月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 

 

 「相田ケンスケ、洞木ヒカリ、新城チアキ、久坂タダシの4人を徴兵するつもりだ」

 「・・・・そうですか」

 「戦力比がこれほど開かなければ、予算上から、そっとして置きたかった」

 「もちろん、4人の意思に反して徴兵するつもりは無い」

 「だから全員を徴兵できるか、未定だ」

 「わかりました」

 「私としても不本意だが、時機を見て募集を掛けるつもりだ」

 「はい」

 

第36話   『せめて、人間らしく』

 

 翌日

 学校

 アスカ、ヒカリ、チアキ

 「・・・あれ、アスカ。碇君と綾波さんは、一緒じゃないんだ」 ヒカリ

 「会社に泊まったんじゃない。昨日は、帰ってこなかったみたいだし」

 「うぅ・・・それは、怪しいわね」 チアキ

 「好きにすればって、感じ」

 アスカ、不機嫌さが増す。

 「か、会社、忙しいんだ」

 「そうみたいね」

 アスカ、ムッとする。

 『ちょ〜 不機嫌そうね』  ヒカリ

 『あの日よ、そろそろだから』  チアキ

 『アスカ。酷い方だったわね』

 「なんか言ってる?」

 「い、いえ、何も」  ヒカリ

 「ははは」  チアキ

  

  

 NERV本部

 ハーモニックステスト

 零号機と二号機のシンクログラフが上下する

 「一応・・・動くわね」

 リツコが、ほっとしたように呟く

 「ぅぅ・・・」 ミサト

 「ミサト、何やってんのよ。アスカ、昨日より落ちているじゃない」

 「レイよりシンクロ率が落ちている・・・シンジ君とのダブルエントリーも嫌がるし」

 「ぅぅ・・がんばったのよ・・・ね。マヤ」

 「そう・・・なんですけどね・・・」  苦笑い

 「シンジ君に頼もうかしら」

 「ぎゃ 逆効果だと思うけど」

 「シンジ君が原因でしょう。加持君は、青森に行っているし。来週には、一度来るらしいけど」

 「加持君も、いまとなっては、期待薄かな」

 ミサト、投げ状態

 「・・・やれやれね」

 「シンジ君は、どこ? 訓練場にいないわ」  ミサト

 「ゼーレの人たちと交渉しているわよ」

 「交渉・・・尋問されているんでしょう」

 「どうかしらね」

 「大丈夫かしら?」

 「よく秋津司令が許可したわね」

 「まあ、ゼーレを怒らせ過ぎても良い事ないから」

  

  

 暗闇の中

 12個のモノリスを前に座るシンジ

 「・・・碇シンジ。君を命令拒否、逃亡、機密漏洩」

 「そして、反逆罪で極刑にしたいのだがね」 01

 「父が許せなかったんです。僕にトウジを殺させた父が・・・・」

 「ばかばかしい。まるで子供だ。話しにならん」 07

 「子供。だろう」 03

 「・・・しかし、子供のダダで失われた損失は計りしれん」

 「この損失、どうするつもりだ」 05

 「どうしたら、良いんですか?」

 「戦自を本部から叩き出せ」 10

 「いや・・・いま、それは、まずい」 06

 「左様。いまは、使徒戦が優先する。日本政府に委任するしかあるまい」 04

 「使徒を全て滅ぼした後、責任を追及することになろう」 06

 「あのう・・・・・」

 「何だね」 01

 「どうして、顔を隠しているんですか?」

 「ここで、君に質問をする権限はない」 01

 「はい」

 「これまでの君の功績を差し引いたとしても反逆罪の刑は重い。覚えておくが良い」 08

 「父親が父親なら息子も息子だ。油断できないものだな」 12

 「あのう・・・・・」

 「何だね」 01

 「使徒戦の援助をお願いします」

 ガタンッ。

 という音が、いくつも聞こえる。

 「バ、バカかね、君は?」

 「質問をする権限もないのに、援助だと。ふざけた子供だ」 02

 「まったく。厚顔無恥もいいところだな」

 「他人の物を奪っておきながら」

 「さらに潰れそうだからと援助を要求するとは、日本人は、そこまで落ちぶれたか」 03

 「ま、負けそうですから」

 「「「「・・・・・」」」」

 「援助の件は、一考しよう」

 「だが代償は大きいと思いたまえ」 01

 「・・・・・・・」

 「時にNERVで倒した使徒の数を知っているかね」 01

 「第3使徒から数えて・・・・・第13使徒です」

 「最後に倒したのは、第14使徒ゼリエルではないのかね」 01

 「いえ。13番目です」

 「ハーモニックス訓練中に異常が起きてエヴァ3体を外に射出したのではないのか」 01

 「はい。でも、使徒だったんですか?」

 「もうよい・・・」 01

  

