月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

第58話 『良し悪しあり』

 静止軌道上 アラエル

 シンジがシャンパンをぶつけるとビンが四散。

 大歓声とともに進水式が行われる。

 “何で僕なんだろうか”

 引きつるシンジが思っても、回りがセレモニーを盛り上げていく。

 シンジは、演説を除けば、初号機で土方仕事か、

 シャンパンを割る以外、何もしていない。

 それでも、アラエル要塞からドーナツ型コロニー船 “カグヤ” が切り離されていく。

 「・・・1.2Gは辛くないか。それに、なんか、目が回る」 日向

 「高速回転させないと1.2Gは、無理ですし」

 「無重力で失う重力耐性を回復させなければなりませんから・・・」 

 「宇宙に嫌われているのかな・・・」

 「外に出ると死んじゃいますからね」

 「宇宙大航海時代か・・・」

 

 

 

 月開発の拠点 “カグヤ” は、地球と月の重力場と遠心力が釣り合ったラグランジュ点。

 L1と呼称される宙域に向かっていく。

 4号機とトライデント4機が “カグヤ” を護衛する。

 「・・・また夏休みの宿題かよ。世界中が俺に嫌がらせをしているんだよ」

 ケンスケは、トライデント機のパイロットが公然の秘密なのをくさる。

 「上手いことやるわね」

 チアキは、計画性の良さを褒めてしまう。

 精神感応世界で守秘義務という杓子定規が残されている事がくだらない。

 「使徒襲来と違って、スケジュールさえ合わせれば、良いのさ」

 タダシも、あきらめ気味

 「仕事が、いやじゃないんだよ」

 「形式的な守秘義務で、いつまでたっても、日陰者なのが嫌なんだよ〜」

 ケンスケが落ち込む。

 「また、土方仕事か・・・・・」

 マナも思わず呟く。

 「「・・・・・・・・・・」」

 いっちゃっている。

 カヲルとヒカリは、どうでも良いのか、ぼんやりとしている。

 「「「「・・・・・・・」」」」マナ、ケンスケ、チアキ、タダシ。ため息。

  

  

