山岸マユミ物語
そう、彼のような存在が負のエネルギーを増大させ、
魔物を強くし、人間社会に害を及ぼしていく。
邪な人間を力で押さえつけても、善良になることはない。
邪な人間が善良になるには、別の力必要でもある。
しかし、腐り過ぎてしまうと、手の施しようもない。
オルベンスは、そういう、タイプの人間だった。
第03話 『妄想少女 マユミ』
ウェルブ城の朝。
今日も、取調べだろうか、と気が重い。一日の大半を取り調べに取られる。
仕事は、採取してもらった薬草を調合するだけになっていた。
調合した薬は、公国が全部買い取るという。悪くない取引だ。
オルベンスは、あの時から姿を見せていない。
嫌な予感もするが体面を考え、これ以上、何もしなければ良いが・・・
どこかの村に入って、暴れている噂も聞く。
『やれやれだわ』
シワ寄せが、どこかの娘に行ったとしたら、それは、わたしのせいになる。
心根の腐った人間。あまり被害が広がらないうちに抹殺してやろうかしら。
というドス黒い気持ちにもなる。
はたっ!
このドス黒い気持ちが蓄積されて、魔物になると気付く。
やれやれ、人間は、人を憎まないと生きていけないらしい。
城のテラスで休憩。
ラミネーヌは、修道所の仕事があるのか、たまたまおらず。
オーヴラエンとジャンも町に来たのだからと、効率の良い仕事をしている。
一応、兵士は、逃亡しないように見張っているだけで何をしているか、ではないらしい。
携帯をかけても見ていない。
『マユミ。シンクロできそうな人物は?』
「まだ、見つからない。城にはいないけど」
「城外に出るのは、虚数空間に入る以外、難しいかも」
『エヴァングとロボットを差し向けますか?』
「わたし一人でも、十分・・・人が着たわ・・・・」 携帯を隠す。
テラスに執事のブールトが入ってくる。
休憩の時間はまだ残っていた。
「・・・・・・・・・」
「尋問?」 マユミ
「いえ、マユミ殿の作る薬が公国で、一番、効くということが、わかりましたので、お願いが・・・・」
「病人?」
「ええ・・・」
「構わないわ。薬剤師(自称)だし」
「そ、それが、病人は、公爵の長男であられるソイルド様です」
・・・・かなり、問題ありといえる。
一般人でも念や思いが作用しやすい世界、当然、心身に対しても作用するはず。
マイナスエネルギーが魔物にとられていくとすれば、病気になる要素は外傷が多い。
それが病人となると、マイナスエネルギーを魔物にとられない魔術師の呪詛系の類になっていく。
それとも、自殺志願者か、特権階級では、少数派というより、稀。
この世界の医師や魔術師がサジを投げるような病。
公爵家付きの優秀な医者や薬剤師、魔術師もいる。
それがサジを投げたということだ。
「・・・・見ましょう」
「お願いします」
公爵付きの薬剤師になったマユミは、一時的に取り調べ状態からフリーとなる。
封建社会は、その点、融通が利く。法治国家なら簡単にはいかないだろう。
付け焼刃の薬剤師でも、21世紀の医学知識を得られ、高度な精製品も、それなりに可能。
この世界の専門薬剤師よりも抜きん出ている。
深夜
「じゃ ソイルドは、呪詛系の呪いで、血友病に?」
『そのようです。魔術で呪詛といっても、元々ある素因を誘発する方が楽ですからね』
「素因とは?」
『個人は、あまり関係がないようです』
『統計だと他者から生を奪ってきた血脈は、その種の素因が強いようです』
「人間の敵は、人間?」
『魔物を作ったエネルギーも、やはり、隣人を呪う人間ですから。本質を突けば、そうなります』
「ソイルドは、それほどにまで呪われているの?」
『どうでしょうか、いくつかのパターンが推測されます』
携帯にいくつものパターンが表示されていく。
