第55話 『トライデント宇宙艦隊』
アラエル要塞
トライデント(アルファ。ベータ。ガンマー。デルタ)4機が交替で配備されていた。
ベータ(タダシ)と、デルタ(チアキ)が吊り上げ式で静止軌道にまで運ばれる
「うぅぅ 納得いかないな。打ち上げじゃないのか」
「せっかく造ったんでしょう。大枚かけて」 チアキ
「こっちが安上がり、だからだろう」 タダシ
「なんか、かっこ悪い」
「しかし、宇宙艦隊は、カッコいいな」
「ただ、地球軌道をくるくる回るだけじゃない」
「そうだけど」
「重力のあるところに行くと、いきなり疲れるし」
「そうだけど」
「閉鎖的で息がつまるし」
「そうだけど」
「結局。出番無しで、使徒戦が終わっちゃったのよね」
「やっと、ATフィールド張れるようになったのに・・」 タダシ
「でも、トライデントだと、サキエルと、良い勝負なんでしょう。光質の絶対量が違うし」
「アルファは、良いよ。ほとんど、エヴァ並みで、居住性はエヴァ以上」
「アルファは、渚君が、いるから」
「それに、エヴァとトライデントに乗らなくても戦える。とか言うし」
「あいつ面白いよな。この前 “使徒の渚だけど” だって」
「ヒカリも、いっちゃっているし・・・ったく」
「そういえば、新城。最近、洞木と遊んでないんじゃないか」
「女の友情なんて、所詮、そんなものよ」
アラエル要塞というより “工場” で新型メインコンピューターのトリニティが就役。
A10神経接続は、A8神経接続となり、0.0000001にまで精度を上げることに成功。
起動確率も、10億分の1まで精度を上がって、
純粋に産業の品質精度という形で反映される。
要塞は、ロンギヌスの槍を使って、ドーナツ状から円筒形に姿を変え。
増築が進められ、人工の大地が造られていく。
そして、地球から上げられた素材が、ここで加工され、それが地上へと戻されていく。
これまで、金食い虫でやってきたNERVは、次第に独立採算制へと移行。
ここで、才覚を発揮したのは、碇グループ財団の運営を任された惣流・アスカ・ラングレーだった。
官僚主義的な体質を民需転換させて、南半球開発と宇宙開発で先行投資。
8ヶ国語を話せるという、その語学力を駆使。
アメリカ資本、ドイツ資本を配下に置きながら巨大な国際企業体を形成していく。
それに便乗して技術・技能を支えたのが伊吹マヤ、朝霧ハルカ、綾波レイ、赤木リツコ、霧島マナだった。
この頃、発電所の再建が軌道に乗る。
シンジは、市場経済の才がないのか、どちらかというと、のんびりと学校生活を送る。
初号機に乗るのは、エヴァ光質増殖のためになっていた。
中学3年の後半になると、皆、勉強に熱が入り始める。
マラソン型は、既に2年ごろから受験に備えて助走。
短距離型は、本格的な受験勉強に入る。
シンジは、比較的余裕があるのか、パラパラと確認する程度。
隣にいるケンスケは、かなり必死だった。
「碇君」
山岸マユミが遠慮がちに声をかける。
「あ、山岸」
「いま、一人?」
「お〜ぃ」 ケンスケ
「・・・・・・・・・」 シンジ
「・・・・・・・・・」 山岸マユミ
「うん」 シンジ
「おい!」 ケンスケ
「良かった♪ わからないところがあって」
山岸マユミは、ノートを持っていた。
「ぼ、僕で、よければ」
「おぉ〜ぃ」 ケンスケ、泣き
シンジは、気持ちの部分で山岸マユミに共感することが多く親近感があった。
そして、アスカ、レイ、マナのような超然とした部分が表面的にない。
それでいて、互いにATフィールドを展開できるのは秘密の共有で、特別な関係だった。
箱根山
NERV
射撃訓練中。
シンジとケンスケ
武器に詳しいケンスケは、サバイバル訓練と、射撃でシンジを超える腕前になっていた。
「凄いよ。ケンスケ。ほとんど、的に当たっているじゃないか」
シンジは、半分しか的に当たっていない。
「はぁ〜 まだまだ、だよ。霧島や惣流、綾波にぶつかったら、瞬殺だよ」
「動き。速度。正確さ。まるで戦闘機械だ」
「あの三人は、小さい頃から訓練されていたから勝てないよ」
