月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

     

     

第66話 『望んだ夢』

 ガミラス艦隊 (シュルツ艦6隻、デストロイヤー28隻、高速空母8隻)が月面基地へ強襲をかけようとしていた。

 月面軌道上を周回する地球の軌道要塞。

 そして、トライデント4機。アルファ・(ヒカリ)、ベータ・(タダシ)、ガンマー・(ケンスケ)、デルタ・(チアキ)

 ゆきかぜ型宇宙駆逐艦6隻が迎撃を開始。

 ゆきかぜ型駆逐艦は、ガミラスのシュルツ艦を基準に合わせた呼び名で、

 地球のレベルでは、戦艦とも言うべき艦種。

  

 月 衛星軌道要塞

 トリニティは、敵艦の動きに合わせて、

 過去の戦例、戦略、戦訓、戦術を引っ張り出して、効果的な対応を提案。

 面白みがないが指揮官は、その中から適当と思われる戦術を選択していく。

 それ以外の選択も可能なのだが、宇宙戦闘で、それをやると間に合わない。

 1隻だと、問題は、小さい。

 しかし、全体の機動戦術で足並みが狂うと衝突することもある。

 人間は、僚艦と相対距離を計算しながら戦闘に集中できない。

 そうなると、事前の戦術プログラムが問われる。

 とはいえ、想定外のことも起こる。

 「・・・日向提督・・・敵艦のECM増大」

 「ECCM展開」

 「駄目です。目標にズレが生じます。自動追尾に誤差。修正不能。ロックオンできません」

 「・・・・」

 「高速空母から艦載機が出撃しつつあります」

 「数は?」

 「約・・・240機・・・」

 「敵艦隊進行方面に向けて、宇宙機雷を射出」

 「発射します」

 ガミラス艦と艦載機が宇宙機雷を次々に破壊しながら接近してくる。

 「不利だな」

 「トライデント機のATフィールドしだいかと・・・」

 「敵艦砲撃開始!」

 「早い! ECM・プラズマ障壁最大。回避運動!」

 シュルツ艦の荷粒子砲が駆逐艦のバリアをかすめていく。

 「日向提督・・・」

 「敵艦の捕捉は?」

 「駄目です。反応ありません。精確な砲撃は、困難です」

 「目測だ・・・」

 「ですが」

 「かまわん、撃て!」

 ガミラス艦載機のミサイル群を迎撃するが、半分も命中しない。

 そして、ゆきかぜ艦に命中した敵のミサイルが爆発。

 プラズマエネルギー障壁を消耗させていく。

 トライデント機は、宇宙空間でも機動性が高く。ガミラス艦載機を撃墜。

 ガミラス艦の砲撃も、ATフィールドで防いでいるが徐々にシンクロ率が低下していた。

 ガミラス艦隊の荷粒子砲と、地球艦隊の陽電子砲の光線が交差して、行き交う。

 どっちが優れているというよりも、単に得意な技術体系の砲を使っているだけ。

 ガミラス艦隊は、妨害を掻い潜って地球艦をロックオンしている。

 地球艦隊は、ガミラス艦の妨害でロックオンできないでいた。

 命中率が、まったく違う。

 そして、陽電子砲が、ガミラス艦に命中しても、某アニメのように弾かれていく。

 ガミラス艦載機は、撃墜できるようだ。

 地球側が機雷。

 ガミラス側が艦載機。

 宇宙空間での機動性は、反重力装置の性能で決まる。

 宇宙空間に対する姿勢制御や慣性飛行に対する技術の差といえる。

 反重力機構を組み込む技術の差で、

 地球は、駆逐艦ゆきかぜ型以上の容積を必要とした。

 この反重力装置を艦載機クラスに組み込む技術は、地球にない。

 トライデント機がガミラス艦載機並みの旋回や機動ができた。

 それは、位相空間の抵抗を利用できるATフィールドがあるためだった。

 「・・・損害は?」

 「まだ無事ですが急速にプラズマ障壁のエネルギーを消失していきます」

 「駆逐艦は、あと30分で、消失」

 「トライデントは?」

 「アルファ機が、敵機8機を撃墜」

 「ベータ機が敵機1機撃墜」

 「ガンマー機が敵機2機撃墜」

 「デルタ機が敵機2機を撃墜・・・」

 「ATフィールドは、まだ維持されています」

