第34話 『NERV 誕生』
暗闇の中。
01から12までの番号が入った黒いモノリスが浮かんでいる。
そして、冬月は、スポットライトの下に立つ
「・・・久しぶりだな」 01
「ご無沙汰しております。キール議長」
「さて、状況を調整するべきだろうな」 01
「・・・日本政府は、本気のようですが」
「我々と本気で事を構える気が日本政府にあると?」 06
「事を構えるというのは、本意でないようですが」
「バカな。要求が過分であれば代償を求められて当然」
「それが、一国を滅ぼすには十分な内容。もはや、運命は避けられまい」 03
「ですが、当面、使徒戦において共同歩調を取るべきでは?」
「勝手にするが良い!」 07
「人類が、滅びても良いと」
「人類を人質に取っても無駄だよ」
「アンチATフィールドに対する研究は我々のほうが進んでいる」 01
「それは “我々のみ” なら生き残ることが出来る研究では?」
「左様。基礎技術でも君が知る程度の内容ではない」 04
「ATフィールドの概念がつかめているという事ですか?」
「セカンドインパクトは、空砲か不発に近いレベルでの事象でした」
「使徒がリリスと融合した場合。アンチATフィールドによって生命と精神が結合力を失って融合、液化してしまいます」
「アンチATフィールドを上回る強力なATフィールドによって、自らを守らない限り、防衛は不可能では・・・・・」
「我々の理想に叛意を取る理由は、なんだね」 06
「私自身、ゼーレに叛意を示してはいません」
「しかし、当面は、戦自の使徒戦に協力したいと思っています」
「人類補完計画。これなくして、閉塞状態にある人類の限界を超えられない」
「それを日本政府にくれてやるつもりは無い。あれは、我々のものだ」 01
「使徒戦に集中して後顧の憂いを断つほうがよいのでは?」
「どうだか、我々は神を作るつもりはない・・・」
「日本政府は、初号機の扱いに対し、あまりにも無用心ではないのか」
「あれが勝手に動き出してリリスに向かったら全てが終わりだ」 08
「そう、認識不足どころか、無知に近い。無知は死の影。わかっているかね」
「冬月先生。我々に対する認識を誤るべきではない」 10
『冬月先生・・・か。そう呼ばれた時期もあったな・・・・』 冬月
1999年 京都
大学のキャンパス内の銀杏通りで男子学生に声をかけられる
「先生、冬月先生」
「君たちか」
「これから、鴨川でどないです? ビールでも」
「またかね」
「リョウコ達が先生と一緒なら行く、いうとりますのんや」
「・・・・」 ため息
「教授も、たまに顔を出せいうとりましたで」
「ああ、わかったよ」
鴨川沿いの居酒屋
「・・・冬月君。久しぶりに外で飲むのも良かろう」 教授
「はあ」
「君は、優秀だが人の付き合いというものを軽く見ているのがいかんな」
「おそれいります」
「ところで冬月君。生物工学でおもしろいレポートを書いてきた学生がいるんだがね」
「碇という学生なんだが知っているかね?」
「碇・・・・? いいえ」
「君の事を話したら是非会いたいと言ってきた」
「そのうち、連絡があるだろうから、よろしく頼むよ」
「碇ですね。わかりました」
数日後
冬月の研究室 若い女性が立っていた。
「・・・・これ読ませてもらったよ」
「いくつか疑問点が残ったから、箇条書きにして添えておくよ」
「しかし、おもしろい着眼点だ。久しぶりに刺激のあるレポートだったよ」
「ありがとうございます」
「碇ユイ君だったね」
「はい」
「碇君は、この先、どうするつもりかね。就職?」
「それとも大学院に進んで研究室に入るつもりかな?」
「推薦状が必要ならいつでも書くよ」
「まだ、そこまで考えていません。それに第3の選択もあるんじゃありません」
「第3の選択?」
「家庭に入ろうかとも思っているんです。いい人がいればの話しですけど」
2015年
「S2機関を装備した初号機。永久運動機関を装備した無敵の戦力」
「日本に持たせるわけにはいかんよ」 02
「なにぶん、緊急避難的処置でしたので。それにエヴァが無限でもパイロットは寿命がありますから」
「ゼーレの資産を没収しておいていい気なものだ」 03
「ですが、パイロットが搭乗しなければ、全てを失いました。同時にサードインパクトも・・・」
「それと、日本政府は、没収した資産の一部を賠償すると」
「それで、済まそうというのは、虫が良すぎるな」 07
「碇シンジ。本来なら反逆罪で極刑だよ」 01
「情状の余地があると思いますが」
「碇親子の問題ではないか。親子揃っていまいましい」 11
「碇シンジ。尋問する必要があるな」 12
