月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

   

第35話 『コアの力』

 アスカの母 惣流・キョウコ・ツェッペリンの葬儀

 喪服姿の幼いアスカが父の手に引かれて参列者の中にいる。

 アスカの耳に参列者らの小声が聞こえる。

 「日本の実験結果で、危惧はあった」

 「だが、今回は、サルベージを前提とする実験だった」

 「擬似精神パターンの複製で済むはずだったのに・・・・」

 「どうする。サルベージが不可能なら、それこそ、一方通行。E計画の破綻もありえる」

 「本人が望んで実験に応じた・・・勇気は認めるが・・・」

 「タイムスケジュールから万全を求められる時間は無かった・・・」

 「彼女の精神崩壊は、残念だった。肉体のサルベージだけは成功した」

 「しかし、残酷だな。あんな小さい子を残して自殺とは」

 「いや、精神崩壊、それだけが原因じゃないと思うがな」

  

 「えらいのね。アスカちゃん。いいのよ、我慢しなくても」

 「私、泣かない。強くなる」

 アスカは、気丈に答える。

  

  

 幼いアスカは、ガラス越しに病室を覗く

 『・・・アスカちゃん。ママね、今日は、あなたの大好物を作ったのよ』

 母親が語りかけた相手は人形。

 『ほら、好き嫌いしていると、あそこのお姉ちゃんに笑われますよ』

 アスカの背中越しに父親と担当の若い女医の会話が聞こえる。

 「毎日あの調子ですわ。人形を娘さんだと思って話しかけています」

 「彼女は、自分なりに責任を感じているんでしょう」

 「研究ばかりの毎日で、娘を構ってやる余裕もありませんでしたから」

 「御主人のお気持ちは、お察しします」

 「しかし、あれでは、まるで人形の親子だ」

 「いや、所詮、人間と人形の差なんて紙一重なのかもしれませんが」

 「人形は、人が人間の形に模して作ったもの」

 「もし、神がいるとしたら、私達は神の人形なのかもしれませんね」

 「近代医学の担い手と思えないお言葉ですな」

 「わたしだって、医師の前に、ただの人間、一人の女ですわ・・・・」

 小さく押し殺したような女の声。

 アスカは、振り向きもせず聞いている

  

  

 ハーモニックステスト

 「アスカ! 落ちているわ。ぼんやりしないで」

 「わかっているわよ!」

  

  