「シンジ。お、おまえな〜」
「気合を見せろよ、男の気合を」
「は、はは、ははは・・・」
「ったく。それより、何で、山岸と仲良くしてるんだ。綾波に悪いと思わないのか」
「いや、勉強を聞かれたから、教えただけだよ」
「そんなの、他の人間に任せれば良いんだよ」
「じゃ 今度からケンスケに聞くように言うよ」
「・・・・・」 ケンスケ。苦笑い
「それに、僕は、綾波と婚約しているから。山岸も知っているし」
「そうは、言ってもな。シンジと山岸は、雰囲気が近いから綾波も誤解するんじゃないか?」
「だ、大丈夫だと、思うけど・・・」
「わからんぞ、女心は・・・」
「しかし、綾波も繁華街の真ん中でシンジにキスするくらいだから。大丈夫か」
「あ、あれは」 赤。
「いや〜 あれは意外な一面だった。思わず固まったよ。綾波が、シンジにね〜」
「・・・こ、婚約者だから」
「あの後、霧島が荒れてさ。カラオケで、みんな朝まで歌わされたよ」
「涙ながらに “わたしバカよね” を熱唱するし。堪えたね。あれは」
「は、はは」
「しかし、なんで、綾波なんだ」
「一番ミステリアスだけど、それも朝霧で相殺されているし」
「楽しい霧島とか。刺激の強い惣流の方が一緒にいて楽しくないか?」
「・・・また、マナに弁当のおかずを貰ったな」
「は、はは、これも、義理人情の世界だから・・・・」
「お、思いっきり、買収されているじゃないか」
「そ、そうだけどさ・・・」
「僕は、綾波が良いんだ」
「わかった。おかずを貰わなかった日は、応援するよ。シンジ」
「いままでと、同じじゃないか」
『シンジ。綾波と・・・』
ケンスケが耳打ち。
「・・・なっ・・・や、やってないよ」
ケンスケは、シンジの肩に手を置いて、ため息。
松代
朝霧ハルカ、伊吹マヤ
「零号機、二号機へのS2光因子の投与は、順調です」
「揺らぎは?」 ハルカ
「現在。0.00000023パーセント以下です」
「さすが、トリニティ」
「・・・このまま行けそうですね」
「そうね・・・誤差がプラスマイナス3を超えなければ、このまま、進めましょう」
「これで、零号機、2号機ともS2機関装備でエヴァ4体ともフル稼働になりますね」
「いまさら。だけどね」
「エヴァ4機でコアを拾い上げるという計画がなければ、とても予算は下りませんでしたね」
「そうね。エヴァが空を飛べないのなら。トライデントの方が良いものね」
「エヴァ・・・空を飛べないんですよね」
「・・・・・」 ハルカ
「と、飛べるんですか?」
「飛べないと思い込んでいるだけかもしれないわね。パイロットが人間だから」
「えぇぇぇえええ!!」
「量子量ゼロのエヴァ光質で擬似的な質量のエヴァが飛べない、根拠を教えて欲しいわね」
「なぃ・・・です」
「一度、カヲル君に4号機で飛んでもらおうかしら」
「そういえば、セカンドインパクトとバウンドインパクトのとき、渚君が飛んでいたと報告を受けていました」
「渚君も付き合いが良いから。うっかりするわね」
「なんか怖くありませんか、それ」
「宇宙には、他にもリリスの種族がいて世界を作っているかもしれない」
「リリスを消滅させたことで、リリスの世界に、この世界が関心をもたれたかもしれない」
「違う選択をしたゼーレ型の世界が、あるかもしれない」
「じゃ 接触したら戦争になるかもしれないんですか?」
「わからないわ。裏死海文書には、ゼーレの故郷のことも」
「使徒を全て倒した後のことも書かれていないもの」
アラエル
無重力で生産される物質は、比重が違う合金を均一に精製できた。
特殊な物質の生成も可能にする。
工場で生産された製品が次々に地上に降ろされていく、
秋津司令と崎村ヒロコ
「やっぱり、学校を含めた一般都市建設は、後回しになりそうだな」
「はい、予算の増加は、予想より見込めそうですが地球側の引力も強いようです」
「実質、独立採算制にさせられたからな」
「惣流・アスカが旧ゼーレ勢力をまとめ上げているようで、さらに利益が伸びそうです」