 相模湾の海沿いにある大豪邸。

 シンジ、レイ、アスカ、マナ、冬月、加持、ミサト、マヤ、山岸親子

 シンジは、中庭にあるスイカ畑を世話をしていた。

 スイカがテーブルに並べられる。 

 「・・・いや、碇総裁にこういう高尚な趣味があったとは、驚きだ」  山岸シロウ

 「本当。碇君。美味しい」

 「ありがとうございます。加持さん。どうです? スイカの味は?」

 「うまく育てたじゃないか。シンジ君。よく出来ている」

 「シンジ君も、スイカを育てるようになるとは、風流だな」

 「加持さんが、やっていたんじゃないですか」

 「シンちゃんも、土いじりなんて、隠居爺さんみたいなことやっているわね」

 「そ、そうですか?」

 「演説で落ち込んだ時、土を弄っていると落ち着くんですよね」

 「ふ〜ん。シンちゃん〜 アスカに、扱き使われて陰に篭もっちゃったのね。不憫だわ・・・・」

 スイカにかぶりついているアスカは、むっとする。

 「ミサト。人聞きの悪いこと言わないで財閥の当主は、財閥の当主の仕事があるの」

 「当主ね〜 傀儡だって、もっぱらの噂だけどね」

 「ぼ、僕には、たぶん、無理だから」

 「ふ〜ん。最近、政官財の癒着とか、天下りとか、社会問題が大きいけど」

 「シンちゃんは、どう思っているの?」

 「えっ 良くわからないけど。いけないことだと・・・思います」

 「・・・・・・」 アスカ、名人

 「・・・・・・」 レイ、達人

 「・・・・・・」 ほか、海千山千

 「・・・・・・」 シンジ、天下泰平

 アスカも、レイも、癒着、天下りの社会問題を潤滑油程度にしか思っていない。

 敵対する企業、官僚、議員や無能な人間を平然と切っていく。

 不良な企業体は、支配下に収まって理不尽に再教育されるか、解体されていた。

 時代の要求だから仕方なくで、一部から赤鬼とも、青い悪魔とも囁かれる。

 しかし、現実にやれる人間は少数派といえる。

 「そんなことより。ミサト、随分、太ったんじゃない」

 「し、失礼ね。アスカ。赤ちゃんよ。赤ちゃん」

 「・・・・加持さん、遂に越えては、ならない川を越えてしまったのね。不憫だわ」

 「な、なにが不憫よ。アスカ。言いたいこと言って。ほら、リョウジも、何とか言ってやって」

 「んん、まあ、お互い様ということだな」

 「俺だって、良い人間とは、言いがたいから分相応というものだ」

 「はぁ〜 加持さんがソクラテス並みの哲学者になるなんて、相当な悪妻振りだわ」

 「あ、あのねぇ〜 これでも、やることやっているんだからね」

 「ミサト。赤ちゃんをゴミと間違えて、一緒に捨てないでよ」

 「な、な、な、なんてこというのよ。あんた〜 くうぅ〜」

 「使徒戦のことがなかったら、張っ倒してやるところよ」

 「それ以前に胎教に良くないと思うけど・・・あっ!」

 「少しは、悪いと思っていたんだ。意外」

 「まぁ〜 他に選択の余地はなかったけど。動機に復讐があったのは認めるわよ」

 「でも、指揮が変わる事は、ないわ」

 「ふ〜ん・・・・このクッキーが償い、かな・・・」

 アスカがミサトの手作りらしいクッキーを頬張る。

 味は、悪くなくて、市販レベル。

 「まぁ〜 まぁ〜 かな」

 「ったく。憎たらしいわね。シンちゃんとレイちゃんは、どう?」

 「お、美味しいですよ」

 「並み」

 「くぅううう・・・」 落ち込む。

  

  

 シンジは、作ったスイカをみんなと食べるため招待した、

 しかし、主催者の思いなど些細なことで・・・・

 政府代表の加持。

 NERV代表の冬月。

 碇・惣流・伊吹財閥のアスカ、レイ、マヤ。

 国連代表の山岸が一緒に集って、スイカを食べて終わるはずもない。

  

 『ねぇ〜 シンちゃん。まだ、レイちゃんと、やってないの?』

 『みんな待っているんだけど』

 ミサトがシンジに耳打ちする

 『な、なに、言っているんですか、ミサトさん。結婚は、高校を卒業してからじゃないですか』

 『味見だけでもしないと。ほら、レイって、高校生になってから、さらに綺麗になっているじゃない』

 『う、うん』

 レイは、天女かと思うほど綺麗になっていた。

 シンジが怖気づいて手が出ない最大の理由といえる。

 『それに、技研の連中が、シンクロ率に変化があるのか』

 『データー待ちで、ウズウズしているの、わかるでしょう』

 『ミサトさんが面白がっているだけじゃないですか』

 『へっ へっ へっ そうなんだけどね。なんか落ち着かないのよね。婚約って』

 『も、もう、利用されたくありません。ほっといてください』

 すたすた歩いていく

 『あちゃ〜』

 その後、仕事に邪魔なシンジをレイとマユミが引っ張り出す。

 こちらは、こちらで、別の問題があった。

  