「父親よりは、はるかに扱いやすいと思ったが、もう一度、見直す必要があるやもしれんな」 04
『そういえば・・・あの男の第一印象は、いやな奴だったな』
冬月がぼんやりと思い出す。
1999年
京大
冬月研究室
「・・・・六分儀ゲンドウ?」
冬月が電話口で呟く
「聞いたことがある。悪い噂の絶えない男だ」
『その男が身元引受人であなたの名前を上げましてね。断りますか?』
警察官の声
「・・・いつ、伺えばよろしいのでしょうか?」
京都府警警察署正面玄関
ゲンドウと冬月
「ある人物からあなたの噂を聞きましてね。一度、お会いしたかったんですよ」
「迷惑な話しだ。酔ってケンカとは、意外と安っぽい男だな」
「話す間もなく、一方的に絡まれましてね」
ゲンドウの腕に包帯。
「人に好かれるのは苦手ですが、疎まれるのは慣れています」
「まあ、わたしには関係ないことだ」
「冬月先生。どうやら、あなたはわたしが期待したとおりの人のようだ」
「・・・・・・」
京都の山道
冬月とユイ
『そして、あの男が付き合っている女性を知ったときは、驚きを隠せなかった』
「・・・君が?」
「はい、六分儀さんとお付き合いさせていただいています」
「君があの男と歩くなど信じられんな」
「あら、冬月先生。あの人、とてもかわいい人なんですよ。みんな知らないだけです」
「・・・知らない方が、幸せかもしれんな」
「あの人を紹介したこと、ご迷惑でした?」
「いや、好きにはなれんが、おもしろい男であることは認めるよ」
ユイが笑う
2000年
南極大陸
セカンドインパクト
『20世紀最後の年に悲劇が起こった。その当時、私は部外者だった』
2001年
『そして、21世紀最初の年。地獄でしかなかった』
『世界中のどこを見ても程度の差があれ他の表現が出来なかった』
2002年
調査艦隊が、どす黒い海を進む。
オーロラが異様な色合いを見せる。
巡洋艦の甲板に厳重な保護が施された防弾ガラス張りのドームが設営されていた。
「・・・これが南極大陸とはな・・・見る影もない」
「冬月先生」
ゲンドウが横合いから声をかける
「君は、良く生きていたな。君は、葛城調査隊に参加していたと聞いていたが」
「運良く、事件の前日に日本に戻っていましたので難を逃れました」
「六分儀君は・・・・・・・」
「いまは、名前を変えまして・・・」
ゲンドウがハガキを渡す
「ハガキ・・・名刺じゃないのかね」
そのハガキに
『結婚しました。碇ゲンドウ・ユイ』
と印刷されていた。
「碇・・・・碇ゲンドウ?」
「妻が、これを冬月先生にと・・・」
「ユイ君はどうしている? このツアーに参加していないのかね?」
「ユイも来たがっていましたが、いまは子供がいるのでね」
2002年
水没した街。高台のバラックに赤ん坊の泣き声が響く
「泣いてばかりね。シンちゃん」
「泣いてばかりだと癖になるわよ。すぐに逃げ出したりね」
2002年
南極海上
ゲンドウ、冬月
「・・・理事会を力で抑えるというのは、感心できんな」
「君の組織、ゼーレとかいったかな。いやな噂が絶えないね」
「少数派のやっかみですよ」
「本当の少数派ゼーレの方だろう」
「たしかにそうですけど、要衝を抑えてるので・・・」
「今回のセカンドインパクトの調査」
「これもゼーレの人間だけで送り込むと後々厄介になる。間に合わせだろう。私は」
「・・・・・・・」
ゲンドウが、にやりと笑う
『調査が進むにつれ、明らかに情報操作される事件の真相」
『しかし、原因が究明できないまま、謎が次々と取りこぼされた』
2003年
日本国立病院
病室を覗き込む冬月と医師
「・・・大丈夫なのかね?」
「葛城ミサト16歳。セカンドインパクト。南極大陸、葛城調査隊唯一の生き残りです」
「もう、2年も口を開いていません」
「よく助かったものだ」
「漂流していた近くにアメリカの原潜がいたのが幸運でした」
「そして、その原潜が写した写真か」
「爆発が起こる前に葛城調査隊は、全滅を確信」
「娘を脱出カプセルに乗せた後に小爆発でカプセルは、洋上にまで吹き飛ばされ」
「原潜が娘を救出した後にセカンドインパクトが起きた。というところか・・・」
巨大な光る巨人が写されていた。
2003年
箱根
国連直属・人工進化研究所
通路
「お久しぶりです。冬月先生」
「ああ、しばらくだな。ユイ君」
国連直属・人工進化研究所
所長室
ゲンドウ、冬月
「碇、なぜ、真相を隠す」
「・・・・・・・」
「セカンドインパクト。知っていたんじゃないのかね」
「君らは、あの日、あれが起こることを・・・」
「君は運良く前日、日本に引き揚げたそうじゃないか」
「・・・・・・」
