月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

   

第64話 『虚空潜航艦レリアース』

  

 ゴルフは、接待で良く使われる。

 それなりにクオリティで、広々として、見晴らしが良く。気分がいい。

 パーティの仲間も決まっていて、移動しながらだと、声を拾われにくく。

 親密な会話も、外に漏らしたくない会話もできる。

 ゴルフ談義を緩衝にして、人間関係も和らぎやすく、

 情報漏れは、仲間内から漏れたと、わかりやすい。

 人間関係が信頼に依存している間は、仲間内で安全な話しができる。

 そして、不道徳を誤魔化したりもできた。

 しかし、それは昔の話し。

 いまでは、少しくらい離れていても音を拾う事ができて盗聴も難しくない。

 それでも、お互いにウィン、ウィンになりましょうという話題で、相対的に損をするのは部外者になる。

 シンジ、レイ、アスカ、マナ、カヲル、ヒカリ、マユミ。香取。

 7人と1体は、ゴルフが好きでもなければ、上手いわけでもない。

 接待に合わせて仕方がなくクラブを振り回すが思った場所に飛ばない。

 「もう〜 やめた!!」 怒

 「アスカ。会合は、二日後よ」

 「んん・・・・誘導装置もない球を打って飛ばすなんて、原始的よ」

 「経験者の山岸さんは、やっぱり、上手いわね」 ヒカリ

 「養父さんに何度か、付き合わされた事があって」

 「もう、接待ゴルフなんて、悪習は廃止すべきよ」

 「でも、気分はいいわね。自然で広々として」 マナ

 「なあぁにが自然よ。こんな醜悪な作り物のゴルフ場。農地にした方がいいわ」

 「自給率が少し良くなったくらいで、ゴルフ場なんか造って、ばっかじゃないの」

 「もう、アスカ。上手く飛ばないからって・・・・うちのゴルフ場なんだから・・・」

 「むきぃ〜! でぃぁあああ!!!」

 殺傷能力の高そうなアスカのフルスイングは、鋭い男子並み。

 しかし、打った球は、スライスしながら葉を引き裂き、枝々を震わせ、木霊と一緒に消えていく。

 ファール。

 「・・アスカ・・・・だから、もう少し、ガニマタ気味に・・・」

 「あと、フォームよりも大切なのがタイミングとインパクトの瞬間・・・」 マユミ

 「なんで、すってぇ〜!」 怒

 「い、いぇぇ・・・」

 『マユミ。駄目よ。アスカは、あれで、格好付けなんだから』 マナが耳打ち。

 一番上手いのは、やはり、トリニティ制御の香取。

 次がマニュアル通り打てるレイだったりする。

 トリニティ制御の人型ロボットの有用性を内外で見せ付けるためで、

 上層階級に対して、適当なのがゴルフの接待だった。

 「もうぅ〜 なんで、真っ直ぐに飛ばないのよ」

 シンジは、素直に香取に打ち方を習って、

 着実にスイングが良くなっていくのだが。アスカは我流を通す。

 「アスカも、素直に香取に教われば良いのに・・・」

 「冗談じゃないわ。トリニティなんて、所詮、人間が蓄積した成否のデータを利用しているだけよ」

 「わたしは、我を通して、新境地、先駆者になるのよ!」

 アスカポーズ。

 「「「「・・・・・・・」」」」

 『さっきは、やめるって・・・・言わないでおこう・・・』 代表 by シンジ

 「むきぃ〜! でぃぁあああ!!!」

 ドライバーの風圧と風を切る音に圧倒される。

 根性球か、と思える白球が青い空に吸い込まれて消えていく。

 「「「「・・・・・・・」」」」

 『大人しかったら、女神なのに・・・・』 代表 by シンジ

  

  

