月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

第27話 『崩 壊』

   

 起動試験

 ミサト、リツコ

 「大丈夫? トウジ君。LCL液に慣れた」

 『不味いです。ミサトさん』

 「我慢して、トウジ君。男の子でしょう」

 『うぅ 終わったらジョッキ一杯、LCL液、持って行きますから』

 『ミサトさん飲んでくれはりますか?』

 「うぅ・・・・」

 「ふふふ、毒じゃないわよ。ミサト。シンジ君と反応が違うじゃない」

 「わかったわ。終わったら、あなたの前で、私とリツコで飲んで見せるわよ」

 「ちょっと! ミサト。私を巻き込まないで!」

 「我慢して、リツコ。大人でしょう。退けないでしょう」

 「あとで、償いをさせるからね。ミサト」

 リツコ、憮然。

 着々と進む起動実験

 「オールクリア。絶対境界線を突破します」

 その時、3号機が身震い。

 突然、拘束具を引き千切り、咆哮。

 伏せるミサトが、呆然と見守るリツコに気付いて一緒に倒す。

 爆発。爆風が実験場を吹き飛ばした。

 

  

 NERV本部

 大騒ぎの発令所

 「・・・松代で爆発事故! 被害は?」

 冬月、動揺。

 「仮設実験場が吹き飛ばされました。松代支部自体の損傷は爆風だけで軽微」

 「現在。松代支部から救出チームが出ています」 青葉

 「本部からも救出部隊を出せ。戦自が介入する前に処理するんだ」 ゲンドウ

 「了解」 青葉

 「事故現場に未確認の移動物体を探知。パターン・・・オレンジ」 日向

 「第一種戦闘配備」

 「了解。迎撃システム。オン。保安局はチルドレンを確認して回収」 日向

 「エヴァ全機の発進準備」

  

  

 初号機のエントリープラグ

 シンジ。日向

 『・・・シンジ君。松代で3号機が事故を起こした』

 「3号機が事故? ミサトさんたちは?」

 『松代と本部からも救出部隊が向かったから大丈夫だ』

 「じゃあ・・・早く助けに行かないと」

 『目標は、小諸・佐久防衛線を突破。現在、千曲川沿って南下中』

 「目標って、使徒なの?」    シンジ

  

  

 発令所

 「エヴァ全機、発進だ」 ゲンドウ

 初号機、エントリープラグ

 「ミサトさんは?」

 『まだ、連絡が取れない』 日向

 「そんな、どうしよう」

 『何、グジグジ言ってんのよ。私たちが心配したって、しょうがないでしょう』

 アスカが割って入る

 『・・・・』 レイ

 「どんな、使徒だろう」

  

  

 NERV本部

 発令所

 「野辺山で、目標を映像で捉えました」  青葉

 モニターに映される3号機。

 「やはりな」

 冬月が呟く。

 「活動停止信号を発信。エントリープラグ強制射出」

 ゲンドウの命令で、3号機の背中が吹き飛び、

 菌糸で塞がれたエントリープラグは射出できない。

 「駄目です。停止信号コード認識できません」

 「排出コードは、作動しましたが射出に失敗です」 マヤ

 「パイロットは?」  ゲンドウ

 「呼吸、心拍の反応はありますが意識不明のようです」

 「3号機は、現時刻を持って破棄。目標を第13使徒と識別する」

 「しかし・・・・」 日向

 「野辺山で戦線を展開。目標を撃破しろ」 ゲンドウ

  

  

 エヴァ三号機は、黒いボディを白い不気味な粘糸に纏われている。

 初号機

 「使徒・・・これが使徒ですか?」

 「エヴァ3号機じゃないですか」

 シンジが動揺する

 『まさか、使徒に乗っ取られるなんて』  アスカ

 「やっぱり、人が、子供が乗っているのかな?」  シンジ

 『あんた、まだ知らないの? 3号機には・・・』

 アスカからの映像が途絶える。

 キャアァァアアッ!!

