第57話 『飄々と』
学校
昼休みの屋上。
シンジの隣で、レイも昼食を取っていた。
アスカの陰謀でレイは、教師にさせられる。
二人とも互いの関係に距離が出来て戸惑う。
綾波先生は、寡黙で必要最小限の言葉しか使わない。
余計なことを言わず、生徒一人一人に必要な言葉で人気のある先生になっていく。
必然的に生徒が回りにやってきて、一緒に食事になりやすい。
例え婚約者でも、特定の生徒とばかり食事を取るわけにも行かず。
シンジと一緒の昼食も少なくなっていく。
「なに? 綾波・・先生」
レイは、いつの間にか、シンジを見詰めていたのに気付く。
「・・・なんでもない」
先生という言葉に、綾波が頬赤らめて珍しく動揺する。
近くにいる霧島マナがムッとする。
「綾波先生は、職員室で食べなくても大丈夫なの?」
マナは、意図的に先生を多用し、強調する。
「生徒でも・・・あるから」
綾波レイと惣流アスカが教員兼任になったことを一番喜んでいるのはマナだった。
マナは、護衛する側から護衛される側になっていた。
しかし、どうでも良くなっている護衛任務を口実にシンジのそばに張り付いている。
アスカは、離れた場所で女子生徒に囲まれて邪魔はいない。
マナにとって人生最大のチャンスでもある。
しかし・・・・・
「綾波レイは、シンジ君の婚約者なのだから、一緒に食事をするのが自然なんだよ」
「そうよ。綾波さんと碇君は、お似合いよ」
マナは、舌打ちしたくなる。
カヲルとヒカリは、婚約擁護派で邪魔だった。
「でも、学校にいる間は、先生らしいこともしないと・・・・・ね。山岸」
そして、ケンスケ。
こいつは、おかずを少し分けるだけで味方する。
さらに、ケンスケの、お気に入りマユミを一緒の食事に誘って貸しを作り、
万全の体勢を整えていく。
「大変ね。綾波先生・・・・」
「難しく、ないわ・・・」
マナは顔をしかめる。
普通、教職は私生活まで忙殺されるはずの仕事だった。
高校1年で、教職を難しくないといえるスキルの高さは異常だった。
学校が終われば、シンジとレイは、生徒と先生から、婚約者の関係に戻ってしまう。
当然、マナは、学校内にいる時が勝負で、
正妻ボケしているレイを出し抜こうとする、
しかし、間が悪いのか、いつも邪魔が入ってイライラがつのる。
高校を卒業すれば、シンジとレイは、結婚だった。
割り込むには、時間が足りないような気もする。
“婚約” という関係は、マナが思うより絆が強く、強力な防御壁にも思えた。
さらに高校生になると体の凹凸が、はっきりとして、綺麗な女の子も増えてくる。
マナレベルの美人だと、差が縮まったように感じ。
アスカ、レイ、ハルカの超美人レベルだと、差が広がっている。
ヒカリは、恋をしているせいか、とても綺麗に見えて、男子生徒も意識するくらいだ。
ということで、マナは、焦る。
学校が、終わる
シンジとレイ。カヲルとヒカリの二組は、腕を組んで帰る。
マナ、アスカ、チアキ、ケンスケが適当な距離を保って歩くが家に近付くにつれ。
シンジ、レイ、アスカ、マナの4人になっていく。
「シンジ君。今晩は、なにを食べたい?」
「んん・・・野菜かな」 魚に飽きて苦笑い。
「シンジ。今度の日曜日は、オーストラリアの入植地に行くからね」
「げ、原稿。読むの?」
「あたりまえよ」
「なんか食欲がなくなったよ」
「レイ、原稿を作ってたんじゃないの?」
「碇君の端末に入れておいたわ」
「・・・・・・・・・」 憂鬱
「シンジ。本番で、とちらないように。ちゃんと、読んでおくのね」
「・・・・・・・・・」 どんより
「碇君。全部放り出しても、悠々と生きていけるわ」
「・・・・・・・・・」 ほっ
「数万人の社員を路頭に迷わせる気?」
「・・・・・・・・・」 自責
