月夜裏 野々香 小説の部屋

    

宇宙戦艦ヤマト 『南銀河物語』

   

   

 わたしは、宇宙海賊アルサ・ミエル。

 軍艦でしか国境を越えられないと思っている。

 皮被り野郎には、用はない。

 「・・・・では、明日の0700時にチタームの戦艦アムヌードと一緒に出航してくれ」 古代提督

 「少なくともチタームは敵でないということですね」 島艦長

 「一応招待されている。艦長には会ったかね」

 「ザナリッツ少将ですか。ええ、好人物と思いました」

 第03話 『チタームへ』

 各国の戦艦群が、次々とイスカンダルを出航していく。

 イスカンダルのタグ船が公宙域まで道案内をする。

 恒星から10光年を超えると公宙域となり、

 各国の戦艦は、それぞれに帰還していくような素振りを見せる。

 しかし、現実問題として帰還するか不明。

 戦艦ヤマトは、地球方向に向かうと見せかけてから、

 公宙域で人知れずチターム戦艦アムヌード合流すると、

 一気に通商航路帯を外れる。

  

  

 アムヌードは、円盤型の戦艦だった。

 葉巻型が多い中、珍しい国といえる。

 ドックの問題が大きいだけで円盤型が劣っているわけではない。

 ヤマトが主翼を付けられ、

 十字型で受けている不利益に比べれば、かなりマシだったりする。

 チタームの科学技術に関は、総合的に地球連邦より劣るものの、

 いくつかの分野で突出している。

  

   

 地球連邦政府

 真田所長と大頭領補佐官

 「真田君。ヤマトは、チタームに向かったよ」

 「いまのところ、地球艦隊で隠密航行できるのは、ヤマトだけですから」

 「チタームは、南銀河の向こう側だ」

 「途中、ガミラス、フィリア、インディアの影響圏を抜けてチタームに向かう」

 「イスカンダルから銀河系まで、そして、銀河系を迂回して反対側に行くことになる」

 「妨害される可能性があると?」

 「目的が知られなければ妨害されることはない・・・」

 「問題は・・・イスカンダル帰りの主要国の戦艦は、公宙域で、通商航路帯を外れて消息不明だ」

 「何とか、探りを入れているが波動エンジンと違って発見は困難だ」

 「外交工作というやつですか?」

 「まあ、どこの国でも当たり前にやっていることだ・・・」

 「海賊に妨害される可能性はあるな」

 「海賊ですか?」

 「ドラム缶に転移装置を組み込んだ?」

 「真田君。南部銀河域の海賊は違うぞ。ミュータント化した軍隊崩れで軍閥化している」

 「ガミラスも手を焼いている。力ずくで一時的に占領しても長続きしない」

 「古代アトラス帝国の残照ですか」

 「むかしは、ガミラス、ボラーに並ぶ銀河の雄だったらしい」

 「それが、人体強化に力を入れ過ぎて、それぞれに土着化。政体が崩壊した」

 「ガトランティス、チターム、ハイデラ、ラートゥル、ジャスタン、ジャイブルは、その残照だ」

 「恒星間航行ができる艦隊を持つ惑星国家も多い」

 「思ったより、危険な任務のようですね」

 「南銀河は、我が国の調査員も、友好的な海賊もいるから接触することにもなる」

 「運が悪くなければ大丈夫だろう」

 「どの程度の諜報組織なのか、少しばかり興味がありますね」

 「ボラー連邦に劣るようだが基本的に南銀河アトラス帝国の残照だ」

 「任務の性質上。公にしたくないから波動エンジンの加重使用は避けてくれるだろう」

 「成功すればいいのですが」

 「成功すれば、次々世代艦で優位な状況が見込める。そうなのだろう?」

 「説明した通りですよ。補佐官」

 「わかっている。真田所長。いや、中将殿」

 「あまり好きでは、ありませんね。その肩書きは」

 「少しは、慣れたまえ、これからも時折、使われることになる」

  

  