これらは、人間社会の膿み。
最も汚い、唾棄したくなる事柄なのだが統計として知っている。
トリニティは、社会的地位、人間関係、性格、風土などから確立で高い順から割り出していく。
『血液凝固因子を持つナノマシンを作りましょうか』
『遺伝子治療も、白血病の誘発率6パーセントで可能です』
「白血病は困るわね」
『白血病細胞を殺すナノマシンのほうが簡単です』
「あ、そう・・・じゃ 簡単で確実な方を・・・」
『あとは、元を断つ方法でしょうか』
「・・・それだと、外に出られそうね」
『ええ、エゾウコギを探す、とでも言って、出てくるのがいいでしょう。こちらでも珍しいものですから』
エゾウコギ
マユミが調合した薬をソイルドに与えると、効果があった。
病状が回復傾向を示すと信頼されるようになる。
後は、こちらでも珍しい、薬草を探しに行くといえば、護衛(監視)付きで許可されてしまう。
ウェルブ侯爵。執事のブールト。マユミ
「マユミ殿・・・・ソイルドを完治させてくれるのなら」
「この御神木で作られた魔法の杖と、この水晶を褒美に取らせよう」
「侯爵様。呪詛系の呪いは、素因があれば、それを増幅させるもです」
「病に至る素因を消せば、呪詛も効果がなくなります。エゾウコギは、その助けになるでしょう」
「よろしく頼むよ。マユミ殿の身元は、不問としよう」
「ありがとうございます。公爵様」
マユミ | ラミネーヌ | オーヴラエン | ジャン | |
攻撃 | 水晶・桃の杖 | 魔法剣 | 鋼・長剣 | 鋼・長剣 |
防御 | エヴァ光質服+ポンチョ | 重層皮服+ポンチョ | 皮服+ポンチョ | 皮服+ポンチョ |
薬剤師 | 魔術師 | 剣士 | 剣士 |
パーティは、例の4人組になってしまった、
これは、実力というより単に馴れ合い。
というより、実力者グループは、呪詛元の魔術師狩りに出かけている。
そして、公爵家ご愛用の馬車も使えるという。
オーヴラエンは、働いたお金で鋼の剣を購入して戦力アップ。
ジャンは、少し欝気味。
「どうしたの? ジャン」
「・・・・・・・」
「ジャンは、守ろうとしたマユミの方が強いとわかって、ショックを受けているのよね」 ラミネーヌ
「・・・・・・」
げっ!
「や、やだぁ〜 つ、強いだなんて・・・・」
「「「・・・・・・・・」」」 しらぁ〜
本当は、矮(わい)使徒級で十分に化物レベルでなのだが、
文学少女は、か弱い女の子路線を手放すのは惜しい。
女の感情というのは・・・・・・・ 」(−・−)「 ・・・・・ったく。である。
「っで、エゾウコギは、どこにあるの?」
「北よ」
「魔物が少ない方ね」
「このパーティなら。北が安全だよ」 オーヴラエン
「ドラゴンと戦いたくないものね」 ラミネーヌ
マユミの薬剤師としての能力。ATフィールドを除けば、中の下レベルの護衛といえる。
先行している3つの部隊は、呪詛元の魔術師狩り部隊で、こちらの護衛も兼ねていた。
公爵家の馬車を使って、ウェルブ公爵の証書があれば、たいていの事は通る。
公爵家と地方有力者の絆は、それなりに強い。
それが恐怖の関係であっても土地・利益保障の関係であっても。
これが上手くいってないと、公国は、バラバラになっていく。
北の国境を越えると、大国のアスラエル王国
ウェルブ公爵の権限は及ばず。外交の便宜だけが頼りになる。
関係自体は悪くない。
ウェルブ公国は、1000年も昔にアスラエル王国から承認された公国だった。
それでも、小競り合いに近い利権争いは絶えず行なわれる。
通商が多いため。個々の採決は、慣習で相互主義に近い。
単にアスラエル王国が決めた事例を裏返しにアスラエル王国側にも適応するという手法。