「そうよ。そうよ。碇財閥の当主を捨てるなんて、勿体無い」
「・・・・・・・・・」 ため息
シンジは、勿体無いとも思っていない。
そして、自分がいなくても、数万人の社員が路頭に迷うことはないと思える。
アスカとマナは、財団運営を利用して、シンジと一定の距離を維持しているだけ。
それでも碇・惣流・伊吹財閥連合は、豪州開発の原動力で、
碇シンジは、最大財閥の当主。
彼がオーストラリア大陸に足跡と利権を置けば、関連企業の入植も弾みがつく。
とうぜん、NERV債償還も前向きに早まるのは、計算付く。
綾波レイは、アスカの思惑とマナの動機に気付いても合理性があれば反対しない。
やさしげに見守るレイに気付いて、シンジはテレまくる。
アスカとマナは、ムッとする。
日本の未来。政財界の行方。
国民生活を左右する数十兆円のプロジェクトが個人的な思惑で左右されている。
国民や財団の社員が耳にすれば、不条理さに呆れるだろうか。
それでも、シンジは、日本語だけでなく、
英語、ドイツ語で原稿を読まされ、表面上は、それなりに仕事をしていた。
意欲があって積極的なのか。流されているだけなのか。
気持ちの問題だったりする。
大浴場。
サウナカプセルが並ぶ。
シンジと冬月
冬月副司令の老練さな思考は、シンジに影響を与え、幼児性との離別に繋がっていく。
もっとも、シンジの幼児性がカヲルの参戦を遅らせ。
味方に出来た利益は、莫大で、幼児性の否定ばかりも出来ない。
権謀術数と帝王学による利益追求や分配は、高圧な支配体制と離合集散を起こし、
利害関係を超えた親友を作る上で邪魔になった。
「シンジ君は、第14使徒以降、優れた人事掌握をしている」
「何も考えずにやっていたとすれば、天才だな」
「そ、そうでしょうか?」
「僕には、良くわからないことばかりで・・・」
「普通の人間は、支配欲に駆られ」
「わからないのにわかった振りで物事を滅茶苦茶にしてしまうものだ」
「能力のある者に任せられる度量の大きさは、教育しても、できるものではない」
「それを自然にやってしまえたのは驚嘆に値するよ」
「君の母親ユイ君も、そういった側面があった」
「赤木君と惣流君を引っ張り込んだのも、彼女の手腕だった」
「そうだったんですか?」
「残念ながら君の父親が直接スカウト出来た人間は、わたしだけだったな」
「もっともユイ君がいなければ、それもなかっただろうがね」
「お母さんが・・・・」
「トリニティの計算だと。人類の宇宙開発は、間に合いそうじゃないか」
「ええ、ゼーレと、お父さんが恐れていたことが、わかるようになりました」
「セカンドインパクト前はレッドゾーン。完全に間に合わなかった」
「それが、セカンドインパクト以後でイエローゾーン」
「サード・バウンドインパクト以後は、限りなくブルーゾーンに近いイエローゾーン」
「宇宙開発の進捗度と地球再建の進捗度の比率さえ間違わなければ、問題ない」
「宇宙には、リリスの故郷があるんでしょうか?」
「あるかもしれんな。完全な固体。不完全な群れ。完全な群れ」
「そして、リリスへと進化の階梯を登るとするのなら・・・・」
「我々の進化の最終段階では、リリスと同様のことを他の宇宙ですることになるかも知れんな」
「じゃ 僕がリリスになったとしたら。どこかの宇宙に行って」
「地球の様にファーストインパクトを起こすのですか?」
「そして、使徒戦を?」
「継承戦は、強く、優秀な種子を残す点で成功しているだろう」
「ええ」
「いまでは、そう思えるな」
「競争のない安楽なだけの世界は種が弱くなり。強い種に支配されるようになる」
「・・・そうですね」
「アスカ君は、よくやっている」
「碇財閥は、サードインパクトまでの財閥で資産こそ大きい」
「しかし、潰れて良しの経営だった」