 シンジを挟んでレイとマユミが海岸線を歩く。

 「・・・ケルベロスの解析で種子のサンプルを投与されて死んだ実験体の数は、全部で40体」

 「ゾンビは、ほとんど、片付いているみたい」

 レイが切り出す。

 「パイロットは?」

 「ケルベロスは、無理ね」

 「山岸さんを除いて、カヲル君が3人まで確認したけど」

 「みんな、大人しいタイプで危険は小さいって」

 「あと、生死不明が、8人。みんな、大人しければいいけどね」

 「知っていることでパイロットの情報はないの?」

 「人種と国ぐらいよ。ほとんど交流はないわ」

 「でも、どうして渚カヲルは、顔を知っているのかしら」

 「全部は、覚えていないみたいだけど。ゼーレの本部も、あっち、こっち、見て回ったらしいよ」

 「ふ〜ん。さすが使徒。でも、ケルベロスに残っていないんだ」

 「物理的に破壊されているから。それにクムラン派は、少数派で、データーも少ない」

 「この前、言っていた。人類補完計画に異を唱えていた一派ね」

 「そう、量産型エヴァをコアで動かせるとわかって、あなたたちを引き取った人たち」

 「不完全な群れを個々に完全な群れにしようとしていたゼーレの一派」

 「元々は、DNAの改良や融合。サイボーグなど、むかしのゲヒルンがやっていたのが、それ」

 「でも、リリスとアダムの発見、エヴァ技術の構築で少数派になってしまった」

 「・・・でも、クムラン派が使徒の種子を使ったのは、考えを変えたということ?」

 「そこまでは、わからないけど。個体維持で彼等なりの自己主張をしているはずよ」

 「そう。でも、パイロットで危なそうな人は、いなかったと思うけど」

 「ゼーレがパイロットで選ぶとすれば、従順な人間に決まっている」

 「でも、レリエルの種子を盗んだ人間がいるわ」

 「リリスもなく。改良されているから単体でインパクトを起こせないけど」

 「彼らにとっては意味があるものかもしれない」

 「当然、レリエルのオリジナルコアも狙ってくる恐れもある」

 「使徒を復活させるの?」

 「改良されても種子があれば、出来るでしょうね」

 「何のために? リリスがないから、フォースインパクトを起こせないのに・・・」

 「人は、元々、全知全能になりたい欲望がある」

 「作られた傀儡としての存在から、自分の意思で存在できる力」

 「創造の力。根源的なものになりたい欲求」

 「人と人との関わりを捨ても、欲しいものかな」

 「人と人との関わりが上手くいけば、良いけど」

 「上手くいかなければ、孤立して、力が欲しくなると思うわ」

 「シンジ君は、小さいときとか、そう思わなかった?」

 「ぼ、ぼくは、投げやりになっていたから・・・・・どうでも良いって」

 「ふ〜ん。人生を投げていたんだ」

 「うん」

 「それが、今では、時の人か、人間って変わるわね」

 「僕が、そうしたいと思ったわけじゃないんだ。みんな、お父さんが仕組んだことだから・・・」

 「いまは、それで、良かったと思っている」

 「良いお父さんがいて、良かったね。シンジ君」

 「その時は、そう思えなかったけど」

 「でも、山岸のお父さんも良い人だと思うよ。アスカは、好敵手だって言ってるけど」

 「本当のお父さんじゃないもの・・・」

 「わたしの本当のお父さんとお母さんは、殺されたの。いまの、お父さんは、養父」

 「そ、そうだったんだ・・・・また、失敗しちゃったね。自分ばかり不幸ぶって・・・」

 「いいよ。セカンドインパクトで、大変な時期だったし。いろいろあるわよ」

 「・・・もう一つの可能性もあるの」

 「レリエルの種子がサード・バウンドインパクトの時、ATフィールドで身を守らなかった場合、再構成されるけど」

 「その場合の変化が、まだ。予測がつかないの」

 「何かに化けるとか」

 「サードインパクトが起きた時。あきらめて、融解」

 「バウンドインパクトで、リセットされた状態で再構築。冬眠に入れば、問題はないわ」

 「良かった」

 「でも、その時。人間が持っていた場合。人間と一緒に再構築される、どうなるかしら」

 「じゃ 山岸みたいに?」

 「体内に投与されていないから。わからないけど。種子本体は絶対量が違うから・・・」

 「種子そのものは、精神感応世界の外側だけど」

 「人間の精神感応世界に対して関心を持つかもしれない」

 「カヲル君みたいだったら。良いけど」

 「・・・そうね・・・」

 なんか、嫌そうな、レイ。

  

  

 月面の極地、クレーターの底、

 4号機が立ち、

 渚カヲルも、なぜかアロハシャツにジーパンというラフな服装で立っていた。

 彼こそ、第18使徒リリン系人類の宇宙への道を切り開いた真の立役者。

 “ここで、良いのかい? 新城君”