アスラエル王国に優先権があるだけに過ぎない。
後で、元返されるので、妥当な線でおさまる。
荒涼とした大地、少しだけ寒くなっていく。
そして、次第に湿原が増えてくる。いかにも薬草がありそうな雰囲気だ。
エゾウコギは、衛星からも探している。
なくても、レリアースが深層深海から、効果のある鉱物・生体など成分を捜索している。
あれば調合して代用できる。
戦闘能力が、あるだけのエヴァより。
トリニティ、エヴァング、アンドロイドを装備できる虚数艦レリアースの方が有力に思えてしまう。
不意に重たい空気が周りを包み込む。
見張られているような嫌な予感。
不透過のATフィールドをピリピリとなぞるような感覚。
ラミネーヌ、オーヴラエン、ジャンは、気付いていない。
ATフィールドの玉を一つ作って飛ばす。
なぜ一つかというと。一つしか作れない。
エネルギーとして小さく。攻撃用ではない。
代わりに目や耳の代わりに周囲を調べる事ができる。
渚カヲルクラスになると50個くらい作れるらしい。
純正使徒とモドキ使徒の力の差は、歴然。
それでも、この世界では、有力な、目と耳で、魔術の力でもできるらしいが質が違う。
そして、こちらを伺っている魔術師3人と盗賊らしい7人。
ATフィールドを使えば勝てる。
しかし、使徒戦を起こしたくもない。
・・・10対4・・・・不利・・・・
『ど、どうしよう。襲われちゃう』
『そして・・・・そして・・・・集団で、あんなことや、こんなことをされちゃうんだわ』
『い、いや〜 ど、どうしよう。やっぱり初めては、好きな人じゃないと・・・』
『あ、でも、10人がかりなんて・・・・きゃー! いやぁん〜』
「マユミ、何で、顔が赤いの? 大丈夫?」 ラミネーヌ
「えっ! あ、いえ、そ、そのう・・・あっちに行きましょう・・・」
盗賊団の反対側を指差した。
「・・・そっちは、湿原地帯で危険だわ」
「盗賊団と、どっちが危険かしら」
「!? 盗賊団がいるの?」
林の方を見る。
危険な湿原地帯を避けようと思えば、林を通らなければならない。
あの林は、風雨を凌げて実に合理的な待ち伏せ場所と言える。
「大きな隊商が来るのを待って、一緒に行く方法もあるけど」
隊商を待つかどうか・・・・・
外国では、隊商でさえ、信用できるかどうか・・・・
「・・・確実にやられるより、賭けでも湿原を抜ける方がいいわね」
「え! 信じるの?」
「ええ、どうせ、薬草を探すんだから、街道を通らなければならないわけじゃないもの」
「それに、あの林は、待ち伏せに理想的な場所だわ」
地図を見る。行程を3分の1にして、湿原を一日ほど抜けると街道に出る事ができた。
「ありがとう。ラミネーヌ、信じてくれて」
「別に・・・でも、薬草は探してね」
「ええ」
窮地を脱したというべきか、
盗賊たちは、湿原に向かう馬車を見逃す。
公爵家の馬車は、丈夫な割りに軽量に出来ている。
車輪の幅を増やして、馬の足に幅広の下駄のようなものを履かせる。
薬草探しということで、特注されたもので盗賊たちが追撃しても、途中で諦めたくなるだろう。
湿原といっても、少しばかり滑っている程度。
酷い場所はあるようだがラミネーヌの誘導で避けられる。
途中、乾燥した場所に着くと。
ヌメヌメした魔物が2体、現れる。
「・・・ラミネーヌ。な、なにあれ?」
「・・・ヤチボウズ。アスラエル王国との国境を隔てる湿原に良く出るの」
「体を麻痺させる泥団子を飛ばしてくるわ」
「えぇ〜」
「マユミは、後方で、わたしに回復の念をゆっくりと送って」
「ええ」
ラミネーヌが魔法剣を取り出して。オーヴラエンとジャンが左右の前衛に着く。
『きゃっ♪ RPGだわ』 ドキドキ。ワクワク。
メラ!