「碇グループも使徒の呪縛から逃れたわけか」
「惣流・アスカ・ラングレー。直接戦っていたパイロットにしては、切り替えが早いな」
「いずれは、月の資源を加工して、地球に下ろすことになりそうですね」
「本当は、高校を作って少年たちを上に上げたいんだがな」
「現在。トライデント機12機を宇宙艦に改装しているので、学生に頼らなくても良いと思われますが」
「通常型トライデントか。貧乏くさいな」
「確かに新素材が次々に開発されている現状で、改装は、ごまかしに近いですね」
「どちらかというと。このアラエル要塞そのものが最強の宇宙戦艦だがな」
「ですが、まだ、アラエル系コアのシンクロシステム。パイロットの選定が進んでいません」
「人柱は、社会的な問題がありすぎる」
「トリニティは、一億分の一で、シンクロさせることができるそうじゃないか」
「総人口20億なら16歳以下は、一人か、二人いる、ということだ。見つかれば、だが」
「見つかれば、ですね」
「それに、バウンドインパクト以降に生まれた子供は、シンクロ率が高いそうじゃないか」
「ええ、精神感応能力も半独立している事例が増えているようです」
「結局、個人の秘密を守ろうという資質は、ゆるぎないということか・・・」
「それでいて、他人に対する共有部分も欲しがる。一人でいるのが寂しいからだ」
「ゼーレのキール議長も、同じ事を言ってたとか」
「心の世界で言うと、フロイトやユング以来の専門家だったらしい」
「ゼーレ式が良かったと?」
「既に終わったことだが世界の内情、実情、事情がわかれば、理解できないわけじゃない」
「宇宙開発が進むかは厳しい。少なくともセカンドインパクトでゼーレを断罪する気にはなれんよ」
「よほど、情報を持っているか」
「マギの未来予測計算能力がなければ、普通の人は理解できないことですからね」
「今の人口なら、何とかなるだろう」
アラエルのラウンジを地球の青い光が照らしていた。
お偉いさんのパーティ
華やかな社交場で政治家、財界人、有名人が集まっていた。
シンジは、アスカと踊っている。
「あのね〜 シンジ。もっと、嬉しそうな顔をしなさいよ。失礼なやつね」
「アスカ・・・・どうしても、話さなければならないの?」
アスカは、シンジの泣きそうな上目使いに思わず退いてしまう
「な、なに他人事、言ってんのよ。あのね、あんた主催者で当主なんだからね。当然よ」
「愛想良くしなさい。それから、どんな有利な条件でも約束はしないで」
「バカな振りして、わたしに振りなさいよ」
「わ、わかったよ」
「まぁ〜 そのままだけど」
「酷いよ」
「何が酷いよ。あんた牛乳を飲みなさいよ。背が低いままじゃないの」
「ひ、標準だよ。平均身長だよ」
「いいから、飲め。社交界で上手くやっていきたいのならね」
「わ、わかったよ」
「わかれば良いのよ。わかれば」
「でもさ、何で綾波は、メーテルのカッコウなのさ」
「シンジの秘書だからよ」
「だいたい、あんたが目立たないから、秘書でバランスを取っているのよ」
「綾波は、婚約者なんだけど」
「ひ、秘書兼婚約者よ。そうでもしないと、影が薄いんだから」
「わたしの方が似合いそうだけど。社長の着る服でもないしね」
華やかな世界だった。
しかし、なぜか、目立つのは、壁際の花。
メーテル風の青髪赤眼の少女。
『メーテルって、何?』
厳密にいうと、アスカは、碇財閥の雇われ社長。
いくら、シンジが、ぼんくら息子の世間知らずでもシンジの資産を奪うは、世間が許すはずもなく。
もっとも、アスカは、自己資金で、いくつかの優良会社を持っていて、
いまさら、人の財産を奪って、増やすことよりシンジとの関係を維持継続する方が良かった。
何しろ、戦友で。命の恩人で。
母の記憶を持つ朝霧ハルカを二号機から引っ張り出したのだから、そんな気持ちも湧いてこない。
例え、シンジが綾波レイを婚約者に選んでも。
人前で10分ほど話して、十数人の著名人と会話しただけで、
ストレスに耐えられず、トイレに駆け込んで、
げぇ〜! げぇ〜!
