山岸マユミ物語
第12話 『帰 還』
アステロイドベルト(小惑星帯)防衛線。
現実に小惑星の間隔は広く。有視界で言うとアニメや映像の様に近くない。
それでも高速で周回すれば、小惑星と擦れ違ったりもする。
つまり、小惑星帯を防衛線として期待しても、ザルのようなものらしい。
冥王星から撃ち出される遊星爆弾の迎撃率も低く。
サハエル世界は、風前の灯だった。
むろん、アステロイドベルトからも、遊星爆弾を冥王星にお見舞いしていた。
しかし、それらは、簡単に軌道を変えられてしまう。
そして、冥王星から撃ち出される遊星爆弾の迎撃は、失敗している。
これは、純然たる科学技術上の力関係によるものだった。
マユミは、地球サハクィエル首都で国家間条約を結ぶ。
調印する側の代表は、若い少女で、少しばかり滑稽な気もする。
しかし、双方で正式に記録された式典で、それなりに効力もある。
地球が追認すればだが・・・・
マユミのやったことは、ガミラスに対する事実上の敵対行動。
ガミラスが地球の存在を知れば、地球に敵意を持つことは必定といえる。
それでも、地球に帰還することで先決で成功すれば事後承諾だろうか。
地球、サハエル、ガミラス。科学技術上の差は、歴然としている。
それでも、いったん、最適航路を外してしまうと発見されにくい事が分かっていた。
つまり、宇宙は、それだけ広いということだろう。
もちろん、最適航路から外れると非効率で十分なエネルギーと生活空間を必要とする。
途中、十字型高速空母に二度ほど探知されそうになるが逃げ延びた。
虚空潜航艦レリアース
マユミは、ぶすくれる。
「危ない橋・・・・」
「・・・・・・」
「弱気を助け、強気を挫くなんて。非現実的よ」
「くだらない偽善や正義感で、この若さで、死ぬんだわ」
対人恐怖症のマユミも、相手が機械だと話しやすいのか、遠慮がない。
「危ない橋でも、渡れば帰還できると思いますよ。成功すれば・・・ですが・・・」
「ぅぅぅ まだ、結婚もしていないのに・・・・・」 半泣き
「ガミラス駆逐艦の残骸から、だいたいの性能は、推測できます。成功率は、それなりかと・・・・」
「数値を言いなさいよ。数値を・・・・」
「聞かない方が気休めになるのでは?」
「うぅぅぅ・・・・」
「知りたいですか?」
「もう、いいわよ」
虚空潜航艦レリアースとサハエル艦隊との共同作戦。
といっても、同時にやるだけのことで連携するわけではない。
どうせ、付け焼刃の作戦など、上手くいくはずもない。
というわけでレイアースは単独作戦。
虚数空間移動は、山岸マユミのハーモニックス率、シンクロ率に影響され。
ATフィールドなど人力に頼る。
人と機械の調和。
ハーモニー。
聞こえこそ、良い。
しかし、知的労働者がトリニティで、推進力がマユミでは、たまったものではない。
冥王星は遠すぎる。
如何に矮(わい)使徒級でも、いい加減に体力の限界だろうか、滅入る。
少しくらい、部屋で拗ねても良いだろう。
この世界で言う宇宙戦艦ヤマトの映像が流れる。地球の物と少し似ている。
これも興味深い現象で良い土産物だろう。
「マユミ、そろそろ、エントリープラグに入ってもらわないと・・・・・」
「・・・・・・・・」 ぶすぅ〜
「間に合わなくなりますよ」
「わかっているわよ・・・・もう少し何とかならないわけ」
「人間には、とっておきの手があるはずです・・・」
「なに? そんなのあるの」
「根性です」
虚空潜航艦は、一人が生活するのには十分な空間がある、
しかし、永遠に生活できるようには、できていない。
反乱防止策でもあるのだが、整備や補給は必要だった。
整備は、ロボットやエヴァングが応急処置をするので、
補給は、サハエルから受けることになる。
国際信義に劣るようなことは、していないようだが、それでも、滅亡寸前の世界。
毎日、放射能でサハエル人が死んでいるのだから、我慢すべきだろうが・・・・
地下人工栽培だと、ロクな物がない。