「全ての資料を一緒に引き揚げたのも幸運か?」
「・・・・・・」
「君の資産、いろいろ調べさせてもらった」
「子供の養育にお金はかかるだろうが。個人で持つには、少々、額が大きすぎないかね」
「冬月教授。経済学部に転向なさったらどうです」
「そのつもりはない」
「ただ、私は、あれを起こした人間達を許すつもりはないよ。彼らは確信犯だ」
冬月が机の上に書類を叩きつける
「まだ、そんなものが処分されずに残っていたとは、意外です」
「セカンドインパクトの裏に潜む。君たちとゼーレ。そして、死海文書。公表させてもらう」
「お好きに。ただその前に、見ていただきたいものがあります」
「・・・・・・・・」 冬月
車の後部座席
ゲンドウと冬月が並んで座る
「冬月先生」
「なにかね」
「セカンドインパクトが起こらなかったら。人類は自滅していたとは思いませんか?」
「・・・・・・・」
「人類は、今後、人口を低調な形で緩やかに上昇するでしょう」
「エネルギー、食料、水、多くの資源が枯渇までの時間を稼ぐことができした」
「宇宙開発を間に合わせて人類を宇宙に放り上げることが出来るかもしれない」
「・・・・・・・」
「委員会は、理不尽で、無慈悲かもしれませんがね。結果が最悪とは言えませんよ」
「もう少し調整の必要があると思いましたがね」
「人類同士で、というよりは、いくらかましでしょう」
「少なくとも、人類以外のものに責任を押し付けることが出来る」
「・・・・・・・」
「意見がないのは、数学的に反論できないと言うことですか? 冬月先生」
「・・・・・・・」
狭い坑道を走るミニ列車。
ライト付きのヘルメットをかぶる冬月とゲンドウ
「随分、もぐるんだな」
「ええ、南極大陸にあったものと似たようなものが発見されました」
「なんだと?」
「まったく同じではありませんが」
トンネルが開けると巨大な空洞が眼前に広がる
「これは・・・・・」
「これは、人類が作ったものじゃない・・・発見しただけです」
「89パーセントは、埋まった状態です」
「まだ調査中ですが自然のものと考えるのは不自然すぎます」
天井が綺麗な球状をしている奇妙な空間。眼下に広がる原生林と地底湖
「地底空間。光はどこから」
「天井に光コケの一種が群生しています」
「夕闇程度ですので、いずれは発光ダイオードで照らすことになります」
「生態系が狂うな」
「地表ほどでは、ありませんよ」
開くエレベータ。
コンピュータシステムに囲まれたホールに女性が立っていた。
「あら、冬月先生」
「赤木博士。君もかね」
「生体コンピュータの基礎理論を試す機会が得られまして」
各種のネットワークを案内する赤城博士
「見せたいものとは、これのことかね」
「いえ、こちらです・・・・・リツコ、すぐ戻るから」
赤木ナオコ博士が、高校生のリツコに声をかける
地下開発施設
空中に吊り下げられた零号機の頭部。
首から数十のコードとパイプがつながっている。
ゲンドウ、冬月
「これは?」
「南極を消滅させた巨人をゼーレはアダムと名付けました」
「これは、そのアダムの組織を培養したもの・・・・エヴァです」
「エヴァ・・・」
「裏死海文書を読んでいるのなら、話しは早い」
「人類に選択の余地は少ない。冬月。俺と一緒に人類の新しい歴史を作らないか」
2004年
NERV本部
ゲンドウ、冬月
「碇。この一周間、どこに行っていた?」
「ユイ君のことで傷心はわかるが、おまえ一人の体じゃない事も自覚してくれ」
「死海文書によれば、来年、第2使徒が来る」
「わかっているのか、ゼーレは尻拭いするつもりはないようだ」
「日本政府もセカンドインパクトから立ち直るのに必死で、第2使徒に対し無防備だ」
「わかっている。第2使徒迎撃に関しては計画どおり進めるしかないだろう」
「E計画に続いて、A計画も平行して進めたい」
「予定より早くないか。E計画が57パーセント進んでいなければ、A計画は進められないだろう」
「ゼーレも承認しないはずだ」
「妻のサルベージを行うつもりだ。修正の成功率も高くなる」
「ゼーレに警戒されないかね」
「大丈夫だ。別会計だが予算が入った」
「そうか・・・・」
東京
科学研究所
「・・・碇所長。N2爆弾をリリスの下半身に融合をさせることが出来ました」
赤木ナオコ博士が報告
「そうか、ギリギリだな。あとは、南半球に運べばいいだけか・・・・碇。終わったぞ」
「そうか、船に運び込もう・・・・・」
突然、所員が室内に入って来る。
「ATフィールド探知機に反応」
「早いぞ。まだ数日残っているはずだ」
「・・・全員。撤収する。急げ」
「し、しかし・・・1000万都民は?・・・・」