 ヤマト展望台

 古代提督、島艦長。

 そして、国籍不明の服を着た30代前半の男性がテーブルに座り、

 オレンジと紫が混ざりながら広がる星雲を見つめる。

 チタームの戦艦がヤマトの10kmほど右舷を先行する。

 「・・・須郷ナオキ社長。南銀河域における水先案内。よろしくお願いしますよ」 島艦長

 「わざわざ軍艦を出さなくとも必要なものなら、わたしが用立てますよ」

 「目的の物でも、人でも、情報でも」

 「須郷社長。できれば、連邦で直接ルートを作りたいと思っています」

 「協力していただきたい」 古代提督

 「通商航路を離れての案内は、あまり役に立つとは思いませんが」

 「ええ、理解していますとも、しかし、まったくではない」

 煩わしげにため息をつく須郷。

 ふてぶてしさは、連邦の外で生きている人間特有。

 「これだから国家というのは・・・・」

 「良いですか、取引するのに軍艦は邪魔なんですよ」

 「護身用の銃が、あればいいんですよ」

 「こんな軍艦で行ったら協力関係にある連中でさえ銃を向けてきますよ」

 「可能な限り協力します。もちろん、約束の報酬も支払われるでしょう」

 「可能な限りね・・・」

 「古代提督。違約金も忘れないでもらいたい」

 「たぶん、報酬より多くなりそうだ」

 須郷は、憮然とする。

 「まさか地球連邦は、南銀河に領土が欲しいわけじゃないでしょうな」

 「ははは、まさか、補給線もない場所に基地を建設できるわけありませんよ」

  

  

