月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 

   

第62話 『トリニティの憂鬱』

 月(地)平線の向こうに地球が浮かんでいる。

 地球が外に向かう世界なら。月は、閉鎖的な内なる世界といえる。

 普通の人間が素で外に出ると、一瞬で死ぬのだから安全な地下へと向かう。

   

 宇宙条約は、相互主義であり、等価交換を前提としている。

 領土を主張することはできなくても現実に開発している国は、どうしても強かった。

 自力で月まで、これないような国は、まず相手にもされない。

 

 宇宙戦艦エンタープライズ (全長100m×全幅160m×全高15m)

 「・・・ハルゼ艦長・・・・あそこに渚カヲルです」

 「ちっ! 涼しい顔しやがって」

 「わたしも真似して出てみたいですね」

 「いや、エリオ・ホーネット少佐。君は、大切な切り札だよ」

 「たぶん、バレているはずですよ」

 「それでも見せびらかすことはない」

  

 月面で違和感があるとすれば、アロハシャツとズボンで涼しげな渚カヲルくらいだろうか。

 「アメリカと欧州連合の宇宙船か・・・」

 月に向かって2隻の宇宙船が降下しようとしていた。

 月の軌道エレベーターを使えば良いのに、

 直接、宇宙船で月面に降りてくるのは、彼らの意地でもある。

 国内向けへのプロパガンダ。

 国威掲揚と挙国一致で、最初だけでもと、燃料を浪費させる。

 地球の6分の1の引力に引かれ、逆らうように逆噴射をしながら降下。

 レゴリス(未固結堆積物)を吹き上げ、撒き散らしながら月面に着陸した。

  

 トリニティ制御のエヴァングやロボットが月面で働いている。

 月資源で主要な鉱物は、輝石、カンラン石、斜長石、イルメナイトなど約100種類。

 月面は、隕石の衝突で粉砕されたレゴリス(未固結堆積物)で覆われていた。

 レゴリスの約45パーセントが灰長石(セメント)。

 約15パーセントがイルメナイト(チタン、鉄、酸素)。

 太陽風ガスが吸着しているレゴリスは、200〜900℃の加熱で、

 水素、水、He、CO2、メタン、窒素に分離される。

 10万トンのレゴリスを採掘処理すれば、1kgのヘリウム3が得られた。

 そして、50kgのヘリウム3で、発電所(100万kW)の発電量1年分と同等の電力が得られる。

 ヘリウム3ならエヴァングに内蔵することも可能で

 エヴァングの消費電力は、発電所のそれより小さかった。

 とはいえ、技術的な問題もあった。

 核融合炉では、一億度以上の熱源をエヴァ光質の防壁が覆う。

 二号機が浅間山の火口から潜った時の熱が2000度で

 高温圧力と直接、触れるか、触れないかの差でもあった。

 原子炉の大きさを如何に小型化するかで国力と、技術力の差が現れてくる。

 また、熱を効率良く電力に転換できるかにもよる。

 ヘリウム3核融合電池を開発した国が次の世紀を握るため主要国は注目していた。

  

 先行する日本(碇・惣流・伊吹財閥)に少しでも遅れをとりたくないと、

 アメリカと欧州連合は、月面に宇宙船を着陸させたものの、

 降りてきたのは、日本製のエヴァングとロボットだった。

 そして、今後、アメリカであれ。欧州連合であれ、

 月に来るのも日本の軌道エレベーターを使うしかなかった。

 

 

 月開発で先行している日本は、南北の極地から8本。

 赤道で1本の主幹線地下空間を開発しつつあった。

 渚カヲルとエヴァ4体の力は、デタラメ級といえる。

 アメリカと欧州連合に残された道は、日本の主幹線地下空間を借りて、

 支幹線地下空間を伸ばしていくだけだった。

 それも、日本(碇・惣流・伊吹財閥)からトリニティ制御か。旧タイプのマギ制御を購入し、

 開発を進めなければ採算が得られず、

 エヴァングとロボットを購入しなければ、作業も進まなかった。

 そして、人間の生活空間を確保するため莫大な資金を必要とした。

 アメリカ・欧州連合は、日本の技術・利権に接木しなければ採算が得られず。

 力関係は、ますます開いていく。

 とはいえ、まったく、有効な独自の戦力がないわけでもなかった。

  

 欧州連合 宇宙戦艦アルプス (全長88m×全幅130m×全高12m)