この艦に食料を積むだけで、何人の人間を餓死させたか・・・・・・
それでも、貧相な食事を見るだけで、モチベーションが下がる。
航路計算は、トリニティ任せ。
外界を知る術は、リリスの位置を除くと動いているエネルギー量だけ。
虚数空間の深度にもよるが太陽の位置と木星の大気の流れは、わかりやすく、
それ以外は、ぼやけている。
対レリエル戦が、どうしてあのような形になったのか、わかりやすい。
こちらから見えにくいということは、外界からも同様に見えにくい。
目的地まで、安全に辿り着きやすい点は、素晴らしいのだが人力というのが、いただけない。
何しろ冥王星まで遠すぎる。
ハイエル艦隊で海王星のラインを超えるのは、稀なことだった。
そして、エネルギー計測でも、微妙な食い違いを発見する。
「・・冥王星じゃない?」
「ハイエルのデーターにない直径2000km程度の小惑星が冥王星と同じ軌道に存在」
「そこから強いエネルギーを感知しています」
「冥王星に近いじゃない、少しくらい暗くしてても、冥王星にまで基地が来ていたら、ハイエルも気付くでしょう」
「侵攻作戦に合わせて、外宇宙から、冥王星軌道にまで前進してきたと思われます」
「推測は?」
「まず前提として、この小惑星が他の恒星系から送り込まれたと仮定します」
「推測で可能性が高いのは、ガミラス艦の転移する距離が制限されている場合」
「そして、転移先に受け入れるための器が必要な場合が、あげられます」
「んん・・・・」
3Dに映像が流れる。
未知宇宙空間に転移は、できないが器を進出させれば、そこに向けて、転移が可能というものだった。
「呆れた・・・・いったい。太陽系を目指すのに何年掛けたのかしら」
「4G反重力加速。光速以下の移動かもしれませんが、何百年という単位かもしれません」
「気の長いこと。よく、本国が忘れなかったわね」
「しかし、一度、ルートを作ってしまえば、転移ステーションを経由しながら転移移動できます」
「じゃ 小惑星を改造して、転移を受け入れる装置を組み込んで、他の恒星系に向けて、飛ばしたというの?」
「乗員は、ロボットだけでしょう。人間が乗るとすれば、転移で来る後続の艦隊・・・」
「それとも、ロボットだけの世界かも知れません」
「それも、怖いわね」
「ロボットは、ATフィールドを使えません。可能性は、あるでしょう」
「なるほど」
「ハイエルの記録によれば、突然、冥王星に艦隊が現れて占領」
「その後、徐々に艦隊が増加して、外惑星を占領していったそうです」
「ふ〜ん」
「つまり、ガミラス側の転移能力にも寄りますが」
「この太陽系に一番近い、転移受け入れの装置を破壊することです」
「後続部隊は、通常航行で、もう、一度、太陽系を目指すことになり」
「数年から数百年の余裕が生まれる、ということです」
「・・・艦隊で、ここまで来る可能性は低い」
「次に来る小惑星を破壊できれば、侵攻も、できなくなるということ?」
「推測が正しければ、困難以上になるかと・・・」
「なぜ侵略しようと考えたのかしら、交易とか外交を先に始めても良さそうだけど・・・」
「作戦が成功すれば、理由がつかめるかと・・・・」
「んん・・・この並行宇宙は、恒星の相続を使徒戦でなく、宇宙戦争で決めさせているのかしら」
「南極にリリスの反応がありますから。それはないかと」
冥王星(直径2306km)は、月(直径3474km)よりも小さい。
そして、冥王星近くにあるそれは、直径2000kmの小惑星。
黒塗りで、光を吸収し、奇妙な事に1G重力が外向きに働いている。
これでは、何か恒星の陰にでも入らなければ、地球から存在を確認することは、難しく。
作為的に光源を擬装すれば、多角的な観測でもしない限り、さらに困難になる。
そして、それを発見したのも、虚空潜航艦レイアースがエネルギーの流れでしか、外界を知り得ないからといえる。
「外向きに1Gということは・・・・・・」
