月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

第47話 『ダブルデート+1』

 綾波ビル403号室

 シンジとレイが部屋に戻るとカヲルが待っていた。

 「やあ。遅かったね。シンジ君」

 「おかげさまで・・・」 疲れ

 「二人っきりで楽しんでもらおうと。少し気を使ったんだよ」 ほがらか。

 「ありがとう。気を使ってもらって」

 「食事を作ったんだ」

 「カヲル君が?」

 テーブルにご飯と味噌汁。コロッケが並べられていた。

 「カヲル君が作ったの?」

 「見よう見まねでね。さあ、食べよう。味は保障できないけどね」

 「うん」

 3人で食べる食事。

 コロッケの味は、普通だった。

 レイは、なぜかムッとしている。

 「いま一つだったね」

 「そ、そんなことないよ。丁寧に作っていると思うよ」

 「本当かい。初めて作ったんだ。綾波レイが作っているのを見ていたからね」

 「初めてで、こんなに作れるなんて凄いよ。慣れたらもっと上手くなると思うよ」

 「でも、実際に作ってみると違うね」

 「よくあることだよ」

 「今日は、シンジ君の友達に会ってきたよ」

 「そう」

 「いいね。仲間思いで。洞木君が気にいったよ」

 「ほ・・・洞木さん?」

 「変かい? シンジ君」

 「い、いや、変じゃないけど」

 「ダメなのかい?」

 「だ、ダメじゃないけど」

 「じゃ デートに誘おうかな。次の日曜日に4人で遊びに行かないかい」

 「ぼ、僕は、いいけど」

 「じゃ・・・」

 カヲルは携帯電話を取り出して、電話をかける。

 シンジは、使徒が電話している光景をぼんやりと見ていた。

 「・・・洞木君。僕だよ。使徒の渚カヲル」

 「次の日曜日に4人で遊びに行かないかい?」

 「いやなのかい?」

 「本当! よかった・・・そうだね・・・・・釣りは?」

 レイの表情が和む

 「そう。じゃ 洞木君。まっているよ」

 カヲルは、携帯を切る

 「シンジ君。釣りで、いいかい?」

 「い、いいけど」

 「いいわ」 即答

  

  

 発令所

 引き攣るミサト。

 「“洞木君。僕だよ。使徒の渚カヲル。次の日曜日に4人で遊びに行かないかい”」

 「・・・ふ、ふふ、ふふふ・・・」 ミサトが壊れかける

 「良いわね。こっちは、缶詰状態で疲労しているのに・・・デートか・・・・」

 「冗談じゃないわよ!」

 「こんなこと続けられたらたまらないわよ。リツコ! 何とかしなさいよ!」

 「なんとかって?」

 「殲滅! 無力化できないの?」

 「あの使徒を!」

 「どうしたものかしら〜 このままだと、ミサトの婚期が延びるわね」

 「あ、あんたも、ね!!!」

 「話し合ってみたら。あの使徒。言葉が分かるみたいだし」

 「使徒がリリスに向かうのは本能でしょうが!」

 「そうなのよね。ただたんに急いでいないだけだし」

 「もおぉぉお〜!!!」

 ミサトが頭を掻き毟る

  

  

 日曜日、駅に向かう4人組

 「渚! 何で、4人なのよ。わたしを無視するなんて、いい度胸ね」 怒るマナ

 「ダブルデートだから」

 「わたしは、シンジ君をオカマから守る義務があるの!」

 「シンジ君は、僕が守って、あげるよ」

 「だから危ないのよ。この変態!」

 シンジ、レイ、カヲル、マナが駅に来るとヒカリが待っている。

 「・・・洞木君。来てくれたんだね」

 「え、ええ」

 ヒカリが、ペコリとお辞儀。

 こういう反応は、レイ、アスカ、マナにはない。

 「嬉しいよ。洞木君」

 「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」

  

  