 「・・・リュッチェンス艦長。冬月副司令との会食。間に合いそうですね」

 「欧州連合の名誉と伝統にかけて、時間に遅れるような事があってはならん」

 「ええ」 苦笑い。

 「アーク・ヴィクトリア少佐。わかっていると思うが・・・・・」

 「自重しますよ」

  

 この時期、トリニティと同様。自律系ロボットの信頼性の問題もあった。

 アシモフのロボット3原則だけでなく。

 優先順位の問題が残るが、ブッタ、キリスト、孔子、孟子、孫子など、

 聖人・賢人級の教理・内容をパターン化。

 プログラム化することも可能で並の人間よりモラルが高かった。

 精神感応はできなくても人間の思考・行動パターンは限られ

 人間以上に人間分析ができた。

 トリニティは、情報さえ、与えれば、個人の思考・行動パターンを的中させてしまう。

 未来予測で個人の起こしうる不正腐敗の見当を付ける事も可能だった。

 ここで、トリニティの事後対処を前提にした公平さと、

 精神感応で実証もされていない事柄を人格的に判断し、

 集団から生活が阻害されてしまう個人のギャップも生まれる。

 “思うだけ”は、犯罪でないと理論付けるトリニティと、

 精神感応で資質がわかってしまうのだから、現行法が駄目でも、慣習法で・・・

 と人権無視しやすい人間たち、

 法の抜け道を模索し、法を我田引水でスレスレで、利用している人間もいた。

 その代表格が精神感応世界から外れて有利な惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイだったりする。

 現実に法を守り、不正腐敗と戦っているのはトリニティで

 トリニティが社会で、もっとも利他的で良心的な存在といえた。

    

 

 海岸の大邸宅。

 シンジは、電話を取った。

 『・・・・の準備ができたと、惣流社長に、お伝え願えませんか』

 「あ、はい」

 アスカを呼び出すが出てこない。

 マナは、仕事。

 レイは、海岸で釣り。

 仕方なくアスカの部屋に・・・・・・・

 ノックをするが、出てこない。

 ガチャッ!

  

 「・・・アス・・・カ・・・・ぅゎわあああ!」

 目を覚ます。アスカ。

 「・・・シンジ・・・・・あ・・・み、見たわね・・・」

 「あ・・わわ・・・わ・・・ち、違う!」

 「・・・違う? 今も見てるでしょ! あんた!!」

 「ご、ごめん、アスカ」

 慌てて、部屋を出て行く、シンジ。

 不適に笑うアスカ。

 こういう貸しを積み重ねて、シンジから主導権を奪っていく。

 レイにばれても効果はないが自責の念に駆られやすいシンジには、十分効果があった。

 マナと違う意味で、アスカも、狡猾といえる。

  

  