やってもだ。
トイレの前のアスカとレイ
「あいつ、相変わらず細いわね。あんなんじゃ この先、生きていけないわよ」
「わたしが、守るもの」
「あ・・・そう・・・」
そして、婚約者が綾波レイというのも問題で、
人類補完計画の原案・NERV案・ゼーレ案の賛否は、ともかく、
バウンドインパクトによって、傷病者も健康体で、再構築されて感謝する者は数知れず。
綾波レイを敵に回すのも怖すぎた。
シンジとレイも、碇財閥を捨てても使徒戦の報酬だけで、数回の人生を送れる収入で
それでいて、国防省の給与も使いきれてない。
なければ、無くても良いタイプで、小欲のシンジとレイは、ある意味強く。消費経済の敵。
アスカもドイツ系らしく、消費経済より再生経済を是として、
同じ失敗を繰り返さないようにしている。
これは、シンジの “世の中のために” というのと。
ドイツ人らしい法律慣れの部分と重なる。
コンフォート17
403号室
シンジ、レイ、アスカ、マナが、食後のお茶をすする。
「引越し〜ぃ」 シンジ
「・・・・・・・」 レイ
「えぇ〜」 マナ
「そうよ」 アスカ
「アスカ。引っ越すの?」
「あんたもよ」
「な。何で?」
「こんな狭い家じゃ 渉外なんか出来ないでしょう。当たり前よ」
「しょうがい?」
シンジ。首を傾けるシンジ
アスカ。背もたれによろけて、呆れる
「渉外・・・政界、官界、財界、著名人、人心掌握や外国と有効な交渉や取引をまとめる事」
「人脈を広げ、結束を強めること」 レイ
「そういうこと」
「で、でも・・・ここは、十分に広いよ。部屋だって、余っているくらいだし」
「あ、あのね〜 身の丈にあった生活をしなさいって言ってるの!」
「守るものが小さい人間は、信用されないの」
「そ、そうなのかな」
シンジは、レイを見る。
「心理的に・・・ありえるわ」
「い、いつ」
「高校に行く頃にはね」
「な、なんか寂しいな・・・・コンフォートマンションは、仲間がたくさんいて、楽しいから」
「ガキみたいなこと言わないで」
「あんた。名目上でも碇財閥の当主なのよ。社会的責任があるんだからね」
「でも・・・」
気弱なシンジは “中学生は、子供だ” と言い返せない。
「とりあえず。シンジと、レイと、わたしと、冬月の爺さんで住むことにするわね」
「ちょっと!! わたしは??」 マナ
「マ、マナも・・・」 アスカ。渋々
「よし! 護衛役のわたし抜きで動かれて、たまるものですか」
国防軍とNERVの力関係から、マナは、国防省所属で、NERVのエヴァ・パイロットを兼任。
国防省の出向で、シンジの部下で護衛という任務が、そのまま継続している。
これは、本人の強い希望と、国防省の都合が重なった事から確定してしまう。
「でも、何で、冬月副司令なの」
「マヤの方が・・・・いや・・・冬月副司令の方が・・・良いわね」 マナ
いろんな思惑が絡んでいたが、保護者は、冬月コウゾウに決まってしまう。
「とりあえず。家は、これにするから家財を決めるわね」
アスカが、端末用紙を広げる。安価な一枚紙で、いろんな情報を選択できた。
そして、設計、購入などできる優れものでアラエルで生産されたものだった。
「へぇ〜 最近、便利なものがあるんだ」
碇財閥専有製品。
もちろん、バカ殿シンジは知らない。
「「「・・・・・・・・」」」 アスカ、レイ、マナは引き攣る。
端末用紙に映される大邸宅。
アスカ、シンジ、レイ、マナは、思わず覗き込む。
「お、大きい〜」 シンジ
「シンジ君。部屋も、一杯あるから、友達も泊められるじゃない」
「そ、そうだね」 ほっ!