 前回の駿河湾で、今回は、相模湾の堤防。

 シンジ、レイ、カヲル、ヒカリ、マナ。

 小雪が降る堤防は、寒く物悲しい。

 レイが竿に触れると魚種を問わず数分で魚が釣れ、釣りの醍醐味を冒涜する。

 カヲルは使徒と分かっていても見掛けは人間だった。

 カヲルとヒカリは、なんとなく、良い関係になってしまい。

 ヒカリはマナに話しかけた。

 「どうして、マナじゃなくて、私なのよ」

 「あら、良かったわね。渚に気に入られて」

 「わたし、ああいうタイプは、苦手なのに・・・」

 「でしょうね・・・・わたしの場合、虫唾が走るわ」

 「マナの方が可愛いのに・・・はあ〜」

 「渚のやつ、あれで、学園人気番付のNO.1だから」

 「学校に行ったら、ヒカリ。四面楚歌よ・・ふっ」

 「そ、そんな〜」 ガックリ。

 「洞木君。楽しんでいるかい」

 「え、ええ、楽しい。こんなに釣りが簡単だなんて、信じられないけど・・・」 引き攣る

 「綾波レイの特技なんだ」

 「なにか、フルネームに敵意のある。響きがするけど」

 「かなり、苦手でね」

 「意外。似ているような気がするけど」

 「そう。似ているから、反発するのさ。磁石と同じだよ」

 「そう」

 『疲れるでしょう。こいつと話すの』 マナ。ボソボソ

 『うん』

 『鈴原と、かなり違うわね』 ボソボソ

 ヒカリが頷く

 「・・・という事で、僕と洞木君は、ピッタリと合うのさ」

 カヲルがヒカリの肩に手を乗せる

 「・・・・・・・」 引き攣る。

 『ヒカリ。あんた、覚悟して来ているんでしょうね』 マナ。ボソボソ

 『覚悟?』

 『どこまでいくのかな〜』 ボソボソ

 『そ、そんな〜』 泣き

 「邪魔したら悪いから、向こうに行くね」 去っていく

 「霧島さん〜」 泣き

 「洞木君。やっと二人きりになれたね」

 「え、そ、そうね」

 ヒカリは、孤立無援、生身一つで使徒、渚カヲルと立ち向かう。

 時折、レイが竿に触れて行くだけで、二人っきり。

 「洞木君と一緒に勉強したいな」

 「そ、そうね」

 ヒカリは、だんだん、わけのわからない暗い深みに落ちていく感覚に囚われていく。

  

  

 登校日の学校

 昼食、シンジ、レイ、マナが一つのグループを作り。

 すぐそばにカヲルとヒカリが向かい合わせ。

 ヒカリは委員長としての資質は、認められていた。

 しかし、カヲルの彼女だと、極めて凡庸すぎた。

 女子の視線は、

 “わたしの方が美人よ”

 “わたしの方がスタイルが良いのに”

 “胸は、わたしの方が大きいわ”

 “カヲル君は、わたしのものよ”

 “カヲル君が、かわいそう”

 “わたしの方がカヲル君にふさわしいのに”

 “カヲル君。委員長に騙されているのよ”

 “委員長の権限を使って卑怯者”だった。

 ヒカリは、突き刺さる視線にさらされ、引き攣る笑顔をカヲルに見せる。

 その心境は “誰か代わってよ” だった。

 「ねえ、洞木君。今度は、どこに行こうか?」

 カヲルは、マナの作った義理弁当を食べていた。

 「こ、今度」

 ぶすぶす と突き刺さる殺意に似た視線。

 「どこか行きたい所はある?」

 集まる視線にヒカリの目が泳ぐ

 「と、特にないかな」

 突き刺さる視線が少し和らぐ。

 「じゃ 付き合ってくれないかい?」

 「ど、どこに?」

 さらに視線が突き刺さる

 「ラブホテル」

 ガタッ! ガタッ! ガタッ! ガタッ!

 教室の女子が一斉に立ち上がる

 「えっ! だ、駄目。駄目よ。わたし駄目!」

 思いっきり首を振り。

 周りは、唖然。

 「うそ。洋服を買いに行きたいのさ」

 ホッ とする空気にヒカリも “洋服ならいいけど” だった。

 「へえ〜 使徒が冗談を言うんだ」

 近くにいたマナが面白がる。

 「ほとんど、人間だよ」

 「でも面白いわね。他の使徒もそうだったのかしら」

 「考えたくない」

 「碇君は、悪くない。使徒は、敵だもの」

 「でも、ラブホテルって、オカマじゃないのかな?」 マナが面白がる

 「敵・・・」 レイが、ポツリと呟く。

  

 

 

    

  

