月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

     

第37話 『ワルツで一休み』

 翌日

 シンジが病室に入ると、ベットにアスカが座っていた。

 「・・・大丈夫かい。アスカ?」

 「うるさい!!」

 「ちっとも大丈夫じゃないわよ!」

 「・・・・・」

 「あんな女に助けられるなんて・・・」

 「あんな女に助けられるなんて・・・」

 「あんなところを見られるなんて、死んだ方がマシよ」

 「そ、そんなことないよ」

 「僕は、アスカが生きていてくれて嬉しいよ」

 「こんなところにいないで、あの女のところに行ってなさいよ」

 「うん。じゃ 元気だしてね。アスカ」

 シンジは、病室から出て行く

 「バカシンジ・・・」

  

  

 発令所

 「・・・あのバカ。そこで “うん” っていうな。何で、そこで帰るかな」

 ミサトが頭を抱える

 「一応、二佐ですよ。それに、外にレイとマナが待っているみたいだし」  青葉

 「・・・だって、ここは “僕は、アスカが好きだ” 抱き〜 でしょう」

 「駄目ですよ。そんなこと言ったら泥沼になってしまうじゃないですか」

 「まぁ シンジ君にしては、上出来よ」

 「何も言えないかもしれないと思っていたくらいだから」

 「ったく。でも、シンジ君も気が利かない」

 「二佐なんだから戦略的なバランスってものを判断しなさいよ。二股ぐらい何よ」

 「加持君なんか、四股五股で普通なんだから」

 「・・・心外だな。葛城」

 どぉぁぁぁああああ!!

 加持の出現にミサト、青葉、伊吹、リツコが驚き慌てる。

 「い、いつの間に湧いて出たのよ。この女ったらし」

 「仕事でね。一時、立ち寄ったのさ」

 「じゃ さっさと仕事に戻ったら」

 ミサトが手で、あっちに行け、という仕草

 「ははは、司令の命令で珍しい女の子を連れてきたよ・・・」

 「赤木研に置いてきたから。これが関係書類とディスク」

 加持は、封筒を赤木博士に渡す。

 「そう、連絡は受けているわ。マヤ、その女の子に会ってみるから、あと、任せる」

 リツコは、封筒を持って発令所をでていく。

 「静止衛星軌道上に使徒の残骸か。どうするんだい」

 「コアを射抜かれて無力化されているから」

 「予算と相談して必要なものを回収するでしょうね」

 「おや、気が付かないのか、国連も各国政府とも宇宙開発の資材として流用するだろうよ」

 「静止軌道上にあれだけ頑丈で不透過性の強い資材があれば、早い者勝ちで宇宙開発を進めるだろうな」

 「人類が宇宙に打ち上げた1000倍の質量」

 「この場合、容積かな。が静止軌道上に浮かんでいるんだ。使わないのはバカだ」 

 「エヴァ光子を個体にしたり、加工したりする技術そのものがわからないのに?」

 「だが流用は出来る」

 「日本は使徒戦で、当面、余裕もないわ。色めき立っているのは、アメリカとドイツか」

 「互いに電磁弾道弾で狙っているのに、そんなこと出来ないか」

  

  

 赤木研究所

 疑わしげなミサト。

 冷静なリツコ

 「でっ! リツコ。この娘を、どこで見つけたって?」

 「岩手の宮守・・・らしいわね」

 「戦自の諜報機関の目に留まったみたい」

 「朝霧ハルカ14歳。青髪紅眼、珍しいでしょう」

 「いいえ、一人知っているもの・・・親は?」

 「両親は、セカンドインパクトで行方不明。労働孤児よ」

 「彼女は、幼少の頃を覚えていない」

 「すぐに養護施設から労働孤児で、ここまで来たみたいね」

 「・・・ご都合主義」

 「そうね。二号機の適性が合いそうだから試しに乗せてみることにするわ」

 「リツコ。もっと、ちゃんと、調べた方が良いんじゃないの」

 「めっちゃくちゃ怪しいわよ。使徒だったら一巻の終わりよ」

 「ハルカ。あなた、怪しまれているわよ」

 「不採用なの?」

 「条件が良いみたいだから喜んで来たのに」

 「それは、テストしてから決めるわ」

 「ゼーレの影は、ないんでしょうね」

 「幼少の頃。拾われてからの記録もあるから・・・大丈夫でしょう」

 「ハルカ。更衣室で着替えてから実験場に行ってもらうわ・・・・レイ。案内をお願い」

 「はい」

 「この写真と書類。偽造じゃないでしょうね」

 「使徒は、手の込んだことは出来ないわ」

 「ゼーレは?」

 レイに案内されてハルカが出て行く。

  