 突然。

 アスカの悲鳴と破壊音が響く。

 「アスカ!」

 

 

 発令所

 「エヴァ二号機。完全に沈黙」

 「パイロットは、無事です。回収班が向かいます」

 「目標が零号機に向かいました」

 「レイ。近接戦闘は避けて目標を足止めしろ。初号機は、零号機のところに向かえ」

 ゲンドウ

 「分散し過ぎたな・・・碇」 冬月

 「迎撃システムが完成したのは、都市圏までだ」

 「外郭防衛線のラインだと、ケーブルが少なくて、同時展開は、時間がかかる」

 「迂回されて都市直上に来られては、もう、資金繰りもつかん」

 「ふっ 委員会の出し渋りも困ったものだ」  冬月

 「戦力を与えた分。締め付けも厳しいな」  ゲンドウ

  

 野辺山の国道沿い。

 零号機はライフルを手に3号機の狙撃を試みようとしていた。

 「乗っているわ・・・彼・・・」

 レイが引き金を引こうとした瞬間。

 「!?」レイ

 3号機がしゃがみ込むと異様なフォームで跳躍。

 3号機の両腕が異様に伸びて、零号機を組み敷いてしまう。

 そして、3号機の腕の装甲版から粘液性の粘糸が零号機に纏いつく

 侵食される零号機の左腕。

  

  

 発令所

 「・・・零号機左腕に使徒侵入。神経節が使徒に侵食されつつあります」

 「零号機。左腕を切断」 ゲンドウ

 「神経接続を解除しないと」

 「早くしろ!」

 「は、はい!」

 零号機の左腕が爆破されて強制的に切り離され、体液が飛び散る

 爆発の反動で3号機が、零号機と離れる。

 左腕を押さえて必死に激痛に堪えるレイ

 「レイ、下がれ。後退だ」

 『・・・・・・・・・・・』

 レイは、激痛で声も出ない

 『零号機、中破。パイロット負傷!』

 「そ、そんな・・・綾波!」

 『目標が接近しているぞ。おまえが倒せ』

 「でも・・・人が乗っているんだ・・・」

 初号機に迫る3号機

 「同い年の子供が」

 対峙する初号機と3号機。

 掴みかかってくる3号機を初号機が蹴りを入れて弾き飛ばす。

 その時、粘糸に覆われ、半分しかせり上がっていないエントリープラグが見えた。

 「エントリープラグ。やっぱり、人が乗っているんだ」

 獣のように身構える3号機の両腕が突然伸び、初号機の首を絞めつける。

 シンジの首に絞められる跡がくっきりと浮かび上がる。

 「シンクロ率の上限を60パーセントに・・・」  冬月

 「待て」

 「しかし、碇。このままだとパイロットが死ぬぞ」

 「シンジ。何をしている。なぜ戦わない」

 「だって、人が、人が乗っているじゃないか」

 「構わん。そいつは、使徒だ。我々の敵だ。殲滅しろ」

 「で、でも、助けなきゃ 出来ないよ・・・人殺しなんて出来ないよ」

 「おまえが死ぬぞ」

 「いいよ。人殺しよりもいい」

 さらに3号機の指が食い込んでいく、

 そして、侵食が始まる

 「パイロットと初号機のシンクロ解除。全面カットだ」

 「カットですか?」 マヤ

 「そうだ。回路をダミーシステムに切り替えろ!」

 「しかし、ダミーシステムは、問題が残っています」

 「いまのパイロットよりは、役に立つ。暴走させろ・・やれ」

 「・・・ハイ」

  

  

 突然。

 エントリープラグ内の電源が落ちて再起動が始まる。

 「・・・な、何を・・したんだ? 父さん」

 シンジは、首を押さえ、むせりながら言った。

 「いったい、何をしたんだ・・・父さん・・・・」

  