 天城邸

 結婚後、赤木邸改め天城邸となった豪邸にハルカは住んでいた。

 新婚家庭なのだがメイドもいて、家も大きく、それほど困らない。

 実質、リツコは、NERVにいる事が多く。夫も道場にいる事が多い。

 そして、ハルカは、NERV、学校と行ったり来たり。

 まだ恋人とまでは行かないが青葉シゲルといい感じになっていたり。

 今日は、天城夫婦、加持夫婦でバーベキュー。

 ほとんどの仕事をメイドの初雪、白雪がやってくれている。

 天城師範も、加持も、体術で良い勝負なのか、少しばかり微妙な空気。

 ミサトとリツコは、相変わらず。

 朝霧ハルカは、加持フブキ(2歳)、ヤヨイ(0歳)。天城チドリ(1歳)を見ていた。

 しかし、本当に見ているのは、赤ん坊の世話をしている育児ロボットだった。

 普通ならロボットに育児をさせるより。

 ロボットを働かせて、人間が育児をした方が生産性が良いという統計も出ていた。

 “どこまで人間を愚弄する気だぁ〜”

 という声が聞こえてきたりもするのだが、それほど優れている。

 トリニティ制御のロボットは、純粋な自己犠牲と奉仕。

 セクト主義を超えて社会全般の利益を模索する。

 人間同士の足の引っ張り合い。嫉妬。妬み。犯罪などなく。社会構造で人間より有益。

 社会制度における人間性の価値そのものが問われるのも、この頃。

 そして、本当に真っ当な子供を養育しようと思うのなら、

 人間より育児ロボットが良いのではないか、という実証もされていた。

 リツコはともかく。ミサトに育てられるくらいなら育児ロボットが良いような気もする。

 育児ロボットの様子を見ると、正しい様に見える。

 人類が苦心惨憺、失敗を繰り返して考え抜いた育児技術の結晶が、そこにあった。

 なにしろ、バックボーンは、トリニティ。

 育児ノイローゼなどなく。病気、怪我など、即座に対応できる点でも人間以上。

 マギレベルで困難だった笑顔も。トリニティだと、人間とほとんど変わらない。

 感傷で、ロボット依存にケチをつけても、イザ自分が子育てする羽目になると、ぐうの音もでなくなる。

 トリニティ並みでマニュアル通りの子育てができそうなのは、綾波レイくらいだろう。

 これでは、実の親に反旗を翻し、

 育児ロボットを父・母と思ってしまう子供が続出する。

 人類歴史は骨肉の争いもある。

 所詮、血の繋がりも、スキンシップで証明されていなければ、薄くなる。

 互いに利己主義が過ぎれば、親殺し、子殺しは、珍しくても起きる。

 赤ん坊や子供が実の親より、

 育ての育児ロボットを選んだところで、それを非難すべきではないだろう。

 人間より、トリニティ (ロボット) のしつけ、

 教育、価値観の優先順位も矛盾が少なく、しっかりしている。

 倫理観・道徳観を優先して、情操教育・知能教育を後回しにしている。

 これを逆にすると激情に駆られて・・・とか。知能犯になったりしやすくなる。

 ハルカは、客観的に危機感を感じる。

 『ロボットの優勢は、確実ね。トリニティとロボットの反乱の方が人類の自尊心が保てるわ・・・』

 エビチュウ一気飲みのミサトは、極楽気分。

 「ぷっふぁあ〜 ほっんとに助かるわ。育児ロボットなんて、トリニティ様々よ」

 「ミサト。少しくらい構わないと、子供を育児ロボットに取られてしまうわよ」

 「大丈夫よ。母親は、わたしなんだから」

 「ミサト。トリニティを舐めてない?」

 「なんの、血は、水よりも濃いってね」

 「・・・・・・・」 加持

 「じゃ ミサトおかあさん・・・子供を呼んでみて」

 その後、ミサトがいくら呼んでも、メイドロボットにベッタリの赤ん坊が寄ってこない事に気付かされ。

 一気に酔いが冷めて、子供を育児ロボットから引き剥がす。

 ミサトは、大泣きの赤ん坊が大変なのか、真っ青になっていく。

 その後、紆余曲折。返品するとか、しないとか。

 結局、育児ロボットは、アンドロイド型でなく、

 本当にロボット的な形の育児ロボットに落ち着いてしまう。

 良い大人でさえ、人間より、トリニティ制御のロボットが良いと言う者。

 実の子より、ロボットの方が出来が良いと思う親もいる。

 子供が親を選択したからといって、子供ばかり責められないだろう。

 人の願望は、かくも矛盾していた。

  