 ちゃぶ台を囲む シンジ、レイ、アスカ、マナ。

 魅力的な美人メイドがケーキセットを並べる。

 ・・・そして・・・・・

 「おらぁあ〜! お茶がぬるぃ〜!」 アスカ

 シンジ、レイ、マナは、ちゃぶ台から、自分のケーキセットを退避させる。

 ちゃぶ台が引っくり返され。

 「きゃ〜」

 アスカが箒を持って、メイドに折檻を始める。

 「お、お許しください。ご主人様〜」

 声優並みの美声だろうか。

 「オラ、オラ、オラ、オラ」

 アスカがメイドを足蹴にするとメイドが艶かしく涙ぐむ。

 「どう、碇君?」

 「・・・な、なんか、かわいそうだよ」

 「そう・・・」

 涼しげなレイが退避させたコーヒーを口に含む

 「機械も、かわいそうなのね・・・」

 メイドロボットの表情に思わず。

 グッと込み上げてくるものがあるが制御プログラムのテストをしているだけ。

 肝心なのは、如何に人間好みの反応をするか。である。

 一つ一つの動きなど滑らかで良く出来ていて、シンジは、止めようとするが、

 アスカは、ストレスを発散していた。

 なにやら、表情まで怪しくなっていく。

 「あ、あれ〜 そ、そんな、ご主人様〜 ご、ごむたいな・・・」

 「ア、アスカ・・・」

 「えっ! シンジ。なに?」

 「な・・なんで、服を脱がせているのさぁ」

 「シンジが、やりたい?」

 首を振るシンジ。

 「楽しいわよ。人間にやったら犯罪だけど」

 恥じらい、涙ぐむメイドロボット。人間以上の仕草に思わず。同情してしまうシンジ。

 「感心するほど、良く出来てるわ。さすがトリニティ」 マナ。

 「必要とする機能は、全てプログラムされているわ」

 「で、でも。やっている相手がトリニティだと、なんか、興醒めね」

 「高く売れるもの・・」

 「まぁ〜 人間の欲望なんて、そんなものか。男版もあるんでしょう」

 「あるわ」

 「むふ♪ はけ口ができて、人口問題も、落ち着くかしらね」

 「まだ、一般市場に出さないもの」

 「でも、いつからポン引きみたいな仕事まで、やるようになったのかしら」

 「違う、真っ当なメイド・・・結局、使う側。人間性の問題・・・」

 「はぁ〜 人間って、ロクでもないわねぇ・・・ねぇ シンジ君」

 「う、うんん・・・・」

 「あらぁ〜 シンジ君。その気になっちゃった? なんなら・・・・わたしが・・・」

 「婚約者の、わたしが、いるもの」

 「げっ!」

 「・・・・・」 ドキドキ

 「シンジ君〜」 ウルウル

 「あ、い、いや・・・そ、そんなことないよ・・・・あはは・・・」 目が泳ぐ

 「あれぇ〜〜っ!!!」 メイド

 「「・・ごくんっ・・」」

 「・・・・・」 レイ

  

 某国の人間たち

 「聖人・賢人級の倫理プログラムがされたトリニティに・・・」

 「日本人は酷いことをする・・・」 とぼやき。

 「いや、彼女は、4分の3がドイツ系で・・・・・」

 「やっぱり、ドイツ系は、人でなしだな・・・」 と呆れ。

 「いや、楽しむのは、アメリカ人だろう」 と言い返す。

 「いや、ビールを飲んだドイツ人のモラルは、最強・・・」 と絡む。

 見ている者たちは、ニヤニヤしている。

 例え精神感応で品性を問われても、需要のある方に惹かれやすい。

 産業は人の欲望に従う。

 世の中、金だった。

  

  

 NERV

 地球軌道ステーション衛星

 赤木リツコ、朝霧ハルカ

 建造されているのは、虚空潜航艦レリアース (全長160m×全幅24m) の葉巻型。

 略して虚数艦。

 管制は、搭載されたトリニティが行なうため世話要らずの優れもの。

 「ハルカ。思ったより、早く建造できそうね」

 「ええ、ゼーレ球とリツコちゃんのおかげかな」

 「でも、虚数空間世界で役に立つかしら」

 「それを確認するための虚数艦レリアースよ」

 「アダム・レリエル系の合成光質で建造された艦がどの程度役に立つか。見ものね」

 「ATフィールドの関係で基本はレリエル光質よ」

 「不足分を合成光質の船殻で補っている」

 「でも、彼女一人だと、少し不安ね」

 「トリニティ装備よ。エヴァングも6体、ロボットも12体も搭載しているわ」

 「居住区間は、一人だと贅沢かもね」

 「寂しいかもしれないということよ」

 「あら、トリニティがいるわ」

 「エヴァング6体とロボット12体の個別パラメーターを変えると別人格」

 「それも、人間より善良よ」

 「少し刺激に欠けるかな」

 「確かに善悪込みで人間の方が刺激あるけどね」

 「マユミちゃん。調子はどう?」

 『良いと思います』

 「そう、ハーモニックス率43パーセント。シンクロ率58パーセント」

 「さすが、レリエルの種子と一緒に再構成されただけはあるわね」

 『はぁ』

 「マユミちゃん。計算どおり。レリアースの大きさに反比例して、神経伝達が遅れるわ」

 「つまり、エヴァンゲリオンのような戦闘向きな大きさより。大きいということ」

 「そのため、探索移動基地といった。任務になっていく」

 『はい』

 「あまり大きくすると動きが遅くなって、ATフィールドも脆弱になってしまうの」

 「一応、エヴァンゲリオンも1体だけは、搭載できるように設計されているけど」

 「それが限界といえるわね」

 『はい』

 「虚数艦レリアースが就航したら、虚数空間の探索に行ってもらうことになるわ」

 『はい』

 アダム・レリエル系光質で合成された物質で建造された宇宙艦。

 それに不定形のレリエル・コアの光質を融合。

 ATフィールドを維持しながら、強靭な艦体として建造されていく。

 レリアースは、エヴァンゲリオンを1体搭載し、虚数空間での対応能力も高いといえる。

 「ハルカ、どのエヴァを搭載する?」

 「そうねぇ ダブルエントリーできるシンジ君、レイ、アスカが予備役扱いだから」

 「4号機で新人から選ぶか・・・」

 「基本的には、生命維持を優先して」

 「エヴァンゲリオンの搭載は、ある程度、探索が進んでからかしら」

 「就役は、もう少し先だから、慌てることもないけど。それで、調整はできるわね」

 「ええ」

  