 発令所

 「管制システム。切り替え完了」  マヤ

 「全神経、ダミープラグに直結完了」

 「感情素子。ニューロンに差異が生じています。シナプスの擬似補完を行います」

 「構わん。システム開放。攻撃させろ」

 ゲンドウの命令でエヴァ初号機の両眼が開き、咆哮する初号機。

 そのまま、3号機の首を絞める初号機。

 互いに相手の首を絞め合う。

 異様な光景に呆然とするNERVの面々・・・ゲンドウだけがニヤリと微笑む。

 初号機が力任せに3号機の首をねじ切る。

 そして、3号機の首を大地に叩きつけて惨劇が始まる。

 3号機の両腕が握りつぶされ、さらに力任せに解体が始まる。

 「やめてよ! 父さん。こんなのやめてよぉおおっ!」

 シンジの嗚咽に似た叫び声が流れる。

 「人が乗っているんだ! 人が乗っているんだ!!」

 シンジは、闇雲に初号機を動かそうとするが反応しない。

 「止まれ、止まれ。とまれぇええ!!!」

 シンジの願いも空しく、シンジの意思は、初号機に伝わらない。

 バラバラに引き裂かれる3号機。

 辺り一帯に肉片が散らばり血が大地を覆う。

 嘔吐を抑えようとモニターから眼を背けるマヤ。

 初号機が、エントリープラグを引きずり出し

 シンジの表情が凍りつく。

 「や、やめろぉおおっ!!」

 初号機の右手が、エントリプラグを握りつぶすとLCL液が噴出した。

 「やめろぉおおおぉぉおお!!!」

 夕陽が不自然に動きを止めた初号機を照らしていた。

  

  

 ヒカリの部屋

 ヒカリがお弁当のレシピ本を見ながら献立を考えていた。

 「鈴原。明日学校に来るかな・・・・」

  

  

 松代

 仮設実験場

 巨大なクレーター。

 赤十字の印が付いたヘリと車両が行きかう。

 包帯を頭と腕に巻かれたミサトがストレッチャーに乗せられ、

 瓦礫の中から運び出される。

 加持が脇に立つと、ミサトは、かろうじて微笑んだ。

 「・・・リツコは?」

 「心配ない。君と同じ程度だ」

 「3号機は?」

 「使徒として処理されたよ・・・初号機に・・・」

 息を呑むミサト

 「わ、わたし、シンジ君に話していない」

  

  

 野辺山

 シンジは、初号機を降りると、

 回収されつつある3号機のエントリープラグにフラフラと近付いく。

 エントリープラグは、へし折られて、LCL液が流れ出していた。

 回収班がエントリープラグから、不自然に体が折れ曲がった鈴原トウジを運び出した。

 ・・・暗転。

  

  

 病院のラウンジ

 アスカは、頭と腕に包帯を巻いてる

 レイも、左肩からギブスで固めていた。

 二人の距離は、5メートルほど離れ・・・

 「あのバカ。もう、立ち直れないわね・・・・」

 「碇君は?」

 「いつもの303号室」

 「そう・・・・」

 レイは、立ち上がる

 「鈴原・・・死んだそうよ」

 「そう」

 レイは、去って行った。

 アスカは、シンジのもとに行くだろうレイを見つめながら。

 ヒカリになんと言うか考える。

  

  

 シンジが眼を覚ましたのは、真夜中だった。

 そして、フラッシュバックが現実を認識させる。

 怯え震え、フラフラと立ち上がる

  

  