 発令所

 学校の様子が3D映像で流れていた。

 「実に楽しそうな青春のひとコマね」

 「そうね、でもヒカリには刺激が強過ぎるわね」

 「リツコの希望通り。人身御供決定で嬉しいくせに」

 「もちろんよ」

 「でもヒカリは、女友達が減ったわね」

 「凡庸で真面目なタイプの女子委員長が、ひねた二枚目の男子転校生に好かれ」

 「学園生活と友人関係を狂わされていく・・・シュールだわ」

 「少女コミックの世界ね」

 「人との出会いで、人は変わっていくものよ」

 「良い出会いは、良い結果。悪い出会いは、悪い結果」

 「じゃ 悲しい出会いになったわね」

 「カヲル君が何を考えているのかわからないけど。いずれ雌雄を決する事になるもの」

 「まだ会いに行かないの? 彼に」

 「私が行くわけ〜 リツコの得意科目でしょう」

 「なんか、苦手なのよね」

 「得意な人間がいるわけないでしょう。使徒なんだから」

 「まあ、秋津司令の命令待ちか。悩んでいるみたいだけど」

 「そういえば、学園物の恋愛小説が箱に入れられて送られてきてた、みたいだけど」

 「若者の心理状態を知りたいんでしょう」

 「ただ撃ち合えばいい相手じゃないものね」

 「そういえば、リツコ。洞木一族が話しをしたいって来てたけど」

 「さして美人でもない娘を使徒が好いてくるのはおかしい」

 「NERVの意図があるんじゃないか、と怒っているわね・・・」

 「ゲヒルン時代からの重鎮だから怒らせちゃ駄目よ。冬月副司令に任せるしかないわ」

 「心配よね。相手は、使徒だから」

 「戦うのは、前提で決められていたことだけど」

 「付き合うのは、約束されていなかったものね・・・」

 「孕まされでもしたら、洒落にならないか・・・」

 「笑い事じゃないわよ。一族に使徒の血が流れ込むなんて」

 「是非、貢献してもらいたいわね」 ニヤリ。

 「リツコ。あんたの方が余程シュールよ」

 「ふふふ」

 「はぁ ねえ、リツコ。加持君は、誰を連れて来たの?」

 「秘密よ」

 「あんた。この期に及んで、わたしに隠し事するつもり」

 「そういう仕事だから」

 「リツコ。あんたね」

 「・・・・・」

  

  

 昼食後、シンジ、レイ、カヲル、ヒカリ、マナの五人組はバスケを楽しむ。

 相手は、受験を控えて忙しいはずのバスケ部上級生で下級生の不甲斐なさに出てきた。

 しかし、超高校レベルのカヲル、マナ、レイ、シンジは、上級生を圧倒し、

 訓練で平均値以上に動けるヒカリの5人組のプレーは、縦横無尽だった。

 コートの周りが黄色い声援と歓声で溢れかえる。

 「少したるんじゃったかな。最近、訓練に出ていないから」

 シンジが少しばかり落ち込む

 「碇君。わたしが鍛えてあげる」

 「洞木君、思ったより動けるね」

 カヲル、ニコニコ。

 「はぁ はぁ 全然、はぁ はぁ 駄目 はぁ はぁ 足手まとい」

 「そうかい。上級生の男子と良い勝負じゃないか」

 「はぁ〜 渚君達が凄過ぎて、はぁ〜 とても、そう思えないけど」

 「洞木君と学校にいるのは楽しいな」

 カヲルがヒカリの肩に手を乗せると観客から怒声が上がる。

 ヒカリが慌てて離れる。

 「どうしたんだい? 洞木君」

 「わ、わたし・・・汗かいたから」

 ヒカリが去っていく

 「僕は、嫌われたかな。シンジ君」

 カヲル寂しげ

 「そ、そんなことないと思うけど」

 「渚。あんたと付き合いたい女の子は、たくさんいるんだから、ほかを選んだら」

 「・・・洞木君が良いな」 ポツリ

  

  

 水飲み場で顔を洗うヒカリ

 なぜか女の子4人に囲まれる。

 「な、なに?」

 「あんた。渚君と付き合っているの?」

 「そういうわけじゃないけど」

 「どこが良いのかしら?」

 「本当に」 認める。

 「あんた。渚君を騙しているんじゃないの」

 「だ、騙していない」 泣き

 「信じられないわ。ちょっと渚君に声をかけられていい気になっているのよ」

 「・・・・・・・」 脱力

 「ちょっと何とかいいなさいよ。あんたなんかが渚君と釣り合う訳ないじゃない」

 「そうよ。辞退しなさいよ」

 「そうよ。鏡、見てみなさいよ。寸胴の癖に」

 『・・・ぶん殴ってやろうかしら、この4人なら勝てそうだけど』 怒

 「渚君はね。あんたに騙されてイヤイヤ付き合っているのよ・・・」

 その瞬間、4人がフッと倒れこむ。

 ヒカリが周りを見渡すと遠巻きに数人の生徒がいただけだった。

 『これが噂に聞く。瞬間催眠針』

 ヒカリは、やり場のない怒りで、4人に鼻ピンをした後、教室に戻る

  

  