  

 青髪紅眼の二人の少女は、擦れ違う者全てを振り返らせる。

 「・・・レイちゃん。シンジ君が好き?」

 レイ、頷く

 「そう、私は、誰を好きになるかな。今度は、失敗しないぞ」

 「平気なの?」

 「何が?」

 「自分自身が、人と違うことに」

 「ええ、悪くないわ・・・レイちゃんは、ユイの記憶がないから、寂しかったのね」

 「わたし、レイちゃんのこと好きよ。ユイと仲良かったから」

 ハルカがレイと腕を組む。

 レイは無表情

 「わたし。ユイじゃないわ」

 「厳密に言うと私もキョウコじゃないけどユイの記憶があるの」

 「夢みたいなものだけどね。だから記憶は大切にする」

 「だから、レイちゃんとも仲良くしたいな」

 「わたしには、ユイという人の記憶がない」

 「無い方が幸せよ。あの髭親父との記憶なんて無い方がね」

 「そう」

 「そうよ。どこが良かったのか知らないけど・・・」

 「まぁ 後から考えれば大出世だけど」

 「結婚する前なんて陰気でトウヘンボクな男だったのに・・・」

 「何が “かわいいところもあるんですよ” よ」

 「ユイが、いなくなると赤木親子に手を出すし、ゲンドウじゃなくて外道よ」

 「・・・・・」

 「まあ、シンジ君は、髭より、かなりいけているから良いと思うわ」

 「上手いことやったわねレイちゃん」

 「わからない」

 「クスッ 本当は、策士なのに」

 「・・・・・・・・・」

  

  

 実験場

 二号機のハーモニックステスト

 朝霧ハルカ

 管制会話が流れる

 「第一次接続開始」

 「エントリープラグ。注水」

 コクピット内にオレンジ色の液が溢れるとハルカが不安そうになる

 「大丈夫。肺の中の空気を全部吐き出して」

 「肺がLCL液で満たされれば、直接酸素を取り込んでくれるわ。すぐ慣れます」

 「ぅぅ・・・不味い」

 ハルカが空気を吐き出す

 「第二次接続。準備よし」

 「主電源接続」

 「A10神経接続。異常なし」

 「思考形態は日本語を基礎原則として、フィックス」

 「初期コンタクト。すべて問題なし」

 「双方向回線。開きます」

 LCL液に浮かび上がる各種ディスプレーとコンソールを興味深そうに見つめるハルカ 

 「現在。ハーモニックス率34パーセント、シンクロ率38パーセントです」

 「動きそうね」

 「シンジ君に続いて歴代2位か」

 「リツコ。偶然の産物として認めろっていうの?」

 「動かせるという現実だけは、認めるしかないでしょう」

 「そして、動かせるという事実そのものが重要なの、いまはね」

 「・・・・」

 「ハルカ。正式採用よ。フィフスチルドレンね」

 『本当。嬉しい。これで、お金持ちね』

 「ハルカ。危険で理不尽な命令で死ぬこともあるの」

 「給与が高いのは、その為」

 「そのことを良く考えて採用されなさい」

 『採用されるわ。労働孤児に戻りたくないもの』

 「わかったわ。同僚に合わせるから」

 『はい』

 「ねえ、リツコ。ハルカを預かるというのは、どうして?」

 「戦闘には、役に立たないでしょう」

 「ミサトも疑っているし、念のために研究した方が良いと思って」

 「違うわよ。どうして、ハルカを引き取って一緒に住むのかという事よ」

 「レイとも、そうなってなかったでしょう」

 「あら、わたしの護衛の規模なら、綾波ビルとほとんど変わらないわよ」

 「家も広いし。ハルカも、そうしたいって」

 「どうして、いきなりそういう関係になるのかしらね?」

 「ミサト。随分、絡むわね」

 「猫の替わり?」

 「・・・確かに飼っていた猫が死んだのは、認めるけど、猫の替わりじゃないわよ」

 「リツコのキャラじゃないわ。年頃の女の子と一緒に住むなんて」

 「最近、博愛に目覚めたの」

 「・・・パイロットは、綾波ビルに集めるんじゃなかったの?」

 「護衛の規模が同じなら構わないわよ。司令も認めていることだし」

 「・・・・・・・」

  