 レイとアスカが発令所に飛び込んでくる

 既に、発令所は、ざわついて、誰も気にしない。

 「碇君は、どこ?」

 レイは、青葉のそばに来ると聞く。

 青葉は、レイの女の子らしい表情にぼんやりする。

 「シンジは、どこに行ったのって、聞いているんだけど?」

 アスカが険悪に割り込んだ。

 「あ、ああ・・・ロストしたんだ」

 「ロ、ロストですって!」

 「ちょっと、どういう事よ。本部内の病院からロストですって!」

 「ああ・・・タイミングが悪かったんだ」

 「保安部員は、ローテーションの変わり目」

 「NERVカードも、携帯も、病室に置いたまま・・・」

 「でっ いま、どこ?」

 「第3東京市内にいるのは、間違いないと思う」

 「公共交通機関を使えば、監視カメラですぐに認識できる」

 「パイロットの自動追跡システムは?」

 「ああ、タイミングが悪くてね」

 「第10使徒に追跡衛星を8個壊されて、これも、ローテーションの間隙を突かれた・・・」

 レイの表情に青葉が怖気づく。

 「い、いま、保安部員と諜報員が総出で探しているから。すぐに見つかる・・・」

 「休んでいてくれないか。パイロットは、休むのも仕事だ」

 青葉は、日向を見る。

 立場上。ミサト不在の場合、日向が代行する。

 「す、すぐに見つかるから・・・」

 「ほら、彼、その手の訓練は、受けていないから、難しいわけじゃない」

 「彼の状態は、だいたい、わかっているから」

 日向が助け舟を出す。

 「本当に状態がわかってたら」

 「シンジが病院から逃げ出すかもしれないことぐらい。想像付くでしょう」

 「そ、そうだね。でも、きっと探すから」

 その場しのぎの言い訳。

 アスカは、諦めたのか退く。

 レイは、無駄と判断すると、出て行く。

 「ああ、びっくりしたよ」

 「レイがあんな顔するなんて、まるで恋人を心配している乙女じゃないか」 青葉

 「年齢からして、乙女なんだけどね」 日向

 「確かにそうだけど。あの子が心配そうにしている顔なんて見たことなかったからね」

 「シンジ君が、いないと厳しいわね」

 マヤが、ため息をつく

 「確かにな。しかし、今回は・・・・・」

 日向が最上階層を見つめる。

 誰も、いなかったが、そこにいる人間は限られており、

 その視線上に座る人間は、一人だけ。

 「まさか、死ぬことになるとはね」 青葉

 「やめて」

 真っ青なマヤ。

 ダミープログラムの開発と製作に関わり、システムを起動させた当事者だ。

 「「・・・・・・・」」 青葉、日向

  

  

 加持は、バスに乗ると一人の女性のそばによる。

 ほんの一瞬の接触。

 誰にも気付かれずに必要なものを入手する。

 堅気の人間を介する命令書の受渡。

 しばらくするとバスが止まり一人の中年の男が降りていく。

  

  

 NERV総司令公務室

 ゲンドウ、冬月

 「まだ。見つからんとは」

 「・・・・・」

 「システムに頼りすぎたという事か」

 「NERVカードと携帯を置いていかれただけで見失うとはな」

 「・・・・・」

 「反NERV。戦自やゼーレにかぎつけられたら、厄介だぞ」

 「エヴァのパイロットに逃げられたら、なんと付け入れられるか」

 「戦自を牽制する。その隙にパイロットを回収する」

 「碇・・・回収できても、役に立てるかどうかわからんぞ」

 「それでも、ほかに取られるポイントが大きすぎる」

 「そうだな、第13使徒バルディエル。不吉な数字。その通りだったな」

  

  

 ジオフロントの公園

 アスカは、傷心のレイを珍しく助けたくなった。

 「ファースト。保険を打っておく?」

 「保険?」

 「シンジよ。ロストしてからの時間が長すぎる」

 「どうするの?」

 「当てがある。NO1の諜報員がいるから」

 「どこにいるの?」

 「探すのよ」

  

  

 シンジは、深夜に病院を抜け出した。

 そして、ひたすら歩く。

 当てもなく、ただ寂しい道沿いを選んで歩く。

 最初、NERVから逃げ出すつもりはなかった。

 ただ単にトウジを殺してしまった事実から逃れるために歩き続ける。

 夜の山道。

 シンジは、不意にアスカと山道を歩いたことを思い出し、

 不意に不自然に折れ曲がったトウジを思い出して座り込む。

 「ぼ、僕が、トウジを殺したんだ・・・僕がトウジを殺してしまった・・・・」

 シンジは震えながら泣き出した。

  