 日曜日

 クリスマス商戦たけなわのデパート

 シンジ、レイ、マナ、カヲル、ヒカリ。

 クリスマスも近く、カップルが多い。

 クリスマスソングが流れて、なんとなく楽しい気分になる。

 ここで問題は、カヲルが、くっ付いているヒカリだった。

 デパートの洋服店売り場

 最新の計測ビームで選んだ服を電子的に処理し、

 写真を撮る事ができ、背景も自由に変えられる。

 そのため、服を買うより、

 コスチュームを楽しむ若者達がデパートに集まり賑わう。

 そして、5人組は、目立った。

 カヲルとレイは、彫刻のような完全性があって、

 マナは、かわいい。

 そして、シンジとヒカリが一番庶民的で、

 シンジと歩いているのはレイで、

 カヲルと歩いているのがヒカリだった。

 そして、余っているのは、可愛いマナ。

 『何で、あの娘と?』

 という視線がヒカリにグサグサと刺さる。

 「ねえ、これ、面白い服だね」

 カヲルは、チャイナ服をヒカリに合わせようとした。

 ヒカリは、体の線がハッキリ出るチャイナ服に真っ青になる。

 「わたし、それ・・・似合わないから」 しり込みする

 「そうかい。面白いと思うけど」

 「・・・・・・・・」 首を振る

 「それ、似合うのは、くびれのハッキリしている。わたしか、レイね。一番は、アスカか・・・」

 マナも同情気味に呟く。

 シンジとレイは、いろんな服で写真を撮っては、面白がっていた。

 レイも、マナも、どんな服を着ても似合う女の子だったが、ヒカリは違う。

 『どうせ寸胴よ。そばかす顔で美人じゃないし』 いじける

 周りの女の子から怪訝そうに見詰められるヒカリは、いたたまれない。

 カヲルは、憧れの対象として女の子の視線を集め、

 ヒカリは、その隣の雑草のような気分に浸っている。

 「じゃ 洞木君。これはどうかな」

 ピエロの服を選んだカヲル。

 『センスは、ともかく・・・本当にピエロになりたいわ』

 「いいわ」 泣き

  

  

 「・・・碇君」

 ヒカリは、カヲルとレイが次の服を探している間にシンジに声を掛ける。

 似たもの同士なのか、互いにホッとする。

 「え、何? 洞木」

 「わたし、渚君と釣り合わないと思うの」

 「そうかな。僕だってレイと、釣り合わないけど」

 「だって、二人とも好き合っているんでしょう」

 「わたしは・・・なんか、違うんじゃないかって」

 「カヲル君が、好きになれないんだ」

 「き、嫌いという訳じゃないの・・・」

 「なんか、釣り合わないし、一緒にいると物凄く疲れるし。視線も気になるし」 ため息

 「綾波も、アスカも、マナも、カヲル君を嫌っているんだ」

 「なんか、かわいそうで、何でかな。僕は、カヲル君が好きなのに・・・」

 「もっと付き合えば、いいところも、見えてくると思うけどな」

 「はあ・・・・そう」 ガックリ

  

  

 昨夜

 NERV本部ブリーフィングルーム

 ミサトとヒカリ

 「洞木ヒカリ曹長。いい、良く聞いて、これから特別任務です」

 「・・・・・・・・」

 「第1級作戦任務だから、拒否権はありません」

 「・・・・・・・・」

 「渚カヲルの専属監視を命じます」

 「可能な限り、渚カヲルのそばにいること良いわね。洞木ヒカリ曹長」

 「はい」 ガックリ

  

  

 デパートの屋上。

 5人は、遊園地で、のんびりとコーヒーを飲みながらテーブルを囲む。

 ちらほらと降る雪が冬を知らせる。

 『任務か・・・・アスカの方が頭も良くて美人で万能だし』

 『マナだって、胸が大きくて、可愛いし』

 『チアキだって背が高く、スタイルだっていいし』

 『何で、わたしなの?』

 『わたしが、渚君を好きなら問題ないのに、そんな気になれないし』

 ヒカリ、どんより

 「ねえ、ヒカリ。今度から渚の学校の弁当は、ヒカリが作ってあげたら」

 ヒカリは、突然のマナの言葉に動揺する

 「えっ えっ」

 「洞木君。作ってくれるのかい」

 「い、良いけど」

 「嬉しいな。洞木君が僕のために・・・」

 「お弁当を作ってくれるなんて。生きていて、よかったよ」

 「・・・・」 ヒカリ

 「よし、これで、夕食と朝だけか」

 「ん・・・恩に着るけど、なぜか疎外感を感じるよ。霧島君」

 「気のせいよ。借りは、いずれ返してもらうから」

 マナは、いつの間にか見詰め合っているシンジとレイにムッとする。

 「でも霧島君のライバルの惣流君がいないのは、僕のお陰なんだから貸し借りはないと思うよ」

 「ぅぅ・・人間関係に聡い使徒って、ムカツク」

 「ふっ NERVも気にすることないのに・・・」

 「なんか、渚君と霧島さんって、普通に話せるって感じね。気が合うのかな」

 ヒカリ、一途の望みをかけて聞く。

 「それはないよ」 むげに

 「ない」 冷たく

 「そう・・・」 落胆

  