  

 第壱高校

 ロボット先生は、生徒に人気がある。

 “血の通った教育” などと言う教育者もいた。

 しかし、精神感応世界は、動機の保身がバレバレで底が知られてしまう。

 さらにトリニティに最高レベルの教育術マニュアルとノウハウがあっては、それも怪しくなる。

 戦後 + 精神感応世界の混乱と過渡期的な変則制度、

 教職を兼ねた生徒の立場も怪しくなってくる。

 しかし、並みの教職員より、アスカ、レイ、ハルカの人気があって、頭の痛いところ。

 そして、文部省と学校も予算が限られ。簡単に教員ロボットを購入することはできない。

 「・・・おはようございます。惣流先生、綾波先生、朝霧先生」 ロボット

 怖綺麗型と呼ばれる教育系の美人ロボット。伏見ヨシノという名前もあった。

 三人とも見た目で人を判断するタイプではなく。

 そして、同性?

 儀礼的に挨拶だけはする。

 さらにキャピッ! キャピッ! 生徒たちと違い、開発する側で関わっている。

 人を見る目でなく、物を見る目。

 審査の目で、ロボットを批評する。

 「悪くないわね」 レイ

 「もう少し、ぎこちない方が人間らしいかもね」 アスカ

 「誰の趣味?」 ハルカ

 「何かのフィギュアで上位だっただけ」 レイ

 「何で、眼が標準より大きいの?」 ハルカ

 「さぁ〜」 アスカ

 そこにシンジとマナが・・・

 「おはようございます。伏見先生」 ペコッ! シンジ。

 「おはようございます。碇君」 伏見

 「・・・・・・」 ぽっ!

 碇シンジは、こういう人間だったりする。

 「「「「・・・・・・・・・・」」」」 レイ、アスカ、ハルカ、マナ

  

  

 吾妻ケイタ、ムサシ・リー・ストラスバーグ

 某所での作戦会議

 I・S・I財閥の組織と系列関連企業が3Dで投影されている。

 「くそぉ〜 アスカ帝国をぶっ壊してやる」 ムサシ

 「ムサシ。感情を制御しろよ。少し漏れているぞ」 ケイタ

 「んん、精神感応世界は、厄介だ」

 「だが、こっちが疑われているのか、わかりやすい。便利ではあるな」

 「霧島マナは?」

 「あいつは、上手く遮蔽しているから分からないな」

 「しかし、霧島の視線で意識されているのはわかる。まぁ 元少年兵同士と言うこともあるが・・・」

 「惚れられたかな」

 「それは、ないね。碇シンジに好意を持っているのは、バレバレ。隠そうともしてない」

 「んん、碇シンジ、惣流、綾波、朝霧は、精神感応から外れて、わからないからな」

 「碇シンジは、どう見てもカモなんだが・・・」

 「いや、権力として、力を発揮しているのは、惣流だけだよ」

 「残りの三人は、感謝こそすれ、敵対するつもりはない」

 「ったく。惣流のやろう。ロクな戦功もないくせに、権力者面しやがって、ムカツク」

 二人が不意に向けた視線の先。

 世話になった町工場の娘で、二人が愛した娘の写真。

 経済成長の激流の中、冷徹な取捨選択で、町工場が潰れ、失われた命。

 隆盛を極めるI・S・I財閥の気紛れで、

 時代の隅に追いやられた人々は多い。

 社会の再構築が急激であれば、急激であるほど、変革も速く、痛みも大きい。

 もちろん、アスカ一人で社会の流れを作ったわけでもない。

 時代の流れは、戦後再建に比例して急速に大きくなっていく。

 流れを動かすより、流れに乗る。に近くなっていく。

 I・S・I財閥の独占状態が続けば、時代は、もう少し緩やかだった。

 しかし、時代は、それを許さず。

 中規模企業が勃興して、抵抗すれば、I・S・I財閥が潰される。

 I・S・I財閥が抵抗をやめたとき、余剰資本の無い町工場が潰された。

 事情が分かれば、時代のベクトルを決めたのがアスカでも、不条理の全てがアスカのせいとは言えない。

 そういう意味では、不可抗力に近い。

 恨まれるのも筋違いなのだが上層階層にいるだけで恨まれたりする。

  

