦による炭塵爆発に近い」

 「どういう事?」

 「タイムスケジュールから推測すると・・・」

 「ドイツで第4使徒の修復したS2機関を4号機に装備していた時の事故ね」

 「4号機とS2機関の暴走が原因が、もっとも高く。87パーセントです」 マヤ

 「S2機関は?」

 「夢は、消えたわね・・・・・」

 「よくわからないものを無理して使うからよ」

 「エヴァもね」

  

  

 NERV

 食堂

 ミサト、リツコ

 「リツコ。3号機を引き取るの?」

 「ええ、アメリカ政府も第一支部まで失いたくないみたいね」

 「何よ・・・三号機と四号機は、あっちが建造権を主張して無理やり作ったんじゃない」

 「いまさら危ないからって、こっちに押し付けるなんて」

 「アメリカ政府は強気だけど国民感情に逆らえないみたい。一度、仕切りなおしね」

 「で・・・起動実験。どうするの?」

 「これから、スケジュールを調整するわ・・・」

 「突然、決められて困惑しているのは、技術部よ」

 「第一課・・・第二課にもしわ寄せが行って、整備局も増設させないと・・・」

 「ふっ 碇司令・・・また・・金策に動くことになるわね。エヴァの予算、半端じゃないから」

 「第二支部の予算が一時的にこっちに回るから」

 「当面は、大丈夫よ。受け取り人無しの保険金も大量に出たみたいだし」

  

  

 NERV

 ターミナルドグマ

 裸のレイがLCLの水槽に入っている

 ゲンドウ、リツコ

 「試作されたダミープラグです。レイの人格が移植されています」

 「ただ。心、魂は擬似的なものです・・・まだ、制御の面で問題がありますが・・・」

 エントリープラグに 「REI-01」 とかかれていた。

 「エヴァにパイロットがいると思わせれば良い・・・初号機と二号機にも入れておけ」

 「はい」

 「第12使徒。レリエルの複製は?」

 「現在培養中です」

 「問題は、人柱か」

 「募集しますか?」

 「狂気の時代は終わった」

 「もはや、人柱は得られないだろう。他の国で探すか。別の方法を試みるしかない」

 「ダミープラグ。使いますか?」

 「綾波レイ。一極集中は、危険だが、選択の余地は少ない」

 「現在。綾波レイで5基。ニュートラルで5基。準備しています。予算だと、これが限界ですね」

 「・・・ああ」

 

 

 NERV本部

 総司令官公務室

 ゲンドウ、リツコ

 「機体の搬送は、UNに一任している」

 「週末には届くだろう・・・後は君で、やってくれ」

 「はい。安全のため、松代で行います」

 「テストパイロットをどうするか・・・」

 「ダミープラグは、まだ危険です・・・・候補者の中から選ぶしか・・・・」

 「4人目を選ぶか・・・ゼーレに種明かしするようなものだが・・・使徒の脅威・・・大きすぎる」

 「比較的、乗せやすく、適性も高い者がいます」

 「わかっている・・・そう仕向けたのだ」

 「・・・では、あの子に」

 「・・・・ああ」

 ゲンドウがマイクを取る

 「レイ。上がって良いぞ」

 レイが薄っすらと目を開ける。

 「はい」

 「食事にしよう」

 

 