  

 高校生にもなると、心身とも大人に近付いて、色恋沙汰も具体的になっていく。

 それでいて、一度、サードインパクトで溶け合っているせいか、妙に達観だったりもする。

  

 碇財閥の当主 碇シンジも、卒業まで綾波レイと、婚約生活を楽しみたいと思っていた。

 しかし、そんな、シンジのささやかな想いを周りが見守るはずもなく。

 教員兼任の無機質な婚約者、綾波レイがいても手を出したくなる。

 功名心、野心的な女の子たちが機会を狙っては、シンジにチョッカイをかけ始める。

 シンジは、その、ハッキリしない性格から、標的、巻き込まれ型になりやすく。

 女の子たちから、誘惑されたり、

 声を掛けられたりするので、シンジも内心穏やかではなく。

 はたから見ているマナ、アスカは、気が気ではない。

 それは、恋愛対象としてだけでなく。

 碇財閥の命脈まで左右する事柄にもなっていく。

 碇シンジとつり合わないほど可愛い娘もいたりするのだが、そこは、それ。

 リリン世界を救ったパイロットで同じ学園に通っている。

 一見優男で、平凡で、華奢で、大人しく、刺激が少なくても、頭も良く、格闘技も強く。

 お金持ちとなれば、話しは変わってくる。

 引っ掛かれば、一生、安楽で、贅沢できて、華やかな世界で、バラ色かも・・・・・

 「シンジ君〜 勉強、教えて・・・・」

 「碇君。お弁当食べてください!!」

 「シンジ君。好き・・・」

 「シンジ君と。デートしたいな・・・・」

 「碇君。お手紙、読んでください!!」

 そして・・・・・・

 「シンジ君。わたし尽くすタイプなの・・・」

 「わ、わたし、碇君の愛人でもいいから・・・・」

 「碇君。一度で良いの・・・わたしの想い叶えて・・・・」

 卒業前の上級生の捨て身の攻勢にシンジもタジタジだったりする。

 シンジとレイの会話も・・・・・

 「もう、用済みなのね」

 「ち、違うんだよ。綾波〜 (って、どっちが?)」

 といった会話が、あったとか、なかったとか。

 中には、綾波レイの変装などして、手段を選ばなくなったり。

    

 精神感応世界、最初は、不純な動機でも、女の性。

 思いつめてくると本気になったり。数で勝負したり。ややこしい。

   

 「・・・好きになっちゃダメですか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 シンジ

 ざわ、ざわ、ざわ・・・・

 数で・・・・

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 シンジ

 人間、隙があって、人が良いと御しやすいと想われるのか、

 余計なことで、損をしたりする。

  

 「それはね。女難って、言うんだよ。シンジ君」 カヲル

 「・・・カ、カヲル君。しばらく、そばにいてよ」 泣き。

  

 まず前提条件で使徒で

 トリッキーで、カッコ良過ぎるカヲルは、付け入る隙がないのか、安全地帯にいるらしい。

 というわけで、シンジとカヲルは、一緒にいる事が多かったりする。

 もっとも、レイが、嫌がったり。

 アスカとマナが、渋々、賛成したり。

 微妙な人間・使徒関係といえる。

 

 

 火星開発プロジェクトの素案自体は、いくつかあった。

 適当と思えるのは、近場の小惑星を開発コロニーに改造し、

 軌道修正しながら火星軌道へと行く方法。

 開発空母を送るより、資材の点で有利。

 しかし、速度で遅れる。

 当然、コロニーであることから人間の居住も早かった。

    

フォボス                      ダイモス

 

赤道面直径 (km)

表面積 (ku)

質量 (kg)

 平均密度

表面重力 (m/s2)

脱出速度

表面温度

自転周期

フォボス

(不安)

26

(×18)

6,100

1.08×1016

 2.0 g/cm3

0.0084 - 0.0019

0.011km/s

233K

7時間 39.2分

ダイモス

(恐怖)

15(×12.2×11)