  

 12個のコアがLCL液のプールに沈んでいる。

 VERVの監視下で身動きする気配もない。

 しかし、コアの世界は、個々の精神体の思う世界が展開する。

 キールローレンツは、城の湖畔でティータイム。

 メイドはいない。しかし、思いのまま、全ての準備がなされる。

 そして、活力の満ちた若い頃の自分の姿になっている。

 ここは、いったいどういう世界なのか。

 キールローレンツは、時折考える。

 物理的な世界でなく、精神的な世界だけとすれば、死後の世界。

 しかし、死の世界ではない。物理的な世界に対して、少しずつ力を付けているのが分かる。

 もっとも、それは、個々の精神体が、十分に整合、融和してからになる。

 今は、精神体の混沌と激流といえる。

 死と生の合間。

 そして、遠い未来においては、一つの群集意識体として、

 どちらの世界に対しても覇を唱えられるだろう。

 いや、覇を得る必要もないほど満たされる可能性もある。

 ここには、全てが存在し。一人でありながら、一人でなく。

 阿吽の呼吸で、全てが満たされた世界になろうとしている。

 天国のようでもある。

 互いが会いたいと思えば会え、会いたくないと思えば、会えない。

 NERVが、なぜ、人類補完計画原案にこだわったのか、わからない。

 ここは、素晴らしい世界で、可能性もある。

 分岐点で別れた人類。

 しかし、その分かれた人類も、死を前にして、この世界へと入ってくる。

 予定より小さい世界での人類補完計画。

 しかし、予定より入ってくる者は多い。

 結果としては、それでも良いだろう。

 不意に気配を感じる。

 「君か・・・」

 どうやって入ってきたのか不明。

 こいつは、そういうやつと思い込めばいいだけだろうか。

 完全な、群集意識体になれば、強力なATフィールドで身を守る事ができる。

 それまでの我慢ともいえる。

 「久しぶり・・・」

 「渚カヲル。君と戦わずに済んだのは、幸か、不幸か」

 「どちらでも・・・もう、戦う理由は、なくなりましたから」

 「リリスの消失で、和解するしかなくなったということかな」

 テーブルに渚カヲルのケーキセットが出現する。

 「これは、どうも・・・・この世界、一度、見たかったので・・・」

 「我々は、ATフィールドこそ脆弱だが経験と多様性を持った使徒、と呼べるものだろうな」

 渚カヲルは、無造作にケーキセットを食べていく。

 使徒は、食べても良く、食べなくても良く。

 渚カヲルは、人間だった頃の慣習で食べている。

 「・・・美味いかね」

 「ええ、美味しいですよ」

 キール自身。物理世界で、こういった行為をした事が無く。

 美味しいか、など聞くこともなかった。

 自分が出したケーキセットを “美味い” と言われれば、なんとなく和む。

 ・・・悪くない気分だ・・・

 上流階級であることで得られず、失う感性もある。

 「しかし、君が、こういう技を持っているとは、意外だったな」

 「最近ですよ。あなたの配下で、この手のATフィールド操作が得意な者がいまして、山岸マユミというそうです」

 「そうか、最終決戦で人間の干渉を受けたくなくて、パイロットを置いていったのだ」

 「・・・・居心地の良さそうなところです」

 「我々が選択した究極の世界で、我々、そのものだ」

 「他のコアとの連結は?」

 「NERVの監視下で知られている程度だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 「不満は?」

 「いや、我々は、満たされた一つに世界を構成している。足りないものなどない」

 「好奇心や刺激は、どうです」

 「確かに外世界に好奇心を持つ精神体も多い。刺激を求める者も少ないくないな・・・・」

 「将来的な展望は、提示されたとおりで?」

 「ああ、そうだ」

 「なるほど・・・」

 「君の好奇心は、満たされたかね」

 「ええ、良い暇潰しでした」

 消えていく、渚カヲル。

  

  

虚空潜航艦レリアース

トリニティ
全長×全幅×全高 (m) 排水量 (t) エヴァング ロボット 200mm艦首砲 120mm砲×4基 N2ミサイル 着脱区画
160×24×48 960 6体 12体 1門 4門 6本 エヴァ1機