  

 「洞木君。スケートやってみないかい」

 カヲルがスケートの看板を見て誘う。

 「スケート?」

 「ほら、デートらしいだろう」

 「・・・5年ぶり」

 「僕は、8年ぶりだよ」

 カヲルが手を差し出すと、ヒカリも手を差し伸べる

 「ええ」

 ヒカリは立ち上がり、

 シンジは手を振る。

 「来ないのかい。シンジ君?」

 「後からいくから、二人で楽しんでてよ」

 「じゃ 先に行っているよ」

 カヲルとヒカリは手をつないだまま、スケート場に行く

  

 「ヒカリ。諦めたみたいね “好かれている間は、好かれましよう” って感じ」

 マナが同情気味に呟く。

 「ハルカが言ってた」

 「“渚君は学校に行きたかった” そして “友達と彼女が欲しかった”」

 「そして “友達と彼女が出来た後は、動くかもしれない” って」

 「シンジ君。戦うのが近付くのに行かせたの?」

 「なぜかな・・止められなかったんだ。戦いたくないけど。止められなかった・・・」 シンジ、沈痛

 「シンジ君、変わった」

 「そういう判断をすると思わなかったな」

 「そうかな」

 「もっと、女々しいと思っていたけど。本当は、男らしかったんだ」

 「なぜ戦わなければならないのかな、カヲル君と戦いたくないのに」

 「シンジ君が負けたら。わたし達、全員が滅びてしまうのね」

 「そうかな」

 「もう〜 シンジ君。主役の自覚ないんだから」

 「もっとアニメの主人公を見て勉強しなさいよ」

 「ははは」

 「みんな熱血で積極的じゃない。内に篭もらないし悩みないし。内罰的な主人公なんていないよ」

 「ああいう人間って、いないような気がする」

 「燃えるような。闘志を全身から炙り出すのよ」

 「あればね・・・でも、最近のアニメの主人公は、オタクっぽいよ」

 「あんなのは、邪道よ」

 「熱血で熱い闘志と人類愛と正義感がみなぎるの」

 「それが主人公の正道。人生の正道よ」

 「そうだね」

 「凄いでしょう」

 「呆れるほどね」

  

  

 発令所

 元気良くスケートしている子供達が映像で流れる。

 「・・・・・・・」 一同

 発令所にマヤが入ってくる

 「いいな〜」

 徹夜続きのマヤが眼の下に隈を作り、ヘロヘロになりながら呟く。

 「マヤちゃん。午後は、社交ダンスだから」

 青葉の言葉にムッとする。

 「こんな顔じゃ 出たくありません」

 ミサトは、日向に何とかするように小突く

 「大丈夫だよ。マヤちゃんは可愛いから」

 「いいな〜 学園生活。彼氏とスケート・・・はぁ・・・」

 マヤは、感覚が麻痺していた。

 「彼氏って・・・・彼、使徒でしょう」

 「10年前は、セカンドインパクトから5年後、わたしの青春、無かったわね」

 「なに黄昏ちゃって、みんな同じでしょう」

 「休み。いえ、青春が欲しいの・・・」

 「倦怠期か・・・」

 カヲルとヒカリは、手をつないでスケートリンクを滑っていた。

 「いいな」

 ミサトも思わず呟く

  

  