 

1.8×1015

1.7 g/cm3

0.0039m/s2 (3.9mm/s2)

0.0069km/s (6.9m/s)

233K

6時間 17.9分

 

 フォボス、ダイモスの開発は、陣取り合戦で勝てば良いのであり、

 アメリカや欧州連合より早ければよかった。

 もっとも、あまり、ゆっくりし過ぎると共同開発となって、うまみが減る。

 というわけで、適当に引き離した状態で確保する事になっていた。

 フォボス、ダイモスとも、炭素を多く含む岩石と氷で、使いようのある資源といえた。

 何より、適当な場所に惑星開発コロニーを拠点にできるのは、利便性で優れていた。

  

 金星は、地球圏から開発コロニーを運ばなくてはならない。

 まず、太陽光熱線を遮らなければならないのだが、これも一苦労。

  

 そして、これらの開発も、トリニティが合理的な行程計画を作っていた。

  

 

 どこか、偉い人の部屋

 数人の男たちが、資料を見ながら算段している。

 「結局、アメリカ合衆国と欧州連合の動きに合わせて、になるのか?」

 「こちらも、東南アジアとオセアニアに予算を向けないといけませんし」

 「先行すればいいだけですから」

 「アメリカも南米。欧州連合もアフリカ大陸の移民と開発で厳しい予算割りだからな」

 「宇宙開発は、だいたい、わかるよ」

 「軌道エレベーターの建設は、アメリカがアマゾン河口のマラジョの島」

 「欧州連合が東アフリカのジャマーメか・・・」

 「建設を遅らせるとかはできないのかね」

 「あれが建設されると、こっちもアメリカ、ドイツの宇宙開発を把握できなくなる」

 「さっさと建設する方が碇・惣流・伊吹財閥も建設費が浮いて良いんですよ」

 「進捗率を早める事があっても、延ばしたりはしませんよ」

 「企業論理か。日本としては手軽な東南アジア・オセアニアを進めたいがな」

 「NERV債の返済とも、密接に関わってきますので、自然に任せるほうがいいかと」

 「企業の利益追求も、わからなくないがね。国家安全保障も自然ではないかね」

 「国家安全保障だと。米独の軌道エレベーター建設は、利敵行為としか思えませんが」

 「だが収益や借款返済は、日本の国家予算に跳ね返ってくる」

 「それなりに。ですな」

 「植民地じゃあるまいし。勝ち過ぎは、いかんよ。利益配分で、6.5対3.5が、限度だろう」

 「これ以上、差が開くと、後々の反発も大きくなる」

 「まぁ そうでしょうが企業倫理は当てにできませんから、政府側で、手綱を締めないと・・・」

 「手綱ねぇ 法令を厳しくすると、トリニティの査定は、諸刃の剣になる場合が多い」

 「つまり、こちらにも向けられるということだ」

 「んん・・・確かにトリニティの性質上、こっちも身を切ることに・・・・」

 「まぁ、収益が、こっちの利益にも繋がるのだから。欲張りすぎてもな・・・」

 国家間で行なわれる通商は、資本、資源、人材、情報、権利が移動し、関係が深まり、

 摩擦も大きくなっていく。

 これらの移動が少なければ、そういった国家関係も疎遠となり、

 相対的な価値も低下していく。

 疎遠であれば、摩擦が少ないかわりに両国間の緊張状態も高まり。

 蜜月であれば、摩擦が大きいかわりに両国間の緊張状態も低くなった。

 「・・・それに、あそこは、使徒が味方をしている。敵対するのは、危険すぎるよ」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 結局、現状維持ということで収まっていく。

  

 碇・惣流・伊吹財閥がI・S・I連合財団として、再構築。

  

  