碇財閥は、最先端エヴァ関連企業の主要産業のほとんどを保有していた。
戦後、冬月によって、いち早く、立て直され。
アスカによって、民需転換に成功しつつある碇財閥は、地球で最有力な財閥になっていく。
アスカにすれば “このくらいの大邸宅。当然よ!” なのだが、
いまだに国防省の給与すら持て余すシンジとレイは、驚天動地の大邸宅。
因みに赤木リツコ邸の2.5倍の大きさになった。
シンジは、なぜかしら台所にこだわり、
使いやすそうなプロ専用キッチンシステムを見詰める。
『あんた。ここまで来て、自分で食事を作ろうとしているわけ・・・・』
レイは、広い風呂場が気に入ったのか。しきりに見ている。
『泳ぐわね。この女』
マナは、自分の部屋とシンジの部屋。
そして、レイとアスカの位置関係をしきりに気にしている。
『・・・・・・・』
地球軌道上を周回する。
ベータ(タダシ)。
ガンマー(ケンスケ)。
デルタ(チアキ)。
そして、トライデント機8機。
人類初の宇宙艦隊が日本国防省所属だった。
とはいえ、砲艦外交でもなければ、示威行動でもない、
そんな余分な金はなく。練度維持を目的とした慣熟訓練。
まず宇宙戦争を経験したことのない人間に戦闘訓練をさせようとしても戦略も、戦術も机上の空論。
「・・・つまんね〜」 ケンスケ
「確かに・・・飽きるよね」 チアキ
「俺たちばっかり・・・洞木は?」 タダシ
「さあ、アルファ機。別格だから・・・」 ケンスケ
「わたしも、碇君か、渚君に、一緒に乗って、もらおうかな」
「げっ!」 ケンスケ
「シンジ君でも良いけど。それで、シンクロ率アップで、エヴァ光質を増強よ」
「・・・・・・・・・・」 ケンスケ
「・・・・・・・・・・」 タダシ
「なに沈黙しているのよ」
コンフォート17
508号室 洞木家
洞木ノゾミ、久坂ユウキ、鈴原ミドリは、交替でペンペンに生魚を食べさせながらテレビを見ていた。
葛城ミサトは、名目上の飼い主でしかなく。
ペンペンは、他の部屋にフリーパスで入り込んで生活していた。
「シンジ兄ちゃんは、ガードが固いわね」 洞木ノゾミ
「相手が綾波さんじゃ 手が出ないよ」
「人間性を疑われるし。惣流さんに霧島さんまで付いているし」 鈴原ミドリ
「ミドリちゃんは、いけそうじゃないの、お兄ちゃんのことがあるから」 久坂ユウキ
「逆に退かれちゃって、駄目みたい。恨んでないのにな」
「精神感応がわからないから、不利ね」
「不利って、やっぱり狙ってる」 久坂ユウキ
「だって〜 なんか、良いものシンジお兄ちゃん。わからないところがミステリアスで良いのよね」
「一番引っ付いている。霧島さんが邪魔ね」 洞木ノゾミ
「そうかな、惣流さんも絶対よ」 久坂ユウキ
「そう? 精神感応から外れているから、良くわからないけど」 鈴原ミドリ
「でも、やっぱり、綾波さんよ。婚約者だからって独り占めは駄目よ」 洞木ノゾミ
「はぁ〜 でも、もうすぐ、高校に行っちゃうんだ。シンジお兄ちゃん」
「やっぱり飛び級狙って、お兄ちゃんと同じ学年だったら良かったかな〜」
「ショックを与えないように引いたのが敗因ね」 鈴原ミドリ
「そういえば、来年から制限抜きで、飛び級できるようになったんでしょう」
「頭の良い人間は、早く卒業させて、働かせようとしているみたいね」 久坂ユウキ
「よし、一緒に高校に入っちゃうか・・・ふっ・・・」 鈴原ミドリ
「良いよね。頭の良い人間は・・・」 洞木ノゾミ
「でも、精神感応でさ、相手の心が、それとなく見えるのは、ある意味、諸刃の剣ね」 鈴原ミドリ
「霧島さんは、なんか霞がかってて、わかりにくいけど。どうやっているのかな」 洞木ノゾミ
「あ、いるいる。たまにいるよね」
「都合の良いときにオープンにしたり、クローズしたり、どうやっているの?」 久坂ユウキ
「んん・・・駄々漏れって、厳しいよね」 洞木ノゾミ
「でも感情をある程度。コントロールできるようになったし。そういうのは良いかも」 鈴原ミドリ
「そうそう、最初の頃は、家の中で大喧嘩だものね」 久坂ユウキ
「ゼーレ方式は、どうだったんだろう? コアの中」 鈴原ミドリ