 「ちっ! トライデント隊。駆逐艦を一時、月面の裏側に退避させて、充電する。援護を頼む」

 「「「「了解!」」」」

 「敵の旗艦は?」

 「トリニティの判断では、この4艦のどれか、と・・」

 「んん・・・要塞砲の準備は?」

 「完了しています。しかし、ロックオン不能。目視になりますが・・・」

 「ECMの差が、ここまであるとは、右下の艦を目視で砲撃する」

 「・・・発射準備完了」

 「撃て!!」

 軌道要塞から放たれた数条の荷粒子光線が1隻のシュルツ艦に集中。

 艦首に一発命中。

 対陽電子砲の防御バリアが荷粒子光線によって、撃ち破られ。大破されていく。

 そして、4分の1の確率で、ガミラス艦隊の機動が乱れた。

 戦局が好転していく。

 一時的な混乱を利用して、トライデント機がデストロイヤー艦1隻を撃沈。

 さらに軌道要塞から撃ち出された荷粒子光線が、デストロイヤー艦2隻に損害を与える。

 「敵・・・後退していきます」

 「シミュレーションB22終了します」

 安堵とともに緊迫した空気が薄れていく。

 トリニティの戦果報告が流れ、戦訓が整理されていく。

 日向マコトは少将の襟章シールを剥がしてしまう。

 通常は、大尉なのだが作戦訓練中や戦時下になると、一時的に付けられる。

 「・・・やれやれ、苦戦だな」 日向

 「相手が光質なら、ロンギヌスの槍が最強なんですがね」

 「使えないわけじゃないが本領発揮といかないな」

 「それに相手の手に渡るのは、危険すぎる」

 「確かに。シュルツ艦が空間転移装置を装備していなかったのも、それが、怖いからでしょう」

 「空間転移装置の大きさにもよるよ」

 「しかし、地球連邦もシュルツ艦のおかげで、えらい騒ぎだからな」

 「天文局は、冥王星の向こう側に、それらしい小惑星を確認していないとのことですが」

 「普通は遮蔽するだろう」

 「ええ。それに別の世界のことですし、同じとは限りませんからね」

 「天城(赤木)博士の報告だと」

 「平行次元世界同士は、引力と同じで互いに引き合う。多方面で類似性が出るそうだ」

 「類似性ですか?」

 「平行世界が近い場合。似たような銀河系に惑星配列に、生態系に、言葉に、歴史になったり、だそうだ」

 「・・・宇宙艦隊の予算が増えて良いんでしょうけどね」

 「それなりにな」

 「しかし、ガミラスとか、シュルツ艦という名称は・・・・」

 「艦が似ているから、適当といえば、適当なんだがね・・・・」

 「ところで、ゆきかぜ型駆逐艦は、本当に建造するんですか?」

 「計画だけな」

 「計画だけですか」

 「まだ、レリアース計画の方が強いね」

 「あっちですか。確か・・・・なよっとした長髪の青葉大尉が・・・」

 「虚数空間探査が優先だそうだ」 泣き

  

 

 

 公園

 シンジとレイ

 ソフトクリームの甘さより。滑らかな手の温もりと刺激が心地良い。

 綾波は、ますます綺麗になっていく。

 正面から見つめるのも怖じ気付いてしまう。

 なので、綾波の横顔をチラチラと覗き見るのが好きだったりする。

 卒業したら結婚と思うと嬉しいような、楽しいような。

 婚約も終わりかと思うと寂しいような。

 かなり緊張する。

 綾波先生は、尊敬され、羨望の的で人気がある。

 結婚するのにファンになってどうする、といわれるがファンであることを自慢したい。

 綾波の感情の起伏は、相変わらず小さい。

 婚約者の綾波。

 戦友の綾波。

 学者の綾波。

 同居人の綾波。

 同級生の綾波。

 先生の綾波。

 秘書の綾波。

 見方が変わるだけで、表情も違って見える。

 「なに?」

 「あ、いや、なんでもない・・・」

 「そう・・・」

 会話らしい会話は、少ない。

 それでも、綾波といる方が安心で落ち着いた。

 久しぶりのデート。

 公園でソフトクリームを食べて、

 野良猫がスズメを追い掛けるのを眺めて、過ごしただけのひととき。

 手を繋いでいるだけで、雲の上を歩いているような気がする。

  