 発令所

 「・・・アスカ。大丈夫かしら、二号機は、なんとか修復できたというのに・・・」

 「久しぶりだからというだけじゃないわね」

 「宇宙から落ちてきた第10使徒。白黒スイカの第12使徒。3号機を乗っ取った第13使徒」

 「天井の装甲を二回の攻撃で吹き飛ばした第14使徒・・・」

 「いずれも、二号機のアスカは、時間稼ぎしか出来なかった」

 「シンジ君と初号機の手柄で生き残ることが出来た」

 「アスカの低迷は、エリートとしての自信喪失・・・」

 「そして、女としてレイに負けた失望ね」

 「はぁ〜 どいつもこいつも・・・・・・」

 「問題、山積みね」

 「おもしろがっているわけぇ〜」

 「事実をそのまま、表現しただけよ」

 「ハーモニックス率14パーセント。シンクロ率52パーセント。不味い」

 「秋津司令が睨んでいるわよ」

 「視線だけは、感じる。セクハラじゃないのは確かね」

 「最近。予算で戦自の首脳部とやりやって、刺々しいから気を付けてね」

 「ふっ 立場が変わると言い分も変わるから」

 「節操がないけど。良くある話しね」

 「シンジ君とアスカの複座。準備しておいて」

 「シンジ君との複座、拒絶反応が増えているみたいだけど」

 「うう、新しいチルドレンが見つからないの?」

 「そうね、エヴァはコア自体に搭乗者のDNAを組み込んだ専用機なの・・・」

 「だから別のパイロット用にコアの書き換えをしても戦闘力が著しく低下する」

 「予備のコアで本体を培養するとなれば、財政破綻は確実ね。まず間に合わないし」

 「互換性があるのは、零号機と初号機だけか・・・」

 「ねえ、ゼーレは、9体のエヴァを建造している。コアをどうするつもりかしら」

 「以前、言ったはずよ。理論上、10万人をコアに取り込むことが出来ればって」

 「ミサトでも初号機を操縦できるかもしれないって」

 「元々、ゼーレ方式は、制御が困難でシンクロ率が落ちても汎用性の高いニュートラル型だから」

 「うぅ〜」

 「セカンドインパクトのドサクサ。食糧危機。ゼーレの資金力から不可能じゃないわね」

 「欧米の行方不明者の数。9体ならお釣りがくるわね」

 「それにダミープログラムの概念。ゼーレが先に研究していたらしいから」

 「5号機以降にS2機関が装備されている可能性は?」

 「ありえるわね。本部に危険な実験をさせて、フィードバックして拡大改良」

 「人材、資本、技術力の差は、大きいから」

 「絶望的かもしれないわね」

 「元々、絶望の中の希望だったもの」

 「パンドラの箱を開けて、セカンドインパクトを起こしてしまった時」

 「残された希望は、唯一。エヴァだけだった」

 「まあ、楽天的に考えましょう・・・」

 「アスカと話すか」

 「シンジ君が優しくアスカを包み込んでキスでもすれば、アスカも精神的に落ち着くのにな〜」

 『・・・ミ、ミサト〜 聞こえているんだけど』

 「げっ!」

 その後、激情にまかせて、わめくアスカ。

 なだめようとするミサトの攻防が発令所に響き渡る。

 数秒後、アスカは二号機から飛び出した。

 「アスカ〜」

 ミサトが、発令所を飛び出してアスカを追いかける

 「・・・無様ね」

 上層階で事の次第を見ていた秋津司令と冬月副司令が絶句したまま、ガックリと頭を抱え込む。

  

  

 ラウンジ。

 リツコが一人。コーヒータイム。

 外を見るとジオフロントの森に向かって歩くシンジに気付く。

 リツコは、気になったのかラウンジを出て、シンジが向かった森に入る

 しばらく歩くと、畑のような場所にシンジは立っている。

 そして、シンジが人の気配に気付いて振り返る。

 シンジとリツコが見詰め合う。

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 互いに相手に “何か” 言いたいのか微妙な空気が流れる。