 カヲルは携帯で連絡を取る。

 宇宙空間で音声が伝わるのか不明だがATフィールドの効果

 “渚君が、いま立っている正面よ。がんばってね”

 カヲルは、使徒である事実を追認するのに相応しいデモンストレーションだった。

 カヲルは、鼻歌? 混じりに計画書を確認。

 ATフィールドの刃をクレーターの側壁から、

 さらに斜め下に向けて側溝を切り裂いた。

 その後は、側溝の土砂を月面上に移動させていく。

 地下2kmまで掘り進んだ後、地下空間を作り始める。

 カヲルの携帯は、開発衛星で中継され、設計通りかどうか確認されていく。

 そして、純正使徒の渚カヲルと違って、大技しか出来ない4号機(マナ)が支援する。

  

  

 月開発は、地下開発だった。

 巨大な地下空間を地球と同様の空気で満たし、

 居住域を確保して、資源の採取を行わなければならない。

 太陽光熱発電で月極地の氷を融かし、水を地下空間に送り、

 空気と地下水脈を形成。生態系を構築する計画だった。

 力技に限定されパイロットに時間制限あるエヴァ4体より。

 大技・小技が利いて、時間制限がない第17使徒タブリスは、圧倒的に有利で

 渚カヲルは、碇・惣流・伊吹財閥、NERV、日本政府の切り札だった。

 日本列島、フィリピン、ニューギニア、オーストラリアまで地下鉄道を建設して、

 その力を実証しており。

 軌道エレベーター建設も主役を演じていた。

 月面の地下に空間を確保。空気を送り込み。光と水を調整。

 最小限の生態系を構築すれば、酸素は増えていく。

 月軌道上に並べられたユニットボックスを月面に軟着陸させ、

 地下空間へと運び込み。

 エヴァ光質のドームがクレーターを被うように組み立てられていく。

 渚カヲルは、掘り出された土砂を月軌道上まで持ち上げ、

 第一次月面開発が終了する。

 資材が準備されていたとしても、

 これだけの大事業を成したのは、使徒の力だった。

  

 開発ステーション “カグヤ”

 「ご苦労様、カヲル君」

 ヒカリがコーヒーをテーブルに置く。

 「ありがとう。ヒカリ。たいした事ないけどね」

 「そんなことないよ。人間だけでやっていたら、何十年もかかる仕事だもの・・・」

 地球資源枯渇と直結した宇宙開発計画は、至上経済が優先する。

 宇宙開発の基礎を使徒に頼ったマイナス要素は、トリニティで推測、計算されていた。

 本来なら試行錯誤、日進月歩で人材を育成。

 技能や技術、運用や効率を蓄積して洗練させていくべき宇宙開発だった。

 半自立ではないか、という後ろめたさを置き去りにしながら開発が進んでいく・・・・

 月軌道上に持ち上げられた土砂は、固められ、アラエルに運ばれて加工される。

 これを境に碇・惣流・伊吹財閥の株が急上昇して不良部門を一掃してしまう。

    