 ゼーレ球

 12個のコアとLCL液のプール。

 無力な存在でありながら、人類補完計画の究極の原型だった。

 数千万の精神個性体を有する世界で、

 究極の生命体に昇華するまでの間、まどろみの中に沈んでいる。

 仮にゼーレの人類補完計画が成功すれば、数万年先の未来は、地球規模の群集意識生命体。

 強大なATフィールドで、外宇宙へも勢力を広げられると計算されていた。

 そして、それに参画する老いた者たちが、毎日の様にLCL液に消えていく。

 物質的な転換が、どうして行なわれるのかは、まだ、不明といえる。

 人間という物質が素粒子にまで分解。

 エネルギーとなってLCL液に溶けているのか。

 精神エネルギーのみなのか。

 数千万人という質量的な観点に囚われるべきではないのだろう。

 秋津司令は、いくつかの交渉のためにここにいた。

 ゼーレ球は、物質的困窮と

 心身の疲労や苦痛と

 社会的摩擦から解き放たれていた。

 彼らとの情報交換は、情報・研究・開発の面で、ますます重要性を増していく。

 結局、どっちが、主となるか、副となるか。

 立場が入れ替わっただけで

 人類? の可能性と未来は、広がっている

 「・・・キール議長。このプールは、手狭ではないのかね」

 「いや、今のところ、困っているというわけではない」

 「最低限のATフィールドは維持できる」

 「年々、そちらに向かう者が増えていくが、大丈夫かね」

 「そのほうが、精神的なベクトルを整理しやすくて好都合なのだ。構わんよ」

 「んん・・・では、人類補完計画という点で、今の方が良かったと?」

 「ふ 秋津司令。時間という概念に囚われすぎているよ」

 「我々は、時間という概念に囚われていない。時間が我々の味方なのだ」

 「つまり、どちらでも、良いということだよ」

 「た、確かに・・・そういえば、聖職界との懇談が予定されているのですが・・・・」

 聖職・法曹界とも、精神感応世界の打撃から立ち直ろうともがいていた。

 「ふっ 何が聖職界だ。トリニティが、よほど、聖人だよ」

 「まぁ 彼らも、あなた方と、より良い関係を築きたいそうなので・・・・」

 「トリニティを法王にでもすればよいのだ・・・教理上のすり合わせ、かね?」

 「そんなところでしょう」

 「わからんことでもないがね」

 「世俗的な感覚は、だいぶ忘れてきたよ。どうでもいいような事が多すぎる」

 「思い出していただければ幸いですな」 苦笑い

 トリニティも、ゼーレ球も、世俗を理解していながら、切り離されているという点で似ている。

 「秋津司令は、どうするのかね。こっちに来るのかね」

 「どうでしょう。生きたコアは、アダム以外にも、レリエル、イロウル、バルディエル、アルミサエルがありますから・・・」

 「他にも、アンドロイドにニューロン・シナプスマップを焼き写す方法もあるので決めかねています」

 「どれも、こちらで、基礎研究をしたものだ」

 「助かります」

 皮肉なことに敵だったゼーレと補完が進み、助けられている。

 「第15使徒アラエルも種子が殺されているだけで、コアそのものは、無傷」

 「解析が進めば、コア管理に回せるだろう」

 「それは、助かります」

 「アラエルの精神への影響力は、物理的な防衛だけでなく。精神的な防衛まで可能になる」

 「精神防衛もいいがね」

 「やりすぎては、精神的な改革、革命すらも否定する事になるよ。それは、停滞だ」

 「その点は、合議の上でということで・・・」

 「ふ 合議の上では、ゼーレ球も、人類補完計画も、バウンドインパクトも、なかったな」

 「セカンドインパクトも、ですがね」

 「そういうことだ。今となっては、それほど後悔もしていないよ」

 「人類の宇宙開発が間に合うなら。という条件付でな」

 「確かに人口問題で一息つけて、宇宙開発も軌道に乗っている。予算次第とも言えます」

 「足を引っ張る者も多いがね」

 「保守的な人間は、環境の変化に抵抗するので」

 「また、自分が稼いだ分を未知の領域に投機するのを嫌う人間も多い」

 「世俗は、相変わらずだな」

 「ええ」

 
NERV
アラエル基地

『トリニティ』

維持・運用・管理 

コア管理

研究解析

監視

 エヴァンゲリオン

第12使徒レリエル 第03使徒サキエル

ゼーレ・コア12個

 零号機  第11使徒イロウル 第04使徒シャムシェル
 初号機  第13使徒バルディエル 第05使徒ラミエル
 二号機  第16使徒アルミサエル 第06使徒ガギエル
四 号機 第07使徒イスラフェル

第09使徒マトリエル

ロンギヌスの槍

第14使徒ゼルエル

 トライデント

オリジナル 第15使徒アラエル
 アルファ・(ヒカリ) 複製12本
 ベータ・(タダシ)
 ガンマー・(ケンスケ)
 デルタ・(チアキ)

 