 商店街

 シンジ、アスカ、トウジ、ヒカリ、チアキが朦朧としながらカラオケボックスから出てくる。

 「ふっ 本当に徹夜してしまったわ」 チアキ

 「「「「・・・・・・・」」」」 シンジ、アスカ、トウジ、ヒカリ

 「碇君たらタフなんだもの〜 わたし、フラフラ」

 「は、ははは」

 シンジは、からかわれても照れない程度に疲労している。

 「シンジ。おまえ、良いんか」 トウジ

 「えっ ああ、大丈夫。しばらく休み貰っているから」

 「不健全のなんたらで始末書ものだけどね」

 「ええ〜 始末書書くの・・・碇君」

 チアキがふらつきながら聞く

 「あ・・・苦学生だから・・・何かとね」

 「碇君、かわいそう・・・・昨夜は、たくさん、慰めてあげたのに」

 「ち、ちょっと・・・誤解されるよ」

 シンジは、日曜日の朝、制服でうろつく5人組みをチラチラ見る人目を気にする

 「ねむ〜 アスカは、平気なの?」 ヒカリ

 「平気じゃない・・・帰ったら寝る」

 「そうね。脳細胞が死んでるみたい」 チアキ

 「まあ・・けっこう楽しかったわ・・・・持ち歌も出来たし・・・また・・・やろうやないか」

 「徹夜は、イヤだよ」 シンジ

 「そやけど、シンジ。意外と上手かったな。歌」

 「そうかな」

 「鈴原のは、歌というよりも雄叫びね」 チアキ

 「や、やかましいわい」

 「ふん、鈴原と合わせて歌えるのは、ヒカリくらいのものよ」

 「ひとりじゃ 聞けたものじゃないんだから」 チアキ

 「・・・・・・」 赤くなるヒカリ

 「おまえな〜 俺の歌の良さがわからんとは、もぐりやな」

 「だから・・・あれは、歌じゃなくて雄叫びって言っているでしょう・・・」

 「ムカ〜 むかつく女じゃ 頭が重とうなかったら、なんぼでも言い返したるのに」

 「ちょっと、大声出さないで頭が膿んできた」

 「既に膿んでるやろう。それだけ悪態がつけるんやからな」

 「鈴原より、点数いいわよ」

 「そ、そうやった、って。こん中で、俺が一番あほや」

 「あはは、じゃ 帰るわ」 チアキ

 「私も」 ヒカリ

 「俺もや・・・」 トウジ

 

 

 3人が、それぞれに帰ると帰り道が同じ、シンジとアスカが残される。

 「シンジ・・・あんた、また抜け駆けしたわね」

 「・・・・・・」 シンジ、怖気づく

 「まあ、いいわ・・・・今回もあんたの運が良くて、私の運が悪かっただけ」

 「でも、眠いね」

 「そうね。帰るか・・・」

 「この前は、悪かったわね。ファーストに何か云おうとしていたんじゃない」

 「いいよ・・・見舞いに来てくれたんだったら、ありがとう」

 「あのねぇ、言いたいことがあるんだったらさっさと云いなさいよ」

 「あの後だって機会があったでしょう・・・・こっちが、イライラする」

 「いや・・・あの時は、勢いがあったのに・・・」

 「あんた、生き残ると、すぐに元に戻るのね・・・もっと刹那的になりなさいよ」

 「・・・上手く行くかな」

 「ふっ ファーストに、ぶん殴られなければね」

 アスカが苦笑する。

 「「はあ・・・・・・・」」

 シンジとアスカは、並んでトボトボと家路についた。

  

  

 途中まで、一緒のトウジとヒカリ

 「委員長・・・助かったわ・・・一人じゃ・・よう歌えんかった」

 「個性的な歌い方だったわね」

 「委員長は・・・・・よく、行くんか・・・カラオケ」

 「前は、チアキとよく行っていたけど・・・使徒が来るようになってからは、月に一度ね」

 「ああいうルールでやってたんか。えらいきついわ・・・・」

 「慣れたら面白くなるのよ」

 「そうやな」

 「二人で歩くのって何年ぶりかしら」

 「腐れ縁やな・・・・俺とケンスケと委員長・・・・小学校の3年からずっと同じクラスやからな」

 「5年生のとき、わたしがケンカに巻き込まれたとき・・・鈴原が助けてくれたでしょう」

 「あれは・・・・行き掛かり上、ちゅうやつや・・・・」

 「ちゃんと礼。言ってなかったわね」

 「もう時効や・・・・それに最初、見て見ぬ振りした俺の方が後ろめたいわ」

 「じゃ・・・御礼の代わりに弁当を作ってきてあげるわ」

 「そ、そやけど・・・それは、悪いわ・・・・・」

 「いつも、お姉ちゃんと妹と三人分作っているから。四人分作るのも大して変わらないし」

 「そらあ、嬉しいわ・・・・い、いかん、本当に頭が痛とうなってきたわ・・・・弁当・・・楽しみにしとるわ」

 「うん」

  

     

  