  

 エヴァとレリアース。

 戦闘能力の高さだけならエヴァ。

 汎用性の高さならレリアースといえる。

 虚数空間の探査という目的で、建造された軍艦で、レリエル系のエヴァだった。

 リツコと、日向

 「博士、本当に乗員は、ロボット12体で、動かせるんですか?」

 「あら、エヴァは、一人か、二人で動かせるわ」

 「トリニティとエヴァング6体、ロボット12体は、メンテナンス用ね」

 「随分、早くできましたね」

 「シンジ君、レイ、カヲル君のおかげね」

 「光質の量産も進んでいる。それとパイロットのおかげ」

 「・・・未知の世界を探検する軍艦としては、不安ですね」

 「レリアースの光質は、圧倒的よ」

 「それに人間が生活に使う容積は、一人当たりに換算すると驚くほど大きいの」

 「だから、機能的には、二周りくらい大きな軍艦と変わらないわね」

 「じゃ 人間は、パイロットだけでも大丈夫ということですか?」

 「とりあえず、安全性を考えて、最初は、エヴァ区画ユニットでなく、居住区画ユニットで行かせるけど」

 「試験運転をしないとね」

 「安全を確認すれば、トリニティ任せにするか。誰か、艦長を乗せるか、検討しないと・・・・」

 「日向君が艦長になりたい?」

 「どうでしょう。虚数空間の理論。いくら勉強しても良くわからなくて・・・・」

 「本当の意味でわかる人間は、少ないの、だから、探査をする」

 「たまたま、都合良くパイロットが見つかったのも、人権ですか?」

 「人権は、尊重するわ・・・もう、そういう世相だもの・・・・」

 「では、なぜ、彼女が新型の半身不随の去勢使徒を動かせるかは、問わないことにしますよ」

 「日向君。ミサトと違って物分かりが良くて助かるわ」

 「護衛は、カヲル君だけで、いいんですか?」

 「ええ、彼も自分のコアを虚数空間に隠しているみたいだから」

 「見つからないように護衛代わりに同行したいんでしょう」

 「本当なら、もう1隻そろえて、相互支援したいところなんですがね」

 「同型艦3隻を追加で建造する予定だけど。成果がないことにはね」

 「代わりに追尾探査機も送るから、何とかなるわ」

  

  

 NERV 休憩室

 ここに監視カメラはない。

 トリニティは、不満なのだが、ない。

 なぜかというと、人間側の要求でそうなったに過ぎない。

 『むふふふ やったぁああ〜♪』

 意中の少年に抱きしめられている山岸マユミは、幸せだった。

 硬く精悍な体格。見かけは優男でも少年から青年になろうとしている頼れる男という感じだ。

 肌の温もりが服を通して伝わってくる。

 『このまま遠くに行きたいな。虚数空間に連れて行っちゃおうかな〜』

 『そして、そして、むふふ・・・・ぇ・・』

 離れていく温もりと安心感・・・・喪失感と不安になっていく・・・・

 「あ・・・ありがとう・・・シンジ君。良い思い出になったわ」

 「きっと、戻ってこれるよ。リツコさんが安心していいって」 少し頬が赤い

 「でも、不安だったから・・・ごめんなさい・・・ありがとう。シンジ君。きっと戻ってくる」

  

  

 虚空潜航艦レリアース

 その大きさの割に質量は、960トンしかない。

 それでいて装甲は、光質が多く、強靭で最強レベル。

 砲身は、レールガン。荷粒子砲、陽子砲を切り替えられて、ミサイルも持っていた。

 虚数空間での反応が問題になることから多様な兵装を兼ねる。

 要塞のアラエルから、随行するトライデントと一緒に出航。

 アラエルとレリアースのトリニティが同調しながら、管制を進めていく。

 「渚君。そこで、大丈夫なの?」

 「外にいないと護衛にならないだろう」

 渚カヲルは、パワードスーツこそ着ていたがレリアースの艦橋に背もたれしているだけ。

 例え、光質で作られたパワードスーツでも純正使徒の渚カヲルにすれば、肌着以下で、

 気休めに過ぎない。

 「・・・ハーモニックス率56パーセント。シンクロ率77パーセント。ATフィールド安定」

 「これより、ATフィールド反転。虚数空間への回廊を開きます」

 「・・・10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・突入」

 すぅー

 艦首から消えていく、レリアース。

 「虚空潜航艦レリアース。虚数空間へ潜航開始。虚数空間の映像を映します」

  