  

 NERV

 ミーティングルーム

 ミサト、シンジ、レイ、アスカ、ハルカ

 「新しい仲間を紹介するわ。朝霧ハルカ」

 アスカの表情が変わる。

 「右から綾波レイ、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー。仲良くしてね」

 「朝霧ハルカです。よろしく、お願いします」

 「よろしく」

 「よろしく」

 「・・・よろしく」

 「ハルカは、アスカと一緒に二号機に乗ってもらうわ」

  

  

 NERV食堂 

 ハルカは、レイと同じ青髪紅眼。

 しかし、感情表現とボキャブラリーは多彩だった。

 そして、なぜかアスカは、ハルカに対し、強く出られないでいる。

 「アスカ。一緒に食事しよう」

 微笑むハルカ

 「え、ええ」

 アスカは、複雑な表情をする

  

  

 離れた場所でシンジ、レイ、マナが食事を取る

 「あのハルカって子。レイの親戚?」

 「知らないわ」

 「怪し過ぎる」

 「・・・・・・・・・」 シンジ

 「シンジ君は、どう思う?」

 「上手くやっていければいいけど・・・」

 「そういう問題?」

 「もっと根本的な、存在そのものに疑問に感じないの?」

 「でも、現実いるから」

 「んん、青髪紅眼は、レイに似ているのに」

 「それ以外の骨格とか雰囲気はアスカに近いのは偶然かしら。アスカタイプの美人ね」

 「性格は、マナに近いかも」

 「アスカも、疑問に感じているはずなのに・・・なぜか押されているような・・・」

  

  

 NERV

 ラウンジ

 ミサトと加持

 「・・・葛城から捕まえられるとは光栄だね。それも積極的に・・・」

 「あんたが連れて来た子のことよ」

 「裏があるはず。調べて! というより、何者?」

 「おいおい。スケジュールが、一杯なんだよ」

 「本当は、リニアに乗って移動していないといけないんだぞ」

 「ふ〜ん、各駅停車で女遊びする時間は、あるんでしょう」

 「公務がいくつかね」

 加持がニヤリとする。

 「どうだか・・・ゼーレの罠じゃないでしょうね」

 「どうかな・・・」

 「どうかなって無責任じゃないの。冬月副司令も憮然としてたし」

 「少なくとも戦自や政府の眼を盗んで、何か出来るような場所じゃない」

 「過去にも、付近にも、ゼーレの影はなかったよ。それだけは保障できるさ」

 「ふう・・・それならいいけど」

 「しかし、シンジ君も、随分、たくましくなったものだ。噂は、聞いている」

 「二佐なんだから、もっと、チームのことを考えて、もう少し押しがあれば、いいんだけどね」

 「14歳で二佐。半年もしないうちに曹長から7階級も上がって大出世じゃないか」

 「そういえば、戦略自衛隊は自衛隊を統合して国防軍になるそうだ」

 「階級の呼称も二佐だと。シンジ君は、中佐になるな」

 「葛城は三佐だから少佐か」 

 「・・・話しを逸らすな」

 「俺だって、全部わかるわけじゃないさ」

 「だから、ハルカって娘を調べて」

 「まぁ 空いた時間にな」

 「至急よ」

  

  

