月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

   

第46話 『自由意志』

 海釣り

 シンジ、レイ、カヲル、マナは、朝早くから海辺に行くと釣具店で釣り道具を一式購入。

 釣り情報を聞くと堤防に行く。

 堤防は、その筋の者たちが釣り人で並んでいた。

 カヲルは、鼻歌を歌いながら釣竿を振りかざし・・・

 「♪・・・んん・・・・・あれ〜・・・」

 後ろに仕掛けを飛ばしてしまう。

 「ははは・・・・・・・あ、ああ・・」

 シンジも笑いながら、なぜか仕掛けが後ろに飛んでしまう。

 周りの釣人が野次を飛ばしながら、錘付きの仕掛けを恐れ離れていく。

 レイは、コントロールが良くて狙い通りの場所に投げ込み。

 マナは、全身のバネと遠心力を効果的に使い、

 体格に似合わない遠投を見せつけ、周りの感心を買う。

 「何で、後ろに飛ぶんだろう?」

 シンジは、リールを戻しつつ呟く

 「僕達は、気が合うね。シンジ君」

 「そうだね。カヲル君」

 不意に見詰め合う、シンジとカヲル。

 「シンジ君〜 わたしが教えてあげるね」

 マヤが無理やり二人の間に割って入る

 レイの竿がヒット。

 巻き上げ開始。

 「綾波。釣れたんだ」 シンジは驚き、

 「今日は、入れ食いなの?」

 マナは、周りの様子を見る

 カヲルの仕掛けが明後日の方に飛んで、他の釣り人の糸と絡む。

 カヲルとシンジは、回りに散々に迷惑をかけ、

 ようやく前に飛ばす頃、レイは、10匹の魚を釣り上げていた。

  

  

 発令所

 一同

 「カヲル君。やるわね。保安部員を全員遠ざけたわ」

 「・・・・狙ってやっているようには見えないのが味噌ですよね」

 「シンジ君とカヲル君は、本当にタイミングが合っていないみたいですよ」  日向 経験者

 「先輩。レイって釣りの名人なんですか?」

 「堤防釣りで、1時間に18匹。統計的にありえないわね」

 「レイの釣りは、釣りの醍醐味がないと思いますよ」

 「じ〜っ と待ち続ける自然との一体感が無いのは、不自然です・・・」

 「だいたい、ありえませんよ。大自然に対する冒涜です」 日向

 「あ・・・また釣れたわ」 マヤ

 「でも、レイが喜んでいる表情って、可愛いですね」 青葉

 「ロリコン」

 「いや、そんなんじゃないよ」

 「ふん。ハルカと踊ってボゥーとしていたくせに」

 「あ、いや。あれは・・・・」

 「マヤちゃんも拗ねているところが・・・」 日向

 「何で、わたしが拗ねているんですか?」

 「あんた達! 使徒戦の最中なんだけど」 ミサト

 「「「す、すみません」」」  伊吹、日向、青葉

 「周りの釣り人は、釣れていないわね。ベテランはいないの?」 リツコ

 「二人は、釣りが趣味のようです・・・二人とも、2時間で、3匹釣っています」 青葉

 「・・・それが普通ね」

 「・・・良い身分ね。使徒と子供達は海釣り。私達は第一級警戒待機・・・」

 「まさか、このまま使徒と共生じゃないわよね」

 「ふっ 生きたサンプルは悪くないけどね」

 「悪趣味。マッドサイエンティスト」

 「なんとでも・・・」

 「あの・・・釣りのベテランの報告ですと、」

 「レイの釣った魚はハゼ、メゴチ、アイナメ、ウミタナゴ、メバル、フサカサゴ、カレイ、クロダイです」

 「半分は、仕掛け違いの魚で、釣れないそうです」 青葉

 「15cmのハゼ。20cmのメゴチ、ウミタナゴ。25cmのフサカサゴ、アイナメ」

 「30cmのメバル、カレイ。35cmのイシダイ」

 「だいたい、時期も生息している水深も、水域も、習性も、仕掛けも、違うのに・・・・」

 「ほかは、ともかく、メゴチ釣りの仕掛けで他の魚の5倍も暴れる上に」

 「犬歯を持っているイシダイは釣れないはず」 日向、困惑

 「他のメンバーは?」

 「自然との一体感とやらを感じているようです」 青葉

 「アスカがいたら、キレているわね」

イシダイ

   