 その後、工作車両や人型作業機械が月面極地に投入され施工が進んでいく。

 そして、夏休み明け。

 卒業資格を持ったシンジ、レイ、アスカ、ハルカが月開発に投入される。

 ダブルエントリーで休養しながら働ける初号機(シンジ、レイ)と、

 通常の労働条件で働ける二号機(アスカ、ハルカ)は、圧倒的なパワーで地下空間を拡大する。

 宇宙空間は、無重力。月面の引力は、地球の6分の1で健康上の問題があった。

 初号機、二号機ともATフィールドが擬似的に1.2Gを作っていた。

 とはいえ、広い空間で休息することは好まれ、

 パイロットは、重力に対する耐性を失わないように休息する。

 カグヤの展望ラウンジ

 「ふぁ〜 無重力や月世界から、ここに来ると、やっぱり堪えるわね」

 アスカが呟く。

 1.2Gで体重が20パーセント増えても、体力過多な彼女だと気分的なものだった。

 しかし、大多数の作業員は、無重力と1.2Gの重力の差に苦しむことになる。

 実のところ、人工重力か、重力制御の問題を解決しなければ、月での生活は困難で、

 採掘場か、自動生産工場が最良と思われていた。

 「・・・ねえ、シンジ。あんた。しばらく無重力にいたら? 身長が伸びるかもよ」

 「なに言ってるんだよ。ちゃんと伸びているじゃないか」

 シンジの身長は、日本人の平均身長で標準。年齢相応だった。

 しかし、アスカは、シンジより5cmほど高く。

 公の場で一緒に並び難く、気に入らない。

 「ちゃんと、ね〜 牛乳飲んでる?」

 「の、飲んでるよ」

 『こいつ、ウソのつきかた知らないのね・・・・』

 アスカが合図を送ると、1リットルサイズの牛乳が運ばれてくる。

 シンジが青くなる。牛乳が嫌いだった。

 助けを求めるようにレイやハルカを見るが体に良いと判断した2人は、何も言わない。

 少なくとも血の臭いがするLCL液より牛乳の方がマシだった。

  

  

 初号機も、二号機も、土砂が軽いのか。

 驚異的な速度で月の地下空間が広がっていく。

 月極地から天に向かって、月軌道エレベーター伸ばされていく。

 月の軌道エレベーターが完成すれば、地球の軌道エレベーターとデータリンク。

 コンピューター任せで行き来できた。

  

  

 月基地は、太陽光熱集光器で集めたエネルギーでインフラ整備、

 資源の精製、加工、生産体制が整備され。

 採算ラインが乗ると宇宙生活者が増えていく。

 極地を中心に1万923kmの地下トンネルを八本。

 赤道に1本の地下トンネルを掘り進め。

 その後は、エヴァ抜きで開発が進められる。

 使徒の渚カヲルとエヴァは、デタラメなパワーで、それを可能にした。

  

  

 サード・バウンドインパクト後の世界、

 後れを取るアメリカ、ドイツは、NERV債と賃金格差を利用して勢力拡大を図っていく。

 日本の基幹産業に接木した形で、

 エヴァ技術、産業を確立していくのが、合理的な戦略だった。

 むかし、日本産業がLSI開発をやめ、IC開発に集中した経緯に近い。

 エヴァの基礎技術開発を日本任せ。

 エヴァ光質産業の応用分野にソースを集中し、

 勢力を拡大していく方策だった。

 エヴァ光質は、ATフィールドを抜きでも既存の材質より軽量で強靭。高価だった。

 それでもエヴァを建造するより安上がりで、

 擬似質量を持つ量子量ゼロのエヴァ光質を培養。

 資材として組み立てていくと驚異的な性能になった。

 アメリカも、ドイツも、軍需。戦闘機や宇宙ロケットの素材で利用し。

 日本は、民需の方が優先され、

 現段階では、日本が有利で経済格差が広がっていく。

  

  