 NERV本部

 リツコがミサトの前にコーヒーを置く。上質の香りがたち込もる

 「なあに、リツコ。改まって」

 「松代での3号機の起動試験。4人目を使うわ」

 「4人目・・・フォースチルドレン。見つかったの?」

 「ええ」

 「マルドゥック機関から?」

 「この子よ」

 リツコは書類を渡す

 「この子。どこかで・・・」

 「ちょっと。なに、第壱中の・・・シンジ君の同級生じゃない」

 「ああ・・・この子・・・・エヴァに乗った子ね」

 「・・・・・・」

 「どういう事。説明してもらおうじゃないの・・・」

 ミサトが険悪な表情。

 リツコは、後ろめたいのか、少しばかり目が泳ぐ

 「前回、彼が乗ったとき。たまたま、波長が合ったから・・・」

 「それを信じるほど、お人よしじゃないわよ」

 「0ナインシステム。100億分の1。洒落で付けたわけじゃないわよね」

 「そんなものに委員会は予算を出さない」

 「・・・・・・」

 「違う?」

 「・・・・・・」

 「で?」

 「委員会とNERVの力関係は、わかるでしょう」

 「ええ・・・丁稚よりマシね」

 「そう、丁稚よりマシ・・・」

 「でもね。独自の機密はあって。それがNERVの力の側面なの・・・」

 「秘密を知る者は、少ない方が良い。知らせても分散する・・・」

 「私も、多くの秘密を知らない、知らなければ、危険も少ない。違う?」

 「そういう事?」

 「そういう事」

 「悪事を隠しているという事はないでしょうね」

 「悪事?」

 嘲笑。

 「・・・人類の存亡を賭けているのよ。既に掛け金は、載せられている」

 「誰かが、いやだと言っても載せ続けるしかない・・・」

 「倫理道徳を振りかざすつもりはないわ・・・」

 「でもね。NERVが使徒殲滅だけを目的としていないことはわかるわ」

 「大枚賭けて掛け捨てにしたくないと、委員会が思っていたからといって」

 「わたしが、どうにかできることじゃないわ・・・」

 「NERVが、望むと望まぬとに関わらずね」

 「全容を教えるつもりはないのね」

 「全容なんて知らないもの」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 「どうやって、話そうかしら」

 「レイは、問題ないけど・・・アスカは、ちょっとね・・・シンジ君は、さらに厄介ね」

 「いい保母さんになれるわね」

 「まったくよ。軍人上がりで使徒殲滅の仕事についたと思ったら。保母の仕事も兼ねるなんてね」

 「でも、マヤに助けてもらったんじゃないの」

 「うっ・・・・」

 ミサトは、書類に眼を通して誤魔化す。

  

  

 NERV専用

 リニアトレイン。

 夕日が第3東京市を照らしていた。

 ゲンドウと冬月だけが向かい合わせで乗っている

 「碇。アメリカ第2支部・・・・・・ゼーレは、慌てていたぞ」

 「死海文書に書かれていない事も起こる。連中にはいい薬だ」

 「だが、我々も死海文書を無視できないだろう」

 「第10使徒は、ともかく、第11使徒と第12使徒は、重複している可能性がある」

 「時間的に重複していないと見るべきだな・・・」

 「しかし、打撃は、向こうのほうが大きい・・・こちらのシナリオは、最悪の場合の最善策だ」

 「4号機の事故。委員会が説明を求めてくるぞ」

 「問題ない・・・3号機が来る。4体もあれば、十分だろう」

 「あと来るだろう使徒は、5体だが、単独で来る。単純に4対1だ・・・これ以上は必要ない」

 「彼らが必要としている・・・人類補完計画のためにな」

 「我々に対する圧力だ。無理やりにでも、実行するつもりのようだな」

 「所詮。我々は傀儡ということか」

 「力で押し切るのは、わかりやすくて良い」

 「暗殺がいいのか? 追跡衛星が足りないぞ」

 「元々、連中の打ち上げている衛星だ。そちらの方が彼ららしいがね」

 「彼らは、時折、力を見せ付ける。歴史がそれを証明している。合理的とはいえないが・・・」

 「見せしめのためだ。日本も、むかし、やられただろう。無知の代償としてな」

 「そうだったな」

 ゲンドウと冬月は、窓際の沈む夕日を見つめる

  