 ここは、海岸沿いの大邸宅。

 室内は、緊迫した空気に包まれている。

 シンジ、レイ、アスカ、マナ。

 4人とも思惑があるのか、表情が違う。

 トランプが、シャッ、シャッ、シャッ、シャッと切られ。

 円卓のテーブルに配られていく。

 「それで、わたしが、悪者になっているというわけ?」 アスカ

 4人とも、配られたカードを都合のいいように並べていく。

 「・・・逆恨み・・・」 レイ

 「I・S・I財閥の拡大と取捨選択で捨てられた方ね」 マナ

 ハート、スペード、ダイヤ、クラブの7が、並べられて、先行が決まる。

 「体質や考え方を変えられない人間は、足手まといなのよ」

 「ヘル・アスカ様。万歳ね」 ゴブルン・マナ

 「ふ・・・」 スノーホワイト・レイ

 世間では、いろんな悪評が広がっている。

 自分の都合のいいようにトランプカードが出されていく。

 「あのねぇ 別に追い詰めているわけじゃないわよ。階層で下がるだけだよ」

 「下がる方は、恨んでいるわね」

 「んん、査定に引っ掛かるやつが悪いのよ」

 「こっちは、淀んで腐っていたのを立て直したんだからね」

 「あはは、それに気付かなければ、同じよ」

 「大局が、わからない人間は、閉口するわ」

 「針小棒大で小さいことを見栄で大きく見せて、腹を立てる人間は多い」

 「逆に棒大針小の、やっかみ、ひがみで」

 「価値あるモノを貶めて、全体の利益を損なわせたり・・」

 「でもねぇ レイ」

 「勝った人間がレイを抱きしめるって、女三人に男一人なのよ」

 「私たちが勝ったら、どうするのよ?」

 「碇君は、必ず勝つわ・・・」

 「「・・・・・・」」

 『ぅぅ 絶対に勝ちたくない。レイに勝たせるか。アスカに勝たせれば、良いわね』

 『レイ。アスカに抱きしめられなさい』 マナ

 『んん、絶対に勝ちたくないわね』

 『レイに勝たせるか。マナに勝たせれば・・・レイ。マナに抱きしめられなさい』 アスカ

 『が、がんばるからね。綾波』

 「・・・・・」  レイ

 七並べでやる王様ゲーム。

 前回勝ったレイが出した命令は、次に勝った者が自分を抱きしめる。だった。

 シンジは、婚約者、綾波レイを抱きしめるのが久しぶりなのか、燃えている。

 婚約者同士なのだから、こんな命令など必要ないのだろうが、そうも、いかないらしい。

 アスカとマナは、スケジュール調整を操って、機会を可能な限り防いでいる。

 シンジも、レイも、淡白で時間が短いと、そういう状況になりにくい。

  

 当然、シンジとレイは組み。

 アスカとマナは、それぞれの思惑で共闘。

 シンジを負かせて、次に自分が、負ければいいだけ・・・・

 レイは、シンジを勝たせれば、いいだけ・・・・

 気迫だけで、髪がなびき。

 トランプカードが風を切る。

 手札が減るにつれて、目付きと表情が変わり、口数も減っていく。

 パス!

 パスが効果的に使われると緊迫感が増していく。

 空白が埋められていく。

 ちっ!

 取って置きの留め札を出さなければならず。

 アスカが総毛立つ。

 使徒戦以上の反応速度で戦術が切り替えされ。

 刻々と戦術が立て直される。

 先に最小の1から回りこんで、最大の13の側から・・・逆転に次ぐ逆転。

 一筋の汗が流れる。

 時折、パスで追い詰められレイ、シンジの表情が曇る。

 決定的な戦局で切り札のジョーカーが出されて・・・・・・

 くっ!

 憮然と出される留めカード。

 ・・・・・ぅぅぅ・・・・

 悔しげに埋められていく留め札。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「やった♪ !!!」

 「ふ・・・」 にんまり

 シンジが勝ってしまう。

  

 ・・・・・沈黙・・・

 見詰め合う。シンジとレイ。

 見ているだけのアスカとマナは重苦しい。

 ゴックン!!