「それをアスカ君は、エヴァ技術の民間流用で立て直した」
「赤木君、伊吹君、朝霧君、レイがシンジ君を支援したかも知れないが相当な手腕だ」
「はい、アスカには、感謝しています」
「ふっ そのうち、高い代償を支払わされるかも知れんな」
「そ、そうなんですか?」
「ふっ まあ、心配するほどのこともないだろう」
大浴場
水面に漂うレイとアスカ。もちろん全裸。
「「・・・・・・・」」
「シンジは、レイのこと知っているんでしょう。あんたたちも、タフな恋愛ね」
「ええ・・・」
「「・・・・・・」」
「それでも、シンジは、レイを受け入れたんだ・・・・意外だわ」
「ええ、意外」
「「・・・・・・」」
「もう少し、早く来ていたらな」
「もう少し、やさしくして、あげれば、良かったのに・・・」
「「・・・・・・」」
「レイだって、やさしかったとは、言えないわね。引っ叩いたって?」
「怒った表情も、良かったって・・・・」
「「・・・・・・」」
「そういえば、レイが怒ったところって、見たことなかったわね」
「そう」
「「・・・・・・」」
「レイが、シンジを好きになるなんてね」
「碇君は、わたしと人を繋ぐ、扉だから」
「「・・・・・・」」
「碇司令とは、どうだったの?」
「碇司令は、別の人を見ていた。そして、別の世界を・・・誰も入り込めない」
「「・・・・・・」」
「・・・・レイ・・・・わたしたちって、戦友よね」
「・・・・そうね」
「「・・・・・・」」
「わたし・・・・意外と・・・レイのこと・・・・好きかもね」
「・・・・・・・・・・・」
綾波レイの正体を知っても “好き” と言ってくれたのは、シンジに続いて、アスカが2人目だった。
『・・・・こ、こいつの笑顔って、英雄殺しね。使い方を誤ったら国が傾くわ』
アスカは思わず、たじろぐ。
その後、レイがアスカに微笑むようになると、ヒカリが、やっかむことになるが別の話し。
アラエル宇宙基地 ラウンジ
リツコ、ミサト
ATフィールドは、心の壁。
チルドレンの心の壁が低くなれば、ATフィールドも比例して弱くなっていく。
そして、精神感応世界は、心の壁を低くしていく。
当然、チルドレンの心の壁が低くなっていくと、ATフィールドが弱くなり、
焦燥感を持つ者が増えていく。
「精神感応世界で個体間の心の壁が低くなって、ATフィールド発生の土壌は弱まっている」
「作戦課は、困るわね」
「変わりに人類の群れ意識が強まって、人類の夜明けとも言えるほど発展している」
「リツコ “どちらも” とは、いかないのね」
「ミサトの物分りの良さで、十分に証明されているでしょう」
「ど、どうせ、そうでしょうよ」
「精神感応世界から外れたシンジ君、レイ、アスカ、ハルカでさえ」
「人間関係が良好になると、ATフィールドが弱くなっている」
「人間関係が薄弱な方が、ATフィールドが強い?」
「ええ。ATフィールドの発生で、そういった傾向は、わかっていたわ」
「推測だったけど。シンジ君、レイ、アスカは、意図的に人間関係が気薄な生活環境に置かれた」
「“かわいそう” と言うべきかしら・・・」
「でも、このままだと、ATフィールドを利用した技術は、低迷していくわけね」
「いえ、宇宙があるわ、人類が宇宙に出て行けば、無機質な死の世界と直面することになる」
「なるほど。死と直結した宇宙空間ならATフィールドは保てる」
「どうしても宇宙に出て行くことになりそうね」
「そういうこと。さらに宇宙の生体と接触すれば、ATフィールドは強まるわ」
ラウンジから見る宇宙空間は、美しかった。
しかし、同時に死と直結した世界が広がっている。
最初にドーナツ型(直径2km)のコロニーが建設され。
シリンダー型(直径6km×全長36km)のコロニーが併設されていく。