  

 NERV休憩所

 缶ジュースを飲む伊吹マヤ。

 そばに近付く加持。

 「もうすぐ、本部の迎撃システムが出来上がるのに祝賀パーティの話しもない」

 「お堅い、組織だね。NERVも」

 「碇司令が、ああ、ですもの」

 休憩室に誰もいないのを確認すると、マヤの警戒感が高まる

 「君は、嬉しくないのかな?」

 加持は、ますます接近

 「い、良いんですか? 葛城さんやセンパイに云いますよ」

 「その前にその口を塞いじゃおうかな」

 加持の顔がさらに近付く

 「お仕事は進んでいる?」

 不意にミサトの声がして、マヤは慌ててファイルで自分の口を塞ぐ

 「いや・・・ぼちぼちかな」

 加持は動じない

 「で、では・・・仕事がありますから」

 マヤは、そそくさと去っていく

 「この非常時に・・・・もっと、相手を選んでくれない」

 「ほう・・・葛城なら良いのか?」

 「あなたの返事次第よ。地下のリリス、マルドゥック機関の秘密。知っているんでしょう」

 「はて?」

 「とぼけないで」

 「他人に頼るとは、らしくないな・・・実力以上のものに手を出しても、やけどするだけだぜ」

 「子供達の事を思えば・・・・そうも、行かない」

 「自分が利用するのは許せても、他人が利用するのは許せないか?」

 「都合よく、フォースチルドレンが見つかる・・・この裏は何?」

 険悪に詰め寄るミサトに観念する加持

 「ひとつ教えておくよ・・・マルドゥック機関は存在しない。陰で操っているのはNERVそのものさ」

 「じゃ・・・碇司令が」

 「コード707を調べてみるといい」

 「コード707・・・シンジ君の学校?」

  

 唐突にシンジが休憩室に入ってくる

 「・・・ミサトさん」

 「なに?」

 「リツコさんが出張の打ち合わせしたいって」

 「はいはい・・・またね・・・・加持君」

 「はいはい」

 ぽつんと残されるシンジと加持

 「たまには、どうだ。シンジ君。お茶でも」

 「僕、男ですよ」

 

 ジオフロントの公園

 「シンジ君。俺の悪い噂を聞いているみたいだな」

 「・・・女性職員が話しているの、聞いたことがあります」

 加持が苦笑する。

 「アスカが、かわいそうです」

 加持が噴出した。

 「おいおい、アスカは、子供だろう」

 「いくら俺でも手を出せないさ。むしろ君に頼みたいくらいだ」

 「ぼ、僕は・・・・・・」

 「ふっ 綾波ちゃんの方が好きなのか?」

 「わかりません・・・ただ・・・・綾波が気になるんです・・・」

 「それにアスカは、僕なんて相手にしませんよ・・・・加持さんに比べられたら・・・・」

 「良いものを見せてやろう」

 加持が、ベンチから立ち上がる。

  

  