 ヤマト大食堂。

 須郷は、中肉中背、異国の服を着た男で異質な雰囲気で目立った。

 南銀河に20ものアジトを持つ貿易商人で、

 その身と、銃一つで外宇宙を行き来している。

 20のアジトを多いと思うか、少ないと思うかは、別として、

 地球連邦の南銀河工作の半分は、この男を通じている。

 ヤマト乗員は、それぞれ、スペシャリストとして自負している差異が消え、

 均一化させてしまうほどの違い。

 マニュアル通りの訓練を受けてきた乗員と、まったく違う世界に生きる男の顔。

 須郷にすれば強靭な攻撃力と防御力によって守られ、

 システマチックに動くヤマトの乗員に気抜けしてしまう。

 そして、ヤマトの女性隊員が、この男に興味を持つのを防ぐ手立てはなく・・・

 「・・・須郷社長。わたしたちも、ご一緒しても宜しいですか?」

 芹菜ユキ少尉(作戦オペレーター。知的な美人)、

 仁科マイ准尉(作戦オペレーター。清楚な感じ)、

 佐奈ミキ准尉(航海士オペレーター。かわいい)が、立っている。

 「・・・どうぞ。こちらが、居候の身ですから」

 「居候だなんて・・・大切な、お客様だと、伺っています」 仁科マイ

 「本当は、気軽な移動の方が好みなんですがね」

 「不都合があれば仰ってください。で、できるだけのことを、させていただきますから」 佐奈ミキ

 須郷は、なんとなく微笑む。思わず赤らむ三人

 「す・・少し、お話しを聞かせていただけませんか」 仁科マイ准尉

 「貿易商人に関心があるので?」

 「噂だけは聞いているのですが、本人に出会った事がないので・・・宜しければ」 芹菜ユキ少尉

 「そうですか。三人とも、とても美人だ」

 「わたし個人に関心が、あれば嬉しいんですがね」

 三人は、さらに赤くなる。

 ヤマトのクルーは歯噛みする。

 因みに須郷より、かっこいい二枚目は多い。

 しかし、須郷の持つ、独特な世界に触れると、

 精鋭の乗員も温室育ちの若者でしかなかい。

 「・・・わたしが生まれたのは、タウ・セチ第2惑星」

 「外交官の息子として、イスカンダルに移り住んで」

 「その後、イスカンダル商人と組んで貿易商人として、南銀河一帯で商いをしていますよ」

 既に知られている須郷経歴。

 「随分、丁寧な。話し振りですね」仁科マイ

 「無用な争いを避けるために強引な態度を取ることもある」

 「だが、外地で悪者になるのは危険で被害者を装っていると、より危険な状況になりやすい」

 「しかし、狼役を引き受けてくれる仲間がいたとき」

 「羊の皮を被って彼らのところに引っ張っていけば良いこともある」

 「その場合の利益は強がっている状態より数倍大きい」

 「その時々で、やり方を変えている。貿易商としては南銀河が面白いね」

 3人が目を輝かせる。

 「危ない目に遭った事は、あるんですか?」 佐奈ミキ

 「危ないところには、近付かないようにしている」

 「しかし、最近、危なかったのは、横流し品を運んでいる途中、ボラーの巡洋艦に追いかけられてね」

 「あと少しで、死ぬところだったがガミラスのお友達に助けてもらった」

 「しかし、積荷の半分を分け前で渡さないといけなくなって危険な割りに利益がなかったな」

 「そのガミラスのお友達って」 芹菜ユキ少尉

 「・・・・北部第27国境警備艦隊」

 えぇぇ〜!!

 と奇声を上げる三人。須郷が指を口に立てると大人しくなる

 「・・・三ヶ月前のボラーの越境事件じゃないですか」

 「密輸が原因だったんですか。それに北銀河」 佐奈ミキ

 「どうしても、ボラーの商品が欲しいという勢力が南銀河にいて」

 「わたしも、札束を詰まれて頼まれると、断りきれない性格でね」 須郷

 ヤマトでは、味わえない世界で、3人とも、目を輝かせながら笑う。

 「南銀河って、どういうところですか?」仁科マイ

 「ハイリスク・ハイリターン」

 「信頼できる味方を得ることが大切だ。この場合の信頼というのは契約だな」

 「自分が不利益になっても必ず約束を守るという信頼だ」 須郷

 「プリンスプラム事件の当事者なんですよね」 仁科マイ

 「まあ、確かに当事者の一人だったが、今回は脇役だったな」

 「主役は、海賊の下僕少年と、バルナ財閥の娘だった」

 「あの二人がいなかったら、わたしも危なかった」 須郷

 「あれ感動しました」

 「銀河主要国の戦艦が一致して、麻薬密輸団を包囲して捕まえたんですよね」 芹菜ユキ少尉

 「結局、海賊には、逃げられたがな」

 「おんぼろ船で、よくやるものだ」 須郷

 「南銀河の海賊は、本当に軍艦なんですか?」 佐奈ミキ

 「ああ、ガミラス艦、ガトランティス艦、ボラー艦」

 「暗黒星団帝国艦、ディンギル艦も見かけたことがあるな」 須郷

 ええぇぇ〜!!

 奇声が上がる。須郷が指に口を当てると三人は大人しくなる

 「政体に魅力がなければ負け戦で逃亡する軍艦」

 「乗員が寄生されている軍艦。帝国が滅びて、流れ着いた艦隊もある」

 「8割は、惑星国家が生産した軍艦」

 「前アトラス帝国の軍艦、フィリア、インディアの軍艦も、少なくないがね」

 「ごちゃごちゃして面白い地域だ。南銀河は」 須郷

 「須郷社長は、そういうところで、お仕事をしているんですか?」 仁科マイ

 「・・・惑星国家に恒星間航行が可能な軍艦を1隻売却すれば簡単に地盤ができる」

 「イスカンダルのスターシャが地球に波動エンジンとコスモクリーナーDを渡したのも純粋な善意からとはいえない」

 「ガミラスの脅威を少しでも相殺したいという程度の理由で、20もの独立恒星国家に送っている」

 「それに応えたのは、地球だけだったがね・・・」 須郷

 須郷の男としての魅力は、圧倒的だったらしく。

 ヤマト艦内の男女関係を大いに乱していく。

   

  