  

 虚数空間

 レリアースは、白い空虚な空間に浮いていた。

 『マユミ。虚数空間へ潜航しました。探知機を切り離します』 トリニティ

 「シンジ君の言う通り、何にもないわねぇ・・・・どのくらいの広さがあるのかしら」

 『レーダー。ソナーとも反応無し。ATフィールド探知機による探査を続行・・・』

 「渚君。そっちは、どう?」

 「探知機のほかには、何もないね」

 レリーアスの周囲を探知機が浮いていた。

 『ATフィールドの周波数を変える事で虚数空間の深度が変わります。シンクロ率を同調させてください』

 虚数空間が多重階層である事がわかる。

 とはいえ、単純にシンクロ率を調整しながらATフィールドの周波数を変更するのは簡単なことではない。

 レリエル系が得意とする性質だからできるだけといえる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 『ATフィールド探知機に反応です。パターンオレンジ』

 「なに?」

 「・・・誰かいるねぇ」

 『ったく。渚のやつ。緊張感がないやつね。普通じゃないでしょう。普通じゃ』 マユミ

 『人のようです。レーダー、ソナーにも反応しました。こっちに向かってきます』

 「人が虚数空間にいるの?」

 『レリアースは、これより、戦闘態勢に移行します』

 「うそぉぉぉおお〜」

 レリアースに向かってくる人影に向けて砲台が動いていく。

 「・・・何か、用かい」 カヲル

 「わたしは、千歳ミズキ。そのレリアースの正統な所有者よ。返してもらうわ」

 「それは、困ったねぇ・・・」

 「渚カヲル。あなたは、亜空間世界では強いけど。虚数空間での適性は、私の方が上。そうでしょう」

 「ふっ 確かにレリエルとタブリスは、相性が悪いね」

 「そう、ここでは、特にね」

 「ところで・・・・君は、本当にレリアースの正統な所有者なのかい?」

 「ええ」

 「見覚えがあるのはなぜかな?」

 「試してみる?」

 「バウンドインパクトの時、たまたま、レリエルの種子がある部屋にいたわ」

 「山岸マユミ。少しばかり、待っていろ」

 「いえ、渚カヲル。試験運転は、中止。帰還します」 トリニティ

 「この辺なら、自分でも帰れる。先に行ってくれ」

 「ええ。気をつけて、渚君」

 渚カヲルのATフィールドの槍が千歳ミズキを貫く瞬間に消え。

 そして、現れる。

 「虚数空間の階層移動は、もっと滑らかにやらないとね。渚カヲル君」

 虚数空間レイアースが階層移動で消える。

  

 『・・・マユミ・・・新手です。パターンオレンジ』

 3Dに人影が映る。

 「ちっ! 攻撃して」

 この層で、一番、適性が合う陽子砲が発射されるが、すぅーっ と消えては、また人影が現れる。

 『マユミ、シンクロ率が低下しています』

 「なっ なに反応が鈍くなっている・・・レリアースが重くて、追いかけられない」

 人影は、すぐそばにまで来ているが砲身が震えて合わない。

 「追いかけられないんじゃないよ」

 「山岸マユミ君。僕への攻撃をレリアースが望んでいないのさ。僕の半身だからね」

 『君は、誰だね』 レリアース

 「未夜」

 一瞬だけ合わせた砲撃が未夜を襲うが、消え。

 別の場所に現れる。

 『未夜。この艦は、NERVの所有であり。君のものではない』

 「トリニティ。法律論で、時間を潰すつもりはないよ」

 「渚カヲルと、まともに戦っては、勝てないからね」

 『レリエル、君は、人類を滅ぼそうとして敗北。当然、賠償責任を負う・・・』

 問答無用で接近する未夜。

 『この艦は・・・マユミ、ATフィールドを同調してください』

 「駄目・・・合わせられない」

 「ムダだよ。トリニティ、山岸マユミ。レリアースの光質の培養を助けたのは、僕なのさ」

 「だから、早く建造できた」

 「レリアースは、僕の半身なのさ」

 『・・マユミ・・・・ATフィールドを全開にしてください』

 一瞬にしてブラックアウト。レリアースが消失する。

 「なに!?」 未夜

   