   

 地球の軌道エレベータと地球周回軌道ステーションによって、宇宙への物資輸送は容易になり。

 月基地の自立も進んでいく。

 月面の地上基地は、氷山の一角。

 出入り口とか、太陽光熱集光施設で、その多くは、地下にある。

 問題は、月の引力が地球の6分1程度だということ。

 この世界に慣れてしまうと地球での生活が困難になる。

 人間の居住区は、少なく。

 トリニティ制御のエヴァングとロボットが採掘と施設の拡充を進めていく。

 一連の作業工程を見れば、ロボットの世界と言えなくもない。

 月面基地の資源と資材を利用して、宇宙開発が自動的に進められていく。

 人間の介在する余地のない工程管理。

 というより、月全体の開発規模を少人数の人間では把握できない。

 非常時用の見張り人。

 通常時は、お邪魔虫と言えなくもない。

 ラグランジュ点のスペースコロニーに向かって移動していく補給船。

 地球へ向かう、ヘリウム3を満載した輸送船

 そして、火星や金星に向かう補給船が月軌道から離れていく。

 月基地は、宇宙開発の中心になろうとしていた。

  

 月軌道管理局

 トリニティのお荷物、人間たちがグリーン点滅を見つめている。

 仮にデットマークになってもトリニティがエヴァングやロボットを派遣して対処するため、やることがない。

 「シュルツ艦の反重力装置を使えれば、月を1Gにできるんじゃないかな」

 「だけど、シュルツ艦のメインコンピュータが自爆したんじゃ いつになるやら」

 「物があれば、何とかなるだろう」

 「未知の物質があるようだがエヴァ光質で代用できるんじゃないか」

 「それも、いつになるやら・・・・んん・・・・あの、円盤状の船は、シュルツ艦の影響か?」

 「いや、フローティングシティ(浮遊都市)の実験モジュールだったかな」

 「風船に乗って生活するのか・・・」

 「金星は、90気圧。1気圧の風船を持っていくと浮かぶからね」

 「天王星や海王星でも試すことになるけど、当面は、金星かな」

 「テラフォーミングは?」

 「軌道上の遮蔽板も、そうだけど風船も、同じだよ」

 「太陽からの光熱線を遮って、吸収して、外惑星の基地に向けて反射してしまう」

 「金星の大気に熱を伝えなければ、ゆっくり冷えて、テラフォーミング」

 「なるほど・・・落ちなきゃ良いけど」

 「当分は、ロボットで様子を見るさ」

 「渚カヲルは?」

 「夏休みを利用して火星で穴掘りだったかな」

 「空気さえ入れたら、月と同じ、あっちだと、人間も住みやすい」

 「空間転移ができるから、早いな。火星の方が、見込みありそうだな」

 「しかし、どう考えてもインチキだよ」

 「使徒で惑星開発なんて。エヴァング100機で1年かかる仕事を1週間で」

 「俺らの世界は、運が良かったんじゃないか」

 「I・S・I財閥の当主と、使徒の渚カヲルが、お友達になるなんて」

 「間に合えばね」

 「間に合いそうだろう」

 「たぶんね」

  

  

 『赤い世界』

 シンジは、見覚えのある紅い海と赤い空を見つめていた。

 少しまどろみながら海岸線を少し歩き、内陸に入っていく。

 どこに行くべきなのか、知っているかのように・・・・・・

 白い別荘があり、そこに目的の人物たちを見つける。

 庭のガーデンテーブル。

 おさんどんしている、もう一人の自分と、

 NERVの資料を漁って、ぶすくれた惣流・アスカ・ラングレー。

 中学生の頃の自分と、アスカが微笑ましい。

 自分のいる世界と立場が似て、態度が同じ。

 家事をするのは、嫌いではない。機会を与えられなくなって久しい。

 自分の世界では、レイ、アスカ、マナが、食事を作ってくれることが多い。

 ロボットメイドが食事を作るのは珍しく。お片付け専用。

 