 国連

 背広を着た白人2人が、ラウンジに座っていた。

 「南米を手に入れても、間に合わない。日米関係が逆転してしまう」

 「というより、欧米と日本の関係がだろう」

 「欧州もアフリカを支配下に入れても負けている」

 「結局、日本を主軸に進めていくしかあるまい」

 「そちらの宇宙戦艦は?」

 「規格部品だけは、何とか培養しているがね。日本から購入する方が早い」

 「日本は、どうやって、エヴァ光質を培養しているんだ」

 「あんなに大量にエヴァ光質を培養できるだけのエネルギーがあるのか」

 「噂だと。加速器を使わなくても、初号機、二号機」

 「そして、渚カヲルで光質を培養させることが出来るようだ」

 「ちっ! 上手いことやりやがって」

 「日本は、月を完全に支配下に入れるつもりだろうな」

 「9本の主線は、ともかく。支線は、独自で開発しても良いんだろう」

 「支線だろう。余程の資源脈に当たらなければ、主流になれないよ」

 「セカンドインパクト以前が懐かしいな」

 「アメリカは、だろう。欧州は、それほどでもないよ」

 「それでも、これほど、国力差が開いたことはないぞ」

 「第二次大戦直後のアメリカ並みだな」

 「それより、ヨーロッパ連合は、アフリカ大陸の入植が遅れていないか?」

 「ヨーロッパ人であることを誇りに思っている人間は多い」

 「移民は、進まんさ。アメリカ人もだろう」

 「過去の栄光だよ。南米人になりたい者は、少ない」

 「日本人の様にさっさと、動けるのは、そういった思い入れが少ないのかな」

 「いや、人口爆発だろう。急速に人口が増えている」

 「水田が牧畜より扶養人口が大きい」

 「そして、惣流アスカと綾波レイ。あの2人は、かなり、あくどい詐欺師だ」

 「移民政策が上手いのは認めるが政府も、NERVも、良いように動かされている」

 「あれほど、見事な統制経済は、歴史上、例がない」

 「トリニティのおかげだろう」

 「効率の良さは認めるがコンピューターに支配されたいとは思わないね」

 「トリニティか・・・人間の邪推な側面も予測する」

 「気持ち悪いほど、群集心理も理解している。アメリカは、導入しないのか」

 「いや、あそこまでの支配を受け入れたくないね」

 「アメリカは、自由で個人主義の国だからな」

 「同感だ。しかし、別の理由だがね」

 ロシアが中東域で欧州連合と衝突。

 そして、ロシアと中国がインド域で衝突し、アメリカ、欧州連合が介入していた。

 紛争地域は、次第に血生臭くなっており、

 日本だけは、我関せずで宇宙開発に力が注がれていた。

  

  

 月開発が軌道に乗ると物流の流れが変わって行く。

 基本となる全長36km×直径6kmのシリンダー型コロニーを埋め込める小惑星の開発。

 小惑星開発は、引力を考慮しなくて良いため月開発より容易だった。

 問題となるのは、小惑星を刳り貫いて自転させる中心軸のぶれ。

 あとは、凝固剤とエヴァ光質で小惑星の内側を固めて施工。

 アラエルで建造した円柱型コロニーを刳り貫いて、

 中に差し込んで固定するだけだった。

 ここでも、渚カヲルとエヴァ4機の力は、大きかった。

  

  