  

 ジオフロントの森をレイとアスカが彷徨い歩く、

 麦藁帽子をかぶった。どこかのおっさんがスイカ畑で水を撒いている。

 ジオフロントでなければ、日曜農耕という感じだ。

 「やあ、アスカに綾波ちゃんか・・・どうした?」

 「わたし達が探しているの。知っているでしょう。バカなこと聞かないで」

 「ふっ あははは」

 「・・・・・・」 レイ、アスカ

 「いや、すまんすまん。アスカの言い方で誰かを思い出したよ」

 「アスカも、大きくなったな」

 「・・・・・・」

 アスカが、むすぅ とする

 「加持室長。お願いがあります」 レイ

 「・・・・・・」 加持

 「碇君を探してください」

 「シンジ君のことかい。子供一人だ。保安部ならすぐに探し出すさ」

 「探すだけじゃ駄目でしょう。シンジの状態。想像付く?」

 「おいおい。カウンセラーは、やっていないがね」

 「まぁ あいつらだと、花瓶を割っても持って帰れば良いと思うだろうが」

 「探してくれるの?」

 「ふうん、そうだな・・・本当は、野暮用が入っているんだが・・・」

 「何とか都合をつけるよ。可愛い二人に頼まれては、断れまい」

 レイの表情が和らぐ

 「加持さん。もったいぶって」

 「それは違う。人が人を動かす。それは、代償が必要なのさ」

 「仲の良いとは言えない二人が一緒に俺を探し出した」

 「俺は、そのことに感動して引き受ける・・・そういうことだ」

 「「・・・・」」レイ、アスカ

 「そうだな、その代わり、俺のスイカの面倒を見てくれないか」

 加持は、内ポケットから封筒を取り出すとタバコの火を点けた。

 「どうしたら良いの?」

 封筒が燃え始める

 「朝と昼に水をやって、周りの雑草を取る」

 「わかったわ」

 「そうか・・・じゃ 頼むよ。綾波ちゃん・・・枯らさないようにしてくれよ」

 「わかったわ」

 加持は、麦藁帽子をレイの頭に乗せジョロを渡して去っていく。

 麦藁帽子を被ってジョロを持ったレイと、灰になった封筒が残された。

 

 

  

  

 翌日。

 学校

 鈴原トウジが使徒戦に巻き込まれて死亡した事が先生から伝えられる。

 教室中がざわつき、ヒカリは呆然とする。

 「うそっ! うそよ、そんな。鈴原が死ぬはずないわ」

 「ヒカリ」

 チアキが寄り添う

 シンジ、レイ、アスカは、学校を休んでいた。

 ケンスケは、動揺して落ち着かない

  

  