「あの小惑星への潜入は、体重分だけ押し返されるということです。マユミ」
食べていた。煎餅が口から離れる。
うむむむむ・・・・・・・
「・・・これは、ガミラス風に考え方を変えるべきでしょう。反重力 = 馬力という考え方です」
「直径2000kmの小惑星全体に1Gの重力障壁なんて、どういうエネルギーなの?」
「レリアースも1Gの擬似重力のはずです」
「どう違うのよ?」
「観念的な1Gと、物理的な1Gの違いです」
「わけわかんないわよ」
「理論を説明しますか?」
「いえ、結構」
「これは、ガミラス艦との戦闘記録でも、外向きの1G重力波が推測されていました」
「反重力で作り出せるGの強さを戦力の指標とすべきでしょう」
「じゃ あの小惑星の戦闘能力は1G?」
「いえ、あれは内部から、外へ向けての通常出力でしょう」
「反重力推進加速という性質を理解、加味しない限り」
「ガミラス艦の機動力、戦闘能力を理解しにくいと思われます」
「どうりでハイエルのビームやミサイルが利きにくいわけね。どのくらいのGが作れるのかしら」
「ガミラス艦で推測されているのが、居住用に1G。重力障壁1G。機動用に1G。推進用に1Gというところでしょう」
「つまり最低でもレベル4Gの反重力艦隊というところです」
「機動用も、推進用も、切り替えられると考えられます」
「発見された場合、重力障壁は、3Gになるかと・・・」
「ハイエルは、0Gね」
「レイアースは、1Gということに・・・・」
「負けぇ〜」
「そう、悲観することもないでしょう。位相空間防壁のATフィールドなら、なんとか・・・」
「なるの?」
「自分の体重を支えられれば・・・」
「ったく」
矮(わい)使徒級は、大型使徒とは違って、パワーが小さくても、小回りや小技が利く。
何より、リリン系人類には、蓄積された歴史から得られた知識がある。
それが、例え血生臭く、どうしようもないほど、醜く腐った歴史でも・・・・・
トリニティでさえ、それが善であれ悪であれ
人類が蓄積した経験と情報を元にプログラムを構築している。
ATフィールドを紐状にして、小惑星に接着させる。
光質だけあって、重力の圧力は、ほとんど感じない。
それでも、逆1Gのおかげで、自分自身が天井にぶら下がっているような気分だ。
無駄な荷物は、持って行きたくないのだが、やはりこれくらいは・・・・・
取捨選択は、マユミの裁量だったが一人で要塞に潜入も、寂しい。
とはいえ、虚数空間に隠れられないエヴァングやロボットは、どんなに強力でも、邪魔でしかなかった。
何かあったときの陽動にしか使えない。
小惑星は、赤道付近に穴があり。そこから潜入できるらしい。
「ぅぅぅ おかあさ〜ん・・・・」
例え、骨肉の争いで、不遇な少女であっても、人類共通の呟きだろうか。
内部に入り込むと、そこは、少し弱い1G。
当然、出入り口付近には、監視装置がついている。
トリニティが推測した内容に沿って、監視装置を避けて、内部に入り込む。
遠心力を使った人工重力でもないのに内側を普通に歩けたりする。
まったく持って、不思議な経験だが、これも推測どおり。
トリニティに言わせれば、科学技術上のレベルが違っても、
ベクトルが理解できれば、およそのことは、推測できるらしい。
そして、内部向けの監視装置は、粗があるようにも思える。
小惑星全体に監視装置を付けるだけの余裕がないのだろう。
1G障壁があれば、というのなら、正解といえる。
そして、小惑星の中心軸を刳り貫いた空洞に出現するガミラス艦。
トリニティの推測どおりだ。
科学技術上の差が、あり過ぎれば、既にハイエルは滅ぼされている。
上限が決まっていれば、それ以下の科学技術を想定すればいいだけなのだが・・・・
二足歩行の人型ロボット兵士が動き回る。
『鎧に・・・・槍状の銃? 何で? ロンギヌスの槍にも見えないし・・・・』
文化的な違いがあって、想定外に歪だったりもする。