 チターム戦艦アムヌードは、燃料消費型であり。

 南銀河の供給能力のある惑星国家に時折、停泊しなければならなかった。

 そして、そのときを見計らって、ヤマトから空中戦指揮艇 (飛龍) が離脱する。

 ヤマト自体は、転移線を利用したホログラフによって、

 チタームの大型貨物船のように見せかける。

 しかし、高性能艦が高出力で転移走査すれば、すぐ、ばれてしまう。

   

 飛龍のコクピット、

 須郷ナオキ。五十嵐ミユキ少佐 (艇長。しっかり者で美人) と

 仁科マイ准尉 (作戦オペレーター。清楚な感じ) が乗っている。

 「・・・・須郷社長。もうすぐ、チャウフアン恒星系に到着します」

 飛龍艇長。五十嵐ミユキ少佐

 「じゃ 少しばかり商売っ気を出すからね」

 「五十嵐ちゃん。ちゃんと僕に合わせないと、駄目だよ」

 五十嵐が、頬を赤くしながら微笑む。

 なぜか、仁科マイ准尉が睨みつける。

 「・・・・チャウフアン。かわいい名前だけど、なかなか、策士な連中が多くてね」

 「ほら、お互いに頭良過ぎて、油断できない人間関係で恒星間国家になれない星」

 「犠牲になって人柱になってくれそうな人間が極端に少ない」

 「賢く、ずるい人間が多い世界だ」

 須郷がなんとなく嬉しそう。

 「た、楽しいんですか?」 五十嵐ミユキ

 「彼らの思考回路は簡単でね」

 「利己中心って、やつかな。彼らの貪欲に比べたら地球人のお人よしには、呆れるよ」

 「は、はぁ〜 社長。少ししゃべり方が変わっていませんか?」

 「チャウフアンでは、こういう、くだけた話し方をしてね」

 「き、来たことがあるんですね」

 「まあね。俺にとっちゃ 軍艦も、この新型艇も邪魔なんだがね」

 「地球連邦も、くだらないお芝居や余計な手間をかけさせてくれる」

 「す、済みません。社長」

 「まあ、ヤマトに、かわいいお嬢さんが、たくさんいるのは嬉しいがね」

 五十嵐が赤くなる。

 美人と言われることがあっても、かわいいと、言われることは、あまりない。

  

  