閉塞されたシリンダー型の先端に巨大な集光器が作られ太陽光熱を集め。
シリンダーの中心。芯に蛍光灯方式で、光熱源を通した。
これなら1Gのため、回転が速くても、24時間で昼夜を規則正しく分けられた。
完成すれば1000万人が住む工場衛星になった。
ニューギニア ワイゲオ島。赤道近辺
沖合いに軌道エレベーターが、天に向かって伸びていた。
ワイゲオ島には、都市だけでなく。湖、川、海岸など風光明媚でキャンプ地が造られる。
シンジ、レイ、アスカ、マナ、カヲル、ヒカリ、ケンスケ、山岸マユミ、
そして、ミサト、リツコ、天城シロウは、仕事を兼ねて遊びに来ていた。
シンジとレイ。カヲルとヒカリの浮いた関係と違って、
天城シロウとリツコは、しっとり落ち着いた大人の雰囲気があった。
「・・・あんたたち、いつの間にそういう関係になったわけ〜」 引きつる
「あら、ミサト。精神感応世界では、良くあることよ」
「好意を抱いている場合は、わかりやすいでしょう」
「ふ〜ん。気付かないうちに好意を抱くように改造したんじゃないでしょうね」
「あはは」
「ったく。わたしや、マヤも一緒にいたはずなのに。そっちに行くとは」
「あんた。亭主持ちでしょうが」
「・・・・・・・・」
「あら、加持君に見限られたの?」
「っんな。事ないわよ」
「掃除、洗濯、料理くらい出来ないとね」
「ち、ちゃんとやってるわよ」
「はぁ〜」
「な、なに、ため息ついているのよ。ったまにくるわね」
「だいたい、リツコのとこって、メイドにやってもらっているじゃない」
「リツコの料理は、とても美味しいよ」 天城シロウ
「ぅぅぅ・・・・・」
そして、リツコがキャンプ場で作ったカレーは、最高級といえるほど美味く。
マナも舌を巻く。
しかし・・・・
「・・・この計算式や化学式を見ると、どうも納得いかないものを感じるわね」
レシピを見て、アスカが、一言つぶやく。
「本当だ。なによこれ・・・」
マナが覗き込んで呆れる。
「具材。熱と浸透率に冗長性があって、状況によって対応がされている・・・見事だわ」
「レイ。っていうか。あんたもリツコと同類だったわね」
「さすが、トリニティね」
「なっ! 最新最強のコンピュータで何やっているのよ〜」
「リツコのやつ、彼氏が出来たからって、私的に使っているんじゃないの?」
「メイド型ロボットの研究をスタートさせたのは、アスカよ」
「げっ! そうだった」
市場経済は、欲望が渦巻き人の世の行く末を不確定化させる。
「そりゃ、美味いものを食べたいというのは、誰でも思うことだからな」
「それが汎用性が高くて高価でもね」
ケンスケが護身用の銃を手入れしながら呟く。
山岸マユミが物珍しそうに覗き込む。
彼女は、国連代表の令嬢という名目で参加している。
「メガネ。あんたの。その考え方、渚にそっくり」
「渚なら “他人より美味いものを食べるため、人生を賭けるのは、リリンの素晴らしい文化だよ」
「好意に値するね” というだろうね」
「同意だよ。相田君」
「ったく・・・おかげで資源や労力が削がれるわ」
「それでも、趣味で生きられたら。それは、成功した人生といえるね・・・」
「山岸。試しに撃ってみる」
「えっ! 良いの? 相田君」
「良いよ」 ニンマリ。
ケンスケの動機も、意図も、ミエミエ。
しかし、銃を撃ってみたい欲望にマユミは負ける。
沢に行くと川の反対側の木に向けて、手取り足取りしながら、銃を撃たせる。
そして、銃声がキャンプ場に響き渡る。
「きゃっー! 凄い〜 当たった♪」
「山岸は、才能あるよ」 ニタニタ
シンジ、レイ、カヲルは、滑稽な光景を眺めていた。
ATフィールドを展開できる山岸マユミに銃の有用性は、疑わしい。
仮に弾丸をATフィールドで被いながら撃ち出した場合。