 「ここは?」

 「加持さんが以前、スイカを植えていた場所です。もう、何もありませんけど」

 「そう、加持君が・・・・・よく来るの? シンジ君」

 「いえ、アスカが気難しくて、加持さんと相談したいと思っていたら、なんとなく、足が向いて」

 「そう」

 「・・・・・・・」

 「シンジ君。初号機の調子はどう?」

 「変わり、ありません」

 「本当は、怖くて初号機を使いたくないんだけど・・・」

 「そうなんですか?」

 「初号機は、去勢されていない第14使徒の機能を有しているかもしれない」

 「いつ自我を目覚めさせて、サードインパクトを起こすかもしれない危険な存在」

 「そういわれると、少し怖いですね」

 「本当に?」

 「あなたを見ていると初号機をまったく恐れていない。どうしてかしら?」

 「死にそうになったかもしれませんが命拾いした経験がありますから」

 「そう、確かにあなたは、初号機の恐怖を外から見た事がないわね」

 「アスカがエヴァに対して恐怖と、嫌悪感でシンクロ率を落としているの」

 「シンジ君なら、どうにかできるかしら」

 「・・・二号機。サルベージしていただけませんか?」

 「綾波レイの人形をもう一度、サルベージするの?」

 「いいえ。サルベージするのは、アスカの母親です」

 「どうして、二号機にアスカの母親が取り込まれていると知っているの?」

 「あなた達には教えていないはず」

 「初号機に僕のお母さんが取り込まれているって、リツコさんが教えてくれたんじゃないですか」

 「それなら二号機には、アスカのお母さんが入っている。違いますか?」

 「トウジも、お母さんがいないと言っていました」

 「・・・そう推測したわけね・・・でも、出来ないわ」

 「なぜなら、エヴァに母親を取り込ませて、人身御供。人柱とすることで起動させているの・・・」

 「サルベージ自体の成功も見込みはないけど、成功してしまったら二号機は起動できなくなるわ」

 「綾波レイと同じ、アスカの母親に似た女の子が出てくると思います」

 「どうしてそう思えるの?」

 「勘です」

 「面白い発想ね。でも・・・」

 リツコが、シンジに向かって近付く

 「・・・・」

 「面白いいだけでなく。自信・・・いえ、確信があるように見えるのはなぜかしら?」

 「わかりません」

 「そう・・・問題が一つあるわね」

 「仮に綾波レイに似た子をサルベージした場合。どうしたらいいかしら・・・」

 「青い髪に紅眼。新人種誕生。どこから来たか説明しなければならない」

 「当然、綾波レイがどこから来たのか、説明しなければならないわね」

 「それでも、良いの。シンジ君」

 「一度、外に出して、発見させれば?」

 「不可能ね。マギを調整しても、人の目で確認されてしまうわ」

 「監視の目は、以前より厳しくなっているの、誰かさんのお陰でね」

 「難しいですか?」

 「マギで何とか探知機を騙すことは出来るけど、わたしが怪しまれる可能性は高いわね」

 「不自然すぎるし、人型の使徒と思われて殲滅されてもおかしくない」

 「そうですか、アスカも母親のことで苦しい思いをしているとしたら、と思ったんですけど」

 「もう、アスカのお母さんもサルベージしたの」

 「でも肉体のサルベージに成功したけど、精神崩壊した状態だった」

 「その後、アスカのお母さんは、人形をアスカと思い続けていたそうよ」

 「アスカの首を絞めて殺そうとしたこともあった」

 「・・・・・・・・」

 「・・・キョウコは、自殺したわ」

 「そして、よりシンクロを確実にするため遺体も二号機に戻したらしいけど」

 「そうなると初号機よりも、はるかに条件は厳しいの・・・」

 「それに、初号機のコアはオリジナル。零号機と二号機のコアは複製。条件が違う・・・」

 「もう一つ、過去の記憶が、アスカを苦しめることになるかもしれない」

 「可能性は、ありませんか?」

 「最悪でも、秋津司令を味方につけない限り、無理ね」

 「では、秋津司令に二号機のサルベージを提案すれば良いんですね」

 「そうなるわね。当然、レイと似た子が出てきたら、綾波レイの秘密も、わかってしまうでしょうね」

 「対ゼーレ用に秘密という事にすれば、知っている人間は、最小限になると思います」

 「確かに現状打破を考えれば有望ね。秘密の共有は、戦力に跳ね返る」

 「では、秋津司令に提案してもらえますか?」

 「あなたがね。シンジ君・・・・でも秋津ヨシキ・・・信用できると思う?」

 「わかりました。でも・・・僕が提案するのは不自然じゃないですか?」

 「そうでもないわ。二佐だもの上官に戦略的な具申は、するでしょう」

 「わかりました」

 リツコは、畑から離れる

 「判断の是非はともかく。随分、頼もしくなったわね」

 リツコが、呟く

  

  