 ジオフロントの一角。

 森の片隅に小さなスイカ畑。

 「スイカですか?」

 「ああ、可愛いだろう・・・俺の趣味だ。みんなには、内緒だがな」

 加持がジョロで水をまく。

 「何かを作る。何かを育てるというのは良いぞ・・・破壊しか知らないのは、悲しいことだ」

 「作ることが出来る・・・・育てることが出来る・・・ですか?」

 「僕は、作ることが出来るか、育てることが出来るか、わからない」

 「考えるのは、土壌、天候、肥料、水。刻々と変化していくことに合わせて調整する」

 「未来予測も必要になる。ジオフロントでは、あまり関係ないがね」

 「・・・・・」

 「辛いことがあっても、作り続けることが出来るか」

 「いやなことがあっても投げ出さずに育て続けることが出来るか・・・」

 「人として重要なことだ。シンジ君、俺が君に教えられることは少ない」

 「少なくとも、俺が君くらいのときは、酷い時期だった。戦った相手は人間だった」

 加持は、遠くを見つめる。

 「・・・・・・・・」

 「アスカも、綾波ちゃんも、能力こそ高いが女の子だ」

 「シンジ君が人として、重要なことを抑えておけば、人は惹かれるものだ・・・」

 「そういったことに惹かれないような女の子なら相手にしない方が良い」

 「加持さんが、もてるのは、人として重要なことを抑えているからですか?」

 「あそこに鳥が三羽いるだろう」

 「オスが二羽、メスが一羽。メスは、より良いオスと関係を結ぼうとする・・・」

 「オスもそうだ・・・例え重複してもね・・・」

 「これはね。能力の高さは関係ないことだ・・・」

 「誰のためでもない、自分のために・・・そうしたいからそうする」

 「不自然なことではないだろう・・・」

 「人間も、そうなんですか?」

 「むしろ、自然に逆らう人間が不自然なのさ・・・人は自分を自制できる」

 「だが無理をすれば、辛い思いをする・・・」

 「相手が求めてきて、それを払いのけるのも、その逆も辛いだろう・・・」

 「しかし、人間は、不自然な存在かもしれないな・・・」

 「他人を思いやるのも。エゴを無分別に押し通すのも、人を殺すのも、人間だ」

 「・・・・・」

 「シンジ君が、どう生きていくか・・・それは、君が決めていくことだ・・・」

 「そのうち、人に左右されないほど自意識が強くなっていく・・・」

 「いまのうちにいろんなことを吸収した方がいいだろう・・・」

 「人は、自分を犠牲に出来ても、自分を否定するのは簡単じゃなくなる」

 「保身のために自分を失わないようにな」

 「そうですね」

 「自信を持って良い。シンジ君は、育っているよ・・・」

 「俺が羨むほどにね・・・俺は、戦場心理に囚われない君に興味を持っている・・・」

 「ただ、人の目を気にするより、自分の意思を強く持つことだ」

 「意思は、人の目でなく、自分の欲望の強さから来る」

 「良い欲望を持てば良い人間になり。悪い欲望を持てば悪い人間になる」

 「僕に出来ると思いますか?」

 「自然に、そうなっていく・・・」

 「そうならない人間もいるがね。いまの自分を父親のせいにしなくなれば、君は、一人前だ」

 「ぼ、僕は、お父さんに捨てられていると思っていました・・・」

 「でも、お父さんが僕を捨てたんじゃなかった」

 「ぼ、僕が、お父さんを信じ切れなくて・・・僕は、卑怯だ・・・」

 シンジは、悔しげに俯く。

 「人は、誰に理解されなくても、そうしなければならない時がある」

 「君のお母さんは、君のお父さんの唯一の理解者だったようだ」

  

  

 ハーモニックステスト

 初号機。シンジ、レイ。

 二号機。アスカ。

 「リツコ・・・どう・・・調子は?」

 「良くないわね。停滞気味というところかしら」

 「前回のことがあるのね」

 「シンジ君は、LCL液に入り過ぎていた。少し間を空けたけど・・・」

 「出来るだけ早く状態を知りたかった。でも、まだ、早かったかしらね」

 「辛い経験をしたから・・・」

 「わたしが査問会に出れば良かった」

 「シンジ君に精神的ショックを与えすぎるのは、駄目よ」

 「シンクロに悪影響がでたらどうするのかしら」

 「過保護」

 「指揮官として。戦闘以外で、余計な負担をかけたくないのよ」

 「碇司令があれだから。少しは、シンジ君を庇わないとね」

 「でっ ミサト。話したの?」

 「・・・・・・・」

 「まあ、3人の波長を見れば・・・・わかるけどね」

 「・・・・・・・」

 「明日。本人に通達するわよ。すき焼きパーティで話すか」

 「ワンパターンね」

 「今度は、来るよね。リツコ」

 ミサトは、リツコの肩を掴む

 「とりあえず・・・あなたが部屋を掃除したのを確認してから、返事をするわ・・・」

 「マヤも、かなりショックを受けていたし・・・あなたの部屋・・・精神汚染に近いわね」

 「・・・・・・・・・・」  引きつる

  

 

 

  

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第24話 『死に至る病、そして』
第25話 『スイカ畑』
第26話 『四人目の適格者』
登場人物