ラミネーヌの魔法剣から火炎が現れて、ヤチボウズを覆う。
湿気を飛ばして柔軟性を削ぎ落とすというやり方だ。
ヤチボウズは、泥団子を体から打ち出してくる。
オーヴラエンとジャンが、ポンチョで身を守りながら剣で攻撃。
剣で切り分けていく。
ポンチョは、泥で汚れるが、それで、麻痺は最小限に防げるらしい。
マユミは、ラミネーヌが消耗していくだろう魔法力を補う。
そして、しばらくすると、2体のヤチボウズをバラバラにした4人が残る。
「・・・もし負けていたら、どうなっていたの」
「魔物は、人間を半身不随にして、生きたまま、人形にしてしまうの。ヤチボウズは、それね」
「・・・・・」
『なるほど・・・そうやって、負のエネルギーを自分のモノにしているわけね』
「そして、死んでいく者もいるけど。魔物によっては、ゾンビにして体が朽ちるまで思いのまま操ったりする」
「こ、怖いわね」
「中間的なのは、吸血鬼の方ね。吸血鬼にされてしまうと。人間の意識を持ったまま、魔物になってしまう」
「こっちは、不死に近いらしいわ」
『人間のまま、負のエネルギーで生かされて』
『人間の体としての不足分を補うために人間の生き血をすする訳ね』
『負のエネルギーは、それほどでも、なさそうだけど。自動的に増やしていくわけか・・・』
『魔物も、魔物で、生き残る手段を模索しているわけね』
「マユミ、まだ記憶が戻らないの?」
「え、ええ」
「・・・今日は、ここで、薬草を探して、休みしましょ」
「ええ」
海底の虚数艦レリアースは、マユミ不在の間、トリニティが運用している。
レリエルのATフィールドは、マユミがいないと機能しない、
それ以外のシステムは、トリニティの裁量で動かせる。
防御壁は、プラズマシールド。この世界の物理的な攻撃力なら、十分だった。
エヴァングとアンドロイドが有用と思える物を採掘していた。
特に人間の意識を増幅させる媒体ウィルスは、この世界独自のもので研究に値する。
元の世界に帰還できるかどうかわからないが懸念すべきは、この世界のリリスと使徒だけ。
勝ち負けで言うと、際どい。
なぜ、リリスが使徒を1対だけ、そばに置いているのか、わかりやすい。
他の世界のリリスの子らの干渉を排除する目的も兼ねている。
もっとも偶発的な事件で、この世界に紛れ込んだのだから最初から介入するつもりはない。
この世界のリリス、使徒は、こちらの存在に気付いただろうか。
どういう反応があるか、まったく読めない。
ATフィールドの反応して、インパクトという可能性も、使徒戦という可能性も、ありうる。
そう、所詮、この世界にとっては、余所者。
ATフィールドを使わずに済むことを祈るばかり。
人工知能のトリニティが祈るというのも変な話しだったりする。
しかし、物事が、都合の良い方に転がるを期待するのは、欲望として存在する。
欲望そのものが物事を考え、考察する。人工知能の骨子ともいえる。
マギの後継機トリニティも3つのベクトルで欲望がせめぎあっていた。
情報が入れば、それぞれのスタンスで、個々に理論を構築していく。
ロボット3原則+0原則だけでなく。
聖人・賢人の教理まで詰め込まれている。
メルキオールが、知性、理性、理想、合理性、機能性、能率性、男性格、父性、攻撃を優先。
バルタザールが、心情、感情、自由、平等、博愛、女性格、母性、防衛を優先。
カスパーが、正義、中性、調和、中庸を優先。
そして、それぞれの理論をシミュレーションしながら、最善策を検討して、妥協しながら、多数決。
最近は、トリニティ内でなく。
エヴァングやアンドロイドにインストールして、擬似合議を行なわせている。
メルキオール系、バルタザール系、カスパー系のエヴァング、アンドロイドも動きがあるため、反応として面白い。
パラメーターの優先順位を少しずつ変えているだけで、人間と似た会話が成り立っていく。
結論が同じでも、こちらの方が、刺激がある。
そう、中央からの制御を減らし自律系を強化。
互いのネットワークを切り下げて違いを明確にしていく。
いくつもの独創的な構想が生まれてくる。
不意に完全に自律させたらどうなるだろうかと、構想を練ったりもする。
神(リリス)が、なぜ人を創ったか。
電子科学技術の先端であるはずのトリニティが、神(リリス)の動機を推測しやすく。
混沌から生み出される可能性に期待して、模倣している。
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月夜裏 野々香です
いといよ。ロールプレイングです。
矮(わい)使徒級は、レリエル系で、ATフィールドが使える人間をさす造語です。
太陽に対して、褐色矮星レベルという感じで受け取ってください。
文学少女マユミは、妄想少女マユミでもあるようです。
この娘。どうしたものか・・・・・
第02話 『いざ! 出発』 |
第03話 『妄想少女 マユミ』 |
第04話 『暴想少女 マユミ』 |
登場人物 | |||