「ケンカになる原因が、なくなるんだから」
「それは、それで、理想なんじゃないかな」 久坂ユウキ
「でもさ、心と心だけ。というのもね〜」 洞木ノゾミ
「でも出来ないわけじゃないんでしょ」 久坂ユウキ
「やだ〜」 洞木ノゾミ
「でも子供が生まれないのは、やっぱり。寂しいかも」 鈴原ミドリ
「それが、問題かもね」 久坂ユウキ
「リリスって進化のレベルが高くなると、子供が生まれにくくなるから」
「最初、レベルを落として、数を増やさせたのかな」 鈴原ミドリ
「おじいちゃんが言ってたの?」 久坂ユウキ
「うん。もう、秘密に出来なくなっているから教科書とかも変えていくかもしれないって」 鈴原ミドリ
「その方が良いよ」
「学校で、うそ教えてたらしらけるし、いい加減に頭にきてたのよね」
「使った時間と無駄に覚えさせられた脳細胞を返せ」 洞木ノゾミ
「そういえば、先生も、ろくなのいなかったよね」
「ったくぅ〜 大人って倫理道徳が低すぎるよ。事情は、わかるけど・・・」 久坂ユウキ
「でも、もうちょっと、って、思うよ」
「普通、大人なんだから。かわいそうな赤ちゃんもいるし」 鈴原ミドリ
「バウンドインパクト以後の赤ちゃんって敏感だから親によっては、不憫かも」 洞木ノゾミ
「でも、そういうのがあると、迷っちゃうよね。どっちが良かったか」 鈴原ミドリ
「でもさ、でもさ。秋津司令って。人類補完計画原案か。人類補完計画ゼーレ案かで最後まで迷ってたんでしょう」
「指揮官が迷ったら。下が迷惑よね」
「そんな、いい加減な司令に命を預けて戦わされていたなんて、後から分かったんじゃ お笑いよ」 洞木ノゾミ
「本当、呆れちゃうよね」
「まだ、ゼーレの方が自信と、確信が、あったんでしょう」
「そんなんで、死傷者400万以上の戦争なんて、滑稽よ」 鈴原ミドリ
「原因が滑稽じゃない戦争って、あったっけ?」 久坂ユウキ
「まあ、人類の組成自体を変えてしまうのだから。迷ってあたり前か・・・」
「動機の保身がミエミエで萎えるけど。選択が正しかったと思いたいわね」 鈴原ミドリ
「意外と指揮官より、命令されて動く方が楽かもね」
「上官のせいにして、考えなくて良いんだから」 洞木ノゾミ
チルドレンの受験戦争
この時代、統合試験によって、入学できる高校も、大学も振り分けられる。
点数以下の高校なら、その早い者勝ちで入れた。
問題は、保安上、財政上、チルドレンたちを一つの高校に入れると。
一番、点数の低い相田ケンスケ次第でチルドレンの入る高校が決まる。
アスカ先生は、教壇に立って、ムッとしている、。
「相田〜 このぉ〜 何度、言ったらわかるのよ」
アスカがテスト用紙を机に叩きつける。
「そ、惣流。でも・・・ず、随分、点数が良くなった方だと思うよ」 怯える
「あいだぁ〜」
アスカの曲げた教鞭が震える。
「ご、ごめん。惣流。次ぎは、がんばるから・・・・」
ケンスケは、心身ともに怯える。
もちろん、怖いのは、教鞭ではなく、遊びで瓦5枚を割る、手刀の方だ。
「全長94.0cm・・・銃身長 41.9cm・・・重量 5.22kg・・・」
「口径7.92mm×33・・・装弾数 30発(弾倉式)・・・発射速度 毎分685発・・・」
「ハーネルStG44突撃銃!」 得意
「てめぇ〜 相田! 普通の勉強をしろ!!」
チョークがケンスケの頭に直撃。
「いでぇ〜!」
「弾道計算が出来るのに、比例・反比例を間違うな!」
教室に笑いが広がる。
惣流アスカ先生は、すこぶる評判が良く、クラス成績も学年トップ。
アスカも政官財界の毒の強いすれた相手と攻防戦を繰り広げるより、
学校で生徒に教える方が純粋に楽しく生き生きとしていた。
とはいえ、教師と生徒になると、ヒカリやチアキの間に距離が生まれ。
シンジに尊敬の眼差しで見詰められ、
寂しさを感じるらしく。学生服を着ている。
どちらかというと、一年生や二年生の方がアスカ先生に質問することが多く。
下手に外に出ようものなら、あっという間に囲まれる。
「・・・アスカ先生。教えてください」
一年、二年の女子がノートを持ってアスカを囲み始める。
「あのねぇ〜 あんたたち、教えるから、引っ付かないでくれる」