 某小惑星の部屋。

 ランニングチェアでアスカがコーヒーを飲み、くつろいでいた。

 シャワーを浴びたレイが出てくる。

 「レイ。やはり、小惑星は、運用が楽ね」

 「ええ、無重力に近く。Gも自由に設定できる」

 「水と空気さえ確保できれば、あとは、環境も望みのまま」

 「月も、その気になれば、1Gに出来るけどね」

 「・・・軌道上で、グラフェンで月を被って蓋をすべきね」

 「大気圧で調整すれば、1Gにできる」

 「月の地下空間でも、できないことはないけど」

 「大規模にやるならグリットで太陽光熱も調整できるから火星と金星でも使える・・・」

 レイが下着を付け始める。

 「火星と金星。テラフォーミングのテストケースになるわね」

 「アメリカと欧州連合の宇宙艦隊を軌道ステーションだけに制限できるのは良いかもしれない」

 「何年先になるやら。きっと代償を求めてくるはずよ」

 「既成事実を先に作ってしまう手もある」

 「・・・妥協しないと戦争になるかも。つまらない地域紛争じゃすまなくなる」

 「アメリカも、ドイツも勝てない戦争はしないわ」

 レイが室内着を着る。

 どれも婚約者のシンジが買った物だ。

 というより、自分では、必要最小限の物しか買わない。

 「大人しく退いてくれれば良いけど。造ってしまった後に少し妥協するだけ、も良いわね」

 「ATフィールドを展開できなければ、エヴァ光質も通常の資材として使う以外にないもの」

 「それでも、宇宙戦艦を建造するわね」

 「こちらも宇宙戦艦の建造を検討すべきかしら」

 「検討だけならしているわ。予算を回せば、いつでも建造できる」

 「今のところ必要ないわね」

 「対人戦闘は嫌だけど、エヴァ4機、トライデント4機は、ATフィールドが使えるから圧倒的よ」

 「日本も、エヴァ光質でトライデント機を製造しているみたいだけど」

 「コア、ATフィールド無しだからランクとしては、落ちるわね」

 「でも、わたしたちも以前の様に、強力なATフィールドを展開できなくなってきている」

 「人間的に丸くなってきたせいかしらね」

 「考えものね。群れ意識の強化と個別化によるATフィールドの強化」

 「あの渚カヲルでさえも、ATフィールドが低下していると報告している」

 「仲間意識が強くなって、心の壁が弱くなっている」

 「良し悪しあり。どちらも取る事は出来ないわね」

 「ゼーレは、リリン全体を液化融合することで外界に対して地球規模のATフィールドを発生させるつもりだったわ」

 「赤い海の世界?」

 「最初のうちだけ。100年もすれば、青白く発光して」

 「1000年後には、液化人間を分離して、宇宙も進出できるようになるわ」

 「計算上でしょう」

 「ええ」

 「増殖は、無理なんでしょ」

 「単体では、不可能ね」

 「不完全な群れから。完全な固体か・・・・」

 「正確には、不完全な群れから、完全な群集意識体ね」

 「レイ。12個のコアと4000万の精神だけで、それが出来ると思う」

 「群集意識体としての意思の総力が足りないから、10000年くらい必要ね」

 「液化人間を分離できるようになるまで、100万年」

 「随分、長生きね」

 「それも、計算ずくよ」

 「死期がせまった人間がゼーレのコアに入りたがっているわ」

 「その永遠の命のために」

 「それは、トリニティも、予測している」

 「それで、計算が変わってくるわね」

 「ゼーレ球は、増殖できなくても、増殖するための供給源を得られて、内心は、喜んでいる」

 「ケルベロスの補完計画は、依り代になる男女を残す案もあったから」

 「なによ、それ? 新世界のアダムとイブ?」

 「意識を増殖させるためだけの媒体。素材。それほど、期待していたわけじゃない」

 「誰がなるの?」

 「サードインパクトで、ATフィールドで心身を守れるのは、エヴァのパイロットしかいないわ」

 「じゃ 初号機と二号機? げぇっ!」

 「結果は、逆になったわ。こちらが主流」

 「レイのおかげでね」

 「碇君が、望んだことだもの」

 「そこで、バカ殿シンジに行き着くのか」

 「碇君は、バカ殿じゃないわ」

 「渚カヲルを味方にしたのは、褒めてあげても良いけどね」

 「わたし達には無理だから」

 「・・・・・・・・」

 「なに、殲滅したかったわけ?」

 レイが頷く。

 「あんたね〜」

 「いつも、碇君と一緒にいようとするもの」

 「男にやきもち焼くな」

 「・・・・・・・」  ムッ

 「まあ、思うだけなら良いけど」

 「でも、ゼーレ球に入りたがる人間が増えれば計算より早くなるわね?」

 「ええ、でも高価だけど脳だけ移植したサイボーグを生産できるわ」

 「だから、延命の選択の道は、ほかにもある」

 「サイボーグだと永遠は無理よ」

 「その気になれば、電子頭脳にニューロンもシナプスも焼き写して」

 「もっと長生きさせることが出来る」

 「ピンとこないわね」

 「ええ、私たちには、まだ先の話しだもの」

 「そうね」

  

 セカンドインパクトは、南半球の環境を壊滅させただけでなく。

 北緯20度以南にも、深刻な打撃を与えていた。

 そして、サード・バウンドインパクトで再構成で、ようやく南半球の環境が回復。

 ミャンマー、インド、中東、北アフリカ、メキシコなど、

 再建に向かおうとする国々も援助を必要としていた。

 それらの国々に対し、欧米やロシア、中国が積極的に介入。

 アメリカ、ドイツは、エヴァ光質で組み立てられた機体を繰り出し、

 支配権、勢力圏、利権を確保しようと躍起になった。

 精神感応世界でも、紛争が起こるか、というと、結果的に起きた。

 そして、精神感応世界でも紛争になると有視界戦。

 あまりに刺激が強いと悪夢という形で全世界に広がっていく。

 戦争指導者は、他人の子供が死んでも紛争を止めようとは思わない、

 しかし、その悪夢が主導者層と、その子弟に及ぶと状況が違ってくる。

 自分や自分の家族に悪影響が及ぶと気が弱くなり。

 紛争は急速に萎み。

 主要国は、積極的に介入して、紛争を無難な形で収めていった。

  