 NERV

 訓練場

 アスカは、チアキ、タダシ、ケンスケ、ハルカに囲まれる。

 チアキ、タダシ、ケンスケは、一斉に飛び掛る。

 アスカは、左右からの攻撃を気配だけで感じ、

 僅かな速度差と交差の隙を付き、舞うようにタダシの後ろに回り込む。

 チアキの突きとケンスケの蹴りは、速度差と位置と方向を巧みに逸らし、

 相手の力を利用してチアキとハルカを転がし、

 ケンスケがタダシとぶつけられる。

 「いたい〜」

 転がされたハルカが、ぶつけた鼻を押さえる。

 「もう、ハルカ。真面目にやりなさい」

 「だってぇ〜」

 「また、基礎体力作りね」

 「走るの〜」

 「そうよ。4人とも」

 「でも、午後から社交ダンスなのに」

 「はぁ 好きにして」

 「アスカは踊らないの? 最近出てこないじゃない」

 「別に踊りたくなるような相手もいないしね」

 「ふ〜ん」

 「何よ」

 「リツコ2号」

 「何ですって! 冗談じゃないわよ。あ、あ、あん、あんな、冷血漢じゃないわよ」

 「聞こえたけど・・・」

 リツコが扉の前に立っていた。

 アスカとリツコが引き攣る

 「あ、いまのは、ものの例えで」

 「例え・・・」 眉間に皺

 「いえ、ものの弾み」 汗

 「まぁ いいわ」

 「ハルカ、社交ダンスが始める前に片付けたい事があるんだけど・・・」

 「は〜い」 去っていく

  

 「・・・・3人とも走る時間はないけど、闇打ちの時間ならあるわね。行くわよ」

 「「「はい」」」 チアキ、ケンスケ、タダシ

 「ヒカリ。大丈夫かな」 チアキ

 「好きというわけでもないのに、ある意味かわいそうね」

 「NERVも、エグイことするわね。使徒とわかっていて遊ばせるなんて」

 「渚は、二枚目でカッコいいじゃないか」 ケンスケ

 「二枚目が好きな子ならね」

 「ヒカリは、トウジを選ぶくらいだから。二枚目で選んでないもの」

 「わたし的には、別に良いんだけどな」

 「カッコ良いものは、カッコいいし。使徒というのが問題だけど」 チアキ

 「悪い人間には見えなかったけど・・・」

 「事故で使徒になってしまった悲哀があるような」 タダシ

 「本能には勝てないわよ。必ずリリスを目指す」

 「惣流は、渚カヲルと戦える?」

 「戦うわ。シミュレーションで、やっているもの」

 「勝てそうなんだ」

 「マギで試算したレベルと相手の戦術が正しく、二号機に向かってくればね」

 「こっちから行かないの?」

 「こっちを空っぽにすれば、直接、本部の地下に飛ばれるわ」

 「勝っても碇君とヒカリには、辛いわね」

 「渚カヲルは、わたしがやるわ。ヒカリとシンジには悪いけど」

  

  