  

 女子トイレ

 「・・・女だからって、何でこんな目にあわなきゃなんないのよ」

 下腹部を押さえたアスカが不快そうな顔で出てくる

 「子供なんて、絶対に要らないのに」

  

  

 NERV総司令公務室

 ヨシキ。電話中。

 「それで、書類は、万全?」

 「証人は?」

 「結構! 出来るだけ早い方が良い」

 「穴を作らないでくれ、頼む」

  

 

 ホール

 アスカは、エレベーターの前に立つ。

 すぅーと開く扉。

 レイが中にいる。

 アスカは表情を硬くしながらエレベーターに入る。

 扉が静かに閉まり、

 エレベーターが動き出す。

 沈黙を破ったのは、レイだった。

 「心を開かなければ、エヴァは動かないわ」

 「心を閉ざしているって言うの。このわたしが!」

 「そう、エヴァには、心がある」

 「あの人形に?」

 「わかっているはずよ」

 「はん! あんたから話しかけられるなんて、明日は雪かしらね」

 「・・・・・・・・」

 「何よ! 私よりシンクロ率が良くなったからって、そんなに嬉しいわけ」

 「心配しなくったって使徒が攻めてきたら、無敵のシンジ様と初号機でやっつけてくれるわよ」

 「私達は、何もしなくてもいいのよ!」

 「・・・・・・・」

 「シンジだけがいればいいのよ!」

 「・・・・・・・」

 「あぁ シンジだけじゃなく」

 「機械人形みたいな、あんたにまで同情されるとは、この私もヤキがまわったわね」

 「私は、人形じゃない」

 「うるさい!」

 「人に言われたまま動くくせに!」

 「あんた、碇司令やシンジが死ねと言ったら死ぬんでしょう」

 「そうよ」

 パンッ!!

 アスカがレイの頬を叩く。

 頬を赤くしたレイが自然体のまま、無表情にたたずんでいた。

 扉が開くとアスカが出る

 「やっぱり人形じゃない。あんた人形みたいでむかしから大嫌いよ!!」

 アスカの罵声がホールに響き渡る

 「・・・・・」

 レイ、無表情なまま、見送る。

 「みんなみんな、大っ嫌い!!!」

 アスカ、叫ぶ

  

  

 発令所

 警報が鳴り響いていた。

 「・・・使徒を映像で確認。最大望遠です」 青葉

 「静止軌道上です」 日向

 「一ヶ月ぶりか、お陰で3体とも就役できて、助かったけどね・・・」

 「降下の機会をうかがっているのか」

 「その必要もなく、ここを破壊できるのか、二番煎じはないと思うけど」

 「迂闊に動けませんね」 日向

 「電磁弾道砲も、さすがに静止軌道上までは、届かないわね」

 「・・・・・」 一同

 「効果ないと思うけど。アメリカが対衛星用の荷粒子砲を配備していたはず・・・」

 「たぶん、渋るはずよ。理由は、何とでも付けられるから」

 「そうよね」

 「レイを初号機のシンジ君とダブルエントリーで出して。長期戦でも戦えるから」

 発射口から出撃する初号機

 『ミサト!・・・・私は?』

 「待機。相手が動いてからよ。静止軌道上だと手が出せないもの」

 『わたしが役に立たないと言うの?』

 「違うでしょう。長期戦になりそうだからよ」

 「シンジとレイの組み合わせなら何時間でも問題ないから」

 『良いから出しなさいよ。わたしはやれるわよ。あの二人の後ろに隠れていられるもんですか』

 「わかったわ。でもね。アスカ」

 「もし、今回、初号機の負担になったら。今後、命令拒否は、許さないわよ。いいわね」

 「そ、それでも、いいわよ」

 「二号機発進。日向君。長距離砲を出して」

 「了解」

  

  