 食事中

 アスカとハルカ。髪と目の色を覗けば、姉妹のようにも見えた。

 「どうしたの? アスカ。わたしの顔に何か付いている」

 「・・あ・・いえ・・知っている人に似ているような気がしただけ」

 「そう。よろしくね。アスカ。知らないこと多いから」

 「いままで、どこで、何やっていたの?」

 「労働孤児よ。岩手の宮守で宿舎に入って、精密機械の動作確認」

 「日本人なの?」

 「たぶんね。気付いたときは養護施設で過ごして。そのまま、労働孤児」

 「青髪赤眼で色白。日本人離れしているから結構、虐められたわ」

 「そう」

 「レイちゃんと関係あるのかしら?」

 「実はエヴァ用の薬物人体実験の結果とか」

 「リツコがヒトゲノム。遺伝子単位で調べているはずだから、関係があれば、わかると思う」

 「・・・・・・」

 「・・・な、なんで泣いているのよ」

 「あっ! ごめんなさい。なんか、泣けてきちゃって」

 「あのね〜 わたしが、いびっているみたいじゃないの」

 「アスカ、学校は楽しい?」

 「私は、ドイツで大学卒業して修士課程だって持っているのよ」

 「いまさら中学校だなんてバカらしいわ」

 「友達と遊んでないの?」

 「遊ぶ暇があればね。遊ぶわよ」

 「アスカ。ドイツから日本に来て寂しくない?」

 「あんた。青髪紅眼なのに、ずいぶん、レイと違うわね」

 「そう?」

 「レイと気が合うかもね」

 「まずは、アスカと仲良くしたいわ」

 「どうして?」

 「気に入ったから」

 「・・・・・・・・・・」

  

  

 二号機

 アスカとハルカのダブルエントリー

 発令所

 「・・・ハーモニックス率43パーセント、シンクロ率82パーセント」

 「よさそうね」

 「ハーモニックス率が3倍になり、落ち込んでいるはずのシンクロ率が回復したようね」 リツコ 

 「相乗効果ね。アスカ、完全にシンクロ率が最高値に回復している」

 「ミサト。まだ疑っているの、えらく緊張しているじゃない」

 「・・・賭けに負けたのならいいけど・・・・本当のところ、どうなの?」

 「えっ あ、重複率は0.0048パーセントです」  マヤ

 「そういう事を聞いているわけじゃないんだけどな」

 「でも、女同士でいってるなんて、ふっ、ふっ、ふふ、ふふふ」

 「不謹慎です」

 「不謹慎ね」

 「ああ、禁断の〜」

 「ミサト。いい加減にしないと追い出すわよ」

 「はいはい。おちゃらけないと、おかしくなりそうよ」

 ミサトがそう言うと出て行く。

  

 「・・・本当に行っちゃいました。先輩」

 「いいわよ。調整中に、いないといけない人間じゃないから」

 「やはり、疑問がありすぎて・・・」

 「真実よりも人権を優先したい場合もある。失望した?」

 「い、いえ、そんなことありません」

 リツコが二号機との通信を入れる

 「アスカ、ハルカ。規定の時間を越えるけど、精神的負担が、とても低いの、もうしばらく続けるわ」

 『好きにしたら』

 『はい』

  

  

 赤木研究所

 リツコがキーボードを打つ。

 隣で、ハルカがリツコに負けないほど鮮やかにキーボードを打っている。

 難しい数値計算が打ち込まれ、マギが自動的に計算。

 表とグラフが作られ、修正の数値が置き換えられて、表やグラフが変化していく。

 「・・・揃いも、揃って、どういう事かしら」 ハルカ、憮然

 「・・・・・・・」

 「最初から、とまでは言わないけどね」

 「・・・・・・・」

 「ドイツ支部から盗った情報は、これで全部だけど」

 「リツコちゃん。新規の分と相違点と不足分は、こっちでチェックするから徹夜よ」

 「わかってる」

 「コーヒーの入れ方は上手いわね・・・リツコちゃんのお母さんも、上手だったわ」

 「ありがとう」

 「リツコちゃん。ちゃんと自分の相手を探しなさい。まともな相手をね」

 「・・・・・・」

 「新規の発見は、あるけど、解析は、元々のベクトルが見当違いだから、やり直しよ」

 「私の方も、かなり間違っていたけど」

 「これだけ矛盾点が広がっているのに無理やり・・・もっていくなんて・・・こじつけ」

 「ハルカ。部屋、アスカと一緒じゃなくて良かったの?」

 「今日、一緒にいてわかった。自分自身じゃなくてもキョウコの記憶は本物」

 「アスカと一緒にいたら正常では、いられなくなる」

 「仕事が軌道に乗るまでと思ったけど、しばらく様子を見ることにするわ」

 「そう」

 「伊吹マヤは、小粒だけど使えるわね。光るものもある。アスカと良い勝負ね」

 「マヤに手伝わせる?」

 「秘密を共有できる人間よ」

 「もう、だいたい、見当をつけているでしょうけど」

 「そう・・・・任せるわ」

   