 シンジ、レイ、マナ、カヲルは、海岸沿いの寿司屋に魚30匹を持ち込み。マナが、交渉。

 タダで寿司を食べさせてもらう。

 「はぁ〜 レイの一人勝ち」 マナ

 「楽しかった」

 「レイ・・・だいたい、どういう手品よ。竿に手を添えるだけで、3分もしないで魚がかかるなんて」

 「わからない」

 「やっぱり、黒魔術だわ・・・暗黒魔術師級よ」

 「綾波。また来ようか」

 「ええ」 喜ぶ

 「綾波の喜ぶ顔が見られるなら、毎日でも来たいよ」

 「ありがとう。碇君」

 「将来は、海沿いの家に住みたいね」

 「ええ」 ポッ

 「僕も」 ポッ

 「あんたが、何で、ポッとなるわけ。わたしも住むわ。海岸沿い」 ムッ。

 「・・・・・・・・・」 じーっ

 「何よ。レイ。生きている魚、シメて殺せなかったじゃない」

 「命令されないと生き物を殺せないのね。それに、わたしは、仕事よ」

 「・・・・・・」 

 「あっ 僕がシメて、捌くようにするよ」

 「・・・次は、出来るわ」

 「午後も、釣りに行く?」

 「行きたい」

 「行こう」

 「じゃ 夕食は、どこかのホテルにでも持って行って、ただ飯で、ただで泊めてもらおうかしら」

 「大丈夫かな」

 「たくさん魚が取れればね。わたしがホテルと交渉するわ」

 「無理でも、かなり割安になるはずよ」

 マナは、携帯で近くのホテルの空き部屋を調べる

 「それと仕掛けをもっと丈夫にした方が良いわね」

 「この竿と仕掛けでイシダイが釣れるなんて、普通じゃないもの」

  

  

 食後。

 レイがシンジの竿に触ると2分もすると魚がかかる。

 他の釣り人の驚愕を他所に4人は釣り続けた。

 そして、レイは、マナ、カヲル、シンジという具合に繰り返せば、いいだけだった。

 しばらくすると、大きなアイスボックスの中は魚で一杯になる。

 「こんなに簡単に釣れるとなんか、仕事に思えてくるね」 カヲル

 「それは、贅沢だよ。他の釣り客が睨んでいるよ」 シンジ

 「!? うぅああ〜!」

 カヲルが勢いよく引っ張られ、

 「カ、カヲル君!」

 堤防から冬の海に落ち、

 「・・・イシダイに引っ張られたわね」 マナ

 シンジが慌てて竿でカヲルを引っ張り上げ・・・

 カヲルは、簡易コンロで暖を取り。

 マナが笑い転げる。

 「大丈夫? カヲル君」

 「さむい・・・」

 マナは、また笑い転げる

 「そんなに笑うなよ。どこか、近くの旅館か、ホテルに行こうよ。このままだと風邪引くから」

 「くっ くっ くっ もうすぐ、近くのホテルからバンが来るから」

 「それに乗っていけば良いわ」 マナ。涙目

 「ホテル決まったの?」

 「アイスボックスの魚を携帯で撮って送って、交渉したから。ほら、あれ」 マナが指差す。

 ホテルの名前が書かれたバンが堤防に向かって走ってくる。

 シンジ、レイ、マナ、カヲルがバンに乗るとホテルに急行。

 カヲルは、そのまま、仲居に連れられて温泉に直行。

 「マナ。随分立派な部屋だね」

 「一泊、20万かな。シーズンから外れているから。安く上げられたけど」

 「アイスボックスの魚だけで足りないんじゃない」

 「空き部屋があったみたいね。30匹のうち、高級魚が13匹ぐらい釣れたでしょう」

 「財団の会合があるらしくて、それに出したいみたい」

 「高級魚は、こっちには回ってこないけど。タダで良いって」

 「そうなんだ・・・・じゃ カヲル君と温泉に入ってくるよ」

 「ええ〜 一緒に入りたいな」

 「だ、駄目だよ」

 「駄目なの?」

 「だ、だって、男女別々だよ」

 「そう」

  

  