 「秋津司令」

 シンジは、秋津司令が独りになったときを見計らって声をかける。

 「ん、どうしたね。シンジ君」

 「アスカのことで、お願い事があるんですが」

 「ほう・・・・・君や彼女のことで何か出来るのなら、なんでもするつもりだよ」

 「二号機にアスカの母親が取り込まれているはずなので、サルベージをお願いしたいのですが」

 「しかし、私の知っている情報だと、成功率は、限りなく低いと思うが」

 「それと、成功した場合。二号機が起動できなくなるのではないかな」

 「・・・・・・」

 「・・・アスカ君を思う気持ちを整理するという点で評価するよ」

 「しかし、アスカ君は、そのことを知っているのかね?」

 「そのことを知ったのは、前回の使徒戦のあとリツコさんに教えてもらいました」

 「僕の母親が初号機に取り込まれていること、サルベージに失敗したということ」

 「アスカは、知らないと思います」

 「赤木博士も、大人気ないことを・・・」

 「ショックだったかね」

 「我々が集めた情報でも、かなり問題のある内容があった。何も出来なかったがね」

 「お母さんは、何度も失敗したと聞いているので、もう諦めています。でも二号機は・・・・」

 「わかった。やってみよう」

 「しかし、使徒戦が終わってからでは駄目だろうか」

 「もちろん、初号機もやってみる」

 「そちらは、国際情勢が安定してからという事になりそうだが・・・」

 「綾波レイ。初号機のサルベージに失敗した時、初号機から出現したそうです」

 「!?・・・・それは、本当かね?」

 「このことは、秘密にしてもらえませんか」

 「お父さんと冬月副司令。リツコさんと僕。そして、綾波しか知らないことですから」

 「わ、わかった。君が私を信頼してくれたのなら、誰にも言わないことにしよう」

 「二号機のサルベージが失敗しても僕の気持ちの整理だけじゃなく、アスカのためにもなると思って」

 「そういう事なら、早急にサルベージを行うべきだな」

 「ん。しかし、それだと綾波レイの年はいくつなんだね」

 「4歳くらいの年齢で現れたそうです」

 「・・・そういう事が、ありうるのだろうか」

 「リツコさんは、わかると思いますが・・・・僕は、わかりませんでした」

 「では、秘密を共有するのは、わたしとシンジ君、赤木博士、綾波レイの4人だけか」

 「お父さんと冬月副司令もわかると思います」

 「なるほど、トップシークレットだったわけか。光栄だな」

 「・・・・・・」

 「ゼーレは、知っているだろうか?」

 「わかりません」

 「わかった。赤木君と協議して二号機のサルベージ。進めよう。秘密は守るよ」

 「赤木博士ならマギで警備システムを騙せるし、人間は、私で処理できる・・・」

 「しかし、嬉しいものだな、他者を出し抜けるのは、ゼーレ、碇司令、冬月副司令を驚かしてやろう」

 「秋津司令。人が出てきた場合。人権を守ってもらえるでしょうか」

 「構わんよ。綾波レイとその妹。二人くらい新人類が人類に混ざっても脅威ではない」

 「しかし、君は、本当にレイ君が好きなのかね」

 「はい」

 「・・・そうか、意外だな」

 「拒絶反応を起こしてレイ君を怖がると思っていた」

 「しかし、好きなままとは、心理学も、性格判断も当てにならんな」

 「秋津司令も、マナと同じことを?」

 「学生並みに詰め込まされたよ・・・」

 「とにかく、彼女の秘密と人権保護は約束する」

 「君や彼女の人類に対する貢献からすれば当然の要求だ」

 シンジは、秋津司令と交渉。

 アスカの母親のサルベージは、簡素でありながら、二つのことで合意された。

 一つは、最少人数で秘密にする。

 もう一つは、サルベージが成功した場合。人権保護が認められること。

 その日

 ミサト、伊吹、日向、青葉、マナがアスカをなだめる為に定時にNERVを出る。

 そして、マギの警備システムの調整と保安部員を移動。

 NERVの一角に空白が作られる。

  

  