  

 アラエル軌道ステーション

 赤木リツコ、朝霧ハルカ

 「レリエルの種子。そのサンプルを投与された人間は、60人、いるはず」

 「もっとも種子が発動したのはサード・バウンドインパクトが終わったときだから」

 「生きているかどうかは、不明だけど」

 「破壊された施設の状態だと、3分の2以上が死んでいても、おかしくない」

 ハルカは、パチパチとキーボードを叩いていた。

 「ハルカ。アダムの種子は、投与されていないのね」

 「アダムは、改良した後だからサンプルを抜き取ることは出来ないはず」

 「抜き取ることが出来るのは、レリエルの種子だけ」

 「それが最終決戦のときにレリエルの種子を持ってこれなかった理由で」

 「司令を日本に戻した理由?」

 「そればかりとはいえないけど」

 「どんなに腹を立てても、あの髭親父を止められる人間は、多くない」

 「何度も、使徒から人類を救っているもの」

 「そう。でも、レリエル系で再構築された人類か、危険だけど多様化していくわね」

 「ところで、リツコちゃん。結婚式はいつ?」

 「来月」

 「やっと、まともな幸せを掴む気になったわけね」

 「リツコちゃんの旦那様の捨て身の慈愛に感謝しないとね」

 「言うわね・・・」

 「養ってあげるの?」

 「まさか、あれでも、自立しているし」

 「自立させたんでしょう。天城流空手」

 「基礎で、それだけの内容があったわ。殺人が減少しているし、ちょうど良いのよ」

 「殺人が減ると。人口が増えるわね」

 「口減らし? 自殺で、釣り合いが取れるわ」

 「自殺するなら、ゼーレ球に行くでしょうね」

 「歳を取ったらリツコちゃんは、どうするの?」

 「・・・もし、行くとしたら。ゼーレ球でなくて、別のコアね」

 「そう・・・どちらにしろ、ゼーレ球の勢力は、拡大されていくでしょうね」

 「それに選択枝が違っても元は人類。保険は、重要よ」

 「そうね」

 「どっちが正しかったかしら」

 「さぁ でも、どっちが正しかったかなんて・・・」

 「どちらも正しく。どちらも間違っていた可能性もあるわね」

 「失われたリリスは、大きいかもね」

 「・・・・・・・・・」

  

  

 

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 月夜裏 野々香です。

 セカンドインパクト、使徒戦、人類最終決戦を切り抜けたあと。

 宇宙進出の幕開けです。

 月も良いけど、小惑星もね。という感じです。

 現実には、どちらが良いのでしょうか。

 即効性と場を制す小惑星?

 資源など質量差で圧倒的な月?

 使徒 渚カヲルが開発の主役で、

 生き残った人々にとっては、感慨深い、出来事でしょうか。

 不安定要素も人類(リリン)に最大の被害を与えているのは、人類(リリン)ですが、

 人外? リリスの兄弟の脅威が存在した場合は、どうでしょうか、

 人類(リリン)は結束できるでしょうか。

 それとも内戦が困難になったリリンは、人口が増えていくだけ、

 人口問題のために別種の敵が必要でしょうか

 人類(リリン)は、意外に凶暴で凶悪かもしれません。

 別種の敵も不幸かもです。

 その母体であるリリスを消滅させたのですから。

 しかし、どちらの選択が良かったのか、

 テレビ版(人類補完計画ゼーレ案)と違う。

 もう一つの結果になってしまった人類の行く末でです。

  

  

  

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第57話 『飄々と』
第58話 『良し悪しあり』
第59話 『そこに山があるから』
登場人物