 深夜。

 リツコがモニターを前に寝ているハルカを抱えてソファに寝かせて毛布をかける。

 「記憶が30代でも、身体が10代の娘に徹夜は無理ね」

 リツコが呟く

  

  

 遊園地

 シンジとレイは、ジェットコースターから降りる

 「綾波が怖がっているのを見たのは、初めてだね。悲鳴も」

 「碇君も・・・」

 「そ、そうだけど。綾波の方が意外だよ」

 「そう」

 「もっと早く来ても良かったな。ジェットコースター。楽しかった?」

 「不安になる。落ちそうで・・・・でも、楽しかった」

 「僕も喫茶店で少し休んで、他のにも乗ろうよ」

 「ええ」

 「綾波。次、何に乗りたい?」

 「あれ」

  

  

 NERV

 ラウンジ

 リツコとハルカ

 コーヒーとサンドイッチで間食。

 「ぅうぅっ・・・頭が膿んでるわ」

 「ハルカ。子供に徹夜は無理ね」

 「寝る子は育つ。記憶に関係なく、体は必要な睡眠を求めるのよ」

 「良い子だから朝型に切り替えなさい。早寝早起き」

 リツコが勝ち誇る

 「はあ〜 リツコちゃんに説教されるなんて、黄昏時を感じるわ」

 「コーヒーより、ミルクにしなさい。子供なんだから」

 「どこかで聞き覚えがあるセリフね」

 「昔、誰かに言われたわ。強制的にミルクコーヒーにされちゃうし」

 リツコがニヤリと笑う

 ウェイトレスが、ミルクを入れたコップを持って来る。

 リツコが受け取ると、嫌がるハルカのコーヒーカップに注ぎ込む

 「ちょっと、リツコちゃん、何てことするのよ。私のモカが! モカが!」

 「ハルカぐらいの年に、コーヒーは毒よ。ミルクを取らなきゃ」

 「何よ、わたしがやったのは、リツコちゃんが、10才の頃でしょう。私は14才よ」

 「あら、いつの間に14才になったのかしら」

 「真っさらな状態で出てきたのにコーヒーなんて飲んだら、食中りを起こすわよ」

 「しばらく、刺激物。禁止。錠剤だけにしなさい」 

 「そんなぁ〜」

 「吹き出物が出来ているわよ。消化が上手くいってないわ」

 「ニキビよ。ニ・キ・ビ」

 「聡明なハルカなら。わかるわよね」

 リツコは、コップに半分残ったミルクをハルカの前に置く

 「そんなぁ〜」

 「本当は、流動食の方が良いんだけどね」

 「それは、いや〜」

 「消化器官が、慣れるまで2週間くらいの我慢ね」

 リツコは、嬉しそうな顔をして微笑む

 「ああ〜 モカの香りが飛んでる〜」

 ハルカが、テーブルに突っ伏して泣く

 ミサトが近付いてくるとリツコとハルカのテーブルに座る

 「・・・随分、仲がいいのね。二人とも」

 「一緒に住めば仲も良くなるわよ」

 「ええ、何年も、一緒に住んでいるようにも見えるわね」

 「リツコが笑っているなんて、久しぶりに見たわ」

 「たまたま気が合うのよ。たまたまね」

 「私のモカが白くなってる〜 香りも消えてる〜」

 「たまたまね。ハルカを訓練場に回したいんだけど」

 ミサト。思いっきり疑惑の目

 「とうぶん、駄目よ。こっちが終わったら、訓練場に行かせるわ」

 「わかった。ハルカ。リツコにモルモットにされそうになったら、私のところに逃げてきなさい」

 「逃げ込むなら、良い男のところがいいな」

 「うっ」

 「・・・・・」 リツコ

 「不毛な仕事ばかりしてられないもの。女の幸せを追求しなくっちゃ」

 ハルカが二人に微笑むと。

 ミサトと、リツコは、むっ とする。

  