 その夜のうちに秋津司令、シンジ、リツコ、レイの4人の見守る中。

 二号機のサルベージが始まる。

 そして、瞬時にシンジと同世代の青髪紅眼の女の子が裸でエントリープラグに出現。

 「どういうこと?」

 「なぜ、あんな大きな娘が出てくるの?」

 リツコが呆然と呟く

 秋津司令が驚嘆。

 レイでさえ驚く。

 『Ist diese Stelle dort wo? (ここはどこ?)』  女の子

 「ドイツ語だぞ」

 『日本語・・・・誰なの?』

 リツコが操作をすると二号機のエントリープラグと発令所のモニターが双方向で映される。

 『誰? ここは、どこ?』

 「わたしは、ここNERVの司令、秋津ヨシキ・・・君は誰だね?」

 『わたしは・・・惣流・・・キョウコ・・・ツェッペリン・・・かしら』

 「これは、どういうことだね。赤木博士」

 「キョウコの記憶の一部が一緒にサルベージされたと思います」

 「でも二号機で、こんなことが起きるなんて、計算外です」

 「しかし、悪くはないと思うが・・・・」

 『男は、向こうを向いて。スケベ!』

 女の子が言うと秋津司令とシンジが反対を向く

 「ああ・・・赤木博士、何とかしたまえ」

 「レイ。彼女に合いそうな訓練用の衣服と下着をシャワー室に持ってきて」

 「はい」

 リツコがエントリープラグを排出。

 ケイジで、女の子に白衣を着せるとシャワー室に連れて行く。

 予備の制服に着替えさせるとリツコ、レイ。

 そして、女の子が発令所に戻ってくる。

 彼女は、青髪紅眼を覗けばアスカの母親の若い頃の雰囲気がある。

 「君は、本当に惣流・キョウコ・ツェッペリンなのかね?」

 「・・・そういう記憶があるけど、自分じゃないような気もする」

 「髪の色と目の色が違うもの・・・若いし」

 「君を誕生させたのは、我々だ。思ったより大きな娘だった」

 「計算外だったが、それは、こちらとしては助かる・・・」

 「実は、君に我々を助けてもらいたいことがある」

 「あのエヴァに乗れというのね」

 「す、鋭いね」

 「E計画・・・エヴァ製造に携わったことがあるもの」

 「わたしがエヴァの製造。赤木ナオコ博士がマギ、碇ユイ博士が人類補完計画で分担していたし・・・」

 「リツコちゃんは、もっと素直で清楚な中学生だったのに・・・随分、変わってしまったわ」

 女の子は、嘆かわしげな目でリツコを見つめ、視線が集まったリツコが引きつる。

 「あなたは、碇ユイさん?」

 「・・・綾波レイ」

 「綾波。そう、私を見ても反応がなかったから、サルベージが上手くいかなかったのね」

 「君をどう扱ったらいいのかな」

 「こういう状況になるのは予測していなかった。オムツは用意していたがね」

 「たぶん、わたしは、キョウコをサルベージしようとして、キョウコの記憶とDNA配列に比較的近い人体を生成したのね」

 「君は、娘がいると思ったが」

 「娘・・・アスカ・・・あの子を上手く構ってやれなかった。かわいそうなことしたわ・・・」

 「あれ、私自身じゃないけど、そういう記憶があるという事は、わたしがキョウコという事かしら・・・」

 「母親になる実感がないけど。変な気分ね」

 「赤木博士。エヴァにそういった機能が、あるのをどう思うね」

 「・・・・・・・・・」

 「使徒は、完全なる個体」

 「そして、ファーストインパクトで第18使徒リリンとリリスと融合した人類は、不完全な群れになった」

 「サードインパクトで使徒が人類に戦いを挑んで勝ち、リリスと融合すれば、どうなると思う?」

 「・・・・・・・」 リツコ

 「・・・・・・・」 ヨシキ

 「古くて劣悪な旧人類が滅び、新しい優勢な不完全な群れ、新人類が誕生する」