 発令所

 「良いんですか? ミサトさん」 日向

 「・・・結局、パイロットの代わりがいるわけじゃないもの」

 「アスカに拗ねられて二号機が完全に戦力外になるより」

 「少しくらい戦術的に不利でも出した方がいいわ」

 「確かにアスカの精神状態は、不安定ですね」

 「はぁ〜 大人4人がかりでもどうにもならないなんて。自分に失望するわね」

 「彼女・・・繊細すぎる天才というところですね」 青葉

 「やはり、シンジ君に・・・」  マヤ

 「初号機を出すのは、賭けになるわね」

 地上に出撃した初号機と二号機が長距離砲を受けとると、静止軌道上の第15使徒と睨み合う。

 初号機のシンジとレイは、他人事のようにぼんやりとしている。

 ハーモニックス率89パーセント、シンクロ率97パーセントに達していた。

 対照的に二号機のアスカは、油断無く気丈にしている、

 二号機のハーモニックス率12パーセント、シンクロ率45パーセント。

 「動きは?」

 「ありません」 青葉

 「静止軌道か、これだけ距離があると攻撃不能ね」

 「電磁砲も、レーザーの類も、威力を失いますね」 日向

 「使徒も、知恵をつけてきたのかしらね。リツコ。何とか言いなさいよ」

 「・・・様子を見るしかないわね」

 リツコは、右手を白衣のポケットに入れ、くつろいだ様子でコーヒーを飲んでいた。

 「ったくぅ・・・シンちゃんとレイは、相変わらずか」

 「なんか、二人で、いっちゃっているように見えますね」 日向

 「まぁ あれでシミュレーションを好成績上げているし」

 「実戦でも、そうであればと思うけど、緊張感が無いわね」

 「・・・・ふっ」

 リツコがほくそえむ

 「シンちゃん。ゼーレの査問会。どうだったのかしら?」

 「援助を要請したみたいよ」

 「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」  絶句する一同

 「うそ!」

 「ゼーレも怒ったみたいだけど」

 「シンジ君が負けそうだからと言ったら青くなって援助するって」

 「対日制裁の即停止が決まって」

 「無利子で10兆円が振り込まれたわ。捨て金ね。手切れ金かも・・・」

 「・・・・・」 一同絶句

 「まぁ 対日制裁で困るのもゼーレだし、使徒戦で負けて困るのもゼーレだし」

 「向こうも切っ掛けが欲しかったみたい・・・」

 「とうぶん、給料は、保障されそうよ」

 「・・・・・・」 一同絶句

 「ち、血は、争えぬってやつ」

 「んん・・・計算してやっているとすればそうだけど」

 「碇司令の得意技は、恐喝、隠匿、情報操作、買収、工作、暗殺・・・」

 「シンジ君は、思っていることを言っただけみたいだし、無知って、怖いわ」

 「・・・・・・」 一同絶句

 「政府は、シンジ君の階級を上げるか、勲章で誤魔化すか、褒賞金を出すか検討するみたい」

 「シンジ君の性格分析も狂ってきたみたいで混乱しているわね」

 「ど、どういうこと」

 「これまでの経緯と現在の状況だとシンジ君の性格は、もっと陰に篭るはず」

 「なのに逆に外に出ている」

 「私達の知らない精神的な支柱がシンジ君にあると予想しているみたいだけど」

 「それがわからないの」

 「精神的支柱。レイのこと?」

 「ふっ レイは、子供よ。たいして、精神的支柱にならないわ・・・」

 「それに、それも含んでのことよ」

 「自信が付いてきたのはわかるけど、脈絡なくもなく知的だし」

 「近視眼的な要素も、自虐的な性質も、薄れている」

 「父親を追放した割にはタフだし・・・・」

  

  