  

 夕暮れ

 遊園地の観覧車

 「綾波。今日は、楽しかったね」

 「ええ」

 「また、来ようね」

 「ええ」

 「綾波の笑った顔、怖がっている顔、泣いた顔、怒った顔を知っているのって、僕だけかな」

 「・・・怒った顔?」

 「うん、綾波に引っ叩かれた事ある」

 「ごめんなさい」

 「あっ!」

 「良いんだ。なんか、そういうのが嬉しくて」

 「それに怒ったときの顔も、なんか、かわいかったし」

 レイ赤くなる

 「帰ろう」

 「ええ」

  

  

 NERV

 訓練場

 アスカとマナが対峙。

 アスカが技を仕掛け、マナが弾く。

 「アスカ、病み上がりなんだから、加減しなさいよ」

 「うるさいわね。手加減なんて、いらないわよ」

 「あのね、ここで、女同士。やり合っている間にシンジ君とレイは、デートしているんだからね」

 「何が悲しくて、色気のないことで汗水たらそうというわけ?」

 「だから腹が立つのよ」

 「好きなら、好きと、言ったらいいじゃない」

 「なんで、わたしがシンジに好きと言わなきゃなんないわけ、あんな、中坊」

 「あら、誰も、シンジ君のことなんて言ってないのにな〜」

 「このぉぉおおお!!」

 アスカの突き。

 マナは、あっさりとかわす。

 「もう〜 アスカ、かわいいんだから」

 「二人がデートだってわかっているのに車を貸してあげるなんて、け・な・げ」

 アスカが、闇雲に繰り出す突きや蹴り。その多くがマナにかわされる。

 「アスカ、今度、暇潰しにボーイハントにでも行こうか」

 「ボーイハント!?」

 「ふざけるな、向こうから寄ってくるのに、何で、こっちからハントする必要がある」

 「だから気分転換よ、気分転換。女同士で突いたり蹴ったりするより、はるかに健全よ」

 「気分転換」

 「アスカは、気に入った男に声を掛けられるかな〜」

 「諜報訓練だと、こちらの情報は教えないで」

 「その子のベルト、足の爪、血を貰ってこいとかあるけどね」

 「わ、わたしが、その気になって声を掛ければ、どんな男でもいちころよ」

 「あら、少しは、ドキドキするはずよ。振られたらどうしようかってね」

 「わ、わたしが! このわたしがフラレるわけ無いでしょう!」

 「日本人って、シャイだから、コツがあるのよね」

 「うるさい!」

 アスカの蹴りがかわされる

  

  