 白い別荘の周りは、畑が作られて栽培されている。

 スイカは、自分が作っている品種に近く。センスが似ている。

 「「!?」」

 二人が気付く、

 シンジが手を振る。

 「やあ、君たち」

 「・・・あら、LCLの化物が出たわ」

 「!?」

 人間は、未知のものに恐怖する。

 しかし、彼女は、不敵な表情を見せる。

 どうやら、人類補完計画を理解しているらしい。

 「ア、アスカ」 中学生のシンジが非難気味。

 「LCL液・・・なるほど・・・どうやら、この世界が僕を呼んだのかな」

 「どういうこと?」

 「この世界は、君たちが心配だったらしい」

 「私たちを騙し、利用して、捨てた世界には、何の用もないわ」

 「だから君たちを守って保護している。贖罪だよ」

 「まだ、統一した感情や意思が現せないから、代わりに僕を呼んだんだよ」

 「・・・それで?」

 「この世界は、君たちを愛していると僕に伝えて欲しいと思うよ」

 「例え君たちが、この世界を憎んでいたとしてもね」

 「あんたは、誰よ」

 「僕は、別の選択をした世界の碇シンジだよ」

 「どういう世界かしら」

 「ゼーレの人類補完計画を拒んで、原案にスケールダウンした世界かな」

 「あんたが、そうしたの?」

 「僕が? まさか、そんな力はないよ」

 「切っ掛けとか、歯車の一つで、そうなっただけで、ほとんど大人たちが、やったことだから」

 「ふ〜ん もう一人の私は、どうしているのかしら?」

 「いまは、財閥の社長で、素敵な、女性だよ」

 「・・・・・・・・」 じと〜

 「そ、そして、いろいろ指図をするんだ。僕に・・・・」

 「ぷぅ!」 中学生のシンジが噴出す。

 「世界は、違っても、あんたたち、同じね。視線に耐えかねて、直ぐに目を逸らす」

 「「ぅ・・・」」

 「まぁ どうせ、この世界も、今の私たちを利用するんでしょう」

 「それは、どうかな、人類に選択する道が他にもある」

 「「・・・・・・・・」」

 「君たち二人は、もう一つの選択をする自由があるということだ。素晴らしいと思うよ」

 「それで、私たちで、もう一度、人類を興せというわけ」

 「そういうことに、なりそうだね」

 「あんた。シンジの癖に何で加持さんみたいな、言い方するのよ」

 「君らの幸福を望んでいるからだよ」

 「ふん!」

 「・・・・・・」

 「君たちが死んだあとは、LCLの世界に入っていく」

 「僕は、その世界に入ったことがあるけど、良い所だったよ」

 「・・・・」

 「だけど、増殖する力がないようだ」

 「君たちは、生きている間は、幸せになるべきだよ」

 「この世界は、それだけのものを君たちに与えてくれ・・・」

 意識が消え失せると、別の場所に立っていた。

 どうやら、時間的な制約があるようだ。

  

 紅い海の海岸。

 目の前に中学生だったころのレイが立っている。

 「綾波」

 シンジは、思わず両手をレイの両肩に置く。

 「!?」

 「・・・辛かっただろう?」

 「・・・・・・・」

 「綾波」

 「・・碇君と、少し違う」

 「君は、最初の頃の綾波と似ているよ」

 綾波が肩に置かれた手を見つめる。

 「あ、ごめん・・・」

 手を引っ込めてしまう。

 「あたたかい。別の世界では、仲が良かったのね」

 「うん」

 シンジとレイは、紅い海岸に向かって座る。

 「・・・・綾波。君と婚約したよ。高校を卒業したら結婚する」

 「そう・・・違う私は、その道を選択したのね」

 「綾波は、二人のところに行かないの?」

 「あなたと同じLCL液だから。この体は、まだ、一時的なもの・・・」

 「綾波。今の選択で満足しているの?」

 「・・・わからない」

 「そう・・・」

 紅い風景の色が中学生の綾波の横顔に映える。

 「・・いつも、そういう風に見ているの?」

 ドキッ!!