 チャウフアン外縁監視カプセルポットから通信

 「・・・こちら、チャウフアン。所属と船名、目的を申請しろ」 少佐。

 映像で黒髪赤眼、茶系肌の男が敬礼している。

 「こちら、スゴシュ貿易商の須郷ナオキ。ミソサザエ号」

 「第3惑星カイ・ドル国際自由港の着陸を求めたい」

 「荷物は?」

 「イスカンダルのタウ粒子制動工作機2基と、その治具一式だ」

 「・・・・了解した。入国の手続きは、変わっていないはずだ」

 「久しぶりだな。須郷ナオキ」

 「ご無沙汰しています。ファ・タウ・ネウ少佐殿」

 「珍しい船に乗っているじゃないか」

 「どうやって仕入れたんだ」

 「その機体だけで、ここまで来たのなら買っても良いぞ」

 「その機体では、荷物を大して載せられまい」

 「チタームの貨物船に途中まで載せてもらったんですよ」

 「カスタム機でね。小さくて、高価な物を運ぶのに適していましてね」

 「ほう、地球の小型艦に似ているな・・・」

 「いや、エンジンが違う・・・・いいメカニックを見つけたようだな」

 「ふっ 高い買い物でしたよ」

 「いずれ、商売の話しでも聞かせてくれ、須郷ナオキ社長。儲け話しをな 」

 ファ・タウ・ネウ少佐が敬礼する

 「ええ、ファ・タウ・ネウ少佐。いずれ」

 須郷が答礼。

 飛龍が監視カプセルポットの脇を抜けて、第3惑星に向かっていく

 「い、五十嵐少尉。ミュール電子反応です・・・」

 「白色彗星帝国艦艇、特有の反応です」 仁科マイ准尉

 「ま、まさか、こんな宙域に。どうして?」 五十嵐ミユキ

 「うぅうぅぅ 火炎直撃砲や衝撃砲は、怖いです〜」 仁科マイ准尉

 「た、確かに・・・」 五十嵐ミユキ

 「五十嵐ちゃん、地球連邦にもあるだろう」

 「白色彗星の軍艦が珍しいことじゃないだろう」 須郷

 「・・・えっ! それ、えぇ〜・・・機密じゃないですか」

 「あんな大きなもの四隻も隠して機密はないだろう」

 「五十嵐ちゃん・・・いや、ミユキちゃんの方が良いかな」

 赤くなる、しっかり者の五十嵐ミユキ

 「どっちが良い?」

 「・・・し、社長の、お好きに・・・」

 「この品物を売って大きな工場を作ろうと思ってね」

 「一儲けしたら。ミユキちゃんと一緒に住める豪邸でも建てようかな」

 「こ、困ります。そ、そんな事いわれても」

 「この惑星系のお金持ちは、衛星軌道上のカプセルポットに住むんだ」

 「恒星系で眺めの良い軌道回りながら生活する」

 「飽きると別の軌道に移動したりしてね」

 「もちろん君が望むなら、地上でも良いけど・・・あっ どっちも・・・」

 「し、社長。そんな、冗談・・・」

 「冗談?」

 「やろうと思えばできるということだよ。それだけのお金が入るということさ・・・」

 「ミユキちゃん次第だね」

 「強くて能力があって、やさしく。宇宙艇の操縦ができる女性が好きでね」

 須郷は、意図的にしっかりしたという言葉を使わず。

 耳元とで囁くと去っていく。

 赤くなって頭をフリフリしている五十嵐ミユキと、

 憮然としている仁科マイ准尉が残される。

 「・・・い、五十嵐ミユキ少尉。しっかりしてください」 仁科マイ准尉

 「あっ! いや。だ、大丈夫。大丈夫だから」

 「ぜ、全然! 大丈夫に見えませんけど」

 「だ、だって、あんなこと言われたことないから」

 「ったくぅ〜」

 「や、やだ、大人の駆け引きよ。子供のマイちゃんには、早いかな」

 「二つしか、違わないでしょう・・・」

 「のぼせ上がって、五十嵐少尉。はっきり言ってカモです」

 「やだ、マイちゃんったら。声掛けられなかったからって怒って。かわいいんだから」

 「マイちゃんだって、そのうち良いことがあるから怒らないでね」

 怒髪天を突きそうになる仁科マイ

 須郷は、キャビンで一休み。

 先に佐々木セイイチ中尉 (戦闘班長) がコーヒーを飲んでいた。

 「ああいう風に女を口説くんですか?」

 「あやかりたいものだ。須郷社長」 佐々木セイイチ中尉 (戦闘班長)

 「おう、遠慮なく、真似して使ってもいいぞ。佐々木中尉。わたしに遠慮はいらない からな」

 「あなた以外に、あのくどき文句が使える人間は、ヤマトに一人もいませんね」

 「そうか、男も、まあ、役に立ちそうな人間が多いから雇っても良いぞ」

 「ヤマトにいるより金になる」

 「こういうことが、できるのも、若いうちだ。いや、若いうちにしかできないな」

 「“誰かが犠牲になれる国。それが恒星間国家になれる国になる”」

 「誰の言葉でしたかね」

 「我々のような人間が、地球にいなければ、社長も肩身が狭くなるのではありませんか?」

 「むろん、良くわかっているさ」

 「その為に危険を犯し、最新鋭の小型艦に乗って、飛び回っているんだ」

 「そして、儲けなければ怪しまれる。ですか?」

 「口実なのか、本音なのか、わかりにくいですね」

 「どっちもだ。いまのところ、建前をいうつもりはないね」

 「それに外宇宙で裸一貫で生き続ける地球人が本国に与える影響もあるだろう」

 「お互い様ということですか?」

 「補完しあっている。そういうことだ」

 「我々の情報とルートが戦争に歯止めをかけていることもある」

 「戦わなくても、目的の物が手に入る」

 「・・・・」

 「国家間で法的に出来なくても、しなければならない取引もある」

 「そういう時は、潰しの利く、貿易商人や海賊は便利な存在でね」

 「・・・・」

  