 温泉に入るシンジとカヲル

 「今日は、楽しかったね。カヲル君」

 「そうだね。こんな楽しい日は、なかったな」

 「病気って、大変だったの?」

 「大変というより、惨めだった。体がだんだん動かなくなって死んだ方がマシだった」

 「庭に大きな岩があったから、そこを死に場所にしようと思って近付いたんだ」

 「大きな岩だったから、墓標なら永遠に残るかもしれないって思ってね」

 「家政婦に黙って、近付いて、もう死ぬんだと思いながら眼を閉じて待っていたら・・・」

 「気付いたら、こんな風になっていた・・・なかなか面白い経験だね」

 「じゃ こうやって、カヲル君と仲良くなれたのは、使徒のお陰なんだ・・・・」

 「・・・そういうことになるね」

  

  

 温泉、レイとマナ

 「レイって、良いスタイルしているわね」

 「そう」

 「胸は、わたしの方が大きいんだけどな」

 「そう・・・」

 「シンジ君。胸の大きな娘、好きじゃないのかな」

 「嫌いじゃない・・・・・・」

 「ねえ」

 「なに?」

 「渚カヲルをどう思う?」

 「第17使徒タブリス」

 「本部を襲ってくると思う?」

 「襲ってくる」

 「いつ?」

 「碇君が死んだら」

 「いつ死ぬのよ」

 「人間は、いつか死ぬわ」

 「じゃ 70年後・・・・いや、最大限、延命かけて、あと130年後」

 「駄目。初号機を動かせなければ負けるもの」

 「じゃ 戦わせるの? あの二人」

 「戦うかもしれない」

 「何とかできないの?」

 「無理」

 「じゃ コッソリと二号機で射殺」

 「彼。たぶん、強いわ。それに人間と同じ知恵を持っている」

 「堤防から落ちたのに、間抜けじゃない」

 「命にかかわりがあることじゃないもの」

 「ねえ、レイ。魚を釣るとき、どうやっているの?」

 「わからない」

 「何か感じるの?」

 「魚が近付いてくるような・・・何か?」

 「餌の方に魚を呼ぶだけ」

 「・・・・・・」 マナ。ひくっ ひくっ

 「なに?」

 「魔女・・・」

  

  

 瑞鳳の間 4LDKの部屋

 シンジ、レイ、マナ、カヲルが泊まる。

 紆余曲折を経て、シンジとカヲル。

 レイとマナの組み合わせで寝る部屋が決まる。

 部屋も一流で出された食事は、かなり贅沢なものだった。

 シーズンから外れていたとしても、結構な宿泊代になるはずで、

 NERVが保安上の理由で動いていると思われる。

 シンジ・レイとカヲル・マナは、エアホッケーで遊ぶ。

 組み合わせは、高度な応酬で周り客の目を惹く。

 カヲル、マナは、個々の実力で勝りゾーンを分担する。

 シンジ、レイは、柔軟なゾーンを定めず、連携プレーの奇跡だった。

 いつの間にか、観戦者が増え、人だかりになっていく。

 その後、4人は、喫茶店で、くつろぐ、

 「シンジ君。あしたは、どうするの?」

 「魚を釣ってから帰ろうよ」

 「でも学校には、間に合わないわね」

 「シンジ君。午後は、動物園に行かないかい?」

 「そうだね。動物園か・・・・行くよ」

  

  