 「そ、そんな。人類以外の使徒は、完全な個体を選んだんじゃないの」

 「人類のもう一つのかたち・・・」

 「違うわ。リリスは、より良い子孫である人類を残したいだけ」

 「人類が使徒からリリスを守りきれば、いまの人類が一番優秀な子孫であることが証明されるだけ」

 「リリスが人類に下した運命は、理不尽であっても、無慈悲なものじゃないわ」

 「そんな・・・じゃ ゼーレのやっていることは進化じゃなく、退化・・・」

 「さあ、進化か退化かわからないけど、使徒の完全性は、否定できるわね」

 「使徒の望みは、リリスと融合して完全な固体から不完全な群れになることだから」

 「そんな・・・」

 「乗るわよ。二号機」

 「たぶん、乗れそうだけど、上手く戦えるかしら、わたし、戦闘訓練受けてないし」

 「あなた、二号機の記憶はないの?」

 「んん、ないみたい。リツコちゃんの調整ミス?」

 「キョウコのニューロン、シナプス。RNA・DNA配列記号を引き戻す作業しかしていないもの」

 「それなら、二号機の記憶が私にある可能性は少ないわね」

 「たぶん、あなたは、娘と一緒。ダブルエントリーで二号機に乗って戦うことになるわ」

 「アスカは、戦闘訓練を受けているから。あなたの搭乗は、シンクロ率を上げるため」

 「いいわよ。使徒戦に負けたら、私も消えてしまうし、でも人権と保障と賃金交渉は、したいわね」

 「保障する。君の人権と秘密は守るよ。賃金に関しては、査定にしたがって支払えるはずだ」

 「秋津司令。あなた、戦略自衛隊の将校。軍人ね。碇司令はどうしたの? あの髭」

 「彼は、事情があって国外に追放された」

 「いまは、ニューヨークで国連直属の使徒研究所の所長だ」

 「やっぱり、碇司令は、ゼーレとケンカしたんだ」

 「葛城調査隊や綾波君のことで怒ってたもの・・・」

 「じゃ ゼーレの・・・・あれ、違うわね」

 「NERV本部は、日本が接収した」

 「じゃ ここは、戦自に占領されたの?」

 「日本政府も思い切ったことするわね。国家存亡の危機じゃない」

 「使徒戦が終わるまで大丈夫よ」

 「リツコちゃん。ゼーレの力。見誤っちゃ駄目よ」

 「今度は、焼け野原どころか、列島ごと、日本海溝に投げ込まれるわよ」

 「何とかするわ。それより、リツコちゃんと呼ぶのやめてくれる」

 「リツコちゃん。お母さんに怒られて、泣きべそのあなたにコロッケを作って食べさせてあげたの、忘れたのね」

 「ちょ ちょっと、そんなことまで」

 リツコ焦る

 「ゼーレは、エヴァ9体、ロンギヌスの槍9本を複製しているわ。知らなかったでしょう」

 「そんな・・・」

 「まあ、わたしが味方に付くから」

 「ケルベロスは、何とかなるわね抜け道になる回路を作っておいたから」

 「ほ、本当かね?」

 「ええ・・・あれ、ナオコは、私のサルベージにどうして彼女がいないの・・・」

 「ナオコと仲は、良くなかったけど。そこまで険悪じゃなかったはずよ」

 「死んだわ。5年前に事故で・・・」

 「そう、残念ね・・・あ、いま何年?」

 「2015年11月4日深夜2時」

 「ええっ 使徒戦は?」

 「第14使徒を倒したわ」

 「第11使徒、第13使徒のコアを確認できなくて重複している可能性がある」

 「ゼーレ側は、11使徒の殲滅を隠しているけど疑われている」

 「じゃ あと3体か、それとも、4体から5体の可能性もある」

 「ええ」

 「そう・・・あなた。シンジ君ね」

 「はい」

 「ユイに似ているわね。髭と違って、もてるでしょう」

 「そんな、こと、ないけど」

 「お父さん、ユイのことがあって髭を伸ばし始めたのよね」

 「性格も変わっちゃったみたいだし、私も、ドイツにいたから・・・」