 「あ・・・うん」

 ドギマギしながら隠れ見るシンジの視線は、バレバレだったらしい。

 勇気を磨り減らして、綾波とキスをするのも見抜かれているような気がする。

 「そう・・・」

 自分の知っている綾波と同じように微笑むのが不思議。

 「綾波は、後悔していないの?」

 「・・・数万年後、この世界は、群集意識を持つ液体生命体になるわ」

 「そうなったとき、一つでも、個別に動き回れるようになる」

 「その頃、碇君と、もう一度、歩けるかもしれない」

 「・・・どっちが良いか、わからないけど、僕は、僕の世界で良いと思っている」

 「綾波のことが好きだから」

 「!? あ、ありがとう・・・」

 「綾波の隣の部屋に引っ越してから、僕の人生は、変わった気がする」

 「・・・そう、私の世界の碇君は、コンフォート17。葛城少佐、二号機のパイロットと住んでいたわ」

 「それは、酷いことになりそう」

 「碇君は、何も言わなかった」

 「住めば都だからね。僕は、生活に馴染んでしまうんだ」

 「・・・そう・・・」

 綾波の横顔が寂しげで、ふいに視界がぼやけ・・・・・・・・・

 

 

 

 『一人暮らし』

 自分がベットに寝ていたことに気付く。

 寝ているとき、自我の意識はない。

 夢を見るので、死んでいるというわけではないが似たようなものだろう。

 初めて、第三東京市の駅に降りたとき。

 あの時の幻影は、紅い海の綾波だったのかもしれない、と思ったりもする。

 変えられた未来なのか。

 変えられなかった未来なのか。

 夢の世界の出来事でしかない。

  

  

 海岸の大邸宅。

 高校二年の夏休み

 一応、学生なのだが、夏休みになると、別のことをはじめる者もいる。

 シンジが、階段を下りてリビングに入ると、レイ、アスカ、マナがコソコソと画策中。

 「3人で、何をしているの?」

 「日本、アメリカ、欧州連合の軌道エレベーターの補修と補強計画・・・」 レイ

 タジタジ 「・・・・・・」 泣き

 超高校級、大学レベルの頭脳でも手に負えないこともある。

 何より、気質の問題。

 以前、我慢して話しを聞いたが思考が単調過ぎるのか、まじめ過ぎるのか・・・挫ける。

 「シンジ。次の講演文は、読んでいるの?」

 「いつまでも台本見ながらだと、説得力欠けるんだから」

 「・・・うん・・」

 「それと、ボキャブラリーとか、機転とか、アドリブも、洒落も、大切なのよ」

 「う、うん・・・」

 「シンジ君。がんばってね」

 「う、うん・・・ち、ちょっと、潮風に当たってから・・・」

 「・・・シンジ・・・」

 どきぃ〜

 「・・・に・げ・る・な・・・」

 「わ、わかっているよ・・・」

 『逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ』

 『逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ・・・・・』

 「シンジ君〜 あ〜 そ〜 ぼ〜」 渚カヲル登場

 玄関からの声に救われる。

 「あ、カヲル君だ。じゃ 行くから」

 「私も行くわ」 レイ 立ち上がる

 「「・・・・・・・・」」 ぶすぅ〜

 使徒渚カヲルの人類に対する貢献は、尋常な大きさではない。

 レイ、アスカ、マナも、ブスくれるだけで済まされたりする。

 「香取。あんたも監視で付いていきなさい」

 「はい」

 メイドロボットの監視付きの遊び。

 とはいえ、遊びが重要というわけではない。

 仕事の合間を友達と一緒にいるための口実。

 海岸に沿って気の合う仲間と、一緒に歩くだけでも楽しい。

 「今日は何するの?」

 「今日は、ディズニーランドだよ。シンジ君。もうすぐ、戦闘機が迎えに来るよ」

 ずっと、病気だった渚カヲルは、遊びたいばかりにいろんな予定やイベントを考える。

 そして、一緒に付いてくる洞木ヒカリは、綾波レイと並ぶ。

 最近は、綾波レイも、洞木ヒカリに微笑むため、楽しいのだろう。べったりだ。

 二組とも婚約者同士で立場が似て共感しやすいのか、一緒にいると落ち着く。

  