 発令所

 「海岸沿いでパワードスーツを着たゼーレの工作員三人を捕獲したけど」

 「渚カヲルがゼーレ工作員の妨害したのは事実なの?」

 「渚カヲルが海に落ちた時間と状況から関わっていると思われます」

 「放って置けば海中からシンジ君とレイを狙撃されていたかも知れません」

 「状況から渚カヲル君がやったのでしょう」

 「じゃ 渚カヲルがシンジ君を守っているということ」

 「その気になれば、自分でやれるから邪魔して欲しくないということかしら」

 「いえ、第17使徒にとって、ゼーレも敵」

 リツコが発令所に入って来る。

 「訓練は、順調?」

 「訓練・・・か・・・今日は登校日よ」

 「じゃ シンジ君たちは、駿河湾のホテルに泊まったまま?」

 「いえ、朝食を食べてから、魚を釣って、家に戻って」

 「今日は、動物園に行ったわ。冬休みには、早過ぎるんだけどね」

 「そう・・・・人間生活をエンジョイ中か」

 「この状態がいつまで続くのかしら。蛇の生殺し、欲求不満、戦意低下。いっそのこと・・・・」

 「いっそのこと攻撃?」

 「この状態を一番、面白く思っていないのは、ゼーレなのに?」

 「どういう事?」

 「老人達は、時間がないの」

 「ゼーレも、エヴァの訓練中かもしれないけど。訓練が終われば攻撃してくる」

 「キャスティングボートを取れると思っている老人達は、戦いもせず」

 「のんびり遊んでいる渚カヲルに予定を狂わされている」

 「逆に渚カヲルにキャスティングボードを取られる事になる」

 「なるほど、最後の使徒。渚カヲルは、それを狙っているわけね」

 「ゼーレが渋れを切らして攻撃してきたときも高みの見物」

 「適当な時期を狙って参戦して、楽勝でリリスの元にいけるわけね」

 「最大のチャンスを見送り、シンジ君とのんびり温泉に入り」

 「くつろいでいるのを合理的に解釈すればそうなるわね」

 「仮に先に渚カヲルがサードインパクトを起こし」

 「ゼーレとエヴァ12体が自前のATフィールドで残る可能性もある」

 「そうなれば、不完全な群れとなった第17使徒タブリス系人類は、打つ手なし」

 「なるほどね。先にゼーレに会いに行ったのも、そういうこと?」

 「使徒が人間の知恵を手に入れると違うわね」

 「手に入れたのは知恵だけじゃないわ」

 「心と正義感もね。渚カヲルは、シンジ君と戦うことに躊躇するはずよ」

 「それは、シンジ君も同じよ・・・厄介な存在ね」

 「雌雄を決するのが、いつになるかわからないけど・・・」

 「いえ、ゼーレのエヴァがきた時。山場になるわね」

 「ゼーレに動き。は?」

 「嵐の前の静けさというところね」

 「嵐の前か・・・」

  

  

 学校

 アスカ、ヒカリ、タダシ、チアキ、ケンスケ

 「ねむ〜」

 ケンスケがチアキのゲンコツで殴られる

 「いてぇ」

 「あんた。やる気あんの」

 「はあ〜 冬休みだというのにシンジは良いよな。綾波に優しく教えてもらえて」

 ケンスケ、また殴られる。

 「不運だと思って諦めてもらいましょうか」

 「これ、なんだっけ?」

 「・・・このバカ! さっき教えたばかりじゃない。小学校からやり直せ!」

 「だって、訓練やら勉強やら、これまでの不健全な生活が狂って」

 「だいたい、シンジと逆に動くのって、どうもな」

 「いいから、さっさと勉強しなさい!」

 「あんたに合わせて高校行かないといけないなんて、冗談じゃないわよ」

 「わたしの人生を破壊するつもり!」

 「きっと小指と小指が赤い糸で・・・・」

 ドカッ〜!

 「ぐっふぉ!」

 「このスカタン!!」

  

  