 NERV

 休憩室

 マヤ、日向、青葉 

 「・・・アスカの不調は大きいな。昔は覇気があったのに」  青葉

 「アスカは、エリートだからシンジ君に負け続けたのが大きいわね」

 「第14使徒以前までは、個体性能だけならアスカと二号機が優勢だったんですけどね」 日向

 「本当は、初号機、怖くて使いたくないんですよね」

 「アイドリング状態で動けるはずなのに、ジッとしているから怖くて・・・」

 「零号機で、シンジ君とレイのダブルエントリーだと、安全なんだけど」

 「零号機だと戦力ダウンですよね」  日向

 「確実に勝とうと思えば初号機ですよね」  青葉

 「二号機が本調子なら零号機と二号機でも良い。というのが最近のミサトさんの口癖ですね」

 「シンジ君は、初号機を怖がってないですよね」  青葉

 「外から見てないからでしょう。あとから映像を見ても他人事だし」 日向

 ハルカが休憩室に入ってくる。

 「おはようございます」  ハルカ

 「やあ、おはよう」  青葉

 「おはよう。朝霧君」  日向

 「おはよう。ハルカ」  マヤ

 「ここ、広くて大変ですね。迷ってしまいます」

 ハルカは、いまいましそうに自動販売機のミルクを選ぶ。

 「迷ったら近くのモニターにカードを入れて、行き先を入力すれば、すぐに教えてくれるよ」 日向

 「あれ、便利ですね。もう、10回くらい使いました」 ハルカ

 「もう、慣れたかい?」  青葉

 「そうですね。雰囲気は慣れたかな。でも人にはまだ〜」  ハルカ

 「いや、それだけ話せれば十分、慣れていけるよ」

 「10年以上いて、いま君が話した言葉の半分も話していない娘がいるんだ」 青葉

 「わたし、おしゃべりですか?」 ハルカ

 「いや、そんなことはないよ。いっぱい喋ってくれていいよ」 青葉

 「よかった。となり良いですか?」  ハルカ

 「ああ、どうぞ、どうぞ」  青葉

 「わたし、人に話しかけようとすると、避けられそうになるんです」

 「やっぱり、この髪と眼のせいかな?」 ハルカ、悲しげ

 「そんな奴は、ろくな人間じゃないから気にしない方が良い。僕達は君の味方だ」 青葉

 「そ、そうよ。気にしちゃ駄目よ」

 「困ったことがあったら、いつでも相談に乗るよ」 日向

 ハルカ、ジワッと涙目

 「あ、ありがとうございます」

 「そんな風に、やさしく言ってくれた人、一人もいなかったから・・・」

 「青葉さん、日向さん、伊吹さん。ありがとうございます」 泣き

 「く、苦労してきたんだ」

 「でも、これからは、違う、君が虐められないように守るからね」 青葉

 「ありがとうございます。私のこと、ハルカと呼んでください」  ハルカ

 「あ・・あ・・・じゃ ハルカ・・僕はシゲルで良いよ」  青葉

 「じゃ、僕もマコトで・・・・・」  日向

 「わたしは、マヤ」  マヤ

 「そうだ、わたしね。私のこと大切に思ってくれる人と踊りたいと思って、一人で練習していたの」

 「シゲル。踊って」  ハルカ

 「えっ えっ・・・」

 青葉シゲルは、ハルカに引っ張り立たされる

 ハルカは、シゲルを引っ張ったまま、ミュージックボックスをセット

 「えっ えっ・・・・」 シゲル

 「はい」

 ハルカが青葉とピッタリとくっつくと手を差し出す

 美しき青きドナウの曲が流れ始める

 「ハルカ・・・・あの・・・・踊ったこと無いんだけど」  青葉

 「ワルツよ。まず、手を支えるの」

 「腰に手を当てて・・・ステップは自由。シゲルに合わせるから簡単でしょう」

 ハルカは、微笑む

 青葉とハルカは休憩室で美しき青きドナウの曲に合わせて踊り出す。

 伊吹と日向は、呆然と二人を見詰める。

 ハルカと青葉は、いつの間にか見詰め合い、

 ぎこちなかったダンスも次第に優雅になってくる。

 なぜか、ムッとしているマヤ。

 青葉と踊った後。

 ハルカは、日向と踊る。

 日向は、ワルツを踊ったことがあるのか、最初から、そつなく踊れる。

 「・・・ハルカ。休憩時間は、終わっているはずだけど」

 リツコは、ワルツが終わった頃を見計らって声を掛ける。

 慌てて手を離す日向。

 「あれ〜 本当だ」

 ハルカが休憩室の時計を見ながら応える。

 「行くわよ」 リツコ

 「あ、リツコちゃんも踊らない。楽しいわよ」

 ハルカの言葉にマヤ、青葉、日向が固まる。

 「・・・そんな暇はないわ」

 「もう、リツコちゃんは、どうしてそんなに堅物なの」

 「少しは遊んだ方が能率上がるんだから」

 「ハルカ。いまは、急いでいるのよ」

 「リツコちゃん。息抜きしなさい」

 「余裕がなくなると、視野も狭くなるんだから」

 「・・・・・・」 リツコ

 「気分転換よ。これ逃したら一生踊る機会なんてないから」

 「・・・・・・」 

 リツコがハルカに引っ張られる

 「ほら、騙されたと思って、楽しいから」

 「リツコちゃんは、趣味を持った方が良いわよ。その方が彼氏も、出来るでしょう」

 ハルカがミュージックボックスのスイッチを入れるとリツコを日向に押し付ける。

 日向とリツコが固まる。

 ハルカは、勝手に仕切って、二人の手を添えるのを手伝う。

 「い・・・いいんですか?」  日向

 「え・・・ええ」

 リツコは恥ずかしげに応え、頬が少し赤くなる

 日向のエスコートで二人が踊り出す。

 「リツコちゃん。強張ってばかりだと相手に失礼よ」

 赤い顔をしたリツコと呆然とする日向が見詰め合う。

 伊吹と青葉は、絶句したまま、日向とリツコのワルツを見つめる。

 その後、日向とリツコが休憩室で踊ったという話しが激震のごとくNERV全域に広がり。

 朝霧ハルカが赤木リツコをリツコちゃんと呼んでいる事も広がっていく。

  