「だって、アスカ先生に触っていたいの〜」
「アスカ先生。好き〜」
抱き〜
「えっ!」
一人抱きついてくると、後は、もみくちゃ。
「ちょ ちょっと。あんたたち、まじめに質問しに来たの・・・・きゃ〜」
アスカは、まとわり付く20数人の女子中学生に囲まれて辟易する。
当然、学校側も臨時教師で終わらせるのを惜しむ。
卒業と同時に正式な教師として、そのまま、採用したいと打診。物議を起こしてしまう。
精神感応世界では、資質に問題ありの教師が多く。
大人よりも、子供の方が、擦れておらず、善良なのだろう。
レイは、碇財閥のネットワークの一部を民需用に調整していた。
寡黙な蒼髪赤眼の少女は、必要最小限の命令と示唆で効率よく仕事を進める。
当然、軍事機密は多く、
その転換で情報漏れを防ぐような工夫が必要だった。
どこに行くにも、青髪紅眼と黒服は、独特の雰囲気を漂わせ
碇家当主シンジの婚約者で秘書という立場と
バウンドインパクトの人類補完計画の再構成で深く関わっていたことは、一般にも知られ。
大人から見ると頭一つ分か、二つ低い綾波レイは、どこでも最高の待遇を受けた。
綾波レイは、アスカ、マヤ連合の特許関連企業と有機的な統合を構築し、
エヴァ技術の毒性を減らした民間転用の分野にも関わっていた。
某企業体から、通信が入る。
「・・・おはようございます」
「綾波さん。当社のロボット技術とエヴァ技術の融合に関する提案は、読んでいただけたでしょうか?」
「ええ、計画を半年遅らせた方が良いと結論を出しました」
「し、しかし先行投資によって、市場を先に確保すべきだと思いますが」
「現状、貴社の7割の部品が規格品で、3割が新規格になります」
「他社が融合規格で半年後に追いつくとは思えません」
「無理をしなくても、良いと思います」
「もう一つは、タイムスケジュールと需要に対し、供給が追い付けない事で余計な負担が貴社にかかると思われます」
「そうですか? 残念です」
「その代わり、WE神経コードシステムの長期借款契約は、すぐに結べそうです」
「そうですか。それは、良かった。ありがとうございます」
「補助強化パーツとして産業効率が高まりそうです」
「セキュリティプログラムは、改良が必要でしたので」
「こちらで、修正案を出して、そちらに送信して、おきました」
「わかりました。すぐに取り掛かります」
クリスマス
アスカ、レイ。
「クリスマスなのに雪が降っていないじゃない。情緒のない国ね」
アスカが空に向かって文句を言う。
「この地域のクリスマスの降雪確率は、5パーセント以下よ」
レイが冷めたように呟く。
「何でクリスマスなのに、釣りなのよ?」
目の前に広がる。どんよりとした水平線にも因縁をつけた。
「碇君のクリスマスプレゼントだから」
「・・・・・・・・・」 憮然
堤防にシンジ、レイ、アスカ、マナ、カヲル、ヒカリが並ぶ。
若者のクリスマスの過ごし方としては、稀に見る少数派。
恋人同士なら、さらに稀少種族。
レイが竿に触ると次から次へと釣れる。
「きゃ〜! 釣れた」
「おっ! 大きい」
「見て♪ タコよ」
「やっぱり、本命は、ヒラメよ」
「いや、マゴチだろう」
「おっ! また、引いた」
最初は、拒んで、実力で釣ると言い張っていたアスカも遂に切れる。
「うぅぅぅ〜 レイ! わたしの竿も触ってよ」
レイは、イヤイヤそうにアスカの竿に触ると。
一分もしないうちにHITする。
強い引きと激しい動き。
アスカも、必死になって釣り上げる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ウツボが堤防に転がる。
マナが噴出して笑い。
シンジ、ヒカリも、笑いを堪える。
「レ、レイ! あんた、わざとやったでしょう!」
「・・・わからない」
「なにが “わからないよ” わたしに対する嫌味でしょ」
「偶然」
「むきぃ〜 頭にきた! 絶対に自分で釣ってやる!」
「シンジ! 笑っていないで、針取ってよ。気持ち悪い魚ね」
「・・・でも、アスカ。食べられるそうよ。美味しいって」
ヒカリが携帯で調べていた。
どりゃぁぁああああああ!!!!