 赤木邸

 リツコとハルカは、豪邸でナポリタンを食べていた。

 「ハルカ。学校に行きたい?」

 「それ、中学校?」

 「そうよ。年齢相応に楽しんだら?」

 「もう一度やり直しか・・・」

 「リセットは辛い?」

 「大人がもう一度、中学生なんて・・・」

 「可能性が広がるわ」

 「ふっ それも悪くないけど。時期が悪いわね」

 「もうすぐ、ゼーレが攻めてくる。私を見たらすぐに気付くわ」

 「気付いても、それを信じるかは、別の話しよ」

 「なるほど、撹乱するなら面白いけど。そうね、青春するのも悪くないか」

 「仕事は、ある程度、軌道に乗ってきたから時間の問題」

 「こっちは、構わないけど」

 「もっとも、忙しい時は、休んでもらうことにはなるけどね」

 「気を使ってもらって、悪いわね」

 「リツコちゃんが、こんな良い子に育ってくれるなんて・・・」 ハルカ泣き

 「世間体があるのよ。世間体が・・・」

 「NERVも、日本国内になって労働基準監督署も、教育委員会も煩わしいし」

 「事情を知らない人間の方が圧倒的に多いから。いちいち圧力をかけても切りがないもの」

 「そう、じゃ 行かせて貰うわ、学校。リツコちゃんが保護者になるの?」

 「そうね。ハルカ。楽しんで良いのよ。あなた自身の人生なんだから」

 「例えキョウコの記憶があっても、あなた自身の記憶じゃない」

 「もし死ぬようなことにでもなったら、あなた自身が、あまりにも不憫すぎる」

 「朝霧ハルカ自身の人生があっても、いいでしょう」

 「そのつもりよ。キョウコの記憶は、十分に使わせてもらうけど」

 「じゃ 冬休みが明けてから学校にしましょう」

 「ありがとう。リツコちゃん」

 「キョウコは、セカンドインパクトで大変だった時期でも、クローンのわたしを守ってくれた」

 「許容できる範囲で礼をさせて」

 「そう、いつ気付いたの?」

 「お母さんの遺品を整理していた時」

 「リツコちゃん。かわいかったもの。あの頃は・・・」

 「・・・失望させた」

 「くすっ 面影は残っているもの」

 「きっと、お母さんも、誇りに思っていると思うわ。わたしもね・・・」

 「・・・・」 リツコ

  

  

 飛行場

 アスカとヒカリは、アルファから降りる

 「アスカ。明日の訓練のスケジュールが立てられないのは、辛いわね」

 「そうね」

 「碇君。大丈夫かしら?」

 「今頃、使徒と一緒に冬休みを楽しんでい・・!?」

 「・・・・」 ヒカリ

 「ヒカリ! そのまま、まっすぐに発令所に戻って!」

 「・・・え」

 アスカは、飛行場の影から姿を現した灰髪紅眼の少年を見詰めていた。

 ヒカリは、ショックのあまり、身動きが取れない。

 アスカがヒカリに背中を押すと、ようやくヒカリが歩き出すことができた。

 飛行場の影から現れた少年は、ゆっくりと近付いてくる。

 アスカとヒカリは、蛇に睨まれたカエルだった。

 少年は、ジオフロントの飛行場に忽然と姿を現し、

 要塞都市の防衛線が全て突破されたことを証明された。

 「やあ、君達」 カヲル、にこやか。

 「・・・・・」 アスカ

 「アスカ」

 ヒカリがアスカのそばに来る

 「な、何か用?」

 「いやね、碇君の友達にも挨拶しておこうと思ってね」

 「なかなか会えなかったから、こっちから出向いてきたよ」

 「別に友達じゃないわよ。あんなやつ」

 アスカ、ムッとする

 「本当かい。碇君は、君の事を心配していたよ」

 「余計なお世話よ!」

 「・・・・は、初めまして、洞木ヒカリです」

 ヒカリがペコリと頭を下げる。

 「僕は、渚カヲル。洞木君は、なかなか良いね。お嫁さんにすると安心できるタイプだね」

 「お、およめさん」 ヒカリ。ぼぅ〜。

 「ヒカリ!」

 「えっ! あ、いえ。あの、あの。よろしくお願いします」

 ヒカリがペコリ頭を下げる

 「クスッ! それは、返事と受け取って良いのかな? 洞木君」

 「あ・・・」

 ヒカリ、ドキッ。

 「ヒカリ。あんたね〜」

 「だ、だって〜 そ、そんな風に言われたことないし・・・わたし」 ヒカリ、真っ赤

 「ねえ、他の3人にも会いたいけど。案内してくれないかな」

 「・・・こっちよ」

 「だ、大丈夫なの? アスカ」

 「勝手に動き回られるよりましよ」

 「ありがとう。惣流君。君はとても聡明で綺麗だね」

 「ふん!」

 「あのう・・・渚君」

 「なにかな、洞木君」

 「渚君は、使徒なんですか?」

 「そうだよ」 カヲル。ニコ。

 「・・・・・・」 ヒカリ

 「・・・・・・」 アスカ

 カヲルは、第9の鼻歌を歌いながらアスカについていく。

  

 飛行場の周りの職員が一定の距離を保ちながら人数が増加していく。

 「あのう・・・碇君と一緒じゃないんですか?」

 「シンジ君と綾波レイに当てられてね」

 「少し涼みがてら散歩でもしようと思って」

 「あの二人、仲がいいから」

 「そうなんだ。シンジ君。どうして、綾波レイと仲が良いんだろう。どこが良いのかな?」

 「綾波さん。綺麗だから」

 「そうかな? 洞木君の方が魅力的だと思うよ」

 「そ、そんなこと・・・・」 ヒカリ。ポッ

 「渚! あんた。いい加減にしなさい」

 「恋愛は自由さ。ね、洞木君は、そう思わないかい?」

 カヲルは、それとなく、手をヒカリの肩に回す。

 「え、で、でも・・・」 ヒカリ。モジモジ

 「ヒカリ、気を付けないと、こいつにボロキレのように捨てられるわよ」

 「ほ、洞木君。僕は、君に苦労をかけたりしないよ〜」

 「・・・・」 ヒカリ、真っ赤

 「あんた。人見知りするタイプじゃなかったの?」

 「碇君の友達は、僕の友達さ」

  