『人型ということは、リリス系の異星人ということか』
『やれやれね。タコ型、イカ型だったら遠慮せずに済むのに・・・』
これは、想定内。
相手の携帯用武器の計算をする。
『槍の大きさは、ハイエル銃のおよそ、5倍の大きさ』
『容積辺りの力関係は、1対3・・・・・・・15倍〜!!!!!』
『ハイエル銃が15mm装甲版を打ち抜ける、それを15倍すると・・・・・に、にひゃあく、225mm〜!!!!!』
『戦車を撃破できるじゃない〜!!!! 光質のエヴァングでも、危ないわね』
『絶対に負けるわ。要塞内の警備で何であんな大きな武器が必要なのよ〜 非常識・・・無神経・・・・』
と、怖くて行きたくなくなる。
冥王星は、遊星爆弾を射出するための砲身が地軸を貫いて、地球へ向けられている。
そして、この要塞小惑星は、ガミラス艦の転移受け入れ基地。
この基地を無力化すれば、ガミラスは、科学技術の漏えいを恐れ、
この要塞に遊星爆弾を向けるだろうか。
可能性は大といえる。
そうなれば、この要塞は、持ち堪えられるだろうか。
本来なら、冥王星の遊星爆弾、発射基地を破壊する計画だった。
『もぅ〜 最低よ・・・これで、死んだら、NERVを呪ってやる〜』
それが計画変更。
優先順位は、敵の侵出基地が大きい。
ガミラス艦は、全長72m〜150mの艦体。
恒星間宇宙航行は、空間転移航法でも、ロボット艦でも辛いと考えられる。
当然、ハイエルとの協議で転移専用の大型母艦や空間転移ブースターの可能性が示唆されていた。
それが、小惑星ごと、とは・・・・
マユミの要塞潜入は、破壊工作ではなかった。
あくまでも、事故。
事故による機能停止として、ガミラス側に処理される必要がある。
爆弾をセットするだけの破壊工作とはレベルが違う。
もしそうなら、どんなに楽だろう。
とはいえ、紐状のATフィールドを伸ばしていけば何とかなったりするのだが、そこは、パワー不足。
虚数空間に隠れた状態で、紐状のATフィールドは造れない。
そして、紐状のATフィールドも、それほど破壊力があるわけでもない。
あれも、これも、とはいかない。
『事故よ・・・事故・・・・わたしじゃないからね』
マユミは、基本的に大それた事ができない小心者だったりする。
身を守る正当防衛以外で、他者に被害を与えるのは、不本意と思う性格というところ。
小惑星の中心から重力が外側に向かっている。
上に向かうということは、惑星の中心に向かうということだった。
地球では、遠心力を利用した人工重力なのだが、
ガミラスは、反重力装置で、均等にやっている。
どういう理論、技術なのか、まったくわからないが素晴らしいと評価できる。
強力な戦闘力を発揮する要塞であれ、戦艦であれ。
その中枢は、微細加工になっているはず。
破壊力は、それほど必要としなかった。回路をいくつか切断すればいいだけ。
問題は、どの回路が効果的なのか、理解できるかになる。
トリニティがガミラス艦の残骸から推測した程度のことしかわからず。
かなり怪しいのだが信じるしかない。
極細の紐状ATフィールドを伸ばしていくが、
紐全体に視覚があるわけではなく、先端に意識が集中する。
そして、視界も分かり難い。ロボット兵士を避けて紐を伸ばしていく。
ガミラスの世界にATフィールド探知機がないのは、幸いだった。
いや、あるのかもしれないが、NERVのATフィールド探知機程度なら、ばれないように絞り込んでいる。
コソコソと隠れながら、要塞内で中枢部を探し回る。
「お腹空いた・・・のど渇いた・・・・」
ロボット兵士ばかりの世界に人間の食べ物はなかった。
マユミの体内にS2因子があっても、気持ち的に辛い。
排泄なら虚数空間で良いのだが年頃の女の子に食事抜きは、辛いものがある。
直径2000kmの小惑星で中心部ともなれば1000kmにもなる。東京から福岡まで890kmで、それより遠く。
しかも上に上がっていくことになる。
がちゃっ!