 学校  屋上

 ケンスケが一人、屋上から遠くを見ていた。

 ヘリが10機近く、

 あちら、こちらを飛んでいたが大して感銘を受けない。

 気が付くと隣にヒカリが同じように遠くを見ている。

 「・・・新城と一緒じゃないのか?」

 「少し、一人になりたくて」

 「小学校からの同級生は、もう、洞木だけか」

 「そうね。相田は、鈴原と仲良かったわね」

 「たまたまだよ。小学校から、いつも同じ教室だったから、話しやすかっただけ」

 「最初は、熱血バカ。熱血バカになったのかな」

 「そんなに仲が良かったわけじゃないよ」

 「そう・・・」

 「洞木が上級生に虐められている生徒を庇って、それで、トウジが巻き込まれたんだっけ」

 「覚えているんだ。当事者しか覚えていないと思ったのに」

 「俺は、見て見ぬ振りを続けたんだ。あの時・・・・」

 「そう。もう、どうでもいいって感じ」

 「どうでも良くない。あの時、勇敢な二人と、臆病なその他大勢に分けられてしまった」

 「あのときほど人間として差別を感じたのは、初めてだったよ」

 いつになく真剣なケンスケにヒカリが驚く。

 「そ、そんな風に思ってくれたんだ・・・意外」

 「思わせられたんだ。いつもトウジと洞木が同じ教室にいたからな」

 「ふ、不可抗力よね」

 「別に責めてはいないよ。俺なりに強くなりたいと思った」

 「いざという時は、あの時の二人のように・・・」

 「でも、死んだら、駄目よ」

 「いつか、いつか、俺も勇敢だと、見せたかったんだ」

 「トウジと洞木に、それなのにあいつは逝ってしまった」

 「ひょっとして、私が慰め役なの」

 「ごめん」

 「良いけど、相田とは、あまり話さなかったから」

 「遠慮してたんだ。トウジと洞木の邪魔をしたくなかった」

 「でも、どうして、あの後、付き合わなかったんだ」

 「好きだったんだろう。トウジのこと」

 「鈴原が、私のこと、好きじゃなかったからでしょう」

 「違うよ。トウジも一度、見て見ぬ振りをしようとしたから洞木に劣等感を感じて、諦めてたんだよ」

 「・・・そうだったの・・・バカみたい」

 「確かに不器用なやつだったけどね」

 「バカなのは、わたし、恋愛の対象として見られていないのかと思っていたから」

 「俺は、死ぬまでトウジに劣等感を持ったままか」

 「ねぇ まだエヴァに乗りたいと思っているの?」

 「シンジは、勇敢だよ。トウジも。俺は、勇敢な人間に憧れている・・・」

 「そして、勇敢な人間の側にいたい。あの時の思いはしたくない」

 「だからエヴァに乗りたがったの」

 「でも、勇敢だからといって、好かれるわけじゃないけど」

 「洞木は、シンジと合わないみたいだね」

 「線が細すぎて。何かあると壊れそうで不安になるから」

 「じゃ やばいね。シンジのやつ、その何かの部類に入ったから」

 「何があったか。知っているの?」

 「いや、でもトウジが死んだのは、ショックだと思うよ」

 「あいつも、友達作るのうまい方じゃないから」

 「そう」

  

  

 シンジは、ひたすら歩く。

 目的地はない。

 鈴原を殺したという現実から逃れるために歩く。

 山を越えるのは、難しくなかった。

 一度、アスカに連れられてサバイバル訓練をした経験が生かされる。

 地図も、磁石も、目的地もない。

 第3東京市から離れたいだけのシンジは、どうでもいいことだった。

 トウジとの事が何度も思い出される。

  

  

 404号室

 珍しい。

 いや、アスカがレイをお茶に誘って、自分の部屋に入れたのは、初めてのことだ。

 アスカは、なんとなくレイを誘ってしまい。

 レイも、なんとなく受けたのだ。

 「・・・あのバカ。どこに行ったのかな」

 「・・・・・・・・」

 「最悪のパターンになったわね」

 「わたしが倒せなかったから。碇君は悪くない」

 「それ言われたら。私も、あっけなく、やられちゃったしね」

 「・・・・・・・・・」

 「ファースト。シンジと、どこまで行ったの?」

 「どこまで?」

 「キスした?」

 「・・・・・・・・」

 レイは、首を振る。

 「そう」

 「・・・・・・・」

 「ねぇ ファースト。あんた。シンジのこと好きなの?」

 「好き? わからない」

 「へぇ そう」

 「なぜ?」

 「えっ!?」

 「なぜ、見つからないの?」

 「偶然が重なったとしても・・・」

 「碇君は、サバイバルも諜報のことも知らないはず・・・」

 「あ・・・」

   

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第26話 『四人目の適格者』
第27話 『崩壊』
第28話 『命の洗濯』
登場人物