 地上は、いつの間にか雨が降っていた。

 スタンバイ状態の長距離砲から蒸気が立ち昇る。

 アスカが時折、シンジとレイの映ったモニターを見るが、すぐにムッとして視線を外す。

 二人の表情は、新婚の男女が終わったあと、くつろいでいるように見える。

 アスカは、ムカムカ。

 雨足が弱くなり雨雲が薄っすらと晴れようとしたとき。

 一条の光が初号機と二号機を包み込んだ。

 『な、なにが、始まったの?』

 急に明るくなったことで、アスカが緊張する

 「攻撃?」  ミサト

 「いえ、熱エネルギー反応なし」 日向

 「二号機。心理グラフ崩れます! 精神汚染が始まります!」 マヤ

 「初号機は?」 ミサト

 「初号機。心理グラフ異常なし! ですが精神汚染が始まっています!」

 「使徒の心理攻撃!? まさか、使徒が人間の心に関心を持ったの?」  リツコ

 「ATフィールドは?」  ミサト

 「二号機、侵食されています。初号機も、僅かですが、侵食されています」

 「こ、このおおぉぉぉおお!!!!」

 アスカが長距離砲を連射する。

 光線は、大気圏を突き破って静止軌道上の使徒に向かう。

 しかし、威力が先細りしたエネルギーは、使徒のATフィールドに弾かれる。

 「陽電子、99.8パーセント消失。効果ありません」

 「二号機のライフルエネルギーゼロ、充填に入ります」 日向

 「使徒の光線の分析は?」 ミサト

 「光子の波長です!」

 「ATフィールドに近いものも観測されていますが詳細不明」

 「アスカは?」

 「二号機、精神汚染。危険域に向かいます」

 心を侵食されるアスカが体を丸くして必死に拒絶する

 『いやぁぁあああああっ!?』

 「アスカ!」

 『私の、私の心に入ってこないで!』

 『痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!』

 『痛い! 痛い! 痛い! いや、いや、いやぁ!?』

 『私の心を覗かないで!』

 『お願いだから、もう犯さないで!』

 「アスカ」

 「心理グラフ限界!」

 「ミサト。精神回路がズタズタにされている。これ以上は危険よ」

 「アスカ。戻って」

 『イヤよ!』

 「命令よ! アスカ! 撤退しなさい!」

 『イヤッ! 絶対イヤ!! ここで戻るなら死んだほうがましだわ!!』

 「アスカ!」

 『・・・ぅ・・ぐぅうぐぅ・・・ぅぅ・・くっ・・・』

 アスカが、すすり泣く

 「アスカ!」

 「シンジ君、レイ。大丈夫?」

 『はい』  シンジ

 『はい』 レイ

 「なんとも無いの?」

 「二人とも、侵食されているのよ」

 ミサトが、シンジとレイの心理グラフを見ながら話す

 『心を覗かれているような気がします』

 『わたしも』

 「リツコ。どういうこと?」

 「シンジ君とレイの心理状態が補完し合って、使徒の精神汚染がすぐに相殺されているみたいね」

 リツコがシンジとレイのニューロン・シナプスマップを凝視しする。

 「シンジ君。二号機を撤収させて!」

 『はい』

  

  

 二号機

 アスカ

 幼いアスカ。

 足元にサルの人形が引き裂かれていた。

 父親がアスカを撫でる。

 「どうしたんだ。アスカ、新しいママからのプレゼントだ。気に入らなかったのか?」

 「いいの」

 「何がいいのかな?」

 「私は、子供じゃない。早く大人になるの。ぬいぐるみなんて、わたしいらないわ」

  

  

 洋館

 「ママ! ママ! お願いだから、ママをやめないで! 私を見て!」

 「アスカ・・・一緒に死んでちょうだい」

 アスカの首を絞めようとする母親

 「ママ、ママ! お願いだから私を殺さないで!」

 アスカが母親の手を弾く

 「イヤ! わたし生きるの、自分で生きる。ママの人形じゃない!」

 「ママ! ママ! わたし、エヴァのパイロットに選ばれたの」

 扉を上げる。

 首を吊った母がぶら下がっている。

 めまぐるしく、アスカの過去が浮き彫りにされ、嗚咽するアスカ

 「いや、思い出したくない」

 「忘れているのに。そんなイヤなこと! いらない! もうやめて、やめてよぉぅ〜!」

 「犯された。加持さん。汚されちゃった」

 「どうしよう、心を汚されちゃったよ。心を犯されちゃったよ」

  

  

 初号機が抵抗する二号機を引き戻す。

 シンクロ率の違いは圧倒的で、簡単に発進口からジオフロントにまで戻される

  