戦車を撃ち抜けるだろう。
しかし、使徒レベルのシンジ、カヲル、レイ、ハルカに通用しない。
使徒系人間にすれば、拳銃など銀球鉄砲の玩具に過ぎず。
戦車なら手で、やる方が楽。
「碇君。釣りする? 泳ぐ?」
「つ、釣りかな」 目が泳ぐ。
「シンジ。あんた。まだ泳げないの?」
「ぅぅぅ・・・・」
「碇君。泳げないの?」
「に、人間は、浮くように出来ていないんだよ」
「碇君。人工呼吸するから大丈夫」
「わたしも〜」
レイとマナに引っ張られるシンジは、かなり、みっともない。
「ピ、ピラニアがいたらどうするんだよ」
「この島にピラニアはいないわ。それに海に行くもの」
「サ・・サメがいるよ。きっと・・・・」 シンジ。泣き。
アスカ、カヲル、ヒカリは面白げに付き合う。
泳ぐのが一番上手なのは、綾波レイ。
そして、アスカ。マナが続く。
シンジは綾波とマナに両手を引っ張られ、海中を泳がされる。
2時間後
シンジは、レイに人工呼吸される。
「ふっ シンジ君。僕たちは同じだね」
シンジとカヲルは溺れかけ、砂浜で横になる。
「大丈夫? カヲル君」
「・・・ヒカリ・・・・人はね。水に浮くようには出来ていないんだよ」
「アホが空中を浮くような人間が溺れるな」
アスカは、レイの人工呼吸で不機嫌。
「本当。冗談で溺れていると思ったよ。禍根を絶とうかと思ったけど。寝覚めが悪過ぎるし」
マナも、レイの人工呼吸にむっとしながら呟く
「僕にとっては、生も、死も、等価値なんだよ」
「このボケが! あんた、インパクト起こさないで死んだら犬死でしょ!」
その日、シンジは、レイとマナに海中を引っ張りまわされて溺れるたびに人工呼吸される。
マナの人工呼吸にムッとしながらも、レイは文句を言わない。
人工呼吸なら良いのか? という反応が広がる。
そして、ケンスケとマユミたちが合流。
ケンスケが趣味と実益を兼ねながら写真を撮る。
「リツコ。あんたなんで水着の上に白衣を羽織っているのよ」
「落ち着くのよ」
「あっ そう」
マナがレイに負けまいと一緒に泳ぐが、レイの方が泳ぎが上手だった。
ケンスケは、感動しながらカメラを回し、気になる山岸マユミをほったらかし。
イルカが、レイに近付く。
そして、レイは、イルカと仲良くなったらしく。
レイは、イルカの鼻の上に乗り、
そのまま、一緒に海面を飛び上がり、放物線を描いて海中に飛び込む。
シンジは、砂浜で、ぼんやりとレイに見惚れ、
アスカは隣に座る。
「シンジ。レイって、本当に人間離れしているわね」
「うん・・・」
「まぁ シンジがレイが良いのなら、それは、それで、良いんだけどね」
「うん」
「・・・・・・・」
アスカに哀愁が漂い、
シンジは、思わず。 どきっ! とさせられる。
夜になると花火で遊びつつ、
シンジと仲間たちは動揺する。
レイとアスカが入れ替わり。太陽と月が入れ替わったような状況になっていた。
「アスカって、良いわね」
なんとなく隣に来た山岸マユミが呟く
「なにが・・・」
「だって、哀愁が漂っていて、未知の魅力が全開よ」
「そう?」
「そうよ。微笑んでいる綾波さんが目立たないくらいよ。わざとやっていたとしたら犯罪よ」
アスカが。なんとなく、周りを見渡すと注目されていたことに気付く。
「ほら、これ」
マユミがカメラを見せると。
憂いに満ちて寂しげなアスカが線香花火の明かり、良い具合に映っていた。
「ふっ 美人は、どうやっても。美人ね」
「この映像で相田君は、大儲けね」
「わたしが同じような表情をしても根暗とか、自殺志願者としか見られないし」
「あの・・・メガネが・・・」
「そのうち、良い事も、あるわよ」
「それ、慰めているの?」
「わたしも、ちょっとだけ、碇君を誘ったけど、駄目だったわ」