 「こっちが種子の方か」 カヲルが現れる。

 「やれやれ、アダム系光質を媒介に、反発させたわけか・・・・」

 「レリアースをどこにやった?」

 もう一人の人影が、現れる。

 「未夜様」

 「大丈夫かい。千歳」

 千歳ミズキは、肩から血を流している。

 「はい。未夜様。肩を少し痛めただけです」

 「渚カヲル君。トリニティはアダム系光質の反発を利用して、レリアースを深階層に潜航して行ったよ」

 「あれじゃ 座標の記録も間に合わないね」

 「・・・・・」

 「残念ながら、コアも、体もないこの身では、行けそうにない・・・じゃ 失礼するよ。渚カヲル君」

 「・・・・・」

 「行こうか、千歳ミズキ君」

 「はい」

 二つの影が消え。

 渚カヲルは、探知機を拾って帰還した。

   

   

 

 レリアース消失の様子が、3Dで何度も繰り返される。

 リツコと、ハルカ。

 「まさか、こんなことになるなんて・・・」 リツコ

 「レリエルの種子は、バウンドインパクトで人型を選択したということね」

 「インパクトは、起こせなくても、実力は、準使徒レベルね」 ハルカ

 「何が目的かしら」

 「彼の言った通りよ “半身を返せ” 正当性はあるわね」

 「法的に?」 リツコ

 ハルカは、爪ヤスリで爪を研いでいる。

 「言い分・・・広い意味では、彼らも入るかもしれないけど。法は、人のものよ」

 「レリアースを建造したのは、NERVだけど。計算より建造が早かったのは、事実ね」

 「彼らが建造を助けていた、というのは、言えているわね」

 「道理で、培養や開発行程が素直だと思ったわ」

 「・・・・・」

 「どうする? リツコちゃん」

 「当然。山岸マユミの帰還を最優先よ」

 「あら、随分、碇君の時と温度差があるわね」

 「サードインパクトの恐れがないなら。優先順位も変わるわ」

 「山岸マユミがいれば、レリアースは、再建造するだけで済むもの・・・」

 「でも、どうしたものかしら、虚数空間の深度。探知機の限界を超えていたわ。N2爆弾は通用しない」

 「エヴァも、渚カヲル君も、無理ね」

 「・・・ハルカ。二番艦の建造は?」

 「レリエルの複製コアは、4基。建造するとしてもこれからよ」

 「そして、レリエル系のパイロットもいない」

 「何より、コアを改造しないとレリエルの種子である未夜に抵抗できないわ」

 「山岸マユミのATフィールドが、押さえ込まれるなんて・・・・」

 「・・・・・・」

   

   

 その後、

 初号機、二号機、4号機、渚カヲルによる虚数空間捜索が行なわれた。

 しかし、エヴァも、カヲルも、探知機が示した虚数空間深度に達し得ないことだけは、確認される。

 ダブルエントリーは、精神安定でも役に立つ。

 「山岸さん・・・大丈夫だと・・・言ったのに・・・・・どうして・・・・・・」

 「・・・・・・」

 シンジは、焦って山岸マユミを捜索するが、レイのおかげか、無茶なことをせずに終わる。

  

   

  

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 月夜裏 野々香です。

 アスカのゴルフに対するセリフは、ドイツ系ということで、イメージです。

 イギリス系だったら、もう少し好意的だと思われますが・・・・

 

 未夜(レリエル)がようやく表舞台に出てきました。

 今後は、どうなるやらですが・・・・・・

  

 話の前後を繋げるために『山岸マユミ物語』を読むのが良いかと思われます。

 

    未夜と千歳ミズキ のイメージは、こんな感じです

 

  

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第63話 『高校二年の春』
第64話 『虚空潜航艦レリアース』
第01話 『迷窮少女 マユミ』
登場人物