 発令所

 「二号機活動停止!」

 「パイロットは精神汚染域から出ました。休養が必要です」

 「どうしたら・・・ハッ・・・リツコ! 初号機自体の汚染は?」

 「いまのところ、問題ないわ。ずっと見ていたから」

 ミサトが安堵する

 「リツコ。自我に目覚めているはずの初号機が精神汚染で暴れ出したら手がつけられないのよ」

 「知っていて出撃させたのだと思っていたわ。何度も言ったのに・・・忘れていたの?」

 「あ、あんたね」

 「少しでも兆候があったら、神経接続を切って、初号機を5体にバラバラにするところだったわ」

 リツコは、リモコンを白衣のポケットから出した。

 「ったくぅ・・・でも、初号機は、本当に自我に目覚めているの?」

 「ええ、自我に目覚めても、シンジ君やレイが仲介として存在しない限り動けないのか」

 「別の理由があるのか」

 「そうなると最初にシンジ君が来たとき、落ちてきた鉄筋を腕で払いのけたのは、なぜ?」

 「矛盾を埋めるためには、初号機自体の心理が知りたいわね」

 「初号機が人類に協力していると」

 「・・・ありえない。去勢して半身不随にして、人間の操り人形にしているのに・・・」

 「人類を滅ぼしても飽き足らないはずよ」

 「シンジ君とレイが一緒にいることで二人だけでなく」

 「初号機の精神が安定している可能性もあるわね・・・」

 「なに一人で納得しているのよ。使徒をどうするか考えなさいよ」

 「・・・ロンギヌスの槍なら静止軌道上の使徒でも破壊できるわ」

 「ロンギヌスの槍・・・使っていいの?」

 「秋津司令、次第よ」

 最上層の秋津司令と冬月副司令に視線が集まる。

 「切り札か、最悪でも最後の使徒を倒すまで持っていたかったがな」

 秋津司令が、迷う。

 「静止軌道上では、回収不能だ」

 「ゼーレも黙っていないな。ロンギヌスの槍は、彼らがサードインパクトで使うはずだ」

 冬月が決断を足す。

 「アンチATフィールドを発生させることが出来る唯一の武器」

 「存在目的は、コアを傷付けず去勢するほか、何か、あるのだろうか?」

 「リリスの自己再生を止めている」 冬月

 「リリスが自己再生を再開した場合。サードインパクトの被害は、正味のものとなり」

 「人類の生存の可能性はゼロだな」

 「どうする? 秋津司令」

 「使おう。オリジナルを使ってもゼーレはロンギヌスの槍9本の複製をしている。許容範囲だ」

 「秋津司令。それは、本当か?」

 「情報源は?」

 「マギは、確認してないぞ」

 「私も遊んでいるわけではない・・・」

 「それにシンジ君のお陰でロンギヌスの槍を培養できる程度の資金は調達できている」

 「間に合わないがな」 ヨシキ。得意げ。

 「エヴァも、ロンギヌスの槍の建造も間に合わない。それが、援助の理由だな」

 「コア装備のトライデント巡洋艦なら間に合う。ゼーレも計算済みか」

 「・・・徴兵。するのかね?」

 「14歳だな。労働孤児なら徴兵可能だが、そうでない場合。違法だ・・・」

 「しかし、法の問題を別にして、内定工作は、した方が良いだろうな」

 「葛城三佐!」

 「ロンギヌスの槍を使う。赤木君。初号機をセントラルドグマに誘導したまえ」

 初号機が、リリスからロンギヌスの槍を抜き取るとリリスの下半身の再生がゆっくりと始まる。

  

 ロンギヌスの槍を持った初号機が地上に上がる。

 使徒の光線が初号機を包み込み、

 伊吹のカウントダウンが始まる

 「ミサト。静止軌道上にいるのに命中するの?」

 「ええ、ロンギヌスの槍。生きているから。自らの力でATフィールドに向かっていく」

 「そして、コアを射抜いてしまうわね」

  ・・・3・・・2・・・1・・・0

 初号機が槍を投げると、ロンギヌスの槍が軌跡を残しながら瞬時に成層圏を突破し、

 使徒の中核であるコアを突き抜く。

 使徒は、ATフィールドを喪失させて宇宙空間に漂いはじめる。

 「使徒のATフィールド場とエネルギー反応が消滅。殲滅を確認」  青葉

 「ロンギヌスの槍は?」

 「・・・月面に突き刺さりました。37万kmをわずか2.8秒で・・・・・」 日向

 「凄い。もっと早くから使いたかったわね」

 「使徒に奪われたら怖いでしょう」

 「例え、使徒の起こすサードインパクトに必要なくてもね」

 「回収は?」

 「質量と予算からして、いまは、無理ね」

  