 12個のモノリス。正面に冬月が座っている

 「・・・さてと、久しぶりだな。冬月先生」 01

 「ご無沙汰です。キール議長」

 「時は満ちているように思うが」 01

 「同意しますよ。議長」

 「だがシナリオと違っている」 05

 「焦っているようですが。何か問題でも」

 「最後の使徒は、どうした?」 09

 「第16使徒のことですか? 報告通りだと思いますが」

 「最後の使徒は第17使徒であろう」 06

 「最後の使徒は、第17使徒です」

 「あの少年が第17使徒タブリスではないのか?」 08

 「はて、少年は、第16使徒アルミサエルのはず。計算が合いませぬな」

 「第11使徒に本部を自爆されかけている。確証を掴んでおる」 10

 「その確証とやらを見せていただけませんか。こちらの記憶違いかもしれませんから」

 「我々から資金を受けているのに正確を情報を送ろうとしないのは倫理に反しないかね」 01

 「議長が第17使徒と言われる。渚カヲル。最初に接触したのは、ゼーレなのでは?」

 「戦った記録があるのであれば、参考のために情報をいただきたいですな」

 「・・・まあ、よい。早急に片付けなければならない。事柄がある」 01

 「確かに」

 「使徒殲滅がNERVの主任務であろう」 02

 「左様。NERVが仮に日本政府の配下にあっても、使徒殲滅は共通事項のはずだ」 04

 「あの使徒は、神出鬼没」

 「エヴァを彼に向かわせれば、リリスが無防備な状態で残されます」

 「ですので、使徒側の方が向かってくるまでは、待機状態が望ましいと」

 「生ぬるい。エヴァ3体は、何のためにある」 08

 「戦力の分散は、不利と報告していたはずですが」

 「日本政府の利敵行為だ。人類に対する裏切りは明白である」 12

 「渚カヲルの資金の出所を追跡した結果。ゼーレの系列企業と判明しましたが?」

 「ゼーレ系列企業が珍しいのかね。ゼーレ系列でない企業の方が珍しいというのに」 06

 「ゼーレ系企業の自覚を持っている企業という意味ですが」

 「それでも珍しいわけではなく、少ないだけだ。一般業務など、あずかり知らぬこと」 02

 「左様。NERVは、火の粉が降りかかっておるのに、のんびり構えているように見受けられるが」 04

 「火の粉ならサードインパクトにはなりませんから」

 「彼は、最後の使徒ではないのかね」

 「NERVが第11使徒を隠匿していることは明白」

 「コアの破壊を確認していない使徒4体が存在することも重大な過失である」 12

 「サードインパクト後に、使徒が出現する事が怖いようですな」

 「シナリオ通り進めなければならぬ」 01

 「実戦経験の無さが恐れにつながっているようですが」

 「冬月先生。我々を舐めてもらっては困る」

 「ただ、たんに計画通り行かない事が気に入らないだけだ」

 「日本が平和ボケしている間でも我々は、紛争やテロを通じて戦意と戦闘経験を蓄積している」

 「実力と知識において、我々は、無力でないのだよ」 05

 「使徒戦は、どうでしょうか?」

 「ゼーレに使徒と戦った人物がいますか?」

 「・・・・・・・」 一同

 「我々の力。見くびられたものだ」

 「シナリオを作り直す能力がないと、勘違いしているのではないかな」 01

 「報告書の通りだと強調しているだけですが」

 「よかろう。冬月先生。また会おう」 01

 モノリスが消えて、

 冬月、秋津司令、リツコ、ハルカは残される。

 「秋津司令。これで、サイは投げられたというところですか?」

 「もっと挑発すべきでは、冬月副司令」

 「挑発していると思われるのは、得策でありません」

 「少し、弱腰であると見せる方が良いと思います」

 「しかし、三つ巴は、不確定要素が多すぎる」

 「ゼーレの力、12体のエヴァ、12本のロンギヌスの槍は、侮れませんが準備不足であることは明白」

 「彼らも三つ巴を恐れています」

 「そして、残っているかもしれない疑いのある使徒もです」

 「ゼーレは、疑心暗鬼に囚われています」 ハルカが発言する

 「では・・・渚カヲル君がどう動くか」

 「渚カヲルは、サードインパクトを見逃し、フォースインパクトを狙う可能性もあるのでは?」

 「ゼーレのアンチATフィールドもATフィールドを全開にして身を守れば乗り切れる」

 「その後、フォースインパクトを狙えば、彼の一人勝ちになる」 冬月が答える。

 「それも、可能性の一つか・・・」

 「もし、ゼーレがシナリオを無視して攻めて来たら」

 「生身のシンジ君やパイロットを殺傷してから攻めてくると思われますし」

 「その兆候も、あります」

 リツコが暗殺の可能性を示唆した。

 「保安部も、諜報部も、総力を挙げている。ゼーレの動きは追跡できている」

 「それより、ゼーレも渚カヲルが邪魔でシンジ君を暗殺できないようだ」

 「駿河湾海岸での出来事は、ゼーレ側の迷いと、渚カヲルの一側面を見せている」 冬月

 「少なくともゼーレによるシンジ君の暗殺は、渚カヲルも望んでいないのでは?」

 「別の可能性として、渚カヲルはゼーレを最大の敵と考えている節もありそうです」

 「その場合、シンジ君が負けるのをみすみす、見逃さないかもしれない」

 「使徒がシンジ君を守っているとすれば、心強いですが」 リツコ

 「日本政府内と議会は?」

 「いまのところ、抑えている」

 「裏切りの可能性のある者は、排除に成功している」

 「もっとも、こちらの諜報員も向こうでは成功していないな」 冬月

 「赤木博士。マギは、ケルベロスに勝てるだろうか?」 秋津

 「爆弾は仕込んでいるのでパスワードを送り込めば破壊できます」

 「ケルベロス。3つの頭と3つの蛇の尾を持つ冥府の番犬」

 「そして、マギ。イエスの生誕を予見した東方の3賢者との戦いか」 秋津

 「ケルベロスの冥府。入るのは、簡単でも出られないという性質は暗示的だな」 冬月

 「ゼーレにネットワークから独立しているコンピューターがどの程度あるかによる・・・」

 「では、計画通り、攻撃を受けた場合。すぐにケルベロスと相手側のマギを無力化して欲しい」

 「赤木博士。その時は、わたしの命令を待つ必要はない」 秋津

 「はい」

  

  

 カヲルとヒカリは、手を繋いでスケートリンクを滑っていた。

 ジロジロと見られるカップルでシンジとレイの注目度を越える。

 シンジは、自分と綾波だけで来れば、自分達に集中する視線が分散され ホッとしていた。

 レイとマナがシンジを挟み、スケートリンクの壁際にいた。

 「・・・ヒカリに渚を任せて遊ぼう。邪魔しない方がいいし」

 マナが見よう見真似でクルリとスピンしてみせた。

 「うまい!」

 「初めてだけどバランスの問題ね」

 「うそ、初めてなの?」

 「僕より上手いよ」

 「シンジ君は?」

 「・・・2回目」

 「学校の課外授業ね」

 「うん、綾波は?」

 「初めて」

 レイも、見よう見真似で、やすやすとループして見せる。

 「本当に初めてなの?」

 シンジは、情けなく呟く

 「ええ」 レイ

 シンジは、自信喪失しながらヨロヨロとリンクにでる。

 「カッコ悪い〜」

 !?