不意に隠れている部屋にロボット兵の巡回。
慌てて物陰に隠れる。
ここで、虚数空間に隠れれば、紐が切れてしまう。
息を殺して、ロボット兵士が出て行くのを待つ。
このガミラスのロボット兵士も弱点らしいポイントを素で出しているように思えた。
反乱防止用だろう。どこか不完全。
考えることは、地球も、ハイエルも、ガミラスも、同じ、人間は、どこまでも自己顕示欲を追及する。
ロボットは、それらしく、一巡すると、部屋から去っていく。
ほっ〜
ガミラスの世界にも、トリニティのようなコンピューターがあるのだろう。
より機械的か、人間的か。興味がそそるが、今は、それど頃ではない。
マユミの回想
「マユミ。作戦は、こうです。帰還の時は、ガミラス艦を虚数空間に落とします」
「えぇ〜 あんな大きい宇宙船を虚数空間に遅れる力なんてないわ」
「いえ、亜空間転移をカタパルト方式に利用できます」
「ん・・・・・・・」
「わかりやすく説明すると。亜空間をプラス。虚数空間をマイナスと仮定します」
「プラスをマイナスにする方法は、(−虚数空間)×(+亜空間)= −虚数空間 です」
「それ・・・・大丈夫なわけ〜」
「実は、もっと複雑ですが、マユミにわかりやすいように、シンプル・イズ・ベストにしました」
「どうせ、そうでしょうよ・・・・んん・・・じゃ (−虚数空間)×(−虚数空間)= +亜空間 になるの?」
「計算中です」
「・・・・・」
「ただし、亜空間の+分で虚数空間への突入が加速されるので合流する場合」
「インターフェースの負荷は、大きくなるはずです」
「・・・・」
一度、計算した数式を見せろと言った事がある。
流れる3Dの数値を見て3秒後に後悔。
こんな数値がわかるのは、赤木リツコ、伊吹マヤ、朝霧ハルカ、綾波レイくらい。
それ以来。抽象的な会話で物事を決めている。
「ハイエルも、わかるのかしら」
「いえ、亜空間航行装置を組み込むには、大きな容積が必要になります」
「それを組み込むと、戦闘能力で大幅に低下」
「それでも、転移を受けで、利用するミラー装置が組み込まれています」
「このガミラス艦の転移ミラー装置は、ハイエル側に理解できないものでした」
「こちらが転移ミラー装置と理解できたのは、虚数空間に対する理論が構築されていたからです」
「ひょっとして、わたしたちが、ガミラス艦で虚数空間で逃げたら」
「ガミラス側に虚数空間に対する認識を教えてしまうのでは?」
「その可能性は、高いです・・・」
「また、その亜空間探知機を灯台代わりに利用できるかと・・・・」
トリニティも、失念してしまう発想がある。
この辺の飛躍した感性は、人類恐るべしで、人類が蓄積した情報を持つトリニティも、一目置いている。
「んんん・・・でも、ガミラスが、地球に付いてきたら困るわね。どうしたら・・・」
「その辺は、大丈夫でしょう」
「ガミラスの科学力は、突出し過ぎており」
「ATフィールド。つまり心の障壁といった曖昧な力に頼る可能性は低いと思われます」
「また、こちらの相位ベクトルをガミラス側にログさせなければ良いかと」
「できるの?」
「マユミの仕事が増えますが・・・」
「うげっ!」
「それと、ガミラス艦奪取後、トリニティごと、ガミラス艦に移すほうが良いかと」
「え!」
「彼らが、待ち構えていた場合の保険です」
「・・・・んん・・・・良いの?」
「良くは、ありませんが、彼らに妨害されれば、帰還できる可能性は、望み薄です」
「というより、これが、帰還のためのラストチャンスといえます」
「上手くいくかな?」
「トリニティは、着脱ユニット式ですから、エヴァングで、ガミラス艦の格納庫に入れればいいでしょう」
「問題は、ガミラス艦の掃討かしら」