  

 病室304号室

 アスカ

 突然。

 叫び声が病室に響いた。

 帰り際にアスカの様子を見に来たシンジが病室のドアを開ける。

 アスカは、暗闇の中で顔を覆い震え怯えていた。

 シンジは、どうしていいかわからず固まる。

 シンジと一緒にいたレイが病室に入ると呼び出しボタンを押す。

 そして、アスカの横に座って背中を摩りながら、ドイツ語の童歌を囁くように歌う。

 真っ青なアスカが何か喚きながら震え、痙攣を起こそうとしていた。

 レイは、黙々と背中を摩りながら歌い続ける。

 アスカは、ママと呟きながら次第にレイに抱きつく。

 しばらくするとアスカは、落ち着いてきたのか、平静になり、

 自分が誰に抱きついているのかわかると ハッ! としてレイを突き放す。

 レイは無表情のままで、

 アスカは怒気を込めて睨みつける。

 シンジは、両方を見ながらどうして良いかわからない。

 駆け寄って来た医師と看護婦によって、シンジとレイが追い出される。

  

  

 通路

 シンジ、レイ

 「・・・アスカ、大丈夫かな」

 「医者は軽い精神汚染と言っていたから、そのうち治ると思う」

 「レイは、ドイツ語がわかるの?」

 「わからない。なんとなくわかる。ユイさんの記憶かもしれない」

 「お母さんの記憶があるの?」

 レイは、首を振った。

 「碇君は、私にお母さんの記憶があった方が良いの?」

 「そ、そんなことないよ。僕は、綾波が好きなんだ」

 レイは、微笑むとシンジと腕を組む。

 「碇君は、どうして、第5使徒戦のあと、私のこと好きになったの?」

 「綾波の笑顔に惹かれたんだと思う」

 「笑顔?」

 「ほら、第5使徒を倒した後、エントリープラグに飛び込んだあと綾波の笑顔を見て・・・」

 「そんなことで、わたしを好きになったの?」

 「あっ いや、なんと言うか、それが切っ掛けで一緒にいると、だんだん好きになって」

 「そう・・・わたしより、笑顔が良い娘が現れたら、その娘が好きになるのね」

 「そ、そんなことないよ。綾波。そんなことないよ」

 「・・・・・・」

 「本当だよ。信じて、綾波」

 「・・・・・・」

 「綾波。怒ったの?」

 レイが首を振る

 「わたしには、碇君しかいない」

 「僕も、綾波しかいないよ」

 「碇君」

 「なに?」

 「名前を呼んでみたかっただけ」

 「そう」

 「碇君」

 「なに?」

 「名前を呼んでみたかっただけ」

 「そう」

 「・・・・・・」 レイ

 「僕は、綾波に嫌われていると思ってたんだ」

 「どうして?」

 「だって、そっけなかったし。初めて綾波の部屋に行ったとき・・・その・・・裸を見てしまって」

 「・・・なんか、いやだった」

 「やっぱり、引っ叩かれたし」

 「ごめんなさい」

 「あっ 良いんだ。それで、綾波が好きになっても、なかなか言えなくて」

 「そう・・・・・」

  

  

 発令所

 ミサト、リツコ

 「アスカの精神汚染大丈夫なの?」

 「昨日、大変だったみたいじゃない」

 「アスカがレイに抱き付いている映像なんてプレミアものよ」

 「そうね」

 「でも、レイがドイツ語の童歌を歌っていたのはどうしてかしら、聞いてないわよ」

 「あのね。セカンドインパクト後、世界の言語で最有力は、日本語、英語、ドイツ語の3言語」

 「たしなみで片言ぐらい話せるわよ」

 「私の仕事を手伝わせたこともあるし。学校でも挨拶くらい教えているし」

 「まあ、音程、発音もほとんど日本語で歌っていたし、そういうもんか」

 「でも、レイの無機質さは呆れますね」 青葉

 「本当、もう少し感情表現が豊かなら、アスカとも上手く行くのに」

  

 

 

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第35話 『コアの力』
第36話 『せめて、人間らしく』
第37話 『ワルツで一休み』
登場人物