  

 飛龍は、軌道衛星の税関で荷物検査。

 第3惑星カイ・ドル国際自由港に入港。

 地球より潮の香りが強く。

 G1.14で、地球の1Gより少し重い。

 それでも、ヤマトの標準Gが、1.22Gで楽。

 須郷は、スゴシュ貿易商専用倉庫でチターム商人に荷物を引渡し、報酬を受ける。

 スゴシュ貿易商の私兵が凛として銃を構え、倉庫を守っていた。

 外地に私領と私兵を持つ民間人。

 地球連邦軍がいくら予算を注ぎ込んでも望むことができない所業。

 あっけに取られる佐々木中尉。五十嵐少尉。仁科准尉。

 「・・・須郷! 久しぶりだな。随分、早かったんじゃないか」

 シューシル(イスカンダル人)は、少し細身の男で精悍な印象を与える。

 「ああ、客船が危ない目にあってね」

 「助けてもらった借りを返さないといけなくなった」

 「ついでに、ここまで送ってもらったよ」

 須郷が3人をシューシルに紹介して倉庫の中に入っていく。

 「・・・プリンスプラム事件は、聞いているよ」

 「しかし、お役所仕事とはね・・・」

 「大砲で物事を解決しようという輩とは、反りが合わないんだがね」

 「そう言わずに」

 「国は軍艦を持ち出し、大根一つ手に入らず、泣きべそかくだけの経験しないと懲りないのさ」

 「俺らとボロ船1隻あれば済む仕事を複雑にしたがる」

 「須郷。俺らのルートをバラバラにしないでくれよ」

 「わかってる。別のルートを作って軍に引き渡してやるよ」

 「どうせ手に負えなくなって、俺たちが安く買い取ることになるさ」

 「諜報員は、ともかく、軍人は維持できないはずだ」

 「ははは・・・・」

 「地球人の諜報員は、なかなかだが潜入工作に軍艦が出てくるとはな」

 「前にも、似たようなことをした国があったな」

 「200年前の西銀河で起きたダコタ事件だろう・・・」

 「すまんな、地球人は最近、恒星間国家になったばかりで良くわかっていないのさ」

 「まあ、生きているうちに、そういう連中とお近付きになれるとかね」

 「喜んで良いのやら、悲しんで良いのやら」

 国際色豊かな人種がスゴシュ貿易商の倉庫で働いていた。

 地球人も何人かいる。

 3人は、軍隊生活のベテランでも商人の持つバイタリティは持ち合わせていない。

 須郷とシューシルの話しが商売に入ると内容のほとんどが理解できない。

 それでも膨大な情報を集め、

 失敗する可能性を限りなく小さくしているのはわかる。

 「須郷、じゃ 俺は、ニコルシアに積荷を持っていく」

 「予定のルートはチップに入れたから、そっちが終わったら、合流してくれ」

 「わかった。すまんな、無理言って」

 「なに、かまわんさ」

 「地球政府が羽振りが良くて嬉しいよ」

 「ふっ もっと上手く予算を使えば、いいものを・・・」

  

 