  

 発令所

 突然の渚カヲルの出現に騒然となる。

 「ハルカ。大丈夫」

 一人、二号機のエントリープラグに入っているハルカ。

 『何とかなったら、奇跡だわ』

 「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」 敗北感

 ハルカ単独出撃は、問題外の戦局でシミュレーションすら行われていない。

 「ゼーレに動きは?」 ミサト

 「今のところありません」 青葉

 「警報を切って。誤報よ。いま、ゼーレに動かれたくない」  リツコ

 「・・・・・・」 ミサト

 「・・・・・・」 リツコ

 「どうする? リツコ」

 「あんたの領分でしょう」

 「監視カメラによる自動追尾」

 「それと、ハルカを2号機で待機。シンジ君とレイを呼び戻して」

 「戦争を始めるの?」

 「シンジ君の友達に会いに来ただけかもしれないのに?」

 「ケンスケ君、タダシ君、チアキの3人を第6ラウンジへ移動させて」

 「会わせるの?」

 「現状は最悪よ。アスカは、人質みたいなものだし、シンジ君とレイは、どんなに急いでも30分」

 「ハルカ一人だと使徒戦に耐えられないわ」

 「いま彼が、その気になれば30秒で、セントラルドグマに到達よ」

 「いま戦えば、絶対に負ける」 ミサト、真っ青

 「子供達を利用して時間稼ぎ?」

 「そうよ!」

 「・・・・・・」 リツコ

 「渚カヲルは、なんで、ATフィールドを発生させないわけ」

 「だいたい。どうやってジオフロントに入ってきたのよ。マヤ。パターンは?」

 「パターン白・・・人間です」

 「んんん。むかつくわね。保安部は、たるんでいるんじゃないの」

 「警戒システムは、何やっていたの?」

 「・・・・・・・」 青葉

 「第一級警戒態勢でした。シンジ君、レイとスーパーにいたはずが突然消えています」

 「瞬間移動した可能性があります」 日向

 「瞬間移動って。地下のリリスのところに転移したら終わりじゃないの」

 「ATフィールド粒子を基地全域に展開できれば、瞬間移動なんて出来なくなると思うけど」

 「そんなこと出来るエヴァは、初号機だけね」 リツコ

 「弄んでくれるじゃないの。むかつく」

 「でも、渚君のお気に入りは、洞木ヒカリか・・・」

 「意外と手堅いのね・・・クスッ・・・アスカは、思いっきりプライドが傷付くんじゃない」

 「美人って、損なのよね妥協すると変に思われるし」

 「笑い事。冗談じゃないわよ。使徒と恋愛なんて、お姉さんは許しません」

 「でも、学園人気番付トップでしょう。渚君」

 「ヒカリは、喜んでなさそうだけど」

 「初めての経験で動揺しているみたいだけど。自分と合わないと思っているみたいね」

 「でも、可愛いわね。耳まで赤くなって」

 「もぉおお!!」

 「なんて、調子が狂うのかしら。第3使徒から第16使徒まで、ムカつくことはあったけど」

 「ここまで馬鹿にされたことはなかったわよ・・・どうやって殲滅してくれようかしら」

 「こうなったら、ヒカリをカヲル君の慰み者に・・・・」

 「あんた。外道?」

 「ふっ どんな子供が生まれるかしら?」

 リツコの表情と言葉に、

 「「「「・・・・」」」」

 周辺のスタッフが退いて行く

  

  

 二号機

 エントリープラグで一人、待機状態のハルカ。

  

  