「人間は、まだ、いないと思われます。エヴァングとロボットで、行ないます」
「ガミラスのロボットは、強いかしら」
「ガミラスの残骸と比較した結果。光質を使ったこちらのエヴァング、ロボットの方が、強力です」
「それ以外の技術・物理的な分野では、ガミラス側が、優勢です」
「しかし、虚数空間での戦闘は、まったく考慮されていない模様です」
「分は、こちらにあると?」
「はい。ただ、地球帰還までに虚数空間内で、仕事を済ませてしまう必要があります」
「マユミには、敵艦のメインコンピューターの破壊をお願いします」
「メインコンピュータを破壊した場合。自爆装置が、働くのでは?」
「自爆させる起爆装置を切れば、大丈夫です」
「うそぉ〜 そんなのわかるの?」
「ガミラス艦の残骸を調べた結果。起爆装置の位置は、だいたい、わかっていますから。よろしく」
「うげぇ!」
要塞中枢部に入り込み。亜空間転移の様子を探る。
突然、光と共に出現するガミラス艦。
現れたガミラス艦は、そのまま側壁のドックへと移動していく。
およそ、数百年前に建造された要塞の施設に、たぶん、最新鋭のガミラス艦が現れる。
どちらも現役で使われているという点は、地球で、お目にかかりにくい。
それでも、数百年前から空間転移航法が使える文明に敬意を表わしたくもなる。
『・・・要塞の内装は、後からでも、総とっかえ出来るわね』
ガミラス艦から搬出される物資で、だいたい見当が付く。
何のことはない。(−虚数空間)とは、レリアースとマユミそのものであると事。
後は、次に来るガミラス艦のスケジュールに合わせて、
要塞内のセンサーに一部空白地帯を作るだけ。
マユミのインタフェースでシンクロしたレリアース艦がガミラス要塞の極軸空洞に突入、中心核に向かう。
極軸空洞の虚数空間内で、マユミがレリアース艦と合流。
レリアースに搭乗すると、レリアースが加速していく。
「マユミ、あと、10分で、要塞の中心核です。エントリープラグに入ってください」
「時間がないので、服は、全部脱いだ方がいいでしょう」
服を脱ぎながら、エントリプラグに飛び込むマユミ。
「ったく、死んだら、絶対に化けて出てやるからね。トリニティ」
センサーに空白地帯をつくると、ガミラス艦が亜空間転移する場に割って入る。
3・・・2・・・1・・・0・・・ATフィールド全開。
閃光
一瞬にして、シュルツ艦が亜空間から、虚数空間に送り込まれる。
そして、追走する虚空潜航艦レリアース。
「・・・マユミ。加速で遅れています。シュルツ艦と同調してください」
レリアースから伸びた紐状のATフィールドがシュルツ艦に取り付いていた。
「わ、わかっているわ」
シュルツ艦のメインコンピューターが衝撃で混乱し、
シュルツ艦全体に警報が鳴り響き。
レリアースから紐状のATフィールドが伸びて、シュルツ艦の目と耳を破壊。
状況を把握される前に探知機を破壊していく。
レリアースのロボットとエヴァングが、シュルツ艦に取り付くと、殺戮戦になる。
といっても、乗員は、ロボット兵士ばかり。
射的の要領で機能停止させるスイッチを入れていく。
そして、紐状のATフィールドがシュルツ艦の起爆装置を破壊。
ロボットとエヴァングがシュルツ艦を制圧していく。
「・・・トリニティ。地球への座標は?」
『大丈夫です。マユミ。座標に向かって移動しています」
「2時間30分後に地球に到達しますが、それ以前にそちらに移動します』
「連中。見張っているかな?」
『レリアースが狙いですから引き渡せば、その間に地球へ帰還できると思われます』
「だよねぇ・・・・」
虚空潜航艦レリアースとシュルツ艦のランデブー。
そして、トリニティーのシュルツ艦への引越し。
『マユミ。シュルツ艦の固定を完了させました』