「・・・所員を脱出させる」
ゲヒルンの職員が、東京を離れていく。
そして、東京の中心部で大爆発が起きた。
サードインパクトの可能性は、フィフティフィフティだった。
人類は、最初の危機を乗り越えることが出来た。
1000万都民を除いて・・・・・・・・。
2015年
「・・・冬月先生。黙秘は困るな」 09
「左様。我々は、日本政府に無条件降伏を突きつけるつもりなんだがね」 04
「どうでしょう。使徒戦が終わるまで、最後通牒を見送るというのは?」
「ほう、一つ聞くが、次の使徒。何体目かね」 05
「次は、第14使徒のはずですが」
「一体、隠しているのでは? それに重複しているのではないかね?」 01
「報告している通りですが」
「来襲する使徒は、全部で17体」
「もし、一体を我々が知らぬ間に殲滅していたら、現れることのない最後の一体に怯え・・・」
「我々が何も出来ないと考えているのではないか?」 03
「アメリカの碇所長はなんと」
「あの男は、息子に対する人質だよ」 07
「私の見たところ、人質としての価値があるかどうか」
「あなた方が手を下してくれるのなら喜んで、反乱を起こすかもしれませんが」
「そこまで、決定的ではあるまい・・・」
「しかし、こちらとしても彼の功績と、手腕を失うのは忍びない」
「出来れば、穏便な形で終わらせたいものだ・・・」
「では、これで失礼するとしよう。冬月先生」 01
2015年
NERV本部
発令所
リツコ、ミサト
「・・・リツコ。冬月副司令がゼーレと接触したみたいだけど」
「みたいね。だいたい、結論が双方で、出ているから確認しあっただけでしょうね」
「本当に使徒戦が終わるまで、大丈夫なの?」
「たぶんね。パイロットが暗殺される可能性も低いわね」
「ゼーレも、そこまで、バカじゃないでしょう」
「問題は、使徒戦が終わった後ね」
「パイロットを守りきり。こちらの戦力がどの程度残っているかによって、結果がまったく違う」
「アスカは?」
「使徒戦が終われば、日本政府に味方する必要はないわよ」
「確かに微妙な立場だけど、二号機を残してパイロットだけならドイツに返還しても問題ないでしょう」
「まあ、彼女が日本に帰化してくれれば問題ないけどね」
「そこまでは強制できないし」
「どうせ、パイロットの寿命までしか持たない未知の兵器。頼り切るのも危険ね」
「どの道、相手が人間の場合、シンジ君は役に立たない」
「アスカも少し怪しいわね」
「対人戦で、確実に大丈夫なのはレイだけど、シンジ君との関係から難しくなってきている」
「そうね」
「対人戦で有用なのは無限稼動が可能な初号機」
「ケーブルにつながれ移動に制限がある零号機や二号機では、いいように翻弄される」
「日本政府も、予算のやりくりが大変ね」
「日本本土だけならトライデント空中巡洋艦20隻で防衛できるらしいけど」
「東南アジアと豪州域までカバーしょうと思えば60隻は必要みたいね」
「それだけで十分に国家財政が破産する。NERVの予算はないか」
「ない袖は振れないわね」
「秋津司令は、ピザ自体が大きくならない限り、国防は困難と呟いていたわね」
「かといって、国防費を削って、設備投資に投資できるような余裕はないからジリ貧」
「ゼーレ側も、弱点は、あるわ」
「本当?」
「マギと、ケルベロスの戦いで勝てばいいでしょう」
「勝てるの?」
「向こうは、マギの拡大改良型でしょう」
「それに支部のマギ5台は向こう側。こちらは、本部のマギと松代のマギだけ」
「第11使徒との戦闘経験は、伊達じゃないわ。その気になれば、似たようなことが出来る」
「本当?」
「ゼーレのケルベロスを落として自爆させれば、戦闘不能よ」
「もっともマギ2台で、国防は難しいけどね」
「たぶん、双方ともネットワークが、ズタズタにされて痛み分けね」
「じゃあ、守れるの?」
「怖いのは、ゼーレが建造している9体のエヴァよ。単純に負けよ」
「9対3か。第12使徒のコアをあげちゃったんでしょう」
「オリジナルのコアは、脅威だけど、戦力化するまでにタイムラグがある」
「3年から5年は必要ね。でも流用は、間に合うかも」
「そういえば、初号機もオリジナルのコアなんでしょう」
「ええ、そう見たいね」
「知らないの?」
「私のお母さんの時代だもの・・・・・・」
第33話 『シンジとレイ、そして、アスカとマナ 2』 |
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第35話 『コアの力』 |
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