怒るアスカが力任せに遠投する。
レイとマナが時折、魚を捌いて、刺身、味噌汁、焼き魚を作って出す。
獲れたての魚は、美味く。
怒っていたアスカも次第に集中していくと、チヌを釣り上げる。
もっとも、立場上、クリスマスの遊びだけとは、いかない。
政官財関係者6人との渉外も組み込まれていた。
レイが有力者の竿に触っていくだけで魚が釣れ始める
当然、当主の碇シンジも引っ張り出されて、会合に出席する。
「いや〜 素晴らしい釣りです。綾波女史のおかげで、釣りの楽しさを教わりましたよ」
「本当に久しぶりに刺激的な日でした」
「碇財閥の未来は、明るいですな。素晴らしい夫婦になりますな。実に羨ましい」
シンジは、アスカのシナリオに沿って、話題を組み立て。
碇シンジの婚約者、綾波レイは、必要最低限の愛想だけで切り抜け。
マナとヒカリが作って並べられた魚料理のおかげで最高のシチュエーションになっていく。
人脈が広がっていくと、交渉が有利に進んでいく。
それでも、海千山千。
少しでも物事を有利に持っていこうとする欲深な有力者とギリギリまで詰めていく。
「・・・いや、わたしもまだ時期早々だと、説き伏せているのですが・・・」
「なかなかの抵抗で・・・どうでしょう」
「碇財閥も、エヴァ技術公開法側に立って、時代を進めては?」
「反対勢力も切り崩しをかけてきているので」
「そろそろ、NERVの独占状態を止めた方が、風当たりも良くなると思います・・・」
「このままでは、碇グループにも悪い噂が立つかもしれません。本当に心配ですよ」
『この、ええカッコウしいの。欲ボケの、くそジジイどもが恩着せがましい態度を取りやがって』
『条件反射的に他人を利用することしか、考えられないわけ〜』
とアスカが思っていたとしても、精神感応世界から外れた強み。
顔に出さなければ、相手にわからない。
「・・・確か、規格調整と技術的に危険な側面を持っているので」
「法整備の検討をしていると聞いています」
と、表面上は、微笑む。
「どうでしょう。その法整備の件、先にリークしていただけませんか」
「一般大衆に接している者としては、前もって、反応がわかるので」
「何かと、お役に立てるかとも思えますが・・・」
「そうですね “公平” な形でリークされると思いますよ。きっと」
それとなく餌をぶら下げて誤魔化す
『仮に教えても、ギリギリなら時間が足りないわね・・・』
そして、大人しく釣りを楽しんでいる渚カヲルは、別の意味で注目を浴びていた。
畏怖すべき使徒でありながら、チルドレン達と和み。
初々しくヒカリと談笑している姿は、使徒に対するイメージを変えてしまう。
使徒、渚カヲルに対する認識が変わり、宇宙開発の主軸に持っていく。
そして、アスカは、20近い事柄で、約束事を取り付けなければならず。
マナから受け取っているウィークポイントを突き、相手の意図を切り崩し。
それとなく、旨みを与えて、互いの立場を明確にしていく。
懸命に頭を働かせている交渉を進めているアスカに比べ。
バカ殿シンジは、のらりくらりとマニュアル通りの受け答えで凌いでいた。
鉄壁の布陣を要する碇財閥唯一の弱点が世間擦れしていない当主の碇シンジだったりする。
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月夜裏 野々香です。
チルドレンのNERVからの自立編でしょうか。
というより、アスカ任せですね。
最初のヒカリの予言どおり。
社交性無しのシンジとレイの面倒をアスカが見ていくことになりそうです。
また、アスカが先に言い出すことで、
婚約中のシンジ、レイの新邸宅にオマケのマナと上手く入り込む。
という荒業を正当化してしまうのだから、知能犯です。
シンジ、レイ、アスカ、マヤは、次第にNERVの管理下から、
関連企業の株主として、経営者として、頭角を現していきます。
何かと忙しいチルドレンたちですが。
社会というのは、そういうものでしょう。戦ってばかりではいられません。
そうそう、中学1年生のキャピキャピ女の子たちの会話ですが、
バウンドインパクトで、精神性が少しばかり、向上しています。
大人の事情が分かる中学生は、可愛げがないかも。です。
第54話 『レリエルの影』 |
第55話 『トライデント宇宙艦隊』 |
第56話 『高校生になったら』 |
登場人物 | |||