  

 遊園地の帰り道

 腕を組んでいるシンジとレイ。

 周りを囲む4人の不良。 

 「・・・よう、良い女を連れているじゃないか」

 「・・・・・・・・・・・・」 シンジ、レイ

 「羨ましいね。俺達にもその娘を貸してくれないか」

 「・・・・・・・・」 呆然。

 「君、かわいいね。こんな奴より、俺達と遊んだ方が楽しいぜ」

 「・・・・・・・・・」

 「そうそう、ここは、平和的に解決しようじゃないか」

 「その娘を置いて消えなよ。暴力沙汰は嫌いなんだ」

 「・・・・・・・」

 「そうそう、俺達は、平和主義者だから」

 「・・・・・・・」

 4人組がニヤリと笑いながら一歩近付くと全員がそのまま倒れる 

 「行こうか」

 「ええ」

 シンジとレイは、眠っている4人を避けて駐車場の赤い車に乗る 

  

  

 赤木研究所 

 突然。部屋に入ってくるミサト。

 「リツコ♪ 休憩室で、日向君とワルツを踊ったって本当?」

 ミサト、満身笑み

 「・・・・仕事の邪魔よ。ミサト」

 「リツコ。なんで呼んでくれなかったのよ。休憩室、監視カメラないじゃない」

 「仕事の邪魔よ。ミサト」

 「いま、赤木博士が日向マコトとワルツ踊ったって、NERV中が大騒ぎよ」

 「もうすぐ、サードインパクトが起こるから、避難しようって」

 ミサト、ワクワク

 「ミサト。仕事の邪魔をしないで」

 「ねえ、リツコ。日向君が気に入ったの?」

 「バカいわないで」

 「どうして?」

 「日向君が、気に入ったから踊ったんでしょう」

 「リツコちゃん。だからマコトと踊った後、シゲルとも踊りなさいって言ったのよ」

 「一人だけと踊ったら誤解されるのよ」

 「・・・ミサト。バカ騒ぎをやめて、出て行ってくれない」

 「ハルカ・・・えらいわ。この堅物リツコを救う人間が現れるなんて」

 「わたしが10年以上掛けて出来なかったことを一瞬でやってしまうなんて、偉い偉い」

 ミサトがハルカを抱きしめて頭を撫でる。

 「はあ、なんか嬉しくて、嬉しくて、良かった。リツコ〜」

 ミサト。泣き

 「ミサト」

 「もう、びっくりしちゃった。まだ、日向君は、まだ固まっているし」

 「青葉君は、呆けているし」

 「マヤは “先輩が〜” って、いっちゃっているし」

 「くっ くっ くっ・・・・おかしい」

 ミサト涙目

 「ミサト」

 「ねえ、今度は、監視カメラがあるところで踊ってよ」

 「それとも、私を呼んで、ね。リツコ。お願い」

 「ミサト!」

 「あれ、ハルカは、なにやっているの? ゲーム?」

 「勝っているじゃない。凄いわ、ハルカ。もう、なんでもありよ、ハルカ」

 「なにやってても、わたし、応援するからね」

 ミサトは、ハルカの手を握り締める

 「ミサト!!」

 「何よ!」

 「出て行け!!」

 リツコが出口を指差して叫んだ。

 

 

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 月夜裏 野々香です

 オリジナルキャラ。出してしまいました。

 記憶がアスカの母親という感じなので、半オリジナル。名前だけでしょうけど。

 今後の展開で影響を与えていきそうです。

 でも、本編分は、もうすぐ、終わりか・・・・・・

 

 

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第36話 『せめて、人間らしく』
第37話 『ワルツで一休み』
第38話 『リツコ & ハルカ』
登場人物