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 「「・・・・・・・・・」」

 久しぶりなのか、シンジも緊張で手をニギニギ。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 「「・・・・・・・・・」」

 なんとなく、腰が引けながらも、レイに向かって腕が伸びていく。

 シンジと、レイは、次第に頬が赤くなっていく。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 「「・・・・・・・・・」」

 『・・・・あ、綾波・・・ますます綺麗になっているよ・・・・』

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 そっと、手が肩に触れて、ゆっくりと背中に回っていく。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 少し、距離が離れていることに気付いて、近付く。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 ゆっくりと、綾波レイを抱きしめていく。

 レイは、風呂上りなのか、石鹸の香りが鼻をくすぐる。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 服の上から伝わるレイの温かみ。

 やわらかく、それでいて、しなやかなレイの体と胸の膨らみ。

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 『し、幸せだよ。綾波・・・・・』

 感無量のシンジと微笑む綾波レイ。

 憮然と見詰めるアスカとマナ。

 ・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

 「シンジ!!」

 アスカ、ポーズ

 「えっ!」

 「あんた! 女の抱き方がなっていない!」

 「そ、そうかな・・・・」

 「こうやるのよ・・・」

 と、言いながら、アスカが、シンジに近付くと、

 「え・・・・ア、アスカ」

 シンジの腕を腰に回させて、

 「ち、ちょっと・・・えっ」

 引き寄せさせる。

 そして、アスカがシンジの肩の上から、腕を回す。

 「・・・シンジ。女の体っていうのは、こうやって」

 「少し持ち上げるように抱きしめるようになっているのよ」

 とアスカが、シンジの耳元で囁く。

 レイの時の上半身だけの・・・・とまったく違う密着度。

 胸や腰が押し付けられ、シンジは、ガクガク状態。

 「あ! ・・・・ち、違う!!!」

 割ってはいる。マナ。

 「・・・・」

 「違うわ!。シンジ君・・・・こうやるの」

 と言いながら、マナが後ろ向きになって、

 「マ、マナ・・・」

 シンジの腕を自分の胸を押し包むように抱き寄せさせた。

 腕の中にマナの背中が包み込まれ。掌に感触の良い胸が包まれる。

 「女の子の不安を打ち消すのは、後ろからの方が効果的なのよ。シンジ君・・・・」

 「わぁ・・あっ! ちょっ! マナ・・・」

 シンジは、慌てて、マナから離れ。恐々と、レイを見詰める。

 「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

 「あ・・・綾波・・・・い、いまのは・・・・・ち、違うんだ・・・」

 「・・・そう・・・」

 冷たい表情。

 「あ、綾波〜」

 「・・・次の命令を出すのは、碇君よ・・・」

 「・・・あ・・・・・」

 大戦前夜並みの緊迫した空気が、伝わる・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

  

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 このページから読まれるかもしれないので、一応。

 ・・・・トリニティは、マギの後継機です。

 非常に優れたコンピュータで、知、情、意を持ち。

 ロボット三原則だけでなく。

 聖人・賢人の教理・内容もプログラムされた品行方正、高潔なコンピュータです。

 さらに統計学など組み込まれて、人間分析も優れ。

 社会状態から個人の思惑なども予想してしまいます。

 社会全般の秩序管理など官僚がやっていたような仕事まで、

 やってしまって効率のいいこと、

 この頃は、エヴァングや人型ロボットなど、動的な部分でも社会全般にかかわり。

 条件付で、ゼーレ球とも協力関係にあります。

  

 高校生活 

 ・・・・・・はぁ〜 こういう、バラ色の高校生活を送りたかったよ〜 という話しですね。

 一度で、いいから、言われたかったよ〜

 一度で、いいから、抱きぃ〜 が欲しかったよ〜

  

  

 宇宙コロニーは、1974年にジェラルド・オニールが提案。

 標準シリンダー型コロニーが(直径6km×長さ30km)、1000万人が近いようです。

 ガンダム世界も、大体似たような大きさで、開放型と密閉型があるようです。

 エヴァ(一人暮らし)系の世界は、全て密閉型。

 適当な大きさのシリンダー型コロニーを建造。

 小惑星を刳り貫いて、挿入するという方式です。

 小惑星が小さい場合は、全周をドーナツ型と、なりそうです。

 中心軸が、ぶれなければ、外郭が厚くて、

 それなりに安全で資源も手近にあって良さそうです。

 そのかわり。小惑星に合わせて、建造されるので、大きさは、マチマチ。

 自転速度も、マチマチですが密閉型なので、目は、回らないかもです。

 手間隙かかりそうですが、渚カヲルとエヴァの力で、やってしまったというところです。

 

 

 

 

       

 

 

 ※フォボス・ガイオスの画像は、NASAでした。

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第61話 『暇潰し』
第62話 『トリニティの憂鬱』
第63話 『高校二年の春』
登場人物