「そう。あと15分で、地球よ」
『計算では、東京湾に着水するはずです』
そして、パターン青の警報。
「来たようね」
『マユミ。例の連中ですか?』
「ええ、待ち構えていたみたいね」
虚数空間の向こう側に小さい人影が二つ。
ATフィールド通信が聞こえる。
『山岸マユミ。戻ってくるのを待っていたよ。レリアースを引き渡してもらおうか』
『未夜と千歳ミズキか・・・』
『虚数空間の彼方から良く戻ってこられたものだ』
『あなたたちも、渚カヲルをかわして良く生きていられたわね』
『ふっ 渚カヲルは亜空間。我々は、虚数空間での適性が強い』
『コアと体がない種子だけのわたしでも』
『渚カヲルから逃げ回るのは、容易ではないが、困難ではない』
『そう』
『さぁ 山岸マユミ。わたしの半身を返してもらおうか』
『わかったわ。レリアースを無事に返す代わりに。大きい方の船を地球へ返して欲しいの』
『・・・・・・』
『それとも、自爆する?』
『なるほど・・・・良かろう・・・』
ハイエル月基地
流れる映像は、深刻なものだった。
ガミラス艦隊の大攻勢で、アステロイドベルト防衛線がズタズタにされていた。
「藤堂長官」
「やはり、アステロイドの小惑星の間隔を広げたとたんに攻めてきたか・・・情報は?」
「藤堂司令。インターフェースの情報が正しければ、ガミラス艦の転移受け入れ要塞の全容と座標が判明」
「そして、新型シュルツ艦1隻を撃破したそうです」
「それを確かめる方法は、ガミラスの要塞を落としてからになるな」
「艦隊に、この情報は伝わっているだろうな」
「通信管制中ですが、大丈夫だと思われます」
「片道特攻になるぞ。沖田君・・・・」
ハイエル艦隊のガミラス要塞への決死の攻略作戦が開始されていた。
ガミラス要塞を守るガミラス艦隊は少なく。
ハイエル艦隊の要塞への突入は、確実なものになっていた。
ガミラス要塞を制圧できれば、今後は、太陽系に残存しているガミラス艦だけになる。
脅威であっても、何とか押し返せるだろう。
東京湾
日差しが柔らかい海面に全長270mのシュルツ艦が浮かぶ。
何事かと、港湾沿いの人だかり。
そして、艦艇がシュルツ艦の周辺に集まろうとする。
魔法使い風の少女がシュルツ艦の艦上に立ち、
上空を旋回しているNERVと国防軍の機体を見上げていた。
そして、飄々とした少年が少女の後ろに現れる。
「随分、大きくて、物騒な宇宙戦艦だな。山岸マユミ」
「渚君か・・・もう、誰でもいいや・・・・」
二つの人影が重なる。
「・・・・・・」
「・・・何か奢って、お腹空いちゃった」
「今日は、君の葬儀だから食事は、たくさんある。挨拶もできるよ」
山岸マユミ物語 完結
山岸マユミのイメージに近いかもです
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月夜裏 野々香です
山岸マユミ、虚数空間で平行次元世界をもっと漂流させてやろうかと思いましたが、
本編『一人暮らし』に与える影響が大きすぎそうなので、帰還させてしまいます。
第二次並行次元世界への探査は、本編を終わらせてからに・・・・・。
ガミラスは、艦型がガミラス艦に似ているので、名前だけです。
転移装置自体は、図体が大きすぎるので、
基本的には、宇宙船には装備されていないことにしています。
ガンダム系の宇宙戦艦でも良かったのですが異星人という感じがしなくて、止めました。
因みにホワイトベースより、ムサイが、かっこ良いような気がします。
クリンゴンもちょっと違うかなって、感じです。
第11話 『赤い世界』 |
第12話 『帰 還』 完結 |
山岸マユミ物語は、一人暮らし第65話から本編に合流します。 |
第65話 『シュルツ艦』 |
登場人物 | |||