 NERV

 ラウンジ

 ケンスケ、タダシ、チアキは、コーヒーを飲んでいた。

 チアキはハリセンを持っており、

 ケンスケは、必死にノートを写していた。

 タダシは、サンドイッチを頬張りながら見物している。

 そこに、アスカ、ヒカリ、カヲルがテーブルに着いてしまう。

 ケンスケ、タダシ、チアキは、顔色が変わり・・・

 「紹介するわ。使徒の渚カヲルよ」

 アスカは、憮然とし、

 ケンスケ、タダシ、チアキは真っ青になった。

 ヒカリは、カヲルに手を肩に乗せられて真っ赤で

 「やあ、君達」

 「僕は、使徒の渚カヲル。よろしく」

 カヲルが微笑む。

  

  

 発令所

 喧騒の中、NERVスタッフは、シンジとレイの緊急送迎で懸命になっていた。

 ラウンジの様子が3Dで映っていた。

 「・・・接触したわね」

 「リツコ。地下でなく、上に向かってるなんて、どういうこと?」

 「大人しくしているのは、まだ、その気がないのかも」

 「その気になれば、いつでも、という事でしょうね」

 「完全に主導権を握られているのが気に入らないわね・・・」

 「日向君。シンジ君とレイは?」

 「急行中。あと10分でエヴァに乗り組むことができます」

 「またもや、本部決戦か」

 「そうならないことを祈るわ」

 「なにをいまさら。決着をつけるわ」

  

  

 ラウンジ

 カヲル、アスカ、ヒカリ、チアキ、ケンスケ、タダシがテーブルを囲む

 「・・・勉強しているのかい? 相田君」

 「う、うん」

 カヲルが目も前にある小テストの切れ端を見る。

 「懐かしいね。むかし詰め込まれていたから、けっこう覚えているよ・・・」

 「俳句を俳諧の発句としてではなく独立した短詩型文学と考え」

 「1897年にホトトギスを創刊した人物は・・・正岡子規だね」

 カヲルは、空白で残されている空欄を答える。

 「うぅ 文学に詳しい使徒って、いったい」 チアキ

 「むかし、詰め込まれていたって?」 ケンスケ

 「11歳までかな。英才教育だね」

 「11歳・・・お、おれは、そこまで劣っているのか〜」

 「ねぇ 渚君は、どうして、ヒカリの肩に手を乗せているのかな〜」 チアキ、興味津々

 「ダメなのかい。洞木君?」 カヲル寂しげ

 「だ、ダメじゃないけど・・・」

 「ズルズル・・・カモね。ヒカリ」

 「だって・・・」

 「洞木君は、良い仲間がいるんだね」

 「うん」

 「そう 使徒は、仲間がいない。勝ち残った使徒だけが自分の新世界を創ることができる」

 「・・・・・」 一同

 「魅力的な世界を創る事ができるだろうか」

 「強靭で強く。美しく、やさしく、安心できる世界を創れるだろうか」

 「相反する結果を同時に求めるのは無理よ」 アスカが答える

 「ふふふ、その通り。やはり、惣流君は聡明だね」

 「相反する世界を同時に求めようとすると矛盾してしまう」

 「だから、どうしても、世界は混沌としてしまうのさ」

 「あんた。どうしたいわけ?」

 「決まっているじゃないか・・・・クスッ」

 カヲルは、次の瞬間消えていた。

  

  

 発令所

 「・・・シンジ君」

 『なんですか? ミサトさん』

 シンジとレイは、エントリープラグ内でぼんやりしていた。

 「カヲル君が消えたんだけど」

 『どこに行ったんですか?』

 「シンジ君の部屋よ」

 『カギは閉めてますよ』

 「瞬間移動よ・・・・あまりにも速くて、ATフィールドすら確認できないわ」

 『そうですか』

 「彼と戦える?」

 『イヤです!』

 「いずれ戦うことになるわ。早いか遅いかよ」

 『イヤです!』

 「そう。じゃ 久しぶりにシンクロテストに移行するわ」

 『はい』

  

  