「ふ〜ん・・・見かけより、積極的じゃない」
「マンネリ化したときを狙うべきね」
「マンネリ化ね・・・・」
「人間同士、いずれマンネリ化するわよ。卒業まで時間もあるし。飽きたときが狙い目」
「まだ。やっていないみたいだけど」
「うそ」
「やることやらないと、マンネリもないわね」
「んんん・・・卒業、結婚まで、切り札を持ち越しなら。ある意味、手強い」
「・・・・・・・」
「碇君。何で波さんに手を出さないのかしら」
「組手やったら、レイが勝つからでしょう」
「それに婚約しているから大丈夫だと思っているのよ」
「そうなんだ」
「シンジは、基本的に対人恐怖症で内向きな性格で、我を通して誤解したまま父親を追放」
「そして、生き別れのまま、父親は人類再構成のために死んでしまった」
「貰った資産も扱いたくないほどのトラウマもあるわね」
「アスカって、そういう男の子が良いの?」
「・・・・・・・・」 ため息。
「・・・・・・・・」
「まさかね・・・」 さらに自嘲気味
「地球レベルで困った父子関係ね」
「ふっ ねえ、マユミ。お父さんは、NERV債のことで何か言ってた?」
「NERV債を最大限に利用して、エヴァ技術の導入するとか、電話でしゃべっていたけど」
「はぁ〜 そうよね」
「嫌なんだ」
「嫌じゃないけど。NERV債とだけの交換は、どうもね・・・・」
「ふ〜ん」
カヲルは、とある劇場に現れる。
16歳ほどの少年が壇上で空間から物を出し入れしている。
手品師の名称は、ニール・ジョンズ・レキシントンで、
観客は宙に浮く黒い幕から出し入れする物を呆然と魅入る。
ショーが終わると、ニール・ジョンズ・レキシントンは、控え室に戻ると、
渚カヲルが突然現れる。
「んん・・・ゾンビじゃないのか?」
「僕は、使徒の渚カヲル」
「使徒〜」
ニール・ジョンズの体が淡いオレンジ色の光で被われる。
臨戦態勢だが、ATフィールド感知器が怖いのか。
力がセーブされる。
「特に、争うつもりは、ないんだけどね」
渚カヲルが失望したように呟く。
これがリリンの自然な対応で、シンジの無防備さが異常だった。
ニール・ジョンズは警戒を解こうとしない。
「何のようだ?」
カヲルは、袋からタイヤキを取り出して食べ始める。
「君も、食べるかい。ニール君」
カヲルは、袋を差し出す。
「いるか! 何のようだ」
「別に。君が危険な存在かどうか、確認しに来ただけだよ」
ニールは “危険なのは、おまえだ!” と言いたげな表情をする。
「????・・・それで」
カヲルが微笑む
「他の仲間は?」
「知るか」
「・・・・・・・・」
カヲルは、タイヤキの入った袋をテーブルの上に置くと。
タイヤキを銜えたまま、消える。
軌道エレベーター コントロールセンター
アスカとレイが執務室に入ると、まだわかっていない業者から贈り物が並べられる。
「またか・・・・」
「そうね」
汚職や背任など、碇財閥は、トリニティの標的になりやすかった。
トリニティは、全ての企業や特許関連、取引まで把握して、一定の以上のモラルを求める。
第3東京市では、マギが当たり前にやっていた事で
トリニティは、さらに権限が強化され、日本全体で運用される。
当然、交易する諸外国も、ルールが当てはめられていく。
限度が越えたうまみは、トリニティの法的な口実を与えてしまう為、アスカも、レイも用心深い。
「・・・ゼーレ系が盛り返している」
「取りこぼし分ね」
営業能力や渉外能力が発揮しにくい環境が作られていた。
トリニティの情報収集能力、比較分析能力、連関合成能力は、圧倒的で人間の想像力を超える。
トリニティーは、腐るほど埋もれた特許を組み合わせて、独自の産業を起こすこともできた。
低レベルの企業は、太刀打ちできないまでも必死に食い込もうとし、