 「へっ?」

 左右からレイとマナが腕を引っ張ってリンクを回り始める。

 徐々に速度が上がり、絶望的な気分になっていく。

 レイとマナは、平然と速度を上げ・・・

 「・マナ・・・駄目だよ・・・危ない・・・危ないから・・・」

 「大丈夫、大丈夫」

 「うぅ ちょっと・・・綾波・・・・」

 「問題ないわ」

 「・・・・」

 シンジは、腰が引けて泣き言。

 シンジは、異様に目立ち始めているのに気付き、諦めの境地に入っていく。

 一番上手いのは、レイとマナ。

 その次がカヲル、ヒカリ、

 そして、一番下手なシンジは、次々と追い抜いて、最高速でスケートリンクを回り。

 さらに速くなっていく。

 10周も回れば、シンジも慣れ、自分で回れる。

 その時、レイとマナは、さらに上のレベルに達し、

 中央付近のベテランスケーターの真似をして、互いに競い合う。

 シンジとカヲル、ヒカリは、ヨロヨロと壁際に掴まって一休み、

 「シンジ君。災難だったわね」

 「怖かったよ」

 「でも綾波さんも霧島さんも天才ね。凄い」

 「二人ともスケートは初めてだって」

 「信じられない」

 「僕は、2度目だけどリンクを回るだけで精一杯なのに・・・」

 「わたし、8回くらいきているのに・・・・・・・・はあ」

 ヒカリは、レイとマナを見て自信喪失。

 レイとマナは、観客の目を集めながらベテランを真似てリンク中央でジャンプの練習に移行。

 「カヲル君は、何回目?」

 「小さい頃、滑ったことあるから3回目かな」

 「僕が、一番下手だね」

 リンクの中央でレイがアクセルをしてみせると、マナもアクセルを成功させる。

 その後も、二人は、見よう見真似でスピン、ジャンプを組み立てて遊ぶ。

 その頃、たくさんの女の子がカヲルを誘惑しようと微笑を投げかけ。

 ヒカリは、挑戦とも、挑発ともいえる視線にさらされる。

 「どうしたんだい? 洞木君」

 「・・・・な、なんでもない」

 カヲルとヒカリの組み合わせは、

 スーパースターが、その辺の女の子が二人っきり、に等しい。

 ヒカリの気持ちをもっとも理解しているシンジは、

 ヒカリが何を考えているのか分かって同情する。

 カヲルとレイが一緒に滑るなら干渉できる者はいない。

 しかし、カヲルとヒカリは、バランスが悪く。

 自分が割り込んでもいいだろうと客観的に考え、誘惑に駆られる者は多い。

 「渚君」

 「なんだい。洞木君」

 「どうしてわたしを誘ったの?」

 「どうしてって・・・・君に好意を持ったからさ」

 「好意って?」

 「好きってことさ」

 「・・・・・・・・・」ヒカリ、真っ赤。

 カヲルとヒカリが見詰め合う。

 比較的近くにいたシンジは、ドキドキしながら邪魔にならないように離れる。

 「・・・だって、そんなのおかしいよ」

 「どうしてだい?」

 「だって、わたしより、綺麗な子や可愛い子がいるじゃない」

 「それに頭の良い子やスタイルの良い子だって」

 「アスカやマナやチアキだってわたしより素敵なのに」

 「・・・僕が嫌いなのかい?」 カヲル寂しげ

 ヒカリは、思わず首を振る

 「違うの。納得いかないだけ・・・・渚君がカッコ良過ぎるから」

 「使徒の僕にとっては、どうでもいいことばかりさ」

 「惣流君、霧島君、綾波君は、僕を殲滅する覚悟をしている」

 「碇君と洞木君だけは、僕という存在を既成概念を抜きに見てくれた」

 「そして、その他大勢の女の子は、僕のことを知らない」

 「そして、僕は、洞木君が気に入った」

 カヲルは、ヒカリに手を差し伸べ。

 ヒカリが手を添えるとリンクを滑り始める。

 周りの女の子がカヲルにモーションをかけ、

 自分を侮蔑するような視線を向けても、気にならなくなっていく。

  

 

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第46話 『自由意志』
第47話 『ダブルデート+1』
第48話 『ゼーレ来襲』
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