 発令所

 「こうなると思っていたわ」 ミサトが嘆く。

 「そうね。シンジ君は、カヲル君と戦えないでしょうね」

 「もし、このまま、シンジ君を返さなければ」

 「迎えに来るでしょうね」

 「彼がサードインパクトを起こそうとしないのは、シンジ君と仲が良いからよ」

 「んんん。使徒が人間を選ぶとろくな事がないわね」

 「手足をもぎ取られたような気分だわ」

 「4人に何か、影響を受けているという事はない?」

 「・・・調査中だけど、親近感ができた程度ね。特殊な影響は受けていない」

 「その親近感が問題なのよ」

 「勝ち負けに関わらず。子供には深刻なダメージになるわ」

 「会わせたのは、あなたよ」

 「彼は、既に勝っている状況だったでしょう」

 「食い止めようがなかったもの。時間稼ぎがしたかったのよ」

 「シンジ君を人質に取られただけ」

 「路上の賭け屋みたいな手に引っ掛かって、心理戦でボロボロね」

 「うぅぅ 人間って使徒より強敵だったのね」

 「あ・・・・マヤ。シンジ君は、何か操作されていない?」

 「いまさらだけど・・・」 ミサト。どんより

 「暗示、細胞、DNA、ATフィールドとも、特殊な影響は、ないようです」

 「ふっ よくよく考えると、使徒と生身で接触した人間を調査もしないで、エヴァに乗せるって」

 「一歩間違えれば、終わりね」

 「間抜けだわ」

 「あぁぁ〜」

 ミサト。ムンク状態。自己嫌悪

  

 

 ハルカが発令所に戻ってくる

 「渚君。帰っちゃったんだ」

 「ああ〜ん。ハルカ。あんただけが頼りよ」

 ミサト泣き。ハルカに抱きつく

 「どうして?」

 「あの使徒人間がハルカのこと知らないからよ」

 「へえ、そう」

 「ハルカ。この状況を打破する方法は、ないかしら」

 「実力なら、負けてないと思うけど」

 「根拠は、その自信の根拠。ジオフロントに入り込まれているのよ」

 「セントラルドグマまで、あと一歩だったのよ」

 「頭で負けているのね」

 「うぅぅ そうよ。うっかり、使徒と接触した人間を検査もせず、エヴァに乗せてしまうし」

 「ねえ、ミサトさん。初号機って生きているように見えない」

 「えっ!」

 「もし、他の使徒がリリスと融合すれば、第1使徒アダムも負けてしまう」

 「・・・・・・・・」 ミサト

 「初号機は、動けないのじゃなくて、動かないだけよ」

 「えっ そんな。でも、ATフィールド抜きでS2機関を全開にすると虚数空間に落ち込むんじゃ」

 「そうよ。渚君だって困るでしょ サードインパクトを虚数空間で起こすなんて」

 「うそ」

 「ハルカ。どうして、初号機が、その選択を選ぶの?」 リツコ

 「渚君が言ってたでしょう」

 「勝ち残るって。初号機は、勝ちが無くても残ることを選択するかもしれないでしょう」

 「・・・・・」 一同

 「ひょっとして、リリスも虚数空間に落とせば、問題は解決するんじゃない」 ミサトがひらめく

 「絶対位相圏を形成しているリリスを虚数空間に落とすことなんて出来ないわ」

 「前に話したはずよ」 リツコが呆れる

 「たぶん。リリスの周りだけを虚数空間にすることになるわ、第二支部のようにね」

 「サードインパクトの破壊と創世が虚数空間で行われる」

 ハルカの言葉を想像したのか周りが絶句する。

 「じゃ 下手をしたら、わたし達。本部ごと虚数空間だったの」

 「しかも、そこでサードインパクト」

 「使徒が逐次投入で共同作戦を取らないのは、それでしょうね」

 「・・・・」 一同

 「初号機が頼りになるのは、それだったのね」 ミサト

 「S2機関を取り込んだのは、第14使徒のあと」

 「それ以前だったら無理だったでしょうけど」

 「初号機と4号機が自殺覚悟で行動を起こせば、渚君も困るでしょう」 ハルカ

 「いままで、紙一重で勝っていたのね」

 「それって、ゼーレ対策でも使えない?」 ミサト

 「んん。使徒とリリスの場合。種子とATフィールドなんだけど」

 「ゼーレとリリスの場合、アンチATフィールドなのよね」

 「時間が逆行する虚数空間との関係で不確定要素が多過ぎて」

 「マヤ、計算してみる?」 ハルカ

 「む、無理です!」

 「じゃ お願いね。マヤ」

 ハルカは、発令所を去っていく

 「えっ えっ そんな。ちょっとハルカ」

 マヤがハルカを追いかけようとすると、リツコが目の前にいる

 「お願いね。マヤ」

 リツコがそういうと去っていく

 「あ・・・・・」 マヤ、崩れる

  

 

 

 

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

     

第45話 『折衝』
第46話 『自由意志』
第47話 『ダブルデート+1』
登場人物