小さなコラムやちょっとした宣伝だけなら問題にならなず。
一時的に一般市場に食い込めてもトリニティが審査すれば、すぐにわかってしまう。
生き残りを賭けて価格を下げるか。
一点、優良主義を貫くしかなく、新規参入企業には、辛い状況。
しかし、性能さえ良ければ、市場経済の干渉こそ受けても規格商品になり。
大規模な資本提携が行われやすかった。
「・・・アスカ。30の新規格が有望視されている。うち、ゼーレ系が6よ」
「そんなものか。でも、トリニティの関連合成能力だけは、怪しいわね」
「組み合わせが過去の特許関連を利用しているだけだから情報量で圧倒しているだけ」
「新規軸になると、どうしても劣るわ」
「トリニティの優先順位で処理して良いわ。それほど大きな問題じゃない」
「ええ」
シンジとレイは、巨大な別荘を呆然と見上げる。
「・・・・アスカ。これも買ったの?」
「建てたのよ。シンジ」
「軌道エレベーターは、世界の中心なのよ。土地の価格も上がるから買い得よ」
「そう・・・なんだ」
「今後は、月資源で、ぼろ儲けするんだから。シンジも気合を入れるのよ」
「また。演説するんだね・・・」 げんなり
「当たり前よ。碇財閥のマイナス部門を一掃して再建を賭けているのよ」
「政官財は、あんたのやる気で、本気なのか、見極めるんだから」
「このまま、資源を枯渇させて、地球にへばりついて生きていくつもり?」
「ま、任せるよ」
「シンジ君は、繊細な上に無欲。おおらかな性格なんだね。好意に値するよ」
カヲルが、シンジの肩に手を乗せる。見詰め合うシンジとカヲル。
「「・・・・・・」」
バシッ〜!
レイが、嫌悪感たっぷりにカヲルの手を弾く。
「渚。あんたね。彼女がいるんだから。シンジに近付くな。男同士で気持ち悪いわね」
「僕が、心を許せる人間は、少ないんだよ」
「使徒のくせに女々しいこと言うな」
「僕に心と心の紡ぎを初めて教えてくれたのは、シンジ君なのさ」
「・・・・・・」 レイ
「ヒカリ〜 この変態をどこかに連れて行って」
「う、うん。カヲル君。喫茶店に行こう」
カヲルがヒカリに引っ張られていく。
「うん。じゃ シンジ君。先に行ってるからね」
「うん、すぐっ・・・」
アスカに口を塞がれる。
「あんたは、演説の特訓よ」
シンジは、同じレベルで会話を楽しめるカヲルやヒカリと、
お茶を飲む方が楽しいに決まっている。
とはいえ、アスカに資産運営を全て任せた手前、逆らえるはずもなく
碇財閥の当主 碇シンジは、アスカに拉致されて行く、
なんとも、やる気無しの男だった。
惣流アスカは、傷心のストレス発散で、シンジに代わって碇財閥を仕切っていた。
伊吹マヤは、選択の余地がないと単純に割り切っている。
その結果、碇・惣流・伊吹連合財閥は、ゼーレ系財閥を抜き、
地球最大最強の財閥になっていた。
日本政府とNERV。国連とアメリカ、ドイツなど、主要各国は勢力の拡大を狙い、
旧ゼーレ残党も巻き返そうとしている。
そして、中国とロシアは、懸命に追いつこうとしていた。
各国、各企業、各勢力は、人類興廃を後回し、
エゴとエゴを衝突させ、ギリギリまで折衝が続く。
軌道エレベーター
地上から2万メートルの展望ラウンジ。
アスカとレイがコーヒータイムで、くつろいでいた。
そこにヨレヨレのジャケットの加持リョウジがやってくる。
「・・・よう。お二人さん。奇遇だね」
「加持さん」
「・・・・・・・」
「手広くやっているね。2人が組んだだけで、政官財の癒着構造は、鉄壁だよ」
「トリニティの組み合わせよ。仮にトリニティが望まなくても最良の選択をするわ」
「ほう、卒がないな」
「加持さん。今日は、政府のお使い。それとも・・・14022号室からの帰り道だったかしら・・・」