  

 『赤い世界』

 シンジとアスカ。

 二人っきりの世界なのに距離を感じる。

 個体と個体の違い。異性の違い。寂しさと孤独感。葛藤と衝突を感じる毎日。

 この苦痛に耐えかね。

 “個体の群れ” という存在を捨て。

 一つになる道を選択した紅い世界が広がっている。

 そして、その世界から捨てられた二人。

 紅い世界のシンジは、高校生のシンジとの出会いで自分の将来的なモデルを掴んでいく。

 何年かすれば、もう一人のシンジのように大きくなれると。

 高校生のシンジがアスカを癒した様子を見ていた。

 そして、自分の内にある恐れが薄れ、力に気付き始める。

 あの力が使えるのではないかと・・・

 「アスカ・・・海岸を歩かない?」

 「ふ〜ん・・・・珍しいじゃない。あんたから、誘うなんて・・・」

 アスカは、NERVのマル秘資料から視線上げて、シンジを注視。

 

 

 ドギマギと視線を避けるシンジ。

 二人の間には、確固たるルールがない。

 ルールがあれば、衝突は最小限になるだろう。

 しかし、シンジは、性格的にも意思薄弱。

 アスカに遠慮しているのか、後ろめたいのか、引き気味。

 アスカが強い態度にでても我慢している。

  

 アスカは、マギの情報を漁っていて、シンジの後ろめたい理由を知っていた。

 実のところ、自虐的に手をニギニギさせて堪えてしまうシンジに呆れている。

 二人の間でルールが、どこまで通用するのか、試しているだけ・・・・

 「ま・・いいか・・・」

 アスカは、なんとなく、シンジに付いていく。

 実力や能力は、社会的な地位を得られるだけのこと。

 人間は、強圧的な主従関係。

 まして、恐怖、専制、封建の歪な関係では満たされないし、満足しない。

 そして、真に求めている事柄は、概して対極にある。

 互いに真実を求め、愛を求め、正義を求める。

 健やかなるときも、病めるときも。

 喜びのときも、悲しみのときも。

 富めるときも、貧しいときも、

 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす。

 結婚問答に限らず。人が人に求めるのは、これ。

 しかし、普通は、違う。

 健やかなるときは、傲慢になり。病めるときは、卑屈になる。

 喜びのときは、暴虐。悲しみのときは、憎み。

 富めるときは、勝ち誇り。貧しいときは、ひがみ、やっかむ。

 憎悪、蔑視、虐げ、見殺し。

 命のある限り、他人も、家族も、自分すらも、騙し続ける。

 どうせ、二人しかいない世界。成るようにしかならない。

 少しだけ正直に、少しだけやさしく、

 少しだけシンジに良くしても良いだろう。

  

  

 『一人暮らし』 & 『赤い世界』

 紅い海のシンジとアスカ。

 蒼い海のシンジとレイ。

 それぞれの空を同じように見上げる。

 自分の思い通りにならなくても、

 少しの寂しさと、少しの楽しさ。

 そして、少しの辛さ。少しの葛藤だけなら。

 生きて、歴史を綴れる自分を幸せだと思う。

  

  

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 月夜裏 野々香です。

 ちょっと、平行世界(パラレル)なのか、逆行なのか、不思議な現象にしてしまいました。

 基本的に前向きが好きで、本編再構成なので、リアルな夢ということにしてください。

 今後、レリアース艦による平行世界か。

 シュルツ艦による宇宙開発が主軸になっていくか。

 不明です。

  

    

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第65話 『シュルツ艦』
第66話 『望んだ夢』
第67話 『主役はどこ?』
登場人物