 「アスカと、仲良くしてあげてね。シンジ君」

 「はい」

 「じゃ どうしたらいい。私のこと、公開しないでしょう」

 「・・・一度、外に出て、戦自に発見させてNERVに入る」

 「君は幼少の頃を記憶喪失でレイ君と同じ突然変異のアルピノということで処理しよう・・・」

 「それは、特務の少年兵に変装させる事にするから、それまで、本部に隠れていたらいい」

 「かなり無理があるけど、そうさせてもらうわ」

 「その前に名前だな。処理上、こちらで決めなければならない場合もあるが希望は、あるかね」

 「綾波・・・綾波ハルカが、いいわ」

 「アスカが生まれたとき、アスカにするかハルカにするか悩んだから」

 「えらい人気だな、綾波君というのは」

 「初恋の人よ。向こうは、ユイが好きだったみたいだけどね」

 「ユイは、髭が好きだったし。彼が南極から生きて帰っていたら、結婚していたかも・・・」

 「しかし、綾波が二人だと紛らわしいな」

 「それも、そうね、不自然か。じゃ 朝霧ハルカ。むかし住んでいた場所」

 「それは、どこにあるのかね」

 「富士宮市の北、町は、一度、水没したけどね」

 「好都合だ。その近くで発見させて、労働孤児という事にしておこう」

 「いいわ」

 「では、朝霧ハルカ君。今日は、ゆっくり休むといい。赤木君、部屋の用意を頼むよ」

 「はい。レイ、あなた、今日は、一緒に泊まって、ハルカの話し相手になってあげて」

 「はい」

 「あれ、リツコちゃん。わたしと、むかし話、してくれないの?」

 「あなたの後始末で徹夜になるわ」

 「そう、手伝えなくて悪いわね。リツコちゃんより上手くやれること、たくさんあるのに・・・」

 「子供は寝る時間よ。ハルカ」

 「は〜い」

  

  

 秋津司令とシンジが取り残される。

 「碇二佐。どうやら君のお手柄のようだ。ありがとう」

 「これからも、遠慮なく意見を言ってくれたまえ」

 「はい」

 「シンジ君」

 「はい」

 「実は、君に話さなければならないことがある」

 「はい」

 「使徒戦後、ゼーレと本格的な戦闘が行なわれるだろう」

 「もちろん、回避するように努力するつもりだ」

 「今回、戦力差が思っていたより広がっているとわかった」

 「そこで、NERV。いや、NERVの前身ゲヒルン以来の遺産を使う事になりそうだ」

 「・・・・・・・・」

 「セカンドインパクトの後。7人の母親が子供達に未来を託すために人身御供、人柱になった」

 「碇ユイ、惣流・キョウコ・ツェッペリン、鈴原アカネ」

 「相田ナオミ、新城ユウコ、洞木ナナミ、久坂カオリの7人」

 「子供は、エヴァにシンクロ出来る可能性が高い」

 「・・・・・・・・・」

 「予算と時間の関係からエヴァの建造は出来ない」

 「しかし、トライデント機動艦5隻にコアを融合させてATフィールドを展開できる可能性がある」

 「相田ケンスケ、洞木ヒカリ、新城チアキ、久坂タダシの4人を徴兵するつもりだ」

 「・・・・そうですか」

 「戦力比がこれほど開かなければ、予算上から、そっとして置きたかった」

 「もちろん、4人の意思に反して徴兵するつもりは無い」

 「だから全員を徴兵できるか、未定だ」

 「わかりました」

 「私としても不本意だが、時機を見て募集を掛けるつもりだ」

 「はい」

  

  

眼がもっと赤かったら・・・・・・

 

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第34話 『NERV 誕生』
第35話 『コアの力』
第36話 『せめて、人間らしく』
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