「ふっ はははは。参ったね。こりゃどうも」
「ミサトには、秘密にしてあげるから。ICチップを返してもらいたいわ」
いつの間にか、マナが加持の後ろにいて、掌を加持の前に出す。
加持は、あきらめたようにポケットから、ICチップを出して、マナの掌に置く。
「腕を上げたな。霧島マナ君。碇情報部も、なかなかだ」
「加持局長も、いつの間に精神感応を二層に出来るようになって」
「内調も人材で、ゆとりが出来たみたいね」
「ったく。生き難い世の中になったよ。人類補完計画原案」
「まっとうに生きるのも悪くないかもね」
マナがICチップをレイに渡す。
「おや、飼いならされた男は、嫌いじゃなかったのかい?」
「ええ、加持さんのこと。好きよ。だから、次は、見つからないように、がんばってね」
「はははは、アスカも、いつの間にか、大人になっていくな・・・」
「加持さん。タリアテレ。マグレドカナール。クラテッロ。ポルチーニが美味しかったわ。一緒に食べない」
「・・・・・・・・・」 レイ
「レイには・・・ピザね」
肉の苦手なレイが頷く。
アスカがウェイターを呼ぶ。
「ふっ ご一緒しよう」
「レリエルの種子。捜索の報告書に。粗があったけど。食事をしながら、ゆっくりと聞けるわね」
「こりゃ、参った」
「あと、仕事も頼みたいわ」
「加持さんには、セカンドインパクト前の赤ワインも付けてあげる」
加持リョウジは、笑うしかない。
「シンジ君のいるときに来るんだったな。君らの極悪振りを見れば、さぞ退くだろうね」
「降りるときに捕まるもの」
「シンジ君は、相変わらずか」
「ええ」
「ふっ そっとしておきたくなるタイプだな」
「ええ」
「人類の恩人だからな」
「しかし、君たちだけで彼を独占されるのは、困るな」
「あら、シンジの委任を正式に受けているわ」
「ドイツ風にやられると生きにくいな」
「最近は、ラテンも、和風も、取り入れているわ」
「それにマギも、トリニティも東洋的なプログラムだもの」
「完全なシステムなどありえんよ」
「もちろんウィルスや毒性は必要ね。人間の耐性のためだけにね」
「それ以上は、存在を許さないということか」
「加持さんも、性病で、死にたくないでしょう」
加持が負けたという素振りをする。
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月夜裏 野々香です。
学園生活を少しばかり絡めてみました。
エヴァに対する意識が低下した惣流アスカ。
最初からシンジ狙いの霧島マナ。ともに諦めが悪いです。
女性というのは、そういう一面があるかも。です。
天涯孤独の綾波レイもシンジを通して絆が増えることが、まんざら悪くないらしく。
来るもの拒まずの大らかさ。
惣流アスカも、ハルカの件で、レイの正体に気付いていますが、利用する気はないようです。
無理な法案を通して、レイを教員にさせても、
そこまでいくと、シンジやハルカとの関係が決定的に壊れるからでしょう。
何より、シンジに通用しないのであれば、意味がないです。
そして、厄介なことにアスカのレイに対する好感度が上がってしまったことでしょう。
もちろん、恋愛と友情は別ですが、これでは、略奪も気が退けます。
新しいタイトルを考えなければ、
このままごり押しで、第一部完の結婚式まで持っていこうか〜
いや、対使徒・ゼーレ戦が終わった時点で第一部が終わりだから、
結婚式までは、第二部のはず。
あれ、いつの間に第二部になったんだ〜
なんて、メリハリのない、無責任な作者なんだ〜
このまま、続けるのは、無理かもしれない・・・・・・タイトルと内容の違和感が増大しつつある。
第56話 『高校生になったら』 |
第57話 『飄々と』 |
第58話 『良し悪しあり』 |
登場人物 | |||