 珪素系の石のような植物をブロック状に積み重ねた大きな城が須郷の持ち家だった。

 「ジルモール珪素木の城なんて凄すぎ」

 「地球じゃ 椅子一つで一財産なのに・・・・」

 仁科マイ准尉が絶句する

 「大統領の好意でね。恒星間宇宙船を売ってやったら。城をくれたよ」

 「ふっ ジルモール珪素木の腕時計。高かったのに・・・」

 五十嵐ミユキが緑色に流れるような光沢の腕時計を見ながら泣きそうな顔をする。

 「不憫です〜 先輩」  仁科マイ

 「俺との関係。考えてくれたかな。ミユキちゃん」

 「ははは・・・愛人兼パイロット?」 五十嵐ミユキ

 「そう。人材は有効に使わなくっちゃ」

 「・・・い、一応、考えておくわ」

 「先輩〜」 仁科マイ

 「げっ! い、五十嵐」 佐々木

 「良い返事は若いうちに頼むよ。ミユキちゃん。美味しいうちにね」

 唖然とする。仁科と佐々木

 「・・・な、何よ。一応よ。い・ち・お・う」

 「・・・・・・」 仁科、佐々木

 「だいたい、ヤマトにろくな男がいないのが悪いのよ」

 「先輩〜」  仁科

 「・・・・・」  佐々木。ムッとする

  

  

 ヤマトは、転移ホログラフでチタームの円盤状の大型輸送船に見せかけている。

 レーザーホログラフと違うのは、明らかに質感がそこにある。

 そして、ちゃちな探査機なら確実にチターム大型輸送艦として認識される。

 ヤマト展望台

 古代提督と島艦長はテーブルに座り、

 アンドロイドが飲み物を運んでくる。

 「あの須郷という男がいなくなると、少しばかり寂しくなりますね」

 「艦内の色事で騒ぎを起こしかけたがな」

 「ああいう、生き方には憧れますよ」

 「わたしもだ。自由闊達。もう、できないだろうな。魚が陸に揚げられるようなものだ」

 「古代提督。今回の作戦。理解はできますが・・・」

 「本当に優先順位が高いのでしょうか」

 「アキレス腱になる可能性は否定できない」

 「しかし、地球連邦は、アキレス腱にならない程度の投資をするのだろう」

 「たしかに・・・地球連邦のテラフォーミング技術は、列強でも、トップです」

 「ですが、気(オーラ)の強い地球人にとっての技術です」

 「チターム人に合うかどうか」

 「宇宙におけるホモサピエンス型は、標準的な進化で主流だよ。多少の差異は、あるがね」

 「そして、最大の差異でも、我慢すれば許容できる」

 「それにウィルスレベルの障害なら、ナノ医療技術で容易に治療できる」

 「提督は、今回の作戦を・・・・」

 「命令には、従うよ」

 「それが地球連邦軍軍人だ。例え、気が進まなくてもね」

 「少なくとも侵略軍でないのは救いですね」

 「そうだな・・・しかし、もっと、やることがあるだろう」

 「太陽系の周囲200光年の開発。0.001パーセントにも達していないですからね」

 「そして、テラフォーミングしても公共投資で莫大な予算を必要とする」

 「南銀河の果てのことなど、貿易商人に任せておけばいいのに・・・」

 「やはり、コアチタンが目的で」 島艦長

 「ふっ 遠い未来に対する投資だろうな」 古代提督

 「加工技術もないのに・・・」

 「加工できれば、艦の機動力は大幅に向上する」

 「低出力の波動エンジンでも波動震を抑えて」

 「列強の戦艦並みの機動力が得られるかもしれないな」 古代提督

    

  

 南銀河 某宙域

 ディンギル水雷母艦。 “皆殺し号” 改め “サクラ号”

 アルサ・ミエルは、自虐的な気分を味わいながら恒星間ニュースを見ていた。

 「ふっ 指名手配アルサ・ミエル・・・ガミラス緑金貨10000枚・・・」  (T・T)

 「だから、あの時、殺せといったんです。人質を帰してしまうなんて・・・」 ガードベルト副長(ガミラス人)

 アルサ・ミエルは、いつの間にか海賊船の船長になっていた。

 警備艦隊に追いかけられて、艦長が負傷。

 危機一髪のところをアルサ・ミエルが操舵室を乗っ取り、

 暗礁宙域に逃げ込んで、反撃。

 あっという間に海賊を統率してしまう。

 通信機も使わず。

 艦内全域に命令を出せる人間が現れれば、やはり、こうなってしまうのだろうか。

  

  

  

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第02話 『イスカンダルへ』
第03話 『チタームへ』
第04話 『チャウフアン』
登場人物 恒星間国家群